The Murata Science Foundation 電気修復法によるヒ素(V)汚染土壌の浄化メカニズムの解明 A Mechanistic Study of Arsenate Removal from Contaminated Subsurface Sediments and Groundwater by Electrokinetic Remediation H26海自24 派遣先 水環境に関する国際会議(インド・ケケラ州・コーチン) 期 間 平成27年1月21~平成27年1月28日(8日間) 申請者 国立大学法人山口大学 大学院理工学研究科 助教 鈴 木 祐 麻 り、軽度の汚染サイトに対しても掘削除去法 海外における研究活動状況 を適用することは経済的合理性からも望ましく 研究目的 ないとされている。 本講演の目的として下記に示す3つを掲げる。 これらの背景から、軽度の汚染サイトに対す る汚染物質除去法として原位置浄化技術であ (目的1) 電気修復法の概念を概説し、土壌・地下水 る動電学的土壌浄化法が着目されている。動 浄化技術としての有効性を示す。 電学的土壌浄化法はイオン移動や電気浸透流 といった界面動電現象により間隙水中に存在 (目的2) 電気修復法における問題点を明確に示し、 する汚染物質の移動を促進することから、ソイ その問題点の解決を目的として申請者が近年 ルフラッシング法では浄化できない難透水性土 行った研究成果を紹介する。 壌にも適用が可能という利点がある。本研究 では、更なる消費電力の削減および浄化メカ (目的3) 世界各国から集まる専門家と議論・意見交 ニズムに関する知見を深めるべく、ヒ素(V)を 換を行うことで電気修復法に関する自らの理 対象汚染物質として一定電圧あるいはパルス波 解を深めると同時に、今後の研究活動に繋が 形電圧を用いた動電学的土壌浄化実験を行っ る研究者ネットワークを構築する。 た。本研究から得られた結果は下記のようにま とめられる。 1.カオリナイトからのヒ素(V)の脱着はアル 海外における研究活動報告 1.発表の要旨 カリ条件下で促進される。また、この脱着 重金属による土壌汚染は深刻な環境問題で プロセスは時間をかけて徐々に進行する比 あり、我が国においても鉛およびヒ素を代表と 較的遅い反応である。 する種々の重金属による土壌汚染が多く報告 2.土壌pHが中性領域に保たれる条件で実験を されている。今日、汚染サイトの浄化に最も頻 行った場合は、パルス波形(1hON:1hOFF) 繁に適用されている技術は掘削除去法である。 を適用することで浄化に必要な消費エネル しかし、掘削除去法は多くの良質な埋め戻し ギーを約40%削減することができた。また、 材を必要とするなどの問題点が指摘されてお この際の浄化時間は一定電圧で通電した場 ─ 413 ─ Annual Report No.29 2015 合とほぼ同等であり、このことから土壌pH 私の発表については、インド系の独特のなま が中性領域に保たれる条件で実験を行った りを感じながらもすべての質問にしっかり応答 場合は浄化時間に負の影響を与えることな することができた。私が国際会議で発表するの く浄化に必要なエネルギーを大幅に削減で は今回で13回目になるが、曲がりなりにも英語 きることができた。 を用いたコミュニケーション能力が向上してい 3.土壌pHが陰極側から徐々に上昇する条件 ることを実感し嬉しくも思った。また、それと で実験を行った場合は、土壌pHが中性領 同時に、他の見事な発表を見た時には、私も 域に保たれる条件で実験を行った場合とは こんな発表ができるようになりたいと成長意欲 異なり、パルス波形(1hON:1hOFF)を適用 が掻き立てられた。 しても浄化に必要な消費エネルギーを削減 今回の学会では学生の発表もあった。英語 することはできなかった。これは、ヒ素(V) がネイティブでないにも関わらず四苦八苦し の脱着効率に影響を与える因子である溶出 ながら研究内容を説明する学生を見ていると、 時間と土壌pHとでは、後者の方がその効果 昔の自分を思い出した。国際学会での発表を が大きいことが要因と考えられた。 いうのは、当時は自分の情けなさに落ち込んだ これらの研究成果を通して、動電学的土壌 記憶しかないが、今思えば大きなモチベーショ 浄化法による重金属汚染土壌の浄化における ンとなる。今では学生を指導する立場となった メカニズムに関する理解を深めることができた。 私であるが、学生にもこのような機会を与えて やりたいという想いを強く抱いて帰国した。 2.学会に係る所見 今回の発表で自分の研究成果を発信するこ 私が今回参加させていただいたIWCはアジア とができると同時に、新しい研究ネットワーク で行われる環境会議では最大級の会議である。 を構築することができた。この機会を与えてく 学会の雰囲気としては、近年経済成長が著し ださった貴財団に改めて感謝の意を申し上げ いインドということもあり、数多くの企業がス ます。ありがとうございました。 ポンサーとなり豪華に開催された印象を受け この派遣の研究成果等を発表した た。また、企業の方による現場の話の紹介も 多く、現場のことをほとんど知らない私にとっ ては新鮮であった。さらに、これからの研究の シーズを見つけることが出来たため、非常に有 意義な学会となった。 著書、論文、報告書の書名・講演題目 Suzuki, T; M, Moribe; Y, Okabe; Niinae, M. A mechanistic study of arsenate removal from artificially contaminated clay soils by electrokinetic remediation. Journal of Hazardous Materials. 2013, 254-255, 310-317 ─ 414 ─
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