意見陳述書(小島敏郎) - 青学地球社会共生学部無効確認等訴訟

意見陳述
原告
小島敏郎
本 件 請 求 の 趣 旨 第 1 項 の 訴 訟 は 、「 大 学 に お け る 適 正 手 続 に 関 す る 法 令
遵守(コンプライアンス)訴訟」です。このことについて、原告準備書面
を敷衍して陳述します。
私 は 、昭 和 4 8 年 4 月 に 環 境 庁 に 奉 職 し 、環 境 省 の 地 球 環 境 局 長 を 経 て 、
平成 2 0年 7 月に 地球 環 境審 議 官を 最後 に 退官 し まし た 。権 力を 持 って い
る者は、自らを律することが不可欠であり、国家公務員については、国民
の権利を守り、権力機関である行政を戒める法律として、第一に、恣意的
な 行 政 手 続 き を 行 う こ と を 戒 め る 「 行 政 手 続 法 」、 第 二 に 、 行 政 対 象 と の
癒着による行政の私物化を防止し、行政の公正さを確保する「国家公務員
倫 理 法 」、 そ し て 、 第 三 に 、 情 報 を 独 占 し て 、 国 民 に 開 示 し な い こ と を 戒
める「行政情報公開法」があります。適正手続、公正の確保、情報の公開
は、民主的運営のため、いかなる組織においても不可欠です。
民主主義の基本は、手続的な正当性にあります。日本国憲法前文の「日
本国民は、正当に選挙された国会における代表者を通じて行動」すると の
文言は、政権の正当性は、政党や候補者が掲げる政策の内容にあるのでは
な く 、「 正 当 に 選 挙 さ れ る 」 と い う 適 正 手 続 に あ る こ と を 示 し て い ま す 。
民主主義は、単なる多数決ではありません。議論をしても結論は変わら
ない と か、結 論は あら か じめ 分 かっ てい る から 手 続は 形だ け 整え れ ばよ い
というのでは、民主主義は成立しません。民主主義では、結論は議論を通
じて変わりうる、すなわち、議論に参加する人々が、情報を入手し、議論
を通じて熟慮し、より良い選択、より悪くない選択に至るという手続が、
共有されていなければなりません。
しかし、時として、権力者は、自らの政策が正しい、問題はそれを理解
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しない国民にあるのだと考え、自らを法の埒外に置く誘惑に駆られます。
そ れ は 、「 権 力 に よ る ク ー デ タ 」 で あ っ て 、「 民 主 主 義 」 で は あ り ま せ ん 。
「権力によるクーデタ」の誘惑は、権力構造のあるところには、どこにも
存在します。大学も例外ではありません。
地球社会共生学部の設置に至るプロセスは、極めて「異例」です。
青 学 で は 、地 球 社 会 共 生 学 部 以 前 に も 新 し い 学 部 を 設 置 し て き ま し た が 、
その都度、大学執行部は全学部の 教授会の承認を取り付けて、新設学部を
全学的に受け入れる体制を作ってきました。それは、青山学院大学では、
教授 会 は大 学 の実 質的 な 意思 決 定機 関と し て機 能 して きて お り、教 授会 の
構成 員 は、高 い公 共性 を 有す る 大学 の自 治 の担 い 手と して の 固有 の 権利 と
義務を果たしてきたからです。
しかし、地球社会共生学部の設置では、仙波学長は、反対する学部は反
対さ せ てお け ば良 い、執 行部 と して は粛 々 と設 置 する だけ だ とい う 姿勢 を
明確にし、入学試験の実施や教授らとの契約など既成事実を積み重ね、学
則改 正 案の 提 示 に 当た っ ては 、教授 会の 審 議結 果 如何 にか か わら ず 学則 を
改正するという「初めに結論ありき」の姿勢で臨みました。これは、教授
会の審議及び議決権を侵害するものであり、教授会の意見を聞くための諮
問と言えません。少なくとも、行政庁の審議会で、結論は行政庁で既に決
めて お り、答 申 如 何に か かわ ら ずそ の結 論 は変 わ らな いな ど と 明 言 して 審
議 会 に 諮 問 す れ ば 、そ れ は 審 議 会 の 意 見 を 聞 く つ も り は な い と の 表 明 に ほ
かならず、審議にも入れません。仙波学長は、審議・議決機関である教授
会との真摯な議論を通じてより良いものを作り上げていくという民主的
な手 続 によ る ので はな く 、学 部 設置 手続 や 学則 改 正規 定に つ いて 仙 波学 長
独自の解釈を行い、手続的適正・公正を軽視し続けたのです。
また、仙波学長は、受験生が 新設学部に 関する青山学院大学内での合意
が な い と い う 事 実 を 知 る こ と は 、「 希 望 を も っ て 新 設 学 部 に 入 学 し て く る
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学 生 の 気 持 ち を 大 き く 傷 つ け る こ と に な り ま す 」 と の お 考 え で す が 、「 よ
らしむべし、知らしむべからず」は、行政情報を独占しようとした かつて
の国 家 公務 員 と同 様に 、権限 を 持っ てい る 人々 が 陥り やす い 陥穽 で あっ て 、
大学の有する高い公共性を自覚していないと言わざるをえません 。
原告としては、教授会の構成員が有している大学の自治の担い手として
の固有の権利と義務に基づいて この訴訟を 遂行し、この訴訟を通じて、仙
波学長による独断的な学則解釈や権限行使の誤りが明確にされることに
よって、教授会との話し合いが尊重されて大学の健全な運営が確保され、
も っ て 、高 い 公 共 性 を 有 す る 大 学 の 使 命 が 全 う で き る よ う に な る こ と を 切
に希望しております。よろしくご審理の程お願いいたします。
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