講義資料 - システム環境情報学研究室

2030年エレクトロニクスの旅
-旅1 量子が守る情報-
2015年 9月 29日
北海道大学工学部 情報エレクトロニクス学科
電気電子工学コース
情報科学研究科情報エレクトロニクス専攻
光エレクトロニクス研究室
富田 章久
電気電子工学コース → 情報エレクトロニクス専攻
より豊かな未来のために~光と電子から始まる世界
コンピューター(LSI,メモリー)
光通信・量子通信,光メモリ
ディスプレイ・カメラ,モバイル
太陽光エレクトロニクス
太陽電池、人工光合成
1µm
ナノ材料:
未来の科学技術を支える
新しい材料群
2 nm
新しい情報の世界
量子情報
世界を変える
超低消費電力エレクトロニクス
(単一電子、電子スピン)
*** CORPORATION
20世紀を代表する科学的発見は?
クロード シャノン
通信の数学的理論
• 信号源符号化
• 通信路符号化
秘匿系での通信理論
アインシュタイン
• 光量子仮説
• ボーズ-アイン
シュタイン凝縮
• EPR相関
•[神はサイコロを
振らない」
• ワンタイムパッド
ボーア
• ボーアモデル
• 相補性原理
• コペンハーゲ
ン解釈
ハイゼンベルク
シュレディンガー
情報理論
• 波動力学
• 「猫」
量子情報科学
• 行列力学
• 不確定原理
量子力学
*** CORPORATION
現代社会の要求と量子情報科学
量子情報ってなに?
なんで量子情報? 量子情報は何ができる?
量子計算
量子暗号
(1) 現代暗号の安全性の限界
技術の進歩による解読の危険性
(例:量子コンピュータができると
今の公開鍵暗号系は崩壊・・)
(2)高まるセキュリティ要求
今のコンピュータ技術を仮定しない
安全性
- その保証(理論的証明!!)
(1) 現モデルの原理的限界
スパコン
次世代IT
ポスト
地球シミュレータ
京速計算機
超高速化への壁:
微細加工の限界
・装置巨大化
・消費電力
・デバイス限界
・環境、気象、分子設計(製薬)、セキュリティ
量子限界!!
…
(2) 超高速計算への要求
・環境、気象、分子設計(製薬)、
セキュリティ・・
(悪)例: 公開鍵暗号破り
今そこにある
限界の打破
夢の実現へ
*** CORPORATION
あなたの通信は盗聴されているかもしれない
光は急に曲がらない
曲げると
光が漏れる
M. Fujiwara, et al., Opt. Express. 18(21), 22199 (2010).
*** CORPORATION
暗号=アルゴリズム+秘密のパラメータ(鍵)
シーザー暗号
去年地下鉄にあったもりもとの広告
カ チ ハ ス ム
オ タ ノ シ ミ
• 五十音で一つ文字をずらす.
• 当事者同士しか知らない情報を使って暗号・復号
• シーザー暗号の鍵は文字の数しかない 弱い!!
*** CORPORATION
RSA暗号:インターネットなどでも使われている暗号
準備
1.
ランダムな素数p,qを選ぶ
例:3,5(本当は大きくないといけない)
2.
N=pq;L=LCM(p-1,q-1)を求める.
LCMとは最小公倍数のこと
例:N=15;L=4
公開鍵(e,N)を作る.eはLと素な正数
例:(7,15)→公開鍵を配る
秘密鍵dを作る.ed=Lk+1 (kは任意の正数)
例:d=3(k=5)
3.
4.
復号化
暗号化
a mod b とはaをbで割っ
た余り.
例:8 mod 3=2
(8÷3=2 あまり2)
任意の数M<Nについて
ML mod N =1 だから
M1+Lk mod N= M mod N
M=Cd mod N
ただし,(Me)d mod N
= M1+Lk mod N
例:C=8 M=83 mod 15 =2
C=Me
mod N
例:M=2
C=27 mod 15=8
(e,N)
*** CORPORATION
いろいろ数学が面倒そうだが,要するに
1.
2.
3.
4.
5.
6.
受信者が公開鍵(e,N)を作る:N=pqと適当なe
秘密鍵dを作る: ed=Lk+1ただし, L=LCM(p-1,q-1)
M
公開鍵を送信者に送る
C
M
送信者は公開鍵で暗号化
暗号文を送る
d
受信者は秘密鍵で復号 (e,N)
秘密鍵
素因数分解
公開鍵
pとq,あるいはLがわかればよい
(e,N)
*** CORPORATION
素因数分解の難しさ
できますか?
15=3×5
これは?
91=7×13
じゃあ,これは?
4,466,700,433,670,421,781
=1,715,412,641×2,603,863,541
計算量~exp[(log n ) 1/2 log(log n))1/2]:準指数的
現在1024ビット=10進で約300桁
*** CORPORATION
RSAチャレンジ
RSA社が賞金を出した素因数分解のコンテスト
1200
1000
bits
800
600
世界記録(2009.12.12)
768ビット by NTT
• 2030年でも
2048ビットならOK?
• 1990年の512ビット暗号
は今なら解ける?
400
current key: 1024 bits
200
0
1990 1995 2000 2005 2010 2015 2020 2025
year
ビット数が増えるとより安全.しかし,計算コストがかかる.
*** CORPORATION
最近の暗号に関するニュースから
インターネットの普及:“どのような環境で使われても安全”
を要求
ところが
Snowden paper: 政府機関による盗聴を暴露
“VPN Security only Virtual” (Spiegel, Jan/2015)
Lavabit: 捜査機関が暗号メールに使われた秘密鍵を要求
事前に収集されていた全てのメールが解読 (2013)
Superfish: PC内に中間者をインストール
秘密鍵が読めるので電子証明書が偽造される (2015)
Logjam: サーバに強度の弱い暗号を使わせる攻撃法
互換性維持のため,古い暗号も使えるよう設定されていることが多い (2015)
11
*** CORPORATION
どこに問題があるか
公開鍵暗号:
秘密鍵の計算困難性に依存
必ずしも証明されていない
証明可能性
計算能力の向上によって解読される可能性=鍵長の更新
過去にさかのぼって暗号が解読される Forward Security
組み合わせによって安全性が失われることがある
結合可能性(
Composability)
信頼できる認証局が必要(電子証明書)
現在の高秘匿ネットワーク • 個人の医療情報,遺伝子情報
,犯罪履歴
アルゴリズムが複雑,遅延 • 国家安全保障
標準化されていない=相互接続が困難
12
*** CORPORATION
量子情報科学超入門
古典的な情報の世界
量子情報の世界
ビット:“0”と“1”
測定:測定値は決まっている
測定しても状態は変わらな
い
量子ビット:“0”と“1”で張ら
れる空間上の長さ1のベクト
ル
測定:ある方向への射影
測定によって値が異なる
シュレディンガーの猫”Dead and Alive"
測定すると状態が変わる
“1”
 cos  
“Dead”
 i

 e sin  
“0”
http://draguunthor.deviantart.com/art/
Schrodinger-s-Cat-163302750
ベクトル=重ね合わせ
“Alive”
13
*** CORPORATION
重ね合わせのインパクト
悲観的な見方
楽観的な見方
•1回の測定では状態を確定で •1量子ビットで2つの可能性を同
時に表すことができる
きない
•例外:2つの直交した状態を判 •N量子ビットなら2N個
別する場合
1
(しかも基底を
N回分の計算を同時に実行
•2
Either or
知っている)
量子コンピュータ
0
1
•情報を隠すことができる
2N
量子暗号
0
14
*** CORPORATION
量子コンピュータが速い理由
x0
2N 個
x1
+
000
001
+
x2
010
一括処理
(超並列性)
量子力学的干渉
量子力学的もつれ
x3
x4
+
011
 1
 
 1
量子ビットN個
重ね合わせ
+
+
100
 1
 
 1
x5
101
+
x6
110
+
x7
111
 1
 
 1
 0  1  0  1  0  1 







2 
2 
2 

1
 000  001  010  011  100  101  110  111 

8
  
f 

f x1 , f x2 ,, f x8 
例:量子フーリエ変換
解となる状態を取り出す
・答のレジスタ
*** CORPORATION
RSA暗号を破る量子コンピュータ
• 秘密鍵は ed=Lk+1で計算するのでLがわかればよい
• MLk mod N =1なので適当な数xについてxj mod N を計算すると
Lごとにxa mod N =1になるaが現れる:つまり周期Lの関数
①t ビットの全ての数を表わす重ね合わせ
t-qubits
j
IQFT
Meas.
xj mod N
l-qubits
③逆フーリエ変換
周期を求める
1
② 関数 fx,N(j)=xj mod N
を超並列計算
こっちは難しい
実はもうできている
*** CORPORATION
*** CORPORATION
光通信デバイスで構成した量子フーリエ変換回路
*** CORPORATION
RSA暗号を破る量子コンピュータ
• 秘密鍵は ed=Lk+1で計算するのでLがわかればよい
• MLk mod N =1なので適当な数xについてxj mod N を計算すると
Lごとにxa mod N =1になるaが現れる:つまり周期Lの関数
①t ビットの全ての数を表わす重ね合わせ
t-qubits
j
l-qubits
IQFT
Meas.
xj mod N
③逆フーリエ変換
周期を求める
1
② 関数 fx,N(a)=xa mod N
を超並列計算
こっちは難しい: 皆さんの力が必要
実はもうできている
*** CORPORATION
解けない暗号は存在する
ワンタイムパッド=使い捨て鍵
無条件安全(無限の計算能力があっても解けない)が証明済
鍵の使い捨て
?
暗号文
暗号文
鍵長=伝言情報量
共通鍵
共通鍵
伝言文
量子暗号鍵配布
伝言文
送信者
鍵を補充
受信者
*** CORPORATION
量子暗号鍵配付(QKD)
暗号鍵(乱数)を共有
*** CORPORATION
量子暗号にとって重要な量子ビットの性質
コピーできない
1回の測定では状態がわからない
古典のばあい
同じこと
量子のばあい
状態はベクトル
向きが縦または横とか知っ
ていれば1回の測定で分か
るが・・・
f(1,1)=0, f(1,2)=0,
f(1,3)=0, f(1,4)=1,…
測定して転写する
成分が決まらないので転写不能
*** CORPORATION
さらに悪いことに,
測定すると状態が変わってしまう
光子の状態変数として偏光の向きを例にとる
重ね合わせ
どちらか
(重ね合わせでない)
偏光フィルタ
*** CORPORATION
従って,こんなことも起きる
(光子が来ない)
偏光フィルタ
(光子が来る)
確率1/2
(光子が来ない)
*** CORPORATION
こんなことができる=量子暗号鍵配布(QKD)
どちらかを選んで送る
+
X
正しい方向で測定
0
0
1
0
1
盗聴=状態の変化
出ないはずのポートで光子検出
1
光子検出器
エラーなし!
エラー検出!
エラーによって盗聴検出.もっと正確にはエラー率から
盗聴された情報量の上限が求められる 情報を消去(鍵蒸留)
*** CORPORATION
鍵蒸留(秘匿性増強)
(a) 秘匿性増強前
0.08
3ビット既知
(0?1??0?)
の確率分布
0.06
確率
Nビットの鍵に対して,
0.04
盗聴情報量の上限Wが
0.02
わかっているとき
0
N-W-sビットの鍵を
0
ランダムに選び出す
最終鍵について盗聴者が持
つ情報量を2-s以下に抑える
ことができる
N-W-s<0 なら盗聴されている
一様分布
(情報なし)
16
32
48
64
80
96
112
鍵の値(7ビットを10進表示)
確率
0.15
(b) 秘匿性増強後
0.1
0.05
盗聴情報量を見積れるのは量子のおかげ
(Wを正確に見積もることは研究課題)
0
0
1
2
3
4
5
6
7
8
鍵の値(3ビットを10進表示)
*** CORPORATION
干渉現象(光子の状態変数:位相差)
2つ以上の波の強めあい・弱めあい
波同士の区別がつかないこと
BS1
BS1
光
0
 
1
BS2
1
 
0
BS2
経路を調べると干渉が消える
=ベクトル的な性質(重ね合わせがこわれる)
*** CORPORATION
量子暗号装置の基本形
情報を盗むと干渉が弱くなる
エラーが増える
干渉を利用
送信側
受信側
BS1
光子源
位相変調器
BS2
位相変調器
光子検出器
送受信したビットの一部を照合してエラー率を求める
盗聴された情報量の上限が求められる 情報を消去(鍵蒸留)
*** CORPORATION
実際の量子暗号装置
*** CORPORATION
高速量子暗号装置
実際につくられている.
50kmファイバ伝送後1Mbpsの鍵生成能力
(テレビ電話を暗号化可能)
量子暗号装置全体
鍵蒸留基板
量子通信基板
*** CORPORATION
量子暗号ネットワーク(2010.10)
• 本郷ー大手町ー小金井を6つのリンクで結ぶネットワークが稼働
*** CORPORATION
量子セキュアネットワークの目指すもの
原理的に盗聴不可能な暗号鍵を様々な情報端末や制御機器に供給
⇒重要情報を安全に,遅延なく,組織を跨いでシームレスに伝送
① 第一世代を東京圏に構築し実用環境で稼働(QKDプラットフォーム)
② 新原理のQKDや物理レイヤ暗号など次世代技術の開発
• 物理レイヤから上位レイヤまで
含めたシステム視点での問題発
掘と応用開拓
• ユーザ環境でのQKD装置の稼働
実績の蓄積
• QKDの低コスト化,小型化
• 安全性評価技術の確立
• 新しい動作原理の導入による性
能向上
NICT
NEC
東芝
三菱電機
NTT
東北大
学習院大
東大
北大
東工大
*** CORPORATION
量子情報:重ね合わせ+量子もつれ+測定
量子もつれ=離れた場所にある原子が相関を持つ
演算処理能力(実効ビット数)
• テレパシー
(とまではいかないが
通信量が減る)
• テレポーテーション
• 量子中継
• 精密測定
• 量子コンピュータ
集
積
度
(
ビ
ッ
ト
数
)
1000量子ビット
100量子ビット
50量子ビット
21000 300
10
2100
250
1030
暗号解読
データ検索
最適化問題
1015 量子シミュ
レーション
108
108
106
106
104
102
104
102
量子コンピュータ
100
’00
’15
100
’30 年
*** CORPORATION
最近の動き
NSA building a ‘quantum computer’ capable of breaking
all forms of encryption (Snowden report)
D-Wave Systems sells its first Quantum Computing
System to Lockheed Martin Corporation
Google building quantum computer processor
with top university research team
NICT,量子鍵配送・スマートフォンを
用いた認証・データ保存システムの
開発に成功
*** CORPORATION
http://www.nict.go.jp/press/2014/06/04-1.html
*** CORPORATION
今,光エレクトロニクス研究室でやっていること
光を使った量子情報処理
• 量子暗号の実用化に向けた研究
• 量子暗号鍵配布の安全性の実験的保証
=送信状態の計測と新しい変調方式
• 量子光学による乱数生成
• 量子暗号の新方式実装
• 量子コンピュータを実現する基礎的なアイディア・技術
•
•
•
•
•
離れた場所にある量子メモリを効率的にもつれさせる方法
壊れた量子もつれを回復する方法
量子カオス(?)コンピュータ
高次元量子もつれの生成
光子検出器の開発
*** CORPORATION
もっと知りたいひとは・・・
研究室(量子情報)HP
http://www.eng.hokudai.ac.jp/labo/hikari/qit/index.html
電子メール
[email protected]
研究室
情報科学研究科棟 5F (5-02室)
tel. (011)706-6521
#最近サイトの更新を怠っているので興味のある人は直接研究
室を訪ねてもらえるとうれしいです.