1 高齢者の概要 日本の高齢者の平均余

日本の高齢者の生活状況
岡本多喜子(明治学院大学)
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高齢者の概要
日本の高齢者の平均余命は、2008 年データでみると男性は 79.3 歳で、アイス
ランド、香港についで世界で第 3 位、女性は 86.1 歳で世界第1位です 2009 年
9 月現在で日本の 65 歳以上人口は 2,898 万人、高齢化率は 22.7%です。すでに
5 人にひとりは 65 歳以上の社会が日本です。100 歳以上人口も 4 万人を超え、
全人口の 0.14%となりました。日本は人間の願望であった長寿を実現した国の
ひとつといえるでしょう。
介護保険制度の対象者は 65 歳以上の約 16%で、特別養護老人ホームを含む
高齢者施設で生活する高齢者は、65 歳以上人口の 3%程度です。つまり、多く
の日本の高齢者は、地域社会で疾病を抱えながらも介護保険制度を利用するこ
ともなく、元気に生活しているのです。65 歳以上者で就労している者も約 20%
です。
以上の点を踏まえ、「高齢者にやさしい街」プロジェクトに参加し、チェック
リストでの調査も実施した経験のなかで、日本の政策にもアクティブ・エイジ
ングの視点が必要であることを述べたいと思います。
かつて、日本の高齢者は息子や娘家族と一緒に生活をする三世代家族が中心、
高齢者の介護問題や経済問題も家族内で解決してもらえると言われてきました。
しかし現在は、65 歳以上の者のうち三世代で生活している者の割合は、2008
年で 18,5%です。約 30 年前の 1975 年では 54.4%の高齢者が三世代で生活して
いました。三世代世帯の割合がいかに急激に減少したかがわかります。
逆に増加したのが、単身世帯と高齢者夫婦のみの世帯です。単身世帯は 2008
年では 22.0%で、65 歳以上の者の 5 人に一人はひとり暮らしをしています。こ
の割合は 1975 年には 8.6%でした。高齢者夫婦のみの世帯は、2008 年には 29.7%
ですが、1975 年では 13.1%でした。かつては、高齢者夫婦のみ世帯のうち、夫
婦のどちらかが介護が必要な状況になるか死亡すると、子ども世帯と同居する
と言われていました。しかし今日では、高齢者夫婦のみ世帯から単身世帯への
移行が一般的です。
さらに親と未婚の子のみの世帯も 1975 年の 9.6%から、2008 年には 18.4%
と約倍になっています。親と未婚の子のみの世帯は、未婚率の高まり、離婚率
の高まり、晩婚化の影響を受けています。親の年金を当てにして生活している
子ども世代の問題や親の介護で仕事ができない未婚子の問題など、この世帯の
課題もいろいろとあります。この世帯では親も子の 65 歳以上という世帯も多く
なっています。
世帯の全員が 65 歳以上である割合を見ると、1975 年では 15.0%でしたが、
2008 年では 46,7%で、全世帯の 19.3%が 65 歳以上の者のみの世帯となってい
ます。ひとり暮らしの者のうち 36.5%は 65 歳以上の高齢者であり、夫婦のみ世
帯の 54.8%は 65 歳以上の夫婦です。高齢者が地域社会で元気に暮らすことを目
指さないと、今日の日本社会は成り立たないというのは過言でしょうか。
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介護を必要としている高齢者
2000 年に日本は介護保険制度を導入しました。介護保険制度は医療と福祉の
2つの領域で対応していた高齢者の介護を、社会保険としての介護保険として
ひとつに纏めました。それ以降、高齢者問題は介護問題として扱われることが
多くなり、大多数の介護保険対象外の高齢者の存在が注目されなくなりました。
介護保険制度が実施されて 9 年間が経過しましたが、介護保険制度で評価で
きる点は 2 点あります。ひとつは介護に必要な費用の一部を、介護保険料とし
て 40 歳以上のすべての国民から徴収するシステムを構築したことです。40 歳
から 64 歳までは医療保険料の一部として徴収し、65 歳以上者からは原則公的
年金からの天引きという徴収方法を実施しました。その結果、介護保険制度に
反対していても医療保険の保険料に含まれて徴収され、また年金から天引きさ
れているため支払いを拒否するのは難しい状況です。保険料を徴収できないと
いう心配はほとんどありません。
第2点は介護保険制度という公的保険制度として保険料を支払っているため
に、介護サービスの利用を当然の権利と考えて、介護サービスの利用者が増加
した点です。
しかし、介護保険制度には多くの課題があります。第1には利用できるサー
ビスが、実際に必要としているサービスの量を満たしていない場合が多く見ら
れるという点です。そのために、不足分は保険対象外の自費購入サービスと利
用することになります。
第2には高齢者介護施設の職員も家族も、高齢者への虐待行為についての自
覚が薄いと言う点です。通称「高齢者虐待防止法」が施行されても、状況に大
きな変化はありません。高齢者の尊厳や自律性を重視することの大切は述べら
れていますが、実際に介護が必要な高齢者が人間としての基本的人権を尊重さ
れた生活をおくることは難しい状態が見られます。
第 3 点として、介護職員が不足しているために、適正な介護サービスの提供
が行われない点です。サービス量が不足しているのにも関わらず、職員不足の
ためにサービス提供量をさらに減らさざる得ない現状があります。また介護職
員については動労内容の大変さに見合った賃金が支給されていないとして、離
職者が続出しています。毎年平均で 4 人に一人は離職するといわれています。
介護職員の社会的地位が低いのです。
第 4 点として、施設サービスの希望が多いが、施設の増設は追いついてない
ために長期間の入所待ちが当然となっています。在宅サービスでも利用規定が
年々厳しくなり、在宅生活の基本であるホームヘルプサービスの利用にも制限
が付けられています。
第 5 として、認知症ケアを重視しているために、入所施設は認知症の高齢者
で占められています。そのため認知症が軽度である高齢者の施設入所は難しく
なっています。
このように現在の介護保険制度には多くの課題があります。この解決は早急
に実施しなければならないでしょう。また高齢者はひとつ以上の疾病を持って
います。医療保険財政の支出増大は高齢者の医療受診行動にあるとして、2006
年には 75 歳以上を対象とした後期高齢者医療保険制度が実施されました。しか
しこの医療保険制度の評判は悪く、2009 年秋に政権が交代したことで廃止が予
定されています。
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介護を必要としない高齢者
先にも述べたように、高齢者の 8 割はいくつかの疾病を抱えながらも地域社
会で、健康的に生活を送っています。日本では 80 歳までに 20 本の歯を残しま
しょうという「8020 運動」が実施され、歯に対する高齢者の関心も高まってい
ます。いつまでも健康を維持し、活動的な生活を送ることは、高齢者自身にと
っても社会にとっても、望ましいことです。介護保険制度でも介護予防に力を
入れ始めました。
1995 年には高齢社会対策基本法が制定され、高齢社会対策大綱が 1996 年に
閣議決定されました。この結果、日本は各省庁が高齢社会への対応に邁進する
ことになったのですが、必ずしも成果は上がっていません。そこで、2001 年に
新しい高齢社会対策大綱が決定したのですが、その後も統一の取れた対策が実
施されているとはいえない状況です。
個別の省庁でみると、例えば国土交通省では、バリアフリー新法を制定して
交通機関や建物設備のバリアフリーとユニバーサルデザインに力を入れていま
す。この施策は高齢者や障害者などすべての人々にとってやさしい環境の整備
となっています。国土交通省と厚生労働省と協働で、高齢者住まい法が 2009 年
5 月に公布されていますが、高齢者が安心して暮らせる住宅の確保は充分ではあ
りません。また厚生労働省は高齢者の雇用の安定を図る法律を制定しています。
これらの法律の前提としては、高齢者が安心して生活を送れる環境の整備や、
生活の安定と尊厳のある暮らしの保障が必要です。その点が充分に認識された
政策とはなっていません。元気な高齢者を介護が必要な高齢者のための資源と
考えている施策もあります。
高齢者介護の問題は確かに解決しなければならない政策課題であると考えま
す。しかし、介護を必要としない状態にある高齢者の社会参加を増やし、充実
した地域社会での生活を保障することも重要な施策だと考えます。
その意味では、WHOが推進しているアクティブ・エイジングの視点を改め
て取り入れて、高齢社会のあり方を、介護問題も含めて、高齢者にとって生活
しやすい社会の構築という方向を指向していくことが必要であると思います。
「高齢者にやさしい街」のチェックリストにある8つのトピックスは高齢者の
地域生活を考える上で、具体的なイメージを作れる内容となっていると思いま
す。「高齢者にやさしい街」の理念が日本の各自治体に広がることで、高齢者の
地域生活を支援することが可能になると考えます。