チェーン リアクション: アウトソーシングはいかに治験におけ るサプライチェーンを改善できるか 記事 www.almacgroup.com APAC地域で治験を行う場合には幾つも の課題がありながらも、その誤りの余 地は無きに等しいと言えます。 効果的にサプライチェーンを管理する ためには、統一感のある戦略と適切な パートナーが不可欠です。 治験におけるサプライチェー ンの管理とサポートのため に、治験依頼者様は長い 間、複数のアウトソーシン グパートナーに委託してき ました。 アジア太平洋地域で生物学的製剤の 治験を行うことは、日増しに一般化 してきています。しかし、この地域 は非常に広大かつ多様であり、動的 でもあるため、多国籍企業は治験に 必要な治験薬の供給管理における物 流上の課題に直面しています。そし て効率化のために、先進技術、改善 されたプロセス、および柔軟なアウ トソーシングモデルを採用する傾向 にあります。この記事では、まとま りのあるサプライチェーン管理戦略 の作成におけるベストプラクティス について概説します。これには、ア ジアでの治験薬の在庫および物流プ ロセスの全段階をサポートできる パートナーの選択が含まれます。 APACにおける治験実施の光と陰 東アジアと東南アジアおよび太平洋(APAC)地域は、大手製薬会社様ほとんどの 戦略計画において重要な位置を占めています。その結果、Clinicaltrials.govによ ると、この地域で実施される治験の件数が全実施件数に占める割合は、2011年 の11.6%に比べ2013年には16%にまで着実に上昇しています。これには明白な 理由があります。この地域には未治療患者が多数います。インドと中国の人口 は、一国のみでも事実上どの治験を維持できるほど多く、治験全体のコストも 一般的に他地域よりも低くなっています。 とはいえ、APACでの治験薬の供給管理には他地域よりも多くの困難が伴いま す。他地域と同様、サプライチェーンマネージャーは複雑な治験実施計画書、 短い被験者登録時間枠、厳しい法規制、ベンダー間の調整に対処しなければな りません。さらに、複数言語、年中無休のサポート、各国特有の法規制、需要 を予測するためのトレンドデータの不足、ならびに治験薬の輸送・流通におけ る物流上の課題に取り組む必要があります。治験依頼者様が新しい方法を見つ けることができなければ、これらの課題はコストを増大させ、所要時間を延長 させ、さらに、リソースの乱用を招くため、この地域で治験を実施することの 利点の多くが相殺されてしまいます。 新しいアウトソーシングモデル 治験におけるサプライチェーンを管理・サポートするために、治験依頼者様は 長い間、各社がプロセスの一つの側面、または一つの市場のみを専門とする複 数のアウトソーシングパートナーに委託してきました。しかしながら、そのや り方では一つのタイプの複雑さを別のタイプの複雑さで置き換えるにすぎない 傾向にありました。そのような状況下で、治験マネージャーは全体を取り仕切 るリーダーとして、各契約当事者との個別のサービス契約や金銭面での条件の 策定、パートナー間の意思の疎通方法の向上、事業体間の引き渡しの円滑化に 相当な時間を費やさざるをえませんでした。 大手会社は最近、グローバル治験の目的を達成するためには、サプライチェー ンパートナーから違うレベルのサポートを得る必要があることを認識するよう になりました。この点は、治験依頼者様のスタッフが多種多様な国々にわたり 治験を効果的に実施するために必要な経験がない場合に特に当てはまります。 効率的な治験の立ち上げと 管理をサポートするための 明確なコミュニケーション チャネル 今日の治験におけるサプライチェーン管理のベストプラクティスは、以下を 網羅する包括的なアプローチをとることです。 • • • • • • 各国特有の状況に対処できる、グローバルな一貫性のある戦略 治験薬需要の予測の基盤となる確実な情報 効率的な治験の立ち上げと管理をサポートするための明確なコミュニケー ションチャネル 治験薬が要件に従い、意図された目的地に送り届けられないというリスク のない、しっかりした物流システム サプライチェーン全体を通してリアルタイムで供給と需要メトリクスを把 握できること 現在の治験状況に応じて調節できる、動的な在庫・物流対策 このような一貫性のある眼識、柔軟性を持つことは、全サプライチェーンに対 する総合的なソリューションを提供でき、プロセスの始めから終わりまでの情 報とプロセスをシームレスに統合する技術を持つ、信頼できる単一のパートナー を必要とすることを意味します。製薬会社様のアウトソーシングパートナーが 十分に広い専門知識と適切な技術的フレームワークを持ち合わせていれば、治 験依頼者様は効率の良さ、コスト削減、治験結果の改善を達成できます。 APACにおける治験薬供給の予測 治験中に使用される治験薬の需要の 予測を立て維持することは、高い費 用効果をもって需要を満たすために 不可欠です。最初のステップは、治 験薬の需要の推進要因となるのはど の治験変数かを決めるためのデータ 収集計画を作成することです。これ により、製造・物流計画に通知する ためのベースライン予測が確立され ます。 理論的には、APAC諸国での予測プロ セスは他地域と同様のはずですが、 長い間治験を実施してきた市場に比 べて需要を立てる上での前提条件の 基盤となる過去のデータが少ない、 という違いが難しい点と言えます。 このため、最初の予測が現実とは全 くかけ離れてしまうリスクがあり、 会社では製造過多または製造不足に なり、被験者様の安全性と治験の完 全性に支障をきたす可能性がありま す。 サプライチェーン全体を 通して何が起きているかの リアルタイムの更新により、 サプライマネージャーは 予測からの変動についてアラ ートを受信します。 その最善の予防策は、アジア市場で の経験豊かで企業知識を使って初期 予測の精度を高めることのできるサ プライチェーンマネージャーを起用 することです。それでも、様々なシ ナリオに対しての予測や、緊急事態 への対応策を作成する必要があるか もしれません。 その後、治験中には、適切な自動応 答技術(IRT)を使うことで、実際の需 要状況に基づきベースライン予測を 継続的に更新することができます。 サプライチェーン全体を通してその 時点での状況がリアルタイムで更新 されるため、サプライマネージャー は予測からの乖離についてアラート を受信することができます。それに 従い、サプライマネージャーは製造 計画および/物流を最適化し、在庫切 れや緊急計画、また過剰在庫による 保管コストの増加と無駄を避けるこ とができます。 治験薬の物流 治験中に物流が最適化されている場合、最小限のコストで受領した、良好な状 態の治験薬が、十分な量だけ治験実施施設にあるようになります。この理想的 な状態を達成するためには、治験実施計画書がまだ作成中の段階から、注意深 い計画を立てることが必要です。物流戦略の作成は、治験薬需要に影響する治 験マイルストーン(最初の被験者様の登録など)の指定、および納入に影響を 与えるすべての法規制の詳細(対象製品のソーシングから輸送・税関所要時間 に及ぶ詳細)の理解を必要とします。その情報があれば、各治験実施施設様で 初期在庫レベルを起点に、入念なリスク分析を実施し、最適だと合意された内 容を達成するまでのシステムをデザインすることが可能になります。 治験が進行するにつれて、治験薬の供給は需要のシフトに従わねばなりませ ん。適切な発注、追跡、および情報共有プロセスがIRT内で確立すると、その プロセスに沿って各部門が需要と供給をモニタリングし、先を見越して潜在的 な問題を予防できます。 治験実施施設との間の治験 薬輸送コストは、治験の総 物流コストの70%と推定さ れます。 輸出入規制の順守 加盟国がすべて同じ輸出入規制に従うEUとは異なり、APAC各国が同じ関税要 件に従うとは限りません。国により、効率的な制度や明確に文書化された基準 を持つ国と、現段階ではまだ関税規制を策定中の国(ベトナムやフィリピンな ど)があり、このような状況のなかを進む上で物流プロセスに著しい遅れをき たす場合があります。いずれにせよ、ニュアンスの違いを理解し、供給計画に 組み込むことで、必要とされる場所そして時期に治験薬が届けられるようにし なければなりません。 アジア全域ではありませんが、一部の国は「製造管理および品質管理に関する 基準(GMP)」に基づく検査方法の調和を目指した「医薬品査察協定(PICS)」の 加盟国です。 ある国がPICSの加盟国であるかどうかは、税関検査官が治験薬の特定の取扱要 件をいかに忠実に守るかに影響します。たとえば、ある国では輸送品の温度管 理とは単に特定の建造物内に保管することを意味します。具体的な指示がない ため、税関検査官は温度マッピングや検証手順を実施すべきことを認識してい ない場合があります。 もうひとつの一般的な問題としては、税関検査官が他の業務との間でシフト勤務 することが多く、医薬品の要件についての知識がない職員が担当することが挙げ られます。これにより、税関処理が長引き、治験薬の温度逸脱によるダメー ジのリスクが増します。 輸送コストの最小化 治験実施施設との間の治験薬輸送コストは、治験の総物流コストの70%と推定 されます。明らかに、在庫の物理的な配置と治験実施施設への製品輸送回数と 方法は、重要な考慮事項となります。治験によって、すべての治験実施施設が 直接セントラルデポから供給される場合や、固定されたセントラルデポから各 国の現地パートナーが運営するデポにハブアンドスポーク方式で供給される場 合があります。 APAC内の特定の治験にとっての何が最善であるかは、治験デザイン、治験実 施施設の所在地域の広範度、さらには治験が行われる国によります。APAC地 域での大半の治験環境では、対象地域が広い場合にはハブアンドスポーク方式 が最善です。たとえば、シンガポールのセントラルハブからであれば製品を APAC地域の数カ国すべてに、6時間以内で経済的に空輸することができます。 異なる気候帯にまたがる温度安定性の維持 ほとんどのAPAC地域では、一年中が夏気温ですが、オーストラリア、日本、 韓国はその例外です。多くの新興国における治験では、治験薬を低温に保つこ とが困難な遠隔地に輸送されることが多いため、この状況を考慮して治験薬輸 送容器を選択する必要があります。治験薬が冬の気候状態から夏の気候状態に 輸送される場合、冬向けの容器は最終配送先に到達する前に機能を失い始めま す。同様に、製品が夏の気候状態から冬の気候状態に輸送される場合、夏向け の容器は寒気の衝撃を受けてしまいます。これらの気候条件の違いがあまりに も大きな問題となったため、コストが5倍増となったにもかかわらずパッシブ コンテナではなくアクティブコンテナを使った輸送を選んだメーカーもあるほ どです。 コストを管理し治験薬の完全性を確保するために、パートナーと輸送会社の間 で確固としたプロセスに合意する必要があります。国内デポ/治験薬保管倉庫 は、国境を超える際の難題を排除して輸送時間を短縮するうえ、過度の温度変 動を緩和できます。また、治験薬保管倉庫と治験実施施設間でのパッシブコン テナを用いた輸送も可能となります。 回収と廃棄に関する法規制への適合 コストを管理し治験薬の完 全性を確保するために、 パートナーと輸送会社の間で 確固としたプロセスに合意 する必要があります。 APAC国間で輸入規制の調和がとれていないのと同様に、未使用治験薬の廃棄 または回収に関する規制も国によって異なります。国によっては未使用または 有効期限切れの治験薬を、その出荷元の国に回収することが義務付けられて いるため輸送コストが増えることになる国と、現在保管されている場所での 廃棄処分が義務付けられている国があります。このような状況下では、治験薬 の出荷量と、被験者様が使用した量および未使用分とを照合させることは困難 です。デポには、治験薬の数え方、取り扱い方に関する特定の標準業務手順書 (SOP)を提供する必要があります。 技術の統合 治験薬の治験実施施設への流通、 およびそれに関連したリスクの軽減 に関するあらゆる複雑な活動を調整 させるには、すべての関係部門が サプライチェーン全体をきちんと 把握できるような閉ループ技術ソリ ューションが必要となります。これ は、予測、および製造、梱包とラベ ル貼付、治験薬発注、在庫管理、治 験薬物流といったすべての下流プロ セスを、治験のライフサイクル全体を 通して統合された情報によりサポー トする単一システムです(図1を 参照)。治験の進行に従い、データ がプロセスの各段階から収集され、 サプライチェーンマネージャーがす べての上流業務の調整を検討するた めに 使用されます。このように情報 と調整の間に 実質的な循環サイクル があることにより、製薬会社様が 治験薬の実際の需要を満たすための アプローチを、すべてリアルタイム で最適化することが可能になります。 図 1: サプライチェーン管理用の閉ループ技術 閉ループソリューションの採用はおそらく、供給効率の改善のために会社がとることのできる最も重要なステップとい えましょう。このシステムを適切に構成することで、遅延や費用の増加につながる情報のギャップが排除されます。 統合された応答システムとのデータ統合 初回予測 · 予想される患者需要 · 来院スケジュール · 治験実施計画書の変数 · シナリオ比較 正味予測のための入力データ · 治験実施施設の在庫 · 患者への調剤イベント · 有効期限 資材要件計画 (MRP) は、以下に 基づき計画された生産注文書を 作成します: · 予測 · 安全在庫 · 未決の生産注文 · 現在の在庫 · 項目部品表 統合された応答システムとのデータ統合 在庫のリリースファイル 治験薬注文書 患者イベントデータ 製造計画 詳細なコンポーネント 計画 物流 デポおよび治 験実施施設 患者への調剤 MRPが検討するアルマックおよびデポの在庫 正味予測で検討される、治験実施施設にある 在庫または治験実施施設に移動中の在庫 技術の統合 製薬会社様は、時間の短縮、コストの削減、専門技術と知識の導入、治験実施 国の現場施設とインフラへのアクセスのために、自社のサプライチェーン管理 をアウトソースすることを望んでいます。 サプライチェーン全体の管理を、エンドツーエンドの機能を備えたベンダー 1社にアウトソースする傾向が見られるものの、製薬会社様はそれほどの責任 を一パートナーに委託する準備ができていない可能性があります。パイロット スタディでこの関係をテストする場合は、リスクの低いプログラム(医師主導 型治験など)を全面的にアウトソースするか、サプライチェーン管理責任の一 部を選択してアウトソースすることができます。 そのどちらとも、総合的能力を持ちながらも各治験に合った柔軟な取り決めに 対応できるベンダーと協力する必要があることを意味しています。 各治験の目的は異なるため、製薬会社様がサプライチェーンパートナーに委託 することで節約できる時間とコストに関して一般化することはあまりできませ ん。たとえば、ある治験では、コストを問わず被験者様への治験薬供給が絶対 に途切れないことを保証することが目的であったり、 別の治験では治験薬製 造量が10%以上需要を超えないようにすることが目的となる場合があります。 しかしながら、アウトソーシングによって治験の目的を達成できることを示す 例は多数あります。 最近実施された、治験実施施設数が170施設で被験者数750人を対象とした多 国籍・二重盲検第三相治験の例では、サプライチェーン管理のアウトソーシン グにより、治験依頼者様は治験薬と対照薬の調達コストを150万米ドル節約で きました。治験薬とプラセボの供給が不足していたこと、プラセボ調達のリー ドタイムが16週間であったこと、および治験薬品が高額で保存可能期間が短 かったこと、といった多数の障害にもかかわらず、継続的な被験者募集を維持 でき、治験におけるすべてのタイムラインを満たすことができました。 パートナーとの契約を締結する際、製薬会社様は詳細なサービスレベル契約を 策定し、治験目的にかなった主要業績評価指標(KPI)を選択する必要がありま す。また、推奨事項や新しいベストプラクティスを受け入れるというオープン マインドを持ってパートナー関係を結ぶことも必要です。適切なパートナー は、複数の治験依頼者様との治験から得られた経験の集体系を各治験に持ち込 み、何が最善かについて新鮮な視点を提供してくれます。 パートナーの選択 APAC地域での治験における最良のサプライチェーン管理パートナーを選択す るには、治験依頼者様は潜在的パートナーの持つ以下の利点を考慮する必要が あります。 • • • 効率だけではなく、品質を保証するためにデザインされたシステムと手順 を持つこと。その国におけるスタッフ、定期的な手順監査、およびスタッ フトレーニングへの投資を基に作成されたSOPが存在することをチェック します。 世界規模での存在感を保つ。当然のことながら、サプライチェーン管理会 社は、すべての配送先に供給するための広範なネットワークと現地に関す る深い知識を持ち合わせていることが必要です。 安定性を示し、この分野における成熟性を達成している。APACのように 広大で多様な地域で成功を収めるためには、短期間で拾い集めることので きない相当な企業知識が必要です。 • • • 技術を使用してプロセスをサポートする。高度で実証済みのIRTこそが、 サプライチェーン全体にわたり効率性を実現しリスクを軽減するための要 です 責任のあるサービスと、先を読んだコミュニケーションを提供する。ベン ダーは、役割と責任をどのように定義するか、問題にどのように対処する か、およびサービス・サポートに関して何が期待されているのかを明確に する必要があります。 どの機能またはステップをアウトソースするかに関して選択できる柔軟性 があります。理想的なパートナーは、サプライチェーンの個別の諸要素を 治験ごとに引き受ける用意があるうえ、「全てを引き受ける」こともでき るベンダーです。 製薬会社様が治験薬の供給管理においてより一層の戦略的、包括的かつエンド ツーエンドのアプローチをとる場合は、以下の利点が得られます。 • ベンダー監督の減少 • サプライチェーン全体を総合的に視野に入れられること • 治験薬の無駄の減少、最もコスト効率のよい輸送ソリューション、および 治験タイムラインの改善につながる効率 • 治験薬供給目的を満たすための柔軟性と回復力 APAC地域で治験を実施する際、製薬会社様は複雑性が増すものの、誤りの余 地がより低い状況に直面します。サプライチェーン全体にわたる専門知識、シ ステム、手順を備えたパートナーに委託することで、製薬会社様は治験薬の供 給管理に実証済みのアプローチを適用できます。その効果的な実施は、新薬の 市場進出時間の短縮につながります。 Kevin Cheongは、アルマックのアジアにおける、ク リニカル・オペレーションディレクターです。同氏は シンガポールと日本における弊社のオペレーション・ センターにおけるオペレーション・スタッフとサービ スの提供を監督しています。 Eメール: [email protected] Michelle Foustはアルマック・クリニカル・サービス のサプライチェーン・ストラテジーディレクターで す。同氏は、外部クライアントと緊密に連携して新規 ビジネス獲得に取り組んでいます。同氏は新しいサー ビスのサポートにおけるプロセスと手順の開発に関し てスタッフにガイドラインを提供しています。 Eメール: [email protected]
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