周辺視刺激が引き起こす視覚誘導性自己運動感覚の分析

A-16-7
2015 年 電子情報通信学会総合大会
周辺視刺激が引き起こす視覚誘導性自己運動感覚の分析
Analysis of Vection Caused by Peripheral Visual Stimulation
小西 晃広*1
橋口 哲志*1
木村 朝子*1
柴田 史久*1
田村 秀行*2
Akihiro Konishi*1
Satoshi Hashiguchi*1
Asako Kimura*1
Fumihisa Shibata*1
Hideyuki Tamura*2
立命館大学 情報理工学部*1 同 総合科学技術研究機構*2
College of Information Science and Engineering*1, Research Organization of Science and Technology*2, Ritsumeikan University
1.はじめに
視覚誘導性自己運動感覚 (Vection) とは,一定方向に運
動する視覚パターンを観察した場合に,観察者がその逆方
向に運動しているかのように知覚する錯覚現象である.
Vection は,視野に対して視覚パターンの提示面が広いほ
ど強く知覚することが知られており,柳ら[1]は,周辺視領
域を段階的にマスキングすることで,視野角が Vection に
与える影響について実験・分析を行った.
そこで,本稿では中心視領域を段階的にマスキングする
ことで,周辺視刺激が引き起こす Vection への影響につい
ての系統的実験を行ったので,その考察結果を述べる.
2.実験装置
視覚パターンを全天周に提示するための実験装置として,
X-Media Galaxy/Dome Type(以下 X-Dome)を利用する.
X-Dome は直径 7.0m, 高さ 3.8m の小型ドームと 3 台の
プロジェクタで構成されており,小型ドームの内壁面全体
に映像を投影することで全天周型ディスプレイとして利用
できる[2].この際,投影映像に不具合が発生しないように
内壁面の形状に応じた歪み補正と映像の重なりを考慮した
ブレンディング補正を施している.これにより,視覚パタ
ーンを全天周に継ぎ目なく投影することができる.
3.Vection 実証実験
【実験内容】視覚パターンを生成するために,仮想空間内
に直径 6.0m の十分に長い円筒を作成し,内側に 3.2m 間
隔の縞模様をマッピングした.この円筒を X-Dome の内壁
面に投影し,被験者に向かって平行移動させた(図 1).
視覚パターンの中央にマスク領域を設けることで,周辺視
刺激が引き起こす Vection の有無を確認する(図 2).
【実験方法・条件】被験者 3 名に壁面から 0.55m の位置
に起立した状態で視覚パターンを観察させた(図 3).マ
スク領域を視野角 0°(マスクなし),20°, 40°, 60°からラ
ンダムに提示し,それぞれどのように感じたかを回答させ
た.実験条件は以下の通りである.
・移動速度:4.0m/s(周期 0.8 秒)
・提示時間:1 試行につき 30 秒
この際,視線方向による影響を排除するために視覚パタ
ーンの中央に注視点を設け,被験者に注視点付近をぼんや
りと眺めるように指示した.
【実験結果】マスク領域が広くなり,周辺視領域のみが視
覚パターンの提示面となることで,特に速度感に影響を及
ぼすことを確認した.被験者への聞き取り調査の結果,以
下のような傾向が得られた.
(1) マスク領域の視野角によらず Vection を得た
(2) マスク領域の視野角が 20°, 40°, 60°となるにつれて,
速度感が向上した
(3) マスク領域の視野角が 40°の場合,Vection が最も強く
なった
【考察】(2)では中心視領域のマスク領域が増加するにつれ
て速度感が向上しているのに対し,(3)では 40°の場合に
Vection が最も強くなった.この要因として,60°の場合に
は視覚パターンの運動を確認しづらくなったため,観察に
よる自己運動の想起が困難になったことが考えられる.
4.むすび
本稿では,中心視領域を段階的にマスキングすることで
周辺視刺激が引き起こす Vection について分析・考察した.
その結果,視覚パターンの提示面を周辺視領域のみにする
ことで,より強い速度感が得られることを確認した.また,
中心視領域をマスキングした場合に,Vection の強度が向
上する場合があることも確認した.今後は,さらに正確か
つ広範な主観実験と客観実験を行う予定である.
本研究の一部は,科研費・基盤研究 (S)「複合現実型情
報空間の表現力基盤強化と体系化」による.
参考文献
[1] 柳,他:“没入型ディスプレイにおける視覚誘導自己運動の分
析”, 信学技報, MVE 2003 - 24, 2003.
[2] 鈴木,他:“全天周型視聴覚複合現実体験空間とその基幹ソフ
トウェア”, 信学技報, PRMU 2011 - 261, 2012.
マスク領域
被験者
被験者が感じる移動方向
最大60°
7.0 [m]
仮想物体の移動方向
プロジェクタ
プロジェクタ
0.55 [m]
図 1 観察映像
(マスクなし)
2015/3/10 〜 13 草津市
図 2 観察映像
(マスク領域 20°)
プロジェクタ
図 3 被験者の位置とマスク領域
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( 基礎・ 境界講演論文集)
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