27年5月度 ●(公益社団法人)日本技術士会登録グループ第 163 回「生体・環境、保全交流会」 5 月例会 日時:27 年 5 月 15 日 17:30~20:30 会場:技術士会第二葺手ビル会議室 参加者:11 名 演 題 講 師 「海水井戸の可能性調査と水産利用の現況」 丸山技術士事務所長 技術士(建設・衛生工学・環境・上下水道・総合技術監理) 丸山 治 先生 1. 海水井戸の概要 海水井戸は地理・地形条件から自然に地下浸透する海水を取水するための井戸形式の海水取水技術で ある。沿岸域に分布する飲料井戸で塩水障害を受けやすい海岸井戸とは取水目的において異なる。塩水 障害を受ける淡水井戸は図1のように過剰な揚水 により地下海水が上昇(アップコーニング)し て淡水井戸に混入することによる。 海水井戸は「清浄海水」の取水技術として、 水産分野で利用されている。ローカル的な技術 により、多くの苦闘の経緯を経て築造されてい る。我が国の海水井戸は4形式に分類すること ができる。すなわち①一般さく井井戸、②ディ ープウエル、③大型掘削面集水井戸(宮古方式 )、④浜田瀬戸ヶ島方式である。これらの概要 を図2に示す。 図1 海水井戸と海岸井戸の相違概要図 ①一般さく井井戸 ③大型掘削面集水井戸(宮古方式) 図2 海水井戸の4形式分類概要図 ②ディープウエル ④浜田瀬戸ヶ島方式 海水井戸が可能な地形・地質は透水性のある砂質層であり、海水が地下浸透するメカニズムはガイベ ン・ヘルツベルグの関係により説明できる。海水の地下浸透は内陸の地下淡水面と深くかかわってい る。地下淡水ゾーンと海水帯水層の境界は塩淡境界面と呼ばれるが、潮汐の影響により汽水ゾーンとし て幅を形成している。ただし潮汐の上下変動幅よりは小さい。 海水井戸には表1のような卓越した長所があり、水産用水として漁港の荷捌き用水、活魚・飼育用 水、水産加工における清浄海水として一般的に利用されている。 表1 海水井戸の卓越した特長 2. 海水井戸の可能性調査 海水井戸取水に大きく影響するのは①沿岸河口域に存在する難透水層のシルト・粘土層の存在と②火 山灰堆積地域の火山灰混じり砂層の存在の2要素があげられる。①のシルト・粘土層の存在は最終氷期 終了からの海水準の上昇による沖積層の堆積プロセス(シーケンス層序学)により説明できる。我が国 漁港の立地環境として、入江や湾に位置し、開析谷が埋積したデルタフロントの前進地、同様に砂州や 干潟の形成時にできた潟や潟湖を掘り込んだ場所にあり、こうした沖積層の堆積地帯では砂層とシル ト・粘土層が互層を形成している。シルト・粘土層では海水の地下浸透が難しく、予定する海水井戸ま で海水が到達していないことがある。②の火山灰混じり砂層もまた難透水性の地質である。我が国の火 山帯の噴火により、沿岸域に降下した火山灰が砂粒子に混合して井戸取水が困難となる地帯がある。そ の他、鉄・マンガン、ヒ素など地層由来の成分が溶存している水脈もあり、海水井戸の可能性調査に は、こうした地形・地質の情報を事前に把握する必要がある。 3. 水産業における海水井戸の将来展望 我が国水産業の振興は、「金のかかる水産業」から脱却することであり、漁船漁業からトラックに乗 って養殖魚を獲りに行く漁業形態への転換、つまり海水井戸による陸上養殖へのパラダイムシフトが必 要である。海外の海水井戸による陸上養殖の例として、オーストラリア、中国、インド、ベトナム、エ ジプト、ペルーの養殖風景を写真で示した。 4. 海水井戸と環境倫理 海水井戸による海水魚の陸上養殖は大きな利益を及ぼすが、反面、内陸の淡水環境に対する塩水障害 に配慮しなければならない。養殖場からの海水漏水、海水放流水の淡水動植物への影響などがある。人 類が生存する淡水は地球上で2.5%、そのうち飲料水として利用できるのはわずか0.8%である。 貴重な淡水資源を保全できる環境条件を担保できる範囲内で海水井戸を利用することが事業者の責務で ある。 以上 (講師 記) 【所感】国土の周囲に無尽蔵にある海水、今回のテーマはこれを経済的な資源として活用する内容であ り、天然の砂ろ過で良質な用水が得られるという夢の広がる話であった。日本の食材の中心を担う魚業 は安定した養殖へ進む中、海水井戸技術への期待は大きいものと思われた。(金子守正 記)
© Copyright 2024 ExpyDoc