ロッシーニ 《ギヨーム・テル》 初版・初期楽譜 (水谷彰良コレクションより) (1)パリ初版楽譜とその異同(1831 年までの Troupenas 版) 《ギヨーム・テル(Guillaume Tell)》 4 幕のオペラ 幕のオペラ( オペラ(opéra en quatre actes) actes) 台本:ヴィクトル= 台本:ヴィクトル=ジョゼフ= ジョゼフ=エティエンヌ・ド・ジュイ(VictorVictor-JosephJoseph-Étienne de Jouy,1764Jouy,1764-1846) 1846)及びイポリート= 及びイポリート= ルイ= ルイ=フロラン・ビス(HippolyteHippolyte-LouisLouis-Florent Bis,1789Bis,1789-1855 1855) 55) 作曲:ジョアキーノ・ロッシーニ(Gioachino Rossini,1792Rossini,1792-1868) 1868) 初演:1829 初演:1829 年 8 月 3 日(月曜日)、王立音楽アカデミー劇場[サル・ル・ペルティエ] (Théâtre de l’ l’Académie Royale de Musique[ Musique[Salle Le Peletier] Peletier]) 、パリ 1)ピアノ伴奏譜の初版 ピアノ伴奏譜の初版( 初版(トルプナ、 トルプナ、パリ、 パリ、182 1829 年) 1-a. 初版楽譜(ピアノ伴奏譜) トルプナ、パリ、1829 年 プレート番号:329 初版初刷 Spartito riduzione per canto e piano.,Troupenas,Paris,s.d.[1829] [First edition,first issue] * 1 spartito ([4],396 p.) ; 32.6×25.5 cm, N. di lastra: 329 [Collezione privata di Akira Mizutani – Tokyo] タイトル頁記載: GUILLAUME TELL / Opéra en quatre actes / Paroles de MM. Jouy & Hypolite Bis / Musique de / G. ROSSINI / avec Accompagnem.t de Piano par L. Niedermeyer / PRIX: 60f. /[以下、下部欄外]à PARIS. / Chez E. Troupenas, Editeur de Musique Success.r de M.me Nicolo, / Rue de Menars, No.3. / Edition gravée et imprimée par MARQUERIE Frères, rue St. Honoré, No 45. 概要: 概要: 《ギヨーム・テル》の初版楽譜は、1829 年にパリのトルプナ(Troupenas)の刊行したピアノ伴奏譜(上記 1-a)と総 筆者所蔵のピアノ伴奏譜初版はハードカバー装丁で外装 33.5×26 cm、 頁サイズは 32.6×25.5 cm。 譜(下記 2-a)である。 プレート番号:329。タイトル頁(裏:無地)、人物と目次(裏:無地)、楽譜 396 頁(pp.1-396.)からなり、テキストは フランス語。 全集版《ギヨーム・テル》 (M.Elizabeth C.Bartlet 校訂,Fondazione Rossini,Pesaro,1992.)の校註書(Commento critico) pp.39-41.では、1829 年秋にトルプナ社が出版したピアノ伴奏譜の初版は 3 種あり、それぞれの違いをフランス国立図 書館所蔵アイテムに基づいて記している。そこに転記されたタイトル頁の記載は上記筆者所蔵と異なり、 「国王へ献呈」 の文字以外に初演日も記載されている(下記)。 GUILLAUME TELL / Opéra en quatre actes / Paroles de / MM. Jouy & Hypolite Bis / Mis en Musique et / Dédié Au Roi / PAR / G. ROSSINI. / Représenté pour la 1er fois sur le Théâtre de l’Académie R.le de Musique le 3 Août 1829 / Arrangé pour le Piano-forté / par L. NIEDERMEYER / PRIX: 60f. / PARIS. Chez E.TROUPENAS, Editeur du Repertoire des Opéras Français avec d’accomp.t de Piano, Rue de Menars, No.3 / Edition gravée et imprimée par MARQUERIE Frères, rue St. Honoré, No 45. 全集版校訂者は、3 種の初版ピアノ伴奏譜のうち価格が 60 フランでオリジナル・ヴァージョンのレシタティフ(N.18 の後のそれ。p.364.に掲載)を含むものが最初に出版され、続いて価格 40 フランで異同のある 2 種が短期間に作られた とする。だが、筆者所蔵アイテムは価格 60 フランでオリジナル・ヴァージョンのレシタティフを含むのに、タイトル 頁の記載が違っている。そして筆者所蔵と同じタイトル記載を持つアイテムがハーバード大学図書館 (Harvard University Library)に所蔵され、初版初刷(1st ed., 1st issue)とされている(Mus 795.1.673.5)。これはどういうことか? フランス国立図書館の現物を見ていないので断定しえないが、筆者はそれが王家とオペラ座への献呈用にトルプナ社 が特別にタイトル頁を付したのではないかと推測する。そして正規に発売された初版楽譜が筆者所蔵とハーバード大学 図書館所蔵のアイテムとすれば、タイトル頁の異同も説明がつくのである。 実は筆者所蔵とハーバード大学図書館所蔵のそれは、タイトル頁と楽譜部分が完全に一致しながらも、目次に異同が 1 ある。ハーバード大学図書館蔵の目次の第 4 幕最後の 3 セクションのページ記載が楽譜部分と一致せず p.361、364、 371 であるのに対し、筆者所蔵は p.362、365、372 に修正されているのだ。それゆえ全集版校註書が一種類とした価 (王家とオペラ座のための 1829 年 8 月印刷 格 60 フランの初版初刷は、(1)「献呈用の特別なタイトル記載を持つアイテム」 の見本刷りと推測。目次にも異同あり)、(2)「簡略な記載のタイトル頁で目次に誤りのある初刷」 (1829 年 9 月に販売された 初版)、(3)「初刷の目次ノンブル修正版」 (同時期の差し替え) 、の 3 種が存在することになる。その間の異同は製本時の 差し替えと思われ、楽譜は同じ原板から刷られているので 3 種とも初版初刷と位置づけられる(ちなみに筆者所蔵は、 367-370 頁が 369-370 頁と 367-368 頁に順序を誤って製本されている)。 トルプナ社はピアノ伴奏譜の初版原板をロッシーニのオリジナル・ヴァージョンに基づいて作成したため、初演前の 稽古でロッシーニが行った削除や改変を反映せず、研究的視点で価値の高いものとなっている(N.15a パ・ド・トワとス イス人の合唱と N.18bis 三重唱を含み、フィナーレに N.19 と N.19a が混在。詳細は全集版とその校註書を参照されたい)。見本刷 りは 1829 年 8 月半ばに作られたが、正式販売は 9 月下旬に開始され、同年 12 月に出版される総譜(後述)よりもロッ シーニのオリジナルに近い内容を備えることが判っている。 ピアノ伴奏譜初版 (Troupenas,Paris, 1829.) 外装とタイトル頁 人物・楽曲目次と 楽譜の冒頭頁 1-b. 初版楽譜(ピアノ伴奏譜) トルプナ、パリ、1829 年 プレート番号:329 初版 2 刷 Spartito riduzione per canto e piano.,Troupenas,Paris,s.d.[1829] [First edition, second issue] * 1 spartito ([4],396 p.) ; 32.8×25.8 cm, N. di lastra: 329 [Collezione privata di Akira Mizutani – Tokyo] タイトル頁記載: 2 GUILLAUME TELL / Opéra en quatre actes / Paroles de MM. Jouy & Hypolite Bis / Musique de / G. ROSSINI / avec Accompagnem.t de Piano par L. Niedermeyer / PRIX: 40f. / [以下、下部欄外] à PARIS. / Chez E. Troupenas, Editeur de Musique Success.r de M.me Nicolo, / Rue de Menars, No.3. / Edition gravée et imprimée par MARQUERIE Frères, rue St. Honoré, No 45. 概要: 前記の初版初刷が価格 60 フランであるのに対し、40 フランに値下げしたのが初版 2 刷で、全集版校註書は、オリジ ナル・ヴァージョンのレシタティフを持つ版と初演から半月以内に変更されたレシタティフを採用した版があるとする。 この二つは 1829 年末までの出版と推測され、 早い段階でタイトル頁やレシタティフの差し替えの行われたことが判る。 筆者は 2 刷のレシタティフ差し替え版を所持しているので、該当部分(p.364)を次に複製しておこう。 全集版校註書は初版初刷と 2 刷との違いを、価格(60 フラン⇒40 フラン)とレシタティフ差し替えの有無で説明して いるが、筆者所蔵アイテムを子細に見ると、レシタティフの差し替え以外に顕著な異同が認められる。主な違いは誤謬 の訂正で、例えば p.210.の 2 段目は初版初刷がテルのパートをヘ音記号で記し、その続きに誤ってテノールのアルノ ールのパートを掲げている、2 刷ではテルのパートを一つ下の段に移し、ヘ音記号をト音記号に変えてアルノールのパ ートとしている。また第 3 幕のバレエ pp.282-291.のノンブルの下に新たに 114-123 のノンブルを加え、プレート番号 も 329 とは別に頁隅に 433 を与えている。この 433 は 1830~31 年のプレート番号に該当し、筆者所蔵のそれが 1829 年ではなく 1830~30 年に印刷もしくは差し替え製本されたことが判る。 ピアノ伴奏譜初版 2 刷 (Troupenas,Paris, 1830-31.)の外装と タイトル頁 ピアノ伴奏譜初版の初刷と 2 刷のレシタティフ差し替え ⇒ この段の 4 小節目以降の レシタティフの音楽と歌詞 が異なる。 初版初刷の p.364.(オリジナル・ヴァージョン) 3 初版 2 刷の p.364.(初演直後の改作を反映) 1-c. その他のトルプナ社の初版ピアノ伴奏譜 全集版校註書は、前記ピアノ伴奏譜完本とは別にトルプナ社が 1829 年秋にピース版(morceaux détachés)で個々の 楽曲を出版したとする。プレート番号は「332-1」~「332-24」で、内容が前記完本と同じであることから校訂資料に されていない。参考までに、筆者所蔵のトルプナ社ピースの販売広告(上半分は楽曲ピース、下半分は《ギヨーム・テル》 の器楽編曲とその主題を用いた作品の目録)と、第 3 幕テルのエールのピース版(プレート番号 332-20)を次に掲載する。 トルプナ社ピースの販売広告 第 3 幕テルのエール(トルプナ社ピース) その後トルプナ社は 1840 年代初頭にプレート番号 329 のままピアノ伴奏譜を再版したが、「第 2 版(Deuxième Edition)」とタイトル頁に記したため初版・初期版との区別は明白である。この第 2 版はピース版と同様、資料的な価 値は乏しいとされる。 2)総譜の初版 総譜の初版( 初版(トルプナ、パリ、 トルプナ、パリ、1829 、パリ、1829 年) 2-a. 初版総譜 トルプナ、パリ、1829 年初版の後刷 プレート番号:347 Partitura.,Troupenas,Paris,s.d. [First edition,later issue] * 1 partitura ([4],837 p.) ; 33.3×26 cm, N. di lastra: 347 [Collezione privata di Akira Mizutani – Tokyo] タイトル頁記載: タイトル頁記載: GUILLAUME TELL / Opéra en quatre actes / Paroles de / MM. Jouy & Hypolite Bis / Mis en Musique et / Dédié AU Roi / PAR / G. ROSSINI. / Représenté pour la 1ère fois sur le Théâtre de l’Académie R.le de Musique le 3 Août 1829 / Prix: 400f. / PARIS. Chez E. TROUPENAS & Cie Rue N.ve Vivienne No.40 / Londres chez Goulding et Dalmaine. Mayence et Anvers chez les Fils de B. Schott. 概要: 《ギヨーム・テル》の総譜もトルプナがロッシーニとの契約に従って制作したが、原板の作成はピアノ伴奏譜に続い て 1829 年 8 月に始められ、同年 12 月に出版された。そのため稽古段階での削除や初演後の変更をとどめ、折衷的な ヴァージョンとなっている(詳細は全集版校註書を参照されたい)。筆者所蔵の総譜はハードカバー装丁で外装 34.5×26.5 cm、頁サイズ 33.3×26 cm、プレート番号:347。タイトル頁(裏:無地)、人物・初演歌手と楽曲目次(裏:無地)、楽 譜 837 頁(pp.1-837.)からなり、テキストはフランス語のみ。これは 1829 年の初版原板から刷られているが、年代は ずっと後で、価格も 400 フランである。全集版校註書によれば、初版初刷は価格 180 フラン(ピアノ伴奏譜初版の 3 倍に 当たる)、価格以外にも住所記載の異同がある。初版初刷のタイトル頁記載は次のとおり。 GUILLAUME TELL / Opéra en quatre actes / Paroles de / MM. Jouy & Hypolite Bis / Mis en Musique et / Dédié AU Roi / PAR / G. ROSSINI. / Représenté pour la 1ère fois sur le Théâtre de l’Académie R.le de Musique 4 le 3 Août 1829 / Prix: 180f. / PARIS. Chez E. TROUPENAS, Editeur du Repertoire des Opéras Français avec d’accomp.t de Piano, Rue St. Marc No.23 / Londres chez Goulding et Dalmaine. Mayence et Anvers chez les Fils de B. Schott. 総譜初版に記された住所「Rue S[ain]t. Marc No.23」は 1829 年 9 月から 1834 年 10 月までの所在地、筆者所蔵の 住所「Rue N[eu]ve Vivienne 40」は 1835 年 7 月から 1850 年 10 月までの所在地で、筆者所蔵は原板の摩耗状態から 1850 年頃に刷られたと推測しうる。価格は初版が 180 フラン、初期のアイテムに 200 フランがあり(ボローニャ市立音 楽図書館所蔵)、400 フランはその 2 倍となっている。 総 837 頁と大部のため、総譜は通例 2 巻に分けて装丁されるが、筆者所蔵は 1 巻本の装丁で重量も 4.6 kg と重い。 《ギヨーム・テル》の総譜はトルプナ社が 1850 年に廃業した後も後継出版社によって僅かに再版されたが、楽譜部分 は初版原板から刷られたので、19 世紀に出版されたオリジナル・フランス語ヴァージョンの総譜は事実上一種類、と 理解して良いだろう(異同はタイトル頁の記載のみ)。 総譜初版後刷の 外装とタイトル頁 人物・楽曲目次と 楽譜冒頭頁 以上、1831 年までのトルプナ版《ギヨーム・テル》の初版と初期版を筆者所蔵に基づいて紹介した。外国での初版・ 初期楽譜、1840 年代から 19 世紀末までにパリの後継出版社が出版した楽譜については、後日別に稿を起こしたい。 (2013 2013 年 7 月作成。水谷彰良) 月作成。水谷彰良) 5
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