世界の法体系と会社法

シティグループ証券寄附講座「グローバル金融市場論」
世界の法体系と会社法
2015年6月18日
シティグループ証券株式会社取締役副会長
藤田 勉, Ph.D.
シティグループ証券株式会社
東京都千代田区丸の内1丁目5番1号
新丸の内ビルディング
本資料はシティグループ証券が情報提供を目的として作成したものであり、投資に関する助言又は金融商品の売買の勧誘を意図したものではありません。
世界の法体系
1.
ハードロー
制定法、判例法。裁判所などの国家権力による強制力を持つ。
長所:強い強制力。成文法は、明示性が高い。
短所:変化への対応が遅れる。裁判頻発→司法コスト膨大。時間を要する。
2.
ソフトロー
①制定法を根拠とする自主規制(上場規則など)。
②非拘束的規範(業界の自主規制、努力目標など)
長所:実務的。柔軟な対応可能。迅速かつ低コスト。
短所:弱い強制力。
英国のコーポレートガバナンス・コードやスチュワードシップ・コードは、ハードロ
ーとソフトローの融合。”comply or explain”原則(応じるか、さもなくば説明)。
藤田友敬「ソフトロー・プロジェクト:その意義とこれまでの歩み」(ソフトロー研究第14号、2009年)
瀬下博之「ソフトローとハードロー―何がソフトローをエンフォースするのか―」(COEソフトロー・ディスカッション・ペーパー・シリーズ、2006年4月)
2
世界の法体系とその歴史
大陸法(シビルロー)
起源はローマ法。ローマ帝国は、異なる言語や慣習を持つ多民族国家で
形成。成文法により統一した法律が必要。
→ローマ法大全。東ローマ帝国ユスティニアヌス1世が制定発布。
神聖ローマ帝国、フランス(ナポレオン法典)、ドイツ帝国で発達。
英米法(コモンロー)
英国:各地の判例→国立裁判所の設立(1066年征服王ウイリアムス1世、
ノルマン朝の成立)。判例法(陪審)+衡平法(エクイティ)。
旧英国植民地諸国で発達。
米国:Stare decisis(先例拘束性の原則)→司法による法の創造が発達。
外交、通貨、州際業務など、連邦しかできないものだけ連邦法。それ以外
は、州法(刑法、民法など)。
3
コーポレートガバナンスの法体系
1. コモンロー(英国法)
判例法、慣習法中心(近年、制定法化)。英国の植民地で普及。
19世紀に、ドイツ系ユダヤ資本流入、ギルドの文化が移入→金融界では業
界の自主規制が発達。
2. コモンロー(米国法)
判例法と上場規制が中心。コーポレートガバナンス・コードは存在しない。
SECと司法(訴訟、判例法)が重要。厳罰主義、高額の制裁金。公的年金(カ
ルパースなど)のアクティビズム活動の影響大。
3. シビルロー(大陸法)
制定法中心、官僚の影響力大。大陸欧州と日本。 EUの金融法制の統一(英
国法化)。
日本のガバナンス・コードなどは、金融庁主導の「自主規制」。
五十嵐清著『比較法ハンドブック』(勁草書房、2010年)208~226ページ参照。
4
世界の上場会社法制:日本
会社法(税法、会計なども同様)
大陸法体系。戦後、米国法が加わった。
1899年 商法
ドイツ法体系
1950年 商法改正
米国会社法制の移入(取締役会、株式発行)
2005年 会社法
定款自治の範囲の拡大
金融商品取引法
米国法体系。近年、英国法が加わった。
1948年 証券取引法(米国占領下、世界で2番目に施行)
英国法の例:TOB法制の全部買い取り義務、金融庁、NISA。
TOBは、米国では情報開示規制、欧州ではM&A規制。
日本では、当初、米国型であったが、徐々に欧州型の要素が加わる。
5
本日のまとめ
1.
世界の企業法制のトレンド
日本や欧州大陸でも、英米法の影響は高まりつつあるが、限定的。
会社法制は、その国や地域の歴史や社会などに深く根ざしたものが多いため、
その国や地域に固有なルールが多い。
金融法制は、英米法に収斂しつつある。
国際金融センターは、ニューヨーク、ロンドン、香港、シンガポールが優勢。
2.
制度は歴史と社会に根ざす
制度の哲学、理念の理解が十分でなく、かつ、法的プラットフォームを全体的
に導入せず、「部品」だけを移入しても機能しない。
例:法科大学院、ライツイシュー、指名委員会等設置会社、TOB、独立取締役
結論:法律を理解するには、その国の歴史、社会、文化、宗教、政治を深く理
解することが不可欠。
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