預金口座への マイナンバー付番の背景

預金口座への
マイナンバー 付 番 の 背景
社会保険労務士法人サトー コンサルティング部 成広
明子
預金口座へのマイナンバー付番が注目され、個人の資産が丸裸になってしまうと世論が盛り上がっ
たことをご記憶の方も多いと思います。本稿では預金口座への付番について解説するとともに、個人
情報保護法改正との関連についても解説していくことにします。
1.
預金口座へ の マイナンバ ー 付 番 の 背景
度のもとでは、全ての納税者がその所得等を正しく申
「マイナンバーであなたの財産が丸裸にされる」
とい
であり、
また、社会保障制度においても、国民一人一人
う記事を週刊誌などが書き立てたことも記憶に新しい
が能力に応じて公平に負担を分かち合うとともに、真
ことと思います。唐突な法改正のように見えますが、実
に助けが必要な者が給付を受けられるようにすること
はその伏線として2014年の春、全国紙に「2016年通
が重要です。
したがって、
いずれの制度においても、所
常国会に関連法の改正案を提出、2018年度から新規
得や資産等の負担能力を正確に把握し、制度を適性
開設口座にマイナンバーを付番」
という記事が掲載さ
に運用する観点からマイナンバーの活用を進めるべき
れていたのです。30年以上も前の話になりますが、政
です。
さらに、所得・資産等の正確な把握が可能となれ
府は預金者の口座に番号を付けるグリーンカード制度
ば、制度自体をより公平・公正なものにしていくことも可
を導入しようとして失敗しました。それ以来、政府は番
能となります」
という見解を示しています。
号制度の導入や預金口座に番号を付けることに対し
つまり、働いている世代だけに負担してもらう、
あるい
て、消極的な姿勢を取ってきたのです。
しかし、今回マ
は所得だけを捉えて負担してもらうことには限界がきて
イナンバー制度が実現するにあたり、当時とは世論も
おり、資産も含めて負担能力のある人に負担をしてもら
大きく変わってきたことを政府は感じていたと思います。
う方向に変えていかなくてはならないということです。
口座に番号を付けることに対して世論はどのような反
実際に介護保険制度が改正され、2015年8月から資
応を示すのか、
それをうかがうために全国紙に記事が
産を勘案した制度が施行されています。具体的には、
流されたのだと推測されます。
特定入所者介護(予防)
サービス費の支給にあたって
その背景には、切羽詰まった我が国の財政事情と
の勘案要素として「資産」が追加され、多くの預貯金
社会保障費の問題があります。国の借金(国および地
等を持っている方は支給が受けられなくなりました。預
方の長期債務残高)
は、2014年度末で1,000兆円を突
貯金等とは、預貯金、有価証券、金・銀などで、
タンス預
破し、GDPの2倍を超えるまでになっています。
また、戦
金(自己申告)
も含まれています。預貯金等が、単身の
後の人口ボーナスと高度経済成長の恩恵を受けてい
場合は1,000万円以下、夫婦の場合は2,000万円以下
た昭和30年代に構築された国民皆保険・皆年金制度
でないと支給が受けられなくなったのです。今後、資産
はその維持が限界にきており、社会保障給付費は100
もマイナンバーでしっかり把握していかないと、資産隠
兆円を超えるという状況になっているのです。
このよう
しなどで社会の不公平感が募っていくことが懸念され
な事情を踏まえ、政府税制調査会では「申告納税制
るのです。
告することが税制への信頼を維持するために不可欠
ワイエムビジネスレポート 2016. 3月号 No.89
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図表 1「預貯金付番に係る法整備の概要」
(出所:内閣府資料)
2.
預金口座へ の マイナンバ ー 付 番
預貯金口座へのマイナンバー付番について、
政府は
その目的を「預金保険機構等によるペイオフのための
預貯金額の合算において、
マイナンバーの利用を可能
とする」ことと
「金融機関に対する社会保障制度にお
ける資力調査や税務調査でマイナンバーが付された
預金情報を効率的に利用できるようにする」
こととして
います。具体的には、マイナンバー法55の2・56の2に
預金保険機構と農水産業協同組合貯金保険機構が
個人番号利用事務実施者として新たに追加されてい
ます。
また、
同時に住民基本台帳法も改正され、
その別表
第一に13・14が追加され、
預金保険機構と農水産業協
同組合貯金保険機構は住基ネットも使えるようになりま
した。
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ワイエムビジネスレポート 2016.3月号 No.89
図表2「新規口座と既存口座への付番」
(出所:一般社団法人全国銀行協会)
金融機関については、地方税法と国税通則法にそ
いことではありませんが、資産をマイナンバーで把握で
れぞれ「預貯金者等情報の管理」の条文が新設され、
きることで、
相続漏れがなくなったり、
激甚災害時にはマ
預貯金の口座にマイナンバーまたは法人番号を付けて
イナンバーで口座から金銭を引き出すことができるとい
検索できるようにしなければならなくなりました。
うメリットのほうをもっと評価してはいかがでしょうか。
ま
実際の付番は、
2018年以降、
新規開設の口座からと
た、
マイナンバーで休眠口座が把握できれば、国として
いうことになり、当面は義務化されません。
ですから銀
膨大な休眠口座の資産をベンチャー支援などの投資
行の窓口でマイナンバーの提供を求められた際、提供
に使えるというメリットが出てきます。
を拒否することもできます。
なぜ任意という中途半端な
制度なのかというと、
できるだけ早いうちに金融機関に
準備をしてもらいたいということでしょう。
マイナンバーを
付けるだけとはいえ、金融機関のデータベースは巨大
なため、
ある程度の準備期間が必要です。
いざ強制付
番という法改正が成立した際には、
すぐにでも実行でき
るよう環境を整備しておく主旨だろうと推測されます。
資産をすべて把握されてしまうことはあまり気持ちの良
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