イオン液体の研究展開と将来展望 Development and Future of

S5-2
イオン液体の研究展開と将来展望
Development and Future of Ionic Liquids
大野
弘幸
Hiroyuki Ohno, Institute of Symbiotic Science & Technology, Tokyo University of Agriculture & Technology.
184-8588 東京都小金井市中町 2-24-16, 東京農工大学
大学院
共生科学技術研究部
Tel & FAX: 042-388-7024, e-mail: [email protected]
Ionic liquids, molten salts at ambient temperature, are expected as green solvents for a variety of research fields
as well as industrial use. Since ionic liquids have no vapor pressure, they are also expected as safe (non-flammable)
liquids.
These have vigorously been studied as electrolyte materials as well as reaction solvents because they are
composed of only ions and accordingly show high ionic conductivity.
Some examples of recent development and
future aspects will be presented.
室温で液状の塩が注目されている。Ionic Liquids
∼400℃)で液状を示す。これらの特徴は他の分子性
(イオン液体)と呼ばれる一群の物質は従来にない
溶媒には見られないものである。さらに⑤重い液体
興味深い溶液特性と大きな可能性のため、全世界で
である(比重 1.2∼1.6)。⑥ある程度の極性を持つ。
研究例が急増している。そもそも融点以上に加熱す
⑦多種類の物質を溶かすことができる。⑧機能席を
れば無機塩でも溶融し、金属精錬などに利用される
導入することができる。など、周辺の特性もそれら
“溶媒“となることは古くから知られていた。高温
の可能性を多彩にしている。表1にイオン液体を取
化学での利用を広げるために、融点の低い無機塩の
り巻くトピックス(特徴、形態、利用分野)をまと
探索がなされ、複数種の無機塩を混合した多くの系
めた。急速な展開が行われているので、このほかに
で融点低下が観測された。しかし、100℃以下で溶
も多くの項目が次々と書き込まれることであろう。
融し、空気中でも安定な無機塩混合系は見出されな
表1 イオン液体の応用分野と形態
かった。一方、有機塩では 1914 年に Walden が合成
したエチルアミンの硝酸塩(融点 12℃)が最初の
イオン伝導
例であるといわれている。しばらくは注目されてい
エレクトロクロミズム
分離抽出
粘性制御
キャパシタ 発光素子
なかったが、1992 年に Wilkes らが低融点のイミダ
ゾリウム塩を報告し、一部の研究者が周辺の研究を
報告するようになり、90 年代末には一気に研究事
キラリティー
生物電池 太陽電池
触媒
レドックス
熱伝導
イオン液体
不揮発性溶媒
バイスへの導入も盛んに試みられるようになった。
磁性
液晶
電解質
蓄熱
膜
1996 年には色素増感太陽電池にイミダゾリウムヨ
アクチュエーター
ドラッグキャリアー
フォトクロミズム
例数が増大した。溶媒としての展開のみならず、デ
燃料電池
金属錯体
カラム
センサー
ゴム ゲル
超分子
ポリマー
ウ素塩が使えることを Grätzel らが報告したのをは
じめ、二次電池、燃料電池、キャパシター、アクチ
イオン液体は単なるグリーンな溶媒としてだけ
ュエーター、表示素子、などに利用した結果の報告
でなく、多彩な展開が期待できる。しかし、欠点も
が相次いだ。研究の波は衰えることなく、21 世紀
ある。蒸気圧がないということは、蒸留ができない
に入っても報告数は増加の一途をたどっている。
ことであり、イオン液体中の物質分離には工夫が必
ではなぜイオン液体が多くの研究者の興味を集
要である。また、高い安定性は難分解性につながる。
め、盛んに研究されるようになってきたのだろう
これらを認識しつつ、イオン液体を進化させること
か?その答えはイオン液体の持つユニークな特性
が今後の展開であろう。有機イオンでは容易に構造
と今後の可能性にある。すなわち、イオン液体は、
を変えることができるので、望みの機能を夢見なが
①イオンだけからなる液体である。②蒸気圧がほと
ら、無限ともいえる構造の variation を楽しもうでは
んどない。③不燃性である。④幅広い温度域(-50℃
ないか。