其の十三 - 宮内庁

其
の
十
三
しおり
《京都》 御所と離宮の
御所と離宮の栞
栞
- 京 都 御 所 -
さんだいでん
にしごえんざしき
参内殿 西御縁座敷
ろうぎょく
内
杉戸絵「弄玉」◇
さんだい でん
参内殿は御常御殿の北西側にある御殿で,正月に摂家・宮
家・大臣が参賀するときにはここから御常御殿に参上したり,
ご え ん ざ し き
前庭では闘鶏などの行事をおこないました。西側の御縁座敷
かさかわ ゆう せん
ろうぎょく
にある杉戸には,笠川友泉による「弄玉」の絵が画かれていま
す。2面の杉戸の右側には弄玉が立ち,左には彼女と向かい
あって鳳凰が羽ばたいています。
れっせんでん
中国の『列仙伝』という書物に依ると,弄玉は中国春秋時代
しん
参内殿
ぼくこう
しょう
の秦の国王穆公の娘で,雅楽器の簫 を使い孔雀や鶴などを
しょうし
呼び寄せることができる簫史という仙人のもとに嫁ぎました。
弄玉は簫史から簫を学び,数年経つころには,鳳凰の鳴き声に似せて簫が吹けるまでに上達し,弄玉が吹くと簫の音に誘
われた鳳凰が家に飛んでくるようにまでなりました。そのため父の穆公は娘夫婦のために鳳台という楼台を建て,そこに住
まわせました。その後,夫婦は鳳台から下りてこなくなり,あるとき鳳凰と共に天へ昇っていったということです。
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し れ い
鳳凰は想像上の瑞鳥で,霊亀,応龍や麒麟と共に四霊の一つとされま
れいせん
す。太平の時に湧きでる醴泉の水を飲み,60~120年に一度だけ実を結
ご と う
ぶという竹の実だけを食べ,梧桐(青桐)の木に宿るとされています。
聖天子の兆しとして平和な世にのみ姿を現すという古代中国の思想が
伝わったもので,吉祥文様の一つとして使われ,紫宸殿の高御座(写真
こうろぜん
中段)などの調度や歴代の天皇が着用される黄櫨染御袍の文様(桐竹鳳
凰麒麟文)などにも用いられています。
きりたけほうおうず
御常御殿 上段の間東面 「桐竹鳳凰図」 画:狩野永岳
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般
□
帝鑑図を画いた御常御殿の障壁画
般
□
ていかんず
京都御所には約1800面の障壁画があり,風景画や花鳥図など様々な題材が用いられていますが,今回は帝鑑図を画い
た御常御殿の上段の間などの障壁画について紹介したいと思います。
ちょう き ょせ い
て い かんずせ つ
帝鑑図は,中国の明代の政治家である張 居正が幼い皇帝のために著した『帝鑑図説』にもとづいて画かれた勧戒図で
ぎょう しゅん
す。『帝鑑図説』は,中国神話に登場する堯 ・ 舜 から宋王朝にいたる歴代皇帝にまつわる故事をとりあげたもので,君主と
して模範とすべき善行として81項目,悪行の戒めとして36項目の合計117項目で構成されているものです。
京都御所一般公開時に蔀戸を開放した御常御殿の様子(右側より上段の間,中段の間,下段の間)
ぎょうにんけんとちず
たいうかいしゅぼうび ず
御常御殿の上段の間には狩野永岳が「堯仁賢図治図」,中段の間には鶴沢探真が「大禹戒酒防微図」,下段の間には
さいだしげなり
こ う そう むらい り ょう ひつ ず
座田重就が「高宗夢賚良弼図」を画いています。
上段の間の「堯仁賢図治図」は,『帝鑑図説』の冒頭に出てくる堯の善政が6面にわたって画かれています。
ぎょうにんけんとちず
上段の間 「堯仁賢図治図」 画:狩野永岳
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堯と対面するため整列している義仲・義叔兄弟と和仲・和叔兄弟
馬に乗って移動する舜
堯が徳の高い賢人を選んで各地に派遣して国を治めさせたり,宰相として賢人を任用し帝の政治を補佐させると国が平
ぎ ちゅ う
ぎしょく
かちゅう
かしょく
和になり栄えたという故事を画いたもので,ここでは堯が任用した義仲・義叔兄弟,和仲・和叔兄弟の4人(写真:上段左赤
枠内)が東西南北の国へそれぞれ派遣される時,堯と対面するため建物の前で整列している様子(写真:上段左)や,宰相
に任ぜられる舜が馬に乗って移動している様子(写真:上段右)が画かれています。
たいうかいしゅぼうびず
中段の間 「大禹戒酒防微図」 画:鶴沢探真
たいうかいしゅぼうびず
ぎ て き
中段の間の「大禹戒酒防微図」は,儀狄という酒造りから献
上されるお酒があまりに美味であったため,後世の者は酒を
か
以って国を滅ぼすと考えた夏の禹王が,お酒を禁じて儀狄と
の関係を疎遠にしたという故事を画いたもので,ここでは禹王
と儀狄が対面している場面を画いています。 (詳細写真:下
段左)
酒壺をかかえる儀狄
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こ う そう むらい り ょう ひつ ず
下段の間 「高宗夢賚良弼図」 画:座田重就
こ う そう むらい り ょう ひつ ず
いん
こうそう
下段の間の「高宗夢賚良弼図」は,殷の高宗が国を平和に治めることを願っ
ていたところ,夢の中で高宗をよく補佐する者が現れるというお告げがあり,夢
に出てきた賢人の姿を描き,その人物を探しだして宰相として任用したところ,
ふえつ
その人物(傅説)はよく高宗を補佐し,高宗が中興の主となることができたという
故事を画いたもので,ここでは10面にわたって高宗が家臣に命じて傅説を探し
下段の間の北面に画かれている高宗
傅説
ている場面を画いています。
傅説を探す家臣
賢聖障子に画かれている傅説
この傅説は,紫宸殿にある中国の賢人達を画いた賢聖障子の中にも画かれている人物です。
なお,京都御所には御常御殿の他に小御所や若宮御殿にも帝鑑図が画かれており,それらの障壁画については,今後取
り上げます。
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内
◇
御所に参内する際に着用する冠
御殿に画かれているさまざまな障壁画には,宮中の行事を題材として画か
れているものがあり,左の写真のように色鮮やかな装束をまとった官人など
が画かれています。今回はその装束を身につける際に男性がかぶる冠につ
いて説明したいと思います。
奈良時代には儀式や参内の際に着用する装束は衣服令により定められ,
位により着用できる装束の色目が決められていました。装束の形状などは
時代により変化しましたが,平安時代末期頃には写真にある現在の儀式で
も見られるような装束となりました。装束の形状が変化するにつれて,冠の
形状も変化が生じてきました。中段の写真の障壁画に画かれている官人
そくたい
もとどり
は,束帯とよばれる装束を身につけており,冠を着用しています。冠は, 髻
こ
じ
かんざし
(髪を頭上に束ねたもの) を入れる巾子,横から髻を止める 簪 ,頭を覆う
小御所の北廂に画かれている障壁画
ひたい
「清涼殿十月更衣」より
いそ
えい
額 (甲),縁にあたる磯,後方に垂れ下がる纓などから構成されています。
かんざし
古くは髻に纓を結いつけたり, 簪 を髻に挿して冠を固
定しましたが,現在冠を固定する時は纓や簪は使用せず
こ びね り
に,紙捻(糸を芯として紙を巻いて練り上げたもの。紙の
みの場合もあり)を纓壺にあて簪の上をとおり額で交差さ
せて,あごの下で結び冠を固定します。儀式の折や舞人
か
ざ
し
などは,装飾として挿頭花という花の折枝や造花を冠に
挿すことがあります(写真:下段右)。
小御所の東廂に画かれている障壁画 「曲水宴」より
纓の付け方などでそれぞれ呼び名がつけられており,
すいえい
文官が通常時に着用する冠は,「垂纓の冠」といいます。
これは纓が垂れているものです(写真:下段中央)。
巾子
額
簪
纓
纓壺
磯
冠に挿頭花を挿している舞人
冠
垂纓の冠
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屏風 源氏の画より(栞其の四で紹介)
鋏木
巻纓の冠
御三間の中段の間に画かれている障壁画
「賀茂祭群参図」より
上の写真の障壁画に画かれている者が着用している冠は,
けんえい
「巻纓の冠」と呼ばれるもので,冠の構造は同じですが,纓が巻
かれているものです。武官が主に用いた冠で,纓の末端が内側
はさみぎ
にくるように巻いた纓を鋏木と呼ばれるもので左側から止めて,
纓壺に挿しています。古くは各家により纓の巻き方が異なってい
緌
ました。
おいかけ
ば
す
この巻纓の冠では, 緌 (写真:右)と呼ばれるものを両耳付近につけます。緌は馬尾毛を使用して半月状に整えたもの
と き ん
で,奈良時代の頭巾というかぶりものを頭から落ちないように止めていた緒の房が変化した物といわれています。緌は附
属している紐で冠に取りつけます。
左の写真の障壁画に画かれている官人達がかぶっている冠
さいえい・ほそえい
には「 細 纓 」がさしてあります。この細纓は六位以下の武
官や蔵人が用います。古くは鯨の髭を2本輪にしたものに織物
が張られていましたが,後に織物を張らなくなり鯨の髭のみで
製作するようになりました。また,竹を裂いて細くしたものを使
用していた時期もあったようです。
げん ぷく
かつて男子の成年の儀式として「元服」がありました。その際
あ げま き
みずら
かんむりした
には総角(角髪)という髪型から 冠 下 という髪型に結い,人生
で初めて冠を被ります。「冠婚葬祭」の冠は,そのことに由来し
ています。
御三間の中段の間に画かれている障壁画
「賀茂祭群参図」より
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京都御所案内図
若宮御殿
参内殿
御三間
御常御殿
清涼殿
小御所
紫宸殿
外 マークは,御所・離宮の外側から,いつでもご覧になれます。
○
観 マークは,参観でご覧になれます。
□
申込み方法は, http://sankan.kunaicho.go.jp/ をご覧ください。
般 マークは,春と秋には申込みが必要のない一般公開の際にご覧になれます。下記にて日程等をご確認
□
くださいますようお願いします。http://www.kunaicho.go.jp/event/kyotogosho/kyotogosho.html
内 マークは,通常公開していない場所にあります。
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これまでの「《京都》御所と離宮の栞」については,
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〒602-8611
其の十三:平成27年7月1日発行
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