宮崎大学農学部 地域

先進的かつ
ユニークな研究内容
宮崎大学農学部の研究は、成果がすぐに現場で役立つテーマが多い。その背景にユ
ニット型の研究体制がある。ユニットとは
「研究は壁を取っ払って融合する」
ことを基本
にした学科横断型のこと。そのいくつかを見てみよう。
■ 動・植物生産・安全・加工研究ユニット
地域に還元できる実践的研究に取り組む
共同利用拠点に採択され、全国から
演習林は文部科学省の全国教育関係
イスラームには﹁豚を食べてはい
けない﹂﹁アルコールを口にしてはい
う課題がクローズアップされている。
の 学 生 の 実 習 に 門 戸 を 開 い て い る。
ル﹂がある。ムスリムに食材や料理を
がある。これはムスリムにとって安
けない﹂
などの戒律、
いわゆる﹁ハラー
る稲や青果物、牛、牛乳はグローバル
提供する側もこれを守らなくてはな
る。 演 習 林 は 杉 や 広 葉 樹 林 が 多 く、
全な食べ物であることが保証される、
50
ha
の牧場で生産され
国立大学法人宮崎大学農学部は宮崎県のみならず、全国一の南九州畜産地帯
G A P や 日 本 のJ G A P の 認 証 を
町に接しているので里地研究や人と
証機関による審査を経て与えられる。
いわばお墨付きのようなもので、認
31
ha
の農場と
における農学教育の中核的存在だ。また、数多くの 先端的研究にも意欲的に
ラール認証﹂
を取得しようとする動き
らない。さらに最近の流れとして
﹁ハ
取り組んでおり、その成果は転換期にある日本の農林水産業に光明をもたら
得ており、これらを利用したGAP
森林の共存のモデルとして好個な施
証への対応を念頭に人材育成や国際
宮崎大学農学部では食の安全への
取り組みの一環として、ハラール認
設となっている。また、水産実験所
はサンゴなどの生態系調査や魚の養
殖などの実習に適している。
︵適正農業規範︶教育が実施されてい
すと期待されている。
充実した附属施設
年におよぶ
75
さて大学に附属する特徴的な施設
について見ていこう。まず附属動物
年開設で
歴史を有する。平成 年に設置され
病院は昭和
15
農学教育・研究には
理想的といってもいい環境
性が高いのがひとつの特徴。空港に
宮崎大学は宮崎市内に位置するた
め住まいや買い物など、生活の利便
ル研究センターの設置準備も進めて
的な共同研究などを積極的に行って
いるという。
23
国際連携への取り組み
いうまでもなく﹁食の安全﹂をどう
担保するかは農林水産業においても
近いことも大きなアドバンテージだ。 た産業動物防疫リサーチセンターは
産 業 動 物 の 伝 染 病 に 関 す る 防 疫・診
大きな課題だ。一方、日本では東南
いる。その拠点として学内にハラー
一方、周辺は自然に恵まれたエリア
ンターで、主に獣医学科と畜産草地
4
断・予 防 な ど の 先 端 的 研 究 を 行 う セ
夏の外気温34度の日に牛舎から
(和)牛を外へ出したときの脚の
表面温度をサーモメーターで調
べると、写 真のように体 表 温 度
は急激に上昇して真っ赤になる
が、デスアシルグレリンを投与し
て外に出すと、体表体温の急激
な上 昇は抑 制される。いわゆる
熱中症の予防効果が見られる。
❶木花フィールドは広大で自
然に恵まれる一 方、キャンパ
ス内にあるため利 便 性も高
い。農学部附属の農場として
は最高の環境かもしれない ❷木花フィールドでGAPに基
づいて栽培されているトマト。
学食で販売されているが、驚
きの 甘さで絶 大な人 気があ
り、並べたとたん飛ぶように売
れるという ❸ 産 業 動 物 教
育研究センターに導入された
3T 高磁場 MRI 装置 ❹同じ
く産業動物教育研究センター
が備える大型動物用診療台
わゆるフィールドが近くにあり、実
牛の熱中症を予防する
手法を開発
25
で大学の農場や牧場、演習林等のい
■ 産業動物研究ユニット
アジアなどのイスラーム圏との人
2
科学科の教員で構成されている。ま
3
も使えるイスラーム文化研究交流棟
植物細胞で光合成を行う装置「葉
緑体」の機能改良や、植物が温度
に応 答する 仕 組みについて研究
している。得られる成果で物質生
右は2 ℃で
産 力の 高い作 物の作出や、温 室 シロイヌナズナの凍結耐性試験。
マイナス5 ℃でも良好に
の暖房費削減が可能になるかもし 2日間処理しており、
発育する性質を獲得している。左は未処理
れない。
がすでに設置されている。
059 農業ビジネスマガジン
植物が持つ光合成装置の
機能改良にチャレンジ
習や研究の観点から見ても便利であ
京都賞の根井教授「原点は宮大農学部」
京都大学の山
中伸弥教授も受
賞した京 都 賞を
2013年に受 賞し
たペンシルベニア
大学教授の根井
正 利さん。根 井
教授は進化生物
学 者で、遺 伝 的
学内には根井教授の功績を紹介するコーナーもある
距離や近隣結合
法などの数学的手法を用いて生物の進化現象を定量的、実証
的に理解できるようにした功績が認められたもの。
ノーベル賞に
も近い研究者といわれる。
根井教授は1953年に宮崎大学を卒業しており、
「 宮大で仕
事の芽が作れた」
と自身の研究の原点が宮崎大学農学部であ
ると述べている。
さらに、大学自体にもムスリムの
留学生が増えており、礼拝や集会に
液 体 培 地 上でシイタケ子 実 体
の形成に成功した時の様子
ーム教徒︶
にとっての食の安全﹂とい
1
的・経 済 的 交 流 が 急 速 に 拡 大 し て い
大型動物用診療台や陽圧手術室、さ
きのこの高 効 率 生 産 技 術や農 業 残 渣
(作物の非可食部など)からアルコール
や香気成分などの有用な物質を得る技
術の開発(バイオプロセス開発)に取り
組んでいる。
年に開設
るのに必要な
らには産業動物用MRI装置まで備
きのこを効率的に生産し、
不要部から有用成分を得る
た、その施設として平成
あらゆる要素
えるという最先端の施設となってい
■ 生物圏One Health研究ユニット
キャンパス内に4000㎡の 開 放 型 圃
場を整 備、周 辺 環 境 への影 響を極
力減らした上で、これまでにGM(遺
伝子組換え)
ワタの栽培を行った。
こ
うした取り組みを通じて、客 観 的な
開放型圃場は、
より実際の栽培環境に近 立場で遺伝子組換え作物の安全性
い状態で遺伝子組換え作物の安全性評 評価システムを確立している。
価が行える
40
る。また、農林水産業に関する資料
遺伝子組換え作物の
安全性を総合的に評価する
30
がそろってい
主にサンゴ礁生態系に重要な役割を果
たしているイシサンゴ類全般の生態や
分 類について研 究を行っている。近 年
は宮崎県周辺海域のサンゴに焦点をあ
てた研究および保全活動も行っており、
テーブルサンゴの大群集の発見にもつ
ながった。
るといっても
明治・大 正期、
農業の近代化を進めるな
かで 誕 生した宮 崎県日南 市 坂 元 棚田。
棚田でありながら耕 作 環 境に優れてい
る特徴を生かして、コメの品質向上に取
り組み、
「 坂 元 棚田 米 」として販 売して
いる。
日南市の坂元棚田
過言ではない。 を収集展示する農業博物館は国内で
日向灘にテーブルサンゴの
大群集を発見
分内の距離に広
品質を向上させて
坂元棚田米のブランド化に成功
も珍しい存在だ。
研究の一環として行われた日向夏の収穫量調査
「宮崎は気候がよく、大学周辺は水
田、
野菜畑、
果樹園、
園芸場、
森林、
海と、農学に関するあらゆる条件が
整っています」
と話す農学部長、村
上昇氏
一方、農学部のフィールド実習の
施設として、大学敷地内に農場、牛舎
2012年にユネスコ・エコパーク
に認 定された綾 町で、日向 夏
栽培の省力化に向けて、ミツバ
チによる送粉効果(生態系サ
ービス)
と周囲の森林との関係
を調べたところ、照葉樹林を保
全 する効 果があることが分か
ってきた。
や家畜のパドック、鶏舎があり、また
ラビットアイブルーベリー葉に抗
脂肪肝や血圧降下作用などの
生理機能があることを宮崎県と
の共同研究で発見した。現在、
茶 栽 培のような様 式で大 量 生
産を行い、お茶やサプリメントな
どの健康食品を製造・販売して
いる。
大学から車で ∼
照葉樹林の保全が
日向夏栽培にも役立つ
植物生産環境科学科
森林緑地環境科学科
応用生物科学科
海洋生物環境学科
畜産草地科学科
獣医学科
大な牧場や演習林、および1時間半
ブルーベリーの葉から
機能性食品を開発
宮崎大学農学部の
6学科
された産業動物教育研究センターは、 る。その流れの中﹁ムスリム︵イスラ
バイオリソース(生物遺伝資源)
を収集・
保 存し、研 究 者 へ 実 験 材 料を提 供 する
「ナショナルバイオリソースプロジェクト」の
ひとつとして、ミヤコグサと大豆を集めて
いる。収集された伝統的な大豆を栽培し
て味噌を作り、それを使った冷や汁でフー
ド・アクション・ニッポン アワード2014で入
賞を果たすなど、実践的な成果を上げて フード・アクション・ニッポン アワード
いる。
で入賞を果たした冷や汁(*)
の距離に水産実験所がある。牧場と
釜入り茶の製法で製造したブルーベリー葉茶
(*)写真提供:百姓隊
る。つまり、
生活面も教育・研究面で
高木性になるカキ樹の根の部分に
「わい性台木」を用いるとコンパク
トな樹姿になり、栽培管理作業効
率が飛躍的に高まることを実証し
た。宮 崎 大 学においてわい化 効
果の認められた「MKR1」は品種
登録が完了し、現在全国18以上
の公設試で栽培試験が開始され 収穫直前の11年生カキ樹でも、台木にMKR1
ている。
を使うと脚立なしで全果収穫が可能になる
取材・文=吉田直人 写真=川原朋子
宮崎大学農学部
復活した伝統の大豆で
うまい冷や汁
ニュータイプ
農系大学訪問
命科学や環境分野が学べるとあって、大きな注目を浴び
ている。そこで、
「農」をキーワードに人材育成を行う現場
を訪ね、その魅力と将来性について取材した。
も利便性が高いわけで、農学を修め
カキの木を人の背丈ほど
にして、収穫を楽にした
■ 生物遺伝資源・多様性・生態系サービス研究ユニット
進化するアグリ&バイオの学究機関
いま全国の大学で数多く立ち上がる農業関連の新たな
学部・学科。成長産業である農業と、農業から派生する生
農業ビジネスマガジン 058