審査講評(PDF)

福岡県弁護士会館(
福岡県弁護士会館(仮)設計監理業務技術提案プロポーザル
審査講評
平成27年12月8日
審査委員長
橋 本
千 尋
第1 審査結果
福岡県弁護士会新会館取得推進本部の審査委員会は,福岡県弁護士会館(仮)の設
計監理業務技術提案プロポーザルについて,最優秀者に㈱古森弘一建築設計事務所(代
表者・古森弘一氏),次点に㈲田中俊彰設計室一級建築士事務所(代表者・田中俊彰
氏)を選定いたしました。
本プロポーザルには九州各地より30人の建築士の方から応募があり,多種多様な
ご提案をいただきました。
平成27年10月13日に第1次審査を行い,応募者の中から,最優秀,次点のお
二人に加えて,㈱塩塚隆生アトリエ,㈱ライフジャム一級建築士事務所,㈱スピング
ラス・アーキテクツ,PRAISE一級建築士事務所の合計6人の建築士の方を選出
し,同年11月16日に公開ヒアリング実施いたしました。
公開ヒアリングには,弁護士会会員や関係する建築家の方々にご参加いただき,第
1次審査通過者の方々に非常に素晴らしいプレゼンテーションをしていただきました
が,この場のために作成いただいた模型もどれも大変力のこもったもので,提案内容
をより分かりやすく説明していただきました。質問に対する応答もそれぞれの提案の
特質についてパワーポイントなどを活用してアピールしていただき,新会館に寄せて
いる弁護士会会員の期待に十分応えられた,提案者の高い力量や惜しみない努力がひ
しひしと感じられる場となりました。参加された皆様,本当にありがとうございまし
た。
これらを踏まえて同年12月8日に第2次審査を行い,その結果は冒頭に述べたと
おりでした。
以下,第2次審査に進まれた各提案についてコメントを述べます。
第2 各提案へのコメント(番号は公開ヒアリングの際の番号)
【㈱古森弘一建築設計事務所】(5番)
】(5番)
最優秀者として選出した㈱古森弘一建築設計事務所の提案は,全体としてバランス
が良く,細かな部分にまで配慮が行き届いたものでした。具体的には,まず,3つの
区画に分かれた外観は一般的な事務所建築にありがちな堅い印象を和らげ,開放的な
印象を与える大会議室の大きな開口とともに市民に親しみやすい新しい弁護士会のイ
メージを作り出しています。裁判所,検察庁のみならず新会館の北側に位置するマン
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ションなどを含めて別途模型を作成して新会館のロケーションに関するイメージに目
を開かせていただきました。各階の設計に関する提案についても弁護士会の日々の活
動内容をよく分析し,執行部と事務局を弁護士会の中枢と捉えてその配置を提案され
ていました。また,大会議室の配置方法については,1階案,最上階案との比較を示
して提案されるなど非常にわかりやすい説明と合理的な提案がなされていました。建
物内の人の動きを示す動線についても直線的でわかりやすく,全体的にコンパクトに
まとめられていることもあって非常に使いやすい建物が提案されていました。なお,
審査過程では将来的な増築についての対応についても検討されましたが,敷地全体を
利用している案よりは柔軟性があり,公開ヒアリングでの対応などから今後の弁護士
会側からの様々な要望に対しても適切に対応できる資質と体制を備えておられると判
断しました。
【㈲田中俊彰設計室一級建築士事務所】(1番)
】(1番)
次点となりました㈲田中俊彰設計室一級建築士事務所の提案は,非常に伸びやかで
大きな庇が特徴的な美しい建築です。新しい弁護士会をイメージさせる開放的な姿や
北側の公園との連続性も魅力的でしたし,中央のパッシブストリートは,環境性能を
上げながら明るい室内空間を実現する可能性を示しています。しかし一方で,多くの
半屋外空間を持つ構成は,コスト増につながりそうですし,増築の可能性が少ないこ
とにも懸念が示されました。
(以下、掲載順は順位ではありません)
【㈱塩塚隆生アトリエ】(2番)
【㈱塩塚隆生アトリエ】(2番)
建築として非常にコンパクトで明快にまとめられた美しいものでした。公園に向か
って少しずつセットバックしてゆく外観は,公園との連続性を確保しながらも内部の
大小様々な諸室を合理的にまとめており,将来的なフレキシビリティや増築について
も対応しやすい提案でした。しかし一方で,マンションに対峙する公園側に主な開口
部がある代わりに,主なアクセス経路となる東側の立面に今ひとつ工夫が無いことや,
日常的な利用の少ない大会議室が半地下に配置されて,エントランスのイメージを作
ってしまうという懸念が示されました。
【㈱スピングラス・アーキテクツ】(3番)
【㈱スピングラス・アーキテクツ】(3番)
市民と社会のための灯台という新しい弁護士会のイメージを示すもので,計画も非
常にコンパクトかつ合理的にまとめられていました。歴史の継承や詳細な照明計画な
ども特徴的で,環境配慮やコスト面,将来の増築可能性も含めて,非常に現実的な計
画です。ヒアリングでの説明も分かりやすく,説得力がありました。しかし逆に,外
観のイメージが少し閉鎖的で堅いことや,主な利用時間帯である昼間の室内が暗いの
ではないかという懸念,最上階に配置された大会議室へのアクセスの問題が指摘され
ました。
【 PRAISE
PRAISE一級建築士事務所】(4番)
一級建築士事務所】(4番)
大きなプラットフォームの上に立つルーバーで囲まれた端正なファサードが特徴的
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な建築です。他の諸室とはスケールの異なる大会議室を1階に置き,他の事務室部分
とは分離して配置することで,計画全体をきれいに整理しており,構造計画や環境計
画もシンプルかつ合理的にできています。しかし,半屋外空間が大きいためにコスト
増になるのではないか,セキュリティを確保しながらプラットフォームと公園をつな
げられるのかという問題が懸念されました。
【㈱ライフジャム一級建築士事務所】(6番)
【㈱ライフジャム一級建築士事務所】(6番)
周辺環境への配慮から建物高さがほぼ3階に押さえられ,全体として非常に堅実で落
ち着いた印象を持つものでした。平面計画も合理的で,環境性能やコスト面でも大き
な問題は無さそうです。しかし逆に,全体として少々印象が重く堅すぎるのではない
か,また新しい弁護士会を象徴する建物としてのアピールが弱いのではないかという
ことが指摘されました。
第3 おわり
第2次審査に進まれた6人の建築士の方の提案は,どれも優劣の付けがたい素晴ら
しいものでした。ただ,審査委員会で議論する中で,全体としてみたときに最優秀者
の評価が少しだけ秀でていたと言えます。また,次点の選定についてはさらに困難を
極めました。多少の意見の差を超えて,何とか審査委員会としての結論を出したこと
をご報告しておきます。
プロポーザルに応募していただいた皆様,更に公開ヒアリングに参加していただい
た建築士の方々に改めて感謝いたします。また,プロポーザルに向けて建築士の方々
と共に大変な労力を費やして準備を進めていただいた多くの皆様にお礼申し上げます。
この審査講評をもちまして本プロポーザルは終了しますが,福岡県弁護士会館(仮)
の設計監理,そして施工はこれから本格的に始まります。今後も建築過程を公開し,
より良き弁護士会の会館の建設を目指していきたいと思います。
以上
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