療養支援モデルに基づく看護介入を受けた 2 型糖尿病

〔東京家政大学研究紀要〕第55集 ⑵,2015,pp.49~57〕
療養支援モデルに基づく看護介入を受けた 2 型糖尿病患者の変化パターン
太田 美帆*・河口 てる子**
(平成 27 年 1 月 7 日査読受理日)
Patterns of the Type-2 Diabetic Patients’ Changes in Terms of Nursing
Intervention based on the Individual Patient Education Model
Ota, Miho Kawaguti, Teruko
(Accepted for publication 7 January 2015)
キーワード:自己管理,患者教育,2 型糖尿病,食事療法,運動療法
Key words:self-management, patient education, type-2 diabetes, diet, exercise
Ⅰ.緒言
事例をみると,糖尿病と療養法に関する認知や行動に何ら
2 型糖尿病と診断された人とその家族は,糖代謝を是正
かの変化があり,その変化の程度は多様であったが,いく
し慢性合併症を予防するために,生涯にわたる療養法の実
つかのパターンに分類できると考えた.そこで本稿では,
行を求められる.しかし,日々の生活の営みに糖尿病の療
介入群の患者の変化パターンを事例単位から分析し,看護
養法を組み入れることは,長年積み重ねてきた生活習慣を
介入がどのように有効であったのか,あるいは有効ではな
変えることであり,患者と家族は様々な課題に直面する.
かったのかを検討する.看護介入に対する変化パターンを
外来診療の場は,患者が療養生活上の課題を医療者と共に
明らかにすることにより,療養支援モデルを臨床現場で活
考える機会となり得るが,実際には長い待ち時間と忙しい
用し,糖尿病患者に対する外来ケアの質を向上させていく
医師の数分の診察という状況が一般的である.糖尿病専門
うえでの示唆を得ることが期待できる.
の知識・技術をもつと認定された看護師が外来ケアに取り
本稿の目的は,療養支援モデルに基づく 15 ヵ月間の看
組む施設もあるが,増加し続ける糖尿病患者数に対して専
護介入を受けた 2 型糖尿病患者の事例を検討し,認知およ
門の看護師数は圧倒的に少ない.
び行動の変化パターンを明らかにすることである.
このような背景から,筆者は,糖尿病を専門としない一
般の看護師でも外来通院する 2 型糖尿病患者の療養支援に
Ⅱ.研究方法
取り組むことができるよう,外来での看護師による療養支
1 .対象者
援モデル(以下,療養支援モデル)を作成し,その効果
関東圏内の糖尿病専門医が開業する A 内科クリニック
を食事・運動に焦点をあてたランダム化比較試験(以下,
において,医師・クリニック看護師による紹介のもと,重
1)
RCT)により検討した .この RCT では,療養支援モデ
度の慢性合併症がない HbA1c7.4%以上の 2 型糖尿病患者
ルに基づく 4 ~ 6 週毎の個別支援を 15 ヶ月間行うことを
を対象者とした.研究参加に同意した者は 48 名であり,
看護介入とし,介入群 45 名と対照群 43 名の介入前後の変
15 ヵ月の介入期間中,2 名が介入中断を希望し,1 名が通
化を比較した.その結果,15 ヵ月後の介入群の 3 食栄養
院中断となった.看護介入を完了した 45 名が分析対象者
バランスは対照群よりも良好で(p=.009),運動量は介入
であった.対象者の年齢は 33 ~ 75 歳(平均 58.1 歳),性
群が対照群よりも増加傾向を示した(p=.098).摂取エネ
別は男性 28 名・女性 17 名,治療法は経口血糖降下薬 27
ルギー節制,食事時間パターン,食事療法にかかわるつら
名・インスリン療法 18 名,介入開始時の HbA1c は 7.4 ~
さ,HbA1c において両群間の有意差はなかった.このよ
12.0%(平均 8.9%)であった.
うに,療養支援モデルに基づく看護介入は,RCT により
3 食栄養バランスのみに効果を示した.しかし,介入群の
2 .看護介入
通常の外来診療に加え,15 ヵ月間,4 ~ 6 週毎に療養支
* 看護学科
援モデルに基づく 1 対 1 の対話を中心とした看護介入を
** 日本赤十字北海道看護大学看護学部
行った.介入者は,2001 年に日本糖尿病療養指導士の資
( 49 )
太田 美帆・河口 てる子
格を取得し,一般病院で 4 年弱,糖尿病看護外来を専任で
護実践を変容ステージに応じて記述し,糖尿病と生活につ
担当した経験を持つ著者 1 名であった(結果と考察に表記
いての対話を中心とした関わりを具体的に示したモデルで
する“看護師”は介入者である著者を示す).
ある.モデルの作成過程において,外来糖尿病患者 5 名
(1)療養支援モデル
への予備調査を通して支援項目の追加と削除を繰り返し,
療養支援モデルは,2 型糖尿病患者が主に取り組むであ
「情緒的に支える」「身体の理解を促す」「療養生活に関す
ろう食事療法と運動療法に焦点をあて,「患者がその人ら
る気づきを促す」「療養法の取り組みを一緒に考える」「療
しい日々の生活の営みと調和する食事療法と運動療法を見
養法の取り組み(行動変容)を評価する」の 5 つの大項目
出し実行していけること」を目標に,著者が作成したモデ
に集約した.表 1 に 5 つの大項目の定義と対応する変容ス
ルである.このモデルの作成にあたり,患者の行動変容の
テージを示す.
2)
準備性に焦点をあてた「行動変容ステージモデル 」と,
慢性疾患患者に対する熟練看護師の高度な教育実践を可視
3)
(2)看護介入の手順
医師の診察前後に,診察室と並列にあるプライバシーの
化した「看護の教育的関わりモデル 」を参考とした.
確保できる個室で,対象者の同意を得て,1 対 1 の支援を
行動変容ステージモデルは,人がある健康的に望ましい
行った.初回は療養生活の様子を聴きながら,患者理解の
行動を開始するときには以下に示す 5 つの段階を進むと説
入り口として 3 食・間食・飲酒・運動についての変容ステー
明しており,これらの段階を変容ステージ
4)
と呼ぶ.
ジを患者とともに確認し,今後話し合いたい内容を伝え
た.2 回目以降の支援では,患者の疑問や困りごとを聴き
前熟考期:このステージの人々は予測できる将来にお
ながら,健康的な行動を妨げている要因や前回より変化し
いて行動変容する意思がない.
ていること,患者が関心を向けていることに焦点をあて,
熟考期:問題の存在を自覚し,それを克服しようと真
表 1 に示す変容ステージに応じた療養支援を実施した.こ
剣に考えているが,まだ行動をおこす決心をしていな
れら看護介入の妥当性の点検のため,対話を含む支援内容
い.
を記録した.その際,理論的アセスメントに加え,気にな
準備期:意思と行動が結合し,この段階の人々は 1 ヵ
る事柄や患者の行動変容の鍵となりそうな「とっかかり/
月以内に行動するつもりであり,望ましい水準に達し
手がかり言動」 を書き留めておき,次の面接に活用した.
3)
ていない行動を 1 年以内におこしている.
実行期:1 日から 6 ヵ月の期間に望ましい水準まで行
3 .データ収集方法
動を変化させた.
データ収集期間は 2010 年 10 月~ 2012 年 5 月であった.
維持期:6 ヵ月以上継続した行動の逆戻りの予防に努
15 ヵ月間に 4 ~ 6 週間隔の頻度で実施した看護介入は,1
め,達成したことを強化する.
人あたり 5 ~ 16 回(平均 10.3 回),1 回の支援時間は 3 ~
80 分(平均 20.4 分)であった.毎回の支援後に作成した
注1)
看護の教育的関わりモデル(以下,TK モデル
と略
A4 判 1 ~ 2 枚の療養支援記録には①患者の食事療法・運
す)は,看護職者が患者の生活者としての価値観を尊重し,
動療法の実施状況,②患者の糖尿病と療養法に対する考
看護の専門的能力を駆使して,生活と健康を支援する実践
え・思い,③看護師の療養支援モデルに沿った応答,につ
3)
を示したモデルである .
いて対話形式で記録し,別枠に④看護師の解釈・判断,対
著者が作成した療養支援モデルは,TK モデルに示す看
話して気になった事柄と看護介入の方向性を記述した.そ
表 1 .療養支援モデルの大項目と変容ステージ
支援の大項目
定義
対応する変容ステージ
1.情緒的に支える
情緒的側面への理解を示し共有しようとすることにより,患者が糖尿病 前熟考期,熟考期
に伴う否定的な感情を扱い,療養法への意欲を持てるように助けること. 準備期
2.身体の理解を促す
現在の糖尿病の病態を患者の検査値・症状・生活と結びつけて説明する 前熟考期,熟考期,準備期
こと,または,患者自身が言語化した身体の状態を支持すること.
実行期,維持期
3.療養生活に関する
気づきを促す
対話により,食事療法と運動療法のちょうどよさ,食事・運動の過剰又
前熟考期,熟考期,準備期
は不足,あるいは,食事・運動に対するその人にとっての意味に患者が
実行期,
気づく機会を提供すること.
4.療養法の取り組み
を一緒に考える
患者の生活と身体状況に応じて行動変容に役立つ情報を提供し,実行可 準備期
能性のある目標や維持する工夫を話し合うこと.
実行期
5.療養法の取り組み
を評価する
行動変容の途中または変化がおきた状況において,患者の認知や行動の
準備期
小さな変化,または療養行動の効果と考えられる心身の変化を,肯定的
実行期,維持期
な言葉で患者に伝えること.
( 50 )
療養支援モデルに基づく看護介入を受けた 2 型糖尿病患者の変化パターン
の日の HbA1c 値,体重,処方内容は電子カルテより収集
等で公表することを説明した.介入群となった対象者へは
して療養支援記録に転記した.
毎回 A4 判 1-2 枚の療養支援記録を作成すること,介入内
容を院長およびクリニックの看護師が必要時に把握できる
4 .データ分析方法
よう電子カルテに 200 字程度の療養支援記録を残すことを
看護介入による対象者の変化を分析するために,療養支
説明し許可を得た.対象者氏名と住所は院外に持ち出さ
援記録から事例毎に「食事療法に関する認知・行動」「運
ず,院外では対象者登録番号を用いてデータを扱った.
動療法に関する認知・行動」「HbA1c 値の推移」を抽出
し 15 ヵ月間の経過を要約した.また,食事療法・運動療
Ⅲ.結果
法の認知・行動に影響を与える要因として,「糖尿病の捉
療養支援モデルに基づく看護介入を受けた 45 名の 2 型
え方」「糖尿病管理に影響する生活状況」「体重・慢性合併
糖尿病患者の変化を,6 つのパターンに分類した.表 2 に
症・薬物療法の処方変更等の身体状況」「療養支援の焦点」
変化パターンと対応する介入終了時の変容ステージを示
に関する記述を抽出し要約した.これらの要約の 45 事例
す.各変化パターンについて,事例とともに以下に述べる.
分を俯瞰し,「食事療法に関する認知・行動」「運動療法に
看護介入は対話を中心としたものであり,支援記録の引用
関する認知・行動」はどのように変化したか,という観点
は“ ”で示す.
から変化パターンを分類した.変化パターンの分類におい
て,糖尿病看護に精通した研究者 1 名よりスーパーバイズ
1 .適正な療養行動を維持した
を受け妥当性を確保した.
この変化パターンの 3 名は,介入前より日本糖尿病学
会のガイドラインを遵守する良好な内容の食事療法と運
5 .倫理的配慮
動療法を実行し,15 ヵ月の介入期間も,良好な食事・運
本研究は,日本赤十字看護大学研究倫理審査委員会の承
動療法を継続していた.食事の摂取エネルギー量は医師の
認を得たうえで実施した.研究施設長である院長に研究内
指示範囲内にほぼおさまっており,栄養バランスは整っ
容を説明し承諾を得た後,対象者へ研究の目的と方法を口
ていた.1 日 160 ~ 240kcal の運動を週 3 ~ 7 日実施し,
頭と文書で説明し,署名にて同意を得た.研究施設および
2
BMI22 ~ 23km/m で適正体重を維持していた.3 名とも
対象者に,参加は自由意思であり,参加の有無により診療
にインスリン療法者で,介入開始時の HbA1c は 7.6 ~ 7.7%
に不利益が生じないこと,途中辞退が可能であること,面
のコントロール可(fair)領域であり,インスリン投与量
接は外部に知られないようにプライバシーを守り,データ
が身体状況と合っていなかった.そのような状況に対し
類は匿名化して厳重に管理することを約束し,結果は学会
て,看護師の療養支援の焦点は,療養法の実践内容が適正
表 2 .療養支援による対象者の変化パターンと変容ステージ
療養支援による対象者の変化
支援終了時の
a
変容ステージ
1.適正な療養行動を維持した(3 人)
維持期
2.食事・運動・薬・生活全般と関連づけて身体を理解し療養法を実行した(17 人)
実行期
2-1.身体に関心をもつようになり実行した(5 人)
2-2.身体への関心から具体的な方策を見出し実行した(4 人)
2-3.薬の効果を体感しながら実行した(2 人)
2-4.インスリン分泌機能の低い身体を理解し実行した(1 人)
2-5.心理社会的問題に向き合うとともに身体を理解し実行した(2 人)
2-6.精神的ストレスと身体との関係を理解し実行したが血糖コントロールは悪化した(3 人)
3.健康的な食べ方を学び実行した(3 人)
4.環境の変化により生活習慣が改善した(8 人)
5.生活習慣を変える困難に直面し実行に至らなかった(13 人)
準備期
5-1.小さな試みに留まった(5 人)
または
5-2.食べる楽しみと社会的役割行動が重なり外食・間食の節制ができなかった(4 人)
熟考期
5-3.運動を生活に組み込めなかった(4 人)
6.インスリン療法を拒否した(1 人)
前熟考期
a 糖
尿病を悪化させないために,その人が取り組む必要のある療養行動に対する変容ステージを著者が療養支援記録から読み
取った.
( 51 )
太田 美帆・河口 てる子
であることを認めながら,インスリン投与量と体調との関
で,痩せれば糖尿病は良くなると思います.”
係を話し合うことであった.15 ヵ月後の HbA1c は,2 名
A さん“(真剣な表情で)そうですか,肝に銘じま
が改善し,1 名は 0.1%上昇に留まった.糖尿病の捉え方
す.”
に影響する事柄として,糖尿病診断時に網膜症が進行,狭
心症で循環器通院,父が心臓病で死去と,糖尿病の悪化が
B さん(50 歳代男性・事務職)は平日の飲酒習慣があ
もたらす危機を体験的に知っていた.
り 1 週間のアルコール量は 3600 ~ 4600kcal であった.看
護師は毎回,飲酒量の評価をしながら昼休憩時の散歩の取
2 .食事・運動・薬・生活全般と関連づけて身体を理解し
療養法を実行した
り組み等の小さな努力を認めた.介入 7 回目,HbA1c が
10%を超え,看護師が電子カルテに記載されていた禁酒経
この変化パターンの 17 名は,食事療法・運動療法・薬
験について質問すると,B さんは以下のように語り,経験
物療法等に取り組み,食事・運動・薬・精神的ストレスや
の意味づけを変えていた.その数日後より 7 週間禁酒し,
日常生活の出来事が糖代謝にどのように影響するのかを経
飲酒再開後も以前の半分に飲酒量を減らし,平日の歩行量
験的に学び,身体への理解を深めていた.食事療法・運動
を 5000 歩に増やした.
療法の内容は改善,または介入前からの良好な実行レベル
を維持していた.17 名の変化をさらに,食事・運動・薬・
看護師“2 年前に 1 ヵ月禁酒したことがあるのです
生活全般とどのように関連づけて身体への理解を深めたの
ね.”
か,という観点から,6 つに細分類した.
B さん“あんまり血糖が下がらないからと思ってやめ
(1)身体に関心をもつようになり実行した
たけれど今思えば下がっていたんですよね.そうです
5 名は,HbA1c の意味を知らない,食事療法・運動療
よ,9%から 8%に下がっていましたよ.お酒と運動で
法の効果がわからない等,もともと糖尿病のある身体にあ
8%ぐらいまで下げられると思います.その先は,先
まり関心がなかった.看護師との対話により,身体に関心
生がおっしゃるように私もインスリン注射をすれば確
をもつようになり,間食量や飲酒量を減らす,副菜を増や
実に下げられるとは思うのですが.そのあたりの気持
す,夜遅くに食べない,運動量を増やす等の様々な試行を
ちはまだ,定まっていないのですよね.”
始めた.そして,血糖コントロールが改善する,体調が良
くなる等の身体の変化が現れると,食事や運動が自身の糖
このように A さんと B さんは,看護師と対話を重ねる
代謝に影響することを体験的に理解し,改善した療養行動
ことにより,療養行動と身体を結びつけ,糖尿病のある身
を継続していた.看護師の療養支援の焦点は,身体で起き
ていること(糖代謝)を食事療法や運動療法と関連づけて
体の捉え方を変え,療養法の実行に至った.
(2)身体への関心から具体的な方策を見出し実行した
説明し , 療養法の目安について情報提供し,小さな試行を
4 名は,自分なりに食事療法や運動療法に取り組んでい
肯定的に評価することであった.介入 15 ヵ月後の HbA1c
たが,看護師との対話により,飲酒量を減らす,夏の熱中
は 5 名とも改善した.
症予防のポカリスエットを減らす,油脂の多い料理を減ら
5 名のうち,2 名は看護師の助言を少しずつ実行し,1
す,不足していた運動量を増やす等の改良点を見出した.
名は逆流性食道炎を機に食事時間を規則的に是正した.以
そして,HbA1c の低下や体重減少が現れたことで実践を継
下の 2 名は介入後半に糖尿病の捉え方が変わる転換点が
続していた.もともと身体への関心が強かったが,“何も
あった.
考えずに外来に来るよりこうして話をしてもらってよかっ
A さん(60 歳代女性・医療事務)は,間食と朝昼夕 3
た”,
“整理がつきやすい”と,療養法の取り組みについて,
食の全体量が多く運動不足で,介入期間の前半は懺悔する
話し相手がいるということが療養行動を促していた.
ように食事と運動の実施状況を話していた.10 回目の介
(3)薬の効果を体感しながら実行した
入時,アメリカ在住の妊娠中の娘に会うため渡米し,観光
2 名は HbA1c10%以上の著しい高血糖であり,薬剤の調
で歩行量が増え体重が 4kg 減少したことを話し,少し沈
整途中であった.C さん(50 歳代・女性・事務職)はイ
黙の後,看護師と以下のように対話した.次の回,A さ
ンスリン療法導入 2 ヵ月後に介入を開始し,食事と運動と
んは自ら決めた,副菜を増やし副菜から食べる方法を実行
インスリン量のバランスについて“まだそれが全然わから
し,食事の全体量が減り,ウォーキングを始めた.
なくて不安なのよ”と言いながらも,白内障手術のために
HbA1c 改善を目指し,低血糖予防を看護師と話し合い,イ
A さん“私はインスリンがでているのでしょうか.
ンスリンを増量していった.D さん(50 歳代女性・主婦)は
痩せればインスリンがでなくなるのかしら.”
糖尿病の発見が遅れ,介入期間中に経口血糖降下薬が開始
看護師“A さんは比較的インスリンがでているの
されたが“私としては良くなっている気がしないんです”
( 52 )
療養支援モデルに基づく看護介入を受けた 2 型糖尿病患者の変化パターン
と合併症等への不安があった.看護師は食事療法ができて
を抱える住民に日々応対すること,認知症が進む義父の世
いることを支持し糖尿病の管理ができれば合併症は食い止
話が負担となりつつあるが介護サービス導入に親族の理解
められることを説明した.2 人は糖毒性が改善した頃に運
が得られないこと,惣菜調理場で一緒に働く女子がきちん
動療法を開始し,HbA1c の 3 ~ 4%低下とともに体調の良
と働かないために滞る作業をやりくりすること,これらの
さを感じ“頑張ろう”と療養に前向きに取り組み続けた.
日常生活での精神的ストレスに関連して HbA1c 値や網膜
(4)インスリン分泌機能の低い身体を理解し実行した
症症状が悪化していた.療養行動は全般的に良い水準で
この変化パターンは 1 名で,HbA1c6%台を目指す E さ
あったが,薬剤の効果が不十分なことも加わり,3 名とも
ん(60 歳代男性・幼稚園用務員)はインスリン分泌機能
HbA1c は上昇した.看護師との対話では,療養行動の効
が低く経口血糖降下薬の効果が不十分なために HbA1c7
果が現れない状況を話し合いながら,精神的ストレスが血
~ 8%であった.看護師が食事療法の工夫の提示をしなが
糖や血圧に影響することを確認した.
ら,薬により調整していくことを繰り返し説明したとこ
ろ,“ここ(膵臓)の分泌が悪いんだよ”と自分の身体を
3 .健康的な食べ方を学び実行した
理解し,イライラするほどの食事制限を緩やかにした.
この変化パターンの 3 名のうち,女性 2 名は間食の過剰
(5)心理社会的問題に向き合うとともに身体を理解し実行
摂取,男性 1 名は間食の過剰摂取と油脂量の多さが課題で
した
あった.看護師との対話では身体状況を詳しく話し合うこ
2 名は,糖尿病や家族がもたらす生活上の制限が精神
とはなく,食事療法について,できそうな方法を具体的に
的ストレスになり,療養法への取り組みが困難であった.
考えた.3 名は,自分にとって丁度良い食べ方を見出し,
15 ヵ月間を通して,考え方の変化,ストレス状況への解
食生活が整い,HbA1c が改善した.
決に取り組む変化が徐々に現れ,身体に関心が向くように
H さん(60 歳代女性・主婦)は間食の過剰摂取が習慣
なり,HbA1c も改善した.
化していたので,間食の選び方について話し合いを続けた
F さん(50 歳代男性・休職中)は診断時にインスリン
ところ,“おやつは 200kcal 以内になるようにカロリーみ
療法を開始したが通院不定期であった.介入初期,“糖尿
ながら食べています”と目安を見出すことができていた.
病が治る薬はないのかな”“運動をしなきゃいけないとか,
HbA1c は 8%から下がらず,インスリン療法導入に抵抗
インスリンを打たなきゃいけないとか,そういう煩わしさ
感を示していた.
を伴って生きる,それは相当に厳しい.”,“生活の潤いと
I さん(60 歳代女性・清掃業)も,“我慢の反動でお菓
いうか潤滑油,外食や旅行,家族としてのものだよね.そ
子を食べることが多い”と“ピーナッツの砂糖がけを 2 日
れが,糖尿病のために欠けちゃっている.”と,療養の煩
で 1 袋”や“餡子を鍋に作って 1 人で食べる”等の過食が
わしさや糖尿病がもたらす喪失感を語った.看護師が気持
時々あった.夫も糖尿病で下腿切断し透析導入間近という
ちを否定せずに毎回傾聴すると,予約日に来院するように
精神的負荷があったため,看護師は夫の病気に関わる大変
なり,倦怠感が改善するとともに“これ(糖尿病)は付き
さを傾聴しながら,ほどほどの間食の取り方について話し
合っていくしか仕方のないものなんだ”という肯定的な言
合いを続けたところ,“和菓子 1 日 1 個くらい,我慢しな
葉に変化し,ウォーキングを開始した.
いようにしている”と過食が緩和した.
G さん(50 歳代女性・主婦)は,2 年前より脳梗塞を患
J さん(60 歳代男性・定年退職後パート)は,約 1 年前
いながらトラック運転手を続ける夫が早朝出勤し深夜に帰
に妻が急死し,独居で料理がわからないため惣菜が多く炭
宅,日中も目的地への道順調べのために頻繁に電話がくる
水化物と脂質に偏り,夕方以降に口寂しくなりピーナッツ
という状況で睡眠が分断され,HbA1c10%以上が続いて
等を食べ過ぎていた.看護師が簡単な料理法を紹介し,間
いた.看護師が話を傾聴していくと,夫に対する怒りを表
食の適量を示していくことで,J さんは徐々に栄養バラン
現するようになった.G さんは睡眠不足と高血糖の関連を
スが整い食事内容が豊かになっていった.
理解するようになり,夫のかかりつけ医への診察同席時に
自分の糖尿病手帳をみせる,腎機能が悪化し始めたことを
4 .環境の変化により生活習慣が改善した
夫に伝える等,自分の健康を守る行動が現れた.夫の日中
8 名は,環境の変化により食事量が減る,または運動量
の電話が減り,睡眠がとれた日には 20 分の散歩ができる
が増え,HbA1c が改善した.うち 3 名は,“娘の入院によ
ようになった.
り間食する暇がなくなった”“交通事故で歯を損傷し固い
ものが食べられなくなった”“定年退職後のパート勤務日
(6)精神的ストレスと身体との関係を理解し実行したが血
糖コントロールは悪化した
が増えた”と,本人の努力よりも時間的理由または身体的
理由により食事量が減り運動量が増えた.一方,3 名は職
3 名は,警察官としての住民相談業務により様々な問題
場移動・転居などの環境の変化に加え,“転職先の再就職
( 53 )
太田 美帆・河口 てる子
面接で血圧を下げるように言われた”“産業医の指示で夜
べ,全国各地の特産品を味わうことが好きで,1 ヵ月の半
勤を外された”“社員食堂でご飯茶わん小が選べるように
分以上,1 日摂取エネルギー量が 3000kcal を超えていた.
なった”等,健康管理をするように会社から圧力や働きか
HbA1c は徐々に上昇し“食べなきゃいいんだよ”と言う
けがあり,食事量が減り運動量が増えた.反対に 2 名は,
ようになったが , 間食には長距離運転中の居眠り予防とい
職場移動によりデスクワークとなり HbA1c が上昇した
う意味もあり,節制することができないでいた.
が,数か月後の移動で再び歩行量を増やせる環境となり,
HbA1c は改善した.
(4)運動を生活に組み込めなかった
4 名は食事に大きな問題がなく,運動量が不足していた.
2
3 名は BMI26 ~ 32kg/m の肥満で,残り 1 名も介入前後
5 .生活習慣を変える困難に直面し実行に至らなかった
で BMI23.3kg/m2 から 24.1kg/m2 に体重が増加した.
13 名は,糖尿病を悪化させたくない気持ちはあるもの
主婦の女性 2 名は,体重を減らしたいと思いつつ,動く
の,生活習慣を変えることの困難に直面し,エネルギー過
と腰・膝・大腿に痛みがあると訴え運動に消極的であった.
剰摂取や運動不足が是正されないまま,介入を終了した.
“リハビリ通院で運動が増えたから血糖が下がった”,“娘
看護師の療養支援の焦点は,環境的・心理的困難に理解を
の犬を預かって散歩したら腰痛がよくなった”と運動の効
示しつつ,身体への理解を促すこと,食事療法・運動療法
果が現れる体験をしたにも関わらず,生活の中に運動を
の実施状況を一緒に振り返ることであった.介入 15 ヵ月
組み入れるまでには至らなかった.男性 2 名は退職後で ,1
後,HbA1c は 12 名が悪化し,1 名は 9.5%から 9.1%への
名は“スクワットをしたら膝を痛めた”と運動を試みるが
低下に留まった.各々の抱える療養上の課題により,3 パ
中断し,もう 1 名は“スケジュールがない.目的がなくて
ターンに細分類した.
歩くのがね(気が進まない)”と運動の目的を見出せなかっ
(1)小さな試みに留まった
た.
5 名は,食事全体量を減らす,肉を減らす,飲酒量を減
らす,菓子パンを減らす,お菓子を減らす,ラーメン屋
6 .インスリン療法を拒否した
ではなく和定食屋を選ぶ,“ドカ食い”を減らす,週 1-2
この変化パターンは 1 名で,L さん(60 歳代男性・事務
回 20 分歩く,スポーツセンターに週 1 回通う,室内で体
職)は HbA1c10%前後の高血糖が続いたが,インスリン
操する等の小さな試みを実施したが,5 名とも BMI29 ~
自己注射を拒否し続けていた.“兄弟が皆,糖尿病で,イ
2
39kg/m の肥満者であり,エネルギー摂取量と消費量のバ
ンスリン注射だけはなりたくないよねって言い合ってやっ
ランスを是正する程の療養法を見出し実行するには至らな
てきた”という意思表示に対し,看護師は身体の状況を説
かった.“太っているのよくないかなと思って”,“痩せな
明し続けた.介入期間の後半は“そのうち(合併症が)ばー
きゃとは思っている”等と生活習慣改善の必要性は意識し
んと来るのかなあ”と将来への不安を言うようになった
ていた.
が,インスリン拒否の考えは変わらなかった.
(2)食べる楽しみと社会的役割行動が重なり外食・間食の
節制ができなかった
Ⅳ .考察
4 名は働き盛りの 40 ~ 50 歳代の男性で,飲食と社会的
対象者 45 名への看護師(著者)による療養支援は,そ
役割・楽しみが強く結びつき,食事の節制が困難であった.
の人らしい日々の生活の営みと調和する食事療法と運動療
うち 3 名は,運動量は十分にあるが,仕事や少年野球の付
法を見出し実行していけることを目指すものであった.6
き合いで飲み会が週 1 ~ 3 回あり,多量の飲酒が習慣化し,
つの変化パターンの特徴から,糖尿病のある身体の捉え
菓子の食べ過ぎも時々あった.会社経営者や中間管理職と
方,生活調整における障壁の大きさが,療養行動に影響し
して職場の上司・部下,顧客との関係を築くために,また
ていたと考える.これらの 2 つの側面と看護介入について
少年野球のコーチ同士の関係を良好なものにするために,
以下に述べる.
飲み会はコミュニケーションの場であった.看護師との対
話でエネルギー過剰摂取は自覚し,“HbA1c10%じゃあ高
1 .糖尿病のある身体の捉え方
いよね”,“数値を言い合うと死んじゃうんじゃないかって
糖代謝が整う水準の療養行動への動機づけには,糖尿病
言われるんだけど”,“そんなに上がっていたの,ひどいな
のある身体の捉え方が影響していた.適正な療養行動を維
あ”と不健康な状況を認識するが,行動レベルでの改善は
持した 3 名は,糖尿病がもたらす危機を自分自身や家族の
みられなかった.
体験から知っており,かつ毎日のインスリン注射や血糖測
K さん(50 歳代男性・トラック運転手)は,飲み会の
定を通して自分の身体に日々向き合うことが,身体への関
機会はないが,間食が仕事の遂行と結びついていた.長距
心を強くし,介入前からの良好な療養行動を維持してい
離運転中の目覚ましとしてアイスやポテトチップスを食
た.
( 54 )
療養支援モデルに基づく看護介入を受けた 2 型糖尿病患者の変化パターン
食事・運動・薬・生活全般と関連づけて身体を理解し療
の焦点は身体ではなく,食べ方であった.H さんはインス
養法を実行した 17 名は,もともと身体への関心が強い者
リン療法に抵抗感が強く,I さんは夫が同じ糖尿病で切断・
からあまり関心のなかった者まで,多様であった.17 名
透析導入期にいることが精神的負荷となっており,J さん
のうち身体に関心をもつようになり実行した者は、新たな
は妻の急死という深い喪失体験からの回復途中であった.
療養行動を試み,HbA1c の減少や体重減少が現れ,食事・
身体への強い脅威を感じる体験があるときは,自身の身体
運動療法を反映する身体であることを理解した.その過
に注意を向けることが精神的負荷を増大させるリスクがあ
程には,A さんが自身の身体を運動の効果が現れる身体
り,看護師は身体のことに詳しく触れず,食生活を中心と
と捉えなおし,B さんが禁酒は血糖を下げると理解しなお
した対話を展開していた.このような展開は食生活を整え
したように,看護師とともに療養行動の振り返りを重ね,
ることを通して身体のケアを促していた側面があり,患者
日々の行動の意味を考えることによる,新しい見方の発見
の状況によっては糖代謝の理解を無理に促さなくとも,療
があった.一方,薬剤効果の理解は療養行動の適正さを確
養行動の良い変化を促すことができる一例を示している.
認することに役立っていた.薬の効果を体感しながら実行
しかし,生活習慣を変える困難に直面し実行に至らな
した C さんと D さんは,高血糖が是正される身体感覚が
かった 13 名の身体の捉え方は,“痩せたい”,“血糖を下げ
わからず療養行動の妥当性の判断ができないでいたが,看
たい”という漠然とした表現に留まり,身体へ関心が向か
護師の説明と HbA1c 改善後の体調の良さにより,療養行
ない者も多かった.高血糖と療養行動に取り組めていな
動を自分の身体に合うものと受け入れ,療養行動の意欲を
い状況が続くと,HbA1c 値についての医療者との対話は,
持つことができた.反対に経口薬の効果がなく,インスリ
患者自身が責められているように感じる場合があり,ま
ン分泌機能の低い身体を理解し実行した E さんは,療養
た,認めたくない身体の現実に直面することになる.患者
行動と HbA1c 値を照合することにより食事療法の限界を
と看護師の思考が HbA1c の高い値にとらわれ対話の雰囲
理解した.E さんのような身体の理解は,近い将来,イン
気が硬直すると,新たな気づきは生まれにくくなる.さら
スリン療法導入の時期が来たとき,その必要性を理解し受
に,自覚症状がないために実感が伴わないことや,慢性合
け入れるうえでプラスに働くと考える.精神的ストレスと
併症に対する潜在的な恐れが,自分の身体に向き合い主体
身体の関連への理解は,精神的健康を保つことに役立って
的に療養に取り組むことを困難にしていたと考える.
いた.心理社会的問題に向き合うとともに身体を理解し実
行した F さんと G さんは,陰性感情を言葉にすることで,
2 .生活調整における障壁
精神的ストレスの強い状況に置かれている自分を客観視
食事・運動・薬・生活全般と関連づけて身体を理解し療
し,問題解決行動を試みたり考え方を変えたりして,療養
養法を実行した 17 名と健康的な食べ方を学び実行した 3
行動の良い変化が現れた.精神的ストレスと身体との関係
名は,看護師が情報提供した方法を試してみたり,自分に
を理解し実行したが血糖コントロールが悪化した者は,精
合った方法を見つけたりして,障壁の少ない療養法を実行
神的ストレスと血糖上昇との関連を理解し,自己管理が悪
していた.Anderson と Funnell は,目標設定を成功させ
いから血糖が高い等と自分を責めることなく,療養に取り
るには目標が患者のストーリーから出てくる必要があると
組めていた.
述べている .本研究においても,看護師からの一方的な
浮ヶ谷
6)
5)
は,糖尿病とともに生きることについて,外的
指示ではなく,患者が日々の生活のなかで何をしてみよう
世界と切り離され客観的数値により評価される身体から,
と思うか,やってみてどう思ったかを話してもらい,その
自分のからだに耳を澄まし微妙な身体感覚に気づいていく
療養行動の評価を患者と看護師が共に考えたことが,良い
ことで「自分のからだ」と外的世界とのつながりを取り
方向への変化を促していた.
戻し,「自分のからだ」世界を豊かにする人たちがいると
環境の変化により生活習慣が改善した 8 名は,自分に合
述べている.このように糖尿病のある身体の捉え方が,そ
う療養法を自分で見出したのではなく,環境が糖尿病の療
の人固有の体感を伴ったものとなれば,療養行動が自分に
養に適するように変化し障壁が小さくなった.さらに,職
合ったものかどうかを主体的に判断でき,身体のケアに自
場からの圧力や働きかけが療養行動への動機付けとなって
信を持つことができ,療養行動は継続されやすい.食事・
いた.療養行動の変化は内発的動機付けではなく外発的動
運動・薬・生活全般と関連づけて身体を理解し療養法を実
機付けによるものであるため,環境が再び変わったときに
行した変化パターンにおいては,看護師の身体に関する専
療養行動が後退しないよう対応策を考えておくことが課題
門的知識が,その患者の理解力や心身の状況に合った知識
である.
として患者に伝わったときに,身体への理解を深める効果
生活習慣を変える困難に直面し実行に至らなかった 13
を発揮し,療養行動を促していたと考える.
名は,生活習慣を変えることの障壁が大きく,15 ヶ月間
健康的な食べ方を学び実行した 3 名は,看護師との対話
の介入では障壁に対する解決策を見出すには至らなかっ
( 55 )
太田 美帆・河口 てる子
た.ほぼ全員が肥満者であり,日々の摂取エネルギー量が
だわりを見つめ,新しい考え方を学ぶ機会を持つことが望
消費エネルギー量を上回る生活習慣であった.小さな試
ましい.また,医療者と接触する機会を増やすこと,運動
みに留まった者は,減量と生活習慣改善の必要性を意識
や血糖測定などの体験的なプログラムを導入することも効
していたが効果的な行動レベルに至らず,4 ~ 6 週間毎と
果を上げると考える.これらの強い介入があっても生活習
いう介入頻度が,行動を促す刺激として少なかったと考え
慣改善への抵抗を示す患者や,L さんのように治療に抵抗
る.食べる楽しみと社会的役割行動が重なり外食・間食の
を示す患者はいるものであり,そのような患者に対して,
節制ができなかった者にとって,飲食することは,単なる
1 対 1 の対話の継続は,信頼関係を繋ぎ止め,変化が起き
栄養摂取ではなく,コミュニケーションの場,自己表現,
る機会を待つという点で重要である.
心理的満足,仕事遂行のための手段という心理社会的意味
合いが強く,これらの制限は生活の質を低下させることに
4 .本研究の限界と課題
繋がり,行動変容が難しかった.特に,トラック運転手の
本研究の結果は,RCT の介入群を対象とした療養支援
K さんは,長距離運転時の間食が,生計を立てると共に命
記録がデータであるため,行動面の詳細なデータはあるが
を守るための重要な手段であった.行動変容のためには,
認知面のデータが比較的少なく,認知面の分析に限界が
飲食に伴う心理社会的意味に対しての代替手段を見つけ
あった.今後は,専門看護師や認定看護師による療養支援
るか,考え方の転換が必要となるが,今回の看護師との 1
を経験した患者を対象としたインタビュー等により,行動
対 1 の対話では不十分であった.運動を生活に組み込めな
変容につながる認知の変化をより詳細に検討していくこと
かった者は,関節痛など,運動機能の低下した身体を再び
が課題である.
動かすことの不快感が勝り,自分自身にとっての運動の目
的が見出せないため,実行に至らなかった.運動の効果を
Ⅴ.結論
体感的に理解する機会がないため,運動療法による障壁の
療養支援モデルに基づく 15 ヵ月間の看護介入を受けた
ほうが大きくなっていた.
2 型糖尿病患者 45 名の変化には,「適正な療養行動を維持
した」「食事・運動・薬・生活状況と関連づけて身体を理
解し療養法を実行した」「健康的な食べ方を学び実行した」
3 .療養支援モデルに基づく看護介入の適用性
その人が取り組む必要のある療養法についての支援終了
「環境の変化により生活習慣が改善した」「生活習慣を変え
時の変容ステージは,もともとの適正な療養行動を維持
る困難に直面し実行に至らなかった」「インスリン療法を
していた者 3 名,実行期にいた者 28 名,療養行動をしよ
拒否した」,これらの 6 つのパターンがあった.
うと思うが実行には至らない準備期または熟考期にいた
本研究における 1 対 1 の対話を中心とした看護介入は,
者 13 名,やろうと思わない前熟考期にいた者 1 名であっ
糖尿病のある身体を療養法と関連づけて理解することを促
2)
らは変容ステージを上に進むためには平
し,その理解が療養行動への動機付けとなり,同時に,障
均 6 ヵ月かかると述べており,本研究において,約 7 割の
壁の少ない療養法を見出す効果があった.認知や行動面へ
患者は看護介入により療養行動が促されたと考えられ,約
の看護介入の効果はあったが,血糖コントロール改善への
3 割の患者は療養行動に至らず糖尿病を悪化させる状況に
効果は不十分であった.介入効果をより高めるためには,
留まった.
グループ教育を取り入れる,介入頻度を増やす,体験学習
看護師との 1 対 1 の対話を中心とした看護介入は,糖尿
を取り入れる等の工夫が必要である.
た.Prochaska
病のある身体について,患者の生活レベルでの食事療法・
運動療法・薬物療法と具体的に結び付けて理解を深めるこ
謝辞
とを促し,それが療養行動の動機づけを促していた.同時
本研究にご協力いただきました患者様,クリニックの皆
に,障壁の小さい方法を見出し実行することを支えてい
様に心より感謝申し上げます.本研究は,平成 21 ~ 24 年
た.しかし,生活習慣を変える困難に直面し実行に至らな
度文部科学省科学研究費補助金基盤研究 A(研究代表者:
かった 13 名のように,身体に関心が向きにくく,生活習
河口てる子,課題番号 21249096)を得て実施した研究の
慣改善の障壁の大きい患者には効果不十分であった.この
一部である.
変化パターンの患者には,身体の捉え方や生活のこだわり
についての考え方の転換を促す強い介入が必要である.認
注釈
知行動療法などの構造化されたグループ教育プログラムに
注 1 )
「看護の教育的関わりモデル」を開発した患者教
は個別支援よりも強い介入効果がある
7)
.生活習慣改善に
育 研 究 会 は, モ デ ル の 通 称 を, 研 究 会 代 表 者 の
困難を示す患者は,構造化されたプログラムに参加するこ
Teruko Kawaguchi の頭文字をとり,「TK モデル」
とで様々な価値観をもつ患者や医療者と交流し,自分のこ
としている.
( 56 )
療養支援モデルに基づく看護介入を受けた 2 型糖尿病患者の変化パターン
文献
addictive behaviors, American Psychologist 47, 1102
1 )太田美帆:2 型糖尿病患者に対する外来での看護師に
(1992)
よる療養支援モデルの効果,日本糖尿病教育・看護学
5 )浮ヶ谷幸代:病気だけど病気ではない─糖尿病ととも
会誌,18(2),1(2014)
に生きる生活世界,誠信書房(東京),2004
2 )J. O. Prochaska, J. C. Norcross & C. C. DiClemente /
6 )B. Anderson & M. Funnell: The art of empowerment
中村正和監訳:チェンジング・フォー・グッド,法研
─ Stories and strategies for diabetes educators (2nd
ed.). American Diabetes Association, Virginia, 2005
(東京),2005
3 )河口てる子:患者教育の実践研究事例「看護の教育
7 )K. Weinger, E. A. Beverly & Y. Lee et al.: The effect
的関わりモデル」,インターナショナルナーシングレ
of a structured behavioral intervention on poorly
ビュー,33(3),116(2010)
controlled diabetes. Arch Intern Med. 171(22), 1990
4 )J. O. Prochaska, C. C. DiClemente & J. C. Norcross:
(2011)
In search of how people change ─ Applications to
Abstract
The purpose of this article is to describe the patterns of participant changes in terms of nursing intervention based on
the individual patient education model used in a randomized controlled trial of people with type-2 diabetes.
Forty five adults with type-2 diabetes in the intervention group received individual face-to-face patient education
form a nurse (author) prior to and following their outpatient treatment every 4-6 weeks over the 15- month period. Using
the nursing record, the patterns of the participants’ changes were categorized.
Patients showed these changes: “maintaining of proper self-management”, “deepened understanding of their bodies
and experienced of the effects of diet, exercise, and medication”, “learning healthy eating”, “improving lifestyle through
environmental change”, “finding it hard to change lifestyle”, and “refusing insulin treatment”.
Nursing intervention based on the individual patient education model is considered to promote self-understanding of
the person’s body condition and encourage self-management that can mesh well with an individual’s lifestyle.
( 57 )