バレーボール競技におけるブロックとセット取得との関係 The relationship

健康医療科学研究 第 5 号 2015
[原著論文]
PP. 1 − 8
バレーボール競技におけるブロックとセット取得との関係
1)
2)
太田 洋一 ・射延 友季 ・三橋 俊文
3)
The relationship between blocking and set acquisition in volleyball
game
Yoichi OHTA, Yuki INOBE, Toshifumi MITSUHASHI
The purpose of this study was to clarify the block factor about set acquisition of a volleyball game. The number
of blockers and blocking results (seven items) for every play were analyzed for a total of 33 sets in 10 games (1153
plays) and compared between set acquisition and non-set acquisition teams. In the results, numbers of blockers
during one set in set acquisition teams were significantly larger than that in non-set acquisition teams. There were
significant differences between set acquisition teams and non-set acquisition teams in rate of item 1 (spike failure)
and item 6 (scoring points by the block) in blocking results. In conclusion, it was suggested that more number of
blockers during one set was needed for set acquisition.
Keywords:ブロック参加人数,ゲーム分析,勝敗,変動係数
Number of blockers, Game analysis, Victory or defeat,Variability
1.緒言
バレーボール競技はネットを挟んで相対した 2 チームが相手コートにボールを落とすことで得点し,
相手より先に決められた得点(現在では 25 点)に到達することを目指して競い合う競技である.現在の
バレーボール競技では,サイド攻撃の高速化やファーストテンポでの攻撃,パイプ攻撃をはじめとする
バックアタック攻撃など攻撃の多様化・高速化がみられる(吉田・小笠原,2002)
.このような攻撃の多
様化・高速化は,相手の守備陣形を崩しより得点しやすい状況を作り出すことが目的であると考えられ
る.
現在ではラリーポイント制(サーブ権に関わらず得点が入る制度)に移行したことから,相手側から
の攻撃に対してそれをいかに阻止することが出来るかが勝敗にとって重要な要因として考えられる.相
手側からの攻撃を阻止する手段の一つとしてブロックがあげられる.ブロックとは相手側からの攻撃を
ネット際でジャンプして空中で阻止するプレーのことであり,本研究で対象とする 6 人制バレーボール
の場合,前衛の 3 人のみが参加可能である.効果的なブロックはアタックのコースを限定することやワ
ンタッチによるボールスピードの緩和などにつながり,相手チームの攻撃決定率を減少させる守備的側
面をもつ.得点の約 50%~60%はスパイクによるものである(明石・千葉,1999)ことから,その得点源
であるスパイク精度をブロックにより低下させることは,相手チームの攻撃決定率を低下させることに
つながるだろう.また,ブロックは相手スパイクを直接阻止し得点するという攻撃的側面も有すること
から,攻守両面においてブロックは重要な要因であると言える.
佐賀野ら(1998)は,1995 年のワールドカップ男子におけるイタリア対日本のゲーム分析から,勝利
チームのイタリアは日本よりもゲーム中のブロック参加枚数が多いことを報告している.また,明石ら
(1997)は,大学バレーボールチームを対象に,ブロック決定率(ブロック決定本数の割合)
,ブロック
効果率(ブロックの有効本数とブロック決定本数の割合)およびスパイク阻止率(ブロック決定数,ブ
1) 愛知淑徳大学 健康医療科学部 スポーツ・健康医科学科
2) 愛知淑徳大学 健康医療科学部 スポーツ・健康医科学科 2013 年度卒業生
3) 愛知淑徳大学 健康医療科学部 スポーツ・健康医科学科 2013 年度卒業生
−1−
健康医療科学研究 第 5 号 2015
ロック有効本数,ワンタッチレシーブ本数およびノータッチレシーブ本数の割合)のそれぞれについて,
チームごとに比較を行った結果,競技成績が上位のチームは,どの値も高いという研究結果を報告して
いる.これらの報告は勝利チームや上位チームの特徴をブロック要因から明らかとしたものであるが,
勝利チームや上位チームであってもセットを落とすことはあるため,試合の勝敗だけでなくセットの勝
敗に関わるブロック要因を明確にすることは重要であると考えられる.この点に関して西島ら(1985)
は,セットの勝敗への貢献の程度として「ブロックによる得点パフォーマンス」がもっとも大きいと報
告している.しかし,この研究はサーブ権を持っていなければ得点できない以前のルール(サイドアウ
ト制)によるものであることから,現在の選手の指導の為に,ラリーポイント制度移行後に行われた近
年の実際の競技会で,セット取得とブロックとの関係を検討する価値は高いものと考えられる.
そこで,本研究では,バレーボール競技におけるセット取得とブロックとの関係を明らかにすること
を目的とした.
2.方法
2.1. 対象
東海大学男女バレーボールリーグ戦春季大会および東海大学男女バレーボール選手権大会の男子バレ
ーボール 1 部リーグ 10 試合計 33 セット(1153 プレー)を対象とした.本研究は愛知淑徳大学健康医療科
学部スポーツ・健康医科学科の倫理委員会に承認されたものである.
2.2. 撮影方法
コートエンドライン後方の2階応援席より試合開始から終了までをビデオカメラ(SONY社製:
HDR-CX180)にて撮影した.ビデオ撮影は東海大学バレーボール連盟の許可を得て実施した.
2.3.データ収集
撮影した映像から,サービスから得点に至る 1 プレー毎に相手の攻撃に対して跳んだブロックの人数
(ブロック枚数)を算出した.また,ブロックに跳んだ結果を 7 項目に分け,当てはまった項目の数を 1
セット毎に計数した.なお,ブロックに跳んだ結果は表 1 の通りに分類した.
表1.ブロックに跳んだ結果の分類 (Classification of blocking results)
項目 0 (Item 0)
スパイク失敗 (Spike failure)
項目 1 (Item 1)
ブロックに当たらずスパイク決定 (Spike detection without block touch)
項目 2 (Item 2)
ブロックに当たってスパイク決定 (Spike detection with block touch)
項目 3 (Item 3)
ブロックに当たって相手コートで継続 (Continuance with block touch in opponent court)
項目 4 (Item 4)
ブロックに当たって自コートで継続 (Continuance with block touch in own court)
項目 5 (Item 5)
ブロックに当たらず継続 (Continuance without block touch)
項目 6 (Item 6)
ブロック決定(ブロックによる得点) (Scoring points by the block)
2.4.解析方法
1セット中の総ブロック枚数を総ブロック回数で除すことによって1セット毎のブロック平均枚数を算
出した.
1 セット毎のブロック平均枚数とその標準偏差から,
変動係数を算出した
(標準偏差÷平均枚数)
.
ブロックに跳んだ結果は当てはまった項目の数を 1 セット毎に計数し,総ブロック回数に対する各項目
の割合をセット毎に算出した(各項目として計数された数÷総ブロック回数:項目別割合)
.さらに,各
項目における総ブロック枚数を各項目の総ブロック回数で除すことによって,それぞれの項目における
ブロック平均枚数をセット毎に算出した(項目別平均枚数)
.また,項目 4 および 5 からの切り返しの攻
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バレーボール競技におけるブロックとセット取得との関係
撃(以下トランジション)の決定率(%)を算出した(項目 4 および 5 直後の攻撃の決定数÷項目 4 およ
び 5 の総数×100)
.なお,トランジションとは相手アタックをレシーブして攻め返すことである.
算出した測定項目をセット取得群(取得群と略す)とセット非取得群(非取得群と略す)に分類し,
それぞれの平均値を比較した.ブロック平均枚数,変動係数およびトランジション決定率の比較は,対
応のないt検定を使用した.項目別割合と項目別平均枚数は,セット取得の有無(対応無し)とブロッ
クに跳んだ結果の分類(7項目,対応あり)を要因とする 2 要因の分散分析(混合計画)による検定を
行った.有意な交互作用が認められた場合は,単純主効果検定を行った.また,ブロックに跳んだ結果
の分類に有意な主効果が認められた場合は Bonferroni 法により多重比較を行った.項目別割合と 1 セッ
ト中のブロック平均枚数およびその変動係数との関係を検討するために Peason の積率相関係数を算出し
た.すべての検定において有意水準は5%未満とし,Statistical Package for Social Sciences (SPSS)
version 22.0 を使用した.さらに,本研究では,サンプル・サイズによって変化しない標準化された指
標である効果量(水本・竹内,2008)を算出した.効果量は,分散分析においては偏イーター2乗(ηp2)
を用い,セット取得群と非取得群の比較には Cohen’s d index (d)を用いた(Cortina & Nouri, 2000;
水本・竹内,2010)
.
3.結果
3.1. ブロック平均枚数
取得群では,1セット当り平均 1.73±0.14 枚,非取得群では 1.64±0.16 枚で,両群間に有意な違い
が認められた(p = 0.022; d = 0.59,図 1)
.
3.2. ブロック枚数の変動係数
取得群では,1 セット当り平均 0.37±0.059,非取得群では 0.40±0.081 で,両群間に有意な違いは認
められなかった (p = 0.07; d = 0.45,図 2)
.
*
1.9
1.8
1.7
0.40
acquisition
0.30
non‐acquisition
Figure 1. (Average) Number of blockers
during one set
3.3.
0.45
0.35
1.6
1.5
p = 0.07
d = 0.45
0.50
Variability
Number of blockers
2.0
* p < 0.05
d = 0.59
acquisition
non‐acquisition
Figure 2. Variability of
number of blockers
ブロックに跳んだ結果の項目別割合
2 要因の分散分析を行った結果,有意な交互作用が認められた(F[6, 384] = 4.047, p = 0.001, ηp2 =
0.059).交互作用が有意であったことから,単純主効果検定を行った結果,項目 1 と項目 6 において,
取得群と非取得群との間に有意な違いが認められた(項目 1:p = 0.002; d = 0.81,項目 6:p = 0.019;
d = 0.60,図 3).
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健康医療科学研究 第 5 号 2015
3.4.
ブロックに跳んだ結果の項目別平均枚数
項目別平均枚数についても項目別割合と同じく 2 要因の分散分析を行った.その結果,有意な交互作
用は認められず(F[6, 282] = 0.886, p = 0.505, ηp2 = 0.019),また,セット取得の要因についても有
意な主効果は認められなかった(F [1, 47] = 3.030, p = 0.088, ηp2 = 0.061).一方,ブロック有効
度(項目)には有意な主効果が認められた(F [6, 282] = 9.428, p < 0.001, ηp2 = 0.167,図 4)
.
Rate (%)
50
acquisition
non‐acquisition
*
40
*p < 0.05
Item 1 d=0.81
Item 6 d=0.60
30
*
20
10
0
Item 0
Itme 1
Item 2
Item 3
Item 4
Item 5
Item 6
Number of blockers
Figure 3. Rate of each item in blocking results.
2.4
2.2
2.0
1.8
1.6
1.4
1.2
1.0
acquisition
non‐acquisition
Item 0
Itme 1
Item 2
Item 3
Item 4
Item 5
Item 6
Figure 4.Number of blockers of each item in blocking results.
3.5. トランジション決定率
項目 4 および項目 5 のトランジション決定率を算出し,セット取得との比較を行った.その結果,項
目 4 のトランジション決定率は取得群で 36.3±26.6(%),非取得群で 20.3±24.9(%)となり,両群間に有
意な違いが認められた(p = 0.014; d = 0.63,図 5)
.項目 5 のトランジション決定率は,取得群では 28.3
±19.2(%),非取得群では 19.5±22.9(%)で,両群間に有意な違いは認められなかった(p = 0.094; d =
0.43,図 6)
.
3.6. ブロック平均枚数およびその変動係数と項目別割合との相関
ブロック平均枚数および変動係数と項目別割合との相関分析を行った結果,ブロック平均枚数と項目
0(r = 0.323; p = 0.008),変動係数と項目 1(r = 0.257; p = 0.037)との間に有意な正の相関関係が認
められた.変動係数と項目 0(r = - 0.372; p = 0.002),変動係数とブロック平均枚数(r = -0.492; p <
0.001)との間に有意な負の相関関係が認められた(表 2).
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バレーボール競技におけるブロックとセット取得との関係
*
70
60
60
50
50
40
30
40
30
20
20
10
10
0
0
acquisition
p = 0.09
d = 0.43
70
Rate (%)
Rate (%)
* p < 0.05
d = 0.63
non‐acquisition
acquisition
non‐acquisition
Figure 6. Success rate in transition (Item 5)
Figure 5. Success rate in transition (Item 4)
Table 2. Correlations between rate of each item in blocking results and number of blockers and that of variability (n = 66)
Item 0
Item 1 Item 2 Item 3 Item 4
Item 5
Item 6
Number of
blockers
Number of
r
.323
-.229
-.021
.241
.034
-.146
.057
blockers
p
.008
.064
.866
.051
.784
.240
.647
r
-.372**
.257*
.009
-.195
.101
.067
-.091
-.492**
p
.002
.037
.944
.117
.422
.593
.469
.000
Variability
**
**. p < 0.01, *. p < 0.05; r. Pearson ’s r.
4.考察
本研究では,バレーボール競技におけるブロックとセット取得との関係を明らかにすることを目的と
し,ブロック平均枚数だけでなくその変動係数やブロック有効度とセット取得との関係を検証した.
4.1. ブロック平均枚数およびその変動係数とセット取得との関係
ブロック平均枚数のチームごとの比較に関する先行研究(明石,1997)では,競技成績が上位のチーム
ほど試合中のブロック参加枚数が多いことが報告されている.本研究では,セット取得群と非取得群の
ブロック平均枚数の差は約 0.09 枚であったが,取得群の方が非取得群よりも有意に高値を示した.この
結果は,セットを取得したチームはセットを落としたチームよりも,1セット中のブロック参加人数が
多いことを示しており,
「守備側はブロックに跳ぶ人数をできるだけ多くする必要がある」との従来のル
ール(サイドアウト制)での示唆(佐賀野ほか,1998)を現在のラリーポイント制においても支持する
ものとなった.これらのことから,セット取得のためには,1セット中のブロック参加人数を相手チー
ムよりも多くすることが望ましいと示唆された.
一方,1セット中の変動係数は取得群と非取得群との間に有意な違いは認められなかった.ブロック
平均枚数の変動係数はセットを通したブロック枚数の変動 (1度のプレーで跳ぶブロック枚数のばらつ
き)の指標と考えられる.また,ブロック枚数は最大で3枚であることから,ブロック枚数が多いチーム
は必然的に変動係数が小さくなるものの,ブロック枚数が少ないチームでも常に少ない枚数でブロック
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健康医療科学研究 第 5 号 2015
に跳んでいる場合は変動係数が小さくなる.このような特徴が,変動係数において取得群と非取得群と
の間に顕著な違いが認められなかった原因の一つかもしれない.しかし,ブロック平均枚数が少ないチ
ームの原因は,常に少ない枚数でブロックに跳んでいる(変動係数が小さいが平均も小さい)と,3枚
跳んでいるときも多いが,1枚や0枚も多い(変動係数が大きくて平均が小さい)との 2 通りが考えら
れる.本研究において,ブロック平均枚数と変動係数との間に有意な負の相関関係が認められたことは
(表2)
,ブロック平均枚数が少ないチームほどセットを通したブロック枚数の変動が大きい(一度のプ
レーで跳ぶブロック枚数のばらつきが大きい)ことを示しているだろう.したがって,1セット中の平均
ブロック枚数が少ないチームは,セットを通したブロック枚数のバラツキを改善する必要があるかもし
れない.これらのことから,バレーボールのゲーム分析においては,ブロック枚数だけでなくその変動
係数も分析の対象とすることが重要であると提案する.
4.2.
ブロックに跳んだ結果の項目別割合とセット取得との関係
項目別割合では,項目1(ブロックに当たらずスパイク決定)と項目6(ブロック決定)においてセ
ット取得の有無で有意な違いが認められた.項目1では,非取得群が取得群よりも有意に高値を示した.
この結果は,ブロックを抜かれてスパイクを決められた割合が大きければセットを落とす可能性が高く
なることを示している.一方,項目6では,取得群が非取得群よりも有意に高値を示し,ブロックによ
る得点の回数が多ければセットを取得する可能性が高くなることを示唆している.この結果は,従来の
サイドアウト制における報告(西島ら,1985)を支持するものであり,現在のラリーポイント制におい
てもブロックによる直接的な得点が,セットの勝敗を決定する重要な要因であることが確認された.
本研究では,ブロックのワンタッチにより相手のスパイクの威力を減少させるプレー(項目4)がセ
ットの取得に関係する要因であると予想していたが,項目4においてセット取得の有無で有意な違いは
認められなかった.一方,項目4のその後の攻撃であるトランジションの決定率は取得群の方が非取得
群よりも有意に高値を示した.これらのことは,ブロックのワンタッチにより相手スパイクの威力を減
少させるプレーそのものよりも,その後のトランジションの決定率がセットの勝敗を決定する要因であ
ると示唆するものである.この結果は,味方サーブ時の相手攻撃に対する最初の攻撃(最初のトランジ
ションアタック)による得点が,ゲームの勝敗に最も影響を及ぼしているとの報告(吉田・箕輪,2001)
を支持するものと言える.また,事前に違いが認められると予想していた項目 5 は項目別割合・トラン
ジションのどちらも取得群が非取得群よりも高い値を示す傾向ではあったが,有意なものではなかった.
本研究では,データ収集の際,項目5にハーフスピードのスパイクによるチャンスボール気味の返球に
ブロックが跳んだプレーも分類に加えて収集したため,項目5の対象プレー範囲が広くなったことが両
群間に顕著な違いが認められなかった原因の1つと考えられた.
4.3.
ブロックに跳んだ結果の項目別平均枚数とセット取得との関係
項目別平均枚数とセット取得の2要因において,統計的に有意な交互作用が認められなかったことか
ら,特定の項目におけるブロック枚数の差はセットの勝敗に関係するものではないことが考えられる.
一方,項目における主効果が認められたことから,セット取得の有無に関係なく項目間の平均枚数に着
目すると,項目1及び5のブロックにボールが接触しないプレーではブロック平均枚数は少ない傾向で
あったが(平均 1.55 枚),逆に項目2,3および4のブロックにボールが接触するプレーではブロック平
均枚数が多い傾向が認められた(平均 1.83 枚)(図4)
.また,相手のミスによる得点を示す項目0の平
均枚数は項目2および4と同様に他よりも高値を示しており,枚数の多いブロックが相手スパイカーに
プレッシャーを与え,ミスを誘ったと考えられる.以上の結果から,ブロックでのワンタッチをとれる
可能性や相手のミスを誘う可能性を高めるためには,2枚以上のブロック枚数が必要であると考えられ
−6−
バレーボール競技におけるブロックとセット取得との関係
る.しかし,本研究は大学学生レベルを対象としたものであることから,競技レベルの違いによるさら
なる検討は必要である.また,項目6(ブロックによる得点)において,項目別割合では取得群と非取
得群との間に有意な違いが認められたが,項目別平均枚数では有意な違いが認められなかったことから
は,ブロックでのシャットアウトは,ブロック参加枚数よりもブロッカー個人の読みや技術またはスパ
イカーの技術などの他の要因が大きく関係するものと示唆された.
4.4. ブロック平均枚数およびその変動係数と項目別割合との相関
ブロック平均枚数と項目0の割合との間に正の相関が認められたことから,相手のスパイクミスによ
る得点の多いチームは,セットを通したブロック平均枚数が多く,相手スパイカーにプレッシャーを継
続して与えミスを誘うことにつながっていたと推察される.また,変動係数と項目1の割合との間に正
の相関が認められたことからは,ブロックを抜かれることが多いチームは,1プレー毎のブロック枚数
のばらつき(変動)が大きいことを示しており,相手攻撃に対して少ないブロック枚数で対応する場面
が多くなると,失点に繋がる可能性が高くなることが示唆された.さらに,変動係数と項目0の割合と
の間に負の相関が認められたことは,ブロック枚数の変動が大きいチームほど,相手のスパイクミスに
よる得点の割合が小さいことを示しており,ブロック枚数のバラツキが大きいチームは,相手スパイカ
ーに与えるプレッシャーが小さくミスを誘うことができないかもしれない.これらのことは,ブロック
平均枚数やその変動係数が最終的なセットの勝敗に関わる要因としてだけでなく,得点に関わる個別の
プレーにも関係することを示唆するものだろう.
5.まとめ
バレーボールのブロックについて,セット取得との関係をブロック平均枚数とその変動係数,項目別割
合,項目別枚数およびトランジション決定率などの観点から分析した.その結果,以下のことが示唆さ
れた.
1.
ブロック平均枚数が相手チームより多いとセット取得に繋がる.
2.
セット取得の可能性を高めるためには,ブロックのワンタッチによる相手攻撃の威力緩和からの
切り返しであるトランジションをいかに成功させられるかが重要である.
3.
ブロックでのワンタッチをとれる可能性や相手のミスを誘う可能性を高めるためには,2 枚以上の
ブロック枚数が必要である.
4.
1~3 を実践するためには,セットを通してブロックの参加枚数を複数枚揃え,その数の変動を少
なくすることが必要である.
5.
ブロックによるシャットアウトはセットの勝敗に関わる要因の1つではあるが,個人の技術や読
みに依存する部分が大きい.
文献
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