フェムト秒レーザとナノ秒レーザによる有機薄膜レーザ

愛総研・研究報告
第1
7号 2015年
41
フェムト秒レーザとナノ秒レーザによる有機薄膜レーザ加工
OrganicThinFilmLaserP
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emtosecondLaserandNanosecondLaser
津 田 紀 生 ¥ 牧 野 佑 紀 TT, 小 野 秀 介 TTT, 山 田 詳 T
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ncomp出 s
1.はじめに
すると加工状況やプラズ、マを乱さない、複雑な計算を必要
としない診断が可能であるロ今回はレーザ誘起プラズ、マ分
有機薄膜太陽電池は、将来の再生可能エネルギー源とし
て考えられる。有機薄膜太楊電池のモジュール化にはパタ
光計測法により測定された試料表面位置でのプラズマの
温度や加工した深さや面積との関係を調べた。
ーニング加工!)が必須でありレーザを用いることで集積度
の高いデバイスを製作することが出来ることが 2
0
0
8年に
三菱商事株式会社、独立行政法人産業技術総合研究所及び
2
. 実験方法
トッキ株式会社によるによって発表されている。
一般に無機太陽電池は活性層の成膜にマスキングを行
加工時の実験配置図を図 1に示す。フェムト秒レーザ
った後でプラズマ CVD(ChemicalVaporD
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、 THALESLASER社裂の T
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eレーザ、 ALPHAIO
パッタリング技術を用いて行われるが有機化合物を用い
を使用した。フェムト秒レーザの発援波長は 800nm、レー
る場合はこのような手法は好ましくないc
ザパルス幅はく3
0
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sである。一方、ナノ秒レーザは、 LOTIS
有機化合物は遷移温度が非常に低いことから高温高圧
社製の YA
G
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mAlminumGamet)レーザ、 LOTIST
I
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の環境下では材料の構造が維持されず吸収波長特性など,
LS・
2
1
3
5を用いた。 YAGレーザの発振波長は 1064nm、レ
一定の品質を維持した成膜ができないと考えられる。
ーザパルス幅は 1
2
n
sである。レーザ光の光強度分布は、
有機薄膜太陽電池の実用化には、集積度を高めるために
どちらもガウス分布である。
レーザバターニング加工を行うことが研究されている。大
レーザ光は、焦点距離 1
5伽nmの軸外し放物面鏡でター
量生産では品質管理のために加工をモニタリングする必
ゲットに空気中で集光照射した。加工によって除去された
要もある。レーザ加工時に発生するブロラズマを構成する物
材料が加工領域に再堆積しないように加工ステージは地
質は除去された材料で構成されているためプラズマを用
面に対して垂直に設置した。加工された領域の観察は、キ
いた診断技術はより直接的に加工品質を理解することが
ーエンス社製のレーザ顕微鏡 VKX200を使用した。レー
出来ると期待される。診断にプラズマ分光計測技術を導入
ザ顕微鏡の分解能は、 Z軸方向で 1nm、水平方向で 300nm
T
である。
愛知工業大学工学部電気学科(豊田市)
tt 愛知工業大学大学院工学研究科(豊田市)
ttt 前田工業株式会社(東海市)
実験に使用した有機薄膜は、 p
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愛 知 工 業 大 学 総 合 技 術 研 究 所 研 究 報 告,第17号,2015年
42
3.加
7-diy1-2.5-thiophenediyl](PCDTBT),[6,6]-phenyl-C71-butyric
acidmethylester(PC71BM)とPCDTBT:PC71BMで
あ る。
PCDTBTは
、n型
、P型
有 機 半 導 体 で あ り 、PC71BMは
有 機 半 導 体 で あ る 。PCDTBT:PC71BMは
工結 果
3.1.勿
ユ:aのeaピ
フ ェ ム/'7%'レ
ー デ ーノ
、 そ れ ぞ れ を1:4
の 割 合 で 混 ぜ 、 バ ル ク ヘ テ ロ 接 合 し た 有 機 半 導 体 で あ る。
PCDTBT;PCa,BM
PCDTBT
PC71日M
〔1:4)
7.1J/crn2
4.3」/信m2
図1.実
験 装 置 配置 図及 び レー ザ顕 微鏡 で観 測 の様 子
PCDTBTとPC71BMの
分 子 構 造 を 図2に
示 す。 ガ ラス
上 に ス ピ ン コ ー ト法 で 作 成 し た そ れ ぞ れ の 試 料 の 厚 さ
は 、1オmよ
3.79J/じm:
3.75J∫`m芝
り厚 く した 。
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PCDTBT
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PCDTBT:PC71BM(1:4)
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図3.フ
ェム ト秒 レー ザ で 有機 薄 膜 を レー ザ加 工 した 時
の 表 面 像 と断 面 像
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PCB,BM
フ ェ ム ト秒 レ ー ザ で 有 機 薄 膜 を 加 工 し た 時 、 加 工 面 を
レー ザ 顕 微 鏡 で調 べ た結 果 を 試 料 事 に比 較 した もの を 図
図2.PCDTBTとPC71BMの
3に 示 す 。図 よ り 、レ ー ザ フ ル エ ン ス は 、7.1J/cm2,4.3J/cm2,
分子構造
3.79J/cm2and3.75J/cm2で
レ ー ザ 加 工 時 に 発 生 す る レー ザ ア ブ レー シ ョ ン プ ラ ズ
マ の 温度 、 プ ラ ズ マ の体 積 を有 機 半 導 体 材 料 の違 い 、 ま
観 測 す る こ と に よ り、 同 じ レ ー ザ フ ル エ ン ス で も 、
PCDTBTとPC71BMの
こ れ は 、PC71BMは
た は レー ザパ ル ス 幅 に 関す る違 い につ い て ま と めた 。 試
料 表 面 に 生成 した 、 プ ラ ズマ の電 子 温 度 を分 光 測 定 す る
時 は 、OceanOptics製
の フ ァイ バ 分 光・
器HR4000を
行 っ た 。 こ の 装 置 は 、 波 長 分 解 能 は0.53nmで
範 囲 は350nm∼800nmで
あ る 。 測 定 は1秒
用いて
測定波長
間 で の 測 定値
損 傷 の 様 子 が 異 な る こ とが 分 か る 。
、主 に フ ラ ー レ ン構 造 を し て い る 事 に
よ る も の と 考 え ら れ る 。 フ ラ ー レ ン 構 造 は 、400℃ ま で よ
り高 い 安 定 性 を 持 ち 、 加 え てC-C結
え ら れ た と 考 え ら れ る 。 次 に 、PCDTBT:PC71BMと
PCDTBTの
加 工 時 の 損 傷 を 比 べ て み る 。PCDTBT:PC71BM
は 、PCDTBT内
HR4-BREAKOUTを
ゆ え 、PCDTBT:PC71BMの
にNDフ
ィル ター を置 き、 調 整 した。
合 エ ネル ギ ー は 、他
の 結 合 エ ネ ル ギ ー よ り高 い 。 この 為 、 加 工 時 の損 傷 は抑
を 平 均 し て 行 っ た 。 レ ー ザ 発 振 と の 同 期 に は
使 用 した 。 レー ザ パ ワー は 、 光 軸 上
実験 を行 っ た。 加 工 面 の周 囲 を
にPC71BMを4倍
多 く含 有 させ た 。 そ れ
加 工 時 の 損 傷 は 、PCDTBTの
み の 薄 膜 よ り、 抑 え ら れ た と 考 え ら れ る 。
フェムト秒 レー ザ とナ ノ秒 レー ザ による有 機 薄 膜 レー ザ 加 工
3.2.Z攻Z:Z:面 廣(L、
き ピ
フ ェ,∠、/・,秒
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PCDTgFPCDT8T.PC71BklPCBML1
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フ ェ ム ト秒 レー ザ に よ る レ ー ザ フ ル エ ン ス に 対 す る 加
工 の 深 さ と 面 積 を 図4に
示 す 。 この グ ラ フ は 、有 機 薄 膜
加 工 時 の 熱 の 影 響 を 抑 え る た め 、 図3の
145.QJFcm?
実 験 時 よ り低 い
レー ザ フル エ ン ス で加 工 した 場 合 の グ ラ フ で あ る。 レー
ザ 光 の 焦 点 の 面 積 は 、0.475mm2で
あ る。 図 よ り レー ザ フ
ル エ ンス の 増 加 に伴 い 、加 工 面積 が 増 加 す る事 が分 か っ
た 。 一 方 、PCDTBTの
109.GJ;'cm7
加 工深 さは 、 レー ザ フル エ ン ス の
増 加 に 伴 い 増 加 す る が 、PCDTBT:PC71BMとPC71BMの
加 工 の 深 さ は 、 レー ザ フ ル エ ン ス の 増 加 に ほ と ん ど依 存
ア{〕
日Jr亡 聞,
しな か っ た。
fiO.8J、'己m1
・PCDTBT
PC71BM
PCDTBT+pC71BM
PCDTBT
PCnBM
LaserFluence(J/cm2)
PCDTBT:PC71BM(1:4)
図5.ナ
ノ秒 レー ザ で 有機 薄 膜 を レー ザ加 工 した 時 の 表
面 像 と断 面 像
・PCDTBT
PC71BM
PCDTBT+PC71BM
図4.フ
ェ ム ト秒 レー ザ に よ る レ ー ザ フ ル エ ン ス に 対 す
る加 工 の 深 さ と 面 積
3.3勿zqの
謹rナ
ノ秒 レー デーノ
ナ ノ 秒 レー ザ で 有 機 薄 膜 を 加 工 後 、 加 工 面 を レ ー ザ 顕
微 鏡 で 調 べ た 結 果 を 比 較 し た も の を 図5に
示 す 。図 よ り、
レ ー ザ フ ル エ ン ス は 、145.OJ/cm2、109.6J/cm2、70.8J/cm2、
60.8J/cm2で
実験 を行 っ た。 加 工 面 の周 囲 を観 測 す る こ と
に よ り、 ど の 材 質 も 熱 に よ る 影 響 が 観 測 され る 。 こ れ は 、
加 工 時 に 生 じ た プ ラ ズ マ の 熱 に よ る影 響 と 考 え ら れ る。
3.4ン 勿1面
積 ま1罪さrナ
ノ 〃 レ ー プジ
ナ ノ 秒 レ ー ザ で 加 工 し た 加 工 面 積 と深 さ を 図6に
示
す 。 図 よ り、 レー ザ 照 射 に よ っ て 熱 の 影 響 を 受 け て い る
領 域 も 含 め る とナ ノ 秒 レ ー ザ で 加 工 し た 方 が 、 加 工 面 積
が 大 き い こ とが 分 か っ た 。 フ ェ ム ト秒 レー ザ とナ ノ 秒 レ
ー ザ で レー ザ フ ル エ ン ス を 同 じ に す る 事 が 出 来 な い の
で 、 ナ ノ 秒 レー ザ で 、 熱 の 影 響 を 受 け な い よ う に 、 し き
い 値 近 く の レ ー ザ フ ル エ ン ス で も 実 験 を 行 っ た 。 しか し、
低 フル エ ンス で の加 工 は 、 レー ザ 光 の 光 強 度 分 布 が不 均
一な為
、 正 常 な加 工 が行 わ れ な か っ た。
図6.ナ
ノ 秒 レ ー ザ に よ る レ ー ザ フ ル エ ン ス に 対 す る加
工 の 面 積 と深 さ
愛知工業大学総合技術研究所研究報告,第 1
7号
, 2015年
44
4
. アプレーションプラズマの電子温度
5
.
0
4
.
1 分光測定結果
試料表面付近におけるアプレーションプラズマの発光
スペクトラム分光計測した結果をフェムト秒レーザとナ
ノ秒レーザそれぞれに関して図 7に示す。図より、多 く
のカーボン 2)のラインが現れている事が分かる。
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図 9. ナ ノ秒 レーザアプレー シ ョンにおける電子温度 の
フルエ ンスに関する変化
図 8、図 9について レーサeフノ
レエンスに対 す る電子温
度の変化を見ると、大きな違いが見られる 。 図より、 フ
ェムト秒レーザプラズマについては レーザフノ
レエンス の
増加に伴い電子温度が減少している。 これは、レーザ フ
ノレエ ンスが増加すると、加工面積が増加する為、電子温
度が下が ったと考えられる。一方、ナノ秒レーザプラズ
マではレーザフノレエンスの増加に伴い電子温度が増加し
た。 これは、ナ ノ秒レーザーでは
、 アプレー ショ ンプラ ズ
マが生成された後も、レーザによ りプラズマが加熱さ れ
る為であると考えられる九 次に、有機薄膜の材料 によ
り、単一材料と混合材料に関 して電子温度に違いがある
事が分かる。 この理由は混合材料ではレーザ照射によ っ
て活性化された原子が再結合す ることによ って レーザエ
ネル ギーが消費されている ため電子温度が単一材料の も
のと比べて低くな ってい るのではなし、かと 考えられる。
図 7.試料表面位置でのレーザアプレーションプラズマ
の発光スベクトル
5
. プラズマの直径の大きさのフルエンス依存性
レーザプ ラズマは、局所熱平衡状態
であると仮定で
3
)
き、ボルツマン分布してい る と考 えられるので、図 7に
示すカ ーボンのスベク トル線心の強度比か ら、ボルツマ
ンプロット図を作成し、その近似直線の傾きから、アブ
レーションプラズマの電子温度を求めた。 その結果を図
有 機薄膜表面にレーザ光を集光照射した時に、生成 し
た プラズマの直径のレーザフルエ ンス依存性を図 1
0に
示 す。 プラズマ の直径 は、プラズ‘
マからの発光をス トリ
ー クカメ ラで観測 する事に より 求めた。 図より、 ナ ノ秒
レーザは、フノ
レエ ンスが増加する とプラズマの直径が大
きくなって いる事が分かる。
8、図 9に示す。
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図 8.フェ ムト秒レーザア プ レー シ ョンにおける 電子温
度のフルエ ンスに関する変化
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図1
0
. レーザフルエ ンス に関する プラズマの直径 の変化
フェムト秒レーザとナノ秒レーザによる有機薄膜レーザ加工
これは、レーザのパノレス幅が長いので、焦点において
プラズマが生成した後もレーザ光によりプラズマにエネ
ルギーが供給され、プラズマが成長した事を示す。一方、
フェムト秒レーザで生成したプラズマの直径は、ほとん
ど変わらなかった。これは、フェムト秒レーザのパルス
が短く、レーザのエネノレギーがプラズマの生成にのみ使
われ、成長に使われなかった事を示す。
45
謝辞
本研究は文部科学省私立大学戦略的研究墓板形成プロ
ジェクト #S1001033 及び私立大学研究設備補助金の援助
を受けて行われた。
本研究に際してレーザ顕微鏡の使用を許可して頂いた
愛知工業大学工学部機械工学科の佐藤一雄教授、武田亘
平講師にこの場を借りてお礼申し上げます。
6
. まとめ
フェムト秒レーザとナノ秒レーザによる有機薄膜レー
参考文献
ザ加工時の違いについて加工面の様子を調べ、電子温度
とレーザプラズマの直径と加工の深さを測定した。その
結果、フェムト秒レーザを用いる事で、熱に弱い有機薄
1
)
2
)
膜を、熱の影響を極力少なくし、加工出来る事が分かつ
た
。
今後は、干渉加工法を行い、有機薄膜でも光の波長程
度の微細加工が可能かどうか調べていきたい。
3
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5
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(受理平成 27年 5月 1
6日)
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