3 章 売上高と改善ポイント

1. 売上高データの3つの見方
利益の源泉となる売上高について過去から現在までの傾向を見て
今後の売上高を予想することは、新たな経営改善テーマを見つけ出
すための大きな手助けになる。
ある会社の毎月の売上高を、過去2~3年間にわたりグラフ化し
て み た が 、 売 上 高 の 詳 細 な 変 動 が 見 ら れ る 。( 図 1 )
しかしこのグラフでは変化が細かすぎるので、年度を4等分して
3 ヶ 月 間 単 位 に 売 上 高 を 合 計 し て グ ラ フ 化 す る 。( 図 2 )
そうすると緩やかなカーブが描かれて、1~3月の売上高のピー
クと7~9月の底が読み取れる。ただこのグラフでは、売上高が減
少傾向かなとは見えるかもしれないが断定はしにくい。
そ こ で 、3 ヶ 月 間 単 位 の 年 間 移 動 平 均 売 上 高( 統 計 法 の ひ と つ で 、
9ヶ月間ずつ重なりながら連続する年間売上高の推移)を計算して
グラフ化すると傾向がぐっと見やすくなる。
た と え ば 12 月 決 算 の 会 社 で あ れ ば 、 1 月 ~ 12 月 ま で の 1 年 間 の
売上高を計算し、次に4月から翌年の3月、そして7月から翌年の
6 月 、10 月 か ら 翌 年 の 9 月 、…
というように3ヶ月間ずつずらし
て 1 年 間 の 売 上 高 を 計 算 し て グ ラ フ 化 す る 。( 図 3 )
そうすると売上高の増減の傾向がより鮮明になってくる。この図
では明らかに減少傾向が読みとれる。
会社全体の売上高をこのようなまとめ方で分析すると、その増減
傾向から会社が成長期か、安定期か、それとも衰退期かがわかり、
また製品(製品群でも良い)別の売上高で分析すると、それぞれの
製品(群)が製品ライフサイクルのどの位置にあるかがわかり、こ
れからの経営の方向付けができる。
2. 製品別に売上高の推移を読む
会社全体の売上高の変化は少しずつであっても、製品あるいは製
品群別に売上高の推移を調べてみると大きな変化が見られ、その中
に多くの問題点や課題を見つけることができる。
まず過去3年間の売上高の推移を折れ線グラフに書いてみると、
増加傾向の製品、増加してきたが最近停滞している製品、減少傾向
の製品、また季節変動の大きい製品などがある。
そ れ ぞ れ の 売 上 高 の 傾 向 に 、「 高 齢 化 ・ 少 子 化 ・ 女 性 の 社 会 進 出 」
「 国 際 分 業 の 加 速 」「 地 球 環 境 保 護 の 規 制 」「 技 術 開 発 の 動 向 」「 ラ
イバル会社の動き」などの自社を取巻く経営環境の変化を加味して
検討すると、製品ごとの今後の売上高が予測できる。
次に、売上高全体に対するそれぞれの製品の売上高比率から当社
の主力製品がわかる。そして、その売上高の今後の予測からこれか
らもその製品が主力製品であり続けるのか、それとも売上高が減少
して主力製品でなくなるのか、一方今後主力製品に育つ可能性のあ
る製品はどれかといったようなことが検討できる。
こうして製品を分類した場合、製品売上高の構成は主力製品、次
期主力製品、主力製品の卵がそれぞれ、7:2:1の割合になって
い る こ と が 好 ま し い 。次 期 主 力 製 品 と 主 力 製 品 の 卵 の 売 上 高 が 10%
にも満たない場合には、早急に新製品開発に取り組むことである。
このような製品(製品群)別の検討は非常に大切であるが、経営
がそこそこのレベルで推移しているときはよい方向に、つまり今の
売上高や利益がこれからも続くと錯覚しやすい。
自由経済の日本では次々と新たなニーズに対応する製品が生ま
れていて、常に次期の主力製品を確保しておくことは必須である。
3. 利益が少なく売上高が伸びるのは危険
売 上 は 利 益 の 源 泉 と な る か ら 、売 上 高 を 増 や す 努 力 は 大 切 で あ る 。
しかし売上高は伸びても肝心の利益が増えなければ意味がないこと
で、その売上高増加の方法が肝心である。
最近はコスト競争の激化で、かなり安くしないと受注できないこ
と が 多 い 。 例 え ば 従 来 な ら 1,000 円 で 受 注 で き て い た の が 700 円 に
な っ た り 500 円 に な っ た り す る 。 そ れ で も 受 注 し て 工 場 の 稼 働 率 を
あげないと固定費の吸収ができないから仕方なく請け負う。
し か し 1,000 円 の 製 品 の 変 動 費( 材 料 な ど 外 部 へ 出 る 費 用 )が 600
円 で あ れ ば 、 600 円 で 受 注 し た ら 粗 利 益 は 0 円 で 、 固 定 費 と し て 吸
収できるお金は残らない。まして受注量が少ないと生産上の切替え
の無駄やさまざまな管理ロスが発生して、作るだけ損をする状態に
なり、他の製品が稼いだ利益を食いはじめる。
また売上高が増加すると、受取手形、売掛金、仕掛在庫、製品在
庫などに必要な運転資金が比例して増えてくるため、それをまかな
うために借入金が増えることになり、利益の出ない受注は資金繰り
も困難にする。
当初は、受注してからコスト削減は考えたらよいと思っていたと
し て も 、製 品 の 加 工 程 度 に も よ る が 、一 般 的 に 変 動 費 率 が 80% 以 上
を占めるような製品で利益を出すことは困難である。
このような受注を続けていくうちに、売上高は増えてきて3年間
で 50% 増 加 し た が 、 利 益 が 激 減 し た ( 増 収 減 益 ) 状 態 に な る 。
バブル崩壊後の後遺症で各企業にこのような現象が見られるが、
目先の売上高は求めずに、着実な製品力・技術力・生産力・営業力
といった競争力を強化することが先決であり、近道である。
4. 売上高が少ない製品は生産中止する
バブル期の延長でいまだに多品種少量生産が大はやりである。
バブル期ならそれでも利益が出ていたのだからよかったが、今は
そんな状況ではない。多品種少量生産の無駄ははかり知れなく大き
いため、これからは品種の大胆な絞り込みが必要である。
例 え ば 品 種 切 替 え の た め 、設 備 の 切 替 作 業 、切 替 え 後 の 設 備 調 整 、
スタート時の不良発生、材料の歩留まり悪化、材料・包装材料・製
品等の在庫の増加、さらには生産管理や受注管理などの管理工数の
増加など無駄はいくらでもある。
顧客もバブルの頃は、個性化とか、差別化とかいって自分だけの
「物」を求めたが、現在の低成長の不況期は以前のような「物」を
所有することへのこだわりは少なくなり、実用指向、機能優先、低
価格指向になってきた。
お 菓 子 を 作 っ て い る 売 上 高 が 年 間 10 億 2 千 万 円 、製 品 の 数 が 101
品 種 の 会 社 が あ っ た 。製 品 別 に 売 上 高 を 分 析 す る と 、70 品 種( 70% )
の 製 品 が 売 上 高 の 98% を 占 め て い た 。つ ま り 残 り の 31 品 種( 30% )
で 約 2,000 万 円( 2% )の 売 上 高 し か な い の で あ る 。な か に は 年 間 売
上 高 が 6,000 円 と い う 製 品 も あ っ た 。
こ の 会 社 で は 売 上 高 の 少 な い 製 品 31 品 種 を 検 討 し 、 18 品 種 を 生
産 中 止 に し て 売 上 高 を 1,200 万 円 落 と し た 。 そ の 結 果 、 多 品 種 少 量
生 産 の 無 駄 が 無 く な り 、 利 益 は 1,000 万 円 以 上 多 く な っ た 。
その上、少量生産のために必要だった(振り回されていたといっ
てもよい)工場長や資材担当者の仕事が大幅に効率化され、出てき
た余裕工数で生産性向上の改善が進められている。売上を減らして
利益を高めることができ、体質も強化されたのである。
5. 売上高が多い製品は原価低減に取り組む
売上高が多い製品は生産量が多く、1つの改善から大きな改善効
果を得ることができるため、まず原価低減に取り組むことである。
その製品が製品ライフサイクルの成熟期にあれば、競争期を生き
残ったわけであるから優先的により大きな利益の確保を目指し、ま
た衰退期にあったとしてもその製品から最終の利益回収を図ること
は大切である。ただし、改善に必要な設備投資については、回収期
間の短縮化や他の製品への再活用の可否を検討しなければならない。
ところで原価低減の対象は、原価の中で1番大きなウエイトを占
める材料費と2番目の人件費であるが、まず人件費に着目する。
人件費削減の基本は、労働生産性(1人当たりの生産量)や設備
生産性(設備1時間当たりの生産量)を向上させて、売上高が伸び
ている時は人数を増やさずに生産量を多くすることである。
しかし現状では多くの会社は生産量が横ばいか減少気味のため、
改善の結果余剰人員が発生する。そこでこの余剰人員を活用して材
料費削減の改善を行うのである。
そのためには「余剰人員」というよりも「活用人材」と表現する
方がよいが、優秀な人から指名して原価改善室を作って配置転換を
する。材料費削減の改善では、組織の部門間にまたがる改善になる
ため特に優秀な人が必要である。
もちろん優秀な人を配置転換するには、その人がぬけたあとの心
配があるが、優秀な人のいる部署にはその次の人が育っていて、優
秀な人が抜けるとその人が出てきてうまくバランスするものである。
このように人件費と材料費の削減を計画的に進めていくことは、
社員の納得性も得られ大きな成果が期待できる。
6.生産ロットをそろえる
1回に生産する製品数量を生産ロットというが、効率的な生産を
するためにはこの生産ロットの大きさをそろえることが大切である。
たとえばひとつの生産ラインを見たときに、1日の生産計画の中
に 1,000 個 生 産 す る 製 品 、100 個 生 産 す る 製 品 、10 個 生 産 す る 製 品 、
さらに 5 個生産する製品などがあったらどうだろう。
生産する製品が変わるときには切替え作業といって、材料や部品
の 交 換 、治 工 具 の 取 り 替 え 、機 械 の 試 運 転・調 整 な ど が 必 要 で あ る 。
またこの作業に必要な切替え時間は生産ロットにほとんど関係
な く 、生 産 ラ イ ン や 製 品 に よ っ て 異 な り 、短 く て 5 分 、長 け れ ば 30
分~1時間程度を要する。しかし、生産時間は生産数量に比例する
ため、生産数量が少ないと切替時間のほうが長く、たとえば 1 日で
みると生産時間が 5 時間で、切替え作業が 3 時間というような稼動
状態になり、非常に生産性が低く非効率的である。
こ の よ う な 場 合 は 5 個 や 10 個 の 小 ロ ッ ト 生 産 を や め る か 、小 ロ ッ
ト専用の生産ラインを別に作ることである。小ロットの生産ライン
(一般的には非自動化ライン・非流れ作業)なら、段取り作業の時
間をかなり短く設定できるから生産性は高い。
また大ロット生産ラインと少ロット生産ラインでは管理方法が
異なる。前者は1度動きはじめたら止まらないような管理方法、た
とえば稼働率管理をすれば効率的な生産ができるのに対して、少ロ
ット生産ラインでは部品や材料の供給管理の徹底が必要である。大
量生産に比べ部品や材料の使用量は少なく種類が多いから、部品切
れや材料切れで生産に支障をきたすことになりやすい。
生産ロットはできるだけそろえることが高生産性の秘訣である。
7. 売上高の季節変動が大きいと儲かりにくい
月 間 売 上 高 を 折 れ 線 グ ラ フ に す る と 、売 上 高 の 季 節 変 動 が わ か る 。
そして過去3年間の季節変動を見ると、ほぼ正確な売上高の年間季
節 変 動 指 数 ( 月 間 の 最 大 売 上 高 ÷最 小 売 上 高 ) が 設 定 で き る 。
こ の 季 節 指 数 が 大 き す ぎ る ( > 1.5~ 2.0) と 、 利 益 確 保 や 工 場 運
営に次のような悪影響を与える。
①閑散期の工場稼働率が低くなり、固定費の負担が大きい
② 生 産 の 増 加 時 ま た は 減 少 時 に 必 要 な 運 転 資 金 が 変 動 し 、そ の 資
金繰りが大変である
③ 生産能力調整のため人の入れ替わりが多く、技能の習熟度が低
い。そのため労働生産性が低く、また品質不良が発生しやすい
④人の入れ替わりにともなう労務管理が困難である
⑤ 繁 忙 期 に は 能 力 オ ー バ ー の 無 理 な 生 産 に な り 、納 期 遅 れ や 品 質
不良が発生しやすい
⑥閑散期は時間的に余裕のある生産になるため労働生産性が低
く、また繁忙期にもそれを引きずりやすい
売上高の季節変動は、製品の季節性(夏物製品・冬物製品)や社
会慣行(入学シーズン・婚礼シーズン・お中元・お歳暮)また外部
環境変化(為替変動・公共投資の増減・景気変動)などにより、ど
のような企業にも少なからずあるが、この季節変動の幅をできるだ
け小さくするような製品開発や需要開発は非常に大切である。
もちろん需要の変動に適切に対応できる、フレキシブルな生産の
仕組みを作ることも必要である。
需要の平準化と変動対応力の強化により、安定した操業が維持で
きる企業体質が作ることが大きな利益獲得につながる。
8.閑散期の売上高拡大方法
閑散期(定時までの仕事が確保できない時期)の売上高拡大方法
の第1は、低価格で大量受注を目指すことである。
もちろん、材料費や外注費などの変動費+α の売価は最低限必
要である。しかし、低価格での少量受注はしてはいけない。
売価から変動費を差し引いたものを限界利益といい、それを売価
で割ったものを限界利益率というが、閑散期は通常の限界利益率の
70~ 80% 程 度 を 目 安 に 見 積 も り 、 売 価 を 設 定 す る と よ い 。
限界利益率は低くても受注量が多ければ切替損失や管理工数が
少なくてすみ、稼働率アップと合わせて利益増加になる。
第2の方法は、季節商品なら年中商品への製品改良である。たと
え ば 中 元 ・歳 暮 用 の 製 品 で あ れ ば 、包 装 の 見 直 し や 低 価 格 化 、大 き さ
や数量の変更、また内容の変更などを行い、また夏物製品は逆転発
想で平常月でも売れる製品に改良する。ビールが夏だけでなく冬に
も飲まれ、お酒が冬だけでなく夏にも冷酒として飲まれるように、
またクーラーに暖房機能を付けて冬にも売れるよい事例がある。
第3の方法は、お得意先の決算月に受注量が増加するような製品
の場合は、決算月の異なる会社を新規顧客として開拓する。一般的
に は 3 月 決 算 の 企 業 が 多 い が 、9 月 決 算 や 12 月 決 算 、ま た 2 月 決 算
の会社もあり、決算月を調査してから営業アタックを行うとよい。
このようないろいろな方法で閑散期の売上拡大を図ることができ
るが、いずれにせよ何らかの閑散期対策を計画・実行するためには
「知恵」と「工夫」が必要である。
閑散期や繁忙期があるのは当然だとは思わずに、閑散期を絶対に
なくすという強い意志で行動することが大切である。
9.繁忙期の生産能力増強方法
繁忙期の生産能力を増強する方法としては、昼休み時間の活用や
残業対応、また休日出勤で生産時間を増やす方法がある。
これらはどの会社でも一般的に行われている方法で、短期間の場
合には効果的である。しかし過度の残業が慢性化すると社員に疲れ
が出てきて生産性の低下や、品質クレームが発生したりする。
2番目の方法として外注の活用があるが、簡単な方法のため安易
になりやすく、次のような欠点がある。
受注量の過多を調整するための仕事であることや、短期間の仕事
のため一般的に発注コストは高くなりやすい。また目の行き届かな
い工場で生産されるから品質保証が困難になりやすい。品質確保の
ために受入検査や品質の外注指導を徹底するとなれば、さらにコス
トアップにつながる。また材料を無償支給していれば、不良発生に
よる材料ロスも多くなる。
このように安易な外注利用はあまり儲からないことになる。極端
には受注しないほうがましな場合もあるくらいである。
3番目の方法は、製品在庫を多く持つ方法である。
閑散期に繁忙期の受注を見越して余分に作り、それを倉庫に寝か
せ繁忙期に放出する方法である。劣化・陳腐化しない製品ならなん
とか対応できるが、当然保管コストとともに資金の停滞が生じる。
万が一売れ残ったら二束三文で、それこそ資金繰りに行きづまるリ
スクの大きい方法である。
このように繁忙期の能力増強はコストアップやリスク増加につ
ながることが多く、基本的には生産性向上の改善による生産能力の
向上と閑散期の売上拡大で対応したい。
10. 固定費の変動費化で閑散期に利益を出す
月次決算で毎月利益が出ていればよいが、売上高に季節変動があ
る場合には繁忙期は黒字で、閑散期には赤字になり繁忙期の黒字を
食っているケースが一般的には多い。
閑散期に赤字になるのは生産量が少ないために固定費が吸収でき
ないからである。だからその対策としては、固定費を生産量に合わ
せて増減するように変動費化することである。
固定費は人件費と設備償却費が大きな比率を占め、設備償却費は
一旦設備を購入したら償却が終わるまで計上される費用で変動費化
することはできないが、人件費は変動費化することができる。
①
繁忙期対応のパートやアルバイトを採用し、固定人員を減ら
す。この場合熟練度が低いために一時的に能率が落ちることが
あるために作業の簡素化や標準化を徹底して行い、新人でも2
~3日で一人前の作業ができるようにすることが必要である。
特に品質不良や災害などのトラブルは絶対に避けたい。
②
常用パートの出勤日数・時間を調整する。たとえば週5日の
出勤日数を4日にするとか、また1日の作業時間を7時間から
4時間に短縮するなどであり、これは雇い入れの時点で明確に
しておくことが必要である。
③
社員の出勤日数を調整する。年間休日を繁忙期には少なく、
たとえば土曜出勤を入れ、逆に閑散期は週休3日にするなどし
て、年間の出勤日数を調整する。
④
社員の社外応援制度を作り、閑散期には繁忙期の他の会社の
業 務 や 作 業 の 応 援 を 行 い 、繁 忙 期 に は 応 援 を 受 け 入 れ る 方 法 で 、
双方の会社の社員能力アップにもつながる。
11. 売上高に占める受取債権の比率を減らす
会社は製品を販売する場合、製品を渡したときに同時に代金を現
金で回収できるのではなく、まず売掛金として計上される。
そしてその月または次月に受取手形をもらい、その受取手形を現
金化して完全に売掛金の回収が完了するまでには、さらに手形に記
載されているある一定の期間(1~6ヶ月間)が必要である。
この売掛金と受取手形を合わせて受取債権というが、これらは現
金ではなくて将来現金化できる債権である。
だからその期日になって現金化するまでは、現金として使うこと
はできない。どうしても現金が必要な場合は銀行で手形割引を行う
が、割引料を支払わなければならない。
しかし、売掛金や手形が将来現金化する確実な保証はない。その
会社が倒産でもすれば現金化されずに売掛金や手形は紙屑になって
しまい、売掛債権の回収は非常に困難になる。また売掛債権の増大
は 資 金 が 固 定 さ れ る た め 流 動 性 を 悪 く し 、資 金 繰 り に 支 障 を き た す 。
いくら売上高が増えても受取債権も増えたのでは財務力は強くな
らないので、売掛債権は出来るだけ早く回収することである。
そのためには、得意先別に販売製品と売上高や回収期間などを一
覧表にして、得意先ごとに次のようなアタックをする。
①
現金で回収出来るように現金取引を申し入れる。
②
売 上 金 額 が 大 き い 場 合 に は 、 40% は 現 金 で 、 30 % を 1 ヶ 月 の
受 取 手 形 で 、残 り 30% は 2 ヶ 月 の 受 取 手 形 と い う よ う な 分 割 形
態の支払いを申し入れる。
③
検収時期の遅れで回収期間が長引くときは、検収条件の明確
化や検収方法の見直しを協議する。
12. 得意先を大切にする
① 当面の売上高の増加
自社の製品を買っていただく得意先を大切にすることは当然のこ
とであるが、その大切にする目的には2つある。
第1の目的は「当面の売上高」を増やすためである。
得意先別に売上高の大きい順に売上内容を調べていくと、どの得
意先でどのような製品をたくさん買っていただいているのか、また
どんな製品を買っていただいていないのかがわかる。
そして次のような問題点をとらまえてその原因追求をしていくと、
それぞれに多くの原因が出てきていろいろな対策がうてる。
①
主力製品がE得意先では売上高が少ない
②
B得意先で売上高の多い製品がC得意先では少ない
③
新規開発製品がD社で売上高の伸びが低い…
さらに得意先別・製品別の売上高を過去数年にさかのぼって調べ
ることにより、どの得意先でどの製品の売上高が増加してきている
のか、また逆に減少してきているのかがわかり、それぞれの得意先
のこれからの製品戦略も含めて読み取ることができる。
このようなデータから、これから当面の売上高を増やしていくに
はどのような方策があるのか、例えば得意先別の営業方策について
次のようなテーマアップをすることができる。
①
製品について得意先への情報提供の適切化
②
キーマンに対する営業訪問回数の増加
③
得意先の経営方針をタイムリーにつかみ営業に活かす
④
得意先別の営業目標設定と計画立案及び実行
⑤
営業マン別の課題設定とフォロー…
このような分析に基づく営業力や製品力などの強化は大切である。
13.得意先を大切にする
② 長期的な売上高の増加
得意先を大切にする第2の目的は、自社の製品や企業風土の長
所・短所をつかみ「長期的に売上高を増やす」ためである。
売上高の大きい得意先や売上高が増加傾向の得意先は、当社の製
品や技術に対してまた会社そのものに何らかのメリットを感じても
らっているわけであるから、そのメリットをどんな些細なことでも
よいから営業担当者が聞き出すことである。
①
製品の価格や品質が適切である
②
納期遅れが少ない、または特急の要求に応じてくれる
③
他に適当な製品を作る会社がない
④
電話をかけた時の受け応えがしっかりしている
⑤
会社の経営状態がよく安心していられる…
これに対して、売上が少ない得意先や減少傾向の得意先には次の
ようなそれなりの理由がある。
①
コストダウンに協力してくれない
②
不良の発生や納期遅れが多い
③
見積の提出が遅れる
④
海外調達に切り替えている
⑤
自社の売上が低下している…
このような他社から聞き出した情報は、なかなかマトを得ている
が、しかし自社では長所は案外と気がついていなくて、短所はそれ
が普通であると思っていことが多い。
このような情報をうまく聞き出して集約し、得意先から見た自社
の課題としてとらえ、優先順位を付けて経営改善を行い、そして長
期的な売上増加を狙うことが大切である。