元素戦略/希少金属代替材料開発 第 9 回合同シンポジウム PR 革新的な機能をもった物質や材料を発見 ! れんけい 資源の少ない日本にとって資源を有効に使う新技術の開発は不可欠だ。日本では,内閣府と関係省庁が連携して,その新技術 しんこう の開発が行われている。2015 年 2 月 24 日に,JST(独立行政法人科学技術振興機構)と NEDO(独立行政法人新エネルギー・ かいさい 産業技術総合開発機構)の合同で「元素戦略/希少金属代替材料開発 第 9 回合同シンポジウム」が開催された。現在,研究が き そ はしわた 進み,基礎研究を行う JST のプロジェクトから産業応用をめざす NEDO のプロジェクトへの橋渡しが進んでいる。シンポジ ウムで発表された,講演内容の一部をお届けしよう。 鉄鋼材料を新しくデザインする 古原 忠 実際に産業に使われている鉄鋼材料には, 「 変形しにくさ( 高 こうじんせい 東北大学金属材料研究所教授。 専門は, 金属物性。CREST「元 素戦略を基軸とする物質・材 料の革新的機能の創出」軽元 素戦略にもとづく鉄鋼材料の マルチスケール設計原理の創 出の研究代表者。 」 強度 ) 」 ,「 成形しやすさ( 高延性 ) 」 ,「 こわれにくさ( 高靭性 ) てん か などの特性を上げるために,さまざまな元素が添加されていま す。添加される元素の多くは,モリブデンやニッケルといった レアメタルです。鉄鋼業のレアメタルの使用量は多く,日本で し の総消費量の大部分を占 めています。そのため,鉄鋼業でレア さくげん 府省連携で進めている大規模プロジェクト JST・CRDSワークショップ ● ﹁夢の材料の実現へ﹂︵2004年︶ 2006 2007 JST・CRDS戦略プロポーザル ● ﹁元素戦略﹂︵2007年︶ 2005 JST・CRDSワークショップ ● ﹁元素戦略﹂検討会︵2006年︶ 2004 2008 2009 内閣府,文部科学省,経済産業省,JST,NEDO は府省連携を推し進め,下記のよう なプロジェクトを行っている。 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018 JST 戦略的創造研究推進事業(戦略的な基礎研究) メタルの使用量を削減する意味は大きく,少しの削減でほかの 産業一つ分くらい,消費量をおさえることにつながります。 元素戦略を考えた鉄鋼材料の開発は,鉄鋼に添加する合金元 素の存在状態や機能を理解して,レアメタルなどの元素の有効 利用を考えることが重要です。私たちはとくに,ホウ素,炭素, CREST:元素戦略を基軸とする物質・材料の革新的機能の創出 窒素などの「 軽元素 」に注目しました。軽元素は,資源として JST 産学共創基礎基盤プログラム(産学連携) 豊富で,ほかの重元素などと相互作用することで,鉄鋼の力学 たとえば,高強度の鉄鋼の高靭化には,レアメタルのモリブ 特性を大きく変化させます。鉄鋼に含まれる複数の元素がたが デンやニッケルなどが必要です。私たちは物質・材料研究機構 いにどのように影 響 しあっているのかを,最先端の解析技術や, と共同で,高強度の鉄鋼に微量のホウ素( 軽元素 )を添加する 計算材料科学を駆使して調べ,構造と力学特性との関係を解明 ことで,靭性をいちじるしく高めることに成功しました。さら したいと思っています。それによって,可能なかぎりレアメタ に現在,開発した高強度高靭性鋼の実証に向けた研究を行って ルを使わずに,鉄鋼材料の高強度化,高延性化,高靭性化設計 います。 さきがけ :新物質科学と元素戦略 産業界に共通する技術的課題の解決に資する基盤研究 JST 戦略的国際共同研究 日本・EU 希少元素代替材料開発 文科省 元素戦略プロジェクト(研究拠点形成型) 資源制約を克服し,産業競争力の強化や国土強 化などを同時に実現するため,レア アース,レアメタル等の希少元素を用いない,まったく新しい代替材料を創製する 文科省 元素戦略プロジェクト(産学官連携型) 希少元素・有害物質の代替,戦略的利用のための基盤技術の確立 経産省 未来開拓研究プロジェクト 次世代自動車向け高効率モーター用磁性材料技術開発(レアアース に依存しない革新的な高性能磁石の開発を行う)など NEDO 希少金属代替材料開発プロジェクト 希少金属の代替材料および希少金属の使用量低減に役立つ実用化技術開発を実施 ふく えいきょう く かいせき し のための原理の確立をめざしています。 現代の錬金術— 元素を組み合わせて,新材料をつくる れんきんじゅつ いや とうと 中世の錬金術は,“ 卑しい ” 金属から “ 貴い ” 金属,とくに金を 北川 宏 つくろうとしたわけですが,もちろん成功はしていません。で 京都大学大学院理学研究科教 授。専門は,固体物性化学。 CREST「元素戦略を基軸と する物質・材料の革新的機能 の創出」元素間融合を基軸と する新機能性物質・材料の開 発の研究代表者。 は,すばらしいサイエンスとテクノロジーをもった現代のアプ ローチで,錬金術は可能なのでしょうか。 しょくばい 注目! シンポジウム内パネルディスカッションのようす 基礎研究から実用化へ向けた研究へ JST の CREST で行われている基礎研究から,革新的な 機能をもった物質や材料が多く見いだされはじめている。 すでにいくつかの研究が,社会で実際に使える技術へと つ な げ る 研 究 を 行 う プ ロ ジ ェ ク ト(NEDO,JST の ACCEL や A-STEP など)への採択が決まっている。下 記がその一部だ。 ●導電性ダイヤモンド電極の機能開発 (慶応義塾大学理工学部 栄長泰明) ●元素間融合技術による合金触媒 (京都大学大学院理学研究科 北川 宏) ●ヒドロシリル化用鉄触媒 (九州大学先導物質化学研究所 永島英夫) JST が行うさまざまなプログラム シンポジウムでは,合同戦略会議委員,経済産業省や文部科学省の関係者 8 名による パネルディスカッションが行われ,日本の材料開発について熱い意見がかわされた。 プログラムの中にさまざまなテーマの複数のプロジェクトが存在する。 CREST:革新的技術の元を創出するためのチーム型研究プログラム ACCEL:世界をリードする顕著な研究成果を加速的に発展させて,企業や ベンチャー,他事業などに研究開発の流れをつなげるプログラム A-STEP:大学等で生まれたすぐれた研究成果を実用化につなげるため の技術移転支援プログラム 平成 25 年度の 触 媒の国内生産量は,10 万トンです。そのう はい じょう か ちの自動車の排ガス 浄 化用の触媒は,たった 12% です。とこ ろが出荷額でみると,60%が自動車の排ガス浄化用になります。 なぜかというと,高価な白金,パラジウム,ロジウムといった 元素が使われているからです。そのなかでも,ロジウムがいち ばん値段が高く,それほどとれません。とくにリーマンショッ ちょう か りゅう し ク(2008 年 )までは需要が供給を超 過していたので,ロジウム ムとパラジウムをまぜた 粒 子( 擬ロジウム粒子 )は,ロジウム は 1 グラムあたり 3 万 5000 円ほどの値段をつけていました。 粒子よりも,高い触媒活性があることがわかりました。とくに リーマンショック後,需要が落ち着きましたがそれでも 1 グラ ルテニウムとパラジウムを 1 対 1 にまぜた合金粒子が最も高い ム 5000 円程度はします。 活性をもつことがわかりました。また NOx( 窒素酸化物。排ガ 周期表をみると,ロジウムの両側には,ルテニウムとパラジ スなどに含まれる有害物質 )を還元する( 無害化する )触媒活性 ウムがあります。この二つはロジウムよりも価格が安い。この についても調べました。すると,ルテニウムにパラジウムをま 二つの原子は,水と油のような関係で普通はまざりません。こ ぜると性能が高くなることがわかりました。 こでは説明ははぶきますが,1 年半くらいかけて,二つをまぜ 現在,擬ロジウムについては,多くの企業と共同研究を実 施 ることに成功しました。まさに錬金術のように, 「 擬ロジウム 」 しています。同時に JST と NEDO の省庁をこえた連携により, の合成に成功したわけです。それが昨年のことです。 NEDO の先導研究に選 択 されました。NEDO の支 援 のもと, ぎ ちっ そ かんげん せん たく じっ し し えん さっそく排ガス浄化用触媒を想定して,一酸化炭素を無害な 大量に安価に安定に質のよいものをつくるという技術の確立も 二酸化炭素へかえる触媒活性を確かめました。するとルテニウ 企業と行っています。 141
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