腎炎症例研究 31 巻 2015 年 ステロイドと免疫抑制剤により長期的にコントロール良好であった Immunotactoid Glomerulopathy の一例 葉 末 亮 星 野 純 一 濱之上 哲 山 内 真 之 高 市 憲 明 乳 原 善 文 諏訪部 達 也 住 田 圭 一 三 瀬 広 記 早 見 典 子 平 松 里佳子 長谷川 詠 子 澤 直 樹 藤 井 丈 士 1 病理コメンテータ 山 口 裕 2 城 謙 輔 3 値不明) ,Alb:3.4,T-Chol:249 であり,精査 加療目的に当科紹介受診され,3 月 15 日に入院 Immunotactoid glomerulopathy について 概 念:電顕で,糸球体の細胞外基質にアミ された。 ロイド染色陰性の細線維の沈着を認める,とい 既往歴:特記事項なし う特徴を有する腎炎。1977 年に最初に報告さ 内服薬:なし 嗜 好 品: 飲 酒: 機 会 飲 酒, 喫 煙:30 本 / 日 × 10 年 れた。細線維は細管様構造をとる。 頻 度:全腎生検検体の 0.06 〜 0.1% であり, FGN の 1/10 程度 1,2) アレルギー:なし 発症年齢:一般に中高齢が多いとされるが, 10 歳で発症した症例の報告もある 3)。明らかな 家族歴:父:心疾患 入院時現症:身長 167.6cm,体重 69.0kg,体 温 35.9℃,血圧 116/78 mmHg,脈拍 66/min 整, 男女差はない。 症 状:蛋白尿はほぼ全例にみられる。ネフ 頭頚部:眼瞼結膜蒼白なし,眼球結膜黄染なし, ローゼ症候群をきたしていることもまれではな 頚部リンパ節腫脹・圧痛なし,胸部:心音・呼 い。 吸音異常なし,腹部:平坦・軟・圧痛なし,腸 蠕動音→,四肢:下腿浮腫なし 1)Kidney Int 2003;63:1450-1461 2)J Am Soc Nephrol 2008;19:34-37 3)Nephrol Dial Transplant 1996;11:837-842 症 例 症 例:43 歳男性 現病歴:健診などで血尿・蛋白尿を指摘され たことはなかった。1996 年(26 歳)頃より下 腿浮腫,全身倦怠感を認め 1999 年(29 歳)に 前医を受診した。その際,尿蛋白(3+) (定量 虎の門病院 腎センター (1 同病理部 山口病理組織研究所 Key Word:Immunotactoid Glomerulopathy (2 (3 東北大学大学院医学系研究科 病理病態学講座 ― 100 ― 第 61 回神奈川腎炎研究会 表 1.検査時所見 WBC RBC Hb Ht Plt TP Alb UN Cr UA Na K Cl Tchol TG 7500 /μl 429x104 /μl 14.1 g/dl 40.6 % 23.2x104 /μl 5.1 g/dl 2.5 g/dl 19 mg/dl 0.8 mg/dl 4.8 mg/dl 141 mmol/l 4.2 mmol/l 108 mmol/l 263 mg/dl 146 mg/dl CRP ESR IgG IgA IgM CH50 C3 C4 抗核抗体 抗DNA抗体 抗Sm抗体 クリオグロブリン APTT PT HBsAg 0.0 7 814 359 198 42 62.9 29.3 陰性 陰性 陰性 陰性 36.5 98.5 (-) mg/dl mm/h mg/dl mg/dl mg/dl U mg/dl mg/dl sec % HCVAb (-) 梅毒定性 (-) 免疫電気泳動 M蛋白(-) 血液 M蛋白(-)/BJP(-) 尿 尿検査 1.020 比重 pH 6.5 尿蛋白 (4+) 3.38 g/day 尿潜血 (±) RBC 1-5 /HPF WBC <1 /HPF NAG 9 IU/day 111μg/day β2MG 図3 図1 図2 ― 101 ― 腎炎症例研究 31 巻 2015 年 表 2.検査所見(2003 年 10 月 腎生検 2 回目) 身長168.0cm,体重68.0kg 体温36.5℃,血圧110/70 mmHg,脈拍61/min整 WBC RBC Hb Ht Plt TP Alb UN Cr UA Na K Cl 9000 /μl 402x104 /μl 13.6 g/dl 40.6 % 21.3x104 /μl 6.6 g/dl 3.1 g/dl 14 mg/dl 0.7 mg/dl 5.0 mg/dl 142 mmol/l 4.0 mmol/l 106 mmol/l Tchol TG CRP ESR IgG IgA IgM CH50 C3 C4 クリオグロブリン HBsAg HCVAb 185 131 0.1 2 886 260 108 36 86 15 陰性 (-) (-) mg/dl mg/dl mg/dl mm/h mg/dl mg/dl mg/dl U mg/dl mg/dl 梅毒定性 (-) 免疫電気泳動 M蛋白(-) 血液 M蛋白(-) 尿 尿検査 1.023 比重 pH 5.5 尿蛋白 (1+) 0.55 g/day 尿潜血 (-) RBC 1-5 /HPF WBC 1-5 /HPF 図5 図4 ― 102 ― 第 61 回神奈川腎炎研究会 図6 図8 図7 図9 表 3.検査所見(2013 年 8 月 腎生検 3 回目) 身長167.8cm,体重65.0kg 体温36.4℃,血圧115/79mmHg,脈拍71/min整 内服薬:PSL1mg/隔日,CyA50mg/日,ロサルタン50mg/日 WBC RBC Hb Ht Plt TP Alb UN Cr UA Na K 8500 /μl 449x104 /μl 15.2 g/dl 44.1 % 18.9x104 /μl 7.2 g/dl 3.8 g/dl 20 mg/dl 0.72 mg/dl 4.8 mg/dl 140 mmol/l 4.5 mmol/l Cl Tchol TG CRP ESR IgG IgA IgM CH50 C3 C4 103 mmol/l 199 mg/dl 97 mg/dl 0.0 mg/dl 10 mm/h 1072 mg/dl 360 mg/dl 99 mg/dl 45 U 81 mg/dl 15 mg/dl ― 103 ― 免疫電気泳動 M蛋白(-) 血液 M蛋白(-) 尿 尿検査 1.010 比重 pH 7.0 尿蛋白 (1+) 0.85 g/day 尿潜血 (±) RBC 1-5 /HPF WBC 1-5 /HPF 腎炎症例研究 31 巻 2015 年 図 10 図 13 図 11 図 14 まとめ 26 歳で発症し,29 歳時より PSL50mg より開 始し,その後 CyA,ARB を併用することで蛋 白尿は軽減し,43 歳時まで腎機能の保持が得 られている。 治療開始 4 年目で行った腎生検では光顕上 spike 様 の 係 蹄 壁 病 変 を,IF で は IgG,C3, IgG1,κの優位沈着を認め膜性腎症的であっ た。 電顕上は細管構造を持つ平行な細線維構造を 認め,immunotactoid glomerulopathy と診断した。 図 12 ― 104 ― 第 61 回神奈川腎炎研究会 従来の報告では上皮下か内皮下かに分類されて 報告されてきた 1,2) 討 論 が,本症のような基底膜内 の沈着物を示す例の報告 も少なくない。 治療 14 年後に施行された再生検では前回と 座長 それでは,本日最終の演題になります。 3) 同様の沈着物が確認されたが,一方で細線維構 「ステロイドと免疫抑制剤により良好な経過を たどった若年発症 immunotactoid glomerulopathy 造を伴わない沈着物を上皮下に認めた。 の 1 例」,虎の門病院腎センター葉末先生,よ 1)Kidney Int 2002;62:1764-1775 葉末 よろしくお願いします。「ステロイドと 2)Nephrol Dial Transplant 2012;27:4137- 免疫抑制剤によって,長期的にコントロール が良好だった immunotactoid glomerulopathy の 1 ろしくお願いします。 4146 例」について発表させていただきます。 まず,immunotactoid glomerulopathy について 3)Kidney Int 2003;63:1450-1461 です。電顕において,糸球体の細胞外基質に, アミロイド染色陰性の細線維の沈着を認める 特徴を有する腎炎で,1977 年に最初に報告さ れています。また,細線維は腺管様構造を取 ることが特徴とされておりまして,全人生検 検体の 0.06 から 0.1% とかなり頻度の低い疾患 でありまして,同様の分類になります fibrillary glomerulonephritis の約 10 分の 1 程度といわれて おります。 発症年齢は,一般に中高年が多いとされるの ですけれども,報告によりましたら 10 歳で発 症した少年の報告もありまして,明らかな男女 の差は見られておりません。 症状としては,蛋白尿がほぼ全例に認められ まして,ネフローゼ症候群を来していることも まれではない疾患です。 症例に写らせていただきます。症例は 43 歳 の男性です。これまで,健診などで尿所見の異 常を指摘されたことはありませんでした。26 歳ごろから下腿の浮腫,全身倦怠感を認めまし て,1999 年に前医を受診されました。その際 に尿蛋白が 3+,アルブミンが 3.4,トータルコ レステロールが 249 あり,精査加療目的に当科 紹介受診されまして,3 月 15 日に入院されてお ります。 その他,背景に関しましては,以下のとおり です。 入院時の現症です。バイタルサイン,身体所 ― 105 ― 腎炎症例研究 31 巻 2015 年 も,腺管様構造を取る細線維が平行に走ってお 見につきまして,こちらのほうに来られたとき には,下腿の浮腫はなく,特記すべき所見は, りまして,この所見をもちまして,immunotac- そのほかには見られませんでした。 検査所見です。アルブミンが 2.5 と低下して toid glomerulopathy と診断いたしました。 おりまして,尿蛋白のほうは 4+,こちらは蓄 尿で 3.38g とネフローゼレベルの蛋白尿を認め ロイドの投与によりまして尿蛋白は減ったの こちらが全経過になるのですけれども,ステ ておりました。 腎生検の 1 回目は,まずは光顕におきまして, 係蹄壁の肥厚像が目立ちまして,左下に拡大像 ですけれども,その後,再上昇がありまして, 2000 年からシクロスポリンを始めております。 以後は,腎機能,尿蛋白ともに安定して経過し を見せておりますけれども,spike 様の病変の ておりまして,徐々に減量しております。 2013 年の 8 月に腎生検を施行いたしました。 ほうが認められております。 IF で す。IgG と C3 が capillary の mesangium も こちらが腎生検 3 回目の所見です。このときに は,内服薬がプレドニゾロン 1mg 隔日,シクロ 染色されておりまして,軽鎖につきましてはκ のほうが優位に染色されています。 スポリンは 50mg というふうに taper している最 中でありました。アルブミンは 3.8g と低下は認 今回の腎生検では,電顕のほうが,糸球体が めず,尿蛋白も 0.85g,大体外来での前経過で なく評価不可能ということで,この時点では上 皮下沈着主体の MPGN という診断になりまし もこれぐらいだったのですけれども,こういっ た。 た所見でした。 こちらが 3 回目の腎生検です。係蹄壁の病変 こちらが最初の経過になります。腎生検後に が主体と見られます。 ステロイドを投与し,ACE インヒビターを追 IF です。こちらも,2 回目のときと同様に, 加しまして,尿蛋白は速やかに下がっておりま またκ・λでいうと少しκの染色が薄くなって す。 いるようにも思います。 こちらが,治療開始 4 年目に腎生検をしてお 電子顕微鏡です。沈着のない係蹄壁も一部あ るのですけれども,foot process の effacement は るのですけれども,このときの検査につきまし ては,アルブミンは 3.1 と上昇しておりまして, かなり顕著に見られている部分もありました。 尿蛋白は 0.55g と減少しております。 また,2 回目のときには膜内の沈着物は優位 腎生検の 2 回目は,1 回目のときと同様に, 光顕上は capillary 主体の病変で,やはり spike だったんですけれども,3 回目のときには,上 様の病変を認めておりまして,膜性腎症様の所 ます。 見を呈しておりました。 強拡大で観察いたしますと,2 回目のときと 蛍光抗体法でも,今回 mesangium の沈着とい 同様に細線維構造,または線間構造を取ってい うよりは,capillary が優位になっておりまして, 膜性腎症様でありました。IgA subclass につき るような構造物が見られる部分と,そうではな い部分も deposit というふうに 2 カ所目立って見 ましては,前回と違いまして,IgG1 のほうが られました。 目立っておりました。κ・λについては,やは 本症例のまとめです。26 歳で発症いたしま して,29 歳のときからプレドニンを 50mg で開 りκのほうの優位性が継続しておりました。 電顕写真です。係蹄内に dense deposit が多数 皮下の沈着物もかなり目立つようになっており 認められております。また,mesangium 領域へ 始しまして,その後良好に蛋白尿は軽減しまし て,43 歳時まで腎機能保持が得られた immuno- の沈着物も一部認められておりました。 tactoid glomerulopathy の 1 例です。 こちらが電顕の強拡大になるのですけれど 治療開始後 4 年目で行った腎生検では,光顕 ― 106 ― 第 61 回神奈川腎炎研究会 上 spike 様の係蹄壁病変がありまして,IF では IgG,C3,IgG1,κでの優位沈着を認めまして, たように思います。 【スライド 2】 PAM で 見 ま す と,spike, あ る い は 一 部 mesangium が拡大したようなところがある。それ 膜性腎症的でした。 電顕上は,細線維構造で線間様構造を取って おりまして,immunotactoid glomerulopathy と診 から,蛋白尿の持続で少し尿細管上皮の泡沫化 断しております。 といいますか,そういうような尿細管上皮が 従来の報告では,上皮下,内皮下に分類され て報告されてきているものが多いのですけれど ちょっと出ています。 【スライド 3】 も,本症例のような基底膜内の沈着物があった spike 状で,ちょっと二重化の傾向もありま すが,ステージが ribbon-like にもなっています 症例を報告しているものも少なくありません。 治療開始後,14 年後に施行された再生検では, から,ステージの進んだ膜性腎症と思います。 前回と同様の沈着物が確認されたんですけれど 【スライド 4】 部分的に mesangium が動いているだけで,膜 も,一方で,細線維構造を伴わない沈着物が上 皮下に認められておりました。 臨床の疑問点といたしましては,長い経過の 中で 3 回腎生検を行っているのですけれども, 性腎症としか言いようがないように思います。 【スライド 5】 間質病変で,一部間質炎があって,尿細管上 最後の腎生検のところで,細線維管構造を伴わ 皮の泡沫化が見られます。 ないような沈着物を,どう解釈したらいいかに 【スライド 6】 ついて,ご教授お願いいたします。以上です。 同じ場所です。 【スライド 7】 座長 ありがとうございました。 まずはフロアから,ご意見,ご質問はござい 虚脱しちゃって内腔が見えないです。peripheral 優位なんだろうと思います。 ますでしょうか。 電顕で,一応診断としてはいいだろうと思う G が dominant で,C3,κで,λをどういうふ うに見るかです。M もちょっと granular で,A のですけれど。 山口 すみません。free の light chain はどうで もどういうふうに捕まえるのか,2 回目ですと, 意外ときれいにこの 3 つがネガティブになって すか。特に問題ないですか。 葉末 free light chain については,14 年前,10 いるんです。ですから,これがほかのものを detect している可能性は否定はできないと思い 年前ということもありまして,たぶん検査でき なかった背景もあったと思うのですけれども, free light chain は,検査されておりません。 ます。 【スライド 8】 座長 ほかにございませんでしょうか。それで 増殖がちょっと弱いので,MPGN に無理やり 持っていくとしたら,タイプ 3 で,Bankfolder は病理のほうからお願いします。 山口 われわれは,あまり immunotactoid glo- の variant か,membranouse glomerulonephritis で, 先ほどの A とか,M とか,λを negative にして merulopathy は経験が少ないのです。私も 1 例ぐ らいしかないです。20 年弱フォローアップし て見られているのは,貴重だろうと思います。 【スライド 1】 しまえば,最近の概念で,膜型の proliferative nephritis monoclonal with IgG deposit と思いま す。 1 回目は,ほとんど尿細管間質には病変がな くて,糸球体も係蹄壁の肥厚と mesangial の拡 【スライド 9】 2 回目は,虚血性の変化が出てしまったのか, そういうところを生検し,global に伴ったとこ 大が軽度というぐらいで,後は特に問題なかっ ― 107 ― 腎炎症例研究 31 巻 2015 年 microtubular な structure が上皮下,あるいは膜 ろと,collapse と間質の炎症と尿細管の萎縮が 内にもはっきりしてきています。 あります。 【スライド 20】 【スライド 10】 このようにきれいな microtubular structure が 全体に organize して,ある程度方向性があって, これは瘢痕化のところで,糸球体が全部寄っ ていますので,何か虚血性の変化が加味された 束があるように見られます。 【スライド 21】 場所と思います。皮膜下の虚脱で,二次的な変 化だろうと思います。 糸球体がしっかりしています。増殖性の変化 immunotactoid glomerulopathy。MPGN-like に 思います。25nm ですね。electron lucent な tubu- はない。 lar lumen が あ る microtubular structure と 思 い ま 【スライド 11】 【スライド 12】 す。 膜の変化もだいぶよくなっています,所見の ない loop も多くなっています。全体に改善して 2 回目は,immunotactoid でいいように思いま す。 きていることは間違いないと思います。 【スライド 13】 【スライド 22】 きれいな loop が,増えてきています。 【スライド 14】 見られたようなものはありません。 【スライド 23】 最後の生検は,尿細管間質病変は,2 回目で やや二重化になっているところも,出かかっ 線維化もそんなに見られていないです。mesangium の拡大は少し目立ってきている印象は てきています。 【スライド 15】 あります。 膜性腎症でも,ステージが進むと二重化様に 【スライド 24】 一 部 collapse し て い ま す。 細 動 脈 硬 化 症 が なってきます。 【スライド 16】 ちょっと出てきたのかもしれないです。 【スライド 25】 A と,M と,λがほぼ negative で,先ほどの 1 回目に比べると,peripheral に granular にしっ かり乗っていると思います。最初の IgG は,虚 前回も二重化が出てきていましたが,二重 化がだいぶ際立ってきている印象です。mesangium の反応は相変わらず弱いです。 脱か何か二次的なものなので,分かりづらく なって,2 回目の蛍光はきれいな所見だろうと 【スライド 26】 思います。 【スライド 17】 二重化の所見が全形に出て,spike,bubbling 膜内,上皮下,連珠状にずっとつながって, mesangium の領域にもありますし,mesangium もまだ残っております。 【スライド 27】 chain-like で 膜 性 の 進 展 に な っ て い る ん で の領域にも沈着はあるので,mesangial interpo- しょうか。 【スライド 28】 sition が起きています。 【スライド 18】 mesangial cell の 少 し proliferation も あ っ て, 同じような所見です。 【スライド 29】 G4 を陽性。以前は G1 だけだったんですが, G4 もプラスになってきている感じです。 係蹄壁は厚くなっています。相当厚くなって, wash out を繰り返しているのだろうと思いま す。 【スライド 30】 ですから,monoclonality? 【スライド 19】 ― 108 ― 第 61 回神奈川腎炎研究会 残っていて,尿細管がつぶれていることが多い。 過去の biopsy の場所をたまたまつついたら,こ 【スライド 31】 電顕では,膜内,上皮下の沈着が,あるいは wash out, mesangium interposition,mesangial 領 ういう変化になったんだろうと思います。 私は,この症例は IgA,IgM,λが陰性とい 域の沈着も相変わらずあります。 う こ と で,IgG κ の monoclonal deposition disease と思います。このときは電顕をやっていな 【スライド 32】 膜内にありますし,interposition もある。 【スライド 33】 いので,IgG κ型の単クローン性免疫グロブリ だいぶ激しいです。まだ washed out は目立た ン沈着症という診断どまりで,病態からいえば, 膜性腎症のタイプと思います。MPGN の 3 型に ないです。 【スライド 34】 近いとも言えると思います。 ほ と ん ど が,microtubular structure で, 一 部 構造が崩れてしまっているので,基本は micro ここから電顕的にどういう疾患が鑑別される tubular structure でいいと思います。 的に細線維構造のあるなし,そして,細線維構 かということを考えなくてはなりません。電顕 【スライド 35】 造の性格が重要な情報です。 これもそうです。やや density が薄くなって いるきらいがある。core もあります。 【スライド 36】 immunotactoid で,改善はしているのですが, クリオは臨床的になかった,そして,amyloidosis も な い だ ろ う と い う こ と で,immunotactoid 腎症あるいは,PGNMID,それから,狭 まだ沈着がありますので,十分とはいえないよ 義の意味での monoclonal immunoglobulin deposition disease(MIDD),こういうもののが鑑別 うに思います。G4 がなぜ出てきたのかは分か 診断に入ってきます。 りません。 【スライド 37】 2 回目の腎生検では電顕が行われています。 面白いのは,この所見です。膜性腎症そっく これは,コルビン先生の本ですと,immunotactoid GN だ と IgG1 が 一 番 多 い。 多 く は りです。要するに,一次性膜性腎症では抗原が podocyte から分泌されて,in situ で抗体が結合 monoclonal で あ っ て,fibrillar GN と G4 が 優 位 して,膜性腎症を起こすといわれていますが, で,monoclonal であるのが少ないといわれてい この形態を見ると,MIDD の膜性腎症型におい ます。 ても膜性腎症の機序を示唆するもののように思 以上です。 います。 座長 それでは城先生。 immunotactoid は隠れクリオといわれるぐら 城 この症例の特徴は経過が長いこと,ステロ イドと免疫抑制剤で良好な経過をたどったこ いで,クリオとの鑑別が難しい疾患群である一 方,このように membranous のタイプで来るの と,そして,若年発症であるということと思い は,immunotactoid と し て も,membranous の 機 ます。 序から来る,すなわち抗原が上皮から合成され, これは,恐らく僕のミスだと思いますけれど も,これが 2 回目の生検組織と思います。1 回 上皮下で免疫複合体が形成される可能性がある 目からこういう変化では,どうもおかしいなと 2 回目も,1qG κ型です。このときに,演者 も言っておられたように,細線維巾が 15nm か 思ったんですけれども,2 回目だと納得がいき ます。これは,きっと 1 回目に biopsy をした場 んだろうと思います。 ら 25nm というのは,immunotactoid としては狭 所を,2 回目で同じところを採ったんだろうと いようです。もう皆さん,疲れてきたと思う 思います。そういうときには,比較的糸球体が のでさわりだけお話しします。immunotactoid ― 109 ― 腎炎症例研究 31 巻 2015 年 は,orderly arrangement で幅が広い。それから, fibrillary は amyloid と同じように random arrange- もう 1 つの可能性は,さっき山口先生がおっ しゃっていたように,新しい 1gG4 が出現して ment で幅が狭いという大きな分け方があった きたときに,membranous が合併してきて結晶 わけです。 これ が Korbet の immunotactoid の鑑別点,こ 構造を起こさない免疫グロブリンがかぶってき れは fibrillary の鑑別点となるものです。Alpers と Korbet の紙面上のディスカッションがあっ が出てくる可能性もある。 たときには,一部は結晶構造を起こさないもの 確か,昭和(大学)の杉崎(徹三)先生の教 室の論文で,一部は immunotactoid で,一部は て,最終的に決着をつけたのが,D'Agati のと ころの Rosenstock JL(2003) ,あるいは Bridoux 結晶構造を呈さない領域が混在した症例を発表 F(2002)です。 していたと思います。 要するに両者の症例を一次性に絞ったとこ ろ が, 一 次 性 の immunotactoid は, ほ と ん ど ここで分かったことは membranous タイプが 存在するのですけれど,上皮から membranous が monoclonal で,microtubular structure を示 し,30nm から 60nm。fibrillary に関しては,G1 posit が tubular structure を呈するということは, と G4 の oligoclonal な も の が 79%, そ れ か ら, monoclonal が 21%。そして,第 3 のカテゴリー もしかしてこういうタイプは,通常の immunotactoid と機序が違うのかもしれない。 としては,organize であって幅が狭い疾患群が あるということで,確か長濱先生と一緒に論文 本症例の経過が非常にいいということは, membranous の経過からいえば,おかしくない を書かせていただいたのが,本症例のタイプだ 症例なんだろうと思います。 ろうと思います。 結局,immunotactoid 腎症は一次性というこ glomerulonephritis with organized microtubular monoclonal immunoglobulin deposits(GOMMID) とで絞られてきて,合併疾患のあるもの,例え が Touchard G によって 1994 年に提唱され,本 うなかたちで,一次性に絞って統計を取ってい 症例はこれにあたると思います。 一 部,tubular structure が 崩 れ て い る と い う い時期だろうと思います。以上です。 ことですけれども,2 つの考え方があると思 から何か,ご意見等はございますか。 います。もともと均一な免疫グロブリンは, Amyloid P component の存在があって,fibrillary 上杉 筑波大学病院の上杉と申します。 structure を 起 こ す。immunoglobulin に 由 来 し, メッシュを借りて,たくさん取ったものを報告 その structure は artifact の可能性もあると思うん したいと思います。 2 回目は,非常に tubulus の構造が非常に明瞭 とそっくりな機序で抗原が出てきて,その de- ばリンパ増殖性疾患の合併があると付記するよ 座長 ありがとうございました。フロアのほう です。 要するに,固定すると結晶構造を起こすよう なものなので,従来,生体に structure を持った この症例は,乳原先生にお願いして,文献の で,一番小さな塊は膜の中にあって,それがど んどん大きくなっている感じで,どこを取って も tubular structure が非常にきれいに見えていま ものが存在するかどうかは誰も見ていないわけ です。全て artifact を見ている可能性もあると した。 思うんです。ということは,やはり検体の処理 2 回目は,城先生に固定のせいと言われたの 等々において,従来は結晶構造を起こすべきも のが,一部は検体の処理の都合から結晶構造が もあれなんですけれども,出されたところが非 常にきれいな tubular formation もあるんですけ 不完全に固定されるということもあり得ると思 れども,多くは,取っていても,tubular forma- います。 tion というのが,同じところで取っても,見え ― 110 ― 第 61 回神奈川腎炎研究会 えないところがある感じで,deposit が少しずつ 上杉 これは本当に電顕を撮っていた印象なん ですけれども,徐々に tubular formation から移 成長してきたというか,変わってきたような印 行しているような感じなので,新しいものが 象を受けました。 どっと来たというか,何か変わったかもしれな なので,何が起こったかはよく分からないん いけどもという感じが印象なんです。 ですけれども,やはり長いこと沈着している間 に,何かほかのものが沈着した機序も考えられ 新しい機序といわれると,ちょっとよく分か らないです。最初の deposit は,1 回目もそうな るのではないかと思いました。 んですけれども,大きくなればなるほど淡い色 immunotactoid は, 私 も 今 ま で 2 例 し か 見 た が出てきている感じがして,最初は何も色がつ ことがないのですけれども,それに比べたら, tubular formation がものすごく小さくて,ただ, いていないんですけれども,大きくなると周り るところと見えないところがあったり,全く見 非常にきれいな organize deposit なので,比べた ときに同じものだろうと思うんですけれども, 今までの 2 例の大体は,3 分の 1 ぐらいの径だっ に黒っぽい色がついてきているので,たぶん成 長するときに,違う immunotactoid と,元から あったものと違うものが何かどんどんついてき たので,確かに少し今までの報告とは違うのか ているような印象があったので,経過を追って mass spectrometry で解析ができたら面白いなと なと,城先生の発表を聞いて思いました。以上 思います。 です。 城 長濱先生の症例は,確かに B cell lympho- 座長 ありがとうございました。 ma か,リンパ網内系の腫瘍が背景にあったと ほかにどなたか。先ほど,ちょっとお名前が 思います。厳密な意味で primary でないかも知 れませんが,こういうふうに immunotactoid に 出た長濱先生は何かコメントがございますで しょうか。 長濱 だいぶ前のことで,自分が論文を書いた 似た症例が出現する。骨髄での形質細胞異常症 ではなく,リンパ網内糸腫瘍は GOMMID と関 のも忘れておりました。 連が深いのかも知れません,臨床からどれだけ 上杉先生にお伺いしたいのですが,山口先生 が monoclonal に移行しているんじゃないかとい まめに原疾患を探るかが重要と思います。 うのをおっしゃっていたことに関連して,もし かしたら最初は polyclonal immunotactoid だった 乳原 城先生,山口先生,どうもありがとうご のかもしれないのですけれど,最後は MIDD に うはみんなに勉強してもらおうと思って出しま 移っていったのかなという印象があるんです した。 が,そのへんのコメントをいただけないでしょ ちょうど,臨床経過を 3 回重ね合わせてみま うか。 すと,1 回目は,まず無治療でスタートして, 2 回目は,ある程度治療をした後で腎生検をし 座長 ありがとうございました。乳原先生。 ざいました。immunotactoid ということで,きょ 最終的に, このへんはたぶん形態学の限界で, 個人的には mass spectrometry とかを使って,何 が沈着しているのかを,きちんと論文に書ける かたちでまとめないといけないのかなと思って た。最後は,また治療を減らしてきて,かなり 落としてきて,それで 1mg とかなり落としてか います。将来的にも,恐らく分類が変わって, らやったという違いがあります。 最初のときには,確か subclass があまり染ま 電顕を撮らなくても,もうちょっと分子生物学 らなかったり,ちょっともやがかかっていた感 的に決着がつけられるような領域だと思いま じだったと思うんですが,治療をすることで, す。 もやが取れちゃって,はっきりして本物が出て 上杉先生,コメントをお願いします。 きた。しかし,治療をやめてしまいますと,逆 ― 111 ― 腎炎症例研究 31 巻 2015 年 に今度また,もやがかかってきた。 電顕でも,2 回目にやったときのは,基底膜 とか,基底膜の内側に deposit が見られていた のが,最後は,新たに上皮下から deposit が出 て き た。 そ の 上 皮 下 か ら 出 て き た deposit に, さらに細かく治療を加えてしまうと,tubular structure がはっきりしてくる。 ですから,きょうの先生方の意見を聞いてい ますと,そういう流れを見ているのかなと,私 は思えました。はい。ありがとうございます。 座長 ありがとうございました。 ほかにフロアから,ございますでしょうか。 それではきょうの 3 演題は終わらせていただき ます。ありがとうございました。 ― 112 ― 第 61 回神奈川腎炎研究会 山口先生 _01 山口先生 _04 山口先生 _02 山口先生 _05 山口先生 _03 山口先生 _06 ― 113 ― 腎炎症例研究 31 巻 2015 年 山口先生 _07 山口先生 _10 山口先生 _08 山口先生 _11 山口先生 _09 山口先生 _12 ― 114 ― 第 61 回神奈川腎炎研究会 山口先生 _13 山口先生 _16 山口先生 _14 山口先生 _17 山口先生 _15 山口先生 _18 ― 115 ― 腎炎症例研究 31 巻 2015 年 山口先生 _19 山口先生 _22 山口先生 _20 山口先生 _23 山口先生 _24 山口先生 _21 ― 116 ― 第 61 回神奈川腎炎研究会 山口先生 _25 山口先生 _28 山口先生 _26 山口先生 _29 山口先生 _27 山口先生 _30 ― 117 ― 腎炎症例研究 31 巻 2015 年 山口先生 _31 山口先生 _34 山口先生 _32 山口先生 _35 山口先生 _33 山口先生 _36 ― 118 ― 第 61 回神奈川腎炎研究会 山口先生 _37 城先生 _03 城先生 _01 城先生 _04 城先生 _02 城先生 _05 ― 119 ― 腎炎症例研究 31 巻 2015 年 城先生 _06 城先生 _09 城先生 _07 城先生 _10 城先生 _08 城先生 _11 ― 120 ― 第 61 回神奈川腎炎研究会 城先生 _12 城先生 _15 城先生 _13 城先生 _16 城先生 _14 城先生 _17 ― 121 ― 腎炎症例研究 31 巻 2015 年 城先生 _18 城先生 _21 城先生 _19 城先生 _22 城先生 _20 城先生 _23 ― 122 ― 第 61 回神奈川腎炎研究会 城先生 _24 城先生 _27 城先生 _25 城先生 _28 城先生 _26 城先生 _29 ― 123 ― 腎炎症例研究 31 巻 2015 年 城先生 _30 城先生 _33 城先生 _31 城先生 _34 城先生 _32 城先生 _35 ― 124 ― 第 61 回神奈川腎炎研究会 城先生 _36 城先生 _39 城先生 _37 城先生 _40 城先生 _38 城先生 _41 ― 125 ― 腎炎症例研究 31 巻 2015 年 城先生 _42 城先生 _45 城先生 _43 城先生 _44 ― 126 ―
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