研究1:Bayes理論を用いた船体動揺データからの方向波

氏名
所属・役職
研究分野
(キーワード)
井関 俊夫・ Toshio Iseki・ イセキ トシオ
海洋工学系・海事システム工学部門・海洋テクノロジー学講座・教授
船舶耐航性・時系列解析・流体力学
研究1:Bayes理論を用いた船体動揺データからの方向波スペクトルの推定
船舶は常に波浪の影響を受けて動揺しながら航行しています。大振幅の波浪は船体構造に損傷を
与えるだけでなく、積荷の破損の原因になります。また、大振幅ではなくても、波浪は船体の抵抗
を増加させ、燃料消費量や二酸化炭素排出量の増加の原因にもなります。現在、海洋波浪の統計的
データは整備されてきていますが、船が現在まさに遭遇している
波浪の状況を正確に知る方法は確立されていません。本研究では、
船体を波浪計とみなして、船体周りの方向波スペクトルを推定す
ることを試みています。しかしながら、波浪計測の観点からいえ
ば、船体は精度の悪い波浪計であり、常に前進していますので、
正確な波浪の情報を得るためには確率統計的な手法を導入する必
要があります。種々の研究者が種々の手法でこの問題に取り組ん
でいますが、Bayes理論の有効性に着目している研究者は世界に
数名しかいません。本研究では練習船汐路丸の協力を得て、実船
データの収集を行うとともに、デンマーク工科大学と共同研究を
行っています。
この研究によって、船体周りの波浪の状況が分かれば、安全で
地球に優しい、効率的な船舶運航が実現できます。
方向波スペクトルの推定結果
研究2:非定常船体動揺の時系列解析
不規則な海洋波中での船体動揺を研究する場合、一般的に、パワースペクトルを用いた定常時系
列解析が行われます。しかしながら、船舶運航では変針・増減速の操船が行われるために、船体動
揺の時系列は非定常になります。本研究では、時変係数
自己回帰モデルを導入し、瞬間パワースペクトル解析を
行っています。さらに、高次の動揺現象を解析するため
に、本理論を2次、3次に拡張して、瞬間バイスペクト
ル、瞬間トライスペクトル解析法を提案しています。こ
れらの理論を用いることにより、動揺の復原力が周期的
に変化するパラメトリック横揺れなどの現象の発生を解
明できる可能性があります。
パラメトリック横揺れとは、船長とほぼ等しい波長の
向かい波あるいは追い波中で横揺れ復原力が横揺れ固有
振動数の整数倍で変化した場合に発生する現象で、ブラ
ンコの立ちこぎと同様に、揺れが急速に増大する自励振
動現象として理解することができます。この現象はコン
テナ船が大振幅動揺を誘起して、コンテナを海中に流出
するなどの事故の原因となります。この発生過程を正確
に予測して、操船者に情報として提供できれば、船舶の
瞬間パワースペクトルの推定結果
安全運航に役立つと考えられます。
研究3:荒天中操船支援システムの開発
荒天中の船舶運航では、船体に過大な荷重がかからないように操船を行う必要があります。船体
の縦曲げモーメントなどの一部の波浪荷重は、方向
波スペクトルが分かっていれば、理論的に推定可能
なので前述の研究1と研究2を組み合わせることに
より、簡易的な操船支援システムを構築することが
可能になります。この方式の利点は、センサを船体
各部に分布させることなしに、船体の荷重を推定す
ることができるので、システムが簡潔であり、搭載、
メンテナンスが簡単であることです。本研究では、
北太平洋を航行する船舶の航跡
一般商船への搭載を目指して、研究を行っています。
教育
学部授業では船舶工学基礎論、安全運航論Ⅲ、移動体運動解析、海事システム工学ゼミ
ナール、海事システム工学実験演習ⅠおよびⅡ、海事システム工学概論、船舶基礎力学。
大学院では船体運動解析学、耐航耐波特論をよびその実験を担当しています。
社会貢献活動
船舶の安全運航に関する各種委員会の委員、船舶工学に関する研修講義、各種研究の審査委員等
の社会貢献活動を行っています。
学生の
みなさんへ
実際の巨大な船舶で起こっている現象を解析して、そこに埋もれている情報を引っ
張り出すことは、宝探しのようでもあり、推理ドラマの主人公になったようでもあり、
何とも楽しいものです。このような研究に対して、すべての人が同じように楽しさを
感じるとは考えられませんが、熾烈な受験勉強をくぐり抜けて来た学生のみなさんに
も、一度知ったらやめられないという研究の楽しさを感じて欲しいと思います。その
ための最も簡単な方法は、互いに関係のなさそうなことをいろいろと勉強し、適度に
理解できたら、それらを組み合わせることだと思います。大学の講義の中には何の役
に立つのかよく分からないものもあると思いますが、根本的なところを理解するよう
に努めてください。
企業・法人
のみなさん
へ
上述の内容に類することがありましたら、何でもご相談ください。
HP等
http://olcr.kaiyodai.ac.jp/db/profile.php?yomi=ISEKI,Toshio