SURE: Shizuoka University REpository http://ir.lib.shizuoka.ac.jp/ Title Author(s) Citation Issue Date URL Version シード層を用いたCSD法PLZT強誘電体薄膜の低温形成に 関する研究 平野, 富夫 p. 1-138 2000-09-22 http://doi.org/10.11501/3178533 ETD Rights This document is downloaded at: 2016-03-16T11:43:31Z 理工学研究科平 0002514651 R シード層を用いたCSD法PLZT強誘電体 薄膜の低温形成に関する研究 平野 富夫 静岡大学 大学院理工学研究科 物質科学専攻 平成12年9月 目次 一 第1章 緒論…………−…−……一一一……………………………1 1−1.序−……−…−……………−…−…−…………−……__……_……………‥_…1 1−2.強誘電体について……−……−…−…−……__……………………………●2 1−3.PL ZTについて−−−……・−−・・−−−−・−−・−−−………−−._−−−”_.…____.__._.__.___4 1−4.PLZTの応用例…−−−−−・−−−−……−・一一・−−…−−.___________−…___…●………_7 1−4−1.電気光学効果の応用…−…−………‥……‥….……………‥.…‥7 1−4−2.強誘電体メモリー(FRAM)への応用….___.._……●●………_12 1−5.強誘電体薄膜の作製法…………………−……………_……….………_16 1−6.CSD法の概要……−…−……………………………………‥●●_……‥_20 1−7.本研究の目的…………………−…−……………_……_…………●_……●22 1−8.CSD法PLZT薄膜に関する従来の研究一一・・−‥−−.−−….__……___…_23 1−8−1・CSD法PLZT薄膜関連の低温形成に関する従来の研究…−−23 1−8−2.シード層を用いたCSD法PLZT薄膜に関する従来の研究・−25 1−8−3・PLZT薄膜関連の配向性制御のメカニズムに関する従来の研 究…………………・……一一………−…………・・………−…….…_………………‥26 1−8−4.PLZT関連薄膜の鉛過剰添加効果に関する従来の研究……‥27 1−9.シード層を用いたPLZT薄膜の作製法の提案−・・−−−−−.….……________27 1−10.本論文の構成……一・……………・……………………_………………32 参考文献…−……−…−……‥−…………一一…………………−……‥.……_…●……33 第2章 PLZT単相膜の結晶化挙動とその特性………_37 2−1.はじめに・・………一一…………………………‥−…………………………37 2−2.実験方法…………………………−……‥−…………_…………‥……‥39 2−2−1.使用基板−…一一………‥・……………………………………………39 2−2−2..使用薬品……‥−…−…・…一一…………・…−………_…_.…_………‥39 2−2−3.PLZT前駆体溶液の調製方法…−−−−−・−・−−−−…・・−−・−…・−…−・・…・−40 2−2−41.成膜方法−…一一……−…一一………………−……………………….…_41 2−2−5.評価方法……−…一一……一一……一一……・……‥_…………………‥‥44 2−3・結果と考察・…−…・…−……一一……‥・‥…一……−‥‥……一一一…一…叫−‥46 2−3−1・前駆体溶液の調製について・‥−………‥−…………−…−…………−46 2−3−2・配向性に与える基板の影響・−‥‥…‥・−…‥一一・…−…一一……‥−…・…46 2−3−3・PLTシード屑の組成と配向佐一…‥一……一一…−…一一・……‥−……47 2−3−4・PLZT.薄膜の結晶化挙動に与える組成の影響一一…−…・・−・−−・.”49 2−4・まとめ…‥・−…−…‥‥…一・一一‥‥……‥−…一一一一…‥−…−‥一一‥一・………一一一51 参考文献……‥一一・一一一一・一・一‥・……・……‥・‥一一一・………………一一…−……一一……….52 第3章 シード層としてのPTおよびPLT薄膜の結晶化 挙動とその特性……一一一一…一一一一一一一…‥−…一一………一一………−…−53 3−1・はじめに‥……−…−……一一一…‥−‥一一……一・…‥一一…−…−……・一一‥−…−‥一一53 3−2・PTシード層‥・……‥・…一・‥‥‥‥‥……−…一一…−…一・一一一……………‥−53 3−2−1・PT薄膜について…・−…‥・一一・・…・…一・一…一一‥・……−…‥・…………53 3−2−2・PT薄膜の応用……‥・−……‥一一…一一・…・……‥・……・……・……●54 3−2−3・実験方法‥・一・一一……………………−…一一…‥−……………・…‥−‥‥55 3−2−3−1・PT前駆体溶液の調製方法・一・……・……‥‥・………−……−55 3−2−3−2・成膜方法…………・…‥−…‥一一・…‥‥一……・−‥…−…・一・一一…一56 3−2−4・結果と考察…・……‥・………・…−…‥‥…一一……−…・一一…・−……‥−57 3−2−4−1・前駆体の結晶性…・…・…・……・…‥一一一一………一一一…・−…・…−58 3−2−4−2・配向性に与える前駆体濃度の影響一一‥一一一‥一一………一……‥−58 3−2−4−3・配向性に与える基板の影響−‥‥…‥−…‥−……‥一一一…一一…一一60 3−2−4−4・配向性に与える鉛の過剰添加の影響一・一…−…一……………_62 3−2−4−5・PT−PbOシード層の結晶化挙動とその表耐ヒ学結合状 態‥・……………−……−……一一一・・一‥一一…一一一一……‥‥−…‥…………‥・−………・−‥−66 3−2−4−6・微構造………‥一一一・…一一一…−……・…………‥一一‥−‥………‥70 3−2−4−7・ヒステリシス‥一・‥−………………一一一………………‥・……−71 3−3・PLTシード層について一一…−……………一・‥一・一一・一一・一…−…………‥一・73 3−3−1・PLT薄膜について一一一………‥−………−…−…‥一一一‥……‥……−73 3−3−2・PLT薄膜の応用‥…−…‥−…‥−……‥一一一一一‥‥…一・‥−…‥‥…−…73 3−3−3・実験方法−……・……・・‥一一一……………‥一一一‥…‥……一一………・…74 11 3−3−3−1.PLT前駆体の調製方法……−…・…………−…●……‥、….75 3−3−3−2.成膜法…・……………−…一一………−……………_…_………75 3−3−4・結果と考察……………一………一…一…………………………._…_75 3−3−4−1・PLT薄膜の結晶化挙動………‥−………・………………_75 3−3−4−2.膜厚の配向性に与える影響一一……_……‥−……….●………77 3−4・結論………………………‥一…−…一………−…….……_……_……_……79 参考文献……‥一……一……………一一一…−……‥_…_……_…_−_._……‥79 第4章 鉛過剰添加効果……………………………_…_…‥81 4−1・はじめに……‥・………一一…………−……・………−…−……_………●…‥81 4−2・実験方法……‥−………一……………一…・……………‥●●…●………_…81 4−3・鉛過剰添加の結晶化温度に与える影響…………−…一一……∵−………−81 4−4・鉛過剰添加の結晶化挙動に与える影響−…一…一一……………‥__………85 4−5・鉛過剰添加の電気特性に与える影響−……−……………_………‥._…_86 4−6・鉛過剰添加の光学特性に与える影響……‥−……………一.………_…‥87 4−7・まとめ‥…‥……………−…一一…‥−………………………‥_…………___88 参考文献…………‥−…−…一一‥……………‥…………−……_……‥●…………‥錮 第5章 積層構造の影響……………−…………_………__…__90 5−1・はじめに……−………一一‥…−…………−……−……−…−●●……__………‥90 5−2シングルシード法……一一…一一…一……一一…………一一一…_……_…_…−…….90 5−2−1実験方法一一……‥−……………………‥一一一……………‥_……_…‥90 5−2−2.シングルシード法によるPLZT薄膜の結晶化挙動●__.__...…._92 5−2−3.シングルシード法によるPLZT薄膜の電気特使_……__−_…___97 5−3・マルチシード法−………………一…・−…−…−……−……−…‥_………‥−_101 5−3−1.実験方法一一……一…一一………−…………−………….………‥−…‥101 5−3−2・マルチーシード法によるPLZT薄膜の結晶化挙動_.”_._._…102 5−3−3.マルチーシード法によるPLZT薄膜の電気特性_______……__105 5−4・まとめ……−…−…一一・……−………‥………‥……………_.……‥…‥106 参考文献…一…………………………………‥−………・…●…………‥●………106 1 111 第6章 鉛過剰前駆体からのシード層を用いたPLZT薄膜 の特性…………−………一一一一一一一一…_……__……一一……−…_…_107 6−1・はじめに一・……‥一一…一一一・・一・…….……−………………‥一…●.………‥107 6−2・PLTシード層を用いたPLZT薄膜・−−・−−−−…−・・…−−.____._____…‥107 6−2−1・実験方法∴一・……………‥一……・……−…………………………107 6−2−2・結果と考察・……−……………‥一・………‥一一・………………_.…108 6−2−2−1・鉛過剰添加の結晶化挙動に与える影響−_………_………_108 6−2−2−2・鉛過剰添加の表面に与える影響・……………….………__109 6−2−2−3・鉛過剰添加の電気特性に与える影響………‥_…_………110 6−2−2−4・鉛過剰添加が光学特性に与える影響…‥−……..………‥113 6−3・PTシード層を用いたPLZT薄膜一一…・・−・−…−・−・−・…−−−−…_____.…_113 6−3−1・実験方法…−………・−…−…・・−…−…−…−……‥・一.…………‥…‥113 6−3−2・結果と考察一・………‥・……・…∴…−………・・−…………●………114 6−3−2−1・鉛過剰添加が結晶化挙動に与える影響−…_……●………_114 6−3−2−2・鉛過剰添加の電気特性に与える影響…_………_……_….122 6−4・PT−PbOシード層を用いたPLZT薄膜…−−−−−…−…….__….__126 6−4−1・実験方法…………‥−…………−……−……−…−…‖……__….…_126 6−4−2・結果と考察………一…・−…・……………‥−………………………126 6−4−2−1・PbOによる配向制御…………−…一………_…_………●126 6−4−2−2・PT−PbOシード層を用いたPLZT薄膜の電気特性● …… ̄ ̄‥ ̄● ̄HH●一一日−‥‥−‥一・一一一…一・‥‥・‥−…一一‥・…‥・‥‥一一一……−……−……・‥‥128 6−5・まとめ……一一…………−…−……−……‥……‥−……−.…_………_……130 参考文献……−……一一・一…………………・………−…−…・…………_●…__●….…131 第7章 総括……−……………−………………−………‥133 7−1・結論……一…−……一………一一一………………一一…‥一一…‥.…….…‥__133 7−2.今後の課題……−……・……………………−…−…−…−___−_…−…_…‥134 発表論文………………‥−”=∵−……−…………………一一…‥136 学会発表一一一一…‥一一……−…一一……‥−…………−…_……_……137 謝辞…一一−…一一…‥山……−…一一一…−………‥−……___…_……138 lV 第1章 緒論 1−1.序 最近の技術の進歩、特にコンピューター関連、情報通信関連の進歩は目覚し い。大容量の通信には光ファイバーの利用、メモリーの大容量化は基盤技術と してその重要性を増している。その中で消えないI Cメモリー日 としてF R AM(Ferroelectric Random Access Memory)が注目されている。FRAM はその言葉どおりで強誘電体の分極反転という特性を利用したメモリーである。 強誘電体はチタン酸バリウムの発見とコンデンサーへの応用といった勃興期に 続いて、第二の勃興期が来ていると言われている。 強誘電体の代表例として圧電体において代表的な材料であるP Z T(チタン 酸ジルコン酸鉛)があるが、1970年代に G.H.HaertlingはP ZTにL a を添加する事によって透明なセラミックスP L Z T(L a添加チタン酸ジルコ ン酸鉛)を開発した。P L ZTは透明なだけでなく、カー効果、ポッケルス効 果といった電気光学効果を持ったセラミックスであった。その為に、光シャッ ターや光スイッチといった応用商品が考えられ、製品化が期待されている。 薄膜製造技術は主に気相法、液相法に大別できる。一般的には、気相法は真 空雰囲気を必要とする為に、バッチ処理となり高コストになる。一方、液相法 は大量生産には向くが特性が悪く、低価格といったイメージがある。ところが、 .1930年代にドイツのショットガラス社がガラスを溶液から作製する事に用 いたゾルゲル法は分子設計した化合物を作製する事ができると言われ注目され た。2)ゾルゲル法を用いる事によって分子設計されたセラミックスを作製で きれば、優れた特性のP L Z T薄膜の低コスト化が期待できる。本研究では、 その後CSD(ChemicalSolution Deposition)法と呼ばれるようになった金 属アルコキシドの加水分解一重縮合を基本とする液相法にてP L Z Tの低温形 成法を検討した。 本研究では、プロセス温度の低温化の為に、基板上の電極と主相であるP L Z Tの間にシード層を挿入する方法と前駆体溶液中に鉛を過剰に添加する方法 を提案した。本章では、強誘電体およびP L Z Tの特徴、応用例を述べ、その 製法および本研究にて用いているC S D法について概説する。次に、本研究の 1 目的と従来の研究およびその課題を述べた後、課題克服の為の提案を具体的に 説明する。最後に、本論文の構成を示す。 1−2.強誘電体について3・4) 結晶の中には・外部から電界を印加しなくても自然に整列した双極子モーメ ント(単位体積当りの総和を自発分極という)を有するものも存在する。この 種の結晶を極性結晶と呼び・外部電界によって自発分極の方向を変えることの できるものを、特に強誘電体という。 強誘電体は大別して・変位型(例えばBaTiO3)と秩序一無秩序型(例 えばN・aNO2)に分類される。前者は永久双極子を持たない高温相からイオ ンシフトによって自発分極を生じるタイプ・後者は永久双極子が高温相でラン ダム配列であったものが低温相で整列するタイプである。変位型のチタン酸バ リウム(BaTiO3)の原子配列を図1.1に示す。 ● Ti小 Ba2十 (a)高温立方晶相 (b)低温正方晶相 図1・1チタン酸バリウム(BaTiO3)の結晶構造 十分に高温では結晶は(a)のように完全な立方晶であるが、ある特定の温 度(約130℃)以下では、Ti4・・Ba2・の正イオンが02・の負イオンに対して 相対的に(b)のように変位して自発分極を生じ、正方晶に相転移する。この 2 相転移温度をキュリー温度という。チタン酸バリウムの低温相における分極の 印加電界依存性を図1.2に示す。自発分極の反転にともなう履歴(ヒステリシ ス)が特徴的である。 rr 25 ぐ l ∈ 20 U ヽ \ 、 . J 15 ヽ J 、 、 トー 10 ● ヽ ′ l 寧 l _ l 卓 l I 5 0 1 5 10 15 電界Lk V ′ / (bl) (a) 図1.2 チタン酸バリウムにおける電界一分極特性(a)単結晶(b)多結晶 自発分極は温度上昇によって減少し、そのため試料面上に余分な電荷が放出 され、開放電圧として観測される。これを焦電効果という。また、強誘電相に おける誘電率は結晶方位によって異なり、キュリー温度近傍で誘電率は鋭い極 大値を持ち、高温相での誘電率変化はキュリー・ワイス則と呼ばれる次式に従 う。 ここで、Cはキュリー・ワイス定数といい、[K]の次元を持つ。T。はキュ 3 リー・ワイス温度といい、通常、相転移温度T。(キュリー温度)よりわずか に低い温度である。 1−3.P L Z Tについて5) PLZTは電気光学セラミックスの代表的なものであり、アメリカ合衆国匡1 立サンディア研究所のハートリング博士らによって発見された。圧電セラミッ クスPZTの特性改良を試みていたときに、Pbの一部をBiで置換した組成 をホットプレスすると・透光性の圧電セラミックスが作製でき、そこから透過 率と電気光学効果を向上するために種々の元素を置換する事が研究され、La を置換したPLZTが開発された。PLZTは高い透過率とともに良好な電気 光学特性を示す画期的な材料であり、エレクトロニックセラミックスの応用分 野に、新しく電気光学材料の分野が生まれた。 電気光学効果とは、結晶に電界を印加すると屈折率が変化する現象である。 この効果には2種類あって対称中心を持たない結晶のように、印加電界の一 次に比例して屈折率が変化する効果と、中心を持つ結晶のように屈折率が電界 の二次に比例して変化する効果とである○前者を一次電気光学効果(ポッケル ス効果)、後者を二次電気光学効果(カー効果)という。 電気光学効果により結晶の複屈折を変化させ、光の変調またはスイッチング などを行うことが、最近活発化している。図1.3に電気光学効果の説明図を示 す。電気光学結晶は電界を印加することで、X、y、Z軸各方向の屈折率が変化 する。X軸を光軸とし、偏光子をy軸とZ軸に対して45度に、また検光子は 偏光子と直交するように配置する。レーザーからの無偏光光線は、偏光子を通 過することで直線偏光光線となり、結晶内の伝搬はy成分とZ成分に分けて 考えることができる。電界が零の時は、結晶を通過した光線はy成分とZ成 分で同位相であるから、偏光方向は入射時と同一に保たれるため検光子にさえ ぎられて光は通過しない。結晶に電界が印加されると、yとZ方向の屈折率が 異なってくるため・結晶を伝搬する間に光線のyとZ成分の速度が異なり、 位相が徐々にずれて結晶を通過した後、この2成分を合成すると楕円偏光した 光線となる。 4 P L Z Tの相図と代表的な電気光学効果の関係を図1.4に示す。 図1.3 電気光学効果の説明図 40 60 PbTiO3(mo1%) 図1.4 P L Z Tの相図と代表的な電気光学効果の関係 5 100 PbTiO3 PLZTでは(Pbx・LaトX)(Z ry,Tiトy)03を表すのに、通 常PLZT(X/y/1−y)の記号で示す。図1.5に代表的なPLZTの組成に 対する電気光学効果とP−Eヒステリシスループを示す。(a)のPLZT (12/40/60)は、高電界印加後の分極(P)が電界(E)に対して比例関係に ある。これに対応して、複屈折∠nも電界と比例関係にあり、一次電気光学効 果を示す。これと同じ特性は図1・4の領域Aの組成も有している。 PLZT(8/65/35)で代表される組成(図1.4の領域B)は図1.5(b)の ようなP−Eヒステリシスを示し、電界が零になっても大きな残留分極(P,) を持っている。この残留分極を逆方向電界を加えることで変化させると、図示 したような』nと残留分極の関係になる。すなわち残留分極を変化させること で、残留する∠nを制御することが可能であり、光メモリ効果を示す。 (C)はPLZT(9′65′35)の組成のP−E曲線であり、スリムループと 呼ばれる特性を示す。それに対応して』nの電界依存性は2乗の比例関係にあ り、二次電気光学効果を示す。同様の効果は図1.4の領域Cの組成も示す。 PLZT12/40/60 PLZT8/65/35 PLZT9/65/35 q t\ P 汽 」 . l . 一 .ど \仁 −20 0 20 ど(kV/cm) −1.0 0 1.0 巧/巧く (∂)一次電気光学材料 (b)メモリ舶1 ー20 0 20 亡(kV/cm) (C)二次電気九学千往1 図1・5 代表的なPLZTの組成およびその電気光学効果とP−Eヒステリ シスループ 6 1−4.P L Z Tの応用例5・6) . 1−4−1.電気光学効果の応用 P L Z Tは電気光学効果の他に、電気光散乱効果、光強誘電性効果、フォト クロミック効果などがある。電気光散乱効果は分極方向ににより透過光散乱が 変化する現象である。●開口角の小さい絞りを付けた検出器で光員を測ると、光 スイッチ、画像メモリや光メモリに応用されている現象である。光強誘電僅効 果とは、H eやA rなどのイオンを注入したP L Z T薄板に近紫外光(波長 0.37〝m以下)を照射すると、光励起により安定な空間電荷電界が入射光の強 さに比例して誘起される。そのため、空間電荷電界の大きさに対応し、分極反 転電界が減少する現象である。この効果を平面的に利用すると、透明電極を介 して一定電界を加えた場合、空間電荷電界が存在するところと、そうでないと ころで、分極軸が異なることになり、上記の電気光散乱効果と併用すると、透 過光が二次元で制御できる。そのため画像メモリなどに応用されている。 光シャッターの原理図は図1.3に示したとおりである。この代表的な構造を 図.1−6に示す。7)溝型楯状電極を有するP L ZT薄板の両サイドをショッ クアブソーバを兼ねたシリコンゴムを介して、直交ニコルの偏光板とガラス板 で保護している。P L Z T薄板は厚さ 0.3mm、電極は溝に銅†ニッケルを融 着したもので、電極幅0.03mmで間隔は0.5mmが標準である。光強度のON/Off 比は2000:1であり、応答時間は50〝SeCで、駆動電圧も280Vとかなり低く、 種々の応用が期待できる。この応用例としては立体視TV用のメガネ、溶接用 ゴーグル、空軍パイロット用の閃光防護用メガネなどがある。 カラー用ビデオカメラのファインダーは、通常モノカラーである。それをP L Z Tシャツタ素子を利用してカラー化する試みがある。上記方式のシャツタ を一列に多数配列した光シャツタアレイとRGB(赤緑青)フィルタとを組み 合わせた構造をしている。8) 7 PLZT口径 7・ラスチックケース ターミナルビン(mm) PLZTウェハー(mm) ガラス シリ コンゴム 図1・6 PLZT光シャッターの柄迫とウエハーの電極構造 その図を図1・7に示す。PLZTシャツタの電極構造は全てが個々に制御でき る並列構造になっている。シャツタに対応してRGBフィルタが配置され走 査光が透過する際に、画像に合った色彩が透過するようにシャツタを制御する ようになっている。また、同様のシャツタアレイを用いた光プリンタも開発さ れている。その構造を図1・8に示す。9)図のように、光源を平行光線に直し、 書き込みたいところのシャツタ部のみをONにし、透過した光線は収束レンズ で感光紙に集光させるようになっている。この原理を電子写真方式と組み合わ せると・コピー機と同様に普通紙にもプリントできる高速プリンタが可能にな ると思われる。 8 偏光子 PLZTシャッタ 幅= Ⅰ l l 6. 6 」 一一■− l 、 ■ヤ ー J プ=0.55 1−. r l (mm) 図1.7 ビデオカメラのカラービューファインダのP L ZT素子構造 感光紙 凹面反射鏡 収束レンズ 図1.8 PL ZTシャツタを用いた光プリンタの構造 PLZTシャツタは・高密度化と低電圧駆動化が要求され、その要求を満た すために図1.9のような電極構造が検討されている。 両側面電極 (a)表面平行電極 (b)横形電極 (C)並列素子絹造 図1.9 PL ZT素子の電極構造 また光通信の普及にともない、光スイッチや光偏向器の開発が望まれている なかで、PLZTを用いた光ファイバ用切替スイッチ、光導波路スイッチ、プ リズム型光偏向器などがいくつか検討されている。偏光分離合成法を用いた光 ファイバ用スイッチを図1.10に示す。10) 図1.10 光ファイバ用スイッチ 10 また、PLZT薄膜を用いた光導波路スイッチが試作されている。その構造を 図1.11に示す。11) PLZT薄膜 図1.11 PL ZT光導波路スイッチの構造 電気光学単結晶でプリズムを作り、透過光の偏向角を電気的に制御する光偏 向器は既に提案されている。単結晶よりも電気光学効果が大きいPL ZTを用 いたプリズム型光偏向器の構成を図1.12に示す。12) 図1.12 PLZTプリズム型光偏向器の構成 11 1−4−2・強誘電体メモリー(FRAM)への応用 . 今まで述JTてきたように多くの電気光学効果を利用したPLZTの応用製品 が検討されている。また、強誘電体特性の活用としてFRAMにPLZT薄膜 を用いることを考えているグループがある。13)現在研究されている強誘電体 メモリーには大きく分けて2種類ある。一つは強誘電体キャパシタの分極反転 による電荷量を検出するタイプで・強誘電体キャパシタと選択トランジスタで 構成され・メモリーセルの最小構成は1セル当たり1トランジスタ+1キャパ シタとなる(以後1TICと呼ぶ)。1TIC型強誘電体メモリーは1980 年代に米ラムトロン社、米クリサリス社等が提唱したものであり、現在最も実 用化が進んでいるタイプである。この構造では強誘電体プロセスとCMOSプ ロセスを厚いSiO・2絶縁膜で分離する事ができる。そのため、強誘電体キャ パシタ形成の際のCMOSへの影響を最小限に押さえることが出来る上、CM OSの最終に近い工程で強誘電体キャパシタ形成工程を行うことが出来るため 他のプロセスによる強誘電体キャパシタの劣化を極力防ぐことが出来る。この ような作りこみ易さにより実用化にかなり期待ができるということで脚光を浴 びた。図1・13に1TIC型の強誘電体メモリーセルの構造図を示す。 ■●一◆〒∴ ̄・∴十二千 D十、_ N・\モ\、__ノ二二二く=コ ヒトブイノ ㌫謁『層間絶縁膜 図1.131TI C型の強誘電体メモリーセルの構造図 一般的なMOSFETの上に厚い層間絶縁膜を介して強誘電体キャパシタが 形成され、キャパシタとFETのソースが接続されている。回路図を図1.14 に示す。選択セルのワードラインに電圧をかけて選択FETをONにす・る。ワ ードラインと垂直方向のビットラインープレートライン間にパルスを入力する ことにより選択セルの強誘電体キャパシタの状態を検知する。強誘電体にパル 12 スを加えるとその分極状態によって発生する電荷量が異なる。 プレ「トライン 図1.14 1TI C型の強誘電体メモリーセルの回路図 もう一つのタイプはF ET型強誘電体メモリーである。このタイプは強誘電 体の残留分極を利用して半導体の抵抗を変化させるものである。このタイプの メモリpの代表的なものにMF S F ET(MetalFerroelectricSemiconductor FET)がある。F ET型強誘電体メモリーの最も簡単な構造であるMF S F ETは、MI S F ET(Metal Insulator Semiconductor F ET)のゲー ト絶縁膜に強誘電体を用い、その強誘電体の残留分極による電荷を利用して半 導体内部に反転層を形成し、ソース・ドレイン間の抵抗を変化させることによ りメモリー効果を出すものである。動作原理を図1.15 をもとに簡単に説明す る。 13 +Ⅴ→0 ・Ⅴ→0 /シナシ .′′.′ン ′’ IIONState一一 IIOFFState一一 図1.15 FRAMの動作原理 NchFETを考えた場合・ゲート電極に正の電圧(+)を印加すると強誘電 体が分極反転し、卓の発生電荷により反転層が形成される。そのため、ソース. ドレイン間に電圧をかけると電流(IsD)が流れる。この反転層はゲート電 圧+Vを取り除いた後でも残留分極により保持される。一方、ゲート電極に負 の電圧卜Ⅴ)を印可すると強誘電体が逆方向に分極反転しチャネルに正の電 荷が発生するため反転層は形成されない。このときソース・ドレイン間の抵抗 は高くなりソース・ドレイン間に電流は流れなくなる。この状態はゲート電圧 を取り除いた後も保持される。すなわち、ゲート電極に電圧を印可していない 場合でも強誘電体の残留分極による電荷によりソース・ドレイン間の抵抗が低 く電流(IsD)が十分流れるときを“ON State”、ソース・ドレイン間の 抵抗が高く電流(IsD)が流れないときを“OFF State”とするとメモリ ー素子としての応用が可能となる。このタイプのメモリー素子としての主な特 徴を列挙する。 i)1TIC型のような分極反転による電荷量を検出するタイプとは異なり 反転層形成のための電荷密度を必要とするため、FETが小さくなるとそれに 合わせて強誘電体の面積も小さくすることが出来る。すなわち、Siスケーリ ング則に準拠する。そのため・DRAMや1TIC型のように微細化に関わら ずキャパシタ容量(蓄積電荷量)を一定以上に保つという必要が無い。この特 徴は将来のLSIの高集積化に対して非常に有利となる。 14 ii)反転層を形成するのに十分な電荷密度を発生できれば良いので残留分極 は1〝C/cm2以下でも十分で、大きな残留分極は必要としない。そのため、 強誘電体材料の選択幅が広くなる。 iii)読み出しはソース・ドレイン間の抵抗変化を検知するため強誘電体を分 極反転させる必要が無い。すなわち非破壊読み出しが可能である上、S RAM と同等の超高速動作が期待できる。 このようにF ET型強誘電体メモリは1TI C型に対しても大きなメリット を持つにも関わらず、1970年代に提唱されてから現在まで本格的な実用研 究に至らなかった。その理由としてはプロセス上の大きな問題点があるためで、 強誘電体と半導体との整合性に起因するものである。強誘電体の多くは酸化物 結晶体であり、その結晶化には高温での熱処理が必要となる物質が多い。酸化 物強誘電体をSi上に直接成膜しようとすると高温のため強誘電体/Si界面 にSi02等の不要な膜が生成されてしまう。このような膜が生成されると動 作電圧が増大するだけでなく、トラップ準位の発生によりその膜中に電子やイ オン等の電荷がトラップされ、残留分極による電荷を打ち消してしまう。また、 成膜温度が高いと強誘電体の成分元素がSi中に拡散LF ET特性を変えてし まう恐れがある。従って、実用化にはこれらの問題点を解決する事が必要不可 欠であり、次のような提案がなされている。 Ⅰ)Si02生成や相互拡散を防ぐため強誘電体の形成温度を低くする。 Ⅱ)Si02の生成を防ぐために非酸化物強誘電体を用いる。 Ⅲ)強誘電体とSiの間にバッファ層を設ける。 等である。 Ⅰ)の成膜低温化はSiOZ生成や相互拡散を防ぐのには有効な手段である。 Ⅱ)の非酸化物強誘電体についても研究は続いているが、Siとの格子定数の ミスマッチ等の整合性を改善し特性の良いF ETを形成するにはまだ時間がか かりそうである。しかし、耐熱性に優れていてSiときれいな接合界面が得ら れる材料や成膜法が開発されると有望な方法だと思われる。 Ⅲ)のバッファに要求されれば特性としては次のようなことが考えられる。 (9絶縁性が優れている。 ②拡散バリア性が高い。 15 ③成膜時にSiとの界面にSi02等の不要な膜が発生しない。 ・ ④高温耐性に優れている。 (9比誘電率が高い。 ⑥薄膜化が可能。 絶縁性が優れていることは最低限の必要条件であり、バッファ層を形成する目 的を考えると拡散バリア性が高く、Siとの界面にSi02等の膜が生成され ないようにする必要がある。高温耐性はバッファ層自体の耐性はもちろん、バ ッファ層形成後の熱処理においてもSi及び強誘電体との接合面が良好に保た れている必要がある。また、バッファ層を設けることにより強誘電体とバッフ ァ層が直列の積層キャパシタとなるためバッファ層のキャパシタンスが小さい と強誘電体にかかる電界が小さくなってしまう。そのため、バッファ層はでき るだけ薄く比誘電率が大きいものが好ましい。 したがって、P L ZT薄膜の低温合成法を確立する事はF RAMの実用化に 向けて意義のある事と考えられる。 1−5.強誘電体薄膜の作製法5) 強誘電体の製膜法は、表1.1に示すように真空中の物理現象を利用した物理 的製膜法と化学反応を利用した化学的製膜法に大別できる。 表1.1強誘電体薄膜の作製法 化 学 的製 膜 法 C S D 法 C V D 法 M O C V D 法 物 理 的製膜 法 電 子 ビー ム 蒸 着 法 R F スパ ッタ リ ング法 イ オ ン ビー ム ス パ ッ タ リ ン グ 法 イ オ ン プ レー テ ィ ン グ 法 本節では強誘電体薄膜の作製法のいくつかを紹介し、P bTi03やP L Z T薄膜の作製にどの方法が適しているかを検討する。 (1) 電子ビーム蒸着法14) ターゲットにP ZTセラミックスまたは焼結した粉末タブレットを用い、高 温基板上に電子ビーム加熱によって蒸着する。この膜にP bO雰囲気中500∼ 800℃の熱処理を加えて強誘電体薄膜を得る。しかしこの方法ではターゲット 16 が高温で溶融しているため、分解したり、薄膜の成分がズレたりする悪影響が 入りやすい。 (2)RFスパッタリング法15) 強誘電体は絶縁性を有するため普通RFスパッタリングが用いられる。ター ゲットとしてセラミッ・クスまたは粉末を用い、アルゴンと酸素雰囲気中でスパ ツタを行う。加速されたイオンがごく表面の分子や原子を叩き出すためターゲ ットの分解が少なく、比較的良好な膜が得やすい。S rTiO。,MgOやサ ファイヤ基板を用いることによりエピタキシャル成長も可能である。 (3)イオンビームスパッタリング法16) イオンガンによりA rなどのイオンまたは中性原子を加速して比較的高い真 空(10 ̄4∼10 ̄5To r r)中のターゲーットに照射し、スバッタを行う。 イオンビーム、ターゲット、基板間の相対角度及び距離を自由に変えられる。 P ZT薄膜で比較的良好な誘電特性が得られている。 (4)イオンプレーティング法17) 電子ビーム加熱により蒸発した粒子が蒸発源と基板間にある高周波コイルに よりイオン化され、さらに直流電圧で加速されて基板上で薄膜成長する。特徴 は基板表面がスパッタリングで清浄になること、高エネルギーで加速されたイ オンが基板に到達するため撤密な膜が作れること、さらに複雑な形状の基板で も粒子の回り込みで均一な膜ができることなどである。PLZT薄膜が作製さ れている。 (5)化学気相成長法18) 構成金属元素を含む有機物や塩化物は蒸気圧が高いため、これを気体にして 輸送し、炉内で反応させて薄膜を堆積させる。成長速度も速く、平坦な膜が得 られるが、H、Cl等他の元素が膜中に混入する可能性が大きく、誘電的性質 はまだよくない。 (6)ゾルゲル(C S D)法 C SD法による強誘電体の薄膜形成は最近一つの大きな流れになりつつある。 これは有機金属化合物等を原料として前駆体溶液を調製し、ディッビングやス ピンコーティングにより基板上にゲル膜を作製し、これを加熱して強誘電体膜 を得る方法である。C SD法については次のセクションにて詳述する。 17 これらの他にもクラスターイオンビーム法、液相成長法などがある。表1・2 にこれまで試みられてきた強誘電体PbTiO3、PLZT,PLT薄膜の作 製法、作製条件、特性の代表的な例を示す。 18 表1.2 強誘電体薄膜作製の例 材料 方法 ソー ス 基板 基板温度 ( ℃) 誘電、光学特性 RS P bllO 3 Pt 350∼550 と∼200 P r∼ 27 〃 C / c P b O , ¶0 PW P t、サ フ ァイ ヤ、 450 ∼660 石英 In O 3−石英 P bl10 3 〝 M S P bm 0 3 セ ラミ ックス 〝 C VD 〝 P bC 12 、 n C 14, PbO m ( C 4H 90 ) 4 P b( O A c) 2 TD P L ZT RS / / 〝 / / IP PU r RS M S P t− ( 100)M gO ( 10 0)M gO 57 5 500 ∼60 0 石英 、ガ ラス IT O 550 P I. ZT ( 7/ 65/ 35) PW P t, 石英 360 / / P L ZT ( 9/ 65/ 35) PW S IT iO 3 P t, 石英 P I. ZT ( 9/ 6 5/ 35) ( 8/ 65侶5) ( 0/ 65/ 35) S ′riO 3 サ ファイヤ G aP G aA s、Si 石英 P bO 、Z r n , h P LZT ( 14/ 0/ 100) ( 18/ 0/ 100) P LZT 14/ 0/ 100) ( 20/ 0/ 100) ( 28/ 0/ 100) ( 35/ 0/ 100) ( 40/ 0/ 100)( PC m 2 £∼46 ∼2 00 P r∼ 2 7 〝C / c PC m 2 入山∼0 . 32 〝 ∈∼ 100 R. T ∼6 50 P t, 石英 P t− Si そ の他 と∼100∼ 120 と∼200 P r ∼ 37 ′ 上C / c m 2 E m ax∼2 300 P r∼9 . 8/ 上C / c C 軸 配向 P C EP ( 110) ( 100 ) 軸配 向 PC PC 熱処理 PC m 2 人助∼0 . 3〝 40 0∼700 50 0∼650 入助∼0 . 345 / 上 ∈∼350 ∼500 Pr∼ 4 / 上C / c m 2 人助∼0 . 35 〃 EP 反射型 E − 0 効果 EP 550 ∼700 EP 350 D − E ヒス テ リシ S ′n O 3 M gO 4 00∼700 ス 入山∼0 . 34 5 〝 伝搬損失 11 ∼2. 4 ×2 . 7 ∼6dB / cIll E P サ フ ァイヤ C 面 50 0∼650 PC 0 D− E ヒス テ リ シ 透 過 型 E − 効果 EP ス 複屈折 ∼ 1. 2 ×10・ 3 (注)RS:高周波スパッタリング、MS:マグネトロンスパッタリング、IP:イオンプレーティング、 CVD:化学気相成長法、TD:熱分解法、PC:多結晶、EP:エピタキシャル膜、PW:粉末、E:比誘電率、 Pr:残留分極、Ps:自発分極、n:屈折率、入d,:基礎吸収端波長 19 1−6.C S D法の概要 . C S D法とは、化学溶液から微粒子、薄膜等を析出させる方法全般を指す。 この中で金属アルコキシドの加水分解一重縮合反応の制御によりセラミックス 前駆体を調製し、均質なあるいは制御された構造を持つ純粋な材料の低温での 作製を目指す方法をアルコキシド法という。本研究では、アルコキシド法を中 心にして薄膜を作製した。 アルコキシド法の原型は、溶液から出発し、ゲル化にあたって希望の形状に 成形し、加熱によってゲルをガラスに変えるものである。このような典型的な アルコキシド法によりSi02を作製する例を図1.16にブロック図で示す。1 9) 図1.16 金属アルコキシドを原料とするSi02ガラスのバルク、繊維およ びコーティング膜の調製 金属アルコキシドは、M(OR)。の一般式で表される。ここでMは金属元素、R はアルキル基、n は金属元素の酸化数である。金属アルコキシドは反応性に富 み、溶液中で酸素一金属一酸素の結合からなる金属酸化物重合体、すなわち金属 20 酸化物ゲルの前駆体をつくる。また、一般にアルコールに可溶であるので、複 数の金属元素を一定の割合で含む複合アルコキシドや化学重合法により、複数 の金属元素を任意の割合で含む重合体を作ることもできる。その際、Rの種類 によって加水分解特性,重縮合特性が異なるので、溶液組成全体について考慮 し、目的に応じてRの種類を選択することが必要である。 金属アルコキシド反応で最も重要なものは、加水分解反応であり次式で表さ れる。 M(OR)。†‡H20→M(OH)。(OR)。_X†‡ROH , M:金属 R:アルキル基 ‡=nとすれば、Mと結合しているすべてのOR基が加水分解されたこと隼なるが・ 条件によって‡の値は変化すると考えられる。この加水分解反応が起こった後 で重縮合反応が起こるが、これには次のような脱水反応と脱アルコール反応の 両方が考えられる。 ・ 脱水反応 −M−OH†H−0−M→−M−0−M†H20 ・ 脱アルコール反応 −M−OH†R−0−M → −M−0−M†ROH こような重合物を中間生成物として、最終的には金属酸化物あるいは水酸化物 となり、熱処理により酸化物が得られる。 XM(OH)n→XMO。/2†(n‡/2)fI20 この加水分解一重合過程を精密に制御することで、組成の均質なセラミック ス前駆体を低温で得ることができる。 アルコキシド法の特徴は以下のようであり、さまざまな分野に応用されてい る。 (i)緻密に焼結した多結晶セラミックスが低温で合成できる。 (ii) 高度の均質性を容易に達成できる。 (iii)通常の方法によって作製できない新しい組成のセラミックスの調製が可 能である。 (Ⅳ)微細で均一な粒子からなる多結晶セラミックスが合成できる。 21 1−7.本研究の目的 . これまで述べてきたように強誘電体材料はその特徴から多くの応用が提案さ れてきた。例としてはメモリ素子、大きな誘電率を活用したコンデンサ、圧電 効果による圧電ピックアップや超音波マイクロフォン、焦電効果を用いた赤外 線センサ、電気光学効果を利用した光偏向素子等がある。 これらは広い分野にわたる潜在需要を持ち、数多くの電子デバイス作製の試 みがなされている。このうちのいくつかは実用化されているが、その開発や応 用の状況には性能並びにコストの面で不充分な点が多い。 すなわち、 1) 動作電圧が高い。 2) 大面積化しにくい。 3) 周辺回路素子との結合や集積化が難しい。 4) 小型化、高機能化しにくい。 これらの原因としては、材料が単結晶やセラミックス等のバルクから作られ ているために生ずる事が多い。今後、強誘電体の薄膜化が試みられ、強誘電体 薄膜を用いた種々の分野での応用の提案やデバイスの試作が行われつつある。 また、従来の薄膜形成方法では650℃以上の焼成を行わなければ良好な電気特 性を得ることができていない。しかし、現在考えられている応用製品の殆どは 半導体との組み合わせもしくは半導体プロセスを活用するものが多く、可能で あれば500℃以下での焼成で良好な電気特性を得ることは非常に有意義である と考えられる。 そこで、C S D法を用いて良好な電気特性を持つP L Z T薄膜を 500℃以下 の低温にて作製する為に、本研究では以下のことを試みた。 ①pL ZT薄膜を作製するにあたり、シード層としてP bTiO3あるいは P L T薄膜を用いる。ここで、シード層の果たす効果やシード層として用 いたP bTi O3およびP LT薄膜の特性を評価する。 (訂鉛を化学量論組成より過剰に添加した前駆体溶液を用いてP L Z T薄膜を 作製し、その際の結晶化挙動および薄膜の特性を評価する。そして、低温 形成において過剰な鉛が薄膜形成に果たす役割を明らかにする。 ③普及型光学デバイスの作製に不可欠な安価なガラス基板を使用し、将来の 22 実用化研究の基盤研究とする。 1−8.C SD法P L Z T薄膜に関する従来の研究 P L ZT薄膜の研究としては、製法としてスパッタリングやCVD等がある。 本節ではC S D(ゾルゲル)法に焦点を当てて説明を行う。また、まとめ方と して便宜上次の4分類にて説明する。①低温形成②シード層③配向性のメカニ ズム④鉛の過剰添加効果。 1−8−1.C S D法P L Z T薄膜(関連)の低温形成に関する従来の研究 C hiら20)はゾルゲル法によるP Z T(53/47)薄膜作製において、 膜厚45nmのP Tシード層を用い、500℃で一時間のアニールにより配向性 の無い単相ベロブスカイト薄膜の作製に成功している。強誘電性は示されてい ない。前駆体には10m01%鉛を過剰に添加している。溶媒はn−プロパノ ールである。また、P Z T(53/47)の核生成エネルギーは441kJ/mole であり、ベロブスカイト化の活性化エネルギーは112kJ/mole と報告してい る。21) C h e nら22)はゾルゲル法によるPT薄膜作製において、MgO基板上に て470℃、8時間のアニールにて(100)方向に配向した単相ベロブスカ イトの薄膜の作製に成功している。強誘電性は示されていない。前駆体には鉛 を過剰に添加していない。溶媒は2−メトキシエタノールである。 鈴木ら23)はゾルゲル法によるPZT薄膜作製において、シード法を用いて ガラス基板上にて450℃、2時間のアニールにて無配向の単相ベロブスカイ ト薄膜の作製に成功している。強誘電性は示されていない。前駆体には鉛を過 剰に添加していない。溶媒はエタノールである。 谷ら24)はゾルゲル法によるP L Z T(7.5/70/300r8/65/ 35)薄膜作製において、P t/Ti/Si02ガラス/Si基板上にP bO をP L ZT上または電極上に成膜して、500から700℃にてアニールを行 った。前駆体には鉛を5m01%過剰に添加している。溶媒はメトキシエタノ ールである。その結果、P bOをP L Z T上にカバーコートした場合、誘電特 性や強誘電特性の改善に効果があり、電極上のP b Oコートは効果が見られな 23 かった。これは、鉛が表面層に望ましくない層を形成するからだと考えられて いる。 C a ri mら25)よるとにZ rが多いとパイロクロアが生成し易い。P bが 少ないとパイロクロアになり易い。 H a e r tli n gら26)によれば、Z rリッチな領域のP L ZTは単相ベ ロブスカイトが得られ難い。なぜならば、L a2Z r207が安定なパイロクロ アであるからとの報告であった。 L a k ema nら27)によるとゾルゲル法でのベロブスカイト生成は溶液組 成によって変わると報告している。溶液は最終工程にて真空蒸留をしないとロ ゼッタストーン構造を示すが、反応を制御し副生成物を取り除いた溶液は細か い粒の構造を示す。 C h a pi nら28)はゾルゲル法によるP Z T薄膜作製において、P t/T i/SiO2/Si基板上にZ r成分を75%から25%まで変化させて、5 00℃から700℃にて30分アニ⊥ルを行った。前駆体には鉛を10m0 1%過剰に添加している。結果を表1.3に示す。 表1.3 P Z Tの組成と結晶化挙動および格子定数 組 成 P Z xT , ( Ⅹ/ y) 70 0 ℃ , 3 0 m in 65 0℃ , 3 0 m in ( 7 5/ 2 5) ( 50/ 5 0) Py 主 体 , a =1 0 . 25 Å, P e マイト P e 主体 擬似 立方 , a =4 . 112 方, a =4 . 0 59 Å Å P y マイナー Pe 主体 擬似 立 方, a =10 . 25 Å, P y 2 相 a =10 . 51 P e 主体 擬 似 立 方, a =4 . 05 3 Å C=4 . 13 7 Å Å &a =1 0 . 56 ん P y マイナー Py 未検 出 Pe 主体 擬 似 Pe 主体 60 0 ℃ , 3 0 m in 擬 似 方, a =4 . 055A P y マイト ( 2 5/ 7 5) 立 立 Pe 主体 テトラ, a =3 . 96 9 Å , テトラ, a =3 . 989 Å , C=4 . 1 19 Å Py 未検出 表に示されたように、Tiリッチの方が低温にてベロブスカイト相を形成し 易い。また、ロゼッタ状の構造はZ rリッチの方が形成し易い。それは、核生 成サイトがZ rリッチの方が少ないせいかもしれない。 24 1−8−2・シード層を用いたC SD法P L ZT薄膜に関する従来の研究 Swa r t sら29)はゾルゲル法によるP L ZT(9/65/35)薄膜作 製において、各種基板上にPTを中間層として導入し、700℃にて30分ア ニールを行った。前駆体には鉛を過剰に添加していない。溶媒はメトキシエタ ノール系の溶液である 基板の種類としては次の3種類を用いた。①(110)A1203②ptlOOnm/TilOOnm/ (110)A1203 ③ptlOOnm/TilOOnm/Si 結果的に次のような配向性を示した。①(001)方向に配向 ②(111)方向 に配向 ③(100)(110)にピーク 無配向 その際の格子定数を表1.4に示す。 表1.4 各種基板上のPTおよびPT−PL ZT薄膜の格子定数 基板 P b T iO 3 P b T iO 3/ P L ZT ① (1 10 ) A 120 3 a o 4 . 0 9 C o 3 . 9 1 a o 4 . 0 8 C o 3 . 9 3 ② p t lO O n m / T il O O n m /(1 1 0 ) 4 . 1 3 3 . 9 2 4 . 1 2 3 . 9 3 ③ p tl O O n m / T il O O n m / Si 4 . 0 9 3 . 9 3 4 . 0 4 3 . 9 3 L e eら30・31)はゾルゲル法によるP L ZT(9.5/65/35)薄膜 作製において、各種基板上にPUrをシード層として導入し、600℃にて3 0分アニールを行った。前駆体には鉛を5m01%過剰に添加している。溶媒 は2−メトキシエタノール系の溶液であった。 I TO付きガラス基板上のPL ZTにおいてはP LTシード屑を用いた方が 結晶性は優れており、透過率、残留分極も大きい。(15.5/40/60) 組成のベロブスカイト化温度は510℃で、(18/30/70)組成のベロ ブスカイト化温度は475℃である。シード層を用いた(9.5/65/35) 組成を650℃アニールした場合、残留分極は18.9〃C/c m2であった。 ガラス基板上ではシード層を用いないとベロブスカイトにならない。結晶化し ていないシード層では配向性は見られない。結晶化したシード層で(100) 方向に配向する。また、シード層は薄いほうが(100)方向に配向する。 組成についてはTi‘リッチな(18/30/70)組成の方がベロブスカイ ト化し易い。 これらの事よりシード層を用いた場合、強誘電性のあるP L Z T薄膜を得る 25 には650℃のアニールが今までの研究では最低の温度であった。 1−8−3.P L ZT薄膜関連の配向性制御のメカニズムに関する従来の研究 強誘電体は分極軸方向に配向すると強誘電性が向上する事が知られており、 配向性制御に関してもいくつかの研究がある。 C.J.Kimら32)はゾルゲル法によるP ZT(53/47)薄膜作製に おいて、P t/Ti/ガラス基板上に膜厚と前熱処理温度330℃で保持時間を 5,30,60分と変えて 650℃にて1分アニール(いわゆるRTA(Rapid ThermalAnnealing))を行った。前駆体には5m01%鉛を過剰に添加して いる。溶媒は2−メトキシエタノールである。膜厚は薄い方が(100)方向 に配向している。保持時間は長い方が(100)方向に配向している。 谷ら33)はゾルゲル法によるPL ZT(7.5−8/70/30)薄膜作製 において、種々の基板上にTiのコートと電極の厚さを変えて650℃にて30 分のアニール(いわゆるRTA)を行った。前駆体には鉛を過剰に添加してい ない。溶媒はメトキシエタノールである。その結果、PLZTにて鉛不足の状 態は(100)方向に配向する。Ti上のP t電極は(111)方向に配向す る。AE SにてTiが650℃30分のアニールにて表面に析出するのを確認。 これは、Cu3AuやNi3TiタイプのP t3Ti となってP L ZTの(111)と格子マッチングするためと考えられた。また、 P L ZTの表面エネルギーはブロークンーボンドモデルにてP bO,Ti02, Z r02のデータから(100)面が最小である。配向性は表面の最小エネル ギーの方向に向くと考えられている。34) S a n−Yu a nら35・36)はゾルゲル法によるP Z T(52/48)薄膜 作製において、P t/Ti/Si02/Si基板上にP bOをバッファ一層(厚 さ0.05〝m)として導入し、300から700℃にてアニールを行った。 前駆体には鉛を過剰に添加していない。その結果、(100)方向に配向した 構造をP ZTはP t上37)でもA1203(サファイア)上38・39)でもフュー ズドシリカ上40)でもとることができた。そして、P t5_7P b(111)が 形成されるとP ZTは(111)方向に配向し、P bOが形成されると(10 0)方向に配向されるとのモデルを提案している。この事から、鉛を前駆体中 26 に過剰に添加する事によって配向性が制御される可能性がある事を示している。 櫛田ら41)はゾルゲル法により、アニール温度450℃−700℃でPT薄 膜作製を行った。前駆体には鉛を過剰に添加していない。溶媒は2−メトキシ エタノールである。前駆体溶液の熟成時間と配向性の影響について調べている。 これは、老化による粘度の変化を調べ、老化により分子量が大きくなると粘度 も大きくなり、熟成時間と共に分子量が大きくなり配向性が強くなる。 1−8−4.P L ZT関連薄膜の鉛過剰添加効果に関する従来の研究 Y e u r−L u e nら42)はゾルゲル法によるP ZT(53/47)薄膜作 製において、ジオール系の溶媒を用いて700℃、15分間のアニールにて配 向性の無い強誘電性P ZT薄膜の作製に成功している。前駆体には10と20 m01%鉛を過剰に添加している。10m01%鉛を過剰に添加した際のP, は19LLC/cm2で、E。は40kV/cmであった。20m01%鉛を過 剰に添加した際のP,は21LLC/cm2で、E。は40kV/cmであった。 10m01%の鉛は蒸発による鉛不足の補充には不充分であると考えている。 福田ら143)はRFスパッタリング法によるP ZT(50/50)薄膜作製に おいて、各種の基板上にP bOを同時にスバッタしながら、300から700℃ でアニールした。I r基板上にてP bOを50Wにてスバッタした場合、52 0℃で単相ベロブスカイトのP Z T薄膜が得られた。P bOを100Wにてス バッタした場合、ベロブスカイトのP ZTのピークは見られなかった。すなわ ち、P bOは多すぎても良い効果を与えない。この事から、過剰なP bOにつ いてはベロブスカイトを得るためには最適な値があると考えている。P t基板 にてP bOを50Wにてスバッタした場合、580℃にて単相ベロブスカイト のP ZTが得られた。S r R u03基板にて最適と考えられた50WにてP b Oをスバッタした場合、480℃にて単相ベロブスカイトのP Z Tが得られた。 1−9.シード層を用いたP L Z T薄膜の作製法の提案 これまで述べてきたように、P L Z T薄膜の低温形成の為にシード層や鉛過 剰添加についての研究報告が行われている。しかし、半導体プロセスに適用可 能なレベルまでの低温化は図られていない。そこで、本研究ではシード屑を用 27 いる事と鉛過剰添加を同時に行う事で低温化を図れると考えた。そ.こで、本節 ではシード法の概念、使用する基板、鉛過剰添加について述べる。 C S D法によるベロブスカイト型強誘電体薄膜作製において、準安定パイロ クロアの形成は、薄膜の特性を著しく劣化させる最大の原因となる。しかしな がら、ベロブスカイト型複酸化物のP L Z T薄膜では、多くの場合その結晶化 過程でパイロクロア相を形成する。なぜならば、パイロクロア相への活性化エ ネルギーの方がベロブスカイト相への活性化エネルギーよりも小さいためであ る。したがって、ベロブスカイト相生成に必要な活性化エネルギーをパイロク ロア相への活性化エネルギーよりも減少させることにより、ベロブスカイト相 を形成することができる。シード法と従来の方法の比較を図1.17 に示す。ま た、活性化エネルギーの概念図を図1.18に示す。 ConventionalMethod SeedingMethod ・、∴・・ 図1.17 シード法と従来の方法の比較 図1.18に示すように、シード層を用いると△Ep。の高さを変化させること ができる。当然、シード層によってその大きさは変化する。△Ep。を変える には、低温で主相と近い格子定数を持った相が結晶化することが不可欠であり、 低温でベロブスカイト化するシード層を用いる必要がある。すなわち、有効な シード層を選択しベロブスカイト核生成サイトを導入することによって、ベロ ブスカイトP L ZTの生成がエネルギー的に有利となり、低誘電率パイロクロ ア相の形成を抑制できると考えられる。さらに、用いるシード層によってP L Z T薄膜の低温合成や様々な系の固溶体も合成可能であると思われる。 28 自由エネルギー 図1・18 シード層を用いた場合の活性化エネルギーの変化 そこで、本研究ではPLZTよりも低温で結晶化し、かつベロブスカイト構 造であるPbTi03と(PbxLal_X)Ti03をシード層として選択した。 従来の方法では、PLZTは600℃以上の焼成を行わなければ良好な電気特 性を得ることができていない。しかし、現在考えられている応用製品の殆どは 半導体との組み合わせもしくは半導体プロセスを活用するものが多く、500℃ 以下での焼成で良好な電気特性が得られることは非常に有意義である。また、 工学的な観点からは市場に受け入れられる製品として低価格にて製造を行う事 は大変重要であり、低温プロセスを達成することによってプロセス中の光熱費 を低くする事が可能になる。シード層を基板とPLZT層の間に挿入すること によって核生成サイトを導入し、低温でのベロブスカイト化を図る最適なプロ セスを検討した。シード層としてはベロブスカイト構造でPLZTと格子定数 の近いP TとP LTを採用しその影響を検討した。 また、製品の材料使用率から考えると強誘電体の薄膜部や電極部よりも基板 の占める割合は非常に高く、特性に与える影響も大きい。そこで、光学デバイ スの基板および電極として多く使用されているソーダライムガラスに透明電極 としてインジウム酸化錫(Indiuln Tin Oxide;ITO)を付与したものを川 29 いるこ七にした。そしてその基板の低温形成への影響についても検討を行う。 用いた基板の構造を図1・19に示す。 汀0電極(2150Å) く真空蒸着〉 Rs=9.0∼9.5Q/ロ SiO2(1000Å) イツピンの 図1.19 I TO付ソーダライムガラス基板 目的は良好な電気特性を得ることであり・強誘電体の場合は配向性、結晶性、 膜質、微構造等の因子が影響を与えることが知られている。そこで・これらの 因子を制御する方法としてシード層を制御する事によって主相となるPLZT 配向性を制御することを考えた。制御する方法として結晶化の有無、厚さ等に っいてその影響を検討する。 また、本研究で用いた方法はシード層あるいは主相の組成、積層数を変える 事また鉛添加過剰によって種々の特性を持ったPLZT薄膜を形成できる。図 1.20に示すように、Aサイトの組成を変えない為にはPLTシード層を用い、 A,B両サイトの組成を同時に変える為にはPTシードを用い、前駆体中に鉛 過剰添加することでランタン濃度が制御できる。すなわち、本研究によって目 的に合う特性をもつPLZT薄膜をシード層・組成、積層数、鉛過剰添加を組 み合わせることで自由に設計し、形成できる。 30 40 60 l}bT仙血01%) 100 PbTiO3 図1.20 シード法による組成設計方法の考え方の概念図 また、鉛含有の強誘電体を作製する場合に焼成中に鉛成分が揮発し、それが 原因でベロブスカイト相が形成されない場合がある。そのために焼成を鉛雰囲 気下で行う等の工夫が行われている。今回は前駆体溶液中に鉛成分を過剰に添 加することによって配向性、結晶性、膜質、微構造等の因子の影響を検討し、 結果的に良好な電気特性を得ることを考えた。 以上の提案の内容をまとめると、下記のようになる。 ①pLZT薄膜を低温形成する為、PTもしくはPLT薄膜をシード層として 基板の電極とPLZT薄膜の間に挿入する。また、前駆体溶液中に鉛成分を過 剰に添加する。 ②光学デバイスへの応用検討の為、ITO付のソーダライムガラス基板を用い る。 ③良好な電気特性のPL ZT薄膜を得る為、シード層を制御することによって、 P L Z T薄膜の配向性制御する。 31 1−10.本論文の構成 ・ 上記の提案に沿って、研究を進めた結果を本論文にまとめた。その内容を図 1.21にまとめた。 図.1.21本論文の構成 図で示すように、第1章では、PLZTについてその特徴を述べ、本研究 の背景、目的及び意義について述べる。そして、電気光学効果や強誘電性を利 用したメモリーへの応用例を示し、各種の薄膜の製法を概略する。そして、本 研究で選択したCSD法の特徴を述べる。最後に、本研究のテーマである強誘 電体PLZT薄膜について従来の方法を示した後に、その課題を明らかにし、 課題克服のための提案とその考え方を述べる。 32 PLZTは4元系の化合物であり、選択した組成により特性が大きく変化す る。そこで、第2章では組成による焼成温度への影響を検討する。本研究にて 選択した組成の理由と選択した組成を持つ前駆体膜の結晶化挙動および得られ た薄膜の特性について示す。 第3章では、シード層に要求される特性とその選択方法を示し、本研究にて 選択したシード層であるチタン酸鉛(以下、PT)とチタン酸鉛ランタン(以 下、P LT)薄膜の結晶化挙動とその特性について検討を行った。強誘電体は 分極軸方向に配向した場合に電気特性が向上するので、シード層の配向僅制御 によりP L Z T薄膜の配向制御への可能性を検討した。 第4章では、PLzTの低温形成において鉛を前駆体に過剰に添加する事の 結晶化温度に与える影響について検討を行った。そのために、鉛の過剰添加量 が結晶化温度に与える影響を熱分析にて評価し、更に電気特性、光学特性につ いても評価を行った。 第5章では、積層構造が低温形成に与える影響を検討した。P L Tシード層 を用いて、電極と主相であるP L Z Tの間にシード層を挿入するシングルシー ド法とシード層と主相の積層を繰り返すマルチシード法の比較検討を行った。 また、核形成の活性化エネルギーの違いを評価する為に、P LTシード層のベ ロブスカイト化の有無によるP L Z T薄膜の結晶化挙動を評価した。 第6章では、第3,4,5章の結果を踏まえてシングルシード法で鉛を過剰 に添加した前駆体を用いてP L Z T(10/65/35)薄膜の低温形成を試 みた。シード層としてはベロブスカイト化したP L TとP Tの両方を用いた。 第7章では、本研究で得られた成果をとりまとめ、強誘電体メモリーや電気 光学効果を利用した光学デバイスの実用化や透明かつ焦電性がある事を活かし た新規なデバイス開発に向けての今後の課題について述べる。 参考文献 1) 消えないI CメモリーーF RAMのすべて、川合 知二 編著、工業調 査会199 6 2) H.Schroder:PhysicsofThinFilms,5(1969)87−141 3) 強誘電体とその応用、熊谷三朗、藤本三治著、朝倉書店、1961 33 4) セラミストのための電気物性入門、内野 研二 編著訳、内.田老鶴間、 19 9 0 5) 注目の誘電体セラミックス材料、ティー・アイ・シイ一、1995 6). 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H・G・Schneider,“Growth of Monocrystalline Layers”,in Advancesin Epitaxy and Endotaxy,edited by H・G・Schneider,V.Ruth and T. Kormany,EIsevier(1990) 35)san−YuanandI−WeiChen,JAm.Ceram.Soc.,77,【9】2332−36(1994) 36)san−YuanandトWeiChen,JAm.Ceram.Soc.,77,【9】2337−44(1994) 37)K・Okuwada,M・ImaiandK.Kakuno,Jpn.J.Appl.Phys.,29,L1271−73(1989) 38)D・Xiao,J・Zhu,J・Zhu,Z・Xiao,Z・QianandH・Zhang,Ferroelectrics,141,327− 33(1993) 39)J・XuandR・W・Vest,Ferroelectric,93,21−29(1989) 40)A・Y・Wu,D・M・HwangandL.M.Wang“HighlyOriented(Pb,La)(Zr,Ti)0,Thin Film on Amorphous SubstrateH;Pp・301−304in Proceedings of the 8thlEEE 35 InlernatinalSymposiumonApplicationsofFerroelectrics(Greenville;SC)・Edited byM.Liu,A.Safari,A.KingonandG.Heartling.IEEE,NewYork,1992 41)KeikoKushida,J.Am.Ceram.Soc.,76[5]1345−48(1993) 42)Yeur−Luen Tu,Marie L.Calzada,NicolasJ.PhHlips and StevenJ.Milne, J.Am.Ceram.Soc.,79[2]441−448(1996) 43)YukioFukudaandKatsuhiroAoki,Jpn.J.Appl.Phys.,36,5793−5798(1997) 36 第2章 PLZT単相膜の結晶化挙動とその特性 2−1.はじめに PLZTはPb(Z r,Ti)03系固溶体にL a203を添加した透明セ ラミックスの略称であり、結晶構造はベロブスカイト型(ABO3型)に属し ている。組成としては次式で取り扱われている。 lpb(トX)Lax日Z ryTi(1−y)](トX/4)03 PLZTは組成によって、メモリー、1次電気光学、2次電気光学の3つの 効果を利用することができることから、G・H.Hae r tlingやC.E. Land等によりPLZT強誘電体透明セラミックスが発表されて以来、透明 PLZTセラミックスは光ディスプレイや光情報記録及び光集積回路など光機 能素子への応用が期待され注目を集めている。 圧電性を示すためには結晶の其方性が必要であるが、光学其方性の強い焼結 体は、完全に無気孔の多結晶体としても、粒界での光散乱が大きくなり、透光 性、特に直線透過率が低下する。Pb(Z r,Ti)03の焼結体は、PZT と呼ばれ・きわめて優れた圧電性を示し、広範に実用化されているが、光学其 方性が大きいので透光性セラミックスとして使用できない。しかし、結晶中の P bの一部をL aで置換してゆくと結晶構造が等軸晶系に近くなってキュリー 温度が次第に下がり、8a tm%以上の置換ではキュリー点は不明瞭となって、 常温でも光学異方性は非常に小さくなりPLZT透光性セラミックスとなる。 また・PLZT強誘電体は4元系の酸化物であり、その組成によって電気光 学効果だけでなく反強誘電性を示す場合もある。また、ベロブスカイト化焼成 プロセスの温度についてもその組成によって変化する。1次電気光学効果は強 誘電相で強く認められ、2次電気光学効果は常誘電相と強誘電相の相境界領域 で顕著である。この相境界領域はいわゆるスリムループ領域と呼ばれ、誘電ヒ ステリシスループのヒステリシス幅が小さく、かつ分極の電界依存性が大きい ので、線形性のよい電気光学応答の得られる領域である。特に(9/65/3 5)組成は2次電気光学効果の大きなことが知られており、透過光の位相制御 37 基板として光シャッターに適当とされてきた。そのため、焼成工程・の低温化を 進めるためには組成によるベロブスカイト化温度の変化を明らかにする必要が ある。そこで、電気光学効果の期待できる事とMP B(モルフォトロピックフ ェーズバウングリー)である事を基準にしてL a濃度を10、15、20%と 変えて3点を選択し、そのベロブスカイト化温度と特性を測定した。その3点 は図2.1の相図内に位置を示す下記の表2.1の組成である。 表2.1本実験で検討したP L Z T組成 T P L Z T P b 。.8 L a 。.2 i リ ッチ 組 成 Z r o .2 T i o .8 0 3 P b o .8 5 L a 。.1 5 Z r o .5 3 T i o .4 7 0 3 中 間 組成 Z r リッチ 組 成 P b o .9 L a o .l Z r o .6 5 T i o .3 5 0 3 (L a / Z r / T (2 0 / 2 0 / 8 0 ) (1 5 / 5 3 / 4 7 ) (1 0 / 6 5 / 3 5 ) また、本研究ではP L ZTのシード層としてPTとP LTを使用している。 その為に、焼成によってシード層と主相のPL ZTが焼成により固溶し組成が 変化する。PTシード層を用いた場合には、焼成後にはシード層と主相である P L Z Tとが固溶してAサイト、Bサイトともに組成が変化する。また、P L Tシード層を用いた場合には、L a濃度を主相であるP L Z Tと同じにして、 焼成後シード層と主相であるP LZTとが固溶LBサイトの組成のみが変化す る。すなわち、PL ZT(20/20/80)のシード眉としてはP LT(2 0/0/100)を用いる事にし、Aサイトの組成は変わらず、Bサイトの組 成は変わらないようにした。 38 i) 2∩ 40 60 l,bTin拍101%) 100 PbTiO3 図2.1相図中の選択したP L Z T組成 2−2.実験方法 2−2−1 使用基板 本研究では、低融点であるが透明で安価な市販のソーダライムガラスに、電 極として透明I TO電極をコーティングしたものを基板として使用した。 また、シリコンウエハーにチタン,白金をスバッタした基板(P t/Ti/ Si O2/Si : 株式会社共同インターナショナル製)と、シリコンウエ ハー(株式会社共同インターナショナル製)を基板として使用し、結晶化過程 に与える基板の影響についても検討した。 2−2−2.使用試薬 本研究で使用した試薬を表2.2に示す。 39 表2.2 使用試薬 試薬名 酢酸鉛 (Ⅱ) 3 水 和 物 酢 酸 ラ ンタ ン 1 . 5 水 和 物 化学式 P b (O C O C H 3 ) 2 ・3 H 2 0 純度 製造 会 社 9 9 . 5 % ナ カ ライ テ ス ク (株 ) L a (O C O C H 3) 3 ・1 . 5 H 2 0 ナカ ライ テ ス ク (株 ) ジル コニ ウム − 1 チ テ n −プ ロポ キ シ ド 7 0 % − プ ロパ ノ ー ル 溶 液 タニ ウム トラ イ ソ プ ロ ポ キ シ ド Z r T 2 − メ トキ シ エ タ ノ ー ル (O C 3 日 7 ) 4 キ シ ダ 化 学 (株 ) i [O C H (C H 3 ) 2 ] 4 9 7 . 0 % 関 東 化 学 (株 ) C H 30 C H 2 C H 20 H 9 9 . 0 % 関 東 化 学 (株 ) 2−2−3.P L Z T前駆体溶液の調製方法 P L Z T前駆体溶液は、図2.2に示すフローダイヤグラムにしたがい調製し た。また、P L Tの前駆体はZ rを添加しない方法で調製した。 酢酸鉛3水和物と酢酸ランタン1.5水和物を2−メトキシエタノール中で 1時間混合撹拝した後、脱水のため130℃∼140℃で、加えた2−メトキ シエタノール溶媒量が半分になるまで蒸留した。その後、この溶液を100℃ 前後に冷却したものに、チタニウムテトライソプロポキシドと2−メトキシエ タノール溶媒、ジルコニウムーn−プロポキシドと2−メトキシエタノールを それぞれ30分間混合撹拝した溶液を加え、130℃で6時間還流し、P L Z T前駆体溶液とした。得られた溶液は黄色透明で、濃度は全金属陽イオン濃度 で0.6mol/1に調製した。 40 図2・2 PLZTおよびPLT前駆体溶液の調製フローダイヤグラム 2−2−4.成膜方法 本研究ではディップコーティング法を用いて製膜を行った。ディップコーテ ィング法の装置の概念図を図2.3に示す。 図2.3 ディップコーティング法の装置概念図 41 基板は前述したI TOコートガラス基板,P tコートシリコン基板,シリコン 基板を使用し、前駆体溶液からの基板の引き上げ速度は、毎回6c m/mi n とした。 本章の実験では、3種類のP L ZT前駆体溶液((20/20/80),(1 5/53/47),(10/65/35))を用いて、基板上に同じ組成の前駆 体溶液を合計6回積層させることで、組成の異なる3種類のP L ZT薄膜を形 成した。以下このような碩層構造の膜をP L Z T*6膜と示す(図2.4)。 図2.4 積層構造 積層方法のフローダイヤグラムを図2.5に示す。 42 PLZTorPLTprecu柑OrSOlution Withdrawalspex,d dpcoabng mtheITOcoatedglasssubsb・ate l.Omm血n 仕lickness Drylngat1150C about50rm Pre−amealiI唱fbr15minat35〔PC amealiI唱肋lk如45〔ト60(PC PLZT orPLT thin f i 1m 図2.5 積層方法のフローダイヤグラム 各基板上にPLZT前駆体溶液をディップコートし、115℃で数分間乾燥し、 有機物除去のため350℃で15分間前熱処理を行い積層した。この行程を、6 回繰り返した後に450℃∼600℃で1時間焼成を行いPLZT薄膜とした。 ただし、350℃と450℃∼600℃の加熱処理は、所定の温度に加熱し ている電気炉に直接基板を入れ、所定の時間保持した後に直接取り出した。 43 2−2−5.評価方法 . (9 結晶相の同定 PL ZT薄膜の結晶相の同定をXRDにより行った。装置の概要は以下 に示す。 (測定装置) 粉末Ⅹ線回折装置 形式 : RI NT22 00 製造会社 : 理学電気株式会社 (測定条件) TAR G E T : C u VOL a n d CUR :30k V , 20mA S CAN S P E ED : 2DEG/MI N S T E P/S AMP L : 0.01 ② 膜厚測定 P L ZT薄膜の膜厚は、膜断面のS EM写真によって決定した。装置 の概要は以下に示す。 走査型電子顕微鏡 形式 ・J S M−5600 製造会社 : 日本電子株式会社 ③ 電気特性の測定 電気特性を評価するために、上部電極として直径200′上mの金電極 を膜の上端にイオンコ一夕ーを用いてスバッタした。 誘電率の評価のためにLCRメーターを用いて静電客員(C)を測定 した。 また、強誘電体セラミックス評価装置を用いてP−E特性を測定した。 それぞれの装置の概要は以下に示す。 (a) 比誘電率 L C Rメーター 形式 H P4284A 製造会社 日本ヒューレットパッカード株式会社 44 1KH zで測定して得られた静電容員から、次式を用いて此誘電率を 算出した。 e.=4t C/7td2E o ここでと0は真空の誘電率、Cは静電容員、tは膜犀、dは電極の直径 である。 (b) P−E特性 強誘電体 薄膜/バルク セラミックス評価装置 形式 : RT6000 製造会社 : ヤーマン株式会社 ④組成分析 エネルギ丁分散型Ⅹ線解析装置 形式.. EMAX5770 製造会社 . 堀場製作所株式会社 ⑤表面解析 Ⅹ線光電子分光分析装置 形式 . E S CA−3400 製造会社 : 島津製作所株式会社 (む熱分析 熱重量/示差熱分析装置 形式 . TA S 300 製造会社 : 理学電機株式会社 45 2−3.結果と考察 一 2−3−1.前駆体溶液の調製について 前駆体溶液の調製にあたり、まず、エタノールを溶媒として調製を試みた。 エタノール系前駆体溶液の調製は、P Z T系薄膜形成の研究に関して鈴木らの 研究を参考にした。1・2)また、金属原子と結合する側鎖基が反応性に富んで いるために前駆体溶液中でダブルアルコキシドの形成が可能となり、薄膜形成 温度を低温化できるのではないかと推測されたためである。 しかし、L a成分の原料である酢酸ランタンがエタノールに不溶であったた め、これまでに報告のある2−メトキシエタノール溶媒を使用してP L Z T前 駆体溶液の調製を試みた3・4・5・6)。 2−メトキシエタノールを溶媒として、本研究の方法でP L Z T前駆休溶液 を調製した場合、黄色透明の溶液を得ることができた。また、得られた溶液は 非常に安定で、半年以上沈殿を生じることなく保存できた。 これは、2−メトキシエタノールを溶媒として用いることで、溶液中の金属 原子と結合している側鎖の官能基が減少し、反応性が低下したことで安定にな ったためと考えられる。 2−3−2.配向性に与える基板の影響 基板による影響度を検討するために(100)方向に配向したSiウエハー とI TO電極付きガラス基板上にP L Z T(20/20/80)を成膜し、6 00℃にて2時間アニールしたもののXRDの測定結果を図2.6に示す。 この結果からP L Z Tは基板を配向性の影響を強く受ける事が分かった。それ は、本研究で使用する膜厚が300nm程度と非常に薄いことの影響が強いと 推測される。また、本研究にて使用したI TO/ガラス基板上にては無配向に なっていた。そこで、配向性を制御できればより良い特性のP L ZT薄膜が得 られると考えた。 46 音S已りヨ 図2・6 (100)方向に配向したSiウエハーとITO電極付きガラス基板 上にPLZT(20/20/80)を成膜し、600℃にて2時間アニールし たP L Z T薄膜のXRDパターン 2−3−3.PLTシード層の組成と配向性 PLTシード層について組成とアニール温度による配向性への影響を調べる ためにITO電極付きガラス基板上にPLZT(10/65/35)(15 /53/47)(20/20/80)を成膜し、350℃にて15分前熱処 理し・450,500、600℃にて2時間アニールしたもののXRDの測定 結果を図2・7に示す。結果をまとめたものを表2.3に示す。 表2.3 PLT薄膜の組成と結晶化挙動のまとめ 焼成温度 ( ℃) 6 0 0 5 0 0 4 5 0 組成 1 5 /0 /1 0 0 P e P e A 2 0/0/1 0 0 P e P e A 1 0/0/1 0 0 P e P e A P e:ベロブスカイト Py:パイロクロア A:アモルファス 47 ● PLT PeroY6k ite 霊ITO electrode hごS白票□l 20 40 30 50 60 28 (degree) 図2.7 350℃にて15分前熱処理し、450・500・600℃にて2時 間アニールしたITO電極付きガラス基板上のPLT薄膜(10/0/10 0)(15/0/100)(20/0/100)のXRDパターン 48 2−3−4・PLZT薄膜の結晶化挙動に与える組成の影響 . ITOコートガラス基板上に3種類の組成((20/20/80),(15/ 53/47),(10/65/35))のPLZT*6薄膜を調製し、450℃ ∼600℃で1時間加熱処理した場合のⅩRDパターンを図2.8に示す。また、 このⅩRDパターンから結晶相を同定し、まとめたものを表2.4に示す。形成 した各薄膜の膜厚は約0.25〃mであった。 表2・4 PLZT薄膜の組成と結晶化挙動のまとめ 焼成温度 ( ℃) 6 0 0 5 0 0 4 5 0 2 0/2 0/8 0 P e A A 組成 1 5 / 5 3 /3 7 P e +P y A A 1 0 / 6 5 / 3 5 P y A A P e:ベロブスカイト Py:パイロクロア A:アモルファス 図2・8及び表2・4から、PLZT前駆体のみを積層した場合PLZT*6で は、各組成ともに450℃,500℃の加熱処理ではアモルファス相であった のが、600℃の加熱処理によって結晶化したことが示された。また、600℃ で焼成した薄膜の組成の違いと結晶相の関係に注目すると、Z rリッチ組成の (10/65/35)ではパイロクロア相のみが生成し、(15/53/47) ではベロブスカイト相とパイロクロア相が共存、Tiリッチ組成の(20/2 0/80)組成で、目的であるPLZTベロブスカイト単相を得ることができ た。 この結果から・前駆体中のLa員が増加することでベロブスカイト化が促進 したとも考えられるが、おそらくPZT系で報告されている7)場合と同様に、 前駆体中のTi量が増加するにしたがいベロブスカイト化温度が低下したもの と思われる。 ベロブスカイト単相が得られた、600℃で1時間の加熱処理でITOコー トガラス基板上に製膜した(20/20/80)組成PLZT*6膜のP−E ヒステリシスループを図2・9に示す。誘電率と.=347,誘電損失tan∂=0. 24,残留分極Pr=8・79〟C/cm2、抗電界Ec=128kV/cmの 電気特性を示す薄膜が得られたことが示された。 以上の結果から・Tiリッチ組成では600℃の加熱処理により強誘電性の 49 pLZT薄膜を得ることが可能であった。しかし、600℃ではガ・ラスの軟化 点付近でもあるため、さらに薄膜形成温度の低温化が望まれる。 O PLZT PeroYSk ite Py Pyrocblore 兼ITO electrode たこS己の︸uH 20 30 40 50 60 28(degree) 図2.8ITOコートガラス基板上に3種類の組成((20/20/80),(1 5/53/47),(10/65/35))のPLZT*6薄膜を作製し、45 0℃∼600℃で1時間加熱処理した場合のXRDパターン 50 5 0 5 ︵望0\Uj百Dご彗叫短lOh −400 −300 −200−100 0 100 200 300 400 Electric Field(kV/cm) 図 2・9 600℃にて2時間焼成したPL ZT(20/20/80)薄膜のP −Eヒステリシスループ 2−4. まとめ 本章では、PLZT薄膜の結晶化過程に与える前駆体の組成の影響について 述べた。以下に結果をまとめて記す。 (1) 2−メトキシエタノールを溶媒として用いることで、安定なPLZT 前駆体溶液が調製できた。 (2) 基板の違いにより、形成した薄膜の選択配向面が異なった。 (3) PL ZTの組成の違いにより結晶化過程が異なり、Ti量が増加する 51 にしたがい、ベロブスカイト化温度が低温化する傾向にあった。 (4)一 I TOコートガラス基板上に、強誘電性を示すベロブスカイト単相の (20/20/80)組成P L ZT薄膜を600℃の焼成により形成 できた。 参考文献 1)H.Suzuki,M.B.Othman,K.Murakami,S.Kaneko and T.Hayashi, Jpn.J.Appl.Phy8.,35,4896(1996) 2)H.Suzuki,S.Kaneko,K.MurakamiandT.Hayashi,Jpn.J.Appl.Phys・,36, 5803(1997) 3)J.S.Lee,C.J.Kim,D.S.Yoon,C.G.Choi,J.M.Kim and K.No, Jpn.J.Appl.Phy8.,33,260(1994) 4)T.Taniand D.A.Payne,J.Am.Ceram.Soc.,77,1242(1994) 5)J.S.Lee,C.J.Kim,D.S.Yoon,C.G.ChoiandK.No,Jpn.J.Appl・Phys・,34, 1947(1995) 6)M.KoSeC,Y Huang,E.Sato,A.Bell,N.Setter,G.Drazic,S・Bernic and T.Beltram,Science and Technology of Electroceramic Thin Films, 177(1995) 7)C.K.Kwok and S.B.Desu,J.Mater.Res.,8,339(1993) 52 第3章シード層としてのPTおよびPLT薄膜の結晶化挙 動とその特性 3−1.はじめに 本章ではシード層として用いたPTおよびPLT薄膜とその特性および配向 性の制御方法について説明する。 本研究ではPbTi03(以下PT)と(PbトxLax) Til−X/40 3(以下PLT)をシード層として用いた。また、PTについては単相膜の特 性とその配向性の制御の為にPbOを挿入したシード層の結晶化挙動について 検討した。また、PLTの結晶化挙動についても検討した。 3−2.PTシード層 3−2−1,PT薄膜について PbTi03はベロブスカイト型の強誘電体で焦電性や圧電性を有し、今後 その薄膜特性の利用の拡大が期待できる。特にマイクロアレイセンサを作成す る際の分極処理において高温が必要になる事から、他の強誘電体薄膜では均一 に分極した薄膜作成が困難であった。しかしPTのキュリー温度は490℃と 高く、C軸に配向させる事によって自発分極するといった特性を有している事 から、高温での使用や分極処理が必要になる場合には、PT薄膜は非常に有効 である。また、Pb(Z rxTil−X)03(以下PZT)や (PbyLal −,)(Z r xTil_X)03(以下PL ZT)薄膜の形成の際にPT薄膜をシ ード層として用いると低温形成可能である事は非常に重要である。1)、2) 今後益々薄膜としての利用が増大するであろうCSD法によ.るPZTやPL ZT薄膜の特性は、シード層の結晶状態や配向性に大きく影響される事が予想 される。優れた特性のPL ZT薄膜を得る為に、結晶状態や配向性を制御する 為に種々の製造方法が検討されている。 たとえば、飯島らはRFマグネトロンスパッタリング法にてC軸に配向した PT薄膜をターゲットの中の酸化鉛を化学量論比よりも増やす事で作成してい る。3)また、Mo o nらは水熱合成したPTシード粉体を用いて低温でのゾ ルゲル薄膜作製を行っている。4) 53 すなわち、前駆体の鉛過剰量を増やしてアニール中の酸化鉛の蒸発を補うこ とが出来るのではないかと考えた。さらに、過剰な鉛が酸化鉛として析出し・ それがフラックスのように働き低温でのベロブスカイト化に寄与する可能性も ある。また、プロセス中の有機物除去の工程である前熱処理温度を高くする事 で、力1g力厄でのシード層がPT薄膜中に形成され、それが核生成サイトとし て働き、ベロブスカイト化に必要な活性化エネルギーを下げて単相ベロブスカ イトのPT薄膜がより低温で形成できるのではないかと考えた。 次にCSD法で作製されたPT薄膜の配向性の制御とその電気特性との関係 は明らかになっていないので、本節ではPT薄膜の結晶化挙動や配向性を前熱 処理温度、アニール温度とプレカーサーの鉛過剰の割合を変化させて評価した。 そして、成膜した膜の結晶化挙動及び配向性に影響を与える因子を検討したの で報告する。 3−2−2..PT薄膜の応用 大阪大学基礎工学部、浜川研究室にてPTをRFスパッタリングによって薄 膜形成し、赤外線センサを作製した。その素子の構造を図3・1に示す。 金果.AI PbTiOl藩校 白金話屈 マイカ T0−5ステム 図3.1赤外線センサ素子の構造 54 図3.2 Siモノシリック赤外線センサの構造 3−2−3.実験方法 3−2−3−1.PT前駆体溶液の調製方法 PbTiO3前駆体溶液の調製方法を図3.3に示す。原料として、酢酸鉛三 水和物Pb(OCOCH3)2・3H20(99.5wt% ナカライテスク(株))、 チタニウムイソプロポキシドTi(i早0−OC3H7)4(95wt% 関東 化学株式会社)、溶媒として無水エタノール、キレート化剤としてアセチルア セトン(99.5w t% 関東化学株式会社)を用いた。 ①p b(OAc)2・3H20 17.16g(0.045mol)をセパラ ブルフラスコに入れ、150℃で5時間乾燥させ水和物を除去した。 ②①の溶液にエタノールを120ml加え、アンモニアガスを流しながら7 8℃で3時間還流した。 55 ③同様に、Ti・(i s o−OC3H7)413.46g(0.04.5m0日 にエタノール30mlを加え78℃で3時間還流した。 ④(∋と③の溶液を混合し、さらに78℃で4時間還流させ、その後アセテル アセトンを4.5ml加え、さらに1時間還.流させた。 図3.3 PT前駆体の調製フローチャート 以上の様にして、0.3MP bTiO3前駆体溶液150mlを調製した。鉛 過剰のPT前駆体溶液を調製する場合は、過剰割合に応じて酢酸鉛三水和物の 量を調整した。今回の研究では、0.3MPT前駆体溶液と20%鉛過剰の0. 3MPT前駆体溶液を調製した。 3−2−3−2.成膜方法 P bTiO3薄膜の調製方法を図3.4に示す。調製した前駆体溶液をシリ コンウエハーにチタン、白金(P t)をスッパタコーティングした基板P t(1 11)/Ti/Si O2/Si(100)[P t:0.2〃m,Si:0.0 5LLm]に引き上げ速度10cm/mi nでディップコーティングを行ない、 乾燥、前処理をくり返すことにより必要な膜厚を得た。その後、その基板を焼 成することによりPT薄膜を作製した。 56 ①有機物を除去するための前処理温度を115℃で30分、300℃、350℃、 420℃(10℃/分)においては15分と変化させた。 ②焼成温度を450℃、475℃、500℃、600℃(10℃/分)と変化 させ、それぞれ2時間焼成した。 ①の前熱処理温度、②の焼成温度を色々組み合わせることによ・りPbTiO 3薄膜を作製した。 図3.4 成膜方法のフローチャート 3−2−4.結果と考察 3−2−4−1.前駆体の結晶性 前駆体溶液を乾燥機中に78℃で放置すると次第に粘度を増して数時間で湿 潤ゲルへと変化した。さらにこれらの湿潤ゲルを乾燥機中で78℃(ゾルから 得られたゲルは酢酸を含んでいるため117℃)で1日乾燥させることにより ゲルは表面からひび割れていき、溶媒のエタノール、酢酸が蒸発し完全に乾燥 した。これらの乾燥ゲルを乳鉢で粉砕して600℃で2時間焼成した。 すなわち、PT前駆体を結晶化した粉末のⅩ線回折の結果を図3.5に示す。 57 ︻〓N︶l ︵N;Fd ︵01N︶ ︵LONFd ︵NOCFd ︵DQNFd ●一−− ︵NOeFd ︵〓LFd ︵○〓Fd I・ヽ●●㌔−−JJ.HH ︵石CFd ︵〇〇〇Fd ︵岩QFd ︵仰l苫コ.qJd︶ hl伸助U01∪︼ anneaIing:600℃2h 40 28(deg) 図3i5 0.3MPT前駆体の粉体のⅩ線回折パターン この結果は無配向である事を示している。 3−2−4−2.配向性に与える前駆体濃度の影響 前駆体の濃度によって配向性が影響を受けるかどうかについて、0.15Mと 0.3Mの2種類の濃度の溶液を調製し、P t/Ti/SiO2/Si基板上 に成膜−し、350℃、15分の前熱処理で10層成膜後、500℃で焼成時間 を10分、30分、2時間と変えた際のⅩRDの結果を図3.6,7に示す。 ︵椚岬でコ.qJq︶吾川空中︺∪︼ (〉 ′ 、 ⊂ き き plで− annealing : 3訂● C 15min annea肋g : 5∞OC 2h 寧 苧 …芸 M石2 ▼ −▼ ■ ■訪 託 ● 【 L pre− annealing : 3500C 15min ann的ling : 5( 灯C 30m in i i 1 一 ■ 」 _ _ 三言諾 離 鮎・ 詳 記 だ m in t 20 30 40 50 60 28(deg) 図3.6 0.15MPT前駆体の焼成時間を変えたP T薄膜のX線回折パターン 58 ︵椚l叫∪コ.q﹂疇︶ゝ︸鳩Su01∪︼ 40 28(ded 図3.7 0.・3MPT前駆体の焼成時間によるⅩ線回折パターン 図3.6,7から0.3Mの方がより(100)方向に配向した薄膜が得られた。 また、0.3Mの前駆体溶液から形成した薄膜では、焼成時間が長い程(10 0)方向に配向する傾向にあった。このことから、より配向性制御し易い0. 3Mの前駆体溶液を使用することとした。 59 3−2−4−3.配向性に与える基板の影響 基板の影響を検討するために、最初に無配向のコ一二ング7059ガラス上 に前熱処理温度350℃で焼成温度を450、475、500℃とした場合の 化学量‘論組成PT薄膜のⅩ線回折の結果を図3.8に示す。 孔m m ed ed at 500 ℃ { Ill■ ⊂ l 1−1 } ぎ 百 〇 一 ヽ一 ■■ ■■ ヽ−′ 才 ロ .1 1■J ヽ■■ 邑 す 已 ︵貞一R⇒jl且と鵬岩ul貞 ■■■− 1■ ■ lll. 「 ■ ■ ■ ▼ ̄  ̄  ̄ −ヽ ヨ ′■ヽ コ 望 . 巴 ′ ぎ F R くさ e 巳 . ■■ 已 、 『 _ _ _ _ 」 1− a■  ̄ n1■ ■ ■ m■ ■ ■ ■ ■ 1■ ■ ■ − ̄  ̄ ̄▼ 1■ ■ ■ ■ ■ ■ e d − d a t 4 7 5 ℃ ▲ ● r l ̄  ̄ ▼ ▲ 一 L_ _ . J■ ■ − e d 孔 m ▲_ _ _ ■ 】 ■ ■ ■■ 1− ■L−− −  ̄「 ■ 「 【 l「 ■ e d a t 4 5 0 ℃ n _ − _ _ _ ▲ l ■ 20 30 40 50 叩 2β(de由 図3.8 前熱処理温度350℃でコ一二ングガラス基板上の種々の焼成温度に ょる濃度0.3Mの前駆体からのPT薄膜のⅩ線回折パターン この結果から、450℃のアニールではパイロクロアとベロブスカイトが混 在したが、475℃のアニールでほぼ単層ベロブスカイトになっていることが 分かった。そして500℃のアニールでは単層ベロブスカイト相の薄膜が得ら れた。 60 次に前熱処理条件を115℃、300℃、350℃、420℃と変え、50 0℃で熱処理した場合のSi基板上の化学量論組成PT薄膜のX線回折の測定 結果を図3.9に示す。 ′■ヽ ︵眉目n.モ曳き竃冨盲︻ 夏 至∴ 芋 「 ℃ ■− 【 ・ − ▼ 1■ 曇 ; m e_ ammealed at350℃ ; 恥 m ealed at300℃ t 一一 I 」■L m e _孔n n t a le d a t l 15 ℃ j 1 l ■ l t t t 20 30 40 50 60 28(deg) 図 3.9 焼成温度500℃でP t/Ti/SiO2/Si基板上種々の前熱処 理温度によるの0.3Mの前駆体からのPT薄膜のⅩ線回折パターン その結果、前熱処理115℃ではランダム配向であり、それ以上の温度では (100)方向に配向し、前熱処理温度を上げるほど(200)ピークが大き くなっていた。いずれにしても、C軸に配向した薄膜は前熱処理温度や焼成温 61 度を変えても得る●事はできなかった。 また、PLZT薄膜作製において使用しているガラス/ITO電極基板上のP T薄膜のXRDパターンを図3.10.に示す。 ′−ヽ l〝 >l■lJ 壱‘弓 0.jl JJ 」 ⊂ d ■ll−ヽ一′ 20 30 28(deg) 図3.10 ガラス/ITO電極基板上の9.3MP薄膜のⅩ線回折パターン この結果から、ガラス/ITO電極基板上においても0.3Mの前駆体を用 いて350℃で15分前処理した後に500℃で2時間の焼成した膜では無配 向である事がわかった。このことから、本研究では電気特性を測定し易いP t /Ti/SiO2/Si基板上に成膜して研究を行うが、十分にガラス/IT O電極基板上でも同じ配向性制御に関しては同じ傾向があると考えた。電気特 性に基板の影響については鈴木らがP ZTにて検討している6)が、残留分極 はガラス基板の場合は500℃にてP t/Ti/SiO2/Si基板の約半分 であった。 3−2−4−4.配向性に与える鉛の過剰添加の影響 前駆体溶液中に鉛を20m01%過剰に添加して7059ガラス上に前熱処 理を115、300、350、420℃と変化させて450℃で熱処理した場 合のⅩ線回折データを図3.11に示す。 62 ︵眉dn.モ阜倉昌Ul貞 20 30 40 50 60 28叫eg) 図 3.11鉛を20m01%過剰に添加した前駆体溶液を用いたコ一二ング7 059ガラス上に前熱処理を115、300、350、420℃と変化させて 450℃で熱処理したPT薄膜のⅩ線回折パターン その結果、前熱処理温度に関わらず(100)方向に配向する傾向のあるベロ ブスカイト相の薄膜が得られた。(100)方向に配向する傾向のある薄膜が 得られたのは過剰に添加した鉛がP bOとなり、格子整合したと推測される。 また、420℃の前熱処理では350℃以下の前熱処理時に見られたP b2T i206の相のピークも消えて(100)方向に配向する傾向のある単層ベロ 63 ブスカイト相の薄膜が得られた。前熱処理温度が配向性に影響を与えることが 分かった。前熱処理温度を上げることより、残留する不純物が更に揮発され、 不純物が配向性に与える影響が小さくなり、表面エネルギーの小さい(100) 方向に配向する傾向がより大きくなったと推測している。 シリコン基板上の前駆体溶液中に鉛を20m01%過剰に添加した場合につ いて、前熱処理を115、300、350、420℃と変化させて450℃と 500℃で熱処理したPT薄膜のⅩ線回折の結果を図3.12に示す。 曾叫貞弓モ且倉28月 20 30 40 50 60 28Peg) 図 3.12 鉛を20m01%過剰に添加した前駆体溶液を用いてシリコン基板 上に前熱処理を115、300、350、420℃と変化させて450℃と5 00℃で熱処理したPT薄膜ののⅩ線回折パターン 64 この図から、前熱処理温度に関わらず、450℃の熱処理にて単層ベロブス カイト相が得られる事が分かる。配向性については前熱処理が350℃以下の 場合、(001)方向に配向する傾向の薄膜が得られた。また、前熱処理温度 420℃では450℃以上の熱処理で(100)方向に配向するが、500℃ ではその配向性が小さくなっている。また、その際にPbP t5_7のピークが 見られなくなっている。これはChenらによればPbP t5_7はPbが多い ときに形成されるが、一時的なものであり、高温にすると無くなると言われて いる事と一致している。また、P t電極との界面にPbOが存在するが、その P bOの(001)の配向性は非常に不安定である。7)そのため、350℃ 以下の前熱処理では(0’01)方向に配向し、420℃の前熱処理にては(1 00)方向に配向したと考えられる。すなわち、P bOの配向性が前熱処理に て変化していると推測している。Ch e nらはP bOの存在がP ZT薄膜を(0 01)方向に配向する場合のモデルとして以下の構造を示している。 PZT(10 0) ○ ○ ○ ○○ P PbO(00 1 9 4 .036Å 973Å 3. Jn Pt5−7Pb (111) Pt(111) Pt5−7Pb●叫a00◎zr.Ti 図3.13 C h e nらの配向性のモデル 65 2.864Å 3−2−4−5.PT−P bOシード層の結晶化挙動とその表面化学結合状態 C h e nらのモデルからP bOをPT上に成膜し,それをシード層として用 いることによりPLZT薄膜を配向制御することを検討する。配向制御の可能 性を検討する為に、その表面状態と結晶化挙動を調査した。PT−P bOシー ド層の断面構造を図3.14に示す。 図3.14 PT−P bOシード層の断面構造 P bOの成膜は酢酸鉛をホルムアミドで溶解した0.1M溶液を用いた・3 50℃で焼成したPbO薄膜とPT及びP30T(鉛を30m01%過剰に添 .加した前駆体を使用したもの)薄膜の表面をⅩPSにて分析した結果を下図に 示す。 3300秒エッチング後  ̄−1 tJr lll lu り● 川l IIH lぺ IJ● 川■dlu11l・■丹flCrl 履k 山川暮FKl■llピソ・ 図 3.15 350℃で焼成したP bO、PT、P30T薄膜の最表面および3 300秒エッチング後の鉛の各XP Sスペク十ル 66 この図に示すように、鉛を30m01%過剰に添加した前駆体を用いたP30 T薄膜の最表面はP bO薄膜とほぼ同じ位置に酸化鉛P bOのピークが見られ る。しかし、化学量論組成のPT薄膜はP bOとPTと思われるピークが見ら れる。3300秒アルゴンスバッタエッチングを行った際のXP Sスペクトル ではPT、P30T薄膜共にP bOのピークは小さくなり、P Tのピークが大 きくなってきている。P bO薄膜はP bOのピークしか見られない。データベ ースからはPbOの4f7/2ピークは約139eVであるが表面の状態でプラ ス方向にシフトが見られる。P TはN ai8)らによると137.7e Vであ る。P bOとPTの位置関係はデータどうりの値になっている。 また、P t電極との界面にP bOが存在するが、そのP bOによる(001) の配向は非常に不安定である。7)350℃以下の前熱処理では(001)方 向に配向し、420℃の前熱処理にては(100)方向に配向したと考えられ る。すなわち、P bOの配向性が前熱処理にて変化していると推測している。 そこで、シリコン基板上に350℃で前熱処理し、450℃で焼成したP T およびP20T薄膜の鉛の最表面・300秒・15000秒、3.3000秒エ ッチング後のⅩP Sスペクトルを図3.16に示す。 P bO中Pbの4f7/2のピークは約138.5eVであり、PTのピーク は約136.8e Vと思われる。9)、化学量論組成のPT薄膜ではP bOが表 面に存在し、鉛を20m01%過剰に添加したPT薄膜はP bOとPTの両方 のピークが存在している。最表面ではP bOの蒸発とPTの生成という2つの 反応が起きている。化学量論組成のPTではP bOの蒸発のみが行われ、PT が生成しないのではないかと推測される。すなわち、化学量論組成ではP b O の蒸発に鉛の拡散反応による供給が追いつかない状況になっていると思われる。 鉛を20m01%過剰に添加したPTではP bOの蒸発とチタンとの反応によ るPTの生成が行われている。tこれらの事から、最表面でのみPbOが存在し、 しかもPTが生成する反応があるときにべロブスカイト化し、かつ(001) 方向に配向すると考えられる。500℃ではP bOの蒸発量よりもP bOの拡 散量が多いために核形成サイトが上部電極付近にも存在し,結晶成長を促進し たため、いろいろな方向に配向した結晶が成長し,配向性が小さくなったので はないかと考えられる。 67 ネ己ま莞弓占 BindingEnergy(eV) 図 3.16 A:化学量論組成のPT薄膜のP bのXP Sスペクトル B:鉛2 0m01%過剰のPT薄膜のP bのXP Sスペクトル 1:表面 エッチング 時間 2:300s e c 3:15000s e c 4:33000s e c また、PLZTの(001)面の鉛原子間距離は4.062Åである。■一方、 P bOの(001)面の酸素原子間距離は3.973Åであり、PL ZT(0 01)面と非常に良く格子整合する。そこで意図的にP bO層をシード層とし て導入して、その上にPL ZT層を積層させたPL ZT薄膜を作製することで 選択配向性に与える影響について検討しようと考えた。まず、最初にP bO薄 膜を作製して、その結晶化過程を評価した。 ITOコートガラス基板上に2種類の組成(化学量論組成、鉛成分30m0 1%過剰組成)のPT層を1層導入し、その上にP bO層を1層積層させたP T−P bO薄膜(2層)を350℃∼450℃で1時間加熱処理した場合のX RDパターンを図3.17に示す。 68 t X ITO ele血ode 米 O pbO X ○ _ ▲ 」■▲ − 米P慧 晋 0 ( 1品 _ .】..一_ . 山 一 」 . 米 m O T _P b O 米 4 2 0 ℃ 米 米 _ . 」 」L p○Ol) _ 」 米 L】 _一山−( 101) 〇・ 米 ■ 一一 ・ 一 一 」 一 − 篭 紆 ■ ■ 」 . − m ・ _ P b O p慧 晋 0 米 ■ ■ ■「 米・ ○ X 米 米 米 」▲ _ 」_ L ▲___ _ 九」▲_ 椚 米 印02) p oo)○ 米 ( 21− ) 420℃ ○ 米 ○ r T −r b O 米 O 米 ○ 」 L山 _ ■ h_ _ 叩「 11■ ■ 米 米0 0 0 米 3 50 ℃ ___■ ___L _一 − 」 」■ ■L 1015 20 25 30 35 40 45 50 55 60 2日(。egree) 図 3.17 化学量論組成PT上にP bOを1層積層して350∼450℃で焼 成した薄膜のⅩ線回折パターン 化学量論組成のPTを用いた場合には420℃の焼成で、正方晶のP bOの (001)面、(002)面の成長が確認できた。 従って、このP bOの(001)面、(002)面の成長がP L Z T薄膜に おける選択配向性に影響を与えるのではないかと推測し、420℃で1時間焼 成したP bO層をシード層として導入することにした。これをシード層として 用いた結果については、第6章にて報告する。 69 3−2−4−6.微構造 前駆体溶液中に鉛を20m01%過剰に添加してシリコン基板上に前熱処理 を115、350℃と変化させて450℃で焼成したPT薄膜の断面S EM写 真を図3.18に示す。 115℃ブレアニール 450℃アニール(X20,000) 350℃ブレアニール450℃アニール(X20,000) 1_ く 図3.18 PT薄膜の断面S EM写真 写真から見られるように115℃の前熱処理の場合、疎な結晶構造となって いて、前熱処理温度が350℃の場合、PT薄膜は撤密な構造になっている。 この事から、前熱処理が115℃では有機物の除去が不完全である為・それ が焼成時に蒸発する際に空孔を作り、疎な結晶構造になったのだと考えられる。 したがって、前熱処理としては350℃以上の温度は必要である。 70 3−2−4−7.ヒステリシス P t/Ti/Si O2/Si基板上に前熱処理を300、350、420℃と変 化させて450℃で焼成したP20・T薄膜のP−Eヒステリシスループを図 3.19に示す。 5 0 5 得票累V q︶貞e軍dNで疇teh ー15 −300 −200 −100 0 100 200 300 Elec鵬C萬dd匹Ⅴ/cm) 図 3.19 鉛を20m01%過剰に添加した前駆体溶液を用いてシリコン基板 上に前熱処理を300、350、420℃と変化させて450℃で熱処理した PT薄膜のP−Eヒステリーシスループ この図から、300℃と350℃の前熱処理はほぼ同様な曲線で少し35 0℃の方が残留分極P.が大きい事がわかる。 71 次に、前駆体溶液中に鉛を20m01%過剰に添加してシリコ.ン基板上に前 熱処理350℃で焼成温度を450℃から600℃まで変化させた場合のPT 薄膜のP−Eヒステリシスループを図3.20に示す。 0000 42− 符白々Uq︶貞e焉Hでdteh 2 ー300 −200 −100 0 100 200 300 ElectIicfield匹Ⅴ/cm) 図 3.20 鉛を20m01%過剰に添加した前駆体溶液を用いてシリコン基板 上に前熱処理を350℃で450、500、600℃と変化させた場合の熱処 理したPT薄膜のP−Eヒステリシスループ この図から、焼成温度の上昇と共に残留分極P.は大きくなり、抗電界E。は 小さくなり600℃の焼成でほぼ飽和した曲線を得る事ができた。 72 3−3.P LTシード層について 3−3−1.PLT薄膜について5)t RFマグネトロンスパッタリング法により、C軸配向したPTとPTにL a を固溶させたPLT薄膜が開発されている。10)このPLT薄膜は分極処理を しなくても自発分極が一方向に揃っており、PT単相膜に比べて3倍以上の性 能指数を示す好適な焦電材料である。 3−3−2.P LT薄膜の応用 pLT薄膜は本研究ではシード層として用いているが,PLT薄膜単体でも 焦電センサとして用いられている。 薄膜型センサでは、基板への熱拡散を抑え、素子自体の熱容量を小さくして、 感度と熱応答性を向上させるため、焦電薄膜を宙に浮かせる微細な三次元構造 を実現する必要がある。そのため、熱負荷となるPLT焦電薄膜直下のMgO 基板をエッチングにより除去した構成を採用している。図3・21に示すような マイクロキャビティ構造のセンサが開発されている。11)MgO基板上にRF マグネトロンスバッタ法で、(100)配向P t下部電極とC軸配向PLT焦 電薄膜(約2〝m)を形成し、ウェットまたはドライエッチングで分離した薄 膜上に、コンタクトホールを設けたポリイミド膜をコーティングし・受光電極 としてNi−Crをスバッタ法で成膜しフォトリソグラフィーでパターン化し て作製する。その後、受光部の下にあるMgO基板は・表面からエッチングホ ールを介してエッチング除去される。マイクロキャビティの形状は、MgO基 板のエッチング異方性により高精度に加工され・その深さは200〝mとなる ように形成されている。一素子の大きさは1mm以下であり・直径5mmの封 止型金属ケース内に実装されている。 73 図3.21マイクロキャビティ構造のポイント型焦電センサ 3−3−3.実験方法 図3・22のITO付きソーダライムガラス基板上に後ほど述べる0・3M濃 度の前駆体からP LT薄膜を6層積層して、結晶化挙動および特性を測定した。 ’ : ふ 拙 翫 ■ 1 十 ・ 一’ ai 、 嶋 ・ さ4 ・ 弼 _ 々 ′ ∴ ノ バ . ヽ , . ′ 、■ J▼■ 手  ̄ †′ . ■ 排 ′ 二 丈 ・ ・ 竺 _ 一 軒 ・ ぺ − ′ 祭 拉、 . . よこす ■ I ガ一日◆ §閑 難 く■ ● 事 ●rこ ● 1・抒 : l 繹 干 ヽ 十 11: イ ■ ・ 三 ′ 二 号 .I †∵ ・‘ て 1 ■ 章 二 でさ !・. 、 皇 イ 亨 ・ ざ 軒 ■ . ・ . 羞 $ ・一 ・; 丁 子 で : 丁 一 ′′ .‘ 「 ’ Ii . − ■ : ▲ ÷ ‘ ・ h ‘ 守 e r t ニ ー : 〉 ・ こr ■ ・/ ・ ■ lご 耳 : ト √一・ J 叫 、I ̄ ■ 〉 1人 ・ ■ ざ 二 ∴ ・ヽ ケ せ 、・ _7 、 二 千 ・ 、 … マ で 二、や ! 聯 ざ 鞠 璃 華 漱 ・ ′ 壷 二 女 i f l・. − 1 ◆ {・ . ・′′ ‘ ヾ■ こ■ ▲ ∴ ● ’ 1 ■ ▲ ・ ■ ‘ 一 l:▲ ご 1▲ ITO ▲I 嶋 ̄ ヽ 巨 、.ミ J ■: (hdiumTinOxide) 215mm RS9.0∼9.5Q/□ ITO G lass s止bstm te 図.3.22 P L T薄膜の断面構造 74 3−3−3−1.PLT前駆体の調整方法 P LT前駆体の調製方法を下図に示す。 P b( O ach ・ 3q O ,L a( O ach ・ 1・ 5‡ ち0 mk叫gbrlh ’Ti((CIもhCHOL dehydrateat 130℃∼140℃ mixmg fbr30mhl re且uxhr6比叡 130℃ ※ROH:2−M血0町e血anol PLZTorPLTprecursorsolution 図3.23 P LT前駆体の調整方法フローチャート 3−3−3−2.成膜方法 成膜方法としてはディップコーティング法を用いた。(2−2−4項参照) 3−3−4.結果と考察 3−3−4−1.P LT薄膜の結晶化挙動 本研究で用いたP L Z TとL a濃度を同じにした3組成(20/0/10 0)、(15/0/100)、(10/0/100)のPLT薄膜を450℃、5 00℃、600℃で焼成したⅩ線回折の結果を図3.24に示す。 75 ● PLT IIeroⅥ永ite 霊Im eled rode hごS白む︸ロー 20 50 30 60 図3.24 450,500,600℃で2時間焼成したPLT薄膜((10/0 /100),(15/0/100),(20/0/100))のⅩ線回折パターン 76 この図の結晶化挙動をまとめたものを表3.1に示す。 表3.1 PLT薄膜の組成と結晶化温度 6 0 0 ℃ 5 0 0 ℃ 4 5 0 ℃ 2 0 /0 /1 0 0 P e P e A 1 5 /0 /1 0 0 P e P e A 1 0 /0 /1 0 0 P e P e A P e:P e r o v s ki t e A:Amo r p h o u s この表から、500℃にてPLTは全てベロブスカイトになる事が分かった。 3−3−4−2.配向性に与える膜厚の影響 配向性に与える膜厚の影響を検討する為に、(10/0/100)組成のP LT前駆体を6層積層したPLT*6と、PLT前駆体を1層だけ積層したP LT*1膜を500℃で1時間焼成した場合のⅩ線回折パターンを図3.25に 示す。PLT薄膜の厚さの違いが結晶相の配向性に与える影響について注目す ると、PLT*6は(110)面の強度が強く、配向性が見られないのに対し、 より薄いPLT*1では(100)面の強度が強く現れていることから、PL T薄膜は薄く積層させると(100)面に配向する傾向があると思われた。 これは,電極のI TOと格子整合しなかった為,また基板も非晶質であった 為に,表面エネルギーの一番小さい(100)面に配向したのではないかと推 測している。 77 曇二讐誌一uH ● PLT Perovskite 葺 ITO electrode 50 40 30 20 60 2β (a)PLT米6 米 ● P LT P e rovsk it e 葺 ITO e lect rod e き完uO雲H * 米 ( 100) ( 110) ● ● 米 几_ 一人 止 h h _ l 20 30 40 50 60 2β (b)PLT米1 図3.25ITOコートガラス基板上に形成した(10/0/100)組成(a) PLT*6薄膜及び(b)PLT*1薄膜のⅩ線回折パターン(500℃・1 時間焼成) 78 3−4.結論 今まで述べてきた結果をまとめると以下のようになる。 1)鉛20モル%過剰のプレカーサを使用する事によって、450℃のアニー ルで強誘電体特性のあるPT薄膜を形成できた。 2)アニール温度の上昇に伴って鉛20モル%過剰のPT薄膜の配向度は上昇 する。 3)P t/Ti/SiO2/Si上では鉛20モル%過剰のPT薄膜は35 0℃以下のブレアニール温度でC軸方向に配向するし、420℃のブレアニー ル温度でa軸方向に配向する。 4)PTは全体が20m01%過剰の時に600℃のアニールにて非常に大き な残留分極P25JLC/cm2を得る事ができた。 5)PLTは(20/0/100)、(15/0/100)、(10/0/100) のいずれの組成でも500℃にて単相ベロブスカイトが得られた。 6)PLTは薄い方が(100)方向に配向する傾向が見られる。 これらの事から,下記の結論を得た. ①前駆体溶液中に鉛を過剰に添加する事は,シード層として用いたPT薄膜の ベロブスカイト化温度を下げるのに効果があった。 ②前駆体溶液中に鉛を過剰に添加する事は,シード層を(100)方向に配向 する傾向がある。 ③シード層の膜厚は薄いほうが(100)方向に配向する傾向がある。 参考文献 1)H・Suzukietal・,Jpn.J.Appl.Phys.,35,(9B)4896−4899(1996) 2)H・Suzukietal・,Jpn・J・Appl.Phys.,36,(9B)5803−5807(1997) 3)K・Iijima,Y・Tomita,R・Takayama andI・Ueda,J.Appl.Phys.60(1),1July,361− 367(1986). 4)J・Moon,J・A・Kercher,J・Lebleu,A・A・Morrone andJ・H・Adair,J.Am.CeramiC.Soc., 80(10),2613−23(1997) 5)注目の誘電体材料‥ ティー・アイ・シー(1996) 79 6)H.Suzuki,T.Koizumi,Y.Kondo and●S.Kaneko,Journal of European Ceramic Society,1,,1397−1401(1999). 7)S.Y.Chenandl.W.Chen,J.Am.Ceram.Soc.,77【9]2332−36(1994) 8)NaiJuan Wu,Alexlgnatiev,Abdul−Wahab Mesarwi,He Lin,Kan Xie and Hung−DahShih,Jpn.J.Appl.Phys.,32,5019−5023(1993) 9)N.J.Wu,A.Ignatiev,A.Mesarwi,H.Lin,K.Xie and H.Shih,Jpn.J.Appl.Phys., 32,5019−5023(1993) 10) 飯島賢二、P LT薄膜赤外線センサ、ニューセラミックス技術応用研 究会、71回 11)T.Kotani,T.NakanishiandK.Nomura:Jpn.J.Appl.Phys.,32,6297(1993) 80 第4章 鉛過剰添加効果 4−1.はじめに 多くのC SD法の研究で鉛系の強誘電体薄膜生成プロセスにおいては5から 10%程度の鉛を過剰に添加する事によって焼成中の蒸発による鉛不足から生 じるパイロクロアの生成による強誘電性および他の特性への影響を少なくしよ うとしている。そこで、本研究では前駆体溶液中に鉛を過剰に添加することに よって結晶化挙動および電気特性がどのように変化するかについて検討した。 4−2.実験方法 前駆体溶液をビーカーに50g取り、それを約110●℃で約5時間乾燥し, その後に乳鉢で粉砕したサンプルの熱分析をおこなった。 鉛を過剰に添加した前駆体溶液を用いて作製したサンプルの断面構造を下図 に示す。 P LZ T P LZ T P LZ T PL Z T PL Z T P LZ T IT O ■ ■ q l毎 su b s亘衰亡 図4.1サンプルの断面構造 4−3.鉛過剰添加の結晶化温度に与える影響 熱重量変化と示差熱分析(TG−DTA)の分析結果について化学量論組成、 鉛の過剰量を10m01%、20m01%、30m01%と変化させた際の結 果を図4.2∼4.5に示す。 81 語号慧⋮ ㌔蔓コ Weight(別 ﹂・竺壱誓たこ﹁ほ れ。悠 ●●● ●● ● ● ● ● ● T器ム喜 己7−○ 妄∋… 莞冨 澤 Weight は) 葺雲箪蔓 詩悩脚部笹熟P r N↓蟄寓浣苛洲日加l帥泄吟漂霹淘 ー1 囲ふ.N 因鼻.∽ 整8転塾帥−○ヨ0−訳8P r N↓繋需浣荘洲8舅l師潜吟苛詣細 0 0 N Heat FloW(〃V) ー.岩切宍 夢雷管︳− l・■ l▲ N 緋臆⋮ 萱 已 ︰ T払−uS ﹂︵小 戸当−聖上 は.Ug占 コ 曾j−︻﹃彗︰ コ 和 議 ﹁ . ⋮ ● ● 語 号 買 ㌔亡き 椚臆⋮ ■ 1.等一決 夢雷管●l ー.00 0.00 −相.00 1ふ.Od I縞.〇〇 射 ふ・〇〇 ′′︳l ヒーーQ■00 ▲ n .用工河.Op W−↑▲一〇0 −−匂.Oe I−鴎.〇〇 ⋮No.〇〇 ;N恥.〇〇 −狩▲.OO INO.qQ Ub.U ー岩.〇 ▲〇〇.〇 m〇〇.〇 ︸〇〇.〇 ↓e∋Pe﹁毘ure ︵.C︶ 因ふ.ふ 捏8転塾帥N OmO−訳8P r N↓蟄帝萌等洲8卦淋潜吟苛葦池 」 > ⊂〕 ○ l▲ N u Heat Flow(〃V) ▲ (I 〇 〇 〇 〇 縛男 ら竺 鼻パ岬 ●■■●■■ 】 】 I 00 帝箆 螢額 ● ● ● ● ● ● ● ● ぎ:=弓 IH■ ○■■t r■a【【注 諾雪ぎ r■:コ 竜埠 一驚已 芹 首︼僧百一︰ 苫 言 己丁父丁− ● 膏_ 蔓 ● 増.岩層 い = ● ■ ● ● 脚照言巾⋮ 臆等 ぎ 旨 ︼ ︰ T琵−皆○ ↓G 昏宮野百方 ■■■■ 因ふ.ひ 野8転塾帥u OmO−訳8Pr N↓蟄寓事等洲8引l油津箪笥詳細 0 0 ∽ 図から分かるように320℃付近●と480℃付近に発熱ピークが見られる。 320℃付近のピークは、100℃付近から320℃位までなだらかに重量が 減少している事から、前駆体中に含まれる有機物が蒸発し、320℃付近で燃 焼しているものと考えられる。この事から、前熱処理温度は320℃以上では 有機物が残留し、緻密な膜を形成することは困難になる事を示している。これ は、PT薄膜の断面S EM写真(図3.18)の結果と一致する。また、480℃ 近辺のピークはPL ZTの結晶化温度と考えられた。結晶化温度と鉛の過剰添 加量の関係を下図に示す。. 0 0 qノ 父U 4 4 ︵UO︶巴ゴl已乱宕↑ 0 7 4 0 10 20 30 Amountofexcesslead(mol%) 図4.6 P L ZT前駆体粉末結晶化温度と鉛の過剰添加量の関係 図4.6から鉛の添加量を増やすことによって結晶化温度が低下している事が 分かった。この事から、鉛を過剰に入れる事によってP bOが形成され、それ がフラックスのような役割を果たして結晶化温度を下げている事が推測される。 San−Yuan らは電極との界面にP bOが形成され、それが配向性にも影響を 与えていると考えている。1・2)過剰な鉛は結晶化温度にも影響を与える事か ら、低温形成には有効な手段と考えられる。 84 4−4.鉛過剰添加の結晶化挙動に与える影響 鉛の過剰添加量を変えたときのP LTとP L ZT薄膜の結晶化挙動を下図に 示す。 合唱61u− 20 40 30 60 50 2∂ (degree) 図 4.7 P LT(10/0/100)薄膜の鉛を30m01%過剰に添加した 場合のⅩ線回折パターンと化学量論組成の比較 ○ (1 1 0 ) X (2 0 ) (1 1 1 ) X O (1 0 ) × ○ ゝl頂后lu− X X l ■ ′l Py P Iぷ T P 叩 X 米 X : 汀○ X X P y p l丘 T P e ⅡⅣ地 米 米 ○ P y X O 亮 l (訳 d 止 正 0 。 。 5 50 ℃ ・5 0 0 ℃ − . 4 5 0 0C l J− 20 25 30 35 40 45 50 55 60 2∂ tdegreeJ 図.4.8 P L ZT(10/65/35)薄膜の鉛を30m01%過剰に添加 した場合のⅩ線回折パターン 85 図4.7から分かるようにP L T(10/0/100)は前駆体溶液中に鉛3 0m01%過剰に添加すると 450℃にて単相ベロブスカイトの薄膜を得ること ができた。また、PLZT薄膜(10/6.5/35)の化学量論組成(図2.8) と30m01%過剰に添加した場合の結晶化挙動を表にまとめると以下のよう になった 表 4.1 P L ZT(10/65/35)薄膜の結晶化挙動に及ぼす鉛過剰添加 効果 焼成温度 (℃ ) 化 学 量 論組 成 P L Z T 6 0 0 5 5 0 5 0 0 4 5 0 鉛 3 P 0 3m 0 0 L 1Z %T 過 剰 パ イ ロク ロア ベ ロブス カ イ ト − ア モ ル フ ァス パ イ ロ ク ロア パ イ ロ ク ロア ア モル フ ァス ア モ ル フ ァス 焼成温度が600℃でPLZT(10/65/35)はパイロクロアであっ たものが前駆体溶液中に鉛を30m01%過剰に添加することで単相ベロブス カイトの薄膜を得る事ができた。 4−5.鉛過剰添加の電気特性に与える影響 鉛を30m01%過剰に添加した前駆体から600℃の焼成で形成したPL Z T(10/65/35)薄膜のP−Eヒステリシスループを下記に示す。 また、得られた薄膜の比誘電率、誘電損失、残留分極、抗電界をまとめたもの を以下に示し、それと従来の文献の値を比較する。 表4.2 P30LZT(10/65/35)薄膜の誘電特性と強誘電体特性の 他の文献値との比較 薄膜 の種 類 P 30 L Z T ( 10/ 6 5/ 3 5) P L Z T (1 1/ 65 / 3 5) 3) P L ZT ( 9/ 6 5/ 3 5) 3) 焼 成温 度 ( ℃) 比 誘電 率 誘 電損 失 6 0 0 7 0 0 5 6 6 5 6 0 9 1 0 0 . 0 7 0 . 0 7 0 . 0 5 7 0 0 86 残 留 分極 (〝C / c m 2) 1 6 6 5 抗電界 ( kV / cm ) 8 0 7 7 4 4 0 1 q ム 0 0 竃冒\U且︶uOコ霊山白玉d −450 −300 −150 0 150 300 450 Electric Field(kV/cm) 図 4.9 600℃で焼成したP30LZT(10/65/35)薄膜のP−E ヒステリシスループ ここで示したように鉛を30m01%過剰に添加した前駆体を使用するだけ でほぼ飽和したP−Eヒステリシス曲線を得ることができた。また、比誘電率 についても700℃で得られた薄膜とほぼ同じ値が得られ、しかも残留分極に ついては16〟C/cm2と非常に大きな値が得られた。残留分極が大きな値 を得たのは,鉛を過剰に添加することで組成が変化し,メモリー領域の組成に なったためと推測している。 87 4−6.鉛過剰添加の光学特性に与える影響 600℃で焼成したP30L Z T(10/65/35)薄膜の光透過率を図. 4−10に示す。この図から、可視範囲内(400から700nm)・では約6 0%以上の透過率を示している事から、光学デバイスとして使用するには十分 な特性を示した。 0 0 8 6 ︵宗︶む0日虐七百Sd已ト 500 400 600 700 Waveleng山(m) 図4.10 600℃にてアニールしたP30L ZT薄膜の光透過率 4−7.まとめ 今まで述べてきた事から、鉛過剰添加効果のメカニズムについてはあきらか にする事はできなかったが、熱分析の結果から現象論的には鉛を多く添加する だけで結晶化温度は低下することが明らかとなった。従来の方法では,P L Z T(10/65/35)薄膜について化学量論組成のものでは600℃ではパ イロクロア相しか得る事ができなかったが、30m01%鉛を前駆体溶液に添 加することにより600℃で強誘電性を示す単相ベロブスカイトの薄膜を得る 事ができた。また、その薄膜の透過率は可視範囲内で60%以上あり、十分光 88 学デバイスとして使用可能であると判断された。 参考文献 1)san・YuanandLWei’chen,JAm.Ceram.Soc.,77,【912332−36(1994) 2)san・YuanandI・WeiChen,JAm.Ceram.Soc.,77,【9】2337・44(1994) 3)G.Teowee,E.L.Quackenbu8h,C.D.Baertlein,J.M.Boulton,E.A.Kneer andD・R・Uhlmann,Mat.ReS.Soc.Symp.Proc.361,433(1995) 89 第5章積層構造の影響 5−1.はじめに 本章ではPLZT薄膜の低温形成に与えるシード層の挿入位置、挿入する層 数、主相PLZTの層数といった積層構造の影響について検討した。研究にあ たってシード層としてPLTを用いて、PLZT薄膜を低温にて形成する事を 試みた。PLTをバッファー層として使用する研究はすでにJ.S.L e eら によって研究されていた1・2)が、彼らはPLTの組成を格子定数が基板のI TOとPLZTの間にある組成を選ぶことによる事で格子歪を少なくする手法 を選択した。 そこで本研究では、シード層としては主相であるPL ZTと同じAサイトの 組成、すなわちPLZT(20/20/80)のシード層としてはPLT(2 0/0/100)を使用する事にした。これはマルチシード法の場合、主相と シード層の組み合わせにより大きく組成が変わるので、Aサイトの組成は変化 しないように組成設計を行った。最初にシングルシード法の結果について示し、 その後マルチシード法の結果について示す。シングルシード法については、シ ード層の結晶化の有無と厚さの違いが焼成温度、薄膜の特性に与える影響につ いて示す。 5−2シングルシード法 PLTをシード層にしてITO電極と主相であるPLZT相の間に挿入して 実験を行った。その際に、シード層の結晶化の有無、膜厚を変化させてその影 響について検討した。 5−2−1実験方法 成膜方法等は同じであるが今回はPLTシード層を350℃で前熱処理した だけの場合と早00℃でベロブスカイト化した場合を比較した。また、結晶化 した場合については前駆体溶液の濃度を1/3にして膜厚を42nmと25n mの2つについて比較した。これは4章にて比較しているが、膜厚が薄い方が (100)方向に配向する傾向が見られたために、より薄いシード層を用いる 90 事によって配向性が強誘電性の特性を良くするC軸に向くことを掛待した。実 験に用いた積層構造を図5.1に示す。 約42mm Type.1 PLT前駆体搾液(0.6n101/1)積層後、結晶化せずにPLZT層を積層 . 甘 ; 苓 謳 圭 嵩 嵩 … ; … ; ● 要■ 牲 串 ‡● ● ●● ■ ■ ● 椚汀 ● ■ ■ ■ ● ● ● 若 訂 ● . 認弼曹; 歪’拝 繭 壷 ● 封 却 ● ● 夏翫  ̄形亡 冴拓刀形名 石  ̄拓 ′1′笑 訟 抜 放 琵 抜 詔 ■材 ヽ S u b g t ra t e 約42nm Type.Z PLT前駆体汚液(0.6m01/l)積層後、結晶化した後にPLZT層を積層 : ‥ : ‥ :: : ‥ : ‥ : ‥: 乱 打 .芦 折 目 掌 : ; : ; :; : ; : ; : : ;: 通辞 紺 : ; : ; :; : ; : : :哉 評 膵 : : ; : ;: ; : : : : ● ● ● ● 孝弘は彪浣迂ゑ要 選抜監㌫搭な SubE; t rate Type.3 約25mm PLT前駆体掩蔽(0.2n101/l)積層後、結晶化した後にPLZT層を積層 図5.1 シングルシード法の積層構造 91 5−2−2.シングルシード法によるP L Z T薄膜の結晶化挙動 I TOコートガラス基板上に3種類の組成((20/20/80),(15●/5 3/47),(10/65/35))のP LT−P L Z T*5(T y p e.1, Ty p e.2,Ty p e.3)薄膜を調製し、500℃で1時間加熱処理した 場合のⅩRDパターンを、それぞれ図5.2,3,4に示す。また、このⅩ線回折パ ターンから結晶相を同定し●、まとめたものを表5.1に示す。 表 5.1各組成における500℃でアニールしたP LT−P L ZT*5薄膜お よびP L Z T*6薄膜の結晶相(I TOガラス基板上) 組成 ( 10/ 65/ 35)( 15/ 53/ 47)( ZO/ 20/ 80) 積層方法 PLZT米 6 Am A皿 月 皿 PLT− PLZT米 5 ( Type. 1) ●○ ●○ ○ PLT− PLZT米 5 ( Type. 2) 雷○ ●○ ○ PLT− PLZT米 5 〔 Type. 3) 〔) 0 . ○ 組成:(La/Zr/Ti) O PLZT Perovskite/●PLT Perovskite/An:仙orphous 92 O PLZT P erovsk ite 葺ITO eleetrod e き芯uOだHH 20 40 30 50 60 28(degree) 図 5.2 I TOガラス基板上に調製したP LT−P L Z T*5(20/20/ 80)薄膜のⅩ線回折パターン(500℃、1時間焼成) 93 寸の ︵領事匝壷〓′D00の︶∧1ふご土器直隠芯二宮撃控︵卜寸 \CS\:︶山井﹂﹁NJJ−トJJ吏J魂罵りー1婁哺KI 卜第〇トーC.山国 ︵冨誌名︶ 屯N ○山 O寸 AMSu叫uI O PL ZT PeroYSk ite ● PLT Perovsk ite ・ 米 ITO eleetrode 曇〓誓誌−uH 40 50 60 28 (degree) 図5.4ITOガラス基板上に調製したPLT−PLZT*5(10/65/ 35)薄膜のⅩ線回折パターン(500℃、1時間焼成) 95 図5.2,3,4及び表5.1から、P L ZTのみを積層させたP L ZLT膜では、5 00℃の焼成では各組成ともにアモルファスであった(第2章参照)のに対し、 P L Tシード層を1層導入したP LT−P L Z T*5膜(シングルシード法) では、500℃の焼成で各組成すべてベロブスカイト相のみを生成した。この 結果から、P LTシード層を最下層に1層導入することで、シード層がベロブ スカイト核生成サイトとして働き、P L ZT薄膜のベロブスカイト化温度を1 00℃以上低温化させたと考えられる。 また、導入したP LTシード層の加熱処理の違いに注目してTy p e.1と Ty p e.2を比較すると、各組成のPLT−P L ZT*5膜は、ベロブスカ イト相に結晶化していないシード層を導入したTy p e.1よりも、あらかじ め500℃でベロブスカイト結晶化した■pLTシード層を導入.したTyp e. 2の方が、ⅩRDパターンに示されたベロブスカイト相のピークの半価幅が小 さく、結晶性が向上していることが示された。 Ty p e.1のように、PLTシード層を結晶化させないで導入した場合、 焼成時にPLTの結晶化、すなわちベロブスカイト核形成サイトを得るための エネルギーが必要であるのに対し、Ty p e.2のようにP LTシード層をあ らかじめ結晶化させた場合は既にベロブスカイト核形成サイトを有している事 から、焼成時のPL ZT薄膜のベロブスカイト核形成に必要となるエネルギー が減少し低温形成が可能となるため、より結晶性が向上したものと考えられる。 しかし、Ty p e.1,Ty p e.2共に、(15/53/47)及び(1 0/65/35)組成のXRDパターンにはP L ZTベロブスカイト相に加え て、P LTシード層のベロブスカイト相も示された。このことは、本研究で用 いたP LT前駆体とP L ZT前駆体の固溶が困難であることを示していると考 えられる。 そこで、必要最小限のベロブスカイト核形成サイトを与え、PL Z T薄膜全 体の組成のずれを小さくするために、500℃であらかじめベロブスカイト相 に結晶化した薄いシード層を導入した場合がP LT−PL ZT*5(Ty p e. 3)膜である。 導入したP LTシード層の厚さの違いに注目して、T y p e.2からT y p e.3を比較すると、Ty p e.2では(15/53/47)及び(10/ 96 65/35)組成でP L ZTベロブスカイト相と共にP LTぺロブtスカイト相 が存在したのに対し、Ty p e.3では各組成ともにP L Z Tベロブスカイト 単相となった。このことから、P LTシード層は最小限のベロブスカイト核生 成サイトを与えるだけでよく、過剰な量のPLTシード層はPL ZTと固溶せ ずにPLTベロブスカイト相として存在し、電気特性にも影響を与えるものと 考えられる。 以上から、あらかじめベロブスカイト相に結晶化した薄いP LTシード層を 導入する方法(Ty p e.3)が、ベロブスカイトP L ZT薄膜を低温形成す るために最も効果的な方法であることがわかった。 また、Ty p e.2とTy p e.3のXRDパターンからP L ZTベロブス カイト相のピークの強度に注目すると、Ty p e.2に比べTy p e.3では 一般的に電気特性が向上すると思われる(100)面に選択配向する傾向にあ ることが示され、(10/65/35)組成のP L Z T薄膜が最もこの傾向が 顕著であった。このことは、前節で検討したPLT膜の厚さの違いにより、P LTの選択配向面が変化し、より薄いP LT膜の方が(100)面選択配向す る傾向にあるという結果を考慮に入れるとこ 導入したシード層を薄くしたこと から、Ty p e.2に比べTy p e.3のP LTシード層は、より(100) 面配向していたと予想され、(100)面配向したベロブスカイト核形成サイ トからP L ZTのベロブスカイト相が結晶成長したために、膜全体として(1 00)面選択配向したものと考えられる。 5−2−3.シングルシード法によるP L Z T薄膜の電気特性 500℃で1時間焼成した(20/20/80)組成と(10/65/35) 組成のP LT−P L ZT*5(Ty p e.1,Ty p e.2)膜のP−Eヒス テリシス曲線を図5.6,7に示し、500℃で1時間焼成した(20/20/8 0)、(15/53/47)、(10/65/35)組成のP LT−P L Z T*5 (Ty p e.3)膜のP−Eヒステリシス曲線を図5.7に示す。また、P LT −P L Z T*5(Ty p e.3)膜の誘電率と誘電損失を表5.2に示す。 97 表5.2− 500℃で焼成したPLT−PLZT*5(Type・.3)薄膜の誘 電率及び誘電損失 誘電 率 誘 電損 失 (2 0 / 2 0 / 8 0 ) 1 5 9 . 0 0 . 1 7 (1 5 / 5 3 / 4 ・7 ) 6 9 . 5 0 . 1 2 (1 0 / 6 5 / 3 5 ) 1 8 6 . 0 0 . 1 4 ・ 組 成 4 3 qム l 竃冒\U亀︺百〇両l当. 0 ﹂冨lOh −400−300−200−100 0 100 200 300 400 Electric Field(kV/cm) 図5.5 (20/20/80)組成PLT−PLZT*5薄膜のP−Eヒステ リシス曲線(500℃、1時間焼成) 98 l l N トー⊥ ⊂:⊃ トー N u u Polariヱatiom(〝C/¢虚) 1− ふ00−∽00−NOロー岩○ 岩O N00 u00 本00 E−eetricFieE ︵ k モ c m ︶ 因 ひよ ︵−○\のひ\∽∽︶ 欝熟P﹁↓−P ー﹂で封昏浴 ︵∽〇二︶パ.−昂溺涼熟︶ ゆり r N↓着∽劉藩8P−E打力サ 5 0 5 ︵叫冒\U邑︶百〇叫忘的召jOd −400 −300−200 −100 0 100 200 300 400 Electric Field(kV/cm) 図 5.7 各組成のPLT−PLZT*5薄膜(Ty p e.3)のP−Eヒステ リシス曲線(500℃、1時間焼成) 図5.5及び図5.6から、(20/20/80)組成,(10/65/35)組 成ともに、Ty p e.1に比べてTy p e.2の方が飽和分極値,残留分極値 ともに大きな値となった。これは、前述したTy p e.1とTy p e.2の結 晶性の違いが大きく影響していると思われ、Ty p e.2は結晶化したシード 層を導入したことで膜全体の結晶性がTy p e.1に比べ向上したことに伴い、 電気特性も向上したものと思われる。 100 また、図5.5,6,7から、(20/20/80)組成,(10/65ノ35)組 成ともに、Ty p e.1、Ty p e.2に比べTy p e.3の飽和分極値,残 留分極値が著しく大きくなっていることが分かる。Ty p e.1、Ty p e. 2はP L ZTベロブスカイト相とPLTベロブスカイト相が共存していたのに 対し、Ty p e.3はP LTシード層を薄くすることでP L ZTベロブスカイ ト単相の膜を得たことから、P LTベロブスカイト相の存在による電気特性の 低下を抑制できたと考えられる。加えて、Typ e.1、Ty p e.2に比べ Ty p e.3のP L ZT膜は、.一般に電気特性が向上するといわれている(1 00)面選択配向する傾向にあることも、大きな分極値が得られた理由のひと つと考えられる。 次に、図5.7から、組成の違いに注目してPLT−PL ZT*5(Ty p e. 3)膜のヒステリシスループを比較した場合、(10/65/35)組成のT y p e.3膜が(20/20/80),(15/53/47)組成に比べ、明ら かに大きな飽和分極値と残留分極値を示した。また、表 5.2 から、(20/2 0/80),(15/53/47)組成に比べて(10/65/35)組成 の方が大きな誘電率が得られたことが判り、(10/65/35)組成のP L T−P L ZT*5(Ty p e.3)膜が最も良好な誘電特性を示すことが明ら かとなった。 しかし、図 5.7 に見られるように、(10/65/35)組成のP LT−P L亭T*5(Ty p e.3)膜のヒステリシスループは分極が十分に飽和して いない。これは膜の結晶性等が不十分であることが原因と考えられ、さらに電 気特性を向上できるものと予想される。 5−3.マルチシー.ド法 5−3−1.実験方法 マルチシTド法は鈴木らがP ZTにてはじめて使用した方法で450℃とい う低温にて・単層ベロブスカイトの薄膜を得る事に成功している。3)この方法 は、シード層と主層を交互に所定の膜厚を得るまで積層する方法である。即ち, シード層の挿入する数を増やし核生成サイトを多く導入する事により,更なる 低温形成を行う事を狙った方法である。そのため組成については、シード層と 101 主相が混じりあう事を想定して積層回数や組成を考えて層構造を設計する必要 がある。今回は、P LTシード層とP L ZTの主層を3回ずつ積層する構造で 実験を行った。マルチシード法の積層構造を図5.8に示す。 Muldseedingmethod PLZT PLT PLZT PLT PLZT PLT ITO ‥ r三 G l衰岳. L 血 t atd∴ 止 1.11mm (Sodalimeglass) 図5.8 マルチシード法の積層構造 5−3−2.マルチシード法によるPL ZT薄膜の結晶化挙動 I TOコートガラス基板上に3種類の組成((20/20/80),.(15/ 53/47),(10/65/35))の(PLT−PL ZT)*3薄膜を調製 し、450℃∼600℃で1時間焼成し‘た場合のⅩ線回折パターンを図5.9に 示す。 図5.9から、各組成ともに450℃の焼成ではアモルファスであるのに対し、 500℃以上の焼成でベロブスカイト結晶相が見られ、600℃の焼成により 結晶性が向上したことが示された。このことから、シングルシード法と同様に マルチシード法もPLTシード層を導入することで、ベロブスカイト化温度を 100℃以上低温化できることが示された。 しかし、′各組成ともに500℃以上で焼成をしたものは、シード層であるP LTベロブスカイト相とPL ZTベロブスカイト相のピークが示され、P LT とPLZTが固溶せずにPLT層とPL ZT層が分離して存在しているものと 考えられた。 102 O PLZT PeroYSk ite ● PLT PeroYSkite 葺ITO ■ electrode 600℃ (20/20/80) 米 ○ ○ 500℃ 450℃ き叫Suβ已H (15/53/47) ○● 米 600℃ 米 ○● ○● 500℃ 450℃ (10/65/35) 600℃ ● ○● 500℃ 450℃ 20 40 30 50 60 2β(degree) 図 5.9 I TOコートガラス基板上に形成した(20/20/80)、(15/ 53/47)、(10/65/35)組成の(P LT−P L Z T)*3薄膜のX 線回折パターン(各温度、1時間焼成) 103 マルチシード法は、P L ZT層の上下にベロブスカイト核生成を与えること で、より低温結晶化及び結晶性の向上を期待した方法である。しかし、Ⅹ線回 折分析の結果からは、先に述べたシングルシード法の結果と同様に、本研究で 調製した前駆体溶液を使用した場合、焼成後もPLTとP L ZTは別々に存在 し、互いに固溶することが困難であると思われた。 そこで、600℃で1時間焼成した(20/20/80)組成の(P LT− P L ZT)*3薄膜をXP Sにより深さ方向の分析を行った。この結果を図 5.10 に示す。この図から、PLTとP L ZTの各層が固溶しないで別々に存 在していることが分かった。 −ⅩPS Sp OIs −ⅩPS Sp Zrふ …−Ⅹ門Sp T12p ‥‥m Sp −XPS Sp Pb4f −XPS Sp La4d ‥一一XPS SpIn3d 一一一一XPS Sp Sn3d Pt4f Mass Cone8ntratlon/・pOrCent 原子% エッチング時間(砂) 図5.10ITOコートガラス基板上に調整した(20/20/80)組成の (PLT−PLZT)*3薄膜(600℃1時間焼成)のXPSによる深さ方 ●向分析 104 5−3−3.マルチーシード法によるP L Z T薄膜の電気特性 1 600℃で1時間焼成した(20/20/80)組成の(P LT−P L ZT) *3薄膜のP−Eヒステリシス曲線を図5.11に示す。 5 0 5 ︵望モU亀︶百〇山l当叫↑吋lOh ー400−300 −200−100 0 100 200 300 400 Electric Field(kV/cm) 図 5.11(20/20/80)組成(PLT−P L ZT)*3薄膜のP−E ヒステリシス曲線 (600℃、1時間焼成) 図5.11に示されたように、ヒステリシス曲線を示したことから、(PLT− P L Z T)*3薄膜は強誘電性を有することが明らかになった。しかし、60 0℃で1時間焼成した(20/20/80)組成のPL Z T*6のP−Eヒス テリシス曲線 と比較すると、残留分極値が小さい値であった。これは、残留 分極値が小さいPLTベロブスカイト相がPLZTと固溶せずに層状に存在す るために、膜全体の残留分極値が低下したためと考えられる。 105 今まで述べてきた結果から、マルチシード法を用いた場合、王ングルシード 法と同様にP L ZTのベロブスカイト結晶化温度を500℃まで低温化する事 ができた。また、P LTとP L Z Tは固溶せずにP LT層とP L Z T層が交互 に積み重なった層状構造の膜が作製された。 マルチシード法を用いて調製したP LT−P L Z T層状構造膜は、P LTと P L ZTの固溶を抑制したという点で新しいデバイスへの応用も考えられるが、 本研究ではPLZTベロブスカイト単相の薄膜を形成することを目標としてい るので、マルチシード法についてはこれ以上の検討を加えなかった 5−4.まとめ いままで述べてきた事から、以下の結論が得られた。 ①シングルシード法にて500℃で単相ベロブスカイトで強誘電性を示すP L ZT薄膜を得る事ができた。 ②結晶化したシード層を用いた方が、より結晶性の良いPLZT薄膜を形成 できる。 ③シングルシード法において、シード層の膜厚は薄いほうがPLZTの単相 ベロブスカイトが得られる。厚い場合には、PLTのベロブスカイトのピ ークが見られる事からPLTとPLZTに層が分離して存在している事が 分かった。 ④マルチシード法を用いて500℃にて強誘電性を示すPLT−PLZT薄 膜を得る事ができた。 ⑤ 500℃ではベロブスカイト化したPLTとPLZTは固溶しない。 参考文献 1)JoonSungLee,ChangJungKim,DaeSungYoon,ChaunGiChoiandKwangsoo No,Jpn.J.Appl.Phys・,33,260−265(1994) 2)JoonSungLee,ChangJungKim,DaeSungYoon,ChaunGiChoiandKwangsoo No,Jpn.J.Appl.Phys・,34,1947−1951(1995) 3)H.Suzuki,S.Kaneko,K.MurakamiandT.Hayashi,Jpn・J・Appl・Phys・36(Par11,9B), 5803−5807(1997) 106 第6章鉛過剰前駆体からのシー下層を用いたPLZ T薄膜 の特性 6−1.はじめに 第3章、第4章で述べてきたように、結晶化したシード層を用いたり、鉛を 過剰に添加した前駆体溶液を用いると,低温にて単相ベロブスカイトのP L Z T薄膜を作製する事に効果のある事は分かった。また、第5章で述べたように シングルシード法の方が、単相ベロブスカイトのPL ZT薄膜を得られ易い事 が分かった。そこで、本章ではシングルシード法で結晶化したシード層を用い て、更に前駆体溶液中に鉛を過剰に添加した。低温形成したP L Z T薄膜の特 性について検討した。シード層については、PTとP LTの2つの薄膜につい て検討した。また、配向制御の目的でP bOをPT薄膜上に挿入したシード層 についても検討した。 6−2.P LTシード層を用いたP L Z T薄膜 6−2−1.実験方法 下記の断面構造にて、シード層は主相のP L ZTのアニール温度と同じ温度 で結晶化したものを用いる事にした。 PLZ T PLZ T PLZ T PLZ T PLZ T PL T 霜鳥轟 ’ ■ ■ ; ! ITO (h血umTinOxide) ITO ∴ ・ ・ 十 字 鴻 毎 轟頑 頑ねtd辛十 215nm RS9.0∼9.5Q/ロ 図6.1 P LT−P L Z T薄膜の断面構造 P LTシード層については0.1Mの溶液を使用した。その際の厚さは約2 5nmであった。そして、形成した薄膜の結晶化挙動および各種の特性につい て測定した結果を以下に示す。 107 6−2−2.結果と考察 6−2−2−1.鉛過剰添加が結晶化挙動に与える影響 鉛の過剰添加量を変えたときの結晶化挙動を下図に示す。 O PLZT . P e rovsk ite 葺ITO e leetrode 台完uO︸uH 20 30 40 50 60 20(degree) 図6.2 500℃で1時間焼成したPLTシード層上PLZT(10/65/ 35)薄膜の鉛過剰添加量を変えたときのⅩ線回折パターン 108 図6.2から鉛過剰量が10m01%までは(100)方向に配向しているが、 20m01%でその傾向が小さくなり、30m01%過剰では配向性がみられ なくなった。 これは、過剰鉛によって核生成サイトが下部電極付近だけでなく、上部電極 付近にも多く形成され結晶成長が促進する為、配向性が無くなるためと思われ る。 6−2−2−2.鉛過剰添加の表面に与える影響 500℃にて熱処理したP LT−P L Z T薄膜表面のS EMによる観察した 写真を下図に示す。 化学量論組成 鉛10m01%過剰 鉛20m01%過剰 鉛30m01%過剰 図 6.3 500℃で熱処理したP L Tシード層上P L Z T薄膜の表面S EM像 (500倍) 109 図6.3から鉛を過剰に添加することによって表面状態が変化している事が分 かる。C h a pi nらはP Z Tの組成を(75/25)、(50/50)、(25 /75)と変化させた場合、Z rリッチの方が核生成サイトが少ないためにロ ゼッタ状の表面を示し易いと述べている。3)今回調製した薄膜の組成は(1 0/65/35)とZ rリッチのために鉛過剰添加量によってロゼッタ状の表 面を示したのだと思われる。化学皇論組成では針状の結晶が見られ、鉛不足に よってルチルが表面に析出しているのではないかと推測している。 そこで、表面の組成を分析した。その結果を下表に示す。 表6.1 500℃で熱処理したPLT−PL Z T薄膜の組成分析結果 前駆体 鉛過 剰 量 (m o l ) 熱 処理 後 P b L a Z r T 0 90. 0 10 . 0 65. 0 1 0 99. 0 10 . 0 2 0 10 8 . 0 3 0 117 . 0 i P b L a Z r T i 35. 0 89. 5 10 . 5 64. 4 3 5. 6 65. 0 35. 0 95. 0 11. 2 6 3. 2 3 6. 8 10 . 0 65. 0 35 . 0 98. 1 12 . 7 6 3. 8 36. 2 10 . 0 65. 0 35 . 0 110 . 4 10 . 0 64 . 3 35. 7 表中の数字はAサイト、Bサイトを各100%と考えて換算した組成を示した。 表6.1より、500℃においては化学量論組成では鉛はそれほど蒸発していな い。しかし、鉛過剰量を増すと蒸発量が増加する傾向が見られた。一方、30 m01%では蒸発量が20m01%過剰に比べて増えていない事から、鉛過剰 添加量を増やしても,過剰な鉛が全て蒸発するのでは無いと思われる。 6−2−2−3.鉛過剰添加の電気特性に与える影響 鉛の過剰添加量を変えた際のP−Eヒステリシスループを図6.4に示す。 図6.4より化学皇論組成のP.(残留分極)は大きいが飽和した曲線は得られ なかった。10、20m01%過剰においてはP.は小さくなり飽和もしなか ったが、30m01%過剰においてほぼ飽和した曲線が得られた。これは,鉛 過剰添加により組成が強誘電性を示す領域になった為と推測している。表6.1 から,30m01%過剰の場合のAサイトのL a%は8.3%であり強誘電性 を示す領域になっていた。 110 0 ︵qB\UJuO二鳥NT忘一丘 −400 −300 −200 −100 0 100 200 300 400 EJectric field(KV/cm) 図 6.4 鉛過剰量によるP LTシード層上P L Z T薄膜のP−Eヒステリシス ループ 鉛の過剰添加量を変えた際の比誘電率と誘電損失を図6.5に示す。図6.5に 示すように誘電率は鉛の過剰添加量を増すと増加し、誘電損失は減少した。こ の原因は明確でないが、鉛の過剰添加量を増すと結晶化温度が低下するために、 同じ500℃の熱処理では30m01%過剰の方が結晶性が優れていたためと 推測される。また、同様に30m01%過剰の方が緻密な薄膜になっている事 が考えられる。 111 l 9 00 O 7 仁 U 5 O 4 誘電損失︵−an∂︶ O ■ ● nU 50 0 0 3 3 比誘電率︵Er︶ 3 nU ハ nU nU ム l 30 10 20 過剰鉛添加量(mol%) 図6.5 鉛過剰添加量が500℃で熱処理したPLTシード層上PLZT薄膜 の比誘電率と誘電損失に与える影響 pLT−PLZT薄膜の電気特性のまとめを表6・2に示す。 表6.2 PLT−PLZT薄膜の電気特性のまとめ 薄膜 P L T 一 P P P P P P P L L l L 2 L 3 Z T T − O L Z T T − 0 L Z T T − ・ O L Z T E r t a n ∂ 5 0 0 1 2 0 0 . 2 2 1 5 .0 2 2 0 5 0 0 1 7 0 0 .1 2 2 .0 1 2 0 5 0 0 2 2 0 0 .1 4 7 .0 1 4 0 5 0 0 3 6 0 0 . 0 5 1 3 .0 7 0 112 P. ( 〟C / cm 2) E。 ( KV/ cm ) 焼成温度 ( ℃) 6−2−2−5.鉛過剰添加が光学特性に与える影響 鉛の過剰添加量を変えた際の透過率を図6.6に示す。図6・6から全てのPL zT薄膜で可視範囲内で60%以上の透過率を得る事ができた。この事から・ 今回作製したPLZT薄膜は鉛過剰量に関わらず光学デバイスとして使える範 囲内の透過率が得られることが明らかとなった。 ︵ざ︶冨白虎ゴ叫白岩巴↑ 400 500 ‘00 700 800 Wavelemg仙叫m) 図6.6 500℃で熱処理した鉛過剰添加量を変えたPLTシード層上PLZ T薄膜の透過率 6−3.PTシード層を用いたPLZT薄膜 6−3−1.実験方法 pLZT薄膜を低温形成する為にPTシード層を用いることを試みた・その 断面構造を図6.7に示す。PTシード層はPLZTの焼成温度と同じ温度で結 晶化したものを用いる事にした。 113 ITO (hdiumTinOxide) 215mm RS9.0∼9.5Q/ロ 1.11m (SodalimedaSS) 図6.7 PT−P L Z T薄膜の断面構造 6−3−2.結果と考察 6−3−2−1.鉛過剰添加が結晶化挙動に与える影響 500℃で形成したP T−P L Z T薄膜のⅩ線回折パタpンとシード層をP LTで形成した場合6)の比較を図 6.8 に示す。全ての薄膜は単相ベロブスカ イトであり,配向性は見られなかった。次に450℃の焼成温度におけるP T −PL ZT薄膜のXRDパターンを図6.9に示す。シード層、主相ともに化学 量論組成の薄膜は450℃で非晶質であるが、シード層のみ鉛を30%過剰に した前駆体を用いた場合は単相ベロブスカイトになっている。そしてシード層、 主相ともに鉛を30%過剰にした前駆体を用いた場合も単相ベロブスカイトに なっている。結果として得られた全ての薄膜で顕著な配向性は見られなかった。 この結果を表6.3にまとめた。 表 6.3 P T−P L Z T薄膜の結晶化挙動まとめとP L Tシード層の場合と の比較 焼成温度 5 0 0 ℃ 4 5 0 ℃ P LT ・ P 3 0 L Z T ★5 6) P e PT ・ P L Z T ★5 P 3 0 で・ P L Z T ★5 P e A P e P e P e:ベロブスカイト A:非晶質 114 P 30 T ・ P 3 0 L Z T ★5 P e P e PTは鉛過剰の前駆体を用いると450℃で単相ベロブスカイトになる事が 分かっているので7)、それが核形成サイトとして働いた為に単相ベロブスカ イトが得られたものと推測される。PTをシード層に用いた場合に主相がベロ ブスカイト化し易いのは、P LTをシード層に用いた場合4)と同じである。 また、PLTをシード層にした場合、P LTとP L ZTは固溶し難い事のでは 無いかと推測された4)が,PTをシ∵ド層に用いるとP LTよりもP L Z T との固溶性が良いのでは無いかと言うことがP ZT薄膜形成の研究5)から推 測される。これは前駆体調製において,PT前駆体は分子設計されているのに 対し、PLT前駆体は元素が均一に分散しただけで分子設計されていないとい うことが影響したと推測している。したがって,PTをシード層に用いた方が PLTよりも低温にて単相のベロブスカイトが得られたのは前駆体の違いによ るものと推測している。 450℃で1時間焼成したP30T−P30L ZT薄膜と500℃で1時間 焼成したP30T−P30LZT薄膜およびP30T−P L ZT薄膜をXP S で深さ方向の分析を行った。その結果を図6.10から図6.15に示す。 115 O P LZT Pcrovskite X IT O cl“血ode 20 25 30 35 40 45 50 55 60 20(degree) 図6.8 PLZT薄膜のⅩ線回折パターンとPLTシード層PLZ T薄膜6)との比較(焼成温度は500℃) 116 O p LZ T P crovskitc 米 ITO el“血ode 20 25 30 35 40 45 50 55 60 2日(degree) 図 6.9 450℃で焼成したPTシード層を用いたPL ZT薄膜のⅩ線回折 パターン 117 八丈し†︷−てた卓− l‘粕 助仙叫蝕相川的 図6.10 450℃で焼成したP30T−P30L ZT薄膜の鉛のXP S スペクトル 蒜hU一合咋蔓■ 140 1JG りユ 恥鵬叩r加巧ytIVI 図6.11 500℃で焼成したP30T−P30L ZT薄膜の鉛のXP.S スペクトル 118 才︻さj塵l tdU りl 助山車血■αt亡VJ 図6.12 500℃で焼成したP30T−P L Z T薄膜の鉛のⅩP S スペクトル rb4…I■■!12p:Il Jn】止】21■b】止jl わ1dH4■ ぎー︶等唱亡一己ぢ−亨U 5肌旧 lt川M 151J州 別U00 ヱ5仇IJ JWWI EtchTinCl甘⊂仰山I 図 6.13 500℃で焼成したP30T−P30L Z T薄膜のXP Sによる深 さ方向分析 119 PbdmlI■■●ri2西之 In九日u■■Ld3d:糾 白丸穐51 ︻一号眉一石等OU 図6.14 500℃で焼成したP30T−P30LZT薄膜のXPS による深・さ方向分析 町仙叫■11i柑・67 183山蠣■『L▲地相 aJ止TUl Jも毒叫モー■変奏VU 図6.15 500℃で焼成したP30T−PLZT薄膜のXPSによる深さ方 向分析 120 また、PT−PLZT薄膜をEDX装置で組成分析した値を表6!4に示す。 表6.4 PT−PLZT薄膜の組成分析結果 薄膜 熱処 理後 ( 原 子 %) 焼 成 温度 ( ℃) P b L a 50 0 50 0 4 50 55. 84 49. 59 54 . 52 4. 46 4. 58 P 3 0 T −. P 3 0 L Z T P 3 0 T −P L Z T P 3 0 T −P 3 0 L Z T 3. 69 Z r 25. 34 24. 66 23 . 00 T i 14 . 4章 2 1. 17 18 . 79 pT・TP30LZTおよびP30T−P30LZT薄膜の組成の設計値は鉛 以外は蒸発しないと考えるとPLZT(8・3/54・2/45・8)となる。 そこで、表6.4の分析値をAサイトを100%・Bサイトを97・5%と考え て残りをPbOとLa203と考えて換算した値を表6・5に示す 表6.5 PT−PLZT薄膜の組成分析の換算結果 薄膜 P 30で一 P 30 L Z T P 30 T − P L ZT P 30T ・ P 3 0L Z T 熱 処 理後 ( 原 子 %) 焼 成温 度 ( ℃) P b L a Z r T i P b O L a20 3 500 37 . 44 3. 39 25. 34 14 . 47 18 . 40 1. 07 50 0 4 3. 10 3. 90 24. 66 2 1. 17 6. 49 0. 68 4 50 39. 30 3. 56 23 . 00 18 . 79 15 . 22 0. 13 鉛が全て蒸発しなかったと考えた場合・過剰な鉛の割合はP30T−P30 LZT薄膜は12.2%、P30T−PLZT薄膜は2・5%であるが分析値 ではPbOの割合がそれ以上になっていた。これは分析手法によって上層部の 元素を多く検出している為と考えられる。また、表6・4を更にAサイト・Bサ イトを共に100%として換算した値を表6・6に示す。 表6.6 PT−PLZT薄膜の組成分析の換算結果 薄膜 P 3 0 T −P 3 0 L Z T P 3 0 T −P L Z T P 3 0 T −P ’ 3 0 L Z T 焼 成温 度 ( ℃) 5 00 500 45q P b 9 1. 7 9 1. 7 9 1. 7 熱処 理 後 ( %) Z r L a 8. 3 8. 3 8. 3 6 3. 7 53. 8 55. 0 T i 36 て 3 46・ 2 4 5・ 0 450℃で焼成したP30TニP30LZT薄膜と500℃で焼成した・P3 0T−PLZT薄膜はほぼ設計どおりの組成となっている。しかし、500℃ ■ 121 で焼成したP30T−P30LZT薄膜については図6.14の不PSの深さ方 向分析の結果からTiが上層部に拡散してきていないことによってこのような 結果が得られたのだと思われるが、その理由については分かっていない。 6−3−2−2.鉛過剰添加の電気特性に与える影響 500℃で焼成したPT−P L Z T薄膜とP LT−P30L Z T薄膜6)のP− Eヒステリシスループを図 6.16 に示す。450℃で焼成したP・T−P L Z T薄 膜のP−Eヒステリシスループを図6.17に示す。 図 6.16 より、500℃の焼成ではP30T−P30L ZT薄膜でほぼ飽和した P−Eヒステリシスループが得られた。このヒステリシスループはP LTをシ ード層に用いた場合とほぼ同様な結果であった。図 6.17 より・、450℃の焼成 では化学量論組成では強誘電性を示さなかったが、シード層のみ鉛過剰の前駆 体を使用した場合は少し強誘電性を示し、P30T−P30LZT薄膜ではば 飽和したP−Eヒステリシスループが得られた。これは、組成分析の結果から・ 強誘電性を示す組成が変化した為と推測している。また,過剰鉛量が多いほど 結晶化温度が低下する事から8)、450℃という低温では鉛の添加量が多い方が 結晶化が進み、より緻密で結晶性の良い薄膜が得られた為と推測している。こ の結果は図6.8,9のⅩ線回折の結果とほぼ一致している。 結果として得られたPT−PL ZT薄膜の誘電特性と強誘電体特性を表 6.7 に示す。 122 40 30 ロ PT −PLZT ヽ ゝ _ ▼ヽ ▼ △ P30T −PLZT J ︹N転\uヱ uqコ弱丁石一口L 20 10 O P30T −P30LZT X PLT −P30LI T − ヽ ゝ 0 10 \ 20 3 喝 − ヽ ヽ′ 「k ■ 00 − 300 − 200 −100 0 100 200 300 ■ 4 0 EIedricFieLd(KVJtm) 図 6.16 PLZT薄膜のP−EヒステリシスループとPLTシード層PLZ T薄膜6)との比較(焼成温度は5・00℃) 123 × PT −PLZT △ P30T −PLZT 4 2 0 2 4 ︹り5\uヱuロコdHエロ一口d ・ O P30T −P30LZT 一人人八 へ上 Jt Y _ l_ 一ヽ : く ノ ヽへ ’ ヽ ’ l ♂ ○ −200 −100 0 100 200 300 400 E ectrjcFieId(KV/cm) 図 6.17 450℃で焼成したPTシード層を用いたP L ZT薄膜のP−Eヒステ リシスループ 124 表6.7 PT−PLZT薄膜の電気特性のまとめと他の文献値との比較 焼 成温 度 ( ℃) PT ・ P L ZT P 3 0 で− P L ZT P 30T ・ P 30 L Z T PT ・ P L ZT P 3 0 で・ P L ZT P 30T ・ P 30 L Z T P LT ・ 6) P 30 L Z T P L Z T 9) ( 9/ 6 5/ 35) er ta n ∂ P. ( 〝C / cm 2) E 。 ( K V / C 甲_ ) 4 50 86 0. 11 0. 3 80 450 10 0 0. 09 0. 5 80 450 . 134 0. 08 2. 0 10 0 50 0 100 0. 08 0. 7 90 50 0 122 0. 12 1. 1 10 0 5 00 36 0 0. 08 15. 0 10 0 50 0 40 3 0. 05 13 . 0 70 70 0 9 10 0. 05 5. 0 44 Te。We eらのゾルゲル法によるPLZTの研究によれば、700℃で焼成 したPLZT(9/65/35)薄膜については誘電率は約700前後、誘電 損失は約0.06、残留分極は約6LLC/cm2、抗電界約60KV/cmが 得られている。9)本研究にてPLTをシード層に用いて500℃の焼成でP LZT薄膜については誘電率は約400前後、誘電損失は約0・05、残留分 極は約13FLC/cm2、抗電界約70KV/cmが得られている。6)本研究 ではPTシード層および主相のPLZTともに鉛を30m01%過剰に添加し た前駆体を用いた場合、500℃の焼成で誘電率は約360前後・誘電損失は約 0.08、残留分極は約15LLC/cm2、抗電界約110KV/cmが得ら れた。この結果から、500℃の焼成でPTシード層を用いてPLTシード層の 場合とほぼ同じ値が得られたと思われる。この結果から・焼成温度500℃で従 来の研究、700℃の焼成で得たPLZT薄膜とほぼ同じ結晶他を持つ薄膜が得 られたと考えられる。PTシード層および主相のPLZTともに鉛を30m0 1%過剰に添加した前駆体を用いた場合、450℃の焼成で誘電率は約100前 後、誘電損失は約0・08、残留分極は約2LLC/cm2・抗電界約100K v/cmが得られた。この薄膜の誘電率が500℃に比較して小さいのは焼成温 度が低いため、結晶性が悪いことと鍬密性が低い事が原因では無いかと推測し 125 ている。本薄膜の強誘電体メモリーへの応用を考えた場合、FET型強誘電体 メモリーにおいては残留分極1〝C/cm2以下でも使用できる事。また・鈴 木らの研究でPZT薄膜において基板をソーダライムガラスに透明電極として ITOを成膜したものと強誘電体メモリーにおいて使用される白金電極付きシ リコン基板上の比較から白金電極付きシリコン基板上ではソーダライムガラス に透明電極としてITOを成膜した基板の約2倍の残留分極が認められている。 10)これらのことから、450℃で焼成したP30T−P30LZT薄膜の残 留分極は約2〝C/cm2と小さいが、白金電極付きシリコン基板上では充分 にFET型強誘電体メモリーへの応用は期待できる。 6−4.PT−PbOシード層を用いたPLZT薄膜 6−4−1.実験方法 配向制御の為に,3章で述べたa軸のPLZTに格子定数の近いPbO薄膜 を化学量論組成のPTシード層上に挿入し・更にその上にPLZT薄膜を形成 することを試みた.その断面構造を図6・18に示す。本シード層上のPLZT 薄膜について,結晶化挙動およびその薄膜特性を測定した・ 図6.18 PT−PbOシード層断面図 6−4−2.−結果と考察 6−4−2−1.PbOによる配向制御 ITOコートガラス基板上に2種類の組成(化学量論組成・鉛成分30m0 1%過剰組成)のPT層を1層導入し・その上に予め420℃で1時間加熱処 126 理したPbO層をシード層として1層導入した。更にその上に化学量論組成の pLZT層を5層積層させたPLZT薄膜(7層)を450℃∼500℃で1 時間加熱処理した場合のⅩ線回折パターンを図6・19に示す。 28(degree) 図6.19 450℃および500℃で焼成したPT−PbOシード層を用いた P・LZT薄膜のⅩ線回折パターン これらの結果から、PbOをシード層として導入すると450℃以上の焼成 でa軸に選択配向性を示すことが分かった。そして、a軸への配向度につい 127 てPTシード層のみの場合と比較したものを表6・8にまとめる。. 表6.8に示されるように、P bOをシード層に導入するとa軸への配向性が 高くなっており、配向制御に効果がある事が示された。また、P bOをシード 層に導入した場合には鉛をP L ZT層に30m01%過剰にした前駆体を用い ても配向性が大きく変化しない事から、配向制御にはシード層とPL ZT層の 界面の制御が非常に重要である事が示された。 この結果から、P bOをシード層として導入すると450℃以上の焼成でa 軸に選択配向し易い単相ベロブスカイトのPL ZT薄膜を得られることが分か った。a軸に配向した理由は、正方晶P bOの(100)面とPL ZTの(1 00)面との格子整合により、PLZTのt(100)面が成長したことが考え られる。 表6.8 P bO層の有無によるP L ZT薄膜の配向度 焼成温度 PT− ・P L Z T 5 0 0 ℃ 0. 244 4 5 0 ℃ − P 30 T ・ P L ZT P 30 T − P 3 0L Z T PT・ P bO − P L ZT 0. 3 11 0. 2 38 0. 6 44 0. 3 18 0. 2 23 0. 646 P 3 0 で− P bO ・ P L ZT 0. 62 8 0. 6 47 6−4−2−2.PT−P bOシード層を用いたP L ZT薄膜の電気特性 次に、本PL ZT薄膜(7層)を450℃∼500℃で1時間焼成した場合 のヒステリシスループを図6.20に、強誘電特性および誘電特性を表6.9に示 す。図 6.20から、より高温で焼成したものの方が残留分極値が大きいことが わかった。 表6.9 PT−P bO−PL ZT薄膜の電気特性のまとめ 焼 成 温度 . P L ZT P 30 T − P bO 一 P L ZT PT ・ PbO ・ P L ZT P 3 0T ・ P bO E 。 ( K V / cm ) ta n ∂ ■ 450 79 . 2 0. 11 0. 7 70 450 68 . 4 0. 09 0. 9 12 0 50 0 96 . 3 0. 13 1. 5 1 10 50 0 7 7. 4 0. 08 2. 2 10 0 ( ℃) PT ・ P bO P . ( 〝C / cm 2) Er . P L ZT 128 ● 1× PT − PbO 一 円_ ZT− 450 6 ♂ ★ P30T − PbO− PLZT−450 △ PT− PbO 一 札_ ZT−500 ︵N壱古ヱu白石qH〓中一Qd 4 O P30T− PbO− PLZT−500 2 l ■ 」 − ヽ ヽ 0 ヽ rH1 ■ ▲ ヽ ・ 2 _ −_ ▼ ▼ 1 ・ 4 ♂ J■ ■ヽ . ・ 6 均 0 0 − 3 0 0 − 2 0 0 − 1 0 0 0 1 0 0 2 0 0 3 0 0 4 0 ElectricField(kV/cm) 図 6.20 450℃および5、00℃で焼成したPT−P bOシード層を用いた PL ZT薄膜のP−Eヒステリシスループ 表6.9より、単にP bOをPTシード層上に挿入しただけでは結晶性は不完 全であると思われた。一方、配向制御された膜の方が、−配向性の低い薄膜より 残留分極値が大きくなった理由として、PbOが過剰な鉛成分となり・組成に 影響を与えた為ではないかと推測される。 129 6−5.まとめ 今まで述べてきた事から、以下の結果を得た。 ①pLTシード層を用いたP L ZT薄膜 1) 前駆体溶液中に鉛を過剰に添加する事でP L Z T薄膜の結晶化温度が 低下する事が分かった。 2) 500℃で結晶化したPLTシー.ド層上に強誘電性を示すPLZT薄 膜を形成できち。 3) 500℃で形成したP L ZT薄膜は、鉛を30m01%過剰に添加し た時に、ほぼ飽和したP−Eヒステリシスループが得られた。その薄膜の■ 誘電率は約360前後、誘電損失は約0.05、残留分極は約13〝C/ cm2、抗電界約70KV/cmが得られた。 4) 化学量論組成のPL ZT薄膜の透過率は可視範囲内で60%以上であ り、光学デバイスとしては使える可能性がある。 ②pTシード層を用いたPL ZT薄膜 1) シード層及び主相に30%鉛過剰な前駆体溶液を使用する事によって、 450℃のアニールで強誘電特性を示す単相ベロブスカイトP L Z T薄膜 を得た。その薄膜の誘電率は約100前後、誘電損失は約0.08、残留 分極は約2JLC/cm2、抗電界約100KV/cmが得られた。 2) P.Tをシード層として使用する事で、500℃のアニールで単相ベロ ブスカイトP L Z T薄膜を得た。 3) シード層及び主相に30%鉛過剰な前駆体溶液を使用する事によって、 500℃のアニールで強誘電特性を示す単相ベロブスカイトP L Z T薄膜 を得た。その薄膜の誘電率は約360前後、誘電損失は約0.08、残留 分極は約15LLC/cm2、抗電界約110KV/cmが得られた。 ③pT−P bOシード層を用いたPL ZT薄膜 1)PT−P bOシード層を使用する事によって、450℃のアニールで強誘 電特性を示す(100)方向に配向した単相ベロブスカイトPL ZT薄膜 を得た。PTシード層に30%鉛過剰な前駆体溶液を使用した薄膜の誘電 率は約70前後、誘電損失は約0.09、残留分極は約0.9〝C/cm 2、抗電界約120KV/c mが得られた。 130 2)PT−PbOシード層を使用する事によって、500℃のア=t−ルで強誘 電特性を示す(100)方向に配向した単相ベロブスカイトPLZT薄膜 を得た・。PTシード層に30%鉛過剰な前駆体溶液を使用した薄膜の誘電 率は約80前後、誘電損失は約0・08、残留分極は約2・2〝C/cm 2、抗電界約100KV/cmが得られた。 3)PbOをシード層と主相の間に挿入する事で、(100)方向に配向した 薄膜を得る事ができる事が分かったb これらの事から,下記の結論を得た・ Ⅰ.シード層の導入により,ベロブスカイト化温度を下げる事ができた・PT シードを用いる事により,450℃で単相ベロブスカイトPLZT薄膜を得ら れた。PLTシpドを用.”る事により・500℃で単相ベロブスカイトPLZ T薄膜を得られた。 Ⅱ.PbO導入は配向制御に効果がある。 Ⅲ.鉛過剰添加量を増やすと配向性は小さくなる。 Ⅳ.鉛過剰添加により,500℃で強誘電性を示すPLZT薄膜を得られた。 V.光学デバイスに使用可能と思われる可視範囲内にて60%以上の透過率を 示すPLZT薄膜を50d’℃ゐ焼成で得られた。 参考文献 1)T.Tani,Z・XuandD・A・Payne,Mat・Res・Symp・Proc・・310(1993)269 2)J.S.Lee,C・J・Kim,D・S・Yoon・C・J・Choi・J・M・Kim and K・No, Jpn.J.Appl.Phys・,33(1994)260 3)J・S・Lee,C・J・Kim・D・S・Yoon・C・J・Choi,J・M・Kim and K・No・ Jpn.J.Appl.Phys・,34(1995)1947 4)T.Hirano,H・Kawai・H・Suzuki・S・Kaneko and T・Wada・ Korean.J.Ceram.,5【11(1999)50 5)H.$uzuki,M・B・Othman・K・Murakami・S・Kaneko and T・Hayashi, Jpn.J.Appl.Phys・,35(1995)4896 6)T.Hirano,H・Kawai・H・Suzuki・S・Kaneko and T・Wada・ Ferroelectrics,231(1999)211 131 7)T.Hirano,H.Kawai,H.Suzuki,S.Kaneko and.T・Wada,Key Engineering Materials,169・170(1999)127 8)T.Hirano,H.Kawai,H.Suzuki,S・KanekoandT・Wada,Jpn・J・Appl・Phys・・ 38(1999)5354 9)G.Teowee,E.L.Quackenbush,C.D.Baertlein,J・M・Boulton,E・A・Kneerand D.R.Uhlmann,Mat.ReS.Soc.Symp.Proc.361,433(1995) 10)H.Suzuki,T.Koizumi,Y.Kondo and S・Kaneko,Journalof European CeramicSociety,19,1397・1401(1999)・ 132 第7章・総括 7−1.結論 本研究の目的は低温で優れた特性のPLZT薄膜を得る事である。その為に・ 低温形成が期待できるCSD法を採用した。その上、シ「ド層の導入と前駆体 溶液中に鉛過剰添加する事によって更なる低温形成を試みた。また・特性向上 の為に、配向制御を目的としてPbO膜を導入した。第2章から第6章まで述 べた結果を下に示す一覧表にまとめる。 表7.1PLZT(10′65′35)薄膜の低温形成まとめ P e化温 強誘電 性 度( ℃) 手法 p L之丁単相 鉛過剰添加 P LT シード層・ P LT シード層+鉛過剰添加 PT シード層 PT シード層+鉛過剰添加 ( 10 9 ) 6 50 600 ■ ■ ■ − ◎ ■ − ○ 50 0 5 00 450 ○ ◎ ◎ ○ ○ ◎ ○ q ○_ 鱒 50 0 450 45 0 PT シード層+P bO 配向制御 配向荘 ○ ○ pe化温度:ベロブスカイト化温度 ◎:傾向大 ○:傾向有 この表で示すように,下記の結論を得ることができた。 ①シード層導入はCSD法でPLZT薄膜を低温形成する場合・非常に効果が ぁる。PTシード層を用いた場合に、単相ベロブスカイトPLZT薄膜を従 来よりも200℃も低い450℃の焼成温度で作製できた。すなわち、シー ド層の導入による核形成サイトの生成は低温形成に効果のある事が示された。 133 ②前駆体溶液中に鉛を過剰に添加する事はPLZ.T薄膜の低温形成に効果があ る。鉛を過剰に添加するだけで、600℃の焼成温度で単相ベロブスカイト P L Z T薄膜を作製できた。 ③p bOを挿入することは、配向制御に効果がある。PTシード層上にP bO を挿入する事でa軸に配向する傾向のあるPLZT薄膜を作製できた。 ④前駆体溶液中に鉛を過剰に添加する事により、PLZTの組成を制御でき、 強誘電性発現する事ができる。 ⑤前駆体溶液中に鉛を過剰に添加する事により、PLZTの配向性は小さくな る。 ⑥シングルシpド法で低温にて単相ベロブスカイトのPLZT薄膜を得る事が できる事が分かった。 ⑦上記の手法と効果の関係を組み合わせることで、低温で優れた特性を持つP L ZT薄膜を得る事が可能となった。 7−2.今後の課題 今後、PLZT薄膜を実用化していく為には、下記の事が課題と思われる。 ①PLZT薄膜の電気光学効果の確認 PLZT薄膜の応用については、強誘電体メモリーと光学的応用が考えられ るが、本研究では強誘電体特性と誘電特性および透過率の測定になっている。 PLZT薄膜の特徴の一つである電気光学効果の測定には至っていない。電 気光学効果の測定の為には、膜厚の検討や更なる組成の検討が必要になると 考えられる。また、本研究において用いたシード層が電気光学効果に与える 影響についても検討する必要があると思われる。 ②エタノール系PLZT前駆体溶液の検討 今回は2−メトキシエタノール系を溶媒にしたPLZT前駆体を用いたので・ 側鎖に大きめのメトキシ基が付き、分子設計上必ずしも満足のいくものでは 無かった。そこで、分子設計の容易なエタノール系にて前駆体溶液を作製で きれば、更なる低温化や特性向上が図れるのではないかと思われる。 ③鉛の過剰添加量の最適化及び低減 環境問題がクローズアップされる中で、鉛の使用については低減もしくは鉛 134 を用いない材料の開発が進んでいる。本研究では鉛系の強誘電体であるPL ZTを対象にして、更に鉛を前駆体溶液中に過剰に添加する事を検討した。 そこで、実用化に当っては鉛の過剰添加について、更なる最適化や低減方法 を考える必要性がある。 ④シード層を含めた積層構造の検討 本研究ではシングルシード法とマルチシード法の比較を行い、積層構造の検 討を行っ.たが1シード層の挿入位置、厚さや鉛の過剰添加量等、更なる検討 を加えて良い特性を出す事が期待できる。 (9最適熱処理方法の検討 プ白セス時間の短縮やより良い特性を求めてRTA(Rapid Thermal Annealing)や雰囲気調整等についても、多くの研究が行われている。本研 究では、熱処理プロセスについての検討は少なかった。しかし、実用化に当 ってはシード層を用いるが故に検討しなければいけない課題ではある。した がって、熱処理方法についても検討を加える事でより低温でかっより短時間 にてより良い特性のPLZT薄膜を得る事は工業的に価値がある。 135 発表論文 1)“EffectofSeedingLayeronPreparationofPLZTThinFilmsbySol−Gel Method,,,Tomio Hirano,HirokiKawai,Hisao Suzuki,ShojiKaneko and TatsuyaWada,J・Korean・Ceram・,5[1]50−54(1999)(第2章、第5章) 2)“0rientationandDielectricPropertiesofSol−GelDerivedPbTiO3Thin Film,,,Tomio Hirano,Hiroki Kawai,Hisao Suzuki,Shoji Kaneko and TatsuyaWada,KeyEngineeringMaterials,16,・170・127−130(1999)(第3 章) 3)・‘LowTemperatureProcessingofSol二GelDerivedPLZTThinFilm,,, Tomio Hirano,Hiroki Kawai,Hisao Suzuki,Shoji Kaneko and Tatsuya Wada,FerrOelectrics,.231,211−216(1999)(第4章) 4)“EffectofExcess LeadAddition onProcessingofSol−GelDerived Lanthanum−Modified Lead Zirconate Titanate Thin FilmM,Tomio Hirano, Hiroki Kawai,Hisao Suzuki;Shoji Kaneko and Tatsuya Wada・ Jpn.J.Appl・Phys・,鱒,5354−5357(1999)(第4章、第6章) 5)“PTシード層を用‘いたCSD法PLZT薄膜の低温形成と配向制 御”,Jpn.J.Ceram.Soc・,平野 富夫・吉見 靖隆・鈴木 久男・金子 正治(投 稿中)(第3章、第6章) 136 学会発表 1)“EffectofSeedingLayer・OnPreparationofPLZTThinFilmsbySol−Gel MethodM,The3rdInternatinalMeetingofPacificRimCeramiCSocieties, Kyongju,Korea(1998) 2)“ゾルゲル法PbTiO。薄膜の配向性と誘電特性”、第18回電子材 料研究.討論会、川崎(1998) 3)“processingofSol−GelDcrivedPbxLal.X(ZryTil.y)03ThinFilms”,2nd AsianMeeting.on’FerroelectricsInternatinal,Singapore(1998) 4)“ゾルゲル法PLZT薄膜の低温形成た与える鉛過剰添加効果”、第 16回強誘電体応用会議、京都(1999) 137 謝辞 本研究を通じて声年間、終始御指導下さいました金子正治教授、鈴木久男助 教授に心から感謝致し●ます。そして、研究等の良き相談相手となってくれた、 本研究室の修士過程卒業生である加納浩樹さん、川合裕輝さん、前田将俊さん、 亀井博元さん、国枝雅文さん、小泉貴宏さん、修士過程の大野智也さんト吉見 靖隆さん、小川健さんに厚く御礼申し上げます。また、大学で研究活動を行う 事を快く許し、協力して頂いた矢崎計器㈱の飯塚事業部長をはじめとする上司 の方々および実験等に協力して頂いた和田達也さんをはじめとする矢崎計器㈱ の同僚に感謝します。最後に、私生活の中で惜しみなく協力してくれた家族と 最愛の妻やす子に感謝の意を表すと共に本論文を捧げます。 2000年9月 平野 富夫 138
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