第10回 グラフ理論・組み合わせ論 情報学部門 瀧本 英二 http://www.i.kyushu-u.ac.jp/~eiji 存在性証明 鳩ノ巣原理(Pigeonhole Principle) 確率的論法(Probabilistic Argument) 3 存在定理と非構成的証明 𝐷:集合 𝐴:𝐷 → {𝑇𝑟𝑢𝑒, 𝐹𝑎𝑙𝑠𝑒} (𝐷上の述語) に対し, “∃𝑑 ∈ 𝐷, 𝐴 𝑑 = 𝑇𝑟𝑢𝑒” という形の命題を,一般に存在定理という. 構成的証明: 𝐴 𝑑 = 𝑇𝑟𝑢𝑒 を満たす要素 𝑑 ∈ 𝐷 を 具体的に示すことによる証明. 非構成的証明:そのような要素を陽に示さない証明. 主な証明法として,鳩ノ巣原理や確率的論法がある. 4 構成的証明の例 定理: ∀𝑥 ∈ ℕ, ∃𝑦 ∈ ℕ, 𝑦 > 𝑥 ∧ 𝑝𝑟𝑖𝑚𝑒 𝑦 (素数は無数に存在する) 証明 𝑥 ∈ ℕ を任意に固定. 𝑦 を 𝑥! + 1 の最小の素因数とする. ← 構成的 𝑝𝑟𝑖𝑚𝑒(𝑦) は明らか 2 ≤ ∀𝑧 ≤ 𝑥, 𝑥! + 1 mod 𝑧 = 1 すなわち 𝑧 は 𝑥! + 1 の約数(素因数)ではない よって,𝑦 > 𝑥 5 鳩ノ巣原理 𝐷, 𝑌:集合(𝑛 = 𝐷 , 𝑘 = |𝑌|) ∀𝑓: 𝐷 → 𝑌, ∃𝑦 ∈ 𝑌, 𝑓 −1 𝑦 ≥ 𝑛/𝑘 どれかの巣に 5/2 = 3羽 以上の鳩が入る 6 Erdős の天才を見分ける法 200以下の自然数が101個あるとする.以下の2つの 命題は正しいか? 【命題1】 互いに素(最大公約数が1)な2つの数が 必ずある. 【命題2】 𝑎 が 𝑏 で割り切れるような2つの数 𝑎, 𝑏 が 必ずある. 7 命題1の証明 𝐷 ⊆ 𝑥 ∈ ℕ 𝑥 ≤ 200 , D = 101 𝑌 = 1,2, … , 100 𝑓 𝑥 = 𝑥/2 :𝐷の 要素 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 1 2 3 𝑌 どれかの 𝑦 ∈ 𝑌 に 2つの 𝐷 の要素が対応 その要素とは,2𝑦 − 1 と 2𝑦 これらは互いに素 4 5 【演習】 命題2の真偽を判定せよ 8 講義資料1の演習2 定理 𝑉 ≥ 2 を満たす任意の無向グラフ 𝐺 = 𝑉, 𝐸 に対し,ある 2頂点 𝑢, 𝑣 ∈ 𝑉(𝑢 ≠ 𝑣) が存在して, 𝑑𝐺 𝑢 = 𝑑𝐺 (𝑣) が成り立つ 証明 𝑛 = 𝑉 とおく. 𝑑𝐺 : 𝑉 → 0,1, … , 𝑛 − 1 に注意. 𝑑𝐺 𝑢 = 0 かつ 𝑑𝐺 𝑣 = 𝑛 − 1 を満たす 𝑢, 𝑣 ∈ 𝑉 は存在しない. よって,∃𝑌 ⊆ 0,1, … , 𝑛 − 1 , 𝑌 = 𝑛 − 1, 𝑑𝐺 : 𝑉 → 𝑌 とみなせる. 9 [Erdős, Szekeres ’35] 定理 相異なる 𝑛 = 𝑘 2 + 1 個の実数からなる数列 𝑎1 , 𝑎2 , … , 𝑎𝑛 は,長さ 𝑘 + 1 の増加部分列 𝑎𝑖1 < 𝑎𝑖2 < ⋯ < 𝑎𝑖𝑘+1 (𝑖1 < 𝑖2 < ⋯ < 𝑖𝑘+1 ) か長さ 𝑘 + 1 の減少部分列 𝑎𝑖1 > 𝑎𝑖2 > ⋯ > 𝑎𝑖𝑘+1 (𝑖1 < 𝑖2 < ⋯ < 𝑖𝑘+1 ) 例(𝑘 = 3, 𝑛 = 10) 6, 9, 4, 8, 1, 12, 5, 10, 3, 7 10 証明 𝑓 𝑖 = 𝑢𝑖 , 𝑣𝑖 , ただし 𝑢𝑖 = 𝑎𝑖 から始まる最長増加部分列長 𝑣𝑖 = 𝑎𝑖 から始まる最長減少部分列長 𝑖 𝑎𝑖 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 6 9 4 8 1 12 5 10 3 7 𝑢𝑖 𝑣𝑖 3 3 2 4 3 2 2 3 3 1 1 3 2 2 1 2 2 1 1 1 ∃𝑖, 𝑢𝑖 ≥ 𝑘 + 1 または 𝑣𝑖 ≥ 𝑘 + 1 を示せばよい. 【背理法】 ∀𝑖, 1 ≤ 𝑢𝑖 , 𝑣𝑖 ≤ 𝑘 と仮定 11 証明 すると,𝑓: 1, … , 𝑘 2 + 1 → 1, … , 𝑘 × 1, … , 𝑘 . 鳩ノ巣原理より, ∃𝑖, 𝑗 𝑖 < 𝑗 , 𝑢𝑖 , 𝑣𝑖 = 𝑢𝑗 , 𝑣𝑗 しかし,それはありえない.(【演習】) 1 2 𝑖 𝑗 𝑘2 + 1 𝑎1 𝑎2 𝑎𝑖 𝑎𝑗 𝑎𝑘 2 +1 𝑢𝑖 3 3 𝑣𝑖 2 2 12 鳩ノ巣原理の確率的解釈 1つの巣に入る鳩の数の平均は 𝑛/𝑘 すなわち,確率変数 𝑋 を, 一様ランダムに選んだ巣 𝑖 に いる鳩の数 𝑓 −1 𝑖 とすると, 𝐸 𝑋 = 𝑛/𝑘. 一般に,任意の確率変数 𝑍 に 対し,𝑃 𝑍 ≥ 𝐸 𝑍 > 0.すなわち 𝑛 Z ≥ 𝐸 𝑍 を満たす事象が存在する よって,𝑛/𝑘 以上の鳩がいる巣 𝑖 が存在する 𝑘 → これを一般化したのが確率的論法 確率的論法 存在定理 “∃𝑑 ∈ 𝐷, 𝐴 𝑑 = 𝑇𝑟𝑢𝑒” を示す方法の枠組み 1. 2. 𝐷 上に適当な確率分布 𝑝 を定義 𝑃𝑥∼𝑝 𝐴 𝑥 = 𝑇𝑟𝑢𝑒 > 0 を示す. 確率的論法の適用例 定理: 任意の無向グラフ 𝐺 に対し,高々半数の辺を 削除することにより,二部グラフが得られる. 命題: 𝐺 が二部グラフ ⇔ 𝐺 が2彩色可能 隣接頂点が異なる色に なるように,すべての頂点を 2色で塗り分けること 確率的論法の適用例 証明 𝐺 = 𝑉, 𝐸 の辺の数を 𝑚 とする. 各頂点を一様ランダムに赤か青で塗る. すなわち,𝐷 = 𝑐: 𝑉 → 𝑟𝑒𝑑, 𝑏𝑙𝑢𝑒 上の一様分布 に従って,彩色 𝑐: 𝑉 → 𝑟𝑒𝑑, 𝑏𝑙𝑢𝑒 を選ぶ. このとき,両端点が同色の辺の集合を 𝑀 𝑐 とおく. すなわち,𝑀 𝑐 = 𝑢, 𝑣 ∈ 𝐸 𝑐 𝑢 = 𝑐 𝑣 . 𝐸 𝑀 𝑐 = 𝑚/2. よって,∃𝑐 ∈ 𝐷, 𝑀 𝑐 ≤ 𝑚/2. 𝑀 𝑐 の辺を全部削除することにより,𝑐 は残った グラフの2彩色になっている. よって,残ったグラフは二部グラフ. 例2:独立集合のサイズ 定理: 任意の無向グラフ 𝐺 = 𝑉, 𝐸 , 𝑛 = 𝑉 に対し, 𝐸 ≤ 𝑛𝑘/2 ならば,∃𝑉 ′ ⊆ 𝑉, 𝑉 ′ ≥ 𝑛/(2𝑘), ∀𝑢, 𝑣 ∈ 𝑉 ′ , 𝑢, 𝑣 ∉ 𝐸 (𝑉′ は独立集合) 𝑉′ = は独立集合 証明 𝑉 ′ ⊆ 𝑉 に対し,𝐸𝑉 ′ = 𝑢, 𝑣 ∈ 𝐸 𝑢, 𝑣 ∈ 𝑉 ′ と定義. 各頂点 𝑢 ∈ 𝑉 に対し,独立に 𝑃 𝑢 ∈ 𝑉 ′ = 1/𝑘 となるように,ランダムに頂点部分集合 𝑉′ を選ぶ. 明らかに,𝐸 𝑉 ′ = 𝑛/𝑘. また,任意の 𝑢, 𝑣 ∈ 𝐸 に対し, 𝑃 𝑢, 𝑣 ∈ 𝐸𝑉 ′ = 𝑃 𝑢 ∈ 𝑉 ′ , 𝑣 ∈ 𝑉 ′ = 1/𝑘 2 より,𝐸 𝐸𝑉 ′ よって,𝐸 𝑉′ = 𝐸 𝑘2 ≤ − 𝐸𝑉 ′ 𝑛 . 2𝑘 =𝐸 𝑉′ − 𝐸 𝐸𝑉 ′ 𝑛 ≥ 𝑛 . 2𝑘 すなわち,∃𝑉 ′ ⊆ 𝑉, 𝑉 ′ − 𝐸𝑉 ′ ≥ . 2𝑘 各辺 𝑢, 𝑣 ∈ 𝐸𝑉 ′ に対し,𝑢 か 𝑣 を削除して得られる 頂点集合を 𝑉′′ とすると,𝐸𝑉 ′′ = ∅ (𝑉′′ は独立集合),かつ 𝑛 ′′ ′ 𝑉 ≥ 𝑉 − 𝐸𝑉 ′ ≥ . 2𝑘
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