テクノえっせい 346 新技術が生み出すビジネス広島工業大学名誉教授中山勝矢 2014年のノーベル物理学賞が赤崎、天野、中村3氏の青色発光レーザ素子（LED）の研究に与えられたのは、これで白色LED照明が身近になったと評価されたからです。 LEDの研究は長く、半世紀にわたる歴史があります。 2006年2月の「てくのえっせい」にも、LED照明の普及に奮闘中と年賀状に書いてきた友人のことを紹介しました。（写真1）いまではほとんどの交通信号機の光源は白熱灯からLEDに変わった（LEDでは小さな光源が多数並んでいる）狙いの一つであった交通信号機のLED化は、もはや珍しくありません（写真1）。いまはLEDチップの値下がりを受け、より付加価値を高めた商品に関心が向いてきています。 ●必要なときだけ点灯するほとんどの街路灯は、夜明けの消灯と日没の点灯をタイマーなどで行ってきましたが、最近は一歩進んで、トイレや廊下に人が来たら明かりがつくという商品も見かけます。このためには、人を感知するセンサー（人感センサー）が必要です。ところが街路灯や駐車場の照明の場合、防犯のためといって、一晩つけっぱなしにするのが普通でした。終夜点灯するには、電力会社から電力を受けるのが順当です。ポツン、ポツンと立つ街路灯に、一つ一つ電力会社の電柱から配線するとしたら、当然のこと工事費がかさみます。（写真2）太陽電池パネルに拡声器と白色LED 照明具をつけた街路灯（LED照明具の下部に人感センサーがある。宇部興機㈱提供）そこで太陽電池を電源にするという考えが出てきましたが、肝心の照明は日没後ですから、役に立ちません。そこで蓄電池を組み合わせることになります。（写真2、3）天候は気ままですから、ときには充電不十分ということも起きます。太陽電池や蓄電池を大きくすればよいのですが、システム全体が高価になって市場が広がりません。実はこのバランスが難しい。開発されたシステムでは、最大14時間/7日の無日照でも問題ないというデータが出ています。実用化のためには、ここが肝要なのです。 (写真3) バラエティーに富む太陽光発電式白色ＬＥＤ街灯の設置例（左から岡山県の漁港、山口県萩市の公園、山口市内の銀行駐車場、宇部興機㈱提供）旬レポ中国地域 2015年8月号なおLEDランプの寿命は白熱電球や蛍光灯ランプよりも遥かに長くて4万時間以上、蓄電池も5～8年の寿命ですから、メンテナンスの費用は遥かに少なくて済みます。 1 街路や駐車場の照明をまったく消してしまうのでは防犯上も役に立たず、利用者として不便です。真っ暗な夜にしたら、景観上の効果はマイナスでしょう。そこで宇部興機㈱の小玉社長は人感センサーを使い、近くに人や車を感知したら定格点灯する街路灯を作ったのだといわれるのです。（写真4）定格点灯時は30～80Wの蛍光灯相当で十分に明るく、省エネ点灯でも蛍光灯15～40W相当で、優しく光って見えます。外部に制御盤がないため、すっきりしています。（写真４）宇部興機㈱の小玉社長（宇部興機㈱の提供）この「ソーラーLED街灯」は業界で初めてのものだと聞きました。特許も取得してあり、2015年段階での設置実績は 1800基以上に達しているという説明でした。しかも年間売り上げ3億円達成にあと一歩というところだというのですから素晴らしい。それで平成27年度の第23回中国地域ニュービジネス特別賞に輝いたのです。 ●産学官の連携でこの開発には、山口大学工学部と山口県産業技術センターが協力したとあります。キャリアに幅があり、機材も整っている機関との連携は、商品開発に大きな力を発揮します。新商品はアイデアだけで実現できるものではありません。白色のLED光源は、技術的に日々進んでいますからその分野の専門家の協力は欠かせません。このシステムはリチウムイオン電池を採用して、メンテナンスフリー化、システムの小型化を実現しましたが、災害時の携帯電話やラジオ用非常電源の配慮もあります。(写真 5) また一方で高レベルの放熱や、光の拡散技術も必要になりますし、用途により課題が違ってきます。それらを克服していくことこそ新商品開発の神髄なのです。さらにこの街路灯の持つ独立した電源機能を活用するならば、防犯カメラ、河川水位のテレメーター機能、発電量や放射線量の表示も不可能ではありません。単に夜間照明を考えるだけでなく、災害時には公共的なサイトとして活用していくという発想は斬新で、この視点からまた別の新商品が生まれてくるように思われます。（写真５）街路灯のシステムと内部の説明（高輝度白色LEDは8Wだが、明るさは40Wの蛍光灯に相当する。下部のケースには、リチウムイオン蓄電池や交直変換インバータ、非常用コンセント、地震センサーが見える。宇部興機㈱提供） HP: http://www.ubekohki.co.jp/ 経済産業省中国経済産業局広報誌旬レポ中国地域 2015年8月号 Copyright 2015 Chugoku Bureau of Economy , Trade and Industry. 2