アルミニウム合金ダイカストにおける鋳巣欠陥の解析

群馬県立産業技術センター研究報告(2014)
アルミニウム合金ダイカストにおける鋳巣欠陥の解析
矢澤 歩・加部 重好
Analysis of cavity defect in aluminum alloy die-casting
Ayumu YAZAWA, Shigeyoshi KABE
ア ル ミ ニ ウ ム 合 金 ダ イ カ ス ト ( ADC12) は 、 鋳 巣 欠 陥 の 問 題 が あ げ ら れ る が 、 製 造 現
場では鋳巣を簡易に分類することは難しい。そこで、アルミニウム合金ダイカスト
( ADC12) の 鋳 巣 欠 陥 に つ い て 、 簡 易 に 分 類 す る こ と が 出 来 る 手 法 を 確 立 す る と と も に 、
鋳巣欠陥事例をまとめる取り組みを行った。
キ ー ワ ー ド : ア ル ミ ニ ウ ム 合 金 、 ADC12、 ダ イ カ ス ト 、 鋳 巣
The problem of a cavity defect is cited in aluminum alloy die -casting (ADC12).
However, it is difficult to detect a cavity at the manufacturing field.
In this report,
we established a simple method for detecting the cavity, and summarized the various
types of cavity defect in ADC12.
Keywords: aluminum alloy, die-casting, cavity
1
はじめに
ダイカストは、溶解された金属を金型に
入れ高圧凝固させる鋳造方法であり、寸法
精度が高く、複雑な形状をした金属部品を
作り出すことが可能である。現在の日本の
ダイカスト業界では、アルミニウム合金の
ダ イ カ ス ト が 90% 以 上 を 占 め て い る 。 更
に 、 ア ル ミ ニ ウ ム 合 金 の 中 で も ADC12が
90% 以 上 も 占 め て い る こ と か ら 、 日 本 の
ほ と ん ど の ダ イ カ ス ト は ADC12を 使 っ た
ア ル ミ ニ ウ ム 合 金 ダ イ カ ス ト で あ る 1) 。 こ
の ADC12を 使 っ た ダ イ カ ス ト で は 、 鋳 造
欠陥(特に鋳巣)の問題があげられる。こ
の鋳巣欠陥には、凝固収縮によって生じる
『ひけ巣』の他に、ガスや酸化物などを巻
き込んだ『巻き込み巣』があり、巣の生成
過程によって分類される。この鋳巣の分類
ができれば、生成過程を推測して不良対策
法案を検討することが可能であると考えら
れる。
応用機械係
しかしながら、製造現場では鋳巣を分類
する方法が理解されていないことがあり、
かつ資料も不足している。また、群馬産業
技術センターにおいてもアルミニウム合金
ダイカスの鋳巣を分類するノウハウが乏し
いため、簡易に分類することができないの
が現状である。
そこで、本研究では、アルミニウム合金
ダ イ カ ス ト ( ADC12) の 鋳 巣 に つ い て 調
査し、鋳巣欠陥を分類することが出来る手
法を確立するとともに、鋳巣欠陥事例をま
とめ、製造現場レベルで不良対策の検討が
行えるようにすることを目的とする。
2
実験方法
2.1 サンプル
本研究では、ダイカスト製造現場で鋳巣
欠陥で不良と判定された量産品をサンプル
と し た 。 材 質 は ADC12相 当 材 で あ る 。
2.2 外観観察
外観観察は、目視および汎用のデジタル
カメラで行った。欠陥がサンプルのどのよ
うな位置にあるか(例えばゲートからの距
離や肉厚の変化など)に留意して観察した。
2.3 拡大観察(低倍率)
拡大観察(低倍率)は、実体顕微鏡(ニ
コ ン 製 SMZ1500) お よ び デ ジ タ ル マ イ
ク ロ ス コ ー プ ( キ ー エ ン ス 製 VHX500) を 用 い て 行 っ た 。 最 大 100倍 程 度 ま
で拡大し、欠陥の大きさ、内壁の状態、色、
数量などに留意して観察した。
2.4 拡大観察(高倍率)
拡大観察(高倍率)は、走査型電子顕微
鏡 ( 日 本 電 子 製 JSM-6700F) を 用 い て
行った。欠陥部内面の表面状態を確認する
ことを主眼に観察した。
2.5 欠陥近傍の成分分析
欠陥および欠陥近傍の成分分析は、電子
プ ロ ー ブ X線 マ イ ク ロ ア ナ ラ イ ザ ( 島 津 製
作 所 製 EPMA-1600) を 用 い て 行 っ た 。
ADC12に 含 ま れ な い 元 素 の 検 出 有 無 に 着
眼して分析した。
2.6 金属組織観察
サ ン プ ル を 直 径 32mmの 埋 込 型 に 入 る 大
きさに切断後、サンプルを二液硬化型のエ
ポキシ樹脂で包埋した。エポキシ樹脂で包
埋したサンプルを、研磨機(ビューラー製
ECOMET3) を 用 い て 鏡 面 研 磨 し た 。 研 磨
面を、倒立型金属顕微鏡(オリンパス製
GX71) を 用 い て 金 属 組 織 観 察 を 行 っ た 。
欠陥部および周辺の金属組織の状態を確認
することを主眼に観察した。
3
写真1
拡大観察(低倍率)の結果例
写真2
拡大観察(高倍率)の結果例
欠陥の調査結果および欠陥の推定
結 果 の 一 例 を 写 真 1~ 3に 示 す 。 こ れ ら
の得られた結果から、総合的に考察し、調
査した全サンプルの欠陥を推定した。今回
調査したサンプルの欠陥は、①ひけ巣、②
ひけ巣(すみひけ巣)、③巻き込み(凝固
塊(破断チル層含む)、④巻き込み(初期
凝固片)、⑤巻き込み(湯玉(急冷凝固
粒 ) ) 、 ⑥ 湯 境 の 6つ 大 別 す る こ と が で き
た 。 な お 、 写 真 1~ 3は 、 ひ け 巣 ( す み ひ
け巣)と推定した事例である。
写真3
金属組織観察の結果例
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欠陥事例集および簡易調査
マニュアルの作成
今 回 調 査 し た 欠 陥 は 、 大 別 す る と 6つ に
な る こ と か ら 、 こ れ ら 6つ の 欠 陥 が 発 生 し
図1
ないようにするための対策案を盛り込んだ
欠陥事例集を作成した。また、今回の鋳巣
欠陥を調査した調査方法について、簡単に
まとめた簡易調査マニュアルも併せて作成
した。
欠陥事例集
例
図2
簡易調査マニュアル
文
5
まとめ
本 研 究 で 得 ら れ た 成 果 は 、 以 下 の 2点 で
ある。
(1) 鋳 巣 欠 陥 が あ る サ ン プ ル ( 量 産 品 ) に
ついて、表面・断面観察、欠陥周辺の
成分分析を行うことで、鋳巣欠陥を分
類できるようになった。
(2) 本 研 究 で 得 ら れ た 結 果 か ら 、 ア ル ミ ニ
ウ ム 合 金 ダ イ カ ス ト ( ADC12) の 鋳 巣
欠陥調査の簡易マニュアルと、鋳巣欠
陥事例をまとめることができた。
謝
本研究において
いた、元㈱ミツバ
し上げます。
献
辞
貴重な御助言をいただ
平方篤 氏に感謝を申
1)日本ダイカスト協会:ダイカストって
何 ? - DIE CASTING- 、 19( 2003)
参考文献
1)日本鋳造工学会ダイカスト研究部会:
ダイカストの鋳造欠陥・不良及び対策
事 例 集 ( 2000)
2)日本鋳造工学会:鋳造欠陥とその対策
( 2007)
3)日本ダイカスト工業共同組合:ダイカ
スト欠陥事例と組織写真 改訂増補版
( 2011)