日本の観光競争力――その強みと弱み

【編集後記】
日本の観光競争力 ―― その強みと弱み
先日訪れた大阪・難波の S ホテルのロビーは、大きなスーツケースを携えた 100 人程の中国人観光客であふれ、
けたたましい大声の会話がここかしこで交わされていた。関西空港にも、JR 新大阪駅にも交通至便な難波であるが、
TV 等で報じられる「外国人観光客の増加」という現実、中でも、経済発展が著しいアジアからの団体客のパワーを
目の当たりにし、その迫力にたじろいだ。
最近、外国人観光客が急増している。その主因は「円安」であろうが、ビザの要件緩和や、日本における世界遺産の多さ、
古くからの歴史と伝統に加え、新しいデジタル技術やオタク文化等、多彩な魅力があること、さらに、流行語にもなっ
たおもてなしも評価されてきたものと思われる。
日本政府観光局が発表した本年 4 月の訪日外国人客数は、前年同月比 43% 増の 176.4 万人で、単月として初めて
170 万人を突破した。日本の四季の美しさ、特に桜のお花見は、外国人にも人気があるらしい。
世界の旅行・観光市場は、顕著な右肩上がりを続けている。政府資料によれば、2014 年の国際旅行者数は 11 億 3,800
万人。2030 年には、18 億人を超えると予想されている。
日本への旅行者数は、震災等での激減を経て、2013 年に初めて 1,000 万人を突破、2014 年には 1,300 万人を
超えた。国は、
「2015 年に 1,500 万人、2020 年に 2,000 万人の旅行者」を目標にしているが、現実的な数字となっ
てきた。ただ、関西を訪れる旅行者は、全体の約 1/3 で、この割合を増やすのが関西全体の課題でもある。
また、小山のような家電製品や雑貨類を「爆買い」する等、訪日外国人の買物等の消費額も 2011 年以降急増し、
2012 年が 1 兆 850 億円であったのに対し、2014 年は 2 兆 278 億円と、2 年で倍近くに増えたのは驚きである。
本年 5 月、スイス・ジュネーブに本拠を置く「世界経済フォーラム(WEF)」は、「旅行・観光競争力レポート 2015 年度ランキング」を発表した。WEF は、1971 年にスイスの実業家、クラウス・シュワブが創設、毎年冬に、
スイスのリゾート地ダボスで、世界の首脳ら政治家、ビジネスリーダー、学者、ロビイストら 3,000 人以上が集まっ
て世界経済について議論を交わす。華やかな社交の場でもある。
このランキングで、日本は、世界 141 ヵ国中 9 位と、過去最高の順位を得た(昨年 2014 年は 14 位、2013 年は
22 位で、毎年順位を上げている)。
ちなみに、1 位はスペイン(初)、2 位フランス、3 位ドイツ、4 位アメリカ、5 位イギリス、6 位スイス、7 位オー
ストラリア、8 位イタリア…となじみのある国が上位を占めている。アジアでは、9 位の日本がトップで、11 位にシ
ンガポール、13 位に香港、中国は 17 位、韓国は 29 位にランキングされている。
このレポートをみると、世界標準における日本の観光の強み、弱みが浮かんでくる。(※順位付けの基準として、
「ビ
ジネス環境」部門、
「安全・セキュリティ」部門等、14 の部門に各 10 前後の小項目――例えば、
「安全」部門では、
「殺
人率の低さ」等――があり、それらによる統合評価)
日本は、「人材・労働市場」部門で、小項目の「顧客対応度」が 141 ヵ国中 1 位、同「スタッフ研修」2 位、「初
等教育の就学度」3 位(※ 1 位はシンガポール)と群を抜いている。また、
「安全」、
「健康・衛生」、
「交通インフラ(航
空以外)」、「文化資源」の各部門でも上位の小項目が多い。
逆に、順位が低いのは、
「価格競争力」部門で、その小項目「燃料価格水準」は 126 位、
「国際航空関係費用」82 位、
「高
級ホテルの価格水準の低さ」36 位。また、「ビジネス環境」部門では、「施工許認可に要する日数」が 100 位と低迷
している。
そして、最も気になるのは、観光立国を謳う政府の目標ともいえる「旅行・観光の優先度」部門で、例えば、その
小項目「観光客誘致のためのマーケティング・ブランド戦略の効果度」が 57 位にとどまっていることである。現在
の日本における観光客の増加は、円安効果でその価格面がカバーされているともいえ、これらは、今後の懸念材料と
思われる。 (谷 奈々)
58 21 世紀 WAKAYAMA