県公民館広報紙コンクール講評 審査に当たられたほかの皆さんのお許しをいただき、先の審査会で感じたこ とをいくつか申し上げます。 応募された広報紙は55点を数えました。長机に並べられた、それらの作品 を1点ずつ見ていくなかで「いい広報紙とは何だろうか」と考えていました。 読者に何かを伝えるという点で、わたくしどもの新聞も皆さんの広報紙も、変 わるところはありません。その意味では、自分たちの仕事をあらためて見つめ 直す、大変ありがたい機会になりました。初めに心からお礼を申し上げます。 「いい広報紙とは」という問いに一口で答えるなら、 「飾っておきたくなるよ うな要素」を持っていることが、まず大事だろうと思います。一目で「きれい だな」と感じさせたり「おっ」と思わせたりする力。つまり視覚に訴える力が 必要です。そのための写真であり、レイアウトだということは皆さん、よくご 承知のことと思います。 もう一つ大切なのは「引き出しにしまっておきたくなるような要素」だろう と思います。 「ほかの誰かにも読んでほしくなる要素」と言い換えてもいいかも しれません。それは言葉の力によるものです。日本人は昔、文章を声に出して 読むのが普通だったといいます。そのせいか、黙読をするようになった今も、 文章のリズムや語呂に敏感です。ということは、音のない言葉に音を聞いてい るわけです。いい広報紙は、目に訴えるだけでなく、耳にも訴えるものだと言 えるでしょう。 最優秀賞に輝いた越前市北日野公民館の「きたひのつうしん」は、これら二 つの要素を兼ね備えていました。一番の魅力は表紙です。初夏のいなか道を、 腰の曲がったおばあちゃんが1人、野良仕事を終えて帰っていく。表紙に大き く掲げられた写真は、それだけの何げないものです。けれども、北日野の美し さはもちろん、そこで暮らしを営む人たちの勤勉さまでを物語っているようで、 全審査員が高く評価しました。その写真に添えられた俳句と短い文章がまた、 叙情性を高めています。この表紙を眺め、一読するだけでも地域への愛着が深 まる気がします。中の各面は、数多くの行事のリポートに加えて「お地蔵物語」 などの連載記事を上手に盛り込んでいます。単調になりがちなモノクロ面なが ら、縦組みと横組みのバランスが程良く、飽きさせません。 優秀賞の4点も最優秀賞にひけをとらない出来栄えでした。それぞれ特徴だ けを挙げさせていただくと、福井市森田公民館の「もりたねっと」は、眼鏡の おじさんの漫画を大きくあしらった表紙が大変効いています。とてもユーモラ スで、思わずページを開きたくなります。坂井市鳴鹿公民館の「鳴鹿まほろば」 は、色の乗りがいい用紙の特性を最大限に生かしています。写真や囲み記事の 枠に影を付けて立体的に見せる工夫も見事です。 坂井市長畝公民館の「Noune+(プラス)」は玄人はだしの作りです。表 紙の写真はダイナミックな構図で、メリハリのあるレイアウトも光っています。 一方、若狭町熊川公民館の「鯖街道 熊川宿」は、紙面全体に漂う温かみが持 ち味です。 「ずうっと元気でおってね」とお年寄りに呼び掛ける見出しなど、ほ っとする記事が目立ちました。 結果的に上位入賞は、いわば常連組が占める形になりました。審査時間に限 りのあるコンクールでは、一見して目を引く紙面、特に印象の強い表紙が、ど うしても有利になります。常連組はそこをよく知っているという点で「一日の 長」があるといえます。 ただ、初めに申し上げたように「いい広報紙」はそれだけではありません。 見た目は地味でも、よく読めば心に残る素晴らしい広報紙がきっとあるはずで す。皆さんはちゃんとお分かりだと思いますが、コンクールは入賞するのが目 的ではありません。「いい広報紙」へと洗練していくための手段です。 そういう見方をすれば、まだまだ改善の余地があるように思います。なかで も、文章表現や見出しにもっと工夫が欲しい気がします。文章は「話すように 書け」といわれますが、話すように書くにはどうすればいいでしょうか。一番 大事なことを申し上げると、できるだけ「漢語」を避け、 「大和(やまと)言葉」 を使うようにすることだと思います。手っ取り早く実行するには、 「食べる」 「歩 く」 「話す」などの基本的な動詞をたくさん使うことです。文章がずいぶん読み やすくなります。 見出しを付けるのは、プロの編集者にとっても一番難しい作業です。俳句や 川柳、または広告のヘッドコピーのように、ぎりぎりまで言葉をそぎ落とす努 力が必要だからです。上達への近道はありませんが、いい見出しができたとき の喜びほど大きいものはありません。ぜひチャレンジしてみてください。 以上、くちはばったいことばかり申し上げました。次回も多くのご応募をお 待ちしています。
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