感染症診療ゴールデンハンドブック

藤田次郎 喜舎場朝和 編集
書 評
感染症診療ゴールデンハンドブック
新書判 374 頁 定価 3,990 円(本体 3,800 円 + 税 5%),2007 年,南江堂発行
これまでも感染症に関する多くの書籍が出版され医
療従事者に利用されてきたが,ここにまた一つユニー
クな本が上梓された.
本書の特徴的な点は,まず執筆者の顔ぶれとして,
琉球大学と沖縄県立中部病院など(聞くところによれば
沖縄県立中部病院は,多くの優れた医師を輩出してき
た,特に卒後臨床研修が必修となって以来研修希望者
が殺到するような施設とのこと),沖縄県内の関連施設
のみでかためられていることである.
そして,感染症診療の単なるマニュアルにとどまら
ず,各感染症へのアプローチの前で「基本アプローチ」
にページを割いており,興味深い.すなわち,診察法
や検査法のみならず,「主治医感」と称して責任感の大
切さをまず強調していることを始めとして,主治医としての心構えやコミュニ
ケーションの重要性にまで言及している.臨床上大きな問題となっている院内
感染症に関しても,「診療における経路別感染対策」として,この基本アプ
ローチの中で詳述されており,学ぶことは多い.
また,この手のハンドブックでは図表が豊富なのは当然として,カラー写真
も多く取り入れられており,処方例が商品名であることとも合わせ,研修医・
若手医師を読者対象に臨床現場ですぐ役立つという本書の基本スタンスに,気
配りが十分に感じられる.
ところで,この書評の読者はほとんどが外科医であると思うが,「外科感染
症」に関する記載はというと,いわゆる一次感染症である虫垂炎・大腸憩室
炎・腹膜炎や肝膿瘍・胆道系感染症,あるいは皮膚・軟部組織感染症について
の解説はあるものの,「術後感染症(周術期感染症)」という切り口はないこと
に気づくかもしれない.これは,執筆者のほとんどが内科のドクターであるこ
とと関係があろう.欲をいえば,外科感染症を専門とし,常日頃抗菌薬の,特
に術後感染予防薬と治療薬の適正使用を推進している筆者の立場からすれば,
抗菌薬の予防投与についての記載を詳しくしてほしかった.
しかし一方で,
「手術部位感染(SSI)」という概念でまとめられた項目はあり,
SSI 予防対策のポイントがコンパクトに押さえられ,しかも丁寧に執筆されて
いるのには感心させられた.
さらに特に目を引いたところは,穿孔性腹膜炎の治療に関し,外科コンサル
トが最優先であることは当然として,診断がついた時点から,近年重要性が強
調されているいわゆる PK/PD 理論に従い抗菌薬を(本来の添付文書どおりの 1
日 2 回ではなく)1 日 4 回投与するように記載されていることである(PK/PD の
解説コラムもあり).保険適用外であってもエビデンス重視の記述に,執筆者
のポリシーがみてとれるといえよう.
このように本書は,その序文にもあるように,まさに日本でもトップレベル
にある「沖縄県の感染症診療のエッセンスの詰まった」良書であり,若手医師
諸君にぜひ推薦したい.
〔東邦大学外科学第三講座教授 炭山嘉伸〕
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外 科 Vol. 70 No. 1 (2008 ― 1)