SSKA頸損 No.116 2015 年 8 月 4 日発行 「ファッションにおけるユニバーサルデザイン」 NPO 法人アクセシブル・ラボ アクセシブルプランナー 金子亜佐美 ユニバーサルデザインといえば、「どんな人で 母が 30 年以上服飾リフォーム業をしていたとい も使いやすい」デザインをイメージします。では、 うこともあり、座る部分に縫い目のないズボンを ファッションにおけるユニバーサルデザインは 作ってほしいとリクエスト。サンプルを作ってみ どうでしょうか? ると、「もっとここはこうして欲しい」と思い、 2~30 本試作しました。これをきっかけに自分で 株式会社アトリエロングハウス ピロレーシ 作り始めました。 ング長屋 宏和さんに、ご自身のファッションへ 金子:仕事をする上での『こだわり』を教えてく の取り組みと、これからの夢について伺いました。 ださい。 長屋:車いすユーザーも、特別に作ったものでは 長屋さんは 14 歳からレースを始め、2000 年か なくて、「みんなが着ているものを着たい」と思 らフォーミュラードリームに参戦し、シリーズ 3 っています。その1つにジーンズがあります。今 位を獲得するなど活躍しました。しかし 2002 年 扱っているジーンズは、岡山県の児島にある工場 10 月 13 日鈴鹿サーキットでおこなわれた F1 世界 で製作しています。ここは有名なジーンズの産地 選手権前座レースで大クラッシュし、頚椎損傷 C6 なんです。なぜ岡山県にこだわるのかというと、 の怪我を負い、四肢麻痺の車いすユーザーとなり 「ジーンズ」を作りたかったから。車いすユーザ ました。 1 年と 10 ヶ月にわたる入院生活をおくり、 ーに合わせてデニム生地で作ったズボンでは意 2004 年に絶対無理と言われていたレーシングカ 味がない。それはただの「デニムのズボン」なん ートでレースに復帰しました。指の使えないドラ です。 イバーがカートレースに出場したことは、世界初 この岡山県の工場には様々な縫製工場が集まっ の快挙となりました。2005 年 6 月、『障がい者だ ています。つまり沢山のリクエストがこの工場へ って、いつも自分の好きな洋服を着たい』という 集まります。私たちのジーンズも、他の人と同じ、 悩みから、お母様が営む株式会社アトリエロング 色々なジーンズの1つです。以前 J リーガーの方 ハウスの技術と、ご自身の車いすの経験と知識を にジーンズを納品したことがありますが、それを 組み合わせ、チェアウォーカーファッションブラ 知ってご依頼を頂くこともあるようで、非常に嬉 ンド『ピロレーシング』を設立。2010 年、銀座三 しく思っています。ジーンズを 1 度穿いてもらう 越 4 階「リフォームサロン アトリエロングハウ ことで、他の洋服のお直しのきっかけにもなって ス」をオープンしました。【長屋宏和さんのブロ います。 グより引用】 金子:服飾リフォームのご依頼は多いですか。 長屋:はい。リフォームの方が多いです。「着た 金子:アトリエロングハウス ピロレーシングを い!」と気持ちを私にぶつけてもらうことが重要 立ち上げるまでの経緯を教えてください。 です。それはワガママではなくて、直すことが私 長屋:車いすユーザーになった頃、10 年以上前で の仕事ですから。既製品を直すだけではありませ すが、病院内では毎日ジャージを着ていました。 ん。今まで自分が着ていた服も直します。お気に 褥瘡(床擦れ)予防のため固いズボンは禁止だっ 入りの服にハサミをいれることに迷う方もいら たからです。でも退院ということになると、毎日 っしゃいますが、やはり体にフィットしたお気に ジャージを着ている訳にはいきません。たまたま 入りの服を着ることが一番です。中には振袖、留 -27- SSKA頸損 No.116 2015 年 8 月 4 日発行 袖、浴衣からウエディングドレスまで、ご依頼は したいと思っています。1 人でも喜んでくれる人 様々です。もちろんレンタルもあります。 がいることが喜びです。一個人として、かゆいと 衣食住の中で、唯一、「衣」だけは国からの助 ころに手が届くように、大きな取組みよりも、1 成がありませんでした。車いすユーザーのための 人 1 人の悩みに応えていきたいと思っています。 レインコートを作っていますが、これについての 洋服を選べる環境を、世界中の車いすユーザーに み助成がつきました(世田谷区と練馬区が対象)。 知ってもらえるよう広めていきます。 10 年前は何もなかったことを考えると、今は選択 「ファッションは自分を表す1つのアイテムで 肢があるので是非活用して欲しいと思います。 す」 金子:レインコートについて詳しく教えてくださ 友達と出かけるとき、デートするとき、日常を い。 過ごす普段着としても・・・大切な時間を飾るの 長屋:車いす用のレインコートなので、形として はお気に入りの服がいいですよね。 はポンチョになります。座った状態で脱ぎ着がし NPO 法人アクセシブル・ラボでは「行きたいとこ やすく、透明性をもたせたものです。私には雨だ ろへ行ける」環境づくりに取り組んでいます。難 から外出キャンセルという考え方はありません しいことは考えずに、着たい服を着て、行きたい ので、当初から「外を移動するため」に風にも強 ところへ! い、しっかりとした生地を使用しています。私は 雨の日はレインコートの使い勝手を試すことが できるので、喜んで外に出ます(笑)。実は何回も バージョンアップしていて、ボタンではなくマグ ネットを使用しているのですが、簡単に外れない ように強くしたり、透明な部分を広くしたり…。 金子:レインコートを脱いだ後はどうしているの ですか。 長屋:大概のお店であれば、従業員の方に預かっ てもらうようにお願いをします。断られることは ほとんどありません。こういったこともそうです が、皆が皆、どうして欲しいかは同じではありま せん。ユーザーは、何をして欲しいか明確に伝え ることが必要ですし、それをいかに簡単に伝える 長屋さん かが大事です。もしうまくいかなかったとき、手 伝ってくれた方が責任を感じてしまうことがあ りますから。 NPO 法人 アクセシブル・ラボ 金子:最後に、この仕事への思いを教えてくださ HP http://accessible-labo.org/ い。 TEL 028-622-3905 長屋:「おしゃれをしたい」ではなく、「着たい ものを着たい!」と悩んでいる人のために仕事を -28-
© Copyright 2024 ExpyDoc