Sysmex Journal Web Vol.16 No.2 2015 全自動尿統合分析装置 UX-2000 による 尿中アルブミン試験紙の性能評価 田 中 雅 美,宿 谷 賢 一,久 末 崇 司,森 田 賢 史,久 末 直 子, 影 山 祐 子,大 久 保 滋 夫,下 澤 達 雄,矢 富 裕 東京大学医学部附属病院 検査部:東京都文京区本郷 7-3-1(〒 113-8655) 要 旨 近年,尿定性検査にアルブミン検査が追加された試験紙が開発されている.今回,全自動尿統合分析装置 UX-2000 ( 以下,UX-2000;シスメックス社 ) を使用した,尿中アルブミン試験紙の性能評価を行った.同時再現性,日差再現 性はいずれも,半定量値では 1 ランク以内,反射率の CV は 2.0%以内と良好な結果であった.定量法との相関では, アルブミンは完全一致率が 73.4%,± 1 ランク一致率が 98.3%であった.クレアチニンの相関では,完全一致率が 73.7%,± 1 ランク一致率が 99.7%であった.A/C 比の相関では,完全一致率が 78.1%,± 1 ランク一致率が 98.3% であった.アルブミン,クレアチニン,A/C 比ともに定量法との相関は良好で,スクリーニング検査に有用と考える. キーワード 尿中アルブミン,全自動尿統合分析装置 UX-2000 ■は じ め に ■装置の概要 尿定性検査は非侵襲的な検査かつ安価であること UX-2000 の特徴は,尿定性分析と尿中有形成分分 から,腎・尿路系疾患のスクリーニング検査として 析 が 統 合 さ れ, 一 体 型 と な っ て い る こ と で あ る 広く用いられている.その中でも,尿中微量アルブ ( 図1).検体消費量は両分析で 2.2mL,定性検査の ミン ( 以下,アルブミン ) 検査は,糖尿病性腎症や みの最大処理速度は 200 検体/時である.尿定性分 高血圧などの心血管疾患の危険因子として有用性が 析部で使用する試験紙の測定原理は 2 波長反射測光 ある に お い て も, 法であり,比重の測定原理は反射型屈折率測定法を CKD 重症度分類の診断指標としてアルブミン定量, 採用している.装置には 200 枚の試験紙を搭載でき アルブミン/クレアチニン比 ( 以下,A/C 比 ) が新た るフィーダが 2 つあり,異なる 2 種類の試験紙を同 に追加され,その重要性はますます高まっている. 時にセットすることにより,検体やラックごとに試 しかし,アルブミン定量は糖尿病性腎症では保険適 験紙の使い分けが可能である.尿中有形成分分析の 応であるが,高血圧などは保険適応が認められてい 測定原理は赤色半導体レーザーを用いたフローサイ ない.このため,保険適応内でかつ安価な定性検査 トメトリー法であり,最大処理速度は 100 検体/時 で測定できる意義は高いと考えられる. である. .「CKD 診 療 ガ イ ド 2012」 1,2) 3) 今 回, 全 自 動 尿 統 合 分 析 装 置 UX-2000 ( 以 下, ア ル ブ ミ ン,A/C 比, ク レ ア チ ニ ン の 報 告 値 を 表1に示す. UX-2000:シスメックス社 ) を用いて,アルブミン が新たに追加された試験紙メディテープⅡ 10K ( アー クレイファクトリー社 ) の性能評価を行ったので報 告する. Web 公開日:2015 年 11 月 25 日 1 Sysmex Journal Web Vol.16 No.2 2015 図1.UX-2000 外観 表1.アルブミン,A/C 比,クレアチニンの報告値 アルブミン (mg/L) A/C 比 (mg/gCr) クレアチニン (mg/dL) 10 <30 10 30 100 50 80 200 100 150 >300 200 OVER OVER 300 OVER 表2.再現性 同時再現性 (n=10) 測定回数 MEAN SD CV (%) MAX MIN メディテープチェックⅠ 半定量値 反射率 73.27 ND* 0.64 0.87 30 74.30 10 72.00 メディテープチェックⅡ 半定量値 反射率 45.59 ND* 0.37 0.80 OVER 46.20 OVER 45.10 *ND:Not determined 日差再現性 (20 日間,1 日の測定回数 n=2) 測定回数 MEAN SD CV (%) MAX MIN メディテープチェックⅠ 半定量値 反射率 74.70 ND* 0.67 0.89 10 76.50 10 72.80 *ND:Not determined 2 メディテープチェックⅡ 半定量値 反射率 43.84 ND* 0.86 1.96 OVER 45.60 OVER 42.20 Sysmex Journal Web Vol.16 No.2 2015 ■対象および方法 2.相関 1.対象検体 A/C 比の 3 項目を UX-2000, ノーバス, および日立 患者尿 ( n=297 ) を用いてアルブミン,クレアチニン, 2014 年 5 月 7 日までに,東京大学医学部附属病院 7180 で測定した.定量法のアルブミン,クレアチニン, 検査部に提出された尿検体の検査済み残検体を使用 A/C 比は表1の半定量値に換算し,定性分析装置結 した.なお,本研究は東京大学大学院医学系研究科・ 果との完全一致率,± 1 ランク一致率を算出した. 医学部倫理委員会の承認を得て,シスメックス社か らの受託研究として実施した. ■結 果 2.検討装置・試薬および測定項目 1.再現性 1)検討装置・試薬 再現性の結果を表2に示す.メディテープチェッ 検討装置:UX-2000 クⅠの半定量値は 1 ランク ( 10 ~ 30mg/dL ),反射 試 薬:専用試験紙のメディテープⅡ 10K 率は 72.0 ~ 74.3 であり,CV は 0.87%であった.メ 〔相関〕 ディテープチェックⅡの半定量値は同一ランク 対象装置:尿化学分析装置クリニテック ノーバ ( OVER ),反射率は 45.1 ~ 46.2%で CV は 0.80%で ス ( 以下,ノーバス;シーメンスヘル あった.日差再現性では,メディテープチェックⅠ スケア・ダイアグノスティクス社 ) の半定量値は同一ランク ( 10mg/dL ),反射率は 72.8 試 験 紙:専用試験紙のクリニテックノーバス ~ 76.5 であり,CV は 0.89%であった.メディテー 試薬カセット PRO12 ( シーメンスヘ プチェックⅡの半定量値は同一ランク ( OVER ),反 ルスケア・ダイアグノスティクス社 ) 射率は 42.2 ~ 45.6 であり,CV は 1.96%であった. 2)測定項目 アルブミン ( ALB ),クレアチニン ( CRE ),A/C 比 2.相関 1)アルブミン 3)尿定量検査 装置は 7180 形日立自動分析装置 ( 以下,日立 UX-2000 とノーバスとの相関 ( 表3) では,完全 7180;日立ハイテクノロジーズ社 ) を用いて,ア 一致率が 76.4%,± 1 ランク一致率が 98.0%と良 ルブミンの試薬は「オートワコー マイクロアル 好 な 相 関 で あ っ た.UX-2000 と 定 量 法 と の 相 関 ブミン」,クレアチニンの試薬は「L タイプワコー ( 表4) では,完全一致率が 73.4%,± 1 ランク一 CRE・M」( 和光純薬工業社 ) を使用した. 致率が 98.3%であり,定量法と比較すると低値傾 向が認められた. ■検 討 方 法 2)クレアチニン UX-2000 とノーバスとの相関 ( 表5) では,完全 一致率が 68.0%,± 1 ランク一致率が 99.3%であっ 1.再現性 同 時 再 現 性 は,UX-2000 専 用 コ ン ト ロ ー ル ( メ た.UX-2000 と定量法との相関 ( 表6) では,完全 ディテープチェックⅠ,Ⅱ;シスメックス社 ) を 10 一致率が 73.7%,± 1 ランク一致率が 99.7%であっ 回連続測定し,半定量値,反射率を用いて再現性を た.定量法と比較すると,50mg/dL 以下では高値 評価した.日差再現性は,同時再現性と同様の試料 傾向,100mg/dL 以下では低値傾向が認められた. を用いて 20 日間測定し,半定量値,反射率を用い 3)A/C 比 UX-2000 とノーバスとの相関 ( 表7) では,完全一 て再現性を評価した.1 回の測定では二重測定,1 日 2 回の測定を行って評価した. 致率が 82.5%,±1 ランク一致率が 95.3%であった. UX-2000 と定量法との相関 ( 表8) では,完全一致 率が 78.1%,± 1 ランク一致率が 98.3%であった. 3 Sysmex Journal Web Vol.16 No.2 2015 表3.UX-2000 とノーバスとの相関 ( アルブミン ) アルブミン (mg/L) UX-2000 10 30 80 150 OVER 計 10 139 16 4 30 17 20 4 1 ノーバス 80 1 10 22 16 159 42 49 >=150 1 11 35 47 計 157 46 31 28 35 297 完全一致率=76.4% 1 ランク一致率=98.0% 表4.UX-2000 と定量法との相関 ( アルブミン ) アルブミン (mg/L) UX-2000 10 30 80 150 OVER 計 10 129 9 2 30 26 20 5 1 定量法 80 2 17 9 2 140 52 30 >=150 15 25 35 75 計 157 46 31 28 35 297 完全一致率=73.4% 1 ランク一致率=98.3% 表5.UX-2000 とノーバスとの相関 ( クレアチニン ) クレアチニン (mg/dL) UX-2000 10 50 100 200 300 OVER 計 10 9 34 43 50 ノーバス 100 200 87 19 1 16 72 10 1 6 29 3 107 99 38 完全一致率=68.0% 1 ランク一致率=99.3% 4 >=300 5 4 1 10 計 9 137 97 45 8 1 297 Sysmex Journal Web Vol.16 No.2 2015 表6.UX-2000 と定量法との相関 ( クレアチニン ) クレアチニン (mg/dL) UX-2000 10 9 11 10 50 100 200 300 OVER 計 20 定量法 100 200 50 89 3 92 37 82 8 1 12 32 1 128 45 >=300 5 6 1 12 計 9 137 97 45 8 1 297 完全一致率=73.7% 1 ランク一致率=99.7% 表7.UX-2000 とノーバスとの相関 (A/C 比 ) A/C 比 (mg/gCr) UX-2000 <30 100 200 >300 OVER 計 A Norm:C Dil 5 1 Normal 140 21 6 161 ノーバス 150 14 30 32 15 1 92 >=300 7 31 38 計 159 52 32 22 32 297 完全一致率=82.5% 1 ランク一致率=95.3% 表8.UX-2000 と定量法との相関 (A/C 比 ) A/C 比 (mg/gCr) UX-2000 <30 100 200 >300 OVER 計 <30 158 37 1 1 100 1 15 14 3 197 33 完全一致率=78.1% 1 ランク一致率=98.3% 5 定量法 200 14 5 19 >300 3 13 32 48 計 159 52 32 22 32 297 Sysmex Journal Web Vol.16 No.2 2015 ■考 察 れらの診断指標に有用とされている.さらに,日本 の CKD 診 療 ガ イ ド や 国 際 的 な KDIGO の Clinical 尿定性試験紙のアルブミンが新たに追加されたメ Practice Guideline for the evaluation and management of ディテープⅡ 10K の検討を行った.同時再現性,日 Chronic Kidney Disease,4) においても,アルブミン検 差再現性の結果は,半定量値では低濃度で 1 ランク 査は,病態把握に必須の測定項目となっている. 以内,高濃度では同一ランクと良好な結果であった. 本検討で用いた UX-2000 は,アルブミン測定およ 反射率での同時再現性の CV は 0.87%以内,日差再 び A/C 比による尿中へのアルブミン排出総量の推定 現性の CV は 2.0%以内と共に良好であった. が可能なことに加え,尿中有形成分測定も同時に実 アルブミンの相関では,UX-2000 とノーバスの完 施できることから,尿定性試験紙法と尿中有形成分 全一致率が 76.4%,± 1 ランク一致率が 98.0%と概 測定結果を相互に相補的かつ包括的に評価すること ね良好であった.UX-2000 と定量法の完全一致率は ができる.このような中で,今回,UX-2000 におい 73.4%,± 1 ランク一致率が 98.3%と良好であった てアルブミン測定が可能となった意義は大きいと考 が,定量法に比べ UX-2000 が 2 ランク高値の偽陽性 えられる. の検体は 3 件,尿定量に比べ UX-2000 が 2 ランク低 ■ま と め 値の偽陰性の検体は 2 件認められた.アルブミン試 験紙は,pH8 以上のアルカリ尿,大量のヘモグロビ UX-2000 を用いたアルブミン試験紙の性能評価を ン尿・ミオグロビン尿,肉眼的血尿などで偽陽性を 呈し,偽陰性化は pH3 以下の場合に起こる.また, 行った.再現性,定量法との相関も良好で,半定量 造影剤や高分子物質などの混入は,検査結果に影響 値ではあるがアルブミン,A/C 比の報告が可能とな を与えることがある.本検討において,定量法と 2 り,早期腎症の診断に貢献できると考える. ランク乖離した偽陽性および偽陰性検体 5 件のうち, 上記の要因で乖離した検体は 1 件であり,他の 4 件 参 考 文 献 の乖離した原因は不明で今後の検討課題としたい. クレアチニンの相関では,UX-2000 とノーバスの 1) Kannel WB et al. The prognostic significance of proteinuria : 完全一致率が 68.0%,± 1 ランク一致率が 99.3%と The Framingham study, AMJ. 1984 ; 108 (5) : 1347-1352 概ね良好であった.UX-2000 と定量法の完全一致率 2) Damsgaard EM et al. Microalbuminuria as predictor of が 73.7%,± 1 ランク一致率が 99.7%と良好で,2 increased mortality in elderly people, BMJ. 1990 ; 300 ランク乖離した検体は 1 件と良好であった.アルブ (6720) : 297-300 ミン,クレアチニンと定量法との相関は良好であっ 3) 社団法人 日本腎臓学会 . CKD の定義 . 診断 , 重症度 たが数件の乖離があり,さらなる検討と試験紙の改 分類 , CKD 診療ガイド 2012. 2012 : 1-4 良が望まれる. 4) Garabed E et al. KDIGO 2012 Clinical Practice Guideline アルブミン尿は,糖尿病性腎症だけでなく心血管 for the evaluation and management of Chronic Kidney イベントの危険因子として位置づけられており,こ Disease, Kidney International supplements. 2012. 6 Sysmex Journal Web Vol.16 No.2 2015 Evaluation of the Urine Albumin Test Strip Using the Fully Automated Integrated Urine Analyzer UX-2000 Masami TANAKA, Kenichi SHUKUYA, Takashi HISASUE, Yoshifumi MORITA, Naoko HISASUE, Yuko KAGEYAMA, Shigeo OKUBO, Tatsuo SHIMOSAWA, Yutaka YATOMI Department of Clinical Laboratory, The University of Tokyo Hospital, 7-3-1, Hongo, Bunkyo-ku, Tokyo 113-8655 SUMMARY Lately, urine test strips including theitem ‘microalbumin’have been developed. We evaluated the performance of urine microalbumin test strip Meditape10K using the integrated urinalysis analyzer UX-2000. Repeatability and day to day precision results ware good and coefficient of variations were within ±1rank for semi-quantitative values and within 2.0% for reflection rate, respectively. The correlation with qualitative method was evaluated by corresponding rates. About albumin, perfect corresponding rate was 73.4% and within ±1rank corresponding rate was 98.3%. About Creatinine, they were 73.7% and 99.7%. And about A/C ratio, they were 78.1% and 98.3%. There was a good correlation between test strip method and quantitative method and this test strip are considered to be useful for urine screening test. Key Words Urine Albumin, Fully Automated Integrated Urine Analyzer UX-2000 7
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