401 自著「ノスタルジア鈴鹿の山」

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ササダニ、マダニ
私はかって鈴鹿のイブネに登ったときダニが身体に吸いつかれた経験がある。
ヘソのあたりがやたら痒い。裸になってふっと見ると、血を吸ってぽんぽんに膨れあがった
奴がいるではないか…。引きちぎりたいが、ふわくではK氏が無理にヤツを引きちぎったら、
そこから黴菌が入って化膿。1週間も入院したという。これを思い出したので、すぐかかりつ
けの病院に直行した。この病院の先生は私の被害状況を診察するなり“オーい皆んな
集まれ“と、インターン生や看護師を呼び集め、
「これが笹ダニだ。マダニとも云う。私もはじめて見た。これがいま話題の黴菌で
死亡者も出ているダニだよ」
私のヘソを廻りから大勢が覗きこんだのである。お陰さまで化膿せずに治癒したが、下手する
と黴菌が身体に廻る。これは特効薬がないので死亡することがあるという。
よく“あいつはダニみたいな奴”とか“町のダニ”とか、よくないことに言葉を当てて使う
が、このダニもわが国には800種類もいるという。ダニは虫だが昆虫には入らない。
蛛形類と呼ばれる動物である。最近人間に被害をもたらしているのがイエダニとマダニだ。
ダニに食いつかれたが、気がつかず何日も放置しているには理由がある。まずダニは一ヶ所
に吸い付いたら、口器を深く皮膚に刺して充分に血を吸うまで移動しない。
そして血を吸い込み丸々と身体が大きくなり、どれが頭か身体か区別が出来なくなる。
足も太くなって膨張した身体に隠れてしまう。だからちょっと見るとイボと間違える。
この口器を刺すとき神経を麻痺させる液か何かを入れるらしく、痛いという感覚がしない。
またチクッとする瞬間はあってもすぐ痛みはなくなる。
ダニの口器はモリのように沢山の棘が逆向きに生えている。だから一度皮膚に刺しこまれる
と、なかなか抜けない。喰いつかれたダニを無理やり引きはがすのは禁物である。口器だけが
皮膚に残り化膿する割合が多い。うまくダニを引きはがす方法はベンジンをダニに塗るといい
そうだが、各家庭の台所にある漂白液でも効果があるそうだ。
人間がダニを嫌う理由は彼らが吸血鬼だからだが、それは人間側の勝手な理屈である。
彼らの側からみれば生きるための必要な手段に過ぎない。山歩きで拾う笹ダニ、山ダニは潅木
や薄いササの中にいるだけなので行動範囲は狭い。だからイノシシやサル、人間に遭遇して吸
血するチャンスも少ない。だから奴らは喰いついたら絶対に離れない。
まったく驚くべき本能と習性を持っているようである。