住みたい東京(3) 伊藤 滋

論考
住みたい東京 ⑶ 東京に向けた 10 の提案
都市計画家・伊藤
滋
①
最小敷地と最低限敷地について
私が最低限敷地規模の必要性をはじめて感じたのは 40 歳
の頃であった。後に大阪大学の教授になる建築家の東孝光
さんの自邸「塔の家」
( 1966 年 )を見に行ったときである。
その住宅は青山通りに面した渋谷区神宮前に建てられてい
た。 6 坪( 約 20 ㎡ )にも満たない狭隘な敷地に地上 5 階・地
下 1 階建ての鉄筋コンクリートの住宅が完成していた。東
さんはこれを「最小限住宅」と名付けていた。私は、東さ
んはなかなかチャレンジ精神あふれる設計をしたと思った。
しかし、その後のペンシルビルの乱立を見るにつけて私は、
建築基準法には敷地の規模についてなんの定めもないこと
に違和感を覚えるようになった。
伊藤 滋(いとう・しげる)
1931 年東京生まれ。55 年東京大学農学部林学科卒業。
57 年同大工学部建築学科卒業。62 年同大大学院工学
系研究科博士課程建築学専攻修了。工学博士。63 ~
65 年 MIT・ハーバード大学共同都市研究所客員研究員。
65 年東京大学工学部都市工学科助教授、81 年同大同
学部教授。92 年同大名誉教授。92 年 から 慶應義塾大
学教授。2001 年から早稲田大学教授。財務省国有財産
に 関 する 有識者会議座長、都市計画家協会会長、内閣
官房都市再生戦略 チーム 座長、日本相撲協会理事 など
を 歴任。現在、早稲田大学特命教授、東京大学名誉教
授、都市防災研究所会長、再開発 コーディネーター 協
会会長、日工組社会安全財団理事長、日本地域開発 セ
ンター 評議員会長、 アジア 防災 センター・ センター 長、
2030 年の東京都心市街地像研究会座長。主な作品に「千
里 ニュータウン 中央地区 センター 設計」「山形市都市基
本計画(三浦記念賞)
」「浦安地区住宅地基本設計」 ほ
か多数。主な著作に『提言・都市創造』
(晶文社)、
『人間・
都市・未来 を 考 える 』
『東京育 ちの 東京論』(PHP 研究
所)
、
『市民参加 の 都市計画』(早稲田大学出版会)、『東
京 のグランドデザイン 』(慶応大学出版会)、『昭和 のま
ちの 物語』
( ぎょうせい )
、
『東京、 きのう 今日 あした 』
(NTT 出版)
、
『東日本大震災からの復興覚書』(万来社)、
『東日本大震災 復興 への 提言―持続可能 な 経済社会 の
構築』
(共著、東京大学出版会)
、
『 たたかう 東京』
(鹿
島出版社)
、
『森林と水源地』(万来舎)などがある。
東京オリンピックの翌年、私はヨーロッパの街街を見て
歩き、石造りの長屋の建物が整然と建ち並ぶ街並みに強烈
な印象を受けた。これに対して東京の市街地の狭隘敷地に
建つ建物がそのまま生き残るのであれば、東京の街並みは
いつまでも劣悪なままになるに違いないと思った。このよ
うな敷地が狭隘である問題は、第一種低層住居専用地域( 一
低専地域)で起きている。それは「ペンシル戸建てハウス」だ。
容積率が 100 %の地域で敷地が 60 坪あったものを三分割し、
20 坪の細長いうなぎの寝床のような敷地にする例はよくあ
る。そこに 3 階建ての住宅が建てられている。建ぺい率 60
%に 12 坪の住宅を建て、2 階の 8 坪の天井裏にペントハウ
スと称して小屋裏の部屋をつくる住宅が当たり前になった。
敷地の最小規模に関しては、商業地域、準工業地域にお
いても、市街地に家を建てるときには必ず守るべき基準が
あってしかるべきだと思う。商業地域では、間口 3 間( 5.4m )
×奥行き 6 間( 10.8m )で最小敷地は 18 坪( 約 60 ㎡ )くら
いではないかと思う。
例えば、青山通りに面した容積率 400 %か 500 %の商業
地域には、間口 2 間( 3.6m )で 8 階~ 9 階建て( 33m )とい
うペンシルビルが少なからずある。その細長比は 8 ~ 9 であ
る。このように細長ければ私は、大地震に備えていくら耐
震性能を高めておいてもなんらかの影響があると思ってい
る。あまりに細長い建物は、構造的に見ても建てさせない
規制が必要だと思う。間口が 2 間しかなく、エレベーターと
37
住みたい東京⑶
階段で 1 間使うと残り 1 間で商売をしている商業店舗を見か
採用している。しかし、23 区の多くの区の最低限敷地規模は、
ならないメリットもある。
の違いだけである。それくらいの違いであれば、地区計画
けることがあるが、あれはもはやルール違反である。だか
15 ~ 16 坪( 約 50 ㎡~ 53 ㎡ )である。私の提唱する最低限
また、区単位であれば取引量もそれほど大掛かりになる
を用いることによって第一種と第二種の差異は解消できる。
ら間口は最低でも 3 間は必要だ。
敷地規模の 35 坪には遠く及ばない。こういった規制値では、
心配もない。例えば、中野駅の南側の住宅地で 200 %の容
このような第一種と第二種間の建築物の規模や用途の差
戦前から私が大学院生だった 1952 ~ 53 ( 昭和 27 ~ 28 )
建築敷地は 50 ㎡前後で構わないという印象を多くの人に与
積率があり、街並みを守るために高い建物を建てさせない
は、「中高層住居専用地域」や「住居地域」でも同様である。
年頃までは、私の記憶によれば、宅地の建ぺい率は敷地面
えかねない。この敷地規模規制については、区では政治的
と考えて、容積率を 50 %下げようとしたとしよう。中野区
したがって、第二種の低層住居・中高層住居・住居そして準
積から緑化分の 10 坪( 33 ㎡ )を差し引くと定めていたと思
な利害関係が影響してしまうので、東京都が 23 区全域に対
であるから、それを鍋屋横丁の商店街に容積移転すること
住居の 4 用途地域を第一種に吸収してしまえば、用途地域は
う。例えば、 50 坪の敷地で建ぺい率 60 %の場合は、( 50 坪
応した、複数の最低限敷地規模を定めるべきであろう。
ができる。このように区単位で容積移転を考えれば、事業
8 種類で収まることになる。整理すれば、①低層住居専用地
- 10 坪 )×60 %= 24 坪が建物を建てられる敷地とみなし
規模も小さく実現可能な再開発プロジェクトが浮かび上が
域、②中高層住居専用地域、③住居地域、④近隣商業地域、
ていた。2 階の床面積を 1 階を半分にすると 12 坪だから合
ってくる。新しいイメージができ上がるだろう。日本橋で
⑤商業地域、⑥準工業地域、⑦工業地域、⑧工業専用地域、
議論された「容積バンク」は大きすぎるし、具体的な買い手
の 8 区分である。
もわからないのでこの取りまとめには時間がかかる。小さ
さらに、低層住居専用地域では、 4 階以上の集合住宅の建
計 36 坪の家が建てられる。この敷地規模が、昭和 30 年代
② ローカルな容積移転 と 地区計画
の山の手の中堅サラリーマンの戸建て住宅の最小限の規模
であったと思う。
第二は「容積移転」と呼ばれる特例容積制度の活用である。
い範囲での容積率移転であれば、区役所が積極的に仲介役
て替えを禁止し、逆に中高層住居専用地域では戸建て住宅
現在、私が気にしていることは、戸建住宅の駐車場である。
ことの発端は、作家の森まゆみさんたちが谷根千で行って
を果たすことになる。こうして保存された文化的に価値の
の建て替えを禁止する。このことによって、住宅市街地の
一低専地域の住宅地で、駐車場は屋根付きの駐車場を考え
いる活動である。谷根千でも大通りから 1 本裏に入った、近
ある街並みは、海外からの観光客の民泊にも活用できる。
立体的な景観の乱雑性を防ぐことが可能になる。
るべきである。その敷地は住宅敷地のどこかにしっかりと
隣商業地域の容積率は 300 %である。容積率 300 %では 6 階・
容積移転を実現可能にするもう 1 つの重要な要素は「地区
確保すべきであろう。かつての緑地分を差し引くルールと
7 階という高層マンションが建てられる。一方、裏通りの住
計画」である。地区計画は地域住民の合意さえあれば、広い
同様に、「敷地」-「駐車場」=「宅地( 建築敷地 )」とみな
居地域にゆくと細い路地がある。そこでは幅員が 4m であれ
幹線道路を飛び越して将来に向けた計画を進めることがで
してこれからの建築を考えてゆくべきであると思う。それ
ば 160 %、6m であれば 240 %の容積率までしか家は建てら
きる。例えば、道路を挟んだ両側の地権者同士が協議して
がこれからの家づくりの常識にならければいけないと思う。
れない。裏路地ではこの容積率のために建物の階数は 3 階止
合意すれば、容積移転で片方の敷地を公園にすることもで
例えば、駐車場を独立棟で建ててもよいし、大きな建物に
まりである。しかし、 300 %の近隣商店街に古くて由緒ある
きる。容積移転は地区計画の持つ大きなメリットの 1 つであ
首都直下型地震の襲来が予想されるなか、笹塚、幡ケ谷、
組み込む場合は建築面積から除外させてもよい。
建物があると、その建物は高層マンションに敷地に買い取
る。しかしこの大きなメリットが期待できる地区計画とし
三軒茶屋、阿佐ヶ谷、中野の南台などの木造密集地域の安
容積率 100 %・建ぺい率 60 %で 30 坪の敷地を考えた場合、
られる可能性がある。谷根千のように建物の高さを抑えた
ては、現在のところなかなか十分には活かされていないの
全性が話題になっている。現地にゆくと区画整理がされて
1 階と 2 階の床面積配分を 6:4 とすると、1 階の床面積 18 坪(約
い地域で、このような高層マンションが突然建てられると
が現状である。
いない道路は 4m 幅で曲りくねり、そこに 2 階建ての木造の
60 ㎡ )2 階の床面積 12 坪( 約 40 ㎡ )で計 30 坪( 約 100 ㎡ )
ことは、そこの文化的景観を壊すことになる。そこでこの
建物が密集している。しかし、そういった地域での建物の
の延床面積の建物が建つ。それに駐車場面積 5 坪( 約 16 ㎡
問題を解く鍵として「容積移転」の話題が出てくる。
建て替えが意外に活発に行われている。
=間口:約 3.2m × 奥行き:約 5.0m )を加えた計 35 坪( 約
容積移転では特例容積制度が知られている。東京駅舎を
116 ㎡ )が、私が考える一低専地域の最低限敷地規模である。
建て替える際に東京駅の余った容積を丸の内側に売却し、
私は 23 区全域の市街地において、用途地域の性格に対応し
東京駅の建築資金をひねり出したという話である。特例容
「用途地域」は私たちが建物をつくるときの“行儀作法”
りの共同住宅( 木賃アパート )が密集し、モルタルにヒビが
た最低限敷地規模を定めるべきであると思う。
積制度はもっと普及させるべきという主張があるが、この
を教える指示書である。しかしその内容について知る人は
入り内部の乾式構造が見えて壊れかかっているというもの
宅地の細分化の要因の 1 つに遺産相続がある。 35 坪の最
1 件しか使われていない。このため私は、容積移転を区単
建築の専門家でも少ない。その理由は 2 つある。1 つは対象
である。ところが、半世紀を経てそうした建物はすでに姿
低限敷地を普及させても、やがて遺産相続で分割されては
位で行うことを考えてみた。例えばかつて、日本橋川上の
とする建築物の分類が極めて細かいこと、もう 1 つは市街地
を消している。とくにここ 10 年ほどは木賃アパートの不人
元も子もなくなる。そこで私は、地籍上は 2 分の 1 に分割し
高速道路を日本橋川下に埋設して日本橋を復活させる計画
を建築物の性状によって分類する区分が多すぎることであ
気から建て替えが進み、少なくとも半数は乾式構造で耐火
てもよいが、建築基準法上は 35 坪以下の敷地には建てられ
があった。このとき、両岸にあるビルを撤去して公園にし、
る。前者は建築基準法に関わる分野であり、後者は都市計
構造の木造建物にどんどん変わってきている。
ないようにすることを提案する。地籍上は 2 つの敷地であっ
この容積を大手デベロッパーの丸の内か八重洲の事業に売
画に関わる分野である。ここでは後者について今後のある
また、今から 4 年ほど前に、東京都都市整備局が、条例で「新
ても、建築基準法上は合体させて一敷地として取り扱うと
る議論があった。このケースでは八重洲なら中央区同士で
べき方向を考えてみたい。
防火地域( 通称 )」という新しい基準をつくった。木造で耐
いうわけである。例えば、60 坪の敷地を息子 2 人が相続す
問題ないが、丸の内側は区が異なるので難しいのではない
用途地域は現在 12 種類ある。かつて平成 4 年まではこの
火性能に優れた建物を、条例で用途地域に組み込み、市街
ると、1 人の地籍は 30 坪になる。これでは建物は建てられ
かという議論が起きた。
区分は 8 区分であった。それが 12 種類になったのは、住宅
地の延焼大火を防止する意図で決められた。画期的なのは
ない。したがって、 60 坪に二戸一の住宅を建てて、それを
区単位の容積移転であれば実現の可能性は高い。例えば、
市街地の用途を区分すればするほど市街地の混在性が少な
主体が木造であることだ。従来は木密市街地の不燃化を図
息子 2 人が分けあって所有するということである。そうすれ
台東区の谷中の容積率 300 %のところで 150 %を売りたい
くなり、用途の純化が図れるであろうという期待があった
ろうとするときは、消防車の進入道路に沿ってコンクリー
ば相続による土地分割が建築に影響を及ぼさないようにす
というときは、同じ台東区の上野や御徒町に容積移転して
からである。その結果、住宅の用途が 3 区分から 7 区分に増
トの 4 階~ 5 階建ての建物をつくって壁にするというものだ。
ることができる。
超高層ビルを建てることを考えてみよう。そうすれば、谷
えた。しかしその用途区分ごとの差異は、今から見れば極
しかし、鉄とコンクリートの建物が増えることで、木密の
ところで、私が提唱する一低専地域での最低限敷地規模
中に新たに建つ建物も階数は低くなる。また、土地の値段
めて瑣末なものである。例えば、
「第一種低層住居専用地域」
街並みの柔らかさは失われる。あまり住みたいと思わない
の規制は、東京 23 区のいくつかの区において設定するよう
を比較すれば上野や御徒町の方が谷中よりも高いのは明ら
と「第二種低層住居専用地域」の違いは、コンビニエンスス
ような街ができてしまう。だから多くの人は、京島のよう
になっている。渋谷区や目黒区では私の提案に近い規模を
かだから、容積移転しても上野や御徒町側はあまり負担に
トアの立地とパン屋の小さな作業所の立地を認めるか否か
な街にしたいと考えるようになった。
38
③「用途地域」の再編成
④
新防火地域( 通称 )基準の木造建物と
防災地域の拡大
我々の抱く危険な木密地域のイメージといえば、東京オ
リンピック後の昭和 40 年以降に建てられた木造モルタル造
39
住みたい東京⑶
墨田区・京島は災害に弱いと思われているが、実は関東大
例えば、昔はドブ川があった。それを暗渠化すると上に 3m
たとえ 4m 幅であってもこれらの小さな工作物を撤去すれ
震災以降、火災は一度も起きていない。住民が火の後始末
ほどの道ができる。さらに両側を 50 ㎝ずつ宅地内にセット
ば、高齢者の安全も景観も向上させることができる。
を徹底して行っているからだ。自分の家だけでなく隣近所
バックさせると幅員 4m の道路ができる。そうなれば、建
の火の後始末まで気にしている。このように防火に対する
物を建てることができる。このような 2 項道路は住宅密集
意識の高い住民が多く住んでいれば火事にはならない。も
地域にはたくさんある。この幅の狭い道路に面した木造の
し他の街のように京島も鉄やコンクリートの建物で防火性
古い長屋は火災や災害に倒壊の危険性があり、狭隘な道路
能を高めたら、たぶんまったく面白みのない街になるだろ
は避難や消火の妨げになり街の質を悪くしていると言われ
東京の山の手の練馬区から世田谷区にかけて広がる第一
この 3 つの指定地域に当てはまらない場所がたくさんあっ
う。コンクリートの塊を並べたら街は死んでしまう。
てきた。
種低層住居専用地域の容積率は概ね 80 %~ 150 %である。
た。この用途に合わない地域を政府は「未指定地域」にした。
そこで私は、防災診断で総合危険度が 4 と 5 の地域はすべ
だが、建物の質が少しずつよくなってゆけば、防火や倒
一方の東側の江戸川区、葛飾区、足立区を見るとこの一低
そこはスラム化する恐れがあると言われた。実際にスラム
て条例によって新防火地域に指定し、木造 3 階建てで耐火
壊の問題は解決できる。京都や月島の街のように狭い道路
専地域はほとんどなく、第一種中高層住居専用地域が多い。
化したところもあったが、不思議なことに日本人はいつの
性能の高い建物に建て替えていくことを提案したい。道路
がたくさんあっても、自宅の前に 50 ㎝ずつ植木鉢を置いた
低層住居専用地域は基本的に 3 階建てまでだが、中高層住居
間にかそれらの地域に“準工業的な街”をつくり上げてきた。
は広げなくても構わない。しかし、建て替えのスピードを
り日除けを設えたりすれば、2 項道路でも街並みの質は決し
専用地域は 4 階~ 13 階までのマンションが中心で、容積率
それは 1 階が商店や工場で 2 階が自宅、住工併存、住商併存
上げることが重要である。再開発すれば道路幅は倍に増え
て悪くない。コンクリートの建物よりも、耐火性能の高い
は概ね 150 %~ 200 %である。
の建物が、通りに沿って建ち並んでいる地域であった。
るが、コンクリートの建物で街は魅力を失う。したがって、
木質系の建物をつくる方がよい。
住宅地として 150 %までは理解できるが、幹線道路から
ところが戦後になると、倉庫、空港、車両基地など、用
道路を広げなくても新防火基準に適合する防火性能の高い
問題は 2 項道路に車が入ることだ。狭い 4m 道路に本来、
奥まった住宅地まで 200 %にして中高層のマンションを建
途がさまざまな建物を準工業地域に加えるようになった。
木造の建物に建て替えるようにすれば、街は柔らかさを失
車は入れるべきでない。車が入ると高齢者が車を避けきれ
てるべきではないと思う。住宅地でも住宅団地なら中高層
それらの地域は、荒川区町屋のように元々各種の用途の建
わずに災害に強い街にすることができる。
ない。そうした高齢者が出かけるときは歩行補助器具を使
でも構わない。しかし、戸建て住宅に混じって中高層マン
物が混在した地域とはまったく別の存在であった。また当
この私の提案に対して、万が一大きな火災になったときに、
って 2 項道路を歩くから危険性が高い。このため、高齢者が
ションがランダムに点在するのは、市街地の景観として見
初は、東向島、三河島などでバタヤ集落と呼ばれる差別的
道路が狭いままでは消防車が駆けつけられないという反論が
安心して 2 項道路を歩けるように、現在の 4m から 5m に広
苦しい。市街地の価値も下がると思う。この 200 %指定の
な地域も準工業地域に組み込まれたが、スラム化せずに徐々
あると思う。だが、防火に必要な道路をあちこちに通せば、
げることを提案したい。 2 項道路は、4m 道路の両側に 50 ㎝
市街地では、マンションを建てずに木造長屋や 3 階建ての戸
に魅力のある準工業地域に変身した。したがって、現在の
それも街並みを壊してしまう。道路を通すまで建物を建て替
ずつ歩行用のスペースを確保し、幅員を 5m に広げるべきで
建て住宅をつくっているところが多く見受けられる。そこ
準工業地域には、かつての差別的であった市街地と、住工・
えるのは待てということになれば、建物の更新は確実に遅れ
ある。
では 200 %の容積率を埋めきっていない。150 %すら完全に
住商併存の職人の街のほかに、戦後になると倉庫、空港、
てしまう。それなら極めて重要な道路だけは整備し、それ以
2 項道路を 5m にすると車もラクにすれ違えるようになる。
使っていないところもある。
車両基地、貯木場まで、他の用途地域の範疇に当てはまら
外の街の道路はそのままにして、そこに 2 階~ 3 階建ての新
高齢者がいつもいるわけではないので、拡幅した両側の 50
したがって現在、第一種中高層住居専用地域に指定され
ない市街地の建物は、すべて準工業地域に組み込まれたの
防火基準の建物を増やしていけばよいのである。
㎝のスペースを車がすれ違うときにも使えるからである。
ている江戸川・葛飾・足立の 3 区では、その用途を第一種低
である。
なぜ私がこのような提案をするかといえば、
「不燃領域率」
同時に電柱の地中化も行う。幹線道路には電柱をつくって
層住居専用地域変更するべきである。つまり第一種中高層
そこで私の提案はまず、この最近指定された倉庫、空港、
が 70 %を超えると、その市街地は延焼しないと言われてい
も構わないが、2 項道路に電柱があると高齢者が歩けなくな
住居専用地域の容積率 200 %を 150 %に下げて、その地域は
車両基地等の大型敷地は、準工業地域から工業地域に移し
るからである。不燃領域率は空き地、道路、耐火性の建物
るからである。それが難しければ、 2 項道路に面した敷地内
戸建てまたは二戸一型の住宅にせよということである。そ
替えることにする。そして次に、古くからある商住・工住の
によって決まる。例えば、空き地 5 %+道路 20 %+不燃建
に電柱を移設して、高齢者用の 50 ㎝の歩行スペースは全面
うなれば質の良い戸建て住宅が供給され、市街地としての
併存市街地は、準工業地域から名称を変更して「混在地域」
物 35 %で不燃領域率は 70 %になる。道路と空き地の比率は
的に確保すべきである。
価値が上がると思う。
とすることである。昔ながらの街並みを持つ中央区京島、
あまり変わらないから、不燃建物が 35 %になるようにする。
このような 5m 道路は実は現在もある。 300 坪くらいの敷
私がこのような提言をするのは、西側では質の良い住宅
荒川区町屋、板橋区志村、大田区糀谷などの面白い地域が
それをできるだけ早く進めることが大切だ。
地を住宅地として分譲する場合は、都市計画的には開発行
地を形成するが、東側では質を下げた住宅地を形成すると
現在、準工業地域にはたくさんある。そこでは建物も建て
最近、準工業地域の建物を見てきた。そこは乾式構造で
為になり、 5m・6m の道路を設けることが開発の許可条件
いった、あからさまに差別的な用途地域を設定するべきで
替わり 4m 道路も整備されて、実態はきれいでおしゃれな地
不燃性能が高く、2 階建ての質の良い住宅地に建て替わって
になる。江戸川区や葛飾区、練馬区など都心の周辺地域では、
はないと考えるからだ。個々の建築行為が結果として西と
域に発展している。こうした準工業地域は、以前のイメー
きていた。市街地は安全な街並みに生まれ変わり、同時に
このような宅地の分譲も見ることができる。5m 道路になる
東の差を生むのは仕方がない。しかし、建築行為の前提条
ジとはまったく異なってきている。
魅力を失わない。都が「建替奨励金」を出すようにすれば変
と、建築敷地内に花を植えたプランターが置かれるように
件として質が悪くなっても構わないという用途を決めるの
そこで、あらためて次のように提案したい。“庶民型”の
革のスピードはもっと上がるだろう。
なり、通りの表情が明るく美しく変化する。 2 項道路は終戦
はおかしいと思う。現在 200 %の容積率の地域を 150 %に
街から発生してきた歴史のある準工業地域については、準工
直後の概念で、4m 道路は 2 間道路をメートルに直したもの
“ダウンゾーニング”することで、東側の住宅地の質は戸建
業地域の用途指定を外し、「混在地域」という新たな用途地
である。いつまでも固執する必要はない。市街地にゆとり
て主体に変わってゆくであろう。繰り返しになるが、東部
域を創出して指定する。そして、この混在地域ではあらかじ
を持って高齢者が歩きやすいように、道路を拡幅するべき
の外周部各区では、一低専の用途地域を導入して住宅の建
め建物用途を指定せずに、「地区計画」によって、地域住民
だと私は考える。
て方の多様性を広げることを考えるべきだと思う。行政も、
の意見を集約しながら建物の建て方や道路のつくり方を決め
細い路地が多い密集市街地で建物を建てる際、建築敷地
また、既存の幅員 4m の 2 項道路については、建物前面の
東側は庶民型市街地で多少は住宅の質が悪くなってもよい
るようにする。この地区計画では、例えば、1,000 坪の大き
は建築基準法第 42 条第 2 項にしたがって、幅員 4m 、中心
敷地にある植え込みや門扉、ブロック塀などをすべて撤去
という固定概念を払拭するべきである。
な公園整備はやめて、70 坪~1 00 坪ほどの小さい児童公園
線 か ら 振 り 分 け 2m の 道 路 に 接 し て い な け れ ば な ら な い。
して、歩行スペースを確保して高齢者が歩けるようにする。
⑤
40
2 項道路の幅員を 4m から 5m に変える
⑦「混在地域」と地区計画
用途地域のなかに「準工業地域」がある。用途を大正時代
⑥
ダウンゾーニングのすすめ
に決めたときは、住宅、商業、工業の 3 つの指定であった。
ところが、実際の市街地では長屋、商店、軽工業が混在して、
をちりばめるような、そういう運用をすべきであろう。
41
住みたい東京⑶
設を続けるのかということである。都営住宅は国の補助と、
から差し引いた残りの土地は、まだ実現していない未整備
あろう。もう 1 つの対象は国内である。地方から不定期であ
都自体の資金の両方を使って建てられていると私は推測し
の都市計画公園の用地に充当する。
るが、所用で東京を訪れる人たちは多い。例えば、大学の
ている。税金漬けの住宅を建ててそこに住宅困窮者を入居
これは一見なんでもないように見えるが、役人の世界で
教師、弁護士等の自営業者、中小企業の経営者、あるいは
「 容 積 率 」と「 建 ぺ い 率 」と い う、 専 門 家 し か わ か ら な
させる方法は、住宅不足時代の市民対策である。今は住宅
はあり得ない大変な提案である。つまり住宅団地という公
小金を貯えている高齢者である。
い基準値を使うのをやめることを私は提案する。容積率が
過剰時代であり、民間空き家の増加に関係なく公的住宅を
営住宅担当の住宅局の役人ギルドのなかに、都市計画公園
このように改築されたマンション住戸の売り値は新築に
100 %で建ぺい率が 60 %といっても、具体的な敷地では実
建て続けているのは税金の無駄遣いと言ってよい。それで
という公園技術者ギルドの土地を持ち込もうという話であ
比べて格段に安い。中野あたりでは、床坪単価は 50 万円く
測していないから、実際にそうなっているかはわからない。
あるならば、母子家庭や高齢の夫婦に対して東京都は一定
る。しかし、都営住宅団地は東京都民の財産であって、タ
らいかもしれない( 参考にかつて大々的に宣伝された越後
建物を建てるときに「容積率」「建ぺい率」「隣地境界」の規
の住宅扶助を行って、空き家のなかから彼らにふさわしい
テ割りの役人ギルドの財産ではない。したがって、東京 23
湯沢のマンション価格は販売当初の 10 分の 1 以下のものも
定があり、設計者はそれを基にして図面を起こすが、それ
住宅を選定し、それらの住宅に住宅困窮者が入居する方法
区市街地の望ましい市街地像を 23 区市民のために実現しよ
多くある )。そうであれば、500 万円か 1,000 万円出せば東
を止めてしまうのがこの提案である。役所も図面上のチェ
を考えてみてはどうであろうか。
うとするのであれば、役人ギルドの縄張り論はまったく無
京に“仕事場や宿泊所”を求めることができる。これは地
ックだけで現場に行って測っているわけではないので、実
この住宅扶助金が民間の家主にゆきわたれば、公営住宅
視してよいと思う。
方と東京を結ぶ「二地域間居住」である。高齢者が元気であ
際にはきちんと守られていないケースがよく見受けられる。
の家賃が役所に舞い戻るよりも経済的乗数効果が高く、街
以上が、都営住宅団地の新しい使い方についての私の提
るためには、動き回らなければならない、刺激を求めなけ
したがって、図面上の建築確認の審査はやめたほうがよい。
中の商店街にそれなりの利益がもたらされるであろう。都
案である。
ればならない。その場所として、このような東京の街中に
現場に行けばひと目でわかるような数値での建物の建て方
がつくった住宅を市民に貸与するならば、借主の家賃は公
ある改築された安価な一時滞在の場所は、絶好といえるだ
営住宅の会計に組み込まれて、都営住宅を継続してつくる
ろう。
⑧
道路境界から壁面線を指定する
( 建物の行儀作法 )が望ましいと考える。
⑩
空き家について
したがって、準工業地域と住居地域では建ぺい率を止め
資金の循環を可能にしてしまう。これは公営住宅建設の組
る。場合によっては容積率も止める。そうした地域では、
「階
織が、その社会的意義に関係なく維持されてゆくループを
高は 3 階建て」
「高さ制限は 12m 」
「前面道路境界から建物を
助けることになる。これは明らかに空き家時代の現在には
東京 23 区の「空き家」については、今後 20 年間急激に
の簡易宿泊所、あるいは国内においては、二地域間居住の
一定距離( 例えば 3m )下げる」この 3 つだけでよい。建ぺ
理屈の合わない仕掛けである。
は増加しないという推計がある。ここではその原因につい
宿泊所にする点については、ワンルームマンションの場合
い率も容積率も必要ではない。この 3 つさえ守ればあとは好
都営住宅をはじめその他の公営住宅を含めて、大組織が
て立ち入って考えることは避けたい。しかし空き家の増加
と同様である。ただし、 1 住戸の広さがワンルームマンショ
き勝手にやらせればよいというのが私の提案である。そう
つくる集合住宅はもうやめにして、多様な民間の空き家を
については、23 区のなかで大きなばらつきが起きることは
ンの場合よりも広いことを考慮して、1 住戸は食堂や談話室
すれば役所だけでなく近隣住民の誰にでもわかるようにな
有効に使うことが、無駄金を使わず既存市街地を活性化す
容易に想像される。例えば類推であるが、目黒区や渋谷区
として共通使用し、他住戸はシェアルームとするマンショ
る。これは相当乱暴な提案に思うかもしれないが、建築基
る方策ではないであろうか。
に比べて、中野区や豊島区の空家率は大きいかもしれない。
ン型のシェアハウスも考えられる。
準法ができて 70 年、一度その運用基準を壊して、誰にでも
1983 年 以 前 に 建 て ら れ た 旧 耐 震 基 準 の 都 営 住 宅 は、
その理由を論ずることよりも、ここではどうすれば空き家
準工業地域にあるマンションでは、残留する居住者の居
明確にわかるようにした方がよい。
2015 年に約 11 万戸程度存在する。その敷地面積は 660ha
の増加が防げるか、その対策について 2 つの提案をしてみた
室の移動が可能であれば、空き住戸の室内壁を取り除けば、
ただし、「相隣関係」の敷地境界から建物の外壁までの距
くらいある。これに対して都区内の空き家は 2015 年で約
い。ただし、その重点は戸建て空き家よりもマンション空
小さな工場や事務所、そしてデザインオフィスとして活用
離は、民法上 1 尺 5 寸( 約 45 ㎝ )と決められている。隣地
55 万戸ある。このうち賃貸用は 40 万戸ある。この空き家の
き家において考えてみる。
もできる。ここで私が最も言いたいことは、地価の下落が
境界を裁判で争うときもこの 1 尺 5 寸が守られているかが必
増加傾向が続けば、2030 年に賃貸用の空き家は 70 万戸に
まず、原理的なことを述べる。空き家が増えてゆくことが
顕著なところで複数の質の良くないマンションをまとめて
ずチェックされている。建物設計が複雑になると、建ぺい
達するであろう。旧耐震基準の都営住宅約 11 万戸( 2013
確実であれば、まずこれからは公私を問わず住宅の新築は禁
取り壊し、容積率を下げて中層の質の良いマンションとし
率 60 %を実際に守って建物が建てられているかを確かめる
年現在 )をすべて 2030 年までに民間賃貸用の空き家で埋め
止すべきである。これからの建築活動はすべて、取り壊して
て再生できないかということである。これは“減築”のす
ことは、専門家でも大変難しい。誰もが理解できるのは道
ると想定すれば、前記の 70 万戸の 15 %に相当する。
建て替えをすることと、既存建築の内部・外部あわせた改修
すめである。
路境界から建物の壁面までの距離である。だから、隣地境
そうして生み出された都営住宅地の跡地の一部は、総合
に徹することである。ただただ新築を続けることは、国民の
もちろん、このような再開発については、取り壊しの費
界から 1 尺 5 寸のセットバックと、道路境界から壁面線まで
災害危険度 4 と 5 の市街地に密集する住宅の移転用地に充当
蓄積された国富を大きく損なうことになる。その点をしっか
用も含めてかなりの程度の公的な助成が必要になってくる。
の位置指定が決まれば、専門家でなくても容易にその距離
しよう。両者の敷地は等価交換で行う。この危険度 4 と 5 の
りと頭に入れながら、そうは言いつつも現実的にはどう対応
しかし、このような助成を受けて、それまで 8 階~ 9 階くら
を確かめることができる。それぞれの地区特性に合わせて
密集市街地で、 1 カ所 100 坪( 約 300 ㎡ )の宅地を仮に年間
して良いかについて、以下に 2 点を記すことにする。
い(高さ 30m )で 1 住戸が 50 ㎡~ 60 ㎡の古いマンションが、
道路境界から壁面線までの距離を決めることは、容積率や
300 カ所防災用地として取得すれば、15 年間で 4,500 カ所、
1 つは、新耐震以前に建てられた古いワンルームマンショ
5 階 ~ 6 階 程 度( 高 さ 20m)で 1 住 戸 90 ㎡ ~ 100 ㎡ の マ ン
建ぺい率に比べてはるかにわかりやすいルールになる。
計 45 万坪( 約 150ha )の防災空地が生まれることになる。
ンの改築である。ここでいうワンルームマンションの住居
ションに生まれ変わる。多少売値は高くなるかもしれない
これは対象となる老朽都営団地の面積 660ha の 25 %程度で
とは、4.5 畳か 6 畳一間の 15 ㎡から 20 ㎡未満の住居である。
が、それらの新しいマンションが下町の密集市街地に次々
ある。
このマンションの耐震補強をして、2 戸を 1 つの住戸として
と誕生してくる姿は、都市計画家としての私の願望である。
もう 1 つ、木造密集地域では、避難用の道路を新しくつく
40 ㎡程度の住戸に仕上げて商品化する。この改築されたワ
らなければならない。その道路用地として買収される住宅
ンルームマンションに対する需要は高いと思う。なぜなら
私にとって最近、納得がゆかないことが 1 つある。それは
や商店の移転用地も、これらの都営団地のなかで手当てを
ばその立地や場所は中心市街地や駅に近く、交通の便が良
これだけ東京 23 区の街中にいろいろな“空き家”があるのに、
する。そのほかに、高齢者の介護福祉施設用地も必要になる。
い。その需要の 1 つは、海外からの旅客で安価な部屋を求め
それを利用しないでなぜ公営住宅( ここでは都営住宅 )の建
こうして必要とされるさまざまな建築物の敷地を団地面積
る階層である。彼らに対して簡易宿泊所的な役割をするで
⑨
42
都営住宅団地の再利用
2 つは、ワンルームマンションではない、普通のマンショ
ンの空き家について考えてみる。これらを海外旅行者向け
(談)
・了
43