ローカル線を救え!

地域の足として親しまれて
きたローカル車両
して親しまれ、地方の暮らしを支えてきた大事な交通手段だ。しかし、少子高齢化や
雇用機会の減少などにより、地方の活力が失われてくると、ローカル線は廃止の危機
にさらされ、
地方はますます疲弊する。ならばと、
全国のローカル線と沿線にある酒蔵・
気づく。佐藤さんにとって、地域の問題はま
ったく専門外だったが、次第に関心を深め、
地域インフラが抱える問題点を分析し、解決
策を模索。その中でたどり着いたのが、ロー
カル鉄道と地酒とのコラボレーションだ。そ
こに高校生も加わって、ローカル鉄道の存続
と地酒の復権を図る活動が始まった。
高校生が連携し、全国共通銘柄の地酒を誕生させて、地域活性化を図ろうという取り
組みが始まっている。
「鉄の道クラブ」を主宰する佐藤建吉さん
は、金属疲労を専門とする大学の先生だ。金
属の亀裂の発生と進展の研究に取り組む傍
ら、社会に目を向けると、金属疲労同様、地
域社会にも疲労があり、衰退していることに
鉄の道クラブ
コラボレーション第1号は、千葉県房総半
島の外房と内陸を結ぶいすみ鉄道と、沿線に
ある酒造会社との出会いから生まれた。乗客
の減少により年間1億円を超す赤字を出して
いたいすみ鉄道は、バスに切り替えたほうが
経済的といわれ、存続が危ぶまれていたが、
社長を民間から公募したり旅客収入以外の収
入の道を試みるなど、活路を探っていた。ま
ローカル鉄道応援酒『鐵の道』
全国のローカル線沿線にある酒蔵。そこに
声をかけ、思いを伝えて理解と協力を仰ぎ、
全国共通銘柄のローカル鉄道応援酒『鐵の道』
を商品化しようという取り組みだ。
『鐵の道』構想を提唱し活動
する佐藤建吉さん。専門の
金属疲労の研究の傍ら、風
力発電も推進
「信用金庫」2012・9
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ローカル線を救え!
地酒とのコラボレーションで
都内で開かれたローカル鉄道応援酒
“鉄の道”フォーラム
地方の風景に溶け込むように、山里や海沿いのまちを縫って、あるいは一面に広が
ジャーナリスト 齋藤 喜以子
る田園の中を走るローカル鉄道。長年、通勤・通学や車を運転できない高齢者の足と
くらし・まちづくりコーディネーター
地域 が 疲 労 し 衰 退 す る …
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いすみ鉄道
(千葉県)
地酒とのコラボで乗客増を図る各地のローカル鉄道
ローカル線の存続を願う高校生の手づくりポスタ
ーと、廃線となり、バス路線用に整備された線路
各地のローカル線応援酒『鐵の道』
加え、観光や特産品の宅配、さらに全国書道
コンクールなども視野にあるという。佐藤さ
んは、
「地域活性化は、地域だけで解決するの
は難しい。都市の人がそれぞれの楽しみ方で
地域を訪ね、実情を知り、応援することで、
地域が元気になってほしい」と願う。
ただ、交流人口が増加した時、受け入れ側
の地元の人が「ここには何もないよ」と言わ
ないよう、
「エコミュージアム」
(エコロジー
とミュージアムを合わせた造語)という考え
方を取り入れたいという。地域住民が、わが
まちの地域資源(自然環境、伝統文化、暮ら
し方など)を再認識し、来訪者に、誇りを持
ってわがまちの魅力をしっかり提供できるよ
うにするためだ。ローカル鉄道と地酒、高校
生の書、地元愛溢れる住民とのシナジー効果
が全国に波及することを期待したい。
ラベルの文字『鐵の道』を制作する高校書道部の
生徒
(上)
。ローカル鉄道社長、酒造家、高校書道
部の先生を講師に招いて開催された「鉄の道フォ
ーラム」
(左下)
。フォーラム会場の一角に用意さ
れた応援酒『鐵の道』の試飲コーナー
(右下)
カル線も同じような状況にあるため、次第に
た、地元でも、高校生をはじめ多くの住民が
『 鐵 の 道 』 構 想 へ の 理 解 と 共 感 が 広 が っ た。
熱心に存続活動に取り組んでいた。
みず ま
大阪府の水間鉄道、岐阜県の明知鉄道、長野
しかし、少子高齢化が進展し、さらに利用
者が減少すると予測され、鉄道運営が厳しく
県のしなの鉄道と沿線の酒蔵のコラボレーシ
なるのは必至。一方、日本酒も、若者の日本
ョンが相次ぎ、2012年には東日本大震災
酒離れなどから、ローカル線と同様に将来不
で被災した岩手県久慈市から、北リアス線開
安の状況にあった。地域住民の生活の足を奪
通に合わせて「三陸鉄道応援酒」が商品化さ
い、日本酒文化を途絶えさせてはいけない。 れた。現在、準備を進めている地域もあり、
佐藤さんは、鉄道会社と酒造会社を相手に、 この動きはさらに加速する気配である。
「
『鐵の道』構想は、地域の現状を打破し、観
若者参加と都市部からの応援で
光客誘致にもつながる方策だ」と説き、粘り
強い交渉を重ねて実現化に漕ぎつけた。
ローカル線応援酒『鐵の道』のラベルは、
2009年に誕生した『鐵の道』第1号は、
当初、書道家の揮ごうによるものだったが、
アイガモ有機農法による地元産米を用いた純
やがて地元高校書道部の生徒が制作した書や
てんこく
米酒。
「飲み口はさわやか、味はしっかりし
篆刻文字が使われ、若者世代が地域活性化の
た旨口」と好評だ。
支え手に加わっている。今後の展開としては、
乗客減が懸念されるのは、全国各地のロー
ローカル鉄道巡りと地酒を味わう場の提供に
明知鉄道
(岐阜県)
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「信用金庫」2012・9
秩父鉄道
(埼玉県)
水間鉄道
(大阪府)
三陸鉄道
(岩手県)
しなの鉄道
(長野県)
富山地方鉄道
(富山県)