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知覚心理学
2.様々な視覚探索
1)ポップアウト
• 妨害刺激の数によらず,素早く検出される目標刺激.また
は素早く検出されること
– 探索関数の傾き(ターゲット有り)10ミリ秒/個までが目安
– 妨害刺激は特徴が一様で,ターゲットのみ特徴が異なる
– ターゲットを「定義」する特徴「次元」での妨害物の多様性は影
響するが,別の特徴次元での多様性は,影響しない
– 異なる次元の特徴は,視覚系において「独立」に
処理される
– 基本的には,目標と妨害物を入れ替えてもポップ
アウトする
色定義目標のポップアウト
• 目標と妨害物の色差が小さくなると,ポップア
ウトしなくなる
緑
黄
• 妨害物が2色のとき
オレンジ
– 互いに大きく異なる色どうし
⇒ポップアウトする
– 互いに近い色どうし
• 色空間内の直線上で目標と妨害物が両端
⇒ポップアウトする
• 目標が妨害物に挟まれる⇒ポップアウトしない
• 典型的な色の妨害物の中から,少しずれた
色の目標を探す場合と,その逆では探索に
非対称性が見られる
– 直列探索になったから結合探索ということではな
いことに注意!⇒非効率な探索
目標が赤,緑,青
目標がマゼンタ,ライム,ターコイズ
△目標あり,○なし
傾き定義目標のポップアウト
• 目標と妨害物の角度差が小さくなるとポップ
アウトしなくなる(角度差が15度程度以下)
– 縦方向か横方向か(たっているかねているか),
また左に傾いているか右に傾いているか,という
2次元(どちらも2値)をもつ
縦/横の次
元でユニー
クな特徴値
A)
B)
妨害物の傾きが2種類以上の場合
縦/横の次
元でも、右/
左の次元で
もユニークで
ない
• 垂直線分の中の斜めの線分はポップアウト
するが,斜めの線分の中の垂直線分はポッ
プアウトしない(探索非対称性)
運動定義目標のポップアウト
– 運動の速度や方向で定義された目標はポップア
ウトする
• 静止した妨害物の中の運動する目標は,ポップアウト
するが,その逆の探索はやや難しい(探索非対称性)
• 妨害物よりも速い速度で運動する目標はポップアウト
するが,その逆の探索はやや難しい(探索非対称性)
– 速度と方向の間には複雑な相互作用がある
• 妨害物の運動方向の多様性は速度の探索に影響す
るが,速度の多様性は運動方向の探索に影響しない.
2)探索非対称性
• 目標刺激と妨害刺激を交替すると探索時間
が大きく変わるという性質
△ターゲット有り,○ターゲット無し
(Treisman & Gormican, 1988)
ポップアウトしない
ポップアウトする
• 曲線は直線+曲率、斜線は垂直線+傾き、「C」は円+切
れ目,楕円は円+偏平率、「ハ」は平行線+収束
• 標準的特徴値から逸脱した特徴値を持つ刺
激はポップアウトするが,その逆はしない
+αの特徴値が無いものがターゲット⇒直列探索
+αの特徴値があるものがターゲット⇒並列探索
• マゼンタの中の赤、ライムの中の緑、ターコイズの中
の青なども、逆の場合に比べて探索がやや難しくなる。
目標が赤,緑,青
目標がマゼンタ,ライム,ターコイズ
△目標あり,○なし
探索非対称性から、それぞれの特徴
次元における基準値を推定できる
(Treisman & Gormican, 1988)
身近な刺激の探索非対称性
• 見慣れた妨害物中の見慣れない目標の探索
とその逆
– Nと逆Nは、単純特徴が異なる
Wang, Cavanagh, Green, 1994
3)目標に関する知識の影響
~何を探しているの?~
• 直列探索において,目標を知っていると,より
速く探索できる.
(Bravo & Farid, 2009)
– サンゴ礁などのある海中で熱帯魚を探索する
– 事前に,5種類の魚の画像を学習しておく
– 探索画面提示前に,手がかりが提示される
• 目標刺激のイメージを知識としてもっている
と,探索が速い
★視覚情報処理に対する知識や意識の影響をトッ
プダウンという
★これに対し,トップダウンの影響を受けない,外界
からの刺激だけに依存することをボトムアップという
次元(内)促進効果
• ポップアウトにおいても,知識が探索を促進
する.
– 課題:画面中の仲間外れ(odd-one-out)を探索
• ブロック(試行の集まり)内で,妨害物はいつも同じ
(緑の,縦方向の,中くらいの長さの長方形)
A) 既知条件:ブロック内で,目標刺激はいつも同じ
B) 次元内変化条件:ブロック内で目標定義次元が一定
C) 次元間変化条件:ブロック内で目標定義次元が変化
緑,垂直,
中くらい
(Treisman, 1988)
–
•
既知条件と次元内変化条件に比べ,事件間変化条件
の探索時間は90ミリ秒長かった
⇒既知条件や次元内変化条件では、意識的に目標
次元の特徴マップに重みづけした結果と考えられる
4)誘導探索モデル
• 特徴統合理論では説明していない点
1. トップダウンのコントロール(知識の影響)
•
特に、次元内促進効果
2. 探索関数の傾きは連続的
• 並列探索/直列探索にきれいに二分することはでき
ない⇒比較的容易な探索とか,比較的難しいとか
• 誘導探索モデルは,これらの点を解決した
– 顕著性マップにおいて、注意を向ける順序を決定
特定マップからの
出力に重み付け
顕著性(目立ち度)を集計
特に高いものがある⇒ポッ
プアウト
どれも同程度⇒直列探索
特徴マップ:それぞれのアイテムの特徴と,周囲の
アイテムの特徴との差を計算
集約
顕著性マップ:最も高い値のアイテムから順番に注
意を誘導する
トップダウンコントロール:目標の特徴に関する知識
に基づき,顕著性マップへの入力に重みづけする
※様々な段階で,ノイズが混入するため,常に最初に目標に注意
を誘導できるとは限らない.
5)ポップアウトする妨害物
• 妨害物の中に,ポップアウトするものがあると,
そちらに注意が誘導されてしまう?
– 課題:
• 四角と円の枠が複数個提示される.枠内には1個ずつ
小さな線分が入っている
• 線分のうち1個だけは垂直方向または水平方向で他
は斜め方向.このターゲットが垂直か水平かを答える
• ターゲットは必ず緑の円の中にある
A) 探索目標は形で定義されるが,時々,色定
義のポップアウト妨害物がある場合
ポップアウト妨害物
ポップアウト妨害物なし
目標
ポップアウト妨害物あり
(Theeuwes, 1992)
B) 探索目標は色で定義されるが,時々,形定
義のポップアウト妨害物がある場合
ポップアウト妨害物なし
ポップアウト妨害物あり
形定義のターゲット 色定義のターゲット
形定義のターゲット 色定義のターゲット
※赤と緑の色の差を小さくして実験した結果
– 目標とポップアウト妨害物の顕著性の関係による
→誘導探索モデルを支持する結果
– ポップアウト妨害物の影響を受けないように練習して
も,完全に無視することはできない→トップダウンコン
トロールの限界ポップアウトするものを無視しようと
しても無視しきれない
6)(潜在的な)記憶の影響
長期的な記憶の影響:文脈手がかり効果
• 長期的な記憶が視覚探索に影響する
(Chun & Jiang, 1998)
– 1ブロックは24枚の探索画面からなる
• そのうち12枚:全て新しく作成した画面(new)
• 残りの12枚:最初に作成した画面の使い回し(old)
– 何を覚えているのか?
• 妨害刺激の配置(文脈)が記憶され,手がか
りとなって目標位置へと注意が素早く誘導さ
れると考えられる
– 6か月後の再実験でも文脈手がかり効果が見ら
れた
– ※経験に導かれるという利点にもなるが,(潜在
的な)思い込みによる誤りにもつながる⇒機器の
操作など
短期的な記憶の影響:ポップアウトプライミング
• プライミング効果:先行する刺激が後続する
刺激の知覚・認知に影響すること
– 直前と同じタイプの目標が現れたり,直前と同じ
位置に目標が現れる場合に,探索が促進される
• ⇒直前に目標を見た経験(痕跡)が,視覚情報処理経
路に残っている.
• 数画面間あるいは最大10秒間程度の短時間の効果
• 課題:
– 色定義目標の形を見て,切れている側を答える
• 条件:
i.
ii.
一貫条件:ブロック内で目標の色と妨害物の色は固定
変化条件:試行毎に目標の色と妨害物の色が変わる
• 結果:
– 変化条件の方が反応時間が長い
左!
右!
変化条件 (Bravo & Nakayama, 1992)
– 変化条件の結果を詳しく分析⇒先行する試行と
色が同じか否かで分類して集計
この試行(n試行)の
RTは、n-1試行から色
変化として集計
第n試行
(Maljkovic & Nakayama, 1994)
• 5個前の試行から,一致しているかどうかの影響が見
られる→過去の探索の影響が無意識のうちに現れる
7)目標出現確率の影響
• 目標の出現確率が低いと,ミス率が高くなる
– アイテム数は,3,6,12,18個
– 目標出現確率は,1,10,50%
(Wolfe et al. 2005)
• 2000回中20回,200回中20回,200回中100回
• 出現確率1%の条件で,ミス率が高い
出現確率50%
1%
目標あり
ミス
ミス
出現確率1%
10% 50%
目標なし
出現確率50%:目標なしのRTが長い
出現確率1%:目標なしのRTが短い
– 目標が見つからないと判断して探索を切り上げる時
間の閾値が短い⇒要注意!
• 目標出現確率を上げるために,偽の目標を
加える
• 高出現確率目標(44%)
• 低出現確率目標(5%)
• 超低出現確率目標(1%)
ミス率11%
ミス率25%
ミス率52%
どれかが出る確率を50%としても,超低出現確率目
標のミス率は高いままである
8)結合探索:色どうし,傾きどうしの
結合の探索
• 同じ次元からの2特徴値の結合探索は非常
に難しい
目標
妨害物
9)その他:絵画的奥行手がかりで定義された
目標の探索
• 3次元形状(陰影に基づく)で定義された目標の探索
• 絵画的奥行き手がかりが視覚の基本特徴であること
を示す
単純特徴
• 面の特徴:明るさ,色,テクスチャ(肌理・模
様),運動(方向),両眼視差
• 形の特徴:傾き,大きさ,湾曲,閉合(図形が
閉じていること),交差など
• その他
• 線遠近法に基づく3次元形状で定義された目
標の探索の場合
• 遮蔽関係の知覚と保管により探索が困難に
なる場合
• 遮蔽関係からの奥行き知覚により探索が容
易になる場合