吸引プロ トコル

(第
2版 )
め
(社 )日 本 理 学療法士協会
JPTA
理学療法士による喀痰吸引 について
(社 )日 本理学療法士協会
会長
半 田一 登
理学療法士の業務上で様 々な疾患 の患者 さんが痰 による窒息で苦 しんでい る場面 に遭遇 します。
このことは単 に呼吸理学療法時のみではな く、脳血管障害者 ・頚髄損傷者 ・難病患 ・
者 高齢患者
等に対す る理 学療法時 にもみ られます。 また、喀痰吸引の必 要性 は急性期か ら回復期 そして生活
期 までに及 びます。 この よ うな こともあ り本会 の総会等 で喀痰吸引に関す る都道府県理学療法士
会の要望は毎年 のよ うに出され て きました。本会では理学療法士の喀痰吸引について理解 を求め
る活動 を地道に展開してきました。特 に平成 19年 に刊行 されました 「吸引プ ロ トコルJ作 に
成 当
たつては 日下隆一氏、大久保圭子氏、千住秀明氏そして高橋哲也氏の功績 は大 であつた と えて
考
い ます。また、全国で展開しました研修会を主導 していただ きました多 くの方 々に
もこの場 をお
借 りして感謝 の意を表 させていただきます。
本会では平成 21年 度 に厚生労働省 と 10回 に及 ぶ勉強会 を行 い ました。その第 3回 目は吸引問
題 がテー マ にな り、 日下氏 と千住氏 の参加 を要請 し、この両名 か ら理学療法士による吸引の必 要
性 を説いていただきました。後 日談 として、「理学療法士が求めてい る吸引について理解 で きなか
つたのです がこの度 の勉強会で臨床 の実態 と要望背景がはっ き りと判 りました とい こと
」
を言
ぅ
われました。 そして、最後 の勉強会で別の担当者からは 「理学療法士による吸引の必要性は胸 に
深 く刻みましたJと も言及 されました。
今回の厚生労働省 の決定は吸引を理学療法士の 「業Jと することを認 めた ものです。「業Jと は
「繰 り返 し行 う行為」 とい う定義にな りま
す。大げさに聞 こえるか もしれませんが筋力増強や歩行
練習 と同列に考えなければな らない とい うことです。「業」 とい うことを前提 に考えれば、在校生
には卒業 までに吸引に必 要な知識 と技術 を習得 させ る ことが求め られます。そ して、既卒者 は
吸
引に関す る知識 をまず 自己学習な り組織的に行 う必要が あ ります。その上で所属する施設等 の医
師や看護師の協力 の下で練習 を行 うこ とが肝要です。緊急避難的行為であれば、その結果 につい
て責任 を追及 され ることはあま り考 えられませんが、業である以上は行為の結果 に対 して
当然責
任 を問われ るこ とにな ります。 また、必 要な吸引を講 じなかったことによる結果責任 も問われ る
可能性 が あ ります。いずれ にして もすべ ての理学療法士が喀痰吸引につ いての基礎知識 と
技術 を
獲得する必要性が生 じたことにな ります。
この度 の結果 は理学療法士の業務 が拡大 した とい う考 え方 ではな く、理学療法士の
責任 が増大
した と考えるこ とが大切です。 この よ うな状況 の 中で改定版 のプ ロ トコル を全会 に配布す るこ
員
とにしました。本 プ ロ トコルがすべての会員に活用 され ることを,さ よ り期待 しています。
理学療法士が喀痰等 の吸引を行 うにあたって
平成 22年 4月 30日 、厚 生 労働省 医政局長 よ り理 学療 法 士 等 に よる喀痰等 の 吸 引 の行為 を合法
化す る通知 が 出 され ま した。 しか しなが ら、理 学療 法 士が 吸 引 を行 えるよ うになった とい うこ と
で 、 い たず らに実施 す るよ うな こ とは決 して あ つてはな りませ ん。吸引は侵 襲 的医療行為であ り、
患者 には苦痛 が伴 う処置 である ことを決 して忘れ て はい けませ ん。
吸 引行為 は、時 に息 者 の状態 を変化 させ 、生 命 に危 険 を及 ぼす こ とが あ ります。 よ っ て、 吸 引
に際 しては、病状 の悪化 を未然 に防 ぎ、 安全性 を考慮 した適 正 な手 技 で行 うこ とは もちろん です
が 、十分 なアセ ス メ ン ト能力 を身 につ けてお く必要 が あ ります。不用 意 または不必 要 な 吸 引 は患
者 に苦痛 を与 え、合併症 な どを引 き起 こす可能性 もあ ります。 しか し、 も し必 要 な吸引 を怠れ ば、
最悪 の場合 は死 に至 らしめる こともあ ります。 したがって 、吸 引 を行 う際 には、 まず は吸 引 が本
当 に必 要 か ど うかの判 断 が重 要 とな ります。 そ して、 吸 引 が必 要 と判 断 され た場合 には、適切 な
アセ ス メン トの も とに安全 で効果的 な吸引 が行 わな けれ ばな りませ ん 。
臨床 において理学療 法 士が 吸 引 を行 う場面 は、体位排痰法 な ど呼 吸理学療法 を実施す る際 に最
も多 い と考 え られ ます。 これ は、在 宅 医療 を受 けて い る患 者 か ら集 中治療 を必 要 とす る患 者 まで
非常 に多岐 にわた ります。気管 吸引 はいわ ば気道浄化 法 のひ とつ です。呼吸理 学療 法 の手技 は も
ちろんですが、加温加 湿、咳 嗽力 な どの知 識や技術 も習得 して十分な排 痰 法 を施 行 した上 で、必
要 に応 じて適 正 な吸 引 を実施す るべ きであ るこ とを強調 してお きます、 また、われわれ 理 学療法
士が 注意 しな けれ ばな らな いのは、通常業 務 では慣 れ ていない感染管理 です。感染管理 を的確 に
行 うこ とは、適 正 な手技 で吸 引 を実施 で きるよ うになるの と同様 に重 要 であ る こ とを認識 して く
だ さい。
このプ ロ トコル が理学療 法 士の 吸引行為 のす べ て をカバ ー す ることは 困難 です。 この プ ロ トコ
ル を参考 に所属す る各病 院 ・施設、各養成学校施設 お いて 、それ ぞれ の 実 情にあった教育 ・ 研修
等 を受 けて 安全確保 に十 分 に努 めて 吸 引 を実施 す るよ うにお願 い します。 また、 rii床 場面 で 吸 引
を行 う際 に、患者 の病態 が悪化す る恐れ が あ る と予想 され る場合 は、十 分 に注意 を払 うとともに
医師 の監督 の 下 に慎重 に吸 引 を行 うこ とを強 く推 奨 い た します。
高度 な技 術 と専 門的 な知 識 を も つ て 吸 引 を実施 す る こ とは、 よ り質 の 高 い レベ ル の理 学療 法
を提供 で きる こ とに通 じることと考 えます。今後 も プ ロ トコル の 見直 しを図 るな ど、 吸引 に関す
る標 準的内容 の情報 を提供 してまい ります ので 、会 員 の皆様 には 引 き続 き ご協力 をお願 いい た し
ます。
理 学 療 法 士 に よ る 吸 引 行 為 に つ い て …………………… ………………………
1
1
チーム医療推進 の立場 から ……………………………… ……………………… … … … ……1
2
日本理学療法士協会の基本姿勢について … ……………………………………………… ¨2
……………………………
…………
………
…………
…3
Ⅱ 感染対策 ……………………………
1
標準予防策 (ス タンダー ドプレコーシ ョン)に つ いて ………… ………………………… 3
2
標準的予防策の実際 ………………………………………… ……………………………… 4
…………
……………………………
…8
Ⅲ 吸引の実際 ………………………………………¨
1
気管吸引の適応 ……………………………………………………………………………… 8
2
3
4
5
6
気管吸引実施までの流れ …………………… ……………………………………………… 9
気管吸引の必要物品 … …… …………………………………………………………………11
気管吸引の実施前準備 ………………………………………… ……………………………12
部位別の気管吸引の手順 ……………………… ……………………………………………13
気管吸引時の蘇生バ ッグの使い方 ……… ………………………………………………… 19
…………
……………………………………… 21
………
吸引のための基礎知識 ………
Ⅳ
1
呼吸器系 Respiratory systemの 構造 ………………… …………………………………21
2
3
4
5
6
喀痰に関する基礎知識 …………………… ……………………………………………… …26
吸引が身体に与える影響 …………………………………………………… …………… ¨29
吸引のタイミング ¨……………… ¨……… ………………… ¨… ¨………………… ¨…………30
気管挿管 について ………………………………………………………………… … ………31
人工気道 (挿 管チ ューブ、気管切開チ ユープ)… ………………………… … ……………32
:
理学療法士による限引行為 について
1.チ ー ム医療推進 の立場 か ら
①
理学療法士が体位排痰法 を実施す る際、作業療法士が食事訓練 を実施す る際、
聴覚士が唯下訓練等 を実施 す る際な ど、喀痰等 の吸引が必要 となる場合 がある。
五叩 ︵
ツ
ロ
ン
一
〓
﹂
1)喀 痰等 の吸引
喀痰等 の吸引 については、それぞれ の訓練等 を安全かつ適切 に実施す る上で当然 に必
要 となる行為 であることを踏 まえ、理 学療法士及び作業療法士法 (昭 和 40年 法律第
137号 )第 2条 第 1項 の 「理 学療法」、 同条第 2項 の 「作業療法J及 び言語聴覚 士 法
(平 成
9年 法律第 132号 )第 2条 の 「言語訓練その他 の訓練Jに 含 まれ るものと解 し、
理学療法士、作業療法士及 び言語聴覚士 (以 下 「理学療法士等」 とい う。)が 実施す る
ことがで きる行為 として取 り扱 う。
②
理学療法士等 による喀痰等 の吸引の実施 に当たつては、養成機関や医療機関等 にお
いて必要な教育・研修等 を受けた理学療法士等 が実施す る こととす るとともに、 医師
の指示 の下、他職種 との適切な連携 を図るなど、理学療法士等 が当該行為 を安仝 に実
施できるよう留意 しな けれ ばな らない。今後 は、理学療法士等 の養成機関や職能団体
等 においても、教育内容 の見直 しや研修 の実施等 の取組 を進めることが望まれる。
平成 22年 4月 30日 付、医政発 0430第 1号
各都道府県知事あて厚生労働省医政局長通知 よ リー部抜粋
-1-
2.日 本理学療法士協会の基本姿勢 について
平成 22年 5月 24日
会長
半田
一登
理 学療法 士に よる「吸引」 に 関す る協会 の基本 姿勢 について
理学療法 士 による吸引 につい ては、す でに ご案 内 の通 り、4月 30日 厚生労働省 医政局
の通知 (医 政発 0430第 1号 )に よつて、理 学療法 士 の業 として実施す る こ とが可能 とな
りま した 。 これ まで長年 にわ た る関係各位 の ご努力 につ いて改 めて御礼 申 し上 げる次第
です。
本件 につ いて は、5月 7日 発行 の協会 フ ァ ックス通信 53号 にも掲載 の通 り、理 学療 法
士 の社会的責任 が適切 に果 たせ るよ うに努力 してい く必 要 が あ ります。
協会 とい た しま しては、本件 につい て 、以下 の よ うに考 えてお ります。
1
理学療 法 士が吸引 を実施す る際 には、必 要 な知 識 と技術 を十 分 に習得 した上 で安全 か
つ 効果 的な点 を含 めて適切 に行 う必 要 が ある。
2
各養成学校施設 においては、 吸引 に必 要な講義 、実習 (臨 床実習 を含 む)を 確実 に実
施 し、 す べ ての理学療 法 士が 吸 引 を適切 に実施す るため の教育体制 につい て構築 ・ 点
検 い ただ きた い 。
3
各病院 ・施設 においては、本件 につい て 医師、看護師等 々 との業務上 での役割 を確 認
し、 緊急時等 の対応 につ い て も組織 の 中 で 明確 に した うえで個別 の対応 を行 ってい た
だ きた い 。
また、 吸 引 に関す る業 務 マ ニ ュアル として 、関係職種 か らの知 識 と技術 の伝達 な ら
び にプ ロ トコール を明確 にす る こ とを期 待す る。
4
理学療法 中 の喀痰 の 吸引が必 要 になった場合 には速や か な対応 が求 め られ ます。 そ の
ため、 リハ ビ リ室等 に吸 引装置 の設置 をす る こ とについ て病院所 において検討 して い
ただ きたい 。
5
各都道府県理学療法 士会 においては、上 記 の情報伝達 に努 めていただ き、必要な会 員
へ の講習会等 の 実施 を ご配慮 いた だきたい 。
6
協会 では 、上記 に必 要な啓発 な らび に伝達講習等 の標準的な内容 につ いて 引き続 き検
討 して い く。
―-2-―
感染対策
Π
1.標 準予防策
(ス タンダー ドプ レコー シ ョン)に つい て
(1)標 準 予 防 策 と は
標準予防策 とは 「患者 の血液、汗以外 の湿性物質 (唾 液、鼻汁、喀痰 、尿、便、腹水、胸水、
涙、母乳、膿な ど)、 傷 のある皮膚、粘膜は感染症 のおそれがあるJと みなして対応す る方法であ
る。 これ らの物質 に触れ た後 は手洗 い を励行 し、あらかじめ接触 が予想 され るときには手袋、エ
プ ロンな ど予防具 を用 い、処置 の前後 には手洗 い・手指消毒を行 うことが、すべ ての院内感染対
策 の基本である。
表 1 す べ ての医療現場 にお けるす べ ての患者 に対する標準予 防策 の適用 についての勧告
(一 部抜粋 )
勧
1
2
手指衛生
告
血液 、体液、分泌液 、汚染物 に触れ た後
手袋 を外 した直 後
患者 と患者 のケ アの間
個人 防護具
手袋
血液、体液 、分泌物、汚染物 に触れ る場合
粘膜や創傷 のある皮膚 に触れ る場合
ガ ウン
衣類 /露 出 した皮膚 が血 液 、体液 分泌物 、排せ
つ 物 に接触 す ることが予想 され る処 置や ケアの間
マ ス ク、 ゴー グル 、 フ ェ イ ス シー ル ド
血液、 体液 、分泌物 の はね や しぶ きを作 りや す い
処置や患者 ケアの間 (特 に吸 り、気管内挿 管 )。
(2)予 防具 の 着脱 につ いて
1)着 用の順番
ガウン→ マス ク→ ゴー グル、フェイスシール ド→手袋
2)は ずす順番
手袋→ ゴー グル、フェイスシール ド→ マス ク→ ガウン
-3-
2.標 準的予防策の実際
手指衛生は感染対策 の基本 であ り、手指 か ら病原微生物 を取 り除 くことで微生物 の伝播 を防 ぐ。
2
表
手指衛生 について
種類 と目的
必要な場面
日常的手洗 い
汚れお よび一過 性微 生物 の
除去
石 鹸 と流水 を用 いて 1015秒
間洗 い 、汚れや有機物お よび
一過性菌 を取 り除 く
通常 の理学療法や血圧測定 の 前後
排泄 の後や清掃 の後
手袋 を外 した とき
衛 生 学 的手洗 い
一 過性微生物 の 除 去や 殺 菌
石 鹸 と流 水 を用 い て 30秒 間
以 上 洗 う。 または速乾性手指
消 毒 薬 に て手 指 の 消 毒 を行
う。
重度な免疫不全状態 にある患者や
新生児な どハ イ リス ク患者 と接触
す る前後
血液、体液、分泌物、排泄物 な ど
で汚染 した と考 えられ る場合
感染または保菌者 と接触 した後
-4-
0消
0指
毒 薬 の 規 定 量 を手 掌 に 受 け取 る
の 間 に も擦 り込 む。
(注 )。
② は じめに両手 の指先 に消毒薬 を擦 り込
む。
0親 指にも擦り込む。
0次 に手掌によく擦り込む。
0手 首 にも擦 り込む。最後 は乾燥するま
でよ く擦 り込 む。
0手 の 甲に も擦 り込 む。反対側 も同様
に
。
図 1 衛生学的手洗 い手順 (速 乾性手指消毒 薬 を用 い る場合 )
(注 )規 定量 の 目安 は 15秒 以 内に乾燥 しない程度 の量
-5-
0流 水 で洗浄す る部分 をぬ らす。
O指 先までよく洗う。
② 薬用 せ つ けん を手 掌 に とる。
0親 指 の周囲 もよ く洗 う。
0手 掌を洗う。
0手 首も洗う。
0手 掌 で手の 甲を包むよ うに洗 う。 反対
0温 水で洗い流す。
側 も同様 に。
0指 の間もよく洗う。
図2
⑩ ペーパー タオルな どで拭 く。
衛 生学 的手 洗 い手順 (石 鹸 と流 水 を用 い る場 合 )
-6-
0内
0手 袋 を した一方の手で反対側手袋の裾
11が 外側 にな るよ うに脱 が して い
く。
の端 を外 側 よ りつか む。
② 内恨Jが 外侶1に な るよ うに脱 が して い
く。
O先 に脱 が した手袋を包むように して脱
0-側
0廃 棄する。
がす。
の手袋 を完全 に と り外す。
0手 袋 を外 した手 で、 もう一方の手袋の
内側 に手 を差 し入れ る。
図
文
3
汚染 手袋 の外 し方
献
1)大 久保憲訳,小 林寛伊監訳 :医療現場 における手指衛生のための CDCガ イ ドライ ン,メ ディカ出版 ,2003
2)矢 野邦夫 ,向 野賢治 訳編 :改 訂 2版 医療現場 における隔離予防策 のための CDCガ イ ドライ ン,感
染性微生物 の伝播予防 のために,メ ディカ出版 ,2007
-7-
暇引の実際
本項 の気管吸引の適応、 アセスメン ト、手順等 については 日本呼吸療法医学会 による 「気管吸
引のガイ ドライ ンJつ に従 って作成 したものである。
1.気 管取引の適応
気管内分泌物 の吸引 による低酸素血症や呼吸困難感等 の患者 の身体的・精神的苦痛 の軽減 が速
や かに必 要 な場合 が適応 となる (疾 患 の如何は問わない)。
(1)適 応 と な る患 者
1)気 管切開、気管挿管 などの人工気道 を用いてい る患者
2)1)以 外 で患者 自身 によつて効果的な気道内分泌物の喀出ができない場合
(2)適 応 となる状態
患者自身の咳嗽、呼吸理学療法や加温加湿療法等の侵襲性の少ない方法を実施したにも関わら
ず気管内分泌物 の喀出が困難 であ り、以下の所見で気管内分泌物 が存在す ると評価 された場合
1)努 力性呼吸が強 くなってい る場合 〈
呼吸仕事量増加所見 :呼 吸数増加、浅速呼吸、陥没呼
吸、補助筋活動 の増加、呼気延長 な ど)。
2)視 覚的 にチ ューブ内等 に気道内分泌物 が確認 され る場合
3)胸 部聴診 で気管か ら左右主気管支 にか けて分泌物 の存在 を示唆す る副雑音
(断 続性 ラ音 )が
聴取、または呼吸音 の低下や減弱 が認 められる場合
4)胸 部 を触診 し、ガスの移動 に伴 つた振動 が感 じられ る場合
5)頻 回な湿性咳嗽 を認 める場合
6)誤 喋 した場合
7)1)か ら 6)の 状態 に加 えて、動脈血液ガスや経皮的酸素飽和度において低酸素血症 の存在、
人工呼吸器装着者 では気道内圧上昇や換気量低下、■ow曲 線 の動揺 の存在 が認 められる場合 。
-8-
2.気 管吸引実施までの流れ
(1)気 管吸引実施 までの流 れ
(図 4)
気管吸引を実施する際には、患者の十分なアセスメントを行つた後、気道内分泌物の存在を示
唆す る所見を認 め、 自己喀出が困難な場合 に行 う。
また、気道吸引中は患者 の状態変化 に留意 し、可能な限 リモニ タ リングを行 い、 リス クの管理
に努 めるべ きである。そして、終了後 にも再度アセス メン トを行 い、患者 の状態 を理解す る。
気管吸引に至るまでの流れ 1】
【
排痰 を目的 に専門的排痰法 (呼 吸理学療法手技 )を 行 っていて
痰 の 吸引 が必要 と判断 されるよ うな状態 にな った場合
痰貯留位置 の確 認の ための 身体 アセス メン ト
ψ
専 門的排痰 法 (呼 吸理学療 法手技 )に よる痰 の剥離 と流 出誘導
ψ
自己喀痰不可能
気管吸 引 に よる速 や かな患 者 の 苦痛 の軽減 が必要 な状態
17‐
ば
1え
i
効果的な咳嗽ができずに痰の喀出が困難で呼吸困難を呈 している
気管内チューブまたは気管切開チュープの入り口付近に痰があふれてきてぃるよ うな状態
ψ
気管吸 引
ψ
痰 除去 の確認 の ための 身体 アセスメン ト
気管吸引に至るまでの流れ 2】
【
脳血 管障害 や骨関節 障害 な どの主 障害 に対 して理学 療 法 を行 って い て
痰 の吸 引 が必要 と判断 され るよ うな状態 にな った場合
理学療 法実施 中、主気管支 レベル に痰 が 移動
ψ
意識状態低下 や 呼吸筋力低下 な どによ り、 自力での痰 の 喀 出 が困難
えば
夕」
:
・効果的な咳嗽ができずに痰の喀出が困難で呼吸困難 を呈 している
気管内チュープまたは気管切開チュープの入り口付近に痰があふれてきているよ うな状態
ψ
気管吸引
ψ
痰 除去 の確 認 の ための身 体 アセス メン ト
図4
気管 吸 引 に至 るま での流 れ
-9-
(2)ア セ ス メ ン
ト項 目
1)理 学所見 :視 診 :呼 吸数、呼吸様式、胸郭 の動き、皮膚 の色、表情
触診 :胸 郭 の振動や拡張性
聴診 :副 雑音 の有無
2)ガ ス交換所見 :経 皮的酸素飽和度、動脈血液ガス
3)咳 嗽 :咳 嗽反射 の有無、咳嗽の強 さ
4)気 道内分泌物 :色 、量、粘性、におい、出血の有無 の確認
5)肺 メカニ クス所見 (人 工呼吸器装着時):最 高気道内圧 の上昇 、換気量 の低下、■ow曲 線 の動
揺、
6)循 環動態 :血 圧、心拍数、心電図
7)頭 蓋内圧 (ICP)(必 要があれば
8)主 観的不快感 :疼 痛、呼吸苦、呼吸困難感 など
)
(3)モ ニタリング項 目
気管吸引の実施には、合併症 を伴 う可能性 がある (P.29参 照)。 特 に、低酸素血症、循環 の不
安定、精ネ
申機能や意識 レベルの変動 は生 じやす く、吸引中も Sp02、 チアノーゼの有無、血圧、心
拍数、心電図の変化、精神機能・ 意識 レベル を中心 としたモニ タ リングが必 要 である。万一、気
管吸引実施 中に明らかな異常所見を認める場合、気 管吸引実施後 に実施前 の状態 に回復 が認 め ら
れない場合 には、速や かに医師、看護師 に報告す る。
―-10-―
3.気 管吸引の必要物品
吸 引 に必 要な器具 は、看護 師 によつ て準備 され てい るもの を使用 す る。 看護 師 による始業点検
が行 われ てい る こ とを確認 し、必 要物 品 の確 認や 吸引装置 の動作確認 は理 学療 法 士 も実施す るこ
とが望 ま しい 。
(1)必 要 物 品 例
1)吸 引装置
(図 5)
(図 6)
吸引装置には、その使用 目的や吸引圧力 の違 い によ り、病 院中央配管 の吸引源又 は電動式
吸引装置、バ ッテ リー を内蔵 した携帯用吸引器 な どがある。吸引装置 には、吸引管 (吸 引 ビ
ンと吸引カテーテル を接続す るチ ュー ブ)を 装着す る。
2)適 切な直径 の滅菌気管内吸引カテーテル
(表
3)あ るいは開鎖式吸引システム
(後 述 )
医師や看護師の使用 している滅菌吸引カテーテル・ 開鎖式吸引システム を使用する。
3)滅 菌手袋
(開 放式吸引用
)や 未滅菌手袋
4)滅 菌蒸留水 または生理食塩水
(気 管用 )、
水道水 (鼻 腔 ・ 口腔用、吸引管洗浄用
)
5)滅 菌 カ ップ・ 未減菌 カ ップ
6)滅 菌 セ ッシ
7)ア ル コール 綿
8)カ フ圧計 (P32参 照
)
そ の他 、安全対策 の物 品 としてパ ル ス オキシメー タ、
心電 図、流 量 計 付 き酸 素 供 給 装 置 と用 手 的蘇 生 バ ック
(バ ックバ ル ブマ ス ク、 ジ ャ ックソン リース等 )、
聴診器。
感染予防物 品 として ゴー グル 、 マス ク、 ビニ ール エ プ ロ
ン、速乾性手 指消毒液 な どを準備す る。
図 5 吸引必要物品例
表 3 気管内挿管チ ユー ブと減菌吸引カテー テルの対応表 (参 考 )
気管 内チ ュー プ 内径
(mm)
(滅 菌手袋、滅 菌蒸留水 、吸引カテーテ
ル等
)
吸引 カテー テ ル (フ レンチ )
滅菌吸け│カ テーテルが 12∼ 14フ レンチになる と太 く、かな りの硬 さがあ
るので機 械的 に粘膜 を損傷 しないよ うに取 り扱 いに注意す る。 1日 以上、人
工呼吸器 を装着す る患者 の吸引には、 一時的な気管内吸引よ りも 「開鎖式
吸引カテー テル J(イ ンライ ン吸引カテーテル )が 使用 され る場合 もある。
―-11-―
図
6
吸引装 置例
4.気 管吸引 の実施前準備
(1)気 管吸引の事前取 り決め事項
気道吸引が必 要 になると予想 され る患者 には、個別 の患者 ご とに取 り決め事項などを医師もし
くは看護師等 のスタ ッフと事前 に確認、協議 してお くべ きである (表
表
4
4)。
事前 に確認 ま たは協 議 して お くポ イ ン トお よび指示 を受 けるポ イ ン ト
無菌操作や感染予防 のための対応 につ いて
気管吸引 の方法 (開 放式 あるい は閉鎖 式 )に つ いて
気管チ ュー プの種類 長 さ 太 さについ て
気管吸引 の 具体 的方法 (挿 入 の 深 さ、 吸 引時間、吸 引圧 )に つ いて
気管吸引 中のモ ニ タ リン グ項 目につい て
吸 引カテ ーテルの使用後 の処理方法 につい て
吸 引前後 の酸素投与、 バ ック換気 の有無 につ いて
吸 引後 の 人 工 呼吸器 設定確 認 のポ イ ン トに つい て
・ 緊急時 の 医師や看護師 へ の 緊急連絡先 につ いて
そ の他 の気管吸 引 に際 して患 者特有 の 注意事項 につい て
(2)患 者 の状態 の把握
患者が自力で喀痰ができる場合は、自己喀痰を最優先する。
アセ ス メ ン トを行 い 、気道 内分泌物 の 吸引 に伴 う速や かな苦痛 の軽減 が必 要 な状態 であ る こ と
を確 認 し、実施 に至 る。 盲 目的 な吸引行為や 必 要以 上 の 吸引行為 は、 リス クや 合併症 の 可能性 を
高 め るの み でな く、患者 の精神 的 。身体 的苦痛 を生 じるため避 けるべ きであ る。
(3)患 者への説明
意識 のある患者 に吸引を しよ うとす る際には、患者 に吸引行為 の必要.陛 、 どのよ うな こ とをす
るのかを説明 し協力 をえる。気管吸引は侵襲的で苦痛 を伴 う処置 であ り、吸引行為が耐 えられな
い場合 には、合図な どで伝 えるよ う事前 に取 り決めをしてお く。また、鎮静中や意識 のない患者
にも声 か けを行 い、患者 の人権 に配慮す るよ うに努 める。
―-12-―
5.部 位別の気管吸引 の手順
気管 吸引 は、 気管チ ュー ブや気管 カ ニ ュー レ等 の人 工 気道、 日腔や鼻腔 内 の各部位 によってそ
の方法や手順 は異 なる。 実施 上 の 注意点や留意点 を加 えなが ら、各 部位別 の気管 内吸引 の手順 に
つ いて 、以 下 に説 明 を加 える。
(1)人 工 気道
(気 管 チ ュー ブ、気 管 カ ニ ュー レ)
開放式吸引の場合
1)手 洗 い を行 う
。感染 を防 ぐために衛 生 学 的手洗 い をす る
(P5参 照
)。
2)手 袋 を装着す る
・ 未滅菌手袋 を左手 (非 利 き手 )に 装着す る。
・感染 を防 ぐために手 袋 は両手 に装着す るが、右手 (滅 菌手袋 を装着 す る側 )の 操作 が残 って
い るので 、 この タイ ミングでは左 手 (非 利 き手 )の み に装着す る。
3)吸 引器 の吸引圧 を調節 す る
(図 7)
・ 吸引圧 は 医師、看護師 の指導 の も とに設定す るが、成
人 で は 150mmHg(20kPa)、
小 児 で は 120mmHg(15
kPa)程 度 が推奨 され て い る。
・ 高 い圧 での 吸 引 は、気道粘膜 の損傷や低酸素 血 症 、肺
胞虚脱や無気肺 を引 き起 こす危険性 が あるため、 よ り
低圧 での 吸引 が望 ま しい (た だ し、 分泌物 の粘凋度 に
よつ て は吸 引圧 を上 昇 させ なけれ ば、気 管吸 引 の効果
が得 られ な い場合 もあ る。 合併症 に注意 し、他 の 医療
図7
吸 引圧 の調節
ス タ ッフ と協議 しなが らすす め る)。
4)吸 引管 と滅菌吸引カテー テル を接続 した後 、滅 菌手袋
を右 手 (利 き手 )に 装着す る
・ 滅菌 吸 引カテ ー テル の袋 を数
ル と吸 引管 を接続
(図
cm開 け、吸 引 カテ ー テ
8)し 、吸 引カテ ー テル を袋 か
ら 10cm程 度 ひ き出 してお く
(こ
の 時点 で 吸引カテ ー
テル を全 部 引 き出 して しま う と気管 内 に挿入 され る部
分 が不潔 にな りやす いた め、 吸 引カテ ー テル の大部分
図 8 吸引カテーテル と吸引管の接続
は袋 に挿入 したままに してお く)。
・ 袋 に入 つ た吸 引カテ ー テル と吸 引管 をひ とま とめに して左 手 に持 っ た状態 で 、右手 に滅菌手
袋 を装着す る (以 後 、右 手 は挿入す る吸 引 カテ ー テル 以外 は触 らず 、 清潔操作 を実施 す る
図 9)
-13-
:
5)右 手 で吸 引カテー テル を引 き出 し、カテー テル の先端
5cm程 度 の と ころを持 つ
。滅菌手袋 がなけれ ば、滅菌 セ ッシで もよい。
6)左 手 で人 工呼吸器 を人 工気道 よ り取 り外 し、清潔 な場
所 に置 く
7)右 手 に持 つた吸引カテー テル をゆ っ く り愛護的 に人工
気道 内に挿入す る
(図 10)
図
・ 気管や気管支壁 を損傷 しない よ う吸 引圧 をかけず に吸
9
減 菌手 袋 の装着
引カテ ー テル を挿入す る ことが基本 で ある。 しか し、
視覚 的 に気 道 内分泌物 が確認 で きる場合や気道 が 閉塞
して しまいそ うな場合 には、 吸 引圧 をか けなが らカテ
ー テ ル を挿入す る場合 もある。
・ 選択 され る吸 引 カテ ー テル の大 さは、人 工 気道 の 1/2
以下 の ものが推奨 され る (表
3)。
・ 吸引 カテ ー テル の挿入す る深 さは、カテ ー テル の先 端
が 人 工気道 内 ∼気管分岐部 に当た らな い位置 まで挿入
図 10 吸引 カテーテルの挿入
す る (適 切 なカテ ー テル の挿入 の深 さを知 るために、挿入 され てい る人工気 道 の長 さ、胸部
レン トゲ ン写真 か ら吸引カテー テル の適切 な挿入位置 へ の マー キ ング等 の工夫 をす る)。
・ 意識 の あ る患者 には、 咳嗽 を促 し、気 道 内分泌物 を 中枢気道 に集 めてか ら吸 引す る。
8)吸 引圧 をか けなが ら、吸引カテー テル をゆ っ くりと引 きも どす
。一 回 の 吸 引時 間 は、 10∼ 15秒 以 内でな るべ く短 時間 で 実施 され る こ とが望 ま し く、カテ ー
テル 挿入 開始 か ら少 な くとも 20秒 以 内 に終 了す る
。一 回 の 吸 引操作 で十 分 に吸引す る こ とがで きなけれ ば、数 回 に分 けて吸 引 を行 う。
・頭 蓋 内圧 が売進 してい る場合 、わず か な動脈血炭酸 ガ ス分圧 の上 昇 に よ り容 易 に頭 蓋 内圧 も
上昇す るため、 より短時間で吸引 を行 う。
・吸引カテーテル を引きも どす際、指先 で紙 を丸める
よ うに回転 させなが ら引き戻す と吸引効果 が高 い場
合 が ある (図
11)。
しか し、円を書 くよ うに大 きく
回 した り、上下の ビス トン運動 しても吸引量 は変わ
らない。む しろ、カテーテル の無理 な ピス トン運動
は、気管支壁 の損傷 につ ながるため行 うべ きではな
レ`。
・気道内分泌物 の吸引される音 が強い部分ではゆつ く
図
11
吸引 カテ ー テ ル の 回転
りと引きもどし、吸引できない場所 では早 めにカテーテル を引きもどす。
9)再 度、吸引操作 が必 要 な場合 には、カテーテルの外側 を基部 か ら先端 に向かってアル コール
綿 でふ き取 り
(図 12)、
滅菌蒸留水 を吸引 し
(図 13)、
吸引す る
-14-
内腔 に付着 した分泌物 を除去 してか ら
・ 再度 吸引す るタイ ミングは、 モ ニ タ
リン グしてぃ る呼
吸 ・循環等 の指標 が許容 範 囲 に 回復 してい るこ とを確
認 したの ちに行 う。
10)人 工 呼吸器 を元 の状態 に戻す
。気管 吸引 では
、気 管 内、肺 内 の酸素や ガ ス も吸 引 され
るため 、低 酸素血症 や無気肺 を生 じる恐れが ある。
吸
引前 な らび に吸 引後 の人 工 呼吸器や バ ック換気 を用 い
図 12 吸引カテーテルの消毒
ての 酸素投 与や肺 の過換気 ・過膨 張 は、 個 々の患者や
呼吸状態 に よって使 い 分 ける。 状態 の安定 した患 者 で
は、必 ず し も必 要 では な いが 、急性期患 者 では、
吸引
前 に十分 な酸素投与 を行 うこ とが推奨 され てい る (P
19参 照 )。
11)カ フ上 部 の吸 引 を行 い 、カ フ圧 を調整す る
。人 工 気道 の
種類 には、カ フ上 部吸 引用 の側 管 が あ り、
カ フ上 部 に貯留す る唾 液や分 泌物等 を吸 引 が 可
能 なも
のが ある。 吸引管 を接続 して吸引す る (図 14)。
・ カ フ圧 は容 易 に低 下 しやす い ため
、頻 回 にチ ェ ックす
る必 要 が あ る。 気 管 吸 引後 も必 ず カ フ圧 を確 し
認 、
図
13
滅 菌 蒸 留水 に よ るカテー テル
内の 消毒
VAPの 予 防 に努 め る。 カ フ圧 は 25∼ 30mmHgで 管
理 され ることが望 ま しい (P.32参 照 )。
12)吸 引カテ ー テル を取 り外 し、 吸引管 内 を洗浄す る
・ 吸 引管 内の洗浄 は水道水 で よい
。
・使用 済み の滅菌 吸引カテ ー テル は
、院内の感染管理 基
準 に従 つ て処 理 す るが、感染予防 の観点 か らは、 気管
図 14 カフ上部 の吸引
内 吸 引毎 に吸 引カテ ー テル の交換 が推奨 され る。
・在宅療養 場 面 では 、 コス ト面 の
問題 で吸 引カ
カテーテル には lcm毎 の 目盛 り
テ ー テル の 再利用 す る こ と も少 な くない 。そ
の 際 は消毒液 の種類 、希釈 の割合、 消毒時
間
等 を主 治 医、看護 師 と相 談 し、十 分 に感染 に
配慮 してカ テ ー テル の管理 をす べ きで ぁる。
13)吸 引が終 了 したこ とを患者 に告 げ、患 者 のア
セス メ ン トを行 う
14)周 囲 を整 理 し、流水 と石 鹸 で手洗 い を行 う
② (一 方向弁付き)洗 浄液注入ポ
③ カテーテルスリー ブ
(ポ リ塩化 ビニール)
④吸引コン トロールバル フ
閉鎖 式吸引の 場合
人 工 呼吸器 回路 内に閉鎖式 吸 引カテ ー テル キ ッ
ト (図
①スーベルゴ素フラ==
15)を 組 み込み、換気や 陽圧管理 を中断 し
-15-
⑤接続キャップ
⑥洗浄水
図
15
閉鎖式 吸 引 カ テー テル キ ッ ト
ない状態 で可能な気管内か らの吸引方法 である。患者 か ら人工呼吸器 を外 さず 、閉鎖回路 のまま
吸引 を行 うため閉鎖式吸引システム と呼ばれ
(図 16)、
気管切開用、気管挿管用 の 2種 類 がある。
開放式吸引のタイプに比べ て、酸素濃度や PEEP、 換気 の維持 によって低酸素血症 ・肺胞虚脱
の予防、V_APや 飛沫感染 の予防、吸引準備 の簡素化や吸引時間の短縮などの点 において優れてい
る。したがつて、人工 呼吸器装着中は、可能な限 り閉鎖式
吸引システムの使用 が推奨 されている。
1)手 洗 い を行 う
・感染 を防 ぐために衛 生学的手洗 い をす る (P.5参 照)。
2)手 袋 を装着す る
。未滅菌手袋 を両手 に装着す る。
3)吸 引器 の吸引圧 を調節す る
。吸引圧 は医師、看護師の指導の も とに設定 し、開放式
吸引の際 と同様 である。
図 16 閉鎖式 吸引 カテーテルキ ッ ト
の装着
4)閉 鎖式吸引カテーテルの吸引 コン トロールバル ブの接
続キャップを外 して、吸引管 と接続す る (図 17)
5)吸 引カテーテルに陰圧 がかかることを確認す る
。コン トロールバル ブの ロックを解除
(コ
ン トロールバ
ル ブを 180度 回転す るとロックが解除 される)し て、
カテーテル に陰圧 がかかることを確認す る。
6)吸 引圧 をかけてい ない状態 で、人工気道 にそって愛護
的に吸引カテーテル を挿入す る (図 18)
。片方 の手 で人工気道 との接続部 を保持 し、他方 の手で
図 17 吸引 コ ン トロール バ ル ブ と吸
引管 の接続
吸引カテーテル を事前 の取 り決め事項で決められた深
さまで挿入す る。
7)コ
ン トロールバル ブを押 しなが ら (吸 引圧 をかけなが
ら)、 吸引カテーテル を引きも どす
(図
¬9-a、 b)
・吸引カテーテル の先端 に充分 に圧がかかつたの を確 か
めてか ら、カテーテル をゆっ くり引き戻 しなが ら吸引
す る。
図 18 カテーテルの挿入
・ 引き戻 し位置 まで引
き戻す。力 任 せ に 引
き戻 しす ぎる とキ ッ
トに不具合 を生 じる
恐れ が ある。
8)吸 引カテー テル 内 を
洗浄す る
(図
20)
・洗浄液 注入 ポー トに
図 19-a
―-16-
図
19-b
10m′ 程度の洗浄液 (蒸 留水 または生理
食塩水 )の 入 っ
たシ リンジ を接続 して ゆ っ くり注入す る。 注入 され た
洗浄液 を吸引 して 、 吸 引カテ ー テル 内 を洗浄 す る。
・ カテ ー テル を定位 置 に戻 さない まま
洗浄液 を注入 した
り、 急激 に洗浄液 を注入 した り、 吸 引圧 をか けなかっ
た場合 、洗浄液 が人工 気道 内に蓄積 し、気管 内 に
流入
して しま う可能 性 が あるため十 分 に注意 す る。
9)コ
ン トロー ル バ ル ブ を ロ ック (180度 反 転 )し
、 接続
キ ヤ ップを閉め る
図 20 洗浄液 を用 い てカテー テルの
洗浄
10)カ フ上 部 の 吸引 を行 い 、カ フ圧 を調整 す る
11)吸 引 が終 了 した こ とを患者 に告 げ、患 者 の アセス メ ン トを
行う
12)周 囲 を整理 し、 流水 と石 鹸で手 洗 い を行 う
(2)口 腔 内
。鼻腔 内の吸
引
人工気道の挿入がなく、気道内分泌物の自己喀出が不十分で、
頻回な湿性咳嗽や上気道への分
泌物 の貯 留 を認 め る症例 が適応 で ある。
日腔や 鼻腔 内 の構造 は複雑 で あ り、 吸 引カテ ー
テル の挿入 が 困難 な場合 が少 な くな い。 そ の た
め、鼻腔粘 膜 等 の損傷 を生 じやす く、 日腔 ・
鼻腔周 囲 の解剖 を十分理 解 してか ら実施 す べ きで
ぁ
る (図 21)。
1)手 洗 い を行 う
・感染 を防 ぐために衛生 学
的手 洗 い をす る
(P5参
咽頭扁桃
耳 管咽頭 口
咽頭頭底 板
前環椎後頭膜
歯尖靭帯
照 )。
2)手 袋 を装着 す る
・ 未滅 菌手袋 を両手 に装着
す る。
耳 管隆起
(耳 管扁桃 )
環椎横 靭帯
口蓋 垂
口蓋 扁桃
舌盲孔
舌扁桃
3)吸 引器 の吸引圧 を調節 す
る
・吸引圧 は医師、看護師の
指導 の もとに設定す る。
喉頭蓋
喉頭蓋 軟骨
舌骨喉頭蓋靭 帯
鰤
咄
嚇
嚇
能
4)吸 引カテー テル と吸引管
を接続 し、吸引圧がかか る
こ とを確認す る
・ 口腔・ 鼻腔内吸引は、未
滅菌の吸引カテーテルで
もよレヽ
。
図 21 回腔
-17-
鼻 li周 囲 の解剖
・ 口腔 ・鼻腔 内吸引では鼻腔粘膜損傷 等 を予防す るため、や わ らか い ゴム製 の 吸引 カテ ー テル
の活用 が望 ま しい 。
5)口 腔 内あるいは鼻腔 内にゆ つ く りと吸 引カテー テル を挿入 し、 吸 引す る
・ 口腔 内は、嘔 吐 した 際 の誤哄防止 のため に可能 な限 り顔 を横 に 向け、大 き く開 口した り、舌
を前 に突 き出 した状態 で、深 呼吸 を しなが ら吸 引す る。
・鼻腔 内は、吸引圧 をかけない状態 で鉛筆 を持
つ よ うに吸引カテーテル を持ち、鼻腔底 に沿
わせ るようにしてやや下向きに挿入す る
22)。
(図
咳嗽や深吸気、発声 を行 いなが ら挿 人
す ると気管 に挿入 しやす い。
・鼻出血、顔面 の損傷、頭蓋骨骨折 がある場合
や疑われ る場合 は、鼻腔 内 の吸 引 は行わな
い
。
図
・いずれの吸引方法も同様であるが、特 に、 日
22
鼻 腔 内吸引 カ テー テル の 挿 入方 向
腔 ・ 鼻腔 内吸 引 で は、 嘔 吐 ・ 誤哄す る可能性 が高 まるため、食後や経 管栄養投 与 中 の 実施 は
避 け る。
6)吸 引後 は、吸引 カテーテル の外側 の分泌物や汚れ をアル コール綿 でふ き取 る
。日腔 ・ 鼻腔 内吸 引 で使用 した吸引 カテ ー テル は 、感染予防 のため人 工 気道 の 吸引 に再使用 し
てはい けない 。
7)吸 引カテー テル 内、吸引管 内 の分泌物 をカ ップに溜 めた水 道水 を吸 引 して洗浄す る
8)使 用 した吸引カテー テル は水道水 を溜 めたカ ップに入れ てお く
・吸 引カテー テル 、カ ップ等 は、感染予防 のために最低 1日 1回 は交換 す る こ とが望 ま しい。
9)吸 引が終 了 した こ とを患者 に告 げ、患者 の アセ ス メ ン トを行 う
10)周 囲 を整理 し、流水 と石 鹸 で手 洗 い を行 う
(3)輪 状甲状靭帯穿刺
(ミ ニ トラック・
トラヘルバー)
輪状 甲状靭帯穿刺 に よつて 、気 管 内 に吸 引専用 の細 い チ ュ
ー ブを留置す る
(図 23)。
自己喀痰 が 困難 な患 者 の上 気道 に
貯留 した気道 内分泌物 を吸引す る 目的 で使用 され る。
吸引 の手順 は、人工 気道 に対す る開放式吸引 とほぼ類似 し、
清潔操作 である (開 放式吸引 の項参照 )。
しか し、輪状 甲状靭
帯穿刺 の場合 、患者 に挿入 され て い るチ ュー ブが細 いため 、
吸 引カテ ー テル はそれ に挿入 可能 な細 い もの を選択 しな けれ
ばな らな い。 また、人工気 道 とは異 な り、カ フがない ためカ
フ圧 の管理 は不要 であ る。
図 23 輪状 甲状靭帯穿刺
―-18-―
6.気 管吸引時の蘇生バ ッグの使い方
(1)蘇 生ノヾッグの使用 目的・ 適応
気管吸引の際に使用する場合、吸引前や後での十分な
酸素化の維持や確保として用いられる。
しか し、 人工 呼吸器 装着 中で閉鎖式吸
引 を使用 してい る場合、人工 呼吸器 での
る手 法 を用 い るため この 手技 は用 い な い。
虚脱 予 防 の 目的 で 呼気 終末 陽圧
酸素濃 度 を上 げ
特 に病態 の特性上 、 酸素化 不全 が 強 い患
者 では、肺胞
(PEEP)を 必 要 とす るため、 蘇生 バ ッグを用 い る こ とで
回路
(PEEP)を 外 す こ とにな り、肺胞虚 脱 に よる酸素飽 和度 の
低下 を引 き起 こす こ とが あ るため で あ
る。
また、 吸 引前 後 に換気量 を多 く送 り肺拡張
を図 る 目的 (hyperiniatiOn手 技 と
言われ る)と し
て用 い られ る こ ともあ るが、 換気量 を
多 くす るこ とでの肺 損傷 の リス クの増加や
患者 の不快感 な
どが生 じる。 これ らを防 ぐために酸素化
以外 の 目的でル ー ティ ンに行 うこ とは
推奨 され てぃ ない
1)。
(2)蘇 生 バ ッグ の 種 類 と 特 徴
蘇生バ ングには 2つ のタイプがある。
① バ ツグ バル ブ (図 24)
② ジヤクソン リース (図 25)
バ ツグバルブマス ク (BvM)は
、
自己膨張式バ ングと呼ばれ酸素などのガス供給源が
な
くて も
使用できるタィプの蘇生バ ングである。 医療
現場で使用す る場合 には吸入酸素濃度を高 くするた
めにバ ッグの部分にチ ューブを装着 し酸素 を
併用す る。
ジヤクソン リースバ ッグは前述 の BvIIと
異な り、回路 の一部ヘガス供給源 か らのチ ューブ
を
つ け、酸素などのガス を送 ることでバ
ッグを膨張 させ、 それを用手的に圧迫す ること
で患者 ヘガ
ス を送 る器具である。 医療現場では一
般的に酸素を装着す るので、loo%酸 素を患 へ
者 送ることが
図
24
-19-
図 25
できる。 しかし、ガスの供給 がない と使用 できないので、ガス供給源や接続チ ュー プの準備 など
使用 の際 に注意す る。
(3)使 用 方 法
1)患者への装着
挿管・気管切開などの人工気道へ、接続する
(図
24左 )
2)バ ッグの押 し方
バ ッグを押す
(加 圧する)と
ガスが患者へ送 られる。そのため 自発呼吸のある患者 であれば患
者 の呼吸 に合わせ るようなタイ ミングでバ ッグを押す。
(4)期 待 で き る 効 果 、 モ ニ タ リン グ 、 使 用 時 の 注 意 点
酸素化 の維持・ 改善 を期待す るため、経皮 的酸素飽和度 のモ ニタ リングを必ず行 う。陽圧換気
を送 るため、循環動態 の変化 (血 圧、心拍数 など)が 生 じやす い。心電図モニ タなどの循環動態
のモニ タ リングをす ることが望ま しい。また患者 との同調性 を確認す るために表情 などの観 察 も
重要 である。
気道 の確認 をす るために両側 の胸部 が送気 に伴 い拡張す るか確認す る。また、バ ングを押す時
に肺や気道 の抵抗感 を手で感 じるよ うにす る。
陽圧換気 であるため、未治療 の気胸 には禁忌 である。
文 献
1)気 管吸引のガイ ドライン
(成 人で人工気道を有す る患者 のため):人 工呼吸 25(1):4859,2008
2)Pederson cヽ 1,Rosendahl― Nielson M,Hlermind」
ll■
tubated patients― ―恥hatお
dence?,Intens、
tlle e■ ■
―-20-―
αιEndOtracheal
,′ ′
suctioning of the adult
re and Critical Care Nurshg 25,p21-30,2009
限引のための基礎知識
1.呼 吸器系 RespratOry systemの 構造
呼吸器系 とは鼻腔、喉頭、気管および気管支、肺 のほか胸膜 を含み、ガス交換 を担 う器官であ
る。肺 に出入 りす る空気 の通路 を気道 (鼻 腔→ 喉頭→気管気管支→肺胞)と 呼び、喉頭 を境 に上
気道 と下気道 に分けられ る (図 26)。 以下に、上気道 (鼻 腔、喉頭)、 下気道 (気 管、気管支)、
肺 の特徴的な構造 の詳細 を述べ る。
(1)上 気 道 Upper Respiratory ttract
上気道は鼻腔や 日腔、喉頭 か らな り、1)気 道の通路、2)肺 保護機能
(防 塵機構)、
3)カ ロ
温、
4)加 湿 とい う呼吸器系の最初の重要な役 目を果たしている。また上気道は消化器系 と解剖生理学
的機能 として並存す る部分でもあるため、日腔ならびに咽頭について もその構造を記す。
1)鼻 腔 Nasal ca宙 ty:鼻 腔は楔形 の通路 で、鼻 中隔によって左右両半 に分けられ、前方に向い
外界 と通 じる孔を外鼻孔、後方 の咽頭
リ
介
甲
鼻
上
2)回 腔 Oral cavity:口 腔 の下壁は顎
︱
上中 下
腔 に通 じる孔を後鼻孔 とい う。
鼻腔
舌骨筋およびオ トガィ舌骨筋 の表面を
覆 う粘膜、上壁は日蓋、前方 と両側壁
は上 下両顎 の歯槽突起および歯列弓 よ
りな り、後方 は狭 い 口峡 によって咽頭
に連なる (図
27)。
鼻 1因 頭
中咽頭
咽喉頭
喉頭蓋
食道
3)咽 頭 Pharynx:咽 頭 は鼻腔および
口腔 と食道 および喉頭 との間 にある嚢
状 の管で、その内腔 を咽頭腔 とい う。
臨床 で高齢者あるいは哄下機能 が低下
した症例 において誤哄を惹起 しやす く
なるが、 これは咽頭 で鼻腔 か ら肺へ至
図
-21-
26
頭 頸 部 矢 状 断 か らみ た上 気 道
下 気道
る通路 と、 日腔 か ら食道 へ 至 る飲食物 の通路 とが交叉す るためである
(図 28)。
4)喉 頭 Larynx:喉 頭 は気 管 の上端 に位置す る一種 の 関門 で、 消化管 に開 いた空気 の取 り入れ 口
であ り、括約筋作用 に よ り飲食物 が気道 に落 ち込 まない よ うに保護す る。 また発生器 としての役
目もあ る。内部 には喉頭腔 が あ り、壁 には多 くの喉頭軟骨 が あ つ て、軟骨 は互 い に関節 お よび靭
帯 に よって結合 され 、 これ に多 くの 喉頭筋 が付着 してい る
(図 29、
30)。
(2)下 気道 Lower Respiratory Tract
下気道は、喉頭の声帯から肺内部の肺胞まで達する。通常、下気道は機能的に、気管支・気管
図 27 開 回時 の回腔
中1因 頭部
図 28 呼吸器系と消化器系 の流れ が交叉する咽頭部
青線 ルー ト (呼 吸器系):鼻 腔 → 咽頭→ 喉頭→ 気道、
赤線 ルー ト (消 化器系):口 腔 → 咽頭 →食道
\
谷
楔状結節 (楔 状軟骨 )
小 角結節 (小 角軟骨 )
図
29
喉 頭軟 骨 と気管
図
―-22-―
30
喉 頭 内部
支樹 (分 岐 を繰 り返す結果、管腔 が細 くな り樹状 となった部分)の 領域 である導管帯 と肺胞 が現
れ始める呼吸細気管支以降のガス交換 を可能 となる呼吸帯 の 2つ に分類できる。また各気道 の分
岐 とその特性 を表 5に 、各気道 の組織図を図 31に 示す。
1)気 管 Trachea:気 管 は喉頭 の下に連なる管状部で、第 6頸 椎下縁 の高 さで始ま り食道前 を垂
直 に下 り、気管分岐部 に至る。気管 の長 さは約 10∼ 12cmで ある。気管は前面 か ら両側面にかけ
ては馬蹄型 の軟骨 を持 ち、後面 は膜様部 か らなっている (図
32)。
2)気 管分岐部 Carinaお よび主気管支 Main bronchus:気 管分岐部 は、第 4∼ 6(7)胸 椎 の前
あた りに位置 し、その位置 は吸気時 に 1∼ 2cm下 が る。左、右主気管支は気管分岐部 で非対称的
に分岐す る。主気管支 の形状は、長 さが平均 で右約 15mm、 左約 44mmで あ り、右 は大 く鋭角 で
直線的であるのに対 し、左は細 く下方へわず かに弧 を描 く。 この解剖学的特徴 か ら一旦誤哺 が起
表
5
気管 支 の 分 岐 と特性
内 m
気
腔 ω
分岐数
総断面積
主気 管支
1
葉気管支
2^-3
3 2cm2
13
7‐
2 7cr
5
区域気管支
4
4
3 2cm2
小某気管支
5^ヤ 11
マ1
3 ヽ
7 9cm
12 ‐
細気管支
終末細気管支
^‐
栄養血管
5 0cm:
0
管
気管軟骨 腺 毛
16
1‐
- 05
116cm2
呼吸細 気管支
17‐
19
04
1000cm2
肺胞管
20^ン 22
03
1 71cm2
肺胞嚢
03
月
市 月
包
02
十
気管支動脈
肺 動脈
70cm2
―
―
細気管支
―
鰺廠
盪嘲
茉亦率熙
藝
小 気 管支
+
終末
細気管支
肺胞扁平上皮
肺 胞 が 現 れ る。
図 31 区域気管支から肺胞までの気道 の組織学図
-23-
これば、右主管支へ の落 ち込みの頻度 は高い
(図 33)。
3)葉 気管支 Lobar bronchusお よび区域気管支 segmental bronchus:右 は上・ 中・下の 3つ
の葉気管支 に、左は上・下の 2つ の葉気管支 に分岐 し、各葉気管支は更に 2∼ 5本 の 区域気管支
に分岐す る (図
33、
34)。
4)亜 区域気管支 subsegmental bronchusお よび細気管支 brOnchiolus:気 道 の構造的特徴 は、
気管 か ら細気管支へ と向つて、個 々の分岐 した気管支 の内径は益 々細 くなってい くが、各分岐数
における気管支 の内腔 の断面積 の総和 は分岐 が進 むほど大 きくなってい くことである。 これによ
り気流抵抗 は末梢 ほ ど抵 抗 が少 な くなる (表
図 33、
5、
34)。
5)肺 胞 Alveolus領 域 :気 道 として の性質 を備
えた管腔 で最 も末梢部 に位置す るのが終末細気
管支 terminal bronchiolusで あ る。 終末細気管
支 よ り末 梢 にな る と細気 管支壁 に肺胞 が 出現 し
てガス交換 を行 う領域 (呼 吸細気管支 )と なる。
更 に肺胞管 、肺胞 嚢 とな り最終的 には約 3億 も
存在す る肺胞 で終 ってい る (図
33、
34)。
図 32 気管 の横断面
A前 面
Z
喉頭蓋 線維膜 、
気管
0
気 管支
1
│
鑢
導管帯
右
主気管支
,
3
4
6
細 気管 支
2
1 1
│
6
︲
││
17
18
管
呼吸
細気管支
呼吸帯
肺胞
気管
肺胞嚢
畦 農
月
棚嚢
図
33
19
II細
下 気道
図
―-24-―
34
鼻寺
各 気道 の 分岐 数
20
21
22
│
23
気管
左 //
2
/′
、、 、
右 、
1
1-2
3
4
3
5 8
―-4
――-5
7-8
9
― 、
0
=__9
左側 面
-10
右側面
12飾
{:ll:匁
中葉{ξ 酬:E
下
葉
0前
尖後区
上葉区
:十 1E
6上
}
下葉区
7-8前 肺底 区
0外 ll肺 底区
10後 飾底 区
葉 葉
上 区 下
︱ltl 舌リー し ︱ リ
上
葉
11:│:if [
右 内側 面
左内側面
図 35 気管支 と肺区域
6)肺 pulmOnes:正 常呼吸時 の容量 は片側 で約 1500m′ であ り、空 気 を多量 に含 む臓器 で ある。
左 肺 は上 下 2葉 、右肺 は上 下 中 3葉 よ りな り、 区域気管支 に一 致 して左
る (図
8、
右 10の 区域 に分 かれ
35)。
文 献
1)Hillegass and SadOwsky:Essentials of cardiopulmonary physical therapy 2nd eds,W B Saunders
com Philadelphia,2001
2)Scalan cL,V/ilkins RL,Stoller」 K:EGAN'S Fundamentals of respiratory care 7・
eds A/10sby,St
Louis,1999
3)小 川 鼎 三 原 著 ,山 田英 智 ・ 養 老 孟 司改訂 :分 担解 剖 学 3
東京 ,1982
―-25-―
感 覚器 学 ・ 内臓 学 改訂 11版 ,金 原 出版
,
2.喀 痰 に関する基礎知識
(1)喀 痰 とは何か ?
気道粘膜 の表層 は粘液 によ つ て常 に潤 され
てい る。 この粘液 は気道 分泌物 (alway se_
creion)と 言 い 、気道粘膜 下組織 中 の分泌腺
(気 管 支 腺 )と 気 道 表 面 の 分 泌 性 上 皮 細 胞
(杯 細 胞 )か ら分泌 され て い る (図 36)。
気
道分泌物 は気 道 上 皮線毛運動 とともに、粘液
線毛輸送機構 として吸入異物や病原体 の排 除、
気道 内浄化 に主 要 な役 害」を呆 た してい る。 そ
の産生量 は 1日 に約 100m′ で あ り、主成分 は
水分 でお よそ 95%を 占めて い る。気道分泌物
は再吸収や換気 に伴 う蒸発 な どによつて、 声
図
36
谷本晋 一
:「
気道 にお ける粘 液線 毛輸 送機 構
呼吸 不 全 の リハ ビ リテ ー シ ョン」 南
江 堂 、 1987よ り引用
門 に到達す る量 は 1日 に約 10m′ 程度 で あ り、
それ は痰 として喀出 され るこ とな く、無意識
の うち に嶼下 され て い る。
痰 (sputum)と は、 下気道 に存在 す る気道 分泌物 の量 が 生理 的 レベ ル を こ えて増 加 した場合
に、質 的な変化 を伴 って 咳嗽 とともに喀出 され た もので あ る
1。
臨床 上、痰 は 肉眼的 に膿性痰 と粘液性痰 に大別 で きる。 それ ぞれ の特徴 を表
6に 示 した。疾 は
強 固 な分子 結合 を有す る物 質 であ り、水 分 を添加 して も容易 には希釈 され な い。 輸液 な どによる
水分 の補 給 は痰 の粘桐 度 を低下 させ る と考 え られて い るが、 そ の効果 はIF実 に証 明 され てはい な
レ`
。
表 6 膿性痰 と粘液性痰 の相違
色
調
黄色 または緑色
無色透 明
性
状
かたまつて 咳嗽 によつて 喀 出 しや す い
糸 曳性 が あ り咳嗽 によつて喀 出 しに くい
原
因
細菌感染
過乗1分 泌
特
徴
線 毛 によって輸送 され に くく、気道 内に
停滞 して気 管支粘膜 を傷害す る
線毛 によって輸送 されや す い
1 喀痰 とは通常、喀出 された痰 を意味す るが、痰 を喀出す ることを指す場合 もある
―-26-―
(2)気 道分泌物排出のメカニズムとその障害
気道分泌物 は末梢気道 か ら中枢 へ 絶 えず輸送 され 続 けて い る。 末梢気道 か ら中枢 へ の輸送 は線
毛 に よるシス テ ム で あ り、 中枢気道 か らの排 出 (痰 の場合 )は 非線 毛 シス テ ム に よっ てな され て
い る。
1)末 梢気道 か ら中枢 へ の 輸送
(図
36)
粘液線毛輸送系が主要 な部 分 を 占めてい る。 気道粘膜 は、線 毛上皮 で覆 われ てお り、線 毛上 皮
細胞 か ら伸 び る線毛 (長 さ 5∼
7μ
m)が 中枢方 向 に向 かつて規則 正 し く鞭 を打 つ よ うな運 動
(ビ
ー ト運動 )が 約 1,200回 /分 行 われ てい る。線 毛 の ビー ト数 は終末細気 管支 か ら、気 管 へ 向 か う
につ れ て増加 し、気管で最高 にな る。 また、線毛 の 出力 はその構造 、密度 お よび運動性 に よって
決定 され る
.
気道粘膜 の 表面 │ま 線毛本体 が存在 し、 そ の運動 が行 われ てい る ところの ブル 層 と、その上 に存
在 して線毛 の 尖端 にのって輸送 されてい くと ころのグル 層 の 2層 を形成 してい る
(図 36)。
グル
層 は線 毛 の運動 に よって 中枢気道側 へ 輸送 され 、気 道 内分泌 物や 異物 な どは この グル 層 の上 にの
つて運 ばれ てい く,線 毛 の運動 に障害 が生 じる と、チ クソ トロ ピー 現象 (グ ル 構造 が線毛運動 の
連続 によって ゾル化 し、静置す る と以前 の状態 に戻 る現象 )な どによって粘液 の粘弾性 が上 昇 し、
そ の結果線毛運動 の 障害 │ま 一段 と増強 され る とい う悪 循環 が形成 され る。
粘液線毛輸送 系 にカロえ、換気運動 も重 要 な役割 を果 た してい る。特 に呼気時 には胸腔 内圧 によ
つて気道 に側 圧 がかか り生理 的 に気道 が狭 窄す るの で気流速度 は吸気 の場合 よ り大 き くな る。 こ
の 呼気流速 が 吸気流速 よ りも速 い differential airflow(異 な る速 さの気流 )は 、 分泌物 を末梢 か
ら押 し出す よ うに千
F用 し、 咳嗽や線毛運動 よ り気道 分泌物 の輸送 に対 して大 きな役割 を果 た して
お り、正 常 な安 静時 の換気 で 1日 に 15∼ 20m′ の気道 分泌物 を押 し進 めてい る。 気管支 の収縮 と
換気運動 に伴 うl「 の churning movement(撹 拌様 の運動 )は 、気 道分泌物 の ク リア ラ ンス に対 し
て大 きな役割 を果 た してい る。
2)中 枢気道か らの排 出
非線毛 シ ステ ム が 作用す る。 す なわ ち 中枢気道 まで運 ばれ て きた痰 は最終 的 には 咳嗽 によって
排 出 され る.咳 嗽 │ま 痰 の喀 出 の原動力 で あるが、生理 的 な気 道分泌物 の輸送 には影響 を及 ぼ さな
い。 咳嗽 は呼吸障害患 者 では ク リアラ ンスに対 して大 きな役害」を持 つ が 、健 常人 では ク リアラ ン
ス促進作用 を示 さな い。
咳嗽 は深吸気、声 門 の 開鎖 、胸腔 内圧 の上 昇 、声門の 開放 によ る強 制呼 出 の一 連 の動作 によっ
て行 われ る
(図
37).咳 嗽 に よ り 100m/sec以 上 の極 めて 高 い流速 の 呼気気流 を生 じさせ る とと
もに、気 管 は胸腔 内圧 によって三 日月形 に圧 縮狭窄 し、 呼気流速 を一層高 め るの に役 立 ってい る。
また 咳嗽 に よる喀 出 は この気流 による直接 的な押 し出 し作用 と気 道壁付近 で生 じる渦流 による剪
断力 の 2つ が 関与 してい る。
咳嗽 の効果 が発 現 され る範 囲 は、比較 的大 きな気管支 か ら中枢側 の気道 にか け ての領 域 に限定
―-27-―
lnspirat on
Hold
Compress on
深 吸気
声 門の開鎖
胸腔 内圧上昇
図
37
Expulsion
声門開放
咳 嗽 の メカ ニ ズム
され てお り、第 7∼ 8分 岐部以 下 の レベ ル では痰 を移動 させ るほ どの気流量 は生 じ得 な い とされ
る。気 道 ク リアラ ンス に関与す る他 の 因子 に異常 が な くて も、咳嗽不全 が存在 す れ ば、痰 の気道
内 か らの排 出 は 困難 とな る。 また、先 に述 べ た咳嗽 の段 階 においていず れ の部分 が 障害 され て も
痰 の 喀出困難 が生 じる。気管 内吸引 は 中枢気道 か らの排 出 の補助 あるいは代用手段 であ る と言 え
る。
3)気 道分泌物の貯留
気道分泌物 の排 出障害 にはい くつ かの機序 が あ り、基礎 疾患や合併症 な どの病態 による相違 が
ある。通常、過乗J分 泌 あるい は上 記 、気道 ク リアラ ンス機構 で ある線 毛お よび非線 毛 シス テ ムの
障害 の結果 、排 出障害 に よる気 道分泌物 の貯留 が生 じる。
文 献
1)長 岡滋 :改 訂喀痰学 ,羊 土社 ,1987
2)Oberewaldner BI Phぃ iotherapy br airway clearance in paediatrics Eur Respir」 15:196-204,2000
3)Houtmeyers E,ο ′αtt
I● gulation
Of mucOciliaり clearance in hedth and dlsease.Eur Respir」 1311177-
1188,2000
-28-
3.取引 が身体に与える影響
吸引操作 は、喀痰 の除去などの 目的 とす る効果以外 に
表 7 吸引操作 に よる生理学的変化
も、生体 に大 きな侵襲 を加 える可能性 があることを理解
してお く必要がある。最 も重大 な合併症 は 「患者 へ多大
な苦痛 を与 えてしま うJこ とである。もし吸引操作 が患
者 の予想以上 に苦痛 なものであった場合、患者 の トラウ
マ とな り、た とえ吸引が必要な状況 になったとして も本
気道感染
気道粘膜損傷
肺胞虚脱 ・ 無気肺
低酸素血症 高炭酸 ガ ス血 症
気管支 攣縮
不整脈・ 徐脈
異常血圧 (高 血圧 ・ 低 血 圧 )
頭蓋 内圧上 昇
人 が拒否す る ことさえある。
吸引操作 による生理学的な変化 としては、表 7の 通 りである。
これ らの合併症 は、患者 の状態 に対 して必 要以上 の吸引、過度な吸引時間、吸引圧、挿入 の深
さ、吸引カテーテルの大 さ、誤 つた清潔操作、吸引方法の種類な どによって起 こって くる。 さら
に吸引 に伴 つて過度な咳反射 が誘発 され、無駄 なエネルギー消費 があるこ とも知 ってお くべ きで
ある。
―-29-―
4.吸 引のタイミング
気管内吸引では、主気管支 レベル にお ける分泌物 の吸引が可能である。実際に吸引を実施す る
タイ ミングを示す徴候 として、①気道分泌物 の存在 を示す と考 えられ る肺 の副雑音 (rhOnchiや
coarse crackleな ど)、 ② sp02や
Pa02の 低下、③気道内圧 の上昇、④換気量 の低下な どがある。
しかしこれ らの所見が認 められた としても、吸引操作 によつて除去す ることが可能 な位置 まで痰
が上がっているかの判断が必 要であ り、そのためにはフィジカル・ アセス メ ン ト (視 診、触診、
打診、聴診 な ど)が 重要 となる。例 えば痰 の存在 が示唆 され るが、吸引操作 のみでは除去 が不可
能 な位置 の痰 については、排痰手技 を実施 した上で行 うべ きである。 このよ うに吸引は時間や回
数 を決めて実施す るものではな く、あ くまで もその必 要性 がある場合 に実施す るものである。
―-30-―
5.気 管挿管につ いて
気管挿管 には経 口挿管、経鼻挿管、気管切開があ り、それぞれ 目的があ り選択 されている。
経 口挿管 :特 殊 な例 を除いて、気管挿管 では第一選択 をされ る。短 時間で気道 を確保 で きるた
め便利 であるが、 日腔内の清潔 が保 てず 、また他 の経路 に比べ苦痛 を伴 う。
外傷などで経 ロアクセスが困難な場合、開 口障害 がある場合、長期人工呼吸管理 の場合 は禁忌
となる。
経鼻挿管 :経 回挿管 が困難な場合 に選択 され ることが多 く、長期間 に渡 って挿管 が必 要な場合
は、経 日挿管 よりも違和感 が少ない といわれてい る。経 口挿管 に比べ手技的に困難 であるが、チ
ュー ブの固定 が容易 であ り、また唾液 の分泌 の少ない傾向 にある。出血傾向、鼻腔病変、
鼻腔狭
窄 、頭蓋底骨折な どの場合 は禁忌 である。
気管切開 :経 口挿管 に比べて 口腔内の清潔 が保 たれ、患者 の鎮静も要 らず、 さらに飲食 も可能
になるな ど優 れている。
気管切開は手技に時間がかか り、そ う簡単 にで きるものではないため、通常気管内挿管 が 2週
間 を越 えるよ うなとき、あるい は確実に 2週 間以上人工呼吸管理が必 要な ときに行われ る。
-31-
6.人 工気道
(挿 管 チ ュー ブ、気管切開チ ユー プ)
(1)気 管 チ ュー プ
(図 38)
気管チ ュー ブは気道確保 を行 う最 も基本的な
器具 であ り、チ ュー ブ内の汚れや加湿状態 が確
認 しやすい よ うに透明 となっている。気管チ ュ
ー ブはスプ リッ トジ ョイ ン ト、パイ ロッ トバル
ー ン、カ フ、 マー フ ィー アイ の 4点 で構成 さ
れ、患者 の状態や用途 によつて多種多様 なもの
がある。挿管 されたチ ュー ブの先端 は気管分岐
部 の 2∼ 3cm上 方 に位置す るよ うに留置す るた
め、固定位置 は男性 で 19∼
23cm、
女性 で 19∼
22cm程 度 となる。
(2)カ フ の 役 割
カフはチ ュー ブ留置中に声門下 に位置 し、膨 らませ ると気道 に密着す ることで人工呼吸管理中
の換気量 を確保す るバルー ンである。カ フには、肺内ガスのエアー リー クを予防 し、 日腔内の分
泌物や消化管 か らの逆流物 が下気道 に流れ込 むことを防 ぐ役割 がある。 しかし気管内腔 は呼吸運
動や哄下反射 などの生理的な運動によつて常 に変化 し、カフ 自体 の 自然脱気す るためカフ圧 が変
化 し、 カ フ上 部 の液体 貯 留物 がカ フ周 囲 を伝 わ って微 量 に垂れ込 み、不 顕性 誤 嚇 (Silent
asplration)を 起 こす こともあ る。つ ま リカ フ圧 が適正であつて も、完全 に誤嘔 を防 ぐこ とはでき
ない。
(3)カ フ圧 の設定
カフ圧 は、気管粘膜 の圧損傷 を避 けられる圧 である ことが前提 である。気管壁 の細動脈 の血圧
が 30mmHg前 後 で あ る ことか ら、 それ よ り低 い圧 に設定す るこ とが一般 的 であ る。 ただ し
20cmH20よ り低 い圧 で は肺炎発 生 との 関連性 が指摘 され てい るこ とか ら、 一般 的 には 20∼
30cmH20程 度 にカフ圧計 を用 いて設定す る。 リー クや垂れ込みがないことが必 要であるが、高い
カフ圧で気管 を圧迫 していると、抜管後 に咽頭浮腫 を起 こす ことがあるため、注意 が必 要である。
カ フ圧 は 1日 に数回測定す ることが望ましく、また人工呼吸器 の圧、換気量な どの設定 を変更
した場合 、 さらには体位変換や気管吸引前後 にも測定す るこ とが望ましい。
―-32-―
平成 22年 8月 20日
(第
2版
)
第 2版
監修
(社 )日 本理学療法士 協会
内部 障害理学療 法研究 部会呼吸班
制作
(社 )日 本理学療法士 協会
執筆協力
高橋
仁美 (代 表 )
鵜沢
吉宏
神津
玲
高橋
哲也
玉木
彰
富田
和秀
横山
仁志
第 1版
日下
隆一
大久保 圭子
千住
秀明
高橋
哲也