No155

PAS kara News(155)
オッズ比
平成 27 年 7 月 13 日
企画編集:足立博一
www.adachipas.com
‐続報‐
前回は高血圧患者で50名に意識障害が発生して、その内15名が新薬Aを服用していたために、
新薬Aがどの程度、意識障害に関与しているかを調査したところ、新薬Aを服用している人は服用し
ていない人に比べて2.4倍意識障害になるようだという結論になりました。
ただ、最後に、この倍率に有意な意味があるかどうかはオッズ比の95%信頼区間の下限が1を超
えるかどうかにかかっているという所で話が終わりました。
1)オッズ比の95%信頼区間とは
オッズ比は計算上1つの値しか出てきません。今回、意識障害を起こした患者数は50名と一定の
値にしました。一方、意識障害を起こしていない患者を調べた時の新薬Aの服用率は、神のみぞ知る
服用率1:4にわざと一致させました。しかし、実際に調査すると1:4という数字にジャストフィ
ットすることはまず無いでしょう。多少のずれが生じるのが世の常で、同じような後ろ向き試験を何
回も実施した時、意識障害を起こしていない患者の新薬A服用率は1:4.2になったり、1:3.
5になったり、時には1:8というとんでもなく外れる場合だってあるでしょう。その比率の変化に
よってオッズ比も変化します。つまり、たまたま計算された1個だけのオッズ比で全体の傾向を判断
するのはとても不安になります。それならば、オッズ比にある程度の幅を持たせて検討した方が安心
というものです。そのある程度の幅と言うのが、真のオッズ比が入る確率が95%になるような範囲
で、統計学を駆使すると算出することができ、これをオッズ比の95%信頼区間と呼びます。
たとえば100回同じ試験を繰り返すと、100個のオッズ比とそれを含む95%信頼区間が計算
されます。その時、その信頼区間の95個までが真のオッズ比をどこかに含んでいるのです。たった
5個だけがハズレになるような条件なので、この幅で検討すれば安心だという話になるわけです。
上限
標本平均
真の
・・・・・
オッズ比
下限
95個は真のオッズ比を必ず区間の中に含む
真のオッズ比の外れは5個のみ
まとめますと、Aという現象とBという現象から算出されたたった1個のオッズ比が1より大きけ
れば、AはBより頻度が高いと言えるのですが、巾を持たせていないと不安だというのが95%信頼
区間を考えた動機でした。その区間全体が1より大きければ、AはBより頻度が高いという信頼度が
95%という保証付きで増すというわけです。
2)オッズ比の95%信頼区間の計算
何故、そのような式になるかのカラクリは、私には全く分かりませんが、オッズ比の95%信頼区
間を求める式は次のようになります。
前回と同様、新薬Aによる意識障害に関する問題で、それぞれの
意識障害
数値に一般化の式用としてアルファベットも当てはめます(右表)。
𝟏
95%信頼区間(X)=ln(OR)±1.96×
𝒂
𝟏
𝟏
𝟏
𝒃
𝒄
𝒅
+ + +
無
新薬
有
a:15
c:20
A
無
b:25
d:80
合計
40
100
ln の( )中の OR はオッズ比ですから、前回の結果から OR=2.4
式に入れると
有
ln(2.4)=0.875
ルートの中を計算すると 0.411
更に 1.96 を掛けたり加減などして計算を続けると
X は 0.464 と 1.286 になりました。
つまり、0.464≦ln(OR)≦1.286 となります。
これが対数世界での 95%信頼区間になります。で、我々の世界へひき戻すには𝑒 で変換します。
95%信頼区間の下限
𝑒.
=1.59
95%信頼区間の上限
オッズ比
~
2.4
𝑒.
~
.
=3.61
という計算結果がでました。
つまり、新薬Aを服用した際の意識障害を起こす危険性は服用しない時よりも
95%信頼区間で、1.59 倍から 3.61 倍高いということが示されました。
OR
0.0
2.0
1.0
1.59
3.0
2.4
4.0
3.61
1を境にして判断が変わる
オッズ比が1より大きければ相手より発生頻度が多いわけで、しかもオッズ比の95%信頼区間の
下限(1.59)でさえも、1より大きいので、新薬Aが意識障害を引き起こす危険性は有意に2.4倍に
高いと言って良さそうだ、という結論になります。
ちなみに、152 号でも出てきましたが、オッズ比やリスク比の95%信頼区間では対数の世界での
み±の値が等しい「平均値±α」の形になります。
一般に、オッズ比やリスク比の95%信頼区間では下記のことが言えます。
①ある出来事Aの95%信頼区間の下限が1より大きい時:出来事Aは対象より有意に頻度が高い。
②ある出来事Aの95%信頼区間が1をまたいでいる時 :出来事Aは対象と有意な差は無い。
③ある出来事Aの95%信頼区間の上限が1より小さい時:出来事Aは対象より有意に頻度が低い。
3)95%信頼区間(以下、95%CI)のわな?
オッズ比やリスク比ではない正規分布をするようなものの真の平均値を推定する場合も
95%CI=標本平均値±1.96×不偏標準偏差/ n
で 95%信頼区間が算出されます。
ここでA社の製造したアムロジピンの1錠あたりの含量とB社
の製造したアムロジピンの含量のそれぞれの 95%信頼区間が算出
されたとします(右)
。
①A
B
①では A と B の 95%CI が重なっているので有意な差は無い・・
とは言えない場合があります。条件にもよりますが1/3程度重
複していても A と B で有意差のでる場合があります。一方の②は
重複がないので有意に差は有りとなります。
(終わり)
②A
B