医療ICT NEWS FILE 20160210 vol.009

診療報酬・薬価から臨床・創薬まで 高度情報化医療の明日を伝える
医療
NEWS FILE
vol.
2016.3.10
株式会社じほう 〒101-8421 東京都千代田区猿楽町1-5-15 猿楽町SSビル TEL 03-3233-6351
2
009
禁無断複写
厚労省標準規格に
SS-MIX2ストレージなど 4規格を認定
3 国家戦略特区法改正案を了承
自民・合同会議
8 電子パスで医療連携の目標共有を
済生会熊本病院・町田副院長
11
座談会
16 年度改定
医療 I CT 定着に向けた大きな一歩に
鈴木 康裕 技術総括審議官
[厚生労働省]
石川 広己 常任理事
[日本医師会]
森田 朗 所長
[国立社会保障・人口問題研究所]
(前中医協会長)
INFRASTRUCTURE
3
薬剤師の遠隔服薬指導、なし崩しの緩和に懸念 自民・厚労部会
4
SNS などの遠隔診療、医師法抵触の可能性も 厚労省
4
電子カルテ情報の集積・保管の仕様を規格認証へ 厚労省、SS-MIX2 で
5
糖尿病重症化予防の実証事業、約半年分のデータ検証へ 経産省
5
4 月解禁の電子処方箋、全国 7 カ所で実証実験中 日医総研調査 大分のほか埼玉、石川など
6
NDB のレセプト・特定健診情報、突合率向上へ 厚労省が改善策
CONTENTS
8
日医 ORCA 管理機構が業務開始 関係者が事務所開き祝う
9
4 月に電子お薬手帳の情報共有サイト、報酬算定に対応 パナソニックヘルスケア
9
新バーコード必須化へ、工程表作りで再度議論へ 流改懇・WT、春以降の通知改正も念頭
医療
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INFRASTRUCTURE
厚労省標準規格に
SS-MIX2ストレージなど4規格を認定
厚生労働省の保健医療情報標準化会議
(座長=大江和彦・東京大大学院教授)は
25 日、電子カルテ情報交換システム「SSMIX2」を用いたデータの保管・管理(スト
レージ)の仕様など、電子的記録に用いる
4 つの規格を「厚生労働省標準規格」として
認定することを了承した。
厚労省規格の認定は医療分野のICT化推進の一環だ
「各種補助事業等や諸施策において、引き続き
厚労省規格の認定はこれまで、「患者診療情
厚生労働省標準規格の実装を前提とし、関係省
報提供書及び電子診療データ提供書」
(患者へ
庁、関係団体とも連携の上で、厚生労働省標準
の情報提供)や「診療情報提供書」
(電子紹介
規格の一層の普及啓発を図るべき」との提言も
状)、「医薬品 HOT コードマスター」など 12 規
まとめた。厚労省は関係団体や関連企業などに
格あり、今回の認定で計 16 規格になる。
通知を発出し、普及を推進する。いずれの規格
も、作成団体のホームページで無償ダウンロー
WG設置を検討へ
構成員は介護分野の標準化を提案
ドが可能だ。
厚労省規格として新たに認定するのは▽「SSMIX2 ストレージ仕様書および構築ガイドライ
ン」▽地域医療ネットワーク(NW)内の情報連
同日の会合で厚労省は、今後標準化が必要な
携や別 NW との情報共有などを可能にする「地
分野のロードマップなどを検討するためのワー
域医療連携における情報連携基盤技術仕様」▽
キンググループ(WG)の設置を検討する方針を
看護業務の用語集「看護行為編」と「看護観察
示した。中島直樹構成員(九州大病院メディカ
編」で構成する「看護実践用語標準マスター」▽
ル・インフォメーションセンター教授)は、「医
医療機関内の病院情報・看護部門・薬剤部門・医
療と介護の連携で、使っている言葉が違うとい
事会計のシステム間で “ 会話型通信 ” を用いた
う問題がある」と指摘し「介護バージョンの標
処方情報や患者情報に関するデータの交換を可
準化に向けたロードマップを作って、地域包括
能にする「JAHIS 処方データ交換規約」―の4つ。
ケアにも対応できるようにすべき」と求めた。
2016 年 2 月25日【MEDIFAX】 規制・GL
医療 ICT
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2016.3.10
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INFRASTRUCTURE
国家戦略特区法改正案を了承
自民・合同会議
自民党の政調全体会議・日本経済再生本部合同会議は 3 日、国家戦略特区法改正案を了承し
た。改正案には、薬剤師による対面での服薬指導義務の特例が盛り込まれている。
2016 年 3月3日【MEDIFAX】
事 業
国家戦略特区内で実証的に、離島やへき地の患者
に対し遠隔診療が行われ、対面での服薬指導ができ
ない場合に限り、テレビ電話による遠隔服薬指導を
可能にする。
同日の合同会議では、田村憲久氏が、今後仮に規
制緩和の対象とする地域を拡大するにしても、遠隔
服薬指導を認める条件は、今回と同様に「離島やへ
き地の患者に対し遠隔診療が行われ、対面での服薬
指導ができない場合に限り、テレビ電話で行う」こ
とになるかどうか確認を求めた。政府側は、拡大す
合同会議に臨む自民党議員ら=3日、党本部
るにしても今回と同様の条件になるという趣旨の答
弁をしたという。
応じて医薬品医療機器総合機構の職員が国家戦略特
このほか改正案には、革新的かつ医療上の必要性
区内の臨床研究中核病院に出張し、助言を行うこと
が極めて高い医療機器の迅速な開発のため、必要に
ができる内容も盛り込まれている。
薬剤師の遠隔服薬指導、なし崩しの緩和に懸念
自民・厚労部会
2016 年 3月1日【MEDIFAX】 規制・GL
自民党の厚生労働部会(古川俊治部会長)は 1 日、
改正案では、国家戦略特区内で実証的に、離島や
国家戦略特区法改正案に盛り込まれた厚労関係部分
へき地の患者に対し遠隔診療が行われ、対面での服
の内容について政府から説明を受けた。薬剤師によ
薬指導ができない場合に限り、テレビ電話による遠
る対面での服薬指導義務の特例として、遠隔診療が
隔服薬指導を可能にする。離島やへき地で遠隔診療
行われている場合に遠隔服薬指導を可能にする規制
を受けた患者を念頭に置いているが、それについて
緩和策が盛り込まれていることに対し、議員からな
は条文には盛り込まない。また登録制度を設け、特
し崩しに規制緩和が進むことへの懸念が示された。
区内の薬局が基準を満たすかどうか都道府県知事な
国家戦略特区法改正案の法案審査は、3 日の党政
どが事前に確認するほか、遠隔服薬指導の実施状況
調全体会議・日本経済再生本部合同会議で行われる
の記録保存・定期報告を薬局に義務付ける。
予定。
出席者によると、こうした内容に対し羽生田俊氏
医療 ICT
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INFRASTRUCTURE
医療等 ID
仕組みの「複雑化」に懸念も
は「今回の規制緩和策がさらに規制緩和される懸念
がある。今回の条件をしっかりと守る旨をどこかに
明記すべき」と主張。政府側は「今回はあくまで例外
的な取り組み。今回の遠隔服薬指導を可能にするた
また同日の厚労部会では、厚労省が医療等分野に
めの要件をしっかりと守る」と答弁したという。
おける番号(ID)の検討状況を説明。厚労省の「医療
また「遠隔服薬指導を受ける患者にどのように医
等分野における番号制度の活用等に関する研究会」
薬品を届けるのか」という疑問に対して、政府側は
(座長=金子郁容・慶応大教授)の報告書も概要が紹
「宅配便を使う方法が考えられる。処方薬のインター
介された。
ネット販売がなし崩しになるわけではない」と回答
これらの検討では、各地域で整備が進む地域医療
したという。
連携ネットワークを超えて情報連携する場合、患者
このほか国家戦略特区法改正案には、革新的かつ
本人を一意的に把握するための共通の識別子(ID)
医療上の必要性が極めて高い医療機器の迅速な開発
として生成する「地域医療連携用 ID(仮称)」や、健
のために、必要に応じて医薬品医療機器総合機構
康保険証の「資格確認用番号(仮称)」など各種 ID の
の職員が国家戦略特区内の臨床研究中核病院に出
導入が取り沙汰されているが、議員からは仕組みが
張して助言を行うことができる内容も盛り込まれて
複雑になることで取り組みが失敗に終わることへの
いる。
懸念が示されたという。
SNS などの遠隔診療、医師法抵触の可能性も
厚労省
2016 年 2 月26日【MEDIFAX】 規制・GL
厚生労働省は 26 日の全国医政関係主管課長会議
ているという。
で、スマートフォンや SNS による医師の診療が医師
遠隔診療について規定した通知では、診察につい
法 20 条に抵触する可能性があるとし、いわゆる遠隔
て「現代医学から見て、疾病に対して一応の診断を
診療について規定した通知にのっとった運用を呼び
下し得る程度のものをいう」としている。この通知
掛けた。
の解釈について医政局が解釈を示した事務連絡では
厚労省医政局医事課によると、インターネットな
「直接の対面診療と適切に組み合わせて行われると
どを用いた医師の診察を患者に受けさせる事業者が
きは、遠隔診療によっても差し支えないこととされ
出てきており、中には SNS などの文字や写真のみで
ており、直接の対面診療を行った上で、遠隔診療を
診察を行ったり、対面診療を行わずに遠隔診療のみ
行わなければならないものではない」としている。
を想定した事業を展開しているとの情報が寄せられ
電子カルテ情報の集積・保管の仕様を規格認証へ
厚労省、SS-MIX2で
2016 年 2 月23日【MEDIFAX】 規制・GL
厚生労働省の武田俊彦政策統括官(社会保障担当)
る際の仕様を「厚労省標準規格」として認証するた
は 23 日、政策研究大学院大の科学技術イノベーショ
めの調整を進めていることを明らかにした。25 日に
ン政策研究センターが東京都内で開いたシンポジウ
開く予定の「保健医療情報標準化会議」で提案する
ム「医療分野における ICT 活用の未来~先進国エス
方針だ。
トニアの事例~」で登壇し、電子カルテ情報交換シ
武田統括官は「これまでは、データの標準化を進
ステム「SS-MIX2」を活用してデータを集積・保管す
める観点から医薬品、医療機器、処置、診断名など
医療 ICT
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INFRASTRUCTURE
について共通の規格を用いるための整備を進めてき
とコストダウンの両立は可能と訴えた。一例として、
た」と説明。その上で「次の課題としてデータを収集
膵頭十二指腸切除に関する国際共同研究で、日本の
して保存しておく時の規格の標準化が必要」と述
小規模施設も含む 2000 施設と米国の大規模を中心
べ、25 日の会議の議題の一つにするとした。同日の
にした 500 施設の比較結果を提示。30 日死亡では、
会議では、SS-MIX2 のストレージ以外にも複数の規
米国の 2.57%に対し日本は 1.35%。一方、平均在院
格認証を議論する見通し。
日数は日本が 31 日と米国(9 日)の 3 倍だった。宮田
氏は、「これまでは検討するための根拠自体がな
「医療の質の維持・向上とコストダウンの両立は可能」
慶応大・宮田氏
かったが、
(こうしたデータがそろえば)これからは
具体的に議論していける」と述べた。平均在院日数
の全体的な適正化で、1.5 兆円のコストダウンが可
シンポジウムでは、厚労省の「保健医療分野にお
能との試算があることも紹介した。
ける ICT 活用推進懇談会」で構成員を務める慶応大
同日はこのほか、エストニアの医療 ICT 開発に携
の宮田裕章教授も登壇し、医療分野における ICT の
わっているタリン工科大のピーター・ロス教授らも
活用でデータを検証すれば、医療の質の維持・向上
講演した。
糖尿病重症化予防の実証事業、約半年分のデータ検証へ
経産省
2016 年 3月3日【MEDIFAX】 事 業
尿病モデルの対象者数について「数百人程度になる
経済産業省は 3 日の次世代ヘルスケア産業協議会
ことが理想」との考えを示した。
「健康投資ワーキンググループ(WG)」で、2016 年
度に実施する糖尿病の重症化予防に取り組む実証事
“アクションプラン2016”
4月下旬にも取りまとめ
業(糖尿病モデル)では約半年分のデータを収集・検
証するとの計画を明らかにした。実証事業は今夏ご
ろから開始する方針も示した。非公開の会合後に同
省商務情報政策局ヘルスケア産業課の江崎禎英課長
また、同協議会は 4 月 22 日に予定する会合で、地
が記者会見して説明した。
域でのヘルスケア産業を育成するための方策などを
実証事業は医療機関、事業主、保険者の 3 者が一
盛り込む「アクションプラン 2016」を取りまとめる
体的に取り組むための共同体(コンソーシアム)を
計画。同 WG は、4 月 7 日に予定する次回会合でア
形成することが前提。糖尿病モデルは、HbA1c が
クションプラン 2016 に盛り込むべき事項の案を作
6.5 以上で、血糖降下薬やインスリンの投与などを
成する。
していない人を対象にする。江崎課長は会見で、糖
4 月解禁の電子処方箋、全国 7 カ所で実証実験中
日医総研調査 大分のほか埼玉、石川など
2016 年 3月3日【PHARMACY NEWSBREAK】 事 業
日本医師会総合政策研究機構(日医総研)がまと
所あることが分かった。
めた「IT を活用した全国地域医療連携に関する調査
12 年度の調査開始以降、3 回目の調査で、今回の
(2014 年度版)」によると、電子処方箋の実証実験を
調査で判明した全国の地域医療連携数ネットワーク
実施している地域医療連携ネットワーク(NW)は
は 269 カ所で、このうち 238 カ所から有効回答を得
全国に 7 カ所あり、実施を予定している NW も 11 カ
た。13 年度調査では 198 カ所だったが、新たに 69
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INFRASTRUCTURE
カ所の連携が判明した。調査では参加施設数や提供
臨会荒木脳神経外科病院(広島県)の「荒木脳神経外
しているサービス、サービスで共有できる情報項目
科病院 地域医療情報連携ネットワーク」、香川県
なども聞いた。
医師会の「かがわ遠隔医療ネットワーク」などが実
調査結果によると、電子処方箋の実証実験は別府
施を予定している。
市医師会(大分県)が運営する「処方箋の電子化に向
電子処方箋については 2 月に開かれた厚生労働省
けた検討のための実証事業」と「別府市医師会地域
の検討会で、電子処方箋を運用するためのガイドラ
医療連携システム」のほか、埼玉利根保健医療圏医
イン案が大筋で了承されたことから、厚労省は今年
療連携推進協議会(埼玉県)の「埼玉利根保健医療圏
度中に関連省令を改正し、電子処方箋を 4 月から解
地域医療ネットワークシステム」、金沢医療セン
禁することになっている。
ター(石川県)の「地域医療連携システム」、エイル
電子お薬手帳は14カ所で実施
(福岡県)の「地域医療連携支援システム エイル」な
ど 7 カ所で実施中だった。
このほか、各ネットワークが提供しているサービ
北海道や大阪など11カ所でも予定
スに関する調査では、電子お薬手帳は 14 カ所で実施
しており、実施予定は 22 カ所に上った。サービスで
さらに、北見市医療福祉情報連携協議会(北海道)
共有できる情報項目に関する調査では、「調剤結果」
の「北見市医療福祉情報連携システム」、浪速区医師
の共有を 65 カ所で実施中であることが分かり、13
会(大阪府)の「ブルーカードシステム」、医療法人光
カ所で実施予定だった。
NDB のレセプト・特定健診情報、突合率向上へ
厚労省が改善策
2016 年 2 月24日【MEDIFAX】 事 業
厚生労働省は 24 日の「レセプト情報等の提供に
関する有識者会議」
(座長=山本隆一・東京大大学院
特任准教授)で、ナショナルデータベース(NDB)に
含まれるレセプトデータと特定健診・保健指導デー
タの突合率を上げる改善策について報告した。現状
では、レセプトデータと突合できる特定健診等デー
タは 4 分の 1 程度にとどまっており、会計検査院も
改善を求めていた。
レセプト情報と特定健診等情報の突合がテーマになった有識者会
議=24日、厚労省
レセプト情報は、被保険者の個人情報(被保険者
記号番号、生年月日、性別)を審査支払機関が匿名
化処理した文字列(ハッシュ ID)に置き換えた後、
データを突合できない。レセプトデータと突合でき
厚労省が再び匿名化処理し、NDB に保存される。特
る特定健診等データは、2012 年度は 24.9%、13 年
定健診等データの場合は、保険者、厚労省の順に匿
度は 25.1%となっている。
名化処理をし、同様に NDB に保存される。
このため、厚労省は 15 年度に NDB システムを改
しかし、一部の保険者では、例えば被保険者記号
修し、レセプトデータと特定健診等データで個人情
番号をレセプトデータでは「全角」、特定健診等デー
報の表記が一部異なっていても、審査支払機関と保
タでは「半角」にしているため、同じ被保険者でも審
険者で同じハッシュ ID を新たに付けられる仕組み
査支払機関と保険者で異なるハッシュ ID が発生す
を導入する。16 年度から運用を始め、17 年度以降
るケースが生じている。この場合、NDB で両者の
に本格的に効果が出てくる見通し。
医療 ICT
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INFRASTRUCTURE
会計検査院は昨年 11月の 14 年度決算検査報告で、
療等 ID 導入の検討が進んでいることに触れ、それも
突合率の低さを問題視。特定健診等が医療費適正化
視野に入れながら厚労省全体としてビジョンを持っ
に及ぼす効果について、データを十分に活用して適
て政策を進めてほしいと要望した。
切に評価できるよう厚労省に改善を求めていた。
石川広己構成員(日本医師会常任理事)は、突合
率向上を歓迎する姿勢を示した上で、特定健診の受
石川構成員、特定健診の改善求める
診率や内容に懸念を示し、改善の必要があると指摘
した。
有識者会議で霜鳥一彦構成員(健保連理事)は、医
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2016.3.10
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CONTENTS
電子パスで医療連携の目標共有を
済生会熊本病院・町田副院長
済生会熊本病院の町田二郎副院長は 26 日、大阪市で開かれた医療 ICT に関するセミナーで
地域医療連携パスの取り組みについて、
「急性期病院と受け入れ側施設が地域の中で目標管理
と責任体制を共有するためには電子情報ネットワークが必要」と述べ、電子クリニカルパスに
よるプロセスマネジメントの重要性を指摘した。
2016 年 2 月29日【MEDIFAX】 医療・介護
済生会熊本病院副院長・町田二郎
氏=26日、大阪市内
町田氏は、熊本脳卒
れた同セミナー(主催 NEC)では、東京女子医大東
中地域連携ネットワー
医療センターの上野惠子病院長が電子カルテ導入の
ク研究会(K-STREAM)
効果として、判読が困難な手書きのカルテによる誤
が運用する熊本脳卒中
読に伴うリスク回避や、業務の効率化による看護部
地域連携パスのデータ
門への効果を指摘、「さらなる ICT の活用を検討し
を示しながら、
「急性期
ていきたい」と述べた。ICT への期待では、文部科学
病院から回復期病院へ
省の遠隔在宅医療支援システムの研究事業にも参画
の連携に段差(目標設
していることから、「病院と診療所がバイタルデー
定のギャップ)がない
タを共有して、対面診療が困難な患者を遠隔診断で
ように一体となってお
きることの意義は大きい。
(放射線科医の立場から)
互いを知ることが重
ICT による医療連携は CT などの医療被ばくの低減
要」と述べ、電子クリ
化にもつながる」と述べた。
ニカルパスの活用によって、
「普通の人、普通の組織
このほか、永生病院(東京・八王子市)の飯田達能
が普通以上のパフォーマンスを出す」ことの意義を
院長が、八王子市の地域医療連携への取り組み状況
指摘した。
と ICT を活用した連携システムの運用状況などに
地域医療連携と ICT への期待をテーマに開催さ
ついて講演した。
日医 ORCA 管理機構が業務開始
関係者が事務所開き祝う
2016 年 3月1日【MEDIFAX】 医療・介護
日本医師会が政府系ファンドの地域経済活性化支
業務を引き継ぎ、利用者へのサービス向上、地域の
援機構(REVIC)と共同出資で立ち上げた新会社「日
医療・介護の ICT 化促進を目指す。日医総研主席研
本医師会 ORCA 管理機構」は 1 日、
東京都文京区本駒
究員だった上野智明氏が社長を務め、総研内で ORCA
込に本社オフィスを開設し、本格的に業務を始めた。
チームとして在籍していた職員 4 人も常勤する。
日医総研が推進してきた ORCA プロジェクトの
初日は関係者が訪れ、事務所開きを祝った。
医療 ICT
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2016.3.10
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CONTENTS
4 月に電子お薬手帳の情報共有サイト、報酬算定に対応
パナソニックヘルスケア
2016 年 3月2日【PHARMACY NEWSBREAK】 医薬品
パナソニックヘルスケアは、全国の医療機関、薬
ているが、他社の電子お薬手帳アプリでも情報が閲
局で電子お薬手帳の情報を共有できるポータルサイ
覧できるようにする。サイトで連携する各電子お薬
トを 4 月に立ち上げる。患者からスマートフォンな
手帳サービス事業者には、簡単に組み込むだけのス
ど端末を預からなくても服用履歴が閲覧できる仕組
マホアプリのコンポーネントを提供し、大幅な改修
み。4 月の調剤報酬改定で、電子版お薬手帳も一定
をしなくても短期間で連携接続できるという。
の要件を満たせば、紙のお薬手帳と同様に薬剤服用
4 月の改定では、電子お薬手帳についても紙媒体
歴管理指導料の算定が可能になることに対応する。
と同等の機能を持つ場合には、算定上、紙媒体の手
ポータルサイトの名称は「chk4.me(チェック
帳と同様の扱いになるが、医療従事者が閲覧の際、
フォーミー)」。特別な端末やソフトウエアは不要
患者のスマホなどを直接受け取らなくても手帳の情
で、サイトにアクセスするだけで、服用履歴が見ら
報を閲覧できる仕組みがあることや、どの医療機関、
れる。具体的には、医師や薬剤師がサイトにアクセ
薬局でも閲覧できることなどが求められる。このた
ス。発行される閲覧番号を患者に伝え、電子お薬手
め、どの事業者の電子お薬手帳も患者から預かるこ
帳アプリに番号を入力してもらうと、認証され、服
となく服用履歴を見られるようにすることで、電子
用履歴が見られる仕組み。
お薬手帳の普及を推進する。
同社は電子お薬手帳「ヘルスケア手帳」を展開し
新バーコード必須化へ、工程表作りで再度議論へ
流改懇・WT、春以降の通知改正も念頭
2016 年 2 月24日【日刊薬業】 医薬品
医療用医薬品の流通改善に関する懇談会(流改
に沿った改革の工程表でも、販売包装単位と元梱包
懇)の下に設置されている、日本製薬団体連合会と
装単位のバーコード表示を、後発品の数量シェア
日本医薬品卸売業連合会の「新バーコード表示推進
80%を達成する 20 年までに 100%にすることが示
ワーキングチーム(WT)」は 23 日に非公開で会合
されている。
を開き、新バーコード表示の必須化に関する工程表
新バーコード WT ではこうした状況を確認した上
作りに向け、再度、会合を持つことを決めた。2020
で、具体策を検討した。厚生労働省によると日薬連
年度までの表示必須化へ、薬剤や包装単位の種類ご
側からは、先発医薬品企業、後発品企業を問わず、
との工程表について、具体的なイメージを作った上
自社工場だけではなく委受託による製造もあること
で、今春の流改懇に報告する。その後は、新バーコー
などが、表示の必須化に時間がかかる要因として示
ド表示に関する通知の改正を念頭に置いている。
されたようだ。
流改懇が昨年 9 月にまとめた「新提言」では、後発
ただ、20 年度までの必須化は日薬連も卸連も共通
医薬品が市場流通の 50%を占める時代に対応する
認識で、いつごろまでに、どのような手順で達成す
ため「元梱包装単位、販売包装単位における新バー
るかについての検討を、さらに深めることになった。
コード表示の必須化に向けた工程表の作成が必要」
12 年通知の改正で対応
で、新バーコードを「最終的には全ての医療用医薬
品に対する強制力のある措置に基づく必須表示とす
る」と書き込まれた。
具体的に参考になるのは、医政局経済課と医薬食
経済財政諮問会議の委員会がまとめた「骨太 2015」
品局(当時)安全対策課が 12 年 6 月に出した 2 課長
医療 ICT
NEWS FILE
2016.3.10
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CONTENTS
通知だ。生物由来製品を除く内用薬・注射薬・外用薬
問題をバーコード WT でより詳細に検討し、工程表
について、販売包装単位では、有効期限と製造番号
のイメージを作った上で、流改懇に報告する。
(製造記号)が任意表示に、元梱包装単位では、商品
流改懇に報告した上で了承されれば、具体的な工
コード、有効期限、製造番号(製造記号)、数量が任
程表を盛り込んだ通知の改正も視野に入り、新バー
意表示になっている。
コード表示の必須化へ前進する。新提言では「強制
この通知を改正し、任意表示を必須表示にした場
力のある措置に基づく必須表示」と書かれている
合「どのような種類の薬の、どの包装単位について、
が、現時点では「通知の改正で対応できるだろう」
いつまでに必須化するか」が問題になる。こうした
(医政局経済課)と見ている。
開 催 案 内
25 日から ワールド・アライアンス・フォーラム I Tあわじ会議
国内外の IT 分野の学識者らが最先端技術に
府医師会副会長の澤芳樹・大阪大医学部長らが
関して意見を交わす「2016 ワールド・アライア
講演する。医療用ロボットや IT を活用した医療
ンス・フォーラム IT あわじ会議」は 25、26 日の
システムのプレゼンテーション、有識者による
両日、兵庫県淡路市で開かれる。兵庫県などの
パネルディスカッションなども行われる。問い
主催。
「先端医療革命と国家戦略特区~日本から
合 わ せ は 事 務 局 TEL:03-5369-2384 ま た は
世界の問題を解決する~」をテーマに、原丈人・
[email protected] へ。
アライアンス・フォーラム財団代表理事や大阪
医療 ICT
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【医療 ICT NEWS FILE 編集部】
座談会
16 年度改定
医療 ICT 定着に向けた大きな一歩に
医療分野で情報通信技術(ICT)を活用する動きが急速に広がり始めている。
政府は昨年 6 月に「『日本再興戦略』改訂 2015」
(成長戦略)を閣議決定し、
今後 5 年間で医療分野における ICT 化推進に集中的に取り組む方針を打ち出した。
2016 年度の診療報酬改定には、医療 ICT 推進に関する点数設定などの項目を複数盛り込んだ。
医療費が伸び続ける中、医療の効率化を実現するツールの一つとしてだけでなく、
医療のありようを大きく変える可能性も秘めている。
医療 ICT をテーマとする本紙座談会では、厚生労働省の鈴木康裕技術総括審議官、日本医師会の石
川広己常任理事、国立社会保障・人口問題研究所の森田朗所長(前中医協会長)に、それぞれの立場か
ら医療 ICT の現状と課題、将来の展望を語ってもらった。
2016 年 3月3,4,7日【MEDIFAX web】
日本の医療分野における ICT 化の取り組みが遅れ
医療現場がメリット感じることが重要
てきたということです。日本は、医療分野の ICT 化
に早い段階から取り組み始めたといえますが、これ
―政府の成長戦略で医療 ICT 推進が明記されまし
までに実現できたことは非常に少ない。一方、世界
た。20 年までの 5 カ年を集中取り組み期間に位置付
を見れば、日本より遅く ICT 化に取り組み始めた国
け、15 年度中に「医療等分野データ利用プログラム
が日本を追い越しています。この現状を打開すべく、
(仮称)」を策定する計画も盛り込みました。政府が
政府が期間を定めて集中的に取り組もうということ
定めた、いわゆる「骨太の方針」にも医療 ICT の推進
です。
が掲げられています。まずは鈴木審議官に、
医療 ICT
2 つ目は、高齢化で医療や介護などの社会保障制
が政府全体として優先的に取り組むべき課題になっ
度関係費用が大きく膨らむ中、何らかの形で制度を
た背景についてお話しいただきたいと思います。
より合理化、効率化する必要性が出てきているとい
うことです。財務省ならずとも誰もが考えることで、
鈴木氏 背景は大きく 3 点あると思います。まずは、
医療 ICT
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医療資源の使い方で今よりも効率化できる部分があ
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座談会
16 年度改定、医療 ICT 定着に向けた大きな一歩に
るのであれば効率化
に、そのメリットを十分に感じてもらうことです。
を進め、より使うべ
ここ数年でコンピューター全般の情報処理能力が大
きところに使おうと
きく向上し、扱う情報量や処理速度が増す一方、デー
いうのは当然のこと
タなどを「入力する手間」は解決すべき課題として
です。3 つ目は、医
残っています。医療現場が直面する、このあたりの
療に関するさまざま
課題にもきっちり向き合わなければ、供給する側や、
なデータを分析する
国側が一方的に推進するだけになってしまう可能性
ための基盤が日本で
があります。
整ってきたというこ
そして、もう一つ大事なのは、プライバシーやセ
とです。DPC や、ナ
キュリティーに対する懸念を払拭しなければならな
ショナルデータベー
いということです。情報管理の安全性をしっかり担
ス(NDB)などをビッ
保する。その上で、一定の個人情報をどのようにす
グデータとして活用
ればやりとりできるか議論すべきです。関係者の間
するために、それぞ
で、こうしたさまざまな課題に対する認識や、ベク
れが集積しているデータを “ どのようにつなげ ”、そ
トルがそろってきたと感じており、医療 ICT を推し
して “ どのように分析するか ” ということが重要に
進めるための機は熟したと感じているところです。
鈴木 康裕 技術総括審議官
[厚生労働省]
なってきています。
ご承知の通り、ビッグデータが活用できればさま
―次に、医療などの社会保障財源をいかに効率的
ざまなことが実現できます。例えば、創薬の領域で
に使って、提供する医療サービスなどの質を高めて
はゲノム情報の活用も含め、いかにコストを下げて
いくかという観点で、諸外国の例などにも詳しい森
効率的に研究・開発を進めるかということが論点に
田先生に ICT 推進の意義についてのお話を伺いたい
なってきています。アジアは 30 年後に世界の医薬品
と思います。
市場全体の 6 割を占めるまでになるとの見方もあり
ます。そうなると、アジア人の臨床情報や遺伝情報
森田氏 ICT と一言で言いますが、現場の情報連携
の価値が高まります。その時、日本がビッグデータ
からいわゆるビッグデータの収集・管理・分析に必要
を活用してアジア地域の国々と連携することができ
な番号制度の話、医薬品や医療機器の開発、さらに
れば、製薬産業がさらに発展するための一つの契機
は再生医療など、活用できる世界は広がる一方です。
になります。こうしたことは経済産業省だけでなく、
私自身は森喜朗内閣の時から行政システムの合理化
厚労省としても取り組まなければならない課題です。
に向けた IT の活用というテーマで政府の検討など
に関与してきました。20 世紀の当時は、医療関係で
医療 ICT 推進の「機は熟した」 言えばデータが多すぎて技術的にもなかなか処理で
きない時代でしたが、21 世紀に入り技術が進歩して
塩崎恭久厚生労働相が主催し、森田先生に座長を
環境が変わってきたという印象はあります。
務めていただいている「保健医療分野における ICT
日本での医療 ICT 普及を考える手がかりとして、
活用推進懇談会」では、医療 ICT について考えてい
医療 ICT 先進国で言われている推進・普及のポイン
ることは昔と大きく変わらないのに、これまではな
トを 3 点紹介します。1 つ目は、当然のことながら
ぜそれができなかったのかということを分析しても
情報をさまざまなところから集めて結び付けるため
らっています。医療 ICT を進める上での課題を整理
の “ ネットワーク ” が必要ということです。そして集
し、それをクリアするための具体的な対応策を考え
まった膨大な情報をさまざまな用途に応じて解析で
てほしいと考えています。
きる “ ビッグデータ ” として扱えるようにすること。
大事なことは、実際に ICT を導入する医療現場
最後にデータを入力、操作するために必要な利便性
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座談会
16 年度改定、医療 ICT 定着に向けた大きな一歩に
の高い “ インターフェース ” を用意することです。医
けです。
療 ICT を進めるには、この 3 点をバランスよく発展
現在、地域医療構想をめぐってさまざまな議論が
させていく必要があります。
ありますが、それぞれの地域で将来の医療需要と供
それぞれの現状を考えてみると、日本はネット
給を上手に合致させていくためには、かなりしっか
ワークに関しては世界から見てもかなり進んでいる
りしたデータに基づいて資源配分しなければならな
と言っていいでしょう。ただ、鈴木審議官がご指摘
いでしょう。高度医療を提供する医療機関の集約化
のように、医療に関するビッグデータが活用されて
など、地域の中で、どこにどのような形で医療資源
いるか、という点では必ずしもうまくいっていると
を配置するのが望ましいか考えていく時、やはり
は思いません。そしてインターフェースの問題です
データが必要になってくるわけです。
が、これからますます技術開発が進んでいくでしょ
膨大な医療データを
「どのようにつなげて分析するか」 うし、日本が得意な分野であるとも感じていますが、
これはネットワークとビッグデータの両方に結び付
いて初めて力を発揮する部分です。
つまり、この 3 点を 1 つのシステムとして考えて
医療に関するさまざまなデータをどのようにつな
いく発想が重要になりますが、医療 ICT に関する政
げていくかという観点で一つの例になるのは、健康
府の取り組みを見ると、多くの省庁でさまざまな検
診断のデータです。日本の小学校や中学校の健診で
討が進んでいます。3 点を俯瞰して考える必要があ
は、かなりの情報が紙ベースで収集されているのに、
るため、少なくとも私が座長の医療 ICT 懇談会で
卒業して 5 年もたてば廃棄してしまうという現実が
は、どのような課題があるかという全体をしっかり
ある。非常にもったいないと感じているわけですが、
と可視化して、何がどこまで実現できているのか、
こうしたデータを何とかデジタル化して経年変化な
今後どこまで実現できそうなのかといった展望を、
どが確認できるようにつなげ、将来の予防や健康管
ある程度明らかにして具体的な対策を検討していく
理に役立てる仕組みができれば、それだけで日本の
つもりです。
医療はある程度効率化が進むと感じています。
中医協の議論を 6 年見てきた経験からも、日本の
医療が非常に高い水準であることは理解しているつ
―先ほど、医療分野での ICT 化には、現場がメリッ
もりですが、それを支えてきた社会的な前提や環境
トを感じることが必要という話もありました。現場の
が大きく変わり始めています。鈴木審議官がおっ
お立場から石川先生はどのようにお考えでしょうか。
しゃったように、やはり財政的な問題が最も大きい
でしょう。要するに、医療分野ではこれから相当な
石川氏 医療 ICT を
レベルで効率化を進めていかなければ、今までの質
進めることで可能に
を維持していくのが難しくなるということです。こ
していかなければな
うした状況で鍵を握っているのは、患者や国民の膨
らないのは、第一に
大な健康データを集めて分析しながら、きめ細かく
医療情報連携である
必要なところに手当てしていけるかということにな
と考えています。医
ると思います。
学・医療分野は高度
もう一つ、社会環境の変化で忘れてならない点は、
化、細分化、専門分
日本では将来的な人口減少が避けられないというこ
化が大変な勢いで進
とです。現在の診療報酬制度は、
「患者 1 人を診てい
んでおり、より高度
くら」という体系になっていますので、人口が減り、
で専門的な医療を求
少しずつ患者も減っていく環境で、地域によっては
める国民・患者の要
医療機関の経営が難しくなっていく可能性があるわ
求は年々強くなって [日本医師会]
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石川 広己 常任理事
座談会
16 年度改定、医療 ICT 定着に向けた大きな一歩に
いると感じています。よりレベルの高い医療を受け
の、3 年目くらいからシステムの維持経費を地域の
てもらうためには、医師が 1 人で問題を解決するの
行政や医師会が出すのか、地域医療連携の中心にな
ではなく、多数の専門の先生方に支えてもらう必要
る病院が出すのか、それとも利用する会員が出すの
があるからです。
かといった話が持ち上がり、結果的にうまく定着し
なかったというようなことがありました。
診療報酬での ICT 点数設定
「強烈に背中を押す」 加えて、ネットワークで情報連携する上での基盤
が十分でなかったという点もあります。これは、私
も森田先生も参加した「医療等分野における番号制
情報連携の必要性は医療者なら誰しも感じている
度の活用等に関する研究会」が提言した、“ 医療等
ことだと思いますが、これまではなかなか進んでき
ID” という仕組みの必要性につながってくる話です。
ませんでした。私自身、地区医師会の活動に携わっ
つまり情報管理には、国民一人一人を識別するため
てから約 16 年間、ずっと医療 ICT 関係に取り組んで
の番号や符号が必要になるということですが、現状
いますが、なかなか進まない最大の理由は、相対的
を見ると、医療機関ごとに患者さんの情報を管理す
に見て医師が日常診療の中で PC を利用する場面が
る番号は違っていて、その病院の番号でしかカルテ
少なかったことにあると感じています。日本で IT 化
やレントゲンを検索したりすることができません。
が遅れている分野は法曹界と医療界などと言われま
当然、医療機関が変われば使えないわけです。
すが、若い先生方は別にして、医師会で中心的な役
そして先ほど、鈴木審議官も触れられていました
割を担っている先生方や、医療機関の経営層の先生
が、ネットワークで情報を共有する際には、プライ
方の PC スキルは低いのが実態です。けれども、そ
バシー保護の観点から安全な情報管理が何よりも重
んな現状とは関係なく、医療情報連携が不可欠な時
要になるということも忘れてはなりません。従って、
代を確実に迎えています。16 年度の診療報酬改定で
これまでの地域医療ネットワークでは、巨額な費用
は、医療情報のデジタル化の関係で保険点数が設定
をかけて安全性に配慮した VPN(仮想プライベート
されることになりましたが、これが強烈な一撃とな
ネットワーク)などのネットワークを整備して、閉
り、医療 ICT の推進に向けて背中を押すことになる
ざされた環境の中で情報連携を実践するしかなかっ
のではないかと期待しています。
た。そのため、補助金などが終了する頃に維持経費
医療 ICT に関する仕組みを整備する上では、さま
が問題になるわけです。
ざまな負担と恩恵のバランスを見極め、しっかりと
利便性と安全確保の両立が
「最大の課題」 した計画を立てて進めることができなかったという
反省もあります。これまでの地域医療ネットワーク
整備では、地域医療再生基金だけでも 300 億円規模
の経費を用いて各地で取り組んできたように思いま
ここ数年でスマートフォンやタブレット端末が一
すが、現在も稼働しているのは全体の 3 分の 1 程度
気に普及したことに加え、コンピューター技術の高
しかありません。実際、患者のための仕組みとして
度化もますます進んできましたので、医療分野でも
機能しているかを考えると、その数はもっと少なく
ICT を活用して合理的な仕組みを整備することがで
なるでしょう。
きるのではないかと感じています。ただ、システム
決定的な失敗は、初期投資と維持経費に関する考
が便利になったといっても、患者のプライバシーが
え方が十分でなかったということです。アンケート
守れない情報連携では意味がありません。
を採って調べると、軌道に乗らなかったネットワー
マイナンバーの議論が本格化したのは民主党政権
クの多くでは、情報連携の仕組みを維持するための
時代ですが、当時の大塚耕平厚生労働副大臣に何度
経費負担を十分に考えていなかったという問題が浮
も意見を申し上げに行っていたところ、ある時、大
かび上がりました。ネットワークを立ち上げたもの
塚副大臣に「あなたも IT をやっているのであれば、
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座談会
16 年度改定、医療 ICT 定着に向けた大きな一歩に
マイナンバーのような番号が国民一人一人に振られ
ればスケールメリッ
た方が便利だろう」と言われたことがありました。
トが働き、ビジネス
それはその通りです。国民一人一人に番号があれば、
としてうまくいくと
医療分野における情報連携やビッグデータの活用を
感じています。現状
大きく進展させるということは私もよく理解できま
を言えば、日本では
す。ただ、マイナンバーのように生涯変わらず、悉
それぞれの地域や医
皆(しっかい)性がある唯一無二の番号を個人の医
療機関などが個別に
療情報につなげることや、つながる可能性が出てく
かなりの初期投資を
るということは現場で従事する者として許すことは
しており、その回収
できません。従って、医療分野に限定して個人を識
が難しく、なかなか
別するための番号が必要になると感じていました。
標準化まで手が回ら
遺伝子情報が加わってくる個人の医療情報を守るこ
ないという感じで
とは極めて重要です。この安全の確保はないがしろ
しょう。こうした問 [国立社会保障・人口問題研究所]
森田 朗 所長
にできません。今後の医療 ICT 推進でも、利便性の
題について政府が本 (前中医協会長)
追求だけでなく安全性の面、個人情報の保護との両
腰を入れて、例えば、財政的に支援することで解決
立が最大の課題になると言っていいと思います。
に向けた動きが出てくると思います。
データを利活用する上で標準化は不可欠です。電
森田氏 利便性と安全性の両立という観点でも、医
子カルテの情報も、規格や様式が違ったままデータ
療 ICT 先進国と言われる北欧やバルト 3 国の取り組
として収集しても簡単には分析できません。例えば
みは参考になると思います。例えば、患者本人と医
創薬の領域は国境を越えた展開になっていますが、
師の 2 人がカードを入れて、初めて情報にアクセス
研究段階からデータ収集・分析に関する国際標準を
できるというシステムを構築している国がありま
どうするかということを議論し始めています。こう
す。看護師では、アクセスできる情報の範囲が医師
した分野で日本がリードするくらいの元気があって
よりも狭く制限されています。PIN コード(個人認
もいいと思っています。
証番号)で確認しますし、アクセスログは全て残り
医薬品では、16 年 4 月から費用対効果評価(HTA)
ます。さらに国によっては、患者本人がポータルサ
の仕組みが試行的に始まります。私が中医協に参加
イトでログを見ることもできる。つまり「私のカル
するようになった時から少しずつ動き出して、よう
テを誰が見たのか」を確認でき、知らない人が見て
やくです。製薬企業などが、HTA を客観的なデータ
いれば調べて場合によっては告発もできるといった
としてきちんと受け入れるためには、相当な量の
具合です。
データが必要です。日本では、コストがかかりすぎ
エストニアでは運転免許証を更新する際、必ずか
るのではないか、どのような組織でやるべきなのか
かりつけ医で健診を受診しなければ認められない。
という議論が先行してしまい、いま投資することが
いろいろな交通事故が起きている日本で、受診率の
将来的に大きな効果を生むであろうという考えにな
低い特定健診を受けることを免許更新の条件にする
かなかつながらないことをもどかしく思っています。
くらいのことは必要かもしれません。少なくとも交
14 年度の診療報酬改定の付帯意見に ICT による
通安全とリンクさせることはできます。
情報共有という文言が入ったことが、今回の 16 年度
しかし彼らの場合、国そのものが非常に小さいの
改定に結び付いていると思いますが、2025 年、30
で、仕組みが整備されるスピードも速く、コストも
年を見据えた準備は今から取りかかる必要がありま
小さい。一方、日本のようにいくつも IT ベンダーが
す。診療報酬で、そのような仕組みを整えることは
あると、規格の標準化など統合するためのコストが
医療の質を落とさず、持続可能な保険システムを動
非常にかかるわけです。ただ、そこさえクリアでき
かすために必要と感じています。
医療 ICT
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座談会
16 年度改定、医療 ICT 定着に向けた大きな一歩に
懇談会で医療 ICT 推進の
「ロードマップ」を作成
きました。一方、電子カルテの普及・浸透は失敗し
たと言わざるを得ないと感じています。これまでも
電子カルテについて国が一部補助するようなことは
鈴木氏 地域医療ネットワークを機能させる上で、
ありましたが、やはり診療報酬などで医療機関の負
石川先生がご指摘になったネットワークを維持する
担面をしっかりと支え、病院のためだけでなく地域
ための費用負担の問題は行政としても真剣に考えな
のためにも、患者のためにも、といったマインドセッ
ければいけない課題と認識しています。費用負担の
トが必要でした。
在り方も含めて持続可能な仕組みに落とし込んでい
先ほども申し上げましたが、今後は、そういった
く必要があります。
反省も踏まえて医療現場が ICT のメリットを感じ
地域医療ネットワークを整備する時のもう一つの
ることを重視しなければなりません。石川先生も
課題は、地域医療ネットワーク内で情報連携・共有
おっしゃっていましたが、これだけ医療が専門化し
はできても、ネットワークを超えて別のネットワー
てくると、医師 1 人が全ての物事に対応するのが難
クとの間でデータをつなげることが難しいという問
しくなります。将来的には、ICT を使って医師が診
題です。地域医療ネットワークを超えてデータの受
療で活用できる “ 今日の治療指針 ” のようなものが
け渡しができれば、それは患者が移動できることを
診察室のコンピューター画面に出てくるようなこと
意味します。個人のデータを時系列に追いかけると
が理想ではないでしょうか。患者の症状から、ある
いう “ 縦串 ” での分析も可能になり、ビッグデータと
程度考え得る診断名や必要な検査などの選択肢が分
して診療動向などを解析する“ 横串 ” の活用も可能に
かる、もしくはエビデンスレベルが分かるような仕
なる。
この縦串横串の世界を実現するための全国的な
組みです。もちろんそういった仕組みの活用は選択
普及でなければならないということも考えています。
肢であって、最終的に判断して決めるのは医師です。
医師の助けになると思いますし、全国的に見れば、
電子カルテの教訓を生かす
医療の質向上や均てん化にもつながる可能性があり
ます。現実的には少し時間のかかるような話かもし
この全日本の仕組みを構築する礎として、個々の
れませんが、例えばそのようなメリットを実感して
医療機関の ICT 化を推進する必要があります。個別
もらえるようにしなければ、現場の先生方に「一緒
の医療機関に関する ICT では、「電子レセプト」と
に ICT をやっていきましょう」とは言っていただけ
「電子カルテ」、検査などの「オーダリングシステム」
ないと考えています。
の 3 つを挙げることができます。このうち、電子レ
ICT に関しては現在、内閣官房を筆頭に、関係省
セプトとオーダリングシステムは、業務管理に関係
庁がそれぞれの立場で検討を進めています。なぜそ
するという側面もあり普及・浸透が比較的うまくい
うなっているかと言いますと、このテーマは一つの
省庁にとどまらない側面があるからです。全省庁で
取り組むべき大きなテーマであるのと同時に、厚労
省としては医療の現場を一番見させていただいてい
るという意味で、相当本気になって取り組まなけれ
ば進まないと強く感じています。
医療 ICT 具現化のための “HOW” を整理へ
森田先生に座長をお願いしている懇談会では、ま
ずは直面するさまざまな課題を整理し、何を目指す
べきなのか、それをいつまでに、どうやって実現し
医療 ICT
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16 年度改定、医療 ICT 定着に向けた大きな一歩に
ていくべきなのかという “HOW” の部分をまとめる
ングで、電子カルテ
ロードマップを策定してもらいたいと思っていま
の言語や様式、規格
す。必要な政策をどこまで明確に打ち出せるかは分
などを段階的に調整
かりませんが、現時点では委員の先生方にあまり議
していくことです。
論の制約を設けずいろいろとディスカッションして
主な電子カルテメー
いただこうという方針です。
カーの協力を促しな
懇談会としてまとまった結論を受け、他省庁につ
がら、少なくともア
なぐべき案件が出てくれば、われわれが行政官とし
ウトプットは完全に
て責任を持って対応します。懇談会の意見を実現す
互換できるようなシ
るための予算確保や制度設計などはわれわれの仕事
ステムを共同で考え
になります。4 月くらいまでに、中間的な意見があ
てほしいと思ってい
る程度まとまれば、政府の「骨太の方針」や、概算要
ま す。 ゴ ー ル は 20
求に向けた材料になってきます。当然、そこで議論
20 年なのか、2025
が終わりということではなく、懇談会には継続的な
年になるのかはこれからの議論ですが、電子カルテ
議論をお願いしたいと思っています。
ではこの 2 つのアプローチを同時並行で進めること
塩崎厚労相は昨年の懇談会初会合で挨拶した際、
を考えています。
鈴木氏
医療 ICT を推進するために必要な基盤整備につい
て、線路でいう新幹線の広軌と一般電車の狭軌に例
森田氏 懇談会の座長としては、ICT 活用のメリッ
えて話をされていました。線路のレール幅に違いが
トとして、4 つの視点を重視した議論を進めたいと
あって日本中をつなげて走ることができないのと同
思っています。1 つ目はやはり、個人の健康管理に
じような課題を医療分野は抱えているという指摘で
有益ということです。そのためには、パーソナル・
す。森田先生がご指摘の “ 標準化 ” のために、何らか
ヘルス・レコード(PHR)を構築する必要がありま
の対応が必要です、特に電子カルテはさまざまな企
す。次は、本日すでに何度も話に出てきていますが、
業がいろいろなシステムをすでに提供しているた
ビッグデータとしてさまざまに分析し、活用するこ
め、
「明日から統一しましょう」と言っても現実的に
とです。
それは不可能なわけです。
3 つ目は、人口減少の時代を迎え、医療資源の配
電子カルテでは、まずは 2 つの取り組みを同時並
分を検討する際の材料になるということです。私は、
行で進めていく必要があると考えています。まずは
厚労省の医療従事者の需給調整に関する検討にも参
データを提供する際、データの提供を受ける側との
加していますが、やはりデータ分析に基づく議論が
間に共通するエスペラント語のようなものを介在さ
大事になってきます。一方、なかなか妥当なエビデ
せることができればと考えています。さまざまな規
ンスがなく、推計にいろいろな幅が存在することが
格の電子カルテの情報を標準化する変換効率を高
常に課題になります。今の地域医療構想をめぐる議
め、医療分野の情報連携に役立つデータとして集積
論もそうですが、需給調整の議論を深めるための材
する必要があるからです。そのためには 8 ~ 9 割の
料を ICT を活用して作っていくことが必要です。
互換性がなければならないと思います。
保険対象にするかの議論に
必要なデータ収集を
電カルの標準化
各施設のシステム入れ替え時に調整を
4 つ目は、少し脱線するように感じるかもしれま
もう一つの取り組みは、それぞれの病院が 5 年程
せんが、医療保険財政をどうするかの検討材料にも
度の間隔で実施しているシステム入れ替えのタイミ
なるということです。保険システムを維持、継続す
医療 ICT
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座談会
16 年度改定、医療 ICT 定着に向けた大きな一歩に
るには、さまざまな治療法や薬剤を、従来の日本的
バーは必要だと思っています。ただ、医療情報を管
な皆保険の対象にするか、しないかについて、もう
理する医療等 ID に限っては、ドイツやフランス、英
少し考える必要があるでしょう。
国などと同様にマイナンバーとは一線を画した形で
この問題意識については、いろいろな意見がある
統一することが望ましいと強く思っています。加え
と思いますが、まさに費用対効果の検討です。個人
て、個人情報やプライバシーが厳重に守られる形で
的には、保険で払うのに適したものは保険適用する
管理しなければなりません。
が、それ以外は保険から外すということを考えざる
医療等 ID が実現すれば、可能になることは数多く
を得ないと思っています。この話の先には、必ず混
あります。例えば、乳幼児からお年寄りまで全ての
合診療の問題が出てきます。強い反対意見があるの
健診行政に関するデータが一元管理できます。私は
は承知していますが、そういうことの是非を含めて、
小児科医ですが、一番困っているのは 3 歳児健診の
きちんと議論するためのデータを集めることが大事
尿検査データとその後の健康診断のデータがつな
です。そのためにレセプトデータの分析などを進め
がっていないということです。成人になってから、
る必要があると考えています。
慢性腎炎を発症していたというようなことが分かる
のですが、それまでの間、誰も注意できず、運動し
石川氏 医療分野のビッグデータを活用するための
放題で悪化させてしまうようなケースがあるわけで
基盤整備として、個人情報の匿名化作業も重要です
す。健診データを一元管理できれば、こういう問題
が、先ほども申し上げました通り「医療等 ID」の仕
はなくなっていきます。国が本腰を入れて個人情報
組みが不可欠です。
「医療等分野における番号制度
やプライバシーを守るマイナンバー制度と、そのイ
の活用等に関する研究会」の提言では、マイナン
ンフラを活用した医療等 ID の仕組みを整備するこ
バー制度のインフラを活用して医療等 ID の仕組み
とを期待していますし、われわれもそのために協力
石川氏
を構築するという方
を惜しまない気持ちです。
向性を打ち出しまし
医療等 ID を活用し、診療データなどの医療情報の
た。医療現場で “ マ
連携や集積を進めていく上で、われわれとしては医
イナンバー自体 ” を
療従事者の教育にも取り組む必要があると考えてい
そのまま用いること
ます。患者によって重要な情報は何なのかという視
には反対ですが、医
点で、日頃からカルテをきちんと整理したり、大事
療 等 ID は “ マ イ ナ
なレントゲンの確認後は電子的にチェックしたり、
ンバーカード ” の IC
心電図を見たらチェックしたりというように、患者
チップに格納する符
のサマリー情報、キーデータをきちんと保存して、
号を活用する枠組み
患者にいつでも提供できるようにする。そういう
ですので、合意でき
用意をしておくための訓練が必要になると感じてい
る内容だと思ってい
ます。
ます。
先ほど、鈴木審議官がおっしゃったような、ICT
化で診療上の EBM が確認できるような仕組みは、
マイナンバーとは
異なる「医療等 ID」の創設を
実現すれば参考になるとは思います。ただ私自身は、
それよりも先に人工知能(AI)を用いたシステムの
開発が進んで、診断に役立つような時代が来ると思っ
われわれは、マイナンバー制度全般を駄目と言っ
ています。AI で診断プロセスの短縮などが実現でき
ているわけではありません。日本のように 1 億人以
たとき、むしろ医師が担う医療的な判断の重要性が
上の人口を抱える先進国で、社会保障制度に関する
高まるということも考えておかなければなりません。
データを管理するための仕組みとして、マイナン
患者の理解を前提にした治療法の選択など、「患者
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16 年度改定、医療 ICT 定着に向けた大きな一歩に
の顔色を見ながら説明し、決めていく」というよう
導入しようとしてい
な、AI にはできない部分の役割が大切だからです。
ます。医師の質に、
バラツキがあること
森田氏 医療等 ID の活用では、医療保険制度の負担
も背景にはあるよう
をコントロールするために、マイナンバーとリンク
で す が、GP と し て
して収入のフローだけでなく、資産フローをどのよ
受け持っている患者
うに把握するかも課題になると思います。そこが把
のアウトカムデータ
握できれば、現在の粗い区分ではなくて傾斜を細か
を報酬に結び付けよ
く設定することができるのではないでしょうか。い
うとする考えがあり
くら診療面で進歩や効率化を達成できたとしても、
ます。日本では、医
それを支える保険財政の仕組みが伴わなければ、持
療提供体制も英国と
続可能な質の高い医療の提供はできません。
は異なりますし、同
森田氏
じシステムをそのま
―医療データを蓄積し分析することで、医療の “ 見
ま導入するのは難しいので、導入を検討するとして
える化 ” が進むことに対する医療関係者の不安や懸
も少し工夫しなければならないでしょう。
念があることも否定できないのではありませんか。
鈴木氏 診療 GL は現在、だいたい 5 年程度で更新さ
鈴木氏 懸念という意味では、おそらく集積された
れるものが多いですが、さまざまなデータを反映す
データを見て、既存の考え方から非常に大きく外れ
る形で、頻回に更新されるような仕組みになること
ているような場合、規制という部分に反映される可
が理想ではないでしょうか。GL の更新が、医学の
能性があるということだと思います。個人的には、
アップデートに追い付いていけば現場は助かります。
例えば医薬品の禁忌など、明らかに危険な例は学会
や医師会と相談する必要があると考えていますが、
森田氏 1 人の医師が診る患者の数は限られていま
基本的には、医師の自律に任せるべきです。いろい
すが、ビッグデータになれば何十万、何百万という
ろなデータを分析して「あなたは全体のここに位置
単位のエビデンスとして統計的な精度や優位性が非
しています」というようなことを、病院なり医師本
常に高くなってきます。それをどのように活用する
人なりに示して理解してもらい、診療行動につなげ
か考えるべきです。日本医療研究開発機構(AMED)
てもらえればいいと考えています。
の末松誠理事長が提唱している「IRUD(未診断疾患
イニシアチブ)」などが一つの例でしょう。かかりつ
森田氏 例えば診療ガイドラインも、日本では守ら
け医と高度な専門医療を実践する医師の連携を前提
なければならないルールと思われている印象もあり
に、専門家の知見や最先端の遺伝子解析などによる
ますが、治療技術は日々進歩しているわけです。GL
検査結果を統合して、希少・未診断疾患の患者に対
で示す標準から逸脱することをやっても構わない
する医療システムを確立する構想です。身近なとこ
が、保険で評価する際には合理的な説明が求められ
ろから言えば、中医協でも、ジェネリック医薬品の
るということであればいい。優れた人は、どんどん
有効性などに関して随分と議論してきましたが、
新しいことに挑戦することも大事で、優れた治療で
ビッグデータを解析すれば答えがはっきり出ると
あることを証明できれば、GL も変わっていくとい
思っています。
う考え方が医療・医学だと思います。
治療に関するデータを分析して、標準の範囲から
鈴木氏 そうですね。個人的には、将来的に医療 ICT
逸脱する時にチェックできる仕組みがあればいいで
と薬事承認や保険償還システムをうまく組み合わせ
しょう。英国は随分苦労して、そのような仕組みを
ていく必要があると思っています。最近、再生医療
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16 年度改定、医療 ICT 定着に向けた大きな一歩に
製品に条件付きの早期承認の仕組みを導入しました
署名捺印が必要な診療報酬関連の文書の電子化も認
が、いわゆる通常の治験では、第Ⅲ相でもそこまで
められます。その際、HPKI(保健医療福祉分野の
規模の大きいデザインはできません。一方、実臨床
公開鍵基盤)が前提になっていることは注目すべき
に入れば患者数は桁違いに増えるわけです。安全性
点です。一方、HPKI を利用できるのは医師でもま
はもちろん確保した上で、有効性についてはある程
だ約 2300 人と普及していないのが苦しいところで
度見切りをつけ、いったん承認してから ICT を活用
す。現場からは「これは利用しなければならないも
して症例データを積み上げ、費用対効果の分析をし
のなのか」などと言われることもありましたが、今
ながら、値付けの妥当性を検証していくようなサイ
回の改定を好機と捉え、普及を加速化させていきた
クルが考えられるでしょう。
いと思います。
“HPKI” の幅広い活用を
医療 ICT 改定項目
「意味を理解してぜひ使ってほしい」
電子処方箋も、“ 真正性 ” の証明という意味で薬剤
今回の診療報酬改定では、医療 ICT に関する点数
師の HPKI が必要なので、全国的に普及するまでに
設定などの項目が入り、医療現場で ICT が広範囲に
は時間がかかります。そこが課題にはなるのですが、
浸透していくための第一歩になると考えています。
看護師も含め、データの時代には国家資格の真正性
16 年 4 月から運用を認める電子処方箋もしかり、こ
を証明する仕組みが必要になると考えています。
れまでは紙や CD-ROM などを用いていた病病連携、
HPKI はその有力な第一候補でしょう。介護保険で
病診連携も、診療情報を電子的に共有すれば点数も
ケアプランの作成という重要な役割を果たしている
付いて、入力の手間も省けるようになります。医療
ケアマネも、HPKI の利用を検討すべきです。電子
ICT に関する部分は、単なる改定項目の一つという
的な文書を提出した時に、報酬で評価されるための
受け止めではなくて、その意味を医師会や病院団体
基盤として、HPKI の幅広い活用が重要と考えてい
の先生方に十分に理解してもらって、ぜひ、使って
ます。
いただきたいと感じています。
現場からの要望としては、これから ICT を導入し
て、医療情報の連携を積極的に進める医療機関に対
石川氏 医療従事者は、アナログ時代から連携パス
して、ぜひ、いろいろな形のインセンティブを設定
に取り組んでいますが、きめ細かい情報連携をして
してほしいと感じています。評価は高くなくていい
も、厚生局が「やり過ぎだ」と判断して点数が付かな
と思いますが、少しでも点数などが付けばいいのです。
いこともありました。従って、今回の改定の電子的
日医のレセコン「ORCA」で使用可能な電子カル
情報共有の評価でどのような連携が求められている
テは現在 31 社ですが、どのような規格であっても医
か分かりやすくなると思います。今回の改定では、
療連携できるように診療情報提供書や診断書が作成
できるプログラム「MI _ CAN(ミカン)」を作りま
した。無償のシステムですし、ぜひ普及してほしい
と思っていますので、例えばミカンを利用すること
に対してインセンティブを設定してもらい、電子化
の促進を後押ししてもらえるようなことがあれば有
り難いです。
森田氏 私は、ICT 化を推進する上で、診療報酬上
の加算などの点数付けには限界があるように思いま
す。原資そのものが厳しいからです。従って、ICT
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16 年度改定、医療 ICT 定着に向けた大きな一歩に
を導入することによって医療機関の経営効率化が自
動的に進み、それによって実質的な収益が上がるよ
うな仕掛けにしなければならないと考えています。
例えば、高速道路の ETC はなかなか普及せず、ETC
利用による料金の割引制を導入した途端、一気に広
がりました。医療 ICT も、利用すれば得をするとい
う仕掛けになれば変わってくるはずです。今回の改
定で、ICT を推進する項目を盛り込んだ意義は十分
にあると思いますが、電子お薬手帳が普及するとい
うようなレベルはまだまだ初歩的な段階です。ICT
の普及で実現すべきことは山ほどあるからです。
ます。細かな要件は今後、運用通知で示すことにな
りますが、どちらの点数でも、院外で利用する装置・
―改定関係では、汎用画像診断装置用プログラム
機器については、個人の機器・端末ではなく病院が
「Join」というソフトウエアを保険適用し、技術料で
管理する機器・端末で、本人を同定するための指紋
評価するという新機軸も登場しました。
認証などを条件に設定することなどを検討してい
ます。
ソフトウエア単体を初の保険適用
関連企業の参入機運を高めることが大事
鈴木氏 ソフトウエア単体の保険適用は初めてで
す。今回の改定で、院外にいる専門医が、院内と同
医療 ICT を推進するためには、関連企業の参入機
水準の装置や機器を用いて画像データを読影できる
運を高めることも大事になると考えています。薬事
体制を整えた場合に、医師配置基準の緩和を認める
承認や保険適用などを前提とする競争原理が働け
項目があり、そこで “ 院内と同水準か ” を判断する際
ば、機能の水準や使い勝手、セキュリティーの面で
に「Join」が一つの目安になるわけです。
「画像診断
向上効果が期待できるのではないでしょうか。
管理加算 1」と「同 2」では、現行基準を満たす医師
が、夜間や休日に自宅などの院外で、院内と同水準
石川氏 そうですね。ただ、医療 ICT への参入を検
の装置・機器で読影した場合は算定可能にします。
討している IT 企業にぜひお願いしたいのは、医療分
従来は「専門医が常時」院内にいる必要がありま
野への参入で高い利益率を求めないでほしいという
したが、外にいても算定可能になるわけです。そう
ことです。多くの IT 業者は、利益率を 10%以上に
なると、1 週間 7 日を 3 交代 21 コマで回すなら、こ
設定していると思いますが、病院の利益率は 1 ~
れまでは常勤専門医が 4 人必要でしたが、ICT 化を
3%と 1 桁台です。かなり効率的な取り組みを徹底し
実現した病院は常勤専門医が 2 人か 3 人で回せるこ
ている一部診療所で 10%超のところもありますが
とになるので、医療機関にとってはかなりメリット
まれです。そういう意味で、参入する企業には日本
があると言えます。
の医療をより良いものにしていくための気概を共有
今回の改定に盛り込んだ ICT の活用では、「脳卒
したいと思っています。
中ケアユニット入院医療管理料」の医師配置基準の
緩和も認めます。医師が院外で、院内と同水準の装
鈴木氏 医療分野はこれからも、好不況関係なく、
置・機器を用いて、▽頭部精細画像などの検査結果
毎年着実に伸びていく市場という見方ができます。
や診療情報を確認できる▽常時連絡が取れる―な
それだけでも十分魅力的ですので、そのあたりを
どの体制が整っていれば、院内で夜間・休日に配置
しっかりアピールできるかも重要になります。
する医師の経験年数を現行基準より 2 年少なくでき
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16 年度改定、医療 ICT 定着に向けた大きな一歩に
―政府全体の検討体制ではデータ利活用の流れで
国内の規制を緩くするとそういう地域とは共同研究
代理機関(仮称)制度の構想もあります。
できなくなります。極論を言えば、海外データが活
用できず、日本で承認する医薬品は全て日本で治験
鈴木氏 改正個人情報保護法で病歴などが「要配慮
しなければならないということにもなりかねない。
個人情報」に位置付けられ、データの収集・活用は本
製薬企業にはこのあたりの点も含め、既存データを
人の同意に基づく利用、いわゆる “ オプトイン ” だけ
どのように扱えば、改正個人情報保護法の趣旨から
になります。これからは同意を取っていけばいいの
外れず、なおかつ研究の阻害要因にならないかを一
ですが、問題の一つはオプトインではない状況で収
緒に考えてほしいと思っています。
集してきた、これまでのデータをどのように扱うか
代理機関制度を創設する場合に大事なことは、医
です。必要な研究は進めることができる環境を確保
療機関がデータを提供しても守秘義務に違反しない
しなければならないので、解決方法として代理機関
ということをきちんと保証することです。併せて、
制度の検討が進んでいます。
代理機関の要件として、第三者へデータ提供する場
合に守るべき事項を明確に定める必要があります。
進む代理機関の検討
個人情報保護との整合性が課題に
石川氏 代理機関制度がどうなるかとは別に、最終
的に改正個人情報保護法の下で、きちっとした研究
データの利活用に関しては、個人情報保護法の対
や公衆衛生に関するデータが有益な用途に使えるよ
象が民間だけという問題もあります。国立機関、独
うになればいいと思います。同時に感じるのは、日
立行政法人、県立病院などの規制が全て異なってい
本国民が自分たちの医療情報を用いたデータの利活
ます。1 つの法律を整備し、規制を統一化するとい
用に関する各個人の利益と公益についてもう少し理
うアイデアもあると思いますが、相当な時間がか
解を深めるべきではないかということです。個人情
かってしまいます。必要な対応については、厚労省
報の大切さについて教育することも含め、社会全体
だけでなく、総務省などとも一緒に取り組まなけれ
が成長する必要があるでしょう。
ばならない課題と認識しています。
―最後に、医療関係者へ ICT 推進に向けた留意点
森田氏 ビッグデータを扱うのが代理機関という形
などのメッセージをお願いします。
になるかどうかに関係なく、日本の個人情報保護制
ICT のメリット
デメリットの「バランスを考えていく」
度は欧州に比べると問題が多いと指摘されています。
運用上の規制がきちんと機能しなければ、例えば
EU から日本にデータを送ってもらい、活用すると
いったことが難しくなるでしょう。これは、創薬な
鈴木氏 行政としては、医療 ICT のメリットとデメ
どにも影響してくる問題なので制度的な担保が不可
リットのバランスを考えながら進めていきたいと考
欠になります。先日も EU の裁判所で、米国にデー
えています。ICT 活用のもたらすメリットがある一
タを渡すのは違法という判断が下り大騒ぎになって
方、セキュリティー面を心配する声は多い。ただ、
います。新しい法律で代理機関をつくるのであれば、
心配事を 100%解決するまで何もしないということ
地方自治体ごとにバラバラの規制を、国全体の保護
では、ICT 化も日本の医療も、創薬などの研究も進
制度として基準などを統一することが必要です。
んでいかないと思うのです。セキュリティーはしっ
かり確保することが大前提だが、100%ではないか
鈴木氏 製薬業界の関係者と話すと、改正個人情報
もしれない。そういう時、まずは命が救われる可能
保護法で「治験がやりにくくなって大変」という意
性とのバランスを考え、明らかにメリットが大きい
見を聞きますが、欧州などの法基準は厳しいので、
というところから着手していきたいと思っています。
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16 年度改定、医療 ICT 定着に向けた大きな一歩に
患者・国民の理解と同意、医療関係者の同意と協力
も、個人情報保護の視点を大事に議論などに参画し
などを得ながら、ICT 化を広げていくことが必要だ
ていきたいと考えています。基盤整備の議論では、
と思います。
この観点がないがしろにされないように、論点をそ
また、ICT を活用する場面でも、チーム医療が必
らされないように頑張っていきます。私たちは、患
要なことをあらためて強調したいと思います。忙し
者目線での議論を主導できるように努めますのでぜ
い医師が、データ入力などを含めて対応するのは現
ひご協力をお願いします。日医として、これからも
実的に難しい。情報管理で責任を持つ CIO やデータ
HPKI や医療等 ID、情報連携に関する発信を続けて
マネジャーのような方々を医療現場で育てなければ
いきますので、引き続き注目していただきたいと思
なりません。医師が携わることはもちろん必要です
います。
が、一つのチームとして、医療機関で ICT の推進に
―ありがとうございました。
取り組んでほしいと思っています。
医療資源の有効利用
「医療 ICT を分析ツールに」
森田氏 日本における医療 ICT の今後を考える際、
参考モデルとして海外の医療 ICT 先進諸国の取り
組みをぜひ見てほしいと思っています。日本でその
まま受け入れるということではなく、彼らが何を考
えているかを理解することで、ICT に対する印象が
かなり変わってくると思うからです。北欧などは、
個々の医師の技量や病院設備は、日本よりも劣って
いるかもしれませんが、限られた財源の中で、でき
るだけ多くの国民に健康的な生活を送ってもらうた
めに何ができるか、という課題に向き合っています。
また、ICT はマネジメントツールとして非常に強
いことが特徴です。医療の現場で、医師が一生懸命
診療していることは分かっているつもりです。ただ、
このままでは財政的な面からも、医療を充実させる
ために診療報酬を上げてくださいというのは厳しい
局面が来ると感じます。医療資源を有効に利用する
ためにも、医療 ICT を分析ツールとしても活用して
いくことが重要です。
何よりも個人情報保護を重視
石川氏 繰り返しになりますが、医療 ICT を推進す
る際の最重要キーワードは “ 医療情報連携 ” になる
と思っています。そのための基盤整備として、これ
から 2 年ほどかけて、HPKI の普及と医療等 ID の仕
組みの整備にしっかり取り組みたい。そして何より
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年 月 日より
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セミナー等)をさせていただく場合がございます。これらにかかわる業務は弊社の厳重な管理下で行い、お客様の情報が外部に提供されること
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