熊本大学学術リポジトリ Kumamoto University Repository System Title MgO基板に挟まれたCu_2O薄膜における黄色励起子と緑色 励起子の二次元圧縮応力効果とその緩和モデル Author(s) 岩満, 一功 Citation Issue date 2015-03-25 Type Thesis or Dissertation URL http://hdl.handle.net/2298/32307 Right 氏 名 岩満 一功 主論文審査の要旨 本学位論文では、MgO 基板に挟まれた亜酸化銅(Cu2O)薄膜結晶の応力効果を調べた研究の 結果がまとめられている。 Cu2O 励起子系は、励起子ボーズ・アインシュタイン凝縮(BEC)の実現が期待されている体 系で、単結晶では励起子の高密度化と BEC 実現のため、単結晶に一軸性応力を印加して空 間ポテンシャルを形成し、励起子をトラップする研究がなされてきた。それに対し本学位 論文では、応用の観点から必須である薄膜化を、2 枚の MgO の隙間に Cu2O を融解浸透させ てエピタキシャル成長させる方法で実現した。また、MgO と Cu2O の僅かな格子不整合を由 来とした 2 次元的応力が残留し、それが励起子を 2 次元的にトラップする空間ポテンシャ ルを形成することを示した。 第1章では、Cu2O 励起子系の概要と励起子 BEC 研究について述べている。 第2章では、MgO 基板に挟まれた Cu2O 薄膜結晶の概要と本研究の目的について述べてい る。 第3章では、次章以降の実験結果を解析するために、Cu2O 薄膜結晶における二軸性応力 理論の構築と、その応力の厚さ方向の緩和モデルを提案している。 第4章の冒頭では、高精度・高感度に励起子吸収スペクトルを計測するために開発した 波長変調吸収測定システムについて述べ、後半では、それを用いて得られた波長変調吸収 スペクトルの温度変化の実験結果について述べている。本論文では、Cu2O 結晶の黄色励起 子系と緑色励起子系を系統的に測定し、格子不整合由来の応力効果が黄色励起子系では比 較的小さいのに対し、緑励起子系では大きく現れることを明らかにした。 第5章では、第3章で述べた二軸性応力理論を両励起子系に適用している。黄色励起子 系では、応力効果を含んだ有効励起子ハミルトニアンの厳密対角化を、緑励起子系では、 波数 k=0 での光学遷移で問題となる価電子帯混成の詳細が解析可能な k・p 摂動論を用いて 解析を行っている。その結果、第4章で得られた実験結果を定量的に説明している。 第6章では本学位論文をまとめ、第4章の結果と第5章の解析から、厚さ方向で約 1.4 μm の領域に、2 次元的な励起子トラップ領域が形成されていることを明らかにしている。 この様に出願者は、本研究遂行にあたり必要な実験測定技術の開発(第4章)、解析理論 の構築(第3章)、得られた実験結果の適切な解析と考察(第5章)を行っており、当該研究 領域で高い総合理解力を持つ。また、本学位論文で得られた結果は、薄膜結晶化の実現と 励起子トラップポテンシャル形成が両立出来たことを示している。このことは、励起子 BEC 状態を用いた量子干渉現象研究の道を開いたこと意味しており、本学位論文の価値は高い と判断できる。 出願者は、本学位論文以外に査読付きの学術論文を10編発表している。その内、3編 は筆頭著者の原著論文、2編は筆頭著者の国際会議プロシーディングスである。また、口 頭発表者として3回、ポスター発表者として2回、国際会議で発表を行っている。これら の業績は、理学専攻・物理科学講座の学位審査も満たしている。 以上のことから、本審査委員会は、出願者が博士の学位に値する十分な資格と能力を有 するものと判断する。 最終試験の結果の要旨 審査委員会は、出願者に対して本論文の内容及び専門分野についての口頭試験を行った。 その結果、出願者が当該研究分野について十分な知識、理解力及び研究遂行能力を持つこ とを確認した。外国語についても、英文による5編の筆頭著者論文の執筆、国際会議におけ る5回の発表実績から、英語の能力があることを認めた。以上の結果に基づき、最終試験は 合格と判定した。 学位論文の公表に関しては、学術論文が掲載された出版社の著作権譲渡条件により、要約 をインターネット公表する。 審査委員 理学専攻物理科学講座 教授 赤井 一郎 審査委員 理学専攻物理科学講座 教授 光永 正治 審査委員 理学専攻物理科学講座 教授 安仁屋 勝 審査委員 情報電気電子工学専攻機能創成エネルギー講座 教授 中村 有水
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