ローカル鉄道の現実 - TOK2.com

ローカル鉄道の現実
昨年の県庁・問屋町の展示で配布した『旅立ちの夜』の中で、廃止が予定され
ている路線について書いたが、今年 3 月末での廃止を表明していた日立電鉄、名
古屋鉄道揖斐線・美濃町線・田神線・岐阜市内線、のと鉄道能登線は、予定通りに
廃線となってしまった。前回の部誌で書いた日立電鉄(茨城県)のその後につい
てを中心に書いていきたい。
日立電鉄日立電鉄線
じょうほく お お た
おざわ
ひ た ち おかだ
か わ なか ご おおはし
もみや
みなみ こ う や
く じ はま
おおみか
みずき
おおぬま
か わら ご
さくらがわ あゆかわ
常北太田−小沢−常陸岡田−川中子−大橋−茂宮− 南 高野−久慈浜−大甕−水木−大沼−河原子−桜川−鮎川
JR 水郡線と接続
JR 常磐線と接続
1.日立電鉄のその後(‘04 年 10 月頃∼)
存続が絶望的に
2005 年 3 月の廃止が決まり、地元の日立市はバス転換することを推進、一方
の常陸太田市は廃止に反対し、同線を引き継ぐ事業者の募集を始めたが、岡山電
気軌道が委託運行を基本として名乗り出た。その後岡山電気軌道が茨城県に出し
た試算は、10年間で約21∼36億円の行政負担を求めるものであった。これ
を受けて常陸太田市の渡辺龍一市長は 10 月 22 日、「公的支援は困難」として、
存続支援を断念したことを明らかにした。橋本昌知事も「存続を断念せざるを得
ない」とコメントし、常陸太田市も代替バスの運行を要望した。
住民の反対運動
運行存続のための市民出資の株式会社設立を目指していた「日立電鉄線を存続
させる市民フォーラム」は 10 月 25 日、存続を断念した県、常陸太田市などに
「電鉄線存続を実現させるための緊急要望書」を提出した。それは、市民らによ
る鉄道存続会社への資本参加、県に対し積極的な調整や公的負担を求めることを
前提に、「県が試算した年七千∼八千万円の公的支援額を軸に岡山電気軌道との
協議再開」「県、二市だけでなく利用者や市民、企業も含めた枠組みでの資金調
達」「来年度から市民、企業、行政が参画する第四セクター的な運行会社により
運行」の三項目。同フォーラムは常陸太田市議会にも同様の緊急要請を提出。県
には三項目に加え、
「基本姿勢の明確化」
「効果的な政策展開」など五項目の要望
書を提出した。26 日朝には日立電鉄と JR 常磐線の接続駅である大甕(おおみか)
駅でビラの配布も行い、存続を訴えた。しかし 29 日、運行存続のための市民出
資の株式会社設立を凍結した。それは常陸太田市や県が存続を断念したため、
「電
車にこだわらず、代替バスの検討を」とする声が相次ぎ方針を修正し、すでに公
表されている代替バス運行を検証した。また、沿線の県立佐竹高校では生徒会主
催のシンポジウムが開かれ、学生による存続運動も盛んになった。
しかし、この頃県知事・常陸太田市議会も廃止はやむを得ないという結論を出
し、廃止後の交通を考えるシンポジウムも開かれ始めた。
バス転換を決定
11 月 18 日、日立電鉄線の廃止に伴う代替バスの運賃、ダイヤの最終案が固ま
った。運賃は 10∼20%高くなるが、通学定期券は期間や区域限定で従来のバス
定期券より安くなる。未定だった土曜・休日ダイヤは、電鉄線利用者が少ないた
め、現行より三割減の片道十四便となった。代替バス運賃は既存の路線を基本に
するため、特別な料金は設定できない。このため、既存路線運賃に合わせ、常北
太田駅−大甕駅間は、四百九十円から七十円増の五百六十円、日立市内の一駅間
も百六十円から百九十円程度になる。これで運行ダイヤ、運賃はほぼ固まり、11
月末に国土交通省に申請され、認可された。
さよなら日立電鉄線
廃線を 13 日後に控えた 3 月 18 日から、電車には「77 年間ありがとう」の文
字が入ったヘッドマークの取り付けが始まり、県内外からも鉄道ファンも詰め掛
けた。そのころから廃止を記念したイベントも多数行っていた。26 日からは乗
車駅や乗車日付のスタンプを押した、電車の写真付き乗車証明書を発行した。運
行最終日となった 3 月 31 日は、名残を惜しむ乗客らでごった返した。鮎川駅は
早くから乗客が押し寄せ、列車もかなり混雑したという。
廃止後
4 月 24 日、
「日立電鉄線を存続させる会」は日立市内で同線復活に向け「知恵
を出し合うつどい」を開き、同線沿線住民やこれまで利用していた人たち60人
余りが参加した。環境自治体会議の上岡直見氏が「廃線の影響とこれからの街づ
くりの課題」の講演を行った。県・日立市・常陸太田市に、「代替バスと交通渋
滞、中高生への影響などの実態を調査し対策を講じること」「線路や駅舎などの
施設を残すこと」「住民と共に鉄道再生プランをつくり、復活に向けた取り組み
を進めること」を申し入れるのを確認した。
4 月 30 日には車両部品や鉄道用品などの販売が旧久慈浜駅構内であり、鉄道
ファンが押し寄せたが、路線復活を目指している佐竹高校生徒会からは批判も出
た。同校生徒会を含め、存続を求めていた団体では現在も路線復活に向けて活動
が続いている。
2.地元に目を移してみると・・・
群馬県内の鉄道に目を移してみると、上信電鉄・上毛電気鐡道・わたらせ渓谷
鐡道では設備整備や線路等の整備に県と沿線市町村は援助を行っている。また、
JR においても、上越線・吾妻線利用促進のための渋川・吾妻地域在来線活性化協
議会が実施する鉄道利用促進事業に県からの援助を受けている。このように自動
車保有率日本一の群馬では私鉄・JR を問わず、利用者が減少してきていること
が分かる。
わたらせ渓谷鐡道の危機
1989 年 3 月、JR 足尾線を引き継いだ第三セクター「わたらせ渓谷鐡道」(桐
生∼間藤間 44.1km)は、開業初年度∼1994 年度は旅客数が増えたが、その後は
減少に転じている。
同鉄道が観光客誘致の目玉として 1998 年からトロッコ列車を、2001 年から
はお座敷列車の運転を始めたが、その収入も経営的には芳しくなく、このままで
は経営が立ち行かなくなる事から、2003 年には住民アンケートを行い、鉄道存
続の是非を問う事態に至った。そして、昨年度に出された結論は、2005 年度か
ら 5 年間で経営を再建するというものだった。群馬、栃木両県と沿線5市町村で
つくる同鉄道再生等検討協議会の提案により、沿線自治体の公的支援策として今
年 10 月に「年間フリーパス」を導入することを決めた。料金は年齢に関係なく
一律で、購入者以外に家族3人まで同時に乗車できる。大人片道 1080 円の最長
区間を定期券(1年)で購入すると約 23 万円にのぼり、フリーパスは格安とな
る。しかし、定期券利用者は年間フリーパスに移行するとみられ、年間約 5000
万円の定期券収入(2003 年度)はほぼ見込めなくなるという。また、沿線の世
帯数(5 万 6000 世帯)の半数以上がパスを購入するという見通しは非現実的で、
増収には疑問の声が上がっているという。
3.終わりに
今回、自分が部誌のテーマを決めるのには今までで一番悩んだ。それはやはり
尼崎の脱線事故により、「鉄道は安全」という前提では書きにくくなってしまっ
たからだ(それでも鉄道は一番安全な乗り物だと思うけど・・・)。
少し話がずれてしまったが、前回の部誌では自分が昨年夏に訪れたことや、同
じ北関東にあるという理由で日立電鉄について書いたが、今回もその続編という
ことで書いてみた。秋ごろには岡山電気軌道が日立電鉄を運営する事業者として
名乗り出たが、結局は白紙に戻ってしまい、残念な結果となってしまった。しか
し、自分と同年代の、それも鉄道ファンではない高校生が、存続を求める運動を
熱心に行っていたと知り、非常に驚いた。廃線となる鉄道には、乗ったり、写真
を撮ったりするだけではなく、何か行動をしなければならないとも思った。彼ら
は現在も復活を求める運動をしているが、これからも頑張って欲しいと思う。
また、わたらせ渓谷鐡道(気になった人も多いと思うが、この会社は正式には
旧書体の「鐡」を使う)については、自分自身これほど深刻な状況であるとは思
わなかった。上に書いたこととは矛盾してしまうような気がするが、「年間フリ
ーパス」を自分が買うかどうかは迷っている。これの売れ行きが良くなければ廃
線となってしまうことは分かっているが、1 万円という金額では迷ってしまう。
また、高崎から同線に乗りに行くためには、両毛線に乗らなければならず、JR
の運賃がかかってしまうこともその理由の1つである。半額なら迷わず買うと思
うが・・・。このことからも、「廃止はいやだ」「残して欲しい」と言うことは簡単
だが、存続に向けて何か行動するということは自分でも難しいと感じた。
“あの事故”の影響で、鉄道の安全性が問われているが、最初に書いたように、
僕は今でも鉄道が最も安全な乗り物だと思っている(だって車の死亡事故だった
ら毎日起きているし、飛行機は墜落することが時々あるから・・・)。この影響で、
鉄道が危険だと認識されてしまい、経営に苦しんでいる鉄道の利用者がさらに減
少し、廃線への道をたどるのではないかと心配だ。
最後に自分が皆さんに言いたいことは、もっと鉄道を利用してください!!と
いうことだ。