技術者の心構え(国土建設週間表彰式の雑感)

技術者の心構え(国土建設週間表彰式の雑感)
国 土 建 設 週 間 表 彰 式 の雑 感
(株 )アリサワ技 術 代 表 取 締 役 有 澤 良 一 (技 術 士 :建 設 部 門 )
平 成 7年 7月 某 日 、N国 際 ホテルの表 彰 式 会 場 に時 間 ギリギリに到 着 した。ホテルのロ
ビーに入 るやいなや、AコンサルタントのR.A君 がソファに腰 をかけていたのが目 に付 いた。
「R.A君 、何 でここにいるの?」 「Aさんこそどうしてここにいるの?」 と挨 拶 を交 わした後 、
彼 の横 にA2版 ほどの大 きさで紫 色 の風 呂 敷 に包 んだ額 縁 入 りの賞 状 が目 に留 まった。す
ると、彼 は自 慢 そうに賞 状 の真 ん中 にある菊 の紋 章 を指 して「この紋 章 があるのとないので
は大 違 い」と言 った。(局 長 表 彰 は真 ん中 に紋 章 があり、事 務 所 長 表 彰 は無 かったと思
う?)
ここで彼 の略 歴 を紹 介 しよう。大 阪 府 のO大 経 済 学 部 を卒 業 し、平 成 元 年 頃 から河
川 ・砂 防 関 係 のコンサル業 務 を手 掛 け平 成 7年 に河 川 ・砂 防 部 門 で技 術 士 を取 得 した
やり手 である。
また、Aコンサルは調 査 、測 量 業 務 が主 体 で設 計 業 務 を行 う要 員 は5、6人 しかいない
地 方 の中 規 模 企 業 である。彼 は、J川 床 固 工 群 (3.0Km)の基 本 設 計 業 務 において優 秀
技 術 者 としてH地 建 の局 長 表 彰 を受 けたのである。
文 系 から技 術 系 に転 換 し、短 期 間 の間 に技 術 士 試 験 に合 格 した彼 の努 力 と仕 事 に
対 する熱 意 は大 変 なものであったようだ。
大 学 の教 授 に積 極 的 に相 談 して親 密 になったり、財 団 法 人 の技 術 者 と熱 心 に議 論 を
交 わしながら、業 務 を通 じて人 脈 を創 ると共 に猛 烈 に勉 強 をしたようだ。
「最 近 のKコンサルさんはあまり評 判 が良 くないね!技 術 的 な努 力 が少 し足 りないのでは
ないの?」 「そんなことはないよ!現 に沢 山 仕 事 をもらっているし、色 々と技 術 的 な相 談 も
受 けているし・・・・」 と言 うような会 話 を交 わしながら荘 厳 な表 彰 式 会 場 に入 った。
工 事 表 彰 から始 まって業 務 委 託 表 彰 を受 けている間 、表 彰 式 前 の短 時 間 に交 わした
会 話 のやりとりに対 して、色 々なことが気 になり複 雑 な思 いでボンヤリしていた。
① 自 分 が所 属 している会 社 には、彼 のように真 剣 に業 務 に取 り組 み、技 術 の向 上 の
ために、対 外 的 にも積 極 的 に見 聞 を広 めようと努 力 している人 が何 人 いるだろうか?
② 小 さなコンサルで、しかも短 期 間 になぜ彼 のような優 秀 な技 術 者 が誕 生 したのだろう
か? 本 人 の資 質 だけなのか?あるいは会 社 全 体 の社 風 なのか?等 々・・・・
③ 自 分 が所 属 している会 社 は、受 注 業 務 の内 容 や仕 事 をこなす能 力 は、少 なくとも
Aコンサルより優 れており、技 術 力 アップを図 るには当 社 の方 が条 件 に、数 段 、恵 まれ
ているのではないか? 等 々・・・・
「なのにどうして?」という疑 問 にぶつかり頭 が痛 くなって考 えるのをやめた。
技 術 士 法 第 1条 には、技 術 士 法 の目 的 が「科 学 技 術 の向 上 と国 民 経 済 の発 展 に資
することを目 的 とする」とうたわれており、さらに、第 2条 には「技 術 士 とは、科 学 技 術 に関 す
る高 等 の専 門 的 応 用 能 力 を必 要 とする事 項 についての計 画 、研 究 、設 計 、分 析 、試 験 、
評 価 又 はこれらに関 する指 導 の業 務 を行 う者 をいう」 とある。
コンサルタント業 務 は、「技 術 の向 上 」があって初 めて技 術 者 として成 長 出 来 るものと信
じている。しかし、技 術 者 一 人 一 人 の物 事 の捉 え方 やスキルアップに対 する認 識 の相 違 に
よって、短 期 間 の間 に技 術 者 個 々に大 きなスキルの差 が生 じるのではないかと思 われる。
近 年 、「技 術 力 の向 上 、安 全 、安 心 、信 頼 」等 「技 術 、安 全 、安 心 、信 頼 」と言 う技
術 者 倫 理 の根 幹 をなす言 葉 を安 易 に使 いすぎて、言 葉 の上 滑 りになっているのではない
か? と思 われてならない。
このように、技 術 士 法 や技 術 士 倫 理 要 綱 には、技 術 者 としての基 本 理 念 が誠 に立 派
な文 々でうたわれている。我 々技 術 者 はこの基 本 理 念 を忘 れずに、日 々地 道 な努 力 を積
み重 ねていくのが、技 術 士 法 第 1条 にうたっている「科 学 技 術 の向 上 と国 民 経 済 の発 展 に
資 すること」に繋 がっていくのかなあと思 い新 たにした。
・・・・ 以 上 ・・・・
平 成 7年 8月 有 澤 良 一
記 (平 成 21年 一 部 修 正 )