1 序 人々は生まれたときはみな化粧をしていない

序
人々は生まれたときはみな化粧をしていない。しかし,女性はある年
代から化粧をするようになり,素顔では生きられなくなってしまう人も
いる。大学生は,化粧をし始める年代であり,ちょうどその変化の境目
にあたると考えられる。日常生活の友人との会話の中で「すっぴんでは
外 に 出 ら れ な い 」,「 コ ン ビ ニ ま で は 行 け る 」 と い う よ う な 話 が な さ れ る
ことがあり,人には素顔で行動できる範囲とできない範囲があるようで
ある。また,化粧をすることで積極的になったり,最近では実際の病院
などの現場において化粧を用いた治療的な介入もされたりするなど,化
粧をすることは見た目をきれいにするだけではなく,気持ちにまで変化
を起こす。このようなことは化粧に何らかの力があるということを示す
ものであり,本研究では化粧の力について調査を行いたい。
現代の女性にとって化粧は日常的なものであり,身だしなみとしての
化粧をはじめ,肌の保護や自己表現といったさまざまな役割を果たして
いる。近年では,心理学的な側面から化粧に関するさまざまな研究がな
されている。
加 藤 ・ 石 原 ・ 大 木 ( 2010) は , 女 子 大 学 生 に お け る 化 粧 認 知 及 び 行 動
と心理的健康の関連性について研究を行っている。彼らは,化粧に対す
る 考 え 方 ,化 粧 に つ い て の 捉 え 方 と い う 意 味 を よ り 強 調 し て「 化 粧 認 知 」
として定義し,化粧認知と化粧行動の不一致が心理的健康に及ぼす影響
を検討した。化粧認知と化粧行動の二つのスケールを用いて,認知と行
動 が 共 に 高 い 群( 以 下 ,認 知 高 ・ 行 動 高 群 ),認 知 は 高 い が 行 動 が 低 い 群
( 以 下 ,認 知 高・行 動 低 群 ),認 知 は 低 い が 行 動 は 高 い 群( 以 下 ,認 知 低 ・
行 動 高 群 ),認 知 と 行 動 が 共 に 低 い 群( 以 下 ,認 知 低・行 動 低 群 )に 分 け ,
各群間のソーシャルスキル,自己効力感および心理的健康度の差を検討
1
した。その結果,認知低・行動高群はソーシャルスキルが低く,心理的
に健康でなく,自己効力感が低いことが明らかになった。この結果は,
化粧自体をネガティブに捉える一方で化粧行為は積極的に行っている認
知低・行動高群が,化粧の心理的な効果を得られていないということを
示している。
笹 山 ・ 永 松 ( 1999) は , 化 粧 行 動 を 規 定 す る 諸 要 因 の 関 連 性 に つ い て
検討している。彼らは,個人の性格特性や個人を取り巻く社会的要因の
違いが化粧について異なる意識を生起させ,その意識の違いが実際の化
粧行動に影響を及ぼすというプロセスを仮定して,これら諸要因の関連
性について検討した。その中で次のようなことが明らかにされている。
性格特性の重要なものとして,例えば顕示欲求が示され,それが化粧の
持つ心理的効用,必需品としての化粧,身だしなみとしての化粧,他者
に見せるための化粧,自意識過剰,美人は得をする,といった意識に影
響 を 与 え ,そ れ が 化 粧 へ の 関 心 ,化 粧 の 習 慣 な ど の 態 度 に 影 響 を 及 ぼ し ,
それが最終的に化粧をどの程度行うかという「化粧度」に影響を与えて
いる。また,公的自己意識が美人は得をする,普段と違うメイクは恥ず
かしい,といった意識に影響を与え,私的自己意識が化粧の持つ心理的
効用,化粧への関心に影響を与えることなどが示されている。これらの
結果より,個人の性格特性によって化粧に対する意識が変化し,それら
の意識が化粧行動を規定するというプロセスの存在が考察された。
これらの研究から,化粧行動は見た目に変化を与えるだけではなく心
理的にも影響があることが分かった。また,化粧行動は化粧に対する意
識や性格特性から影響を受けることが示された。
本研究では,化粧で何が変化するか,どのような人がどのような時に
化粧をするのかに焦点をあてて調査を行う。先行研究にもあるように,
2
女性が化粧をなぜするかの理由には,見た目を美しく変化させるため,
また,心理的な健康のためといったものが考えられる。そこで化粧で何
が変化するかについては見た目と心理的影響の両方に着目し,
「美的な変
化 」と ,
「 気 持 ち の 変 化 」に つ い て 調 査 す る 。化 粧 を す る 人 で 美 的 変 化 を
欲している人は気持ちの変化も求めているのか,あるいはそれぞれは独
立したものなのかを検討する。
また,化粧をどんなときにするのかについて考えてみると,学校に行
くときや,コンビニなどの近所に行くとき,アルバイトなど人と接する
場所に行くとき,また身だしなみとして化粧をする,などさまざまな場
面が考えられる。さらにその場面によって化粧をするかしないか個人に
よって異なることも考えられる。化粧による美的変化は場面と関係する
のか,場面による化粧で気持ちにも変化はあるのかなどを検討する。自
分の容姿にコンプレックスがある人(自己受容が低い人)や,周りから
自 分 が ど う 思 わ れ て い る か が 気 に な る 人( 公 的 自 己 意 識 が 高 い 人 ),自 分
をより美しく見せたいと思う人などは化粧をより積極的に行うのではな
いかと考えられる。
逆に,自己受容が高い人は,ありのままの自分を受け入れているので
化 粧 を あ ま り し な い こ と が 考 え ら れ る 。一 方 ,公 的 自 己 意 識 が 高 い 人 は ,
ま わ り の 目 を 気 に す る た め 化 粧 を す る の で は な い か と 考 え ら れ る 。ま た ,
場面によって化粧をするかしないかは公的自己意識にも関係があるよう
に思われる。例えば,コンビニなどの近所に行くときと,改まった席に
行くときでは,周りの目を考え化粧の仕方に違いが出ると考えられる。
さらに,私的自己意識が高い人は他者からどう見られるかよりも自分自
身がより美しくなれる化粧をするのではないかと考えられる。
上記のことを検討するために,化粧での美的変化,気持ちの変化,場
3
面についての質問を自作し,どのような人が化粧をするかについての質
問は既存の自己受容尺度と自己意識尺度を用いて調査を行う。
方法
調査対象者
北 九 州 市 立 大 学 の 2 年 生 以 上 の 女 子 学 生 103 人 ( 19~ 24
歳 , 平 均 年 齢 1 9 .9 歳 ) に 対 し て 調 査 を 実 施 し た 。 1 年 生 を 対 象 に し な か
ったのは,1 年生は大学に入学したばかりで,化粧をし始めたばかりで
あると考えられ,2 年生以上からだんだんと自分のやり方やこだわりを
見つける人が多いのではないかと考えられるからである。
手続き
文学部の学生向けに開講されている,2 年生以上が受講できる
授業「比較表象文化」で女子学生のみに質問紙を配布し,持ち帰って回
答してもらい,1 週間後に回収した。また,女子学生の知人に手渡しで
渡し,後日回収した。
質問紙の構成
「化粧に関する調査」という表題で質問紙を作成した。年齢,性別,学
部・学科,学年を記述する欄を設け,以下のような質問内容のもので構
成した。
①化粧をする頻度,母親の化粧頻度,時間,アルバイトでの化粧,使う
化粧品
化 粧 を ど の く ら い の 頻 度 で し て い る か に つ い て ,「 毎 日 す る 」「 週 に 5
~6 日はする」
「 週 に 3~ 4 日 は す る 」
「 週 に 1~ 2 日 は す る 」
「ほとんどし
な い 」「 全 く し な い 」 の 6 つ の 選 択 肢 か ら 1 つ を 選 択 し て 答 え て も ら っ
た 。母 親 の 化 粧 頻 度 は ,笹 山・永 松( 1 9 9 9 )の 先 行 研 究 の 質 問 を も と に ,
母親の化粧行動が女子学生の化粧行動に影響を与えている可能性が考え
られたため質問項目として設定した。
「必ずする」
「時々する」
「ほとんど
4
し な い 」「 全 く し な い 」 の 4 件 法 で 答 え て も ら っ た 。
以上の回答は全員にしてもらったが,これから以下の回答は,化粧の
頻度で「全くしない」と回答した人は回答してもらわなかった。
化 粧 に か け る 時 間 は ,「 5 分 以 内 」「 1 0 分 以 内 」「 2 0 分 以 内 」「 3 0 分 以
内 」「 6 0 分 以 内 」「 6 0 分 超 」 か ら 選 択 し て も ら っ た 。 ア ル バ イ ト 先 で 化
粧が求められているかについては,アルバイトでの化粧の有無が日常で
の化粧行動に影響を与える可能性が考えられたため質問項目として設定
した。
「ばっちりする」
「身だしなみ程度にはする」
「とくに求められてい
な い 」「 ア ル バ イ ト を し て い な い 」 の 4 つ の 選 択 肢 か ら 選 択 し て も ら っ
た。
化 粧 品 の 使 用 実 態 に つ い て , 大 学 生 が 使 っ て い そ う な 14 種 類 の 化 粧
品 を 選 択 し , そ れ ぞ れ に つ い て そ の 使 用 頻 度 を 「 使 わ な い 」「 時 々 使 う 」
「 使 う 」の 3 つ の 選 択 肢 か ら 1 つ を 選 択 し て も ら っ た 。1 4 種 類 の 選 択 に
おいては,同年代の学生に予備的に回答してもらい,意見を聞いて取捨
選択をした。
②美的変化,気持ちの変化
化粧をすることでなにが変化するかを,
「 見 た 目 」と「 内 面 」の 両 方 の
視点から考え,質問紙を作成した。見た目の美的変化については,化粧
をすることで考えられる美的な変化を挙げ,内面の変化については,加
藤 ・ 石 原 ・ 大 木 ( 2 0 1 0 ), 笹 山 ・ 永 松 ( 1 9 9 9 ) の 先 行 研 究 で 用 い ら れ た
項目を参考に作成した。同年代の女子学生に予備的に回答してもらい,
質 問 が 適 切 か ど う か な ど を 考 慮 し て , 美 的 変 化 の 質 問 25 問 , 気 持 ち の
変 化 の 質 問 19 問 を 作 成 し , 評 価 方 法 は 「 あ て は ま ら な い 」 ~ 「 あ て は
まる」の 5 件法とした。
③場面
5
どのような場面や場所で化粧をするかを,大学生が行きそうな場面を
想定し,人との関わりが少ない場面から人との関わりが多い場面,学校
での場面などを想定して作成した。これも同様に予備的な回答をしても
ら い , 質 問 が 適 切 で わ か り や す い か な ど を 考 慮 し て 2 9 問 作 成 し ,「 あ て
はまらない」~「あてはまる」の 5 件法で回答してもらった。
④自己肯定意識尺度,自意識尺度
2 種 類 の 心 理 尺 度 を 使 用 し た 。 平 石 ( 1990) で 用 い ら れ た 自 己 肯 定 意
識 尺 度 か ら 自 己 受 容 の 部 分 の み の 8 項 目 を 使 用 し ,「 あ て は ま ら な い 」
~「 あ て は ま る 」の 5 件 法 で 答 え て も ら っ た 。ま た ,自 意 識 尺 度( 菅 原 ,
1 9 8 4 )を 使 用 し た 。公 的 自 己 意 識 の 11 項 目 ,私 的 自 己 意 識 の 1 0 項 目 の
合 計 2 1 項 目 か ら 構 成 さ れ ,「 全 く あ て は ま ら な い 」 ~ 「 非 常 に あ て は ま
る」の 7 件法で回答してもらった。
結果
①化粧に関する基本的な質問における回答数の割合
化粧頻度の回答数の割合は,以下の表 1 のとおりである。化粧を「全
く し な い 」と 答 え た 人 の 割 合 は 7 . 8 % と 少 な く ,2 年 生 以 上 の 学 年 に な る
とほとんどの女子学生が化粧をしていることがわかった。
表1 化粧頻度の回答数の割合
度数
パーセント
1.毎日する
39
38.2
2.週に5~6日はする
37
36.3
3.週に3~4日はする
7
6.9
4.週に1~2日はする
4
3.9
5.ほとんどしない
7
6.9
6.全くしない
8
7.8
合計
102
100.0
無回答を除く
母親の化粧頻度の回答数の割合は,以下の表 2 のとおりである。
6
表2 母親の化粧頻度の回答数の割合
度数
パーセント
1.必ずする
59
58.4
2.時々する
31
30.7
3.ほとんどしない
11
10.9
合計
101
100.0
無回答を除く
化粧にかける時間の回答数の割合は,以下の表 3 のとおりである。化
粧 に か け る 時 間 が「 2 0 分 以 内 」と 答 え た 人 の 割 合 は 4 8 .4 % で ,約 8 割 の
人 は 20 分 以 内 で 化 粧 を し て い る こ と が わ か っ た 。
表3 化粧にかける時間の回答数の割合
度数
パーセント
1.5分以内
10
10.5
2.10分以内
19
20.0
3.20分以内
46
48.4
4.30分以内
18
18.9
5.60分以内
2
2.1
合計
95
100.0
無回答を除く
バイト先での化粧の回答数の割合は,以下の表 4 のとおりである。
表4 バイト先での化粧の回答数の割合
度数
パーセント
1.ばっちりする
4
4.2
2.身だしなみ程度にはする
31
32.3
3.とくに求められていない
47
49.0
(自分に任せられている)
4.アルバイトをしていない
14
14.6
合計
96
100.0
無回答を除く
②美的変化に関する質問項目の因子分析
美 的 変 化 の 25 項 目 の 質 問 項 目 を 用 い て 因 子 分 析 を 行 っ た 。 因 子 の 抽
出には重み付けのない最小二乗法を用い,プロマックス回転を行った。
ただし,質問項目のうち,因子負荷が高くなかった「化粧をするとクー
ルに見える」を削除し,再度因子分析を行った。因子数は因子の解釈を
7
考 慮 し て 6 因 子 と し ,そ の 因 子 負 荷 を 表 5 に 示 し ,因 子 間 相 関 を 表 6 に
示した。
第 1 因 子 は ,「 化 粧 を す る と 隠 し て い る と 思 わ れ る 」,「 化 粧 を す る と
自 然 さ が 失 わ れ る 」な ど に 対 し て 負 荷 量 が 高 く ,
「 作 ら れ た 感 じ 」に 関 す
る 因 子 と し た 。 第 2 因 子 は ,「 化 粧 を す る と 可 愛 く 見 え る 」,「 化 粧 を す
る と 女 性 ら し く 見 え る 」な ど で 負 荷 量 が 高 く ,
「 か わ い い 」に 関 す る 因 子
と し た 。 第 3 因 子 は ,「 化 粧 を す る と 顔 立 ち が は っ き り す る 」,「 化 粧 を
す る と 目 が 大 き く 見 え る 」な ど で 負 荷 量 が 高 く ,
「 は っ き り 」に 関 す る 因
子 と し た 。 第 4 因 子 は ,「 化 粧 を す る と 肌 が き れ い に 見 え る 」,「 化 粧 を
す る と 肌 が 白 く 見 え る 」な ど で 負 荷 量 が 高 く ,
「 肌 が き れ い 」に 関 す る 因
子 と し た 。 第 5 因 子 は ,「 化 粧 を す る と 鼻 筋 が 通 っ て 見 え る 」,「 化 粧 を
す る と エ レ ガ ン ト に 見 え る 」で 負 荷 量 が 高 く ,
「 エ レ ガ ン ト 」に 関 す る 因
子 と し た 。 第 6 因 子 は ,「 化 粧 を す る と 欠 点 が 解 消 さ れ る 」,「 化 粧 を す
る と き ,化 粧 品 の 色 や 香 り を 楽 し む 」な ど で 負 荷 量 が 高 く ,
「化粧が好き」
に関する因子とした。
8
質問項目
隠している
自然さなくなる
作られた感じ
派手
自分らしさ出せない
強い印象
唇がふっくら
かわいく
優しそう
女性らしい
黒目が大きく
顔が小さく
顔がはっきり
目が大きく
まつ毛が長く
肌が白く
肌がきれい
眉毛が整う
鼻筋が通る
エレガント
欠点が解消
色や香りを楽しむ
自信がある
うまいコツがわからない
因子
作られた感じ
かわいく
はっきり
肌がきれい
エレガント
化粧が好き
第1因子
作られた感じ
.805
.718
.690
.632
.617
.446
.400
-.115
.087
-.068
.256
.184
-.036
-.035
.121
.035
-.176
.164
.012
-.101
.038
.064
-.181
.271
作られた感じ
表5 美的変化の因子負荷
因子
第2因子
第3因子
第4因子
かわいく
はっきり
肌がきれい
.142
-.090
.047
-.206
-.117
.132
.030
.043
-.016
-.025
.258
-.091
.090
.004
-.186
-.280
.081
-.024
.326
-.106
.151
.802
-.020
-.031
.600
.128
-.007
.466
-.035
.274
.440
.204
-.059
.378
.028
-.144
.013
.766
-.022
.031
.637
.122
.001
.504
.194
-.033
.033
.854
.043
.062
.694
-.025
.225
.455
.032
.000
.143
.058
-.036
.044
.062
.157
-.128
.264
-.328
.051
.223
.299
-.002
.051
-.147
.103
表6 美的変化の因子相関
かわいく
はっきり
肌がきれい
.047
.214
.020
.403
.434
.224
第5因子
第6因子
エレガント
化粧が好き
-.221
-.056
-.148
.269
-.046
.040
.184
-.062
.132
-.173
.286
.423
.042
.024
.113
.014
-.497
.135
.197
.111
.052
-.142
.181
.313
.021
.023
-.239
.265
.084
-.049
.129
-.150
.016
.046
.092
-.189
.650
.025
.613
.218
.014
.647
.186
.392
.202
.340
-.155
-.276
エレガント 化粧が好き
.169
.070
.310
.364
.408
.297
.115
.446
.259
③気持ちの変化に関する質問項目の因子分析
気 持 ち の 変 化 の 19 項 目 の 質 問 項 目 を 用 い て 因 子 分 析 ( 重 み 付 け の な
い 最 小 二 乗 法 ,プ ロ マ ッ ク ス 回 転 )を 行 っ た 。た だ し ,質 問 項 目 の う ち ,
因子負荷が高くなかった「化粧のノリが悪いと一日憂鬱な気分になる」
を削除し,再度因子分析を行った。因子数は因子の解釈を考慮して 4 因
子とし,その因子負荷を表 7 に示し,因子間相関を表 8 に示した。
第 1 因 子 は ,「 化 粧 を す る と ス ト レ ス 解 消 に な る 」,「 化 粧 を す る と 生
9
き 生 き と し た 気 分 に な る 」 な ど に 対 し て 負 荷 量 が 高 く ,「 気 分 が 高 ま る 」
に 関 す る 因 子 と し た 。第 2 因 子 は ,
「 化 粧 を す る と 積 極 的 に な れ る 」,
「化
粧 を す る と 自 分 に 自 信 が 持 て る 」な ど で 負 荷 量 が 高 く ,
「 積 極 的 」に 関 す
る 因 子 と し た 。 第 3 因 子 は ,「 化 粧 を し て い な い と 人 と 会 い た く な い と
思 う 」,「 化 粧 を し て い な い と 人 の 目 が 気 に な る 」 な ど で 負 荷 量 が 高 く ,
「 し な い と 人 に 会 い た く な い 」 に 関 す る 因 子 と し た 。 第 4 因 子 は ,「 化
粧 を す る こ と が は ず か し い 」,「 化 粧 を す る と 周 囲 の 反 応 が 気 に な る 」 な
ど で 負 荷 量 が 高 く ,「 化 粧 に 自 信 が な い 」 に 関 す る 因 子 と し た 。
表7 気持ちの変化の因子負荷
因子
第1因子
第2因子
第3因子
第4因子
質問項目
しないと人に
化粧に
気分が高まる
積極的
会いたくない 自信がない
ストレス解消
.742
-.185
.125
.022
女性らしい気分
.683
.397
-.265
-.069
生き生きした気分
.674
.113
.129
-.049
うまくいくと嬉しい
.641
-.045
.023
-.113
自分が変わる
.582
.033
.091
.187
自分の一部
.506
.007
.45 5
.066
積極的になる
-.055
1.025
-.123
.015
他人にも声かけれる
-.241
.753
.252
.083
気持ちにゆとり
.177
.622
.169
.006
自信がもてる
.303
.563
-.069
-.132
行動的になる
.205
.495
.231
.005
しないと人に会いたくない
.153
-.095
.77 9
-.083
自分が出せる
-.057
.420
.61 1
.102
しないと人目気になる
.215
.072
.61 1
.009
しても変わらない
.110
-.094
-.50 2
.4 27
すると恥ずかしい
-.082
.189
-.141
.8 22
すると周り気になる
.322
-.120
.112
.6 12
した自分に自信ない
-.166
-.080
-.007
.5 98
表8 気持ちの変化の因子相関
しないと人に
化粧に
因子
気分が高まる
積極的
会いたくない 自信がない
気分が高まる
.670
.656
-.037
積極的
.607
-.113
しないと人に会いたくない
-.013
化粧に自信がない
10
④場面に関する質問項目の因子分析
場 面 の 29 項 目 の 質 問 項 目 を 用 い て 因 子 分 析 ( 重 み 付 け の な い 最 小 二
乗法,プロマックス回転)を行った。ただし,質問項目のうち,因子負
荷が高くなかった「化粧をすることが好きである」を削除し,再度因子
分析を行った。因子数は因子の解釈を考慮して 5 因子とし,その因子負
荷 を 表 9 に 示 し , 因 子 間 相 関 を 表 10 に 示 し た 。
第 1 因 子 は ,「 知 り 合 い が 少 な い 授 業 の と き , 化 粧 を す る 」,「 友 達 と
授 業 を 受 け る と き ,化 粧 を す る 」な ど に 対 し て 負 荷 量 が 高 く ,
「 学 校 」に
関 す る 因 子 と し た 。 第 2 因 子 は ,「 コ ン ビ ニ に 行 く と き , 化 粧 を す る 」,
「 ス ー パ ー に 行 く と き ,化 粧 を す る 」な ど で 負 荷 量 が 高 く ,
「 近 所 」に 関
す る 因 子 と し た 。 第 3 因 子 は ,「 服 屋 に 行 く と き , 化 粧 を す る 」,「 ア ル
バ イ ト に 行 く と き , 化 粧 を す る 」 な ど で 負 荷 量 が 高 く ,「 人 と 接 す る 外 」
に 関 す る 因 子 と し た 。 第 4 因 子 は ,「 改 ま っ た 席 に 出 る と き は き ち ん と
し た 化 粧 を し て い な い と お か し い 」,
「化粧は女性の身だしなみだと思う」
な ど で 負 荷 量 が 高 く ,「 身 だ し な み 」 に 関 す る 因 子 と し た 。 第 5 因 子 は ,
「 化 粧 を す る の に 時 間 が か か る の が 嫌 だ 」,「 化 粧 を す る の が 面 倒 だ 」 な
ど で 負 荷 量 が 高 く ,「 面 倒 」 に 関 す る 因 子 と し た 。
11
質問項目
知り合い少ない授業
知り合い多い授業
友達と授業
一人で授業
グループワーク
学食
みんながしているから
コンビニ
弁当屋
スーパー
CDショップ
外はどこでも
服屋
居酒屋
カラオケ
美容室
人前に出るとき
ファミレス
アルバイト
しないと恥ずかしい
しないと失礼
改まった席
女性だから
身だしなみ
こだわりがある
時間がかかる
面倒
塗られるのが嫌い
因子
学校
近所
人と接する外
身だしなみ
面倒
表9 場面の因子負荷
因子
第1因子
第2因子
第3因子
学校
近所
人と接する外
.97 1
.022
-.076
.90 2
.013
.015
.90 0
-.074
.161
.85 1
.067
.071
.79 1
-.041
.197
.57 6
.42 1
.027
.32 4
-.052
.133
-.110
1.02 8
-.127
.052
.97 6
-.038
.051
.93 0
-.029
-.022
.89 7
.061
.111
.65 0
-.006
-.077
-.059
.9 89
.083
-.028
.8 61
.270
-.113
.7 78
.121
-.104
.7 73
.253
.076
.6 40
.048
.35 8
.5 93
.139
.055
.4 93
.154
.240
.4 23
.157
.065
-.140
.40 4
-.191
-.175
-.021
.007
.057
-.224
.078
.4 30
-.148
.052
.035
.136
-.143
-.074
-.134
-.083
.023
.018
.146
.035
学校
第4因子
身だしなみ
.013
.034
-.036
-.060
.015
-.044
.069
.069
-.070
-.030
-.015
.192
.099
.001
-.248
.048
.055
-.144
.223
.115
.69 0
.66 1
.61 5
.57 4
.37 3
.016
.051
-.042
表10 場面の因子相関
近所
人と接する外 身だしなみ
.579
.715
.538
.649
.339
.548
第5因子
面倒
-.014
-.026
-.046
-.004
-.049
.127
.148
.012
.049
-.041
.003
-.115
.023
-.034
.032
-.121
.075
-.106
.025
.218
.022
-.119
.156
-.084
-.057
.77 3
.74 6
.65 3
面倒
-.183
-.374
-.286
-.175
⑤各因子の間の相関
美 的 変 化 の 6 因 子 ,気 持 ち の 変 化 の 4 因 子 ,場 面 の 5 因 子 の 各 因 子 得
点を算出し,それらの間の相関関係を調べた。
美 的 変 化 の 6 因 子 と 場 面 の 5 因 子 の 相 関 は , 表 11 の と お り で あ る 。
12
表11 美的変化因子と場面因子の相関
美的変化
作られた感じ かわいく はっきり 肌がきれい エレガント 化粧が好き
学校
.362
.246
.314
.320
近所
.303
.216
.284
.339
場面 人と接する外
.384
.296
.410
.226
.327
身だしなみ
.315
.394
.446
.266
.331
面倒
.267
場 面 の 5 因 子 と 気 持 ち の 変 化 の 4 因 子 の 相 関 は , 表 12 の と お り で あ
る。
表12 場面因子と気持ちの変化因子の相関
場面
学校
近所
人と接する外 身だしなみ
気分が高まる
.581
.567
.623
.631
気持ちの
積極的
.472
.478
.478
.498
変化 しないと人に会いたくない
.602
.675
.689
.575
化粧に自信がない
面倒
-.382
-.254
.255
美 的 変 化 の 6 因 子 と 気 持 ち の 変 化 の 4 因 子 の 相 関 は , 表 13 の と お り
である。
表13 美的変化因子と気持ちの変化因子の相関
美的変化
作られた感じ かわいく はっきり 肌がきれい エレガント 化粧が好き
気分が高まる
.552
.405
.494
.311
.568
気持ちの
積極的
.599
.456
.369
.374
.512
変化 しないと人に会いたくない
.433
.357
.392
.322
.423
化粧に自信がない
.365
⑥各因子と尺度の相関
各 尺 度 の 得 点 を 算 出 し た 。 自 己 受 容 尺 度 は 「 1. あ て は ま ら な い 」 ~
「 5 . あ て は ま る 」, 自 意 識 尺 度 は 「 1 . 全 く あ て は ま ら な い 」 ~ 「 7 . 非
常にあてはまる」でそれぞれ回答の数値を得点とみなし(逆転項目は数
値 を 逆 転 さ せ 「 5 . あ て は ま ら な い 」 ~ 「 1 . あ て は ま る 」,「 7 . 全 く あ
て は ま ら な い 」 ~ 「 1 . 非 常 に あ て は ま る 」), 各 尺 度 に つ い て 項 目 の 合
計 点 を 算 出 し た 。自 己 受 容 尺 度 8 ~ 4 0 点 ,公 的 自 己 意 識 尺 度 11 ~ 7 7 点 ,
13
私 的 自 己 意 識 尺 度 10~ 70 点 の 範 囲 と な る 。
美的変化,気持ちの変化,場面のそれぞれの因子の因子得点と自己受
容尺度,公的自己意識尺度,私的自己意識尺度との相関関係を調べた。
表 14 に 有 意 に 相 関 関 係 が あ っ た も の の み 示 し た 。 自 己 受 容 尺 度 と の 相
関は見られなかった。
表14 尺度と因子の相関
かわいく
はっきり
美的変化
肌がきれい
化粧が好き
場面
学校
気持ちの変化 気分が高まる
公的自己意識 私的自己意識
.209
.238
.310
.254
.238
.223
⑦使う化粧品の分類別の因子及び尺度の分析
ま ず , 化 粧 品 の 使 用 実 態 に 関 す る 質 問 で の 14 種 類 の 化 粧 品 を 3 つ の
分 類 に 分 け た 。1 ~ 4 の 化 粧 品 は 下 地 な ど 基 礎 的 な 化 粧 品 で あ る た め「 化
粧 基 礎 」と し ,5 ~ 8 の 化 粧 品 は 眼 に 関 す る 化 粧 が 含 ま れ る た め「 眼 の 化
粧 」 と し , 9~ 14 の 化 粧 品 は 最 低 限 必 要 な 化 粧 で は な く , さ ら に レ ベ ル
アップした化粧だと考えられたため「化粧発展」と分類した。そしてそ
の分類ごとに合計点を算出し,各分類の点数を出した。各分類の分布の
およそ中間を境として高群,低群に分けた。いずれも点数が 9 点以下の
人 々 を 低 群 ,1 0 点 以 上 の 人 々 を 高 群 と し た 。高 低 別 に 因 子 得 点 ,尺 度 得
点の平均値を算出した。高低の群で平均値に有意な差があったかどうか
を 表 15 に 示 し た 。
14
表15 化粧品の分類別の因子及び尺度の分析
化粧基礎
眼の化粧
自己肯定意識尺度
尺度
化粧発展
高>低 +
公的自己意識
高>低 *
私的自己意識
高>低 +
作られた感じ
かわいく
美的変化
の因子
高>低 +
はっきり
肌がきれい
高>低 *
高>低 *
高>低 *
高>低 *
エレガント
高>低 +
高>低 +
化粧が好き
学校
高>低 *
近所
場面
の因子
高>低 *
高>低 +
高>低 *
人と接する外
高>低 *
高>低 *
身だしなみ
高>低 *
高>低 *
高>低 *
高<低 *
高<低 +
高>低 *
高>低 *
高>低 *
気持ちの
積極的
高>低 +
変化
の因子 しないと人に会いたくない 高>低 *
化粧に自信がない
高>低 *
高>低 *
高>低 *
高>低 *
面倒
気分が高まる
⑧頻度別・時間別の因子及び尺度の分析
ま ず ,化 粧 頻 度 の 分 類 を 6 つ か ら 4 つ に 分 類 し な お し た 。4 つ の 群 は ,
「 毎 日 す る 」 と 回 答 し た 人 々 を 「 頻 度 高 」 群 ,「 週 に 5 ~ 6 日 は す る 」 と
回 答 し た 人 々 を 「 頻 度 中 」 群 ,「 週 に 3 ~ 4 日 は す る 」「 週 に 1 ~ 2 日 は す
る 」 と 回 答 し た 人 々 を 「 頻 度 低 」 群 ,「 ほ と ん ど し な い 」「 全 く し な い 」
と回答した人々を「しない」群とした。そしてその群別に因子得点,尺
度得点の平均値を算出した。
次に,化粧にかける時間の分類を 6 つから 4 つに分類しなおした。4
つ の 群 は ,「 ~ 5 分 」 群 ,「 ~ 1 0 分 」 群 ,「 ~ 2 0 分 」 群 ,「 ~ 6 0 分 」(「 ~
15
3 0 分 」 の 回 答 を 含 め た ) 群 と し た 。 な お ,「 6 0 分 超 」 と 回 答 し た 人 は い
なかった。群別に因子得点,尺度得点の平均値を算出した。
頻 度 別 , 時 間 別 に 群 間 の 平 均 値 に 有 意 な 差 が あ っ た か ど う か を 表 16
に示した。
表16 頻度別・時間別の因子及び尺度の分析
頻度
時間
自己肯定意識尺度
尺度
公的自己意識
~10分→大 +
私的自己意識
作られた感じ
かわいく
美的変化
の因子
頻度高→大 *
~60分→大 *
頻度高→大 *
~60分→大 *
はっきり
肌がきれい
エレガント
場面
の因子
化粧が好き
頻度高→大 *
学校
頻度高→大 *
近所
頻度高→大 *
人と接する外
頻度高→大 *
身だしなみ
頻度高→大 *
頻度低→大+
しない→大+
面倒
気持ちの
変化
の因子
気分が高まる
頻度高→大 *
積極的
頻度高→大 *
しないと人に会いたくない
頻度高→大 *
~5分→大*
~60分→大*
~60分→大 +
~60分→大 +
化粧に自信がない
考察
本研究では,化粧での美的変化,気持ちの変化,化粧をする場面との
関連や尺度との関係で化粧行動に関わる要因を検討した。
16
美的変化の 6 因子と場面の 5 因子の相関を見てみると「
,かわいく「
」は
っきり」
「 肌 が き れ い 」な ど の「 美 的 変 化 」は ,さ ま ざ ま な 場 面 と 相 関 が
あった。このことから,化粧での見た目の美的な変化を求める人は,ど
の場面に行くにも美しくありたいという思いがあり,日常生活のさまざ
ま な 場 面 に お い て 化 粧 行 動 を 行 う と 考 え ら れ る 。し か し ,美 的 変 化 の「 エ
レ ガ ン ト 」 因 子 は 「 学 校 」「 近 所 」 と は 相 関 が な く ,「 人 と 接 す る 外 」 や
「身だしなみ」では相関がみられた。これは,大学生が学校や近所に行
くときにはわざわざエレガントな化粧をする必要がないから相関はみら
れず,人とより接する場面ではよりきちんとした化粧をするから相関が
み ら れ た の で は な い か と 考 え ら れ る 。ま た ,
「 作 ら れ た 感 じ 」の 因 子 は「 面
倒 」の 因 子 と の み 相 関 が あ っ た 。
「 作 ら れ た 感 じ 」因 子 は ,化 粧 に 対 し て
マ イ ナ ス の イ メ ー ジ を 抱 く 因 子 で あ り ,さ ま ざ ま な 場 面 で 化 粧 を“ す る ”
因子とは相関がなく,ネガティブな要素を含む「面倒」因子とのみ相関
が み ら れ た と 考 え ら れ る 。「 化 粧 が 好 き 」 の 因 子 は ,「 面 倒 」 因 子 以 外 の
どの場面因子とも相関があった。
「 化 粧 が 好 き 」因 子 は ,化 粧 に 対 し て 肯
定的な因子であり,そのような考えを持った人はどのような時でも,好
きである化粧を行うのではないかと考えられる。
場面の 5 因子と気持ちの変化の 4 因子の相関を見てみると,
「学校」
「近
所」
「人と接する外」
「 身 だ し な み 」の 場 面 因 子 と「 気 分 が 高 ま る 」
「積極
的」
「 し な い と 人 に 会 い た く な い 」の 気 持 ち の 変 化 の 各 因 子 に ど れ も 相 関
が 見 ら れ た 。と く に ,
「 し な い と 人 に 会 い た く な い 」因 子 は ど の 因 子 と も
高 い 相 関 が あ る 。し か し ,
「 身 だ し な み 」因 子 の 部 分 が 相 対 的 に 他 の と こ
ろよりも低くなっている。
「 身 だ し な み 」因 子 に は 改 ま っ た 席 な ど が 含 ま
れ,そのような場面に出るときはもはや人に会うことが当然で,当たり
前に化粧をすると考えられるため,
「 し な い と 人 に 会 い た く な い 」と い う
17
次元とはもはや異なっているため相対的に低くなったと考えられる。ま
た,
「 気 分 が 高 ま る 」 因 子 と「 身 だ し な み 」因 子 で 相 関 が 高 い の は ,大 学
生の改まった席に成人式やパーティー,結婚式などが考えられ,そこで
はいつもと違った化粧や服装をするため,気分も高まるのではないかと
考えられる。気持ちの変化の「化粧に自信がない」因子は,ネガティブ
な要素を含む「面倒」因子とのみ相関が見られた。
美 的 変 化 の 6 因 子 と 気 持 ち の 変 化 の 4 因 子 の 相 関 を 見 た と こ ろ ,「 か
わ い く 」「 は っ き り 」「 肌 が き れ い 」「 エ レ ガ ン ト 」「 化 粧 が 好 き 」 の 美 的
変 化 因 子 と 「 気 分 が 高 ま る 」「 積 極 的 」「 し な い と 人 に 会 い た く な い 」 の
気持ちの変化因子はどれも相関がみられた。特に,美的変化の「かわい
く」因子と気持ちの変化の「積極的」因子は高い相関があり,化粧で見
た 目 が 美 し く な る と 心 理 的 健 康 に 影 響 す る こ と が 示 さ れ た 。ま た ,
「化粧
が 好 き 」因 子 と「 気 分 が 高 ま る 」因 子 は 高 い 相 関 が あ っ た 。
「化粧が好き」
因子が高い人は,化粧が好きで肯定的な考えを持っている人であり,心
理 的 に プ ラ ス の 効 果 が 得 ら れ「 気 分 が 高 ま る 」と 感 じ て い る の で あ ろ う 。
ネガティブな要素を含む「作られた感じ」因子はネガティブな要素を含
む「化粧に自信がない」因子のみと相関があった。
各尺度と各因子との相関を見てみると,自己意識と相関があった因子
は,美的変化因子から 4 つ,場面と気持ちの変化因子から 1 つずつの,
6 つの因子との間に相関があった。公的自己意識とは,美的変化の「は
っきり」因子,場面の「学校」因子,気持ちの変化の「気分が高まる」
因子であった。
「はっきり」因子が高い人は,他者から見て「はっきり」見えること
を意識して化粧をすると考えられ,公的自己意識との相関がみられたと
思 わ れ る 。ま た ,
「 学 校 」因 子 と 相 関 が 高 か っ た の は ,こ の 調 査 は 女 子 大
18
学生を対象に行ったため,大学に行く時が最も周りの目を気にして化粧
行為を行うからであると考えられる。
「 気 分 が 高 ま る 」因 子 と 公 的 自 己 意
識で相関があったのは,自分が化粧をして変わったことを他者からどう
見られるかを意識するためではないだろうか。一方,私的自己意識と相
関 が あ っ た の は ,美 的 変 化 の「 か わ い く 」因 子 ,
「 肌 が き れ い 」因 子 ,
「化
粧が好き」因子であった。これらは他者を意識するというよりも自分が
どう美しくなったかという自己満足的な部分もあり,化粧をすることで
の美的な変化と私的自己意識の間に相関がみられたのではないかと考え
られる。
一方,自己受容尺度と相関がみられた因子はなかった。自分のありの
ままを受け入れている人は化粧をあまりしないという仮説を立てたが,
仮説に反した結果となった。
使う化粧品の分類別の因子及び各尺度の分析の結果は次のように解釈
で き る 。「 化 粧 基 礎 」 と 各 尺 度 に は 高 低 の 群 で 有 意 な 差 は な く ,「 眼 の 化
粧 」の 高 群 で は「 公 的 自 己 意 識 」の み が 有 意 に 高 か っ た 。
「 化 粧 発 展 」の
高群では「自己受容」と「私的自己意識」が有意に高かった。眼は,ノ
ンバーバルコミュニケーションにおいて重要な役割を果たし,他者から
どう見られるかを最も意識するところではないだろうか。一方「化粧発
展」は,より高度な化粧品が含まれている。周りから見られるというよ
りもいかに自分をきれいに作り上げるかという自己満足的な化粧だと考
えられるため,私的自己意識で有意な差がみられたと考えられる。自己
受容尺度において化粧発展の高群で自己受容が高くなったのは,自己受
容が高い人は自分のありのままを受け入れているので化粧はしないので
はないかという仮説に反した結果となった。化粧発展でのみ有意な差が
みられたのは,自己受容が高い人は,自分を認めているため,美しくな
19
ってより自分を磨きたいと思っているために発展的な化粧をしているの
ではないかと考えられる。また,この分析結果では,高群が低群よりも
有 意 に 高 い と い う 結 果 が 多 く な っ た ( 表 1 5 )。 化 粧 品 を よ く 使 う 人 , 多
くの化粧品を使う人は,あまり使わない人よりも美的変化や気持ちの変
化を化粧に求めたり,多くの場面で化粧をすることを意識しているので
はないかと考えられる。
頻 度 別 ,分 類 別 の 因 子 及 び 尺 度 の 分 析 を 行 っ た と こ ろ ,化 粧 の「 頻 度 」
の 高 低 に は 有 意 な 差 は な く ,「 時 間 」 で は 「 ~ 1 0 分 」 と 回 答 し た 群 に お
いて「公的自己意識」が有意に高かった。公的自己意識が高い人は,自
分自身で自己満足的に美しくなることを求めるのではなく人から見られ
る部分だけを化粧するというところがあり,その化粧は部分的なもので
10 分 程 度 で 終 わ る た め , 今 回 「 ~ 10 分 」 群 で 公 的 自 己 意 識 が 高 か っ た
の か も し れ な い 。 場 面 の 「 学 校 」 因 子 は ,「 ~ 5 分 」 群 と 「 ~ 6 0 分 」 群
で有意に高かった。大学生には,大学近くに一人暮らしをしている学生
も,実家から通っている学生もいる。一人暮らしの学生は大学にすぐ近
く ,登 校 の 際 に 誰 に も 会 わ な い と い う こ と か ら 化 粧 は 5 分 程 度 で 済 ま せ ,
実家暮らしで公共交通機関を使って登校するような学生は,登校の際に
もさまざまな人の目があるためきちんと時間をかけて化粧をするため,
このような二極化された結果が出たのではないかと考えられる。また,
こ の 分 析 結 果 で は ,頻 度 高 群 や ,化 粧 時 間 が「 ~ 60 分 」群 で 有 意 な 差 が
み ら れ た も の が 多 か っ た ( 表 1 6 )。 化 粧 を 毎 日 す る 人 や , 時 間 を か け て
化粧を行う人は,美的変化や気持ちの変化を化粧に求めたり,多くの場
面で化粧をするのではないかと考えられる。
本研究の結果は,自己意識と心理的影響については予測した通りの結
果となった。しかし,自己受容については仮説と反した結果となった。
20
仮説では,ありのままの自分を受け入れる人は化粧をしないのではない
かと考えたが,ここでの自己受容は見た目に対する自己受容を想定して
いた。しかし,実際に使用した自己受容尺度は自己の内面的な側面を尋
ねたものであり,仮説通りの結果が見られなかったと考えられる。自分
の見た目に対する自己受容と化粧行動との関連を調査すべきであったと
考えられる。
以上のような検討課題が考えられるが,本研究によって化粧行動を行
う要因の検討が示された。
参考文献
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が絶対に出てこない因子分析入門-
北大路書房
森 地 恵 理 子 ・ 広 瀬 統 ・ 中 田 悟( 2 0 0 6 ). メ イ ク ア ッ プ の 心 理 的 効 果 と 生 体
防御に及ぼす影響
日 本 福 祉 大 学 情 報 社 会 科 学 論 集 9 , 111 -11 6 .
引用文献
加 藤 孝 夫 ・ 石 原 俊 一 ・ 大 木 桃 代( 2 0 1 0 ). 女 子 大 学 生 に お け る 化 粧 認 知 及
び行動と心理的健康の関連性
生 活 科 学 研 究 32, 81-89.
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福岡教育大学紀要
第 48 号 , 第 4 分 冊 , 241-251.
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成の試み
心 理 学 研 究 , 55, 184-188
平 石 賢 二( 1 9 9 0 ). 青 年 期 に お け る 自 己 意 識 の 発 達 に 関 す る 研 究( Ⅰ )-
自己肯定性次元と自己安定性次元の検討-
教 育 心 理 学 科 37, 217-234.
21
名古屋大學教育學部紀要
謝辞
本 研 究 に あ た っ て ,ご 多 忙 の 中 ご 指 導 く だ さ い ま し た 松 尾 太 加 志 先 生 ,
および貴重な授業の時間に調査を行わせてくださいました真鍋昌賢先生,
調査対象者になって下さった学生の皆さんにお礼申し上げます。
22