文研 宗将美事 夜り研究会レポート

生命保険契約において「外傷性てんかん」の発症及び
受療の事実が告知義務違反となった事例
一一r一一大阪地捌"56(ワ)265号昭58-12-27民13部判決-
[契約内容]
被保険者A 告知日昭和54年3月9日
契約者・死亡保険金受取人・原告 X
契約日 配細IM年4月1日
保険会礼・被㌫1 死亡保険金1,000万l工]
被告の外務H B 死亡「1昭和54年11月29日
経過一覧表
S 39.8 1
登山中転落事故に遭遇し、キ側頭部を打撲、一・時的に
意識消失
819
C病院入院 <頭蓋骨視束管骨折>
・相良失明その後、唄覚、聴力も失う。
・精度は、脳の底桃にまてノえふもレ)外傷性てんか
んの原因となる脳の損傷としては相当重大な部類
に属㌻るもの。
[事実の概要]
Xは昭和54年4月1日保険会社Yとの間で実子A
を被保険者とし、自己を受取人とする死亡保険金額
1,000万円の生命保険契約を締結した。Aは、約8
カ月後の11月29日に急性心不全で死亡した。
Aは日射旧9年8月登山中の転落事故により脳に損傷
を受けたため、外傷性てんかんに催患し、昭和45年
6月以来大発作を起すようになり、服薬や通院治療
を受けていたが、同54年に入ると4月26日までに8
回の大発作を起し、暴力を振うようになったので、
4月28日から入院したが、意識障害を繰り返し全身
状態の悪化による心不全を起して死亡したのである。
Xの保険金請求に対し、Yは告知義務違反による解
除の抗弁を提出したものである。
また、告知義務違反による契約解除の除斥期間の起
算点である、保険者が解除の原Hを知った時とは何
時であるのか争われたものである。
9 9
S.45_ b.21
「H病院退院
C病院通院 <外傷性てんかん>
・ケイレン発作を起こす
・杭ケイレン利、毎日服薬、通院時1カ月分の薬を
日.
綴
カ
受けとる。つ
リ
S.53 5.18
D病院入院 く外傷性てんかん>
回
Cハ
・週2回程度のケイレン発作
割
ノh
・異常行動か出現
L
同病院退院
埴
Iら`L
本作墾鮎知日いい己の;-洩なし)
契約日
C
S544回1
8恒1の大発作
病
墜
(二病院終.,今
E病院入院(('病院の紹介により)<外傷性てんかん>
・意識障吉ト・種の錯乱状態)
・l日用にIll欄如勺㌧豆、,晶I川日大態を枚みなから芭こ識発
作げ識障ノかを締り返した、
l
11.29
死亡 <急性心不全>
・栄養障害による心筋の衰弱
12.24
Ⅹの保険金支払請求日(Yの支社)
12.25
同請求書類到着(Yの本社)
S.55.2.5
Y.契約解除の意思表示(Yの支社長を介し、口頭)
2.15
Y.契約解除通知の発送
2.16
Ⅹ方到達(受取拒絶)
【判決の内容]
当書者
原告Ⅹ(本件契約の契約者、被保険者Aの実父)
被告Y(生命保険相互会社)
判決主文
一、原告の請求を棄却する。
二、訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一、当書者の求めた裁判
一、蒲求の趣旨
1.被告は、原告に対し、金1169万円及び内金
1000万円に対する昭和54年12月25日から支
払ずみまで5分の割合による金員を支払え。
2.訴訟費用は被告の負担とする。
3.仮執行宣言
二、請求の趣旨に対する答弁
主文同旨
第二、当書者の主張
−、請求原因
1.原告はこ 昭和54年4月1日、被告との間で、
左記の内容の生命保険契約(以下「本件保険
契約」という。)を締結した。
記
(−)保険期間
昭和54年4月1日から同59年3月31日まで
(二)被保険者 A
(三)死亡保険金受取人 原告Ⅹ
(四)死亡保険金額1,000万円
(五)災害割増特約災害死亡保険金額
1,000万円
(六)傷害特約単位障害給付金額 30万円
(七)長期疾病保障付入院特約単位入院
給付金額 3,000円
(八)成人病特約単位入院給付金額 3,000円
(九)保険料払込方法
年12回(毎月の契約日に応当する日を支払
期日とする。)
2
(十)保険料(特約保険料を含む。)
月額5,997円
2.Aは、昭和54年11月29日、急性心不全によ
り死亡した。
3.原告は、昭和54年12月24日、被告のY支社
に対し、所定の必要書類(保険金請求書、印
鑑証明書、死体検案書、戸籍謄本、承諾書)
を提出して保険金の支払を請求した。
4.被告の不法抗争
被告は、原告の保険金支払請求に対し、後記
四及び五で述べるとおり告知義務違反を理由
とする本件保険契約の解除権が発生する余地
は全くないことが明白であったにもかかわら
ず、不法にも同義務違反を理由とする本件保
険契約の解除を主張して保険金の支払を拒絶
した。そのため、原告は、裁判によって保険
(
金の支払を請求せざるを得なかったところ、
原告は老齢であるうえ法律的に無知であるか
ら、右訴訟の提起及び追行につき弁護士に訴
訟委任する必要があり、その費用として合計
169万円(手数料、報酬各84万5000円)を要し、
同額の損害を被った。
5.よって、原告は、被告に対し、保険契約に
基づき保険金1,000万円及びこれに対する請
求の日の翌日である昭和54年12月25日から
支払ずみまで民法所定の年5分の割合によ
る遅延損害金の、不法行為に基づく損害賠
償として169万円の各支払を求める。
二.請求原因に対する認否
1.請求原因1ないし3の各事実はいずれも認
める。
2.同4の事実中、被告が原告の保険金支払請
求に対し、告知義務違反を理由とする本件保
険契約の解除を主張してその支払を拒絶した(
ことは認め、その余は否認する。
三.抗弁(告知義務違反を理由とする解除)
1.Aには以下のとおりの疾病及び加療の事実
があった。(経過一覧表のとおり〉
2.原告は、本件保険契約に先立って、昭和54
年3月9日、Aを代理又は代行して若しくは
みずから保険契約者として、被告に対し、定
期保険普通保険約款(以下「約款」という。)所
定の告知(告知書による告知)をしたが、右告
知当時、Aの外傷性てんかんの発症及びその
治療の事実を熟知し、かつ、それが告知書に
より告知を求められている事項であることを
認識していたにもかかわらず、故意にこれを
告知しなかったものであるから、被告は、本
件保険契約の内容をなす約款16粂1項(契約
者又は被保険者が、契約の締結等の際に、被
告が告知書によって告知を求めた事項につい
て、故意又は重大な過失によって、事実を告
げなかった場合又は、事実でないことを告げ
た場合には、被告は将来に向って契約を解除
することができる旨の約定)に基づき、本件
保険契約を解除することができるものという
べきである。
3.解除の意思表示
(一)被告は、昭和55年2月5日、Y’支社長
を介して、原告に対し、告知義務違反を理
由とする本件保険契約解除の意思表示をし
た。
(二)被告は、同月15日付内容証明郵便により
右同様の解除の意思表示をし、右書面はそ
のころ原告方に配達されたが、原告はその
受領を拒絶した。したがって、右意思表示
は右配達のころ原告に到達したものという
べきである。
′ヽ
四.抗弁に対する認否
1.抗弁1の事実は認める。
2.同2の事実は杏認する。
以下のとおり、原告又はAには告知義務違反
は存しないものというべきである。
(−)原告又はAの告知の不存在
本件保険契約における告知は、被告の保険
外務員であるBの指示に基づき、原告が告
知書に直接被保険者であるA名義の署名、
押印をして行なったものである(以下「本件
告知書」という)。しかし、Aは、本件告知
書の作成に何ら関与しておらず、その作成
権限を原告に与えた事実もないから、本件
告知書は、Aの告知書としての効力を有し
ない。さらに、本件告知書作成過程におけ
る原告のBに対する言動を、保険契約者と
しての告知(口頭による告知)とみる余地も
ないではないが、保険外務員にすぎないB
には告知受領権限がなく、かつ、同人が被
告に告知の内容を報告した事実もないこと
に照らすと、結局れのような告知も存在し
ないものといわざるを得ない。
(二)外傷性てんかんは、商法678条1項の「重
要なる事項」に該当しない。Aは、頭蓋骨
折等の外傷により、死亡の約11年前に外
傷性てんかんになったものの、その後結
婚して子供までもうけているのであって、
その症状は生命に危険を及ぼすようなも
のではなく、この症状から心不全を惹き
起こして死亡することなど予見不可能で
あったというべきであるから、右外傷性
てんかんは告知の対象になっていなかっ
たものである。
(三)原告の悪意又は重過失の不存在
原告は、かつて一度も告知書を作成したこ
とがなかったため、本件本件契約に際し、
その勧誘に来たBに指示されるまま、告知
書の趣旨、内容を理解することなしに、A
名義の署名、押印をしたにすぎないもので
あるから、原告は、Aの外傷性てんかんが
告知の対象とされていることを知らず、か
つ、知らないことにつき重過失はなかった
というべきである。
3.同3の各事実はいずれも否認する。
五.再抗弁
1.保険者の過失(商法678条1項但書)
以下の諸事情を総合すると、被告にはAの外
傷性てんかんの発症及び加療の事実を知らな
かったことにつき過失があったものというべ
きである。
(一)被告の保険外務員であるBは、原告に本
件保険契約を勧誘した際、僅か20分足らず
の説明で原告に保険加入の申込をさせたう
え、前期(四2(一一))のとおり本件告知書の
被保険者の自署欄にA名義の署名、押印を
させるや、原告が告知書の質問事項その他
一切の記載を確認することができないよう
にして、みずから被保険者の勤務先等を記
入して、右質問事項については何ら原告に
尋ねることなくこれを持ち帰って、勝手に
告知書を作成した。
(二)被告は、本件保険契約の締結にあたり、
告知内容について原告に確認しなかったの
みならず、たまたま右告知当時所用で外出
していたにすぎないAにも確認することを
怠り、かつ、Aにつき被保険者の適格性判
断のための健康診断も実施しなかった。
(三)さらに被告は、Bから保険告知書の作成
経過、就中原告が直接A名義の署名をした
ことについての報告を徴したうえ、改めて
Aに再告知又は本件告知内容の確認若しく
はAの健康状態の調査等の措置をとるべき
であったのに、A死亡に至るまで右措置を
とることを怠った。
2.因果関係の不存在
Aの死因は、高度の肺水陸、脂肪肝による
急性心不全であって、原告が告知しなかった
外傷性てんかんを原因とするものではない。
3.除斥期間の経過(商法678粂2項、644条2
項)
3
るから、本件において被告が解除原因を
知った時とは、右に該当する事項(本件では
外傷性てんかん)及び解除権行使のためのそ
の他の要件を具備したことを確認した時を
指すものというべきである。しかるに、原
告から提出された死体検案書には、Aの死
因について「(イ)直接死因 急性心不全(推
定)短時間、(ロ)(イ)の原因 外傷性てんか
ん(推定)約11年、(ハ)(ロ)の原因 頭蓋骨
折兼脳座礁(推定)約15年」(期間はいずれも
発病から死亡までのもの)との記載があり、
さらに追加事項として、「登山中転落し、頭
部を打撲、関頭手術後てんかんが発症、54
年4月から入院中急死した」との記載があっ
たが、右各記載内容による限り、本件告知
の日(昭和54年3月9日)から5年以上前の
外傷性てんかんの事実と告知の日以後の入 (
院の事実が判明するにすぎず、その間の告
知の対象となる事実関係は、これをもとに
被告の方で第三者である調査機関に調査を
委託し、その報告を受けて初めて確認する
ことができたのである。そして、被告が右
の事実関係を了知し、原告の告知義務違反
を確認したのは、早くても昭和55年1月18
日であるから、被告が本件保険契約の解除
の意思表示をしたときにはいまだ1カ月の
除斥期間経過前であった。
前記一、3で述べたように、原告が昭和54
年12月24日被告のY’杜に対して保険金の支
払を請求した際に提出したAの死体検案書
には、死亡の約11年前の外傷性てんかんが
直接死因である急性心不全の推定原因とし
て記載されていた。そして、右死体検案書
は翌25日被告本社に到達し、被告は、遅く
とも同日には死体検案書の記載により原告
の告知義務違反の事実を知ったものといえ
るから、その翌日から1か月の除斥期間が
経過した同55年1月26日以降は、前記告知
義務違反を理由とする解除は許されない。
六.再抗弁に対する認否
1.再抗弁1について
(一)冒頭の事実は争う。
(二)(一)の事実中、原告が本件告知書の被保
険者の自署橘に直接A名義の署名、押印を
したことは認め、その余は否認する。
(三)(二)の事実中、被告が本件保険契約にあ
たりAの健康診断を実施しなかったこと
は認め、その余は否認する。
約款によると、告知すべき者として保険
契約者又は被保険者があげられ、商法678
条1項も同趣旨であるから、被告が契約者
たる原告に告知を求めたことは約款及び法
令上何ら問題はないのみならず、実質的に
も、原告はAの同居の実父であり、告知事
項についての情報を十分認識していたもの
といえるから、告知者としての適格性を有
するものというべきである。
(四)(三)の事実は否認する。
2.同2の事実中、Aの死因が急性心不全であ
ることは認め、その余は否認する。
3.同3の事実中、原告が昭和54年12月24日被
害のY’支社に対して保険金の支払を請求
した際に提出したAの死体検案書に、死亡
の約11年前の外傷性てんかんが直接死因で
ある急性心不全の推定原因として記載され
ていたこと、右死体検案書が翌25日被告本
社に到達したことは認め、その余は否認す
る。
約款及び商法678条2項、644条2項前段
にいう「解除の原因を知りたる時」とは、保
険者が解除権行使のために必要と認められ
る諸要件を確認した時のことであって、単
にその疑を抱いたのみでは足りないところ、
約款及び告知書によると、告知すべき事項
は、過去5年以内のもので、かつ、7日以
上の治療を行なった告知書所定の疾病であ
4
第三、証拠
く省略〉
理由
−.請求原因1ないし3の事実(本件保険契約の
成立、Aの死亡、原告の被告に対する保険金
の支払請求)は、いずれも当事者間に争いが
ない。
二.そこで、告知義務違反を理由とする本件保
険契約の解除の抗弁について判断する。
1.抗弁1の事実(Aの外傷性てんかんの発症
及び加療)は当事者間に争いがない。
2.告知義務違反について
<証拠略>を総合すると、以下の事実を認め
ることができる。
(−)本件保険契約の内容となっている約款に
よると、医師による診盃が行なわれない場
合において、保険契約者又は被保険者が、
保険契約締結の際に被告が告知を求めた事
項について故意又は重大な過失により事実
を告知せず又は事実でないことを告知した
ときには、被告は保険契約を解除すること
ができ(約款16条1,2項)、右告知は、被保
(
険者についての質問事項を記載した書面
(告知書)によって行なう(同6条1項)旨の
条項がある。そして、本件告知書によると、
告知目から遡って5年以内にてんかんを含
む一定の病気や外傷により7日以上の治療
を受けたことの有無を告知することが求め
られていた。
(二)原告は、Aの同属の実父であって、本件
告知書作成当時、前記1認定のAの外傷性
てんかんの発症及びその入院又は通院加療
の事実を知悉していた。
′ヽ
(三 被告の保険外務員であるBは、昭和54年
3月9日、原告方を訪ね、原告に対し、同
人自身を被保険者とする生命保険契約のほ
か、Aを被保険者とする無診査の本件保険
契約にも加入するよう勧誘したところ、原
告はこれに応じて、その申込をした。そこ
で、Bは、被保険者であるAに告知を求め
ようとしたが、原告から同人は不在である
旨、告げられたので、これに代わって保険
契約者である原告に対して本件告知書を示
し、個々の質問事項の内容について逐一説
明することはしなかったものの、告知書の
趣旨の概略を説明したうえ、補足的にAに
ついて病気又は入通院の事実の有無を尋ね
た。これに対し、原告は、本件告知書を5、
6分ないし10分程度見ていたが、前記1認
定の外傷性てんかんによる通院又は入院加
療の事実はもとより、Aについて何らの事
実も告げなかった。その後原告は、Bの求
めに応じて本件告知書の被保険者の自署欄
にA名義の署名、押印をしたはか、生年月
日欄に生年月日を、告知日脚こ昭和54年3
月9日の日付をそれぞれ記入したうえ、こ
れをBに交付した。そして、Bは、原告か
らAについて何らの病気等の申告もなかっ
たので、本件告知書の各質問事項の回答欄
の「無」に九日jを付したほか、職業その他の
記載をしたうえ、これを持ち帰って被告に
提出した。なお、本件告知書作成に際し、
原告がAから告知の代理又は代行を委ねら
れた事実はない。
(四)被告は、昭和54年4月中旬ころ、Bを原
告方へ派遣し、原告に対し、本件保険契約
の保険証券(甲第1号証)とともに、本件告
知書の写しに告知内容を確認のうえ事実と
相違があったときは同封の葉書でその旨申
し出るよう付記された「お客さまへ」と題す
る書面を交付して、本件告知書の内容の再
確認を求めたが、原告はその記載内容につ
いて何ら事実に相違する旨の回答をしてい
ない。
以上の事実を認めることができる。
く証拠判断略)
右認定の事実を総合すると、原告は、昭和54年3
月9日、Bから本件告知書を示され、その質問事項
について判断したうえA名義の署名、押印等をした
ものといえるところ、これについて原告がAから告
知の代理又は代行を委ねられた事実もないのである
から、本件告知書は、その名義がAになっていたと
しても実質的には原告作成のものというべきであり、
原告は、保険契約者として告知をしたものといわな
ければならない(Bが質問事項に対する回答欄の
「無」のところに丸印を付したのは、原告の回答に基
づいてその記入を代行したものにはかならない。)。
そして、本件保険契約(約款及び告知書)によると、
前記1認定のAの外傷性てんかんの発症及び加療の
事実のうち、告知日から過去5年以内である昭和49
年3月9日以降のもの(7日以上の治療がなされて
いることは明らかである。)については告知の対象と
なっていたというべきところ、原告は、右外傷性て
んかんの事実を知悉し、かつ、告知書の記載により
(仮に告知書の記載を明確上理解していなかったと
しても、これを補うBの質問により)右事実を告知
すべきであることを認識していたにもかかわらず,
これを黙秘し、その告知をしなかったものであるか
ら、原告は、本件保険契約上の告知義務に違反した
ものといわなければならない。なお、(証拠略〉によ
ると、てんかん(真性てんかん、外傷性てんかん)患
者は、てんかんの発作で急性心不全を起すことも稀
ではあるが、あり得ないところではないうえ、痙攣
発作の際の外傷、墜落あるいは痙攣重横状態による
心臓衰弱が原因で死亡する危険性があるほか、全体
として生活力が弱いため早死することもあるとされ
ていることを認めることができるのであるから、生
命保険契約において、被保険者がてんかんに擢患し
ているかというかは、被保険者の死亡その他の保険
事故の発生率に関する予測に基づく契約締結の諾否
の判断に影響を及ぼすものであることは明らかで
あって、被告が、本件保険契約においてこれを告知
の対象としていたことは、商法678条1項の趣旨に
照らしても十分合理性を有するものというべきであ
る。
3.解除の意思表示について
(証拠略〉を総合すると、以下の事実を認め
ることができる。
(一)A死亡後、被告は原告から保険金支払の
請求を受けたが、後記5認定のとおり、そ
の後の調査により原告の告知義務違反の事
実を胸むに至ったため、昭和55年2月1日
5
ころ、本件保険契約の取扱支社であるY’
支社長に対し、本件保険契約は告知義務違
反を理由として解除することに決定したこ
とを通知するとともに、右解除通知発送ま
でに原告との間で、既収保険料を返還する
のみで保険金は支払わないこととなるとの
内容で示談交渉をするよう指示した。
(二)これを受けた当時の被告Y’支社長Fは、
同月5日ころ、機関長のG及びBを同道し
て原告方を訪ね、同人に対し、本件保険契
約は告知義務違反により解除されることと
なった旨説明し、被告本社から指示された
示談の話をしようとしたが、原告がその話
すら聞こうとしなかったため、結局何ら具
体的な話をすることもなく示談不成立と
なった。
(三)そこで、被告は、原告に対し、同月15日
受付の内容証明郵便(速達便)により、原告
の告知義務違反を理由に本件保険契約を解
除する旨の意思表示をし、同書面は遅くと
も翌16日中には原告に配達されたが、原告
はその受領を拒絶した。
以上の事実を認めることができ、右認定
を覆すに足りる証拠はない。
右認定の事実によると、被告の原告に対
する本件保険契約解除の意思表示は遅くと
も、昭和55年2月16日中には原告の了知可
能な状態におかれたものと認めることがで
きるから、そのころ原告に到達したものと
いうことができる。
三.進んで、被告がAの外傷性てんかんの発症
及び加療の事実を知らなかったことについて
過失があったかどうか(再抗弁1)について判
断する。
前記二の2の(三)、(四)認定の事実にく証
拠略〉を総合すると、以下の事実を認めるこ
とができる。
1.本件告知書作成の経緯は前記(二2(三))認
定のとおりであるが、その際、Bが原告の本
件告知書の記載内容(質問事項)の確認を妨げ
たり、原告の関与なしに勝手に告知書を作成
した事実はないし、また、右記載内容につい
ての再確認及びこれに対する原告の態度につ
いても前記(二2(四))認定のとおりである。
2.被告は、保険契約者である原告の告知のみ
で、被保険者であるAの告知を受けていない
し、同人の健康診断をしていないけれども
(健康診断をしていないことは当事者間に争
いがない。)Bが原告を訪ねた時はいつも原告
6
からAが不在である旨告げられて同人に会う
ことができなかったうえ、約款上、告知義務
者は保険契約者又は被保険者のいずれかであ
り、被告内部の取扱基準としても、被保険者
に告知を求めるのを原則としながら、保険契
約者が被保険者と同居の親族であるような場
合には、両者の関係からみて正確な告知を十
分期待できるものとして、保険契約者から告
知を求めても差支えないものとされていた。
また、本件保険契約締結当時の被告の契約選
択基準によると、被告は、本件保険契約のよ
うに契約時の被保険者の満年齢が6歳から35
歳までで(契約成立日である昭和54年4月1
日当時Aは満31歳であった。)、かつ死亡保険
金額が1000万円以下のものについては、医師
の診査を経ることなく告知のみによる契約形
態(簡易契約)を選択できるものとされていた (
ところ、このような制度は、元来戦時中の医
師不足に対処するために発足したものがその
後有診査と無診査とで被保険者の死亡率に殆
んど差がないことが確認された結果定着した
ものであって、別段合理性を欠く取扱である
ということはできない。
3.Bは、本件保険契約に際し、本件告知書の
作成名義にもかかわらず実際には原告が告知
者であることを被告に報告していないが、被
t
告の取扱としては、告知者である保険契約者
が本件のように被保険者の同居の実父である
ような場合(この点は被告にも明らかであっ
た。)には、改めて被保険者に告知を求めた
り、その健康状態を調査したりすることはし
ていない。
以上の事実を認めることができる。
〈証拠判断略〉
右認定の事実を総合すると、原告は、告知書に (
よって告知を求められたにもかかわらずAのてんか
んの事実を殊更黙秘したものといわざるを得ないの
であって、保険契約当事者間の衡平の見地から見て、
被告が本件保険契約締結の際Aの外傷性てんかんの
発症及び加療の事実を知らなかったことにつき取引
上必要な注意を欠いた過失があったものと認めるこ
とはできない(なお、Bが本件告知書の作成者が原
告であったことを被告に報告しなかったことと被告
の外傷性てんかんの不知との間には因果関係がな
い。)したがって、再抗弁1は失当である。
四.次に外傷性てんかんとAの死亡との間の因
果関係の存否(再抗弁2)について判断する。
Aの直接死因である急性心不全(心不全その
ものは独立の症病ではなく、何らかの原因で
心臓が停止する一つの状態を指すものにすぎ
ない。)が外傷性てんかんに基づかない、全く
別個の原因によって生じたことを認めるべき
証拠はなく、かえって、前記二1認定の事実
にく証拠略〉を総合すると、以下の事実を認め
ることができる。
1.2.3.4
経過一覧表のとおり
5.栄養障害によるAの低蛋白状態はA死亡に
至るまで進行を続け、その結果肝臓等に脂肪
変性(脂肪肝)を起こすとともに、心臓もその
筋肉に必要な蛋白の欠乏により衰弱していく
など、全身状態に種々の障害を惹き起こした。
そして、Aは、昭和54年8月8日及び同年9
月25日にそれぞれ極めて危険な状態に陥って
は何とか持ち直したものの、栄養障害による
心筋の衰弱が一凶となって同年11月29日午後
7時20分ころ急性心不全を惹き起こして死亡
した(死亡後の解剖所見にみられる肺水腫は
急性心不全によって生じたものであって、こ
れが急性心不全の原因になったのではない。)
以上の事実を認めることができ、右認定を
覆すに足りる証拠はない。
右認定の事実によると、Aは、外傷性てん
かんの進行による全身状態の悪化等により心
不全を起こして死亡したものであるから、外
傷性てんかんとAの死亡との間に凶果関係が
あることは明らかであり、再抗弁2も失当と
いうべきである。
(
五.最後に除斥期間の経過(再抗弁3)について
判断する。
〈証拠略)を総合すると、以下の事実を認め
ることができる。
1.A死亡後、原告は、昭和54年12月24日被告
Y’支社に対し、Aの死体検案書を添付して
保険金の支払を請求し、右死体検案書は翌
25日被告本社に到達したが、これにはA死
亡の約11年前の外傷性てんかんが直接死因
である急性心不全の推定原田として言己載さ
れていた(以上の点は当事者間に争いがな
い。)ほか、外出死の追加事項欄に、登山中
転落し頚部を打撲、関頭手術後てんかんが
発症、同54年4月から入院中急死した旨の
記載もされてい
た。
2.被告は、死体検案書の右の記載内容により、
Aについて告知義務のものは、いずれも本件
保険契約における告知義務の対象となってい
ない告知日(昭和54年3月9日)から5年以上
前のものであるか、告知日以後のものであっ
たため、そのころ、この点についての調査を
専門の調査機関に委託した。
3.被告の委託に基づいて、右調査機関の調査
員は、原告を訪ねて事情を聴取するとともに、
本件告知日以前にAが通院又は入院していた
病院に対し、同人の診療情況を照会し、D病
院からは昭和55年1月18日作成の、C病院か
らは同月19日作成の各診療証明書(前者には、
Aがてんかんにより同53年5月18日から同年
8月9日まで入院治療した旨の、後者には、
同45年6月21日に外傷性てんかんが発症、以
来同54年4月26日まで1か月1回程度通院治
療した旨の各記載がある。)の交付を受け、こ
れを調査報告書に添付して被告に提出した。
被告は、右調査報告書及び診療証明書の記載
により、Aについて本件保険契約上の告知義
務違反があったことを確認したので、本件保
険契約を解除することを決定し、前記二3
(一)、(三)認定のとおり、Y’支社長に対し、
その旨及び示談交渉を指示した後、同年2月
15日ころ原告に対し解除の意思表示をした。
以上の事実を認めることができ、右認定を覆
すに足りる証拠はない。
約款17条2号及び商法678条2項、644条2
項前段の「解除の原因を知りたるとき」とは、
保険者が解除権行使のために必要と認められ
る諸要件を確認したときを意味し、保険者が
単に疑を抱いただけでは足りないと解すべき
ところ、被告がAの死体検案書を受け取った
段階においては、その記載内容がAについて
の告知義務違反を直接示すものではなかった
ことに照らすと、被告としてはいまだ右告知
義務違反の疑を抱いたにとどまり、これを確
認したものとはいえず、被告がこれを確認し
たのは、早くても前記調査機関から調査報告
書及び診療証明書を受け取った日である昭和
55年1月19日ころ以降(2つの診療証明書は
一括して被告に提出されたものと認められる
から、最も早いときでもC病院の診療証明書
作成日である右同日以降)であると認めるの
が相当である。そして、被告から原告に対す
る本件保険契約解除の意思表示が同年2月16
日中に膀吾に到達したことは前記二3認定の
とおりであるから、右解除の意思表示は1か
月の除斥期間経過前にされたものというべき
である。したがって、再抗弁3も採用するこ
とができない。
7
六.そうすると、本件保険契約は昭和56年2月1
6日限り解除されたものであるから、原告の保
険金支払請求は失当というべきである(約款16
条2項1号)。そして、被告が原告の保険金支
払請求に対して告知義務違反を理由とする解
除を主張してその支払を拒絶したことは、前
記二ないし五で認定したとおり結局正当で
あったのであるから、これが不法抗争(不法行
為)を構成することを前提とする原告の弁護士
費用相当額の損害賠償請求(請求原因4)も、
その前提を欠き、その余の点について判断す
るまでもなく失当というべきである。
・判例:大正6年10月26日第1民事部判決
大正6年(オ)第514号(民録23号1612頁)
ロ.他の説:当該保険会社の基準によるべき
である。但、合理的に考えて契約の締結の
判断ないし危険選択に意味があるものに限
る。(中西教授・商法(保険・海商)判例百選
89貢)
(2)被告Yの主張
・外傷性てんかんの発症及び治療の事実が、告知
書により告知を求められている事項であると主張
し、商法678粂1項の「重要なる事実又は事項」に
ついては触れてはいない。
七.結論
以上の次第で、原告の請求はいずれも失当で
あるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につ
き民訴法89条を適用して、主文のとおり判決
する。
検討
(p告知書
現行商法上では、告知すべき重要事実は保険
者からの質問がなくても進んで告知しなけれ
ばならない(申告義務)が、保険の技術につい
て専門的知識を必ずしも有しない告知義務者
に、ある事実が重要な事実として告知すべき
事項に属するか否かの判断を期待することは
酷であるので、専門家である保険者が告知義
務の対象となるべき重要事項を質問的に列記
し、告知させること(答弁義務)にした質問
表。
②告知書(質問表)の効力
[研究]
争点
I.「外傷性てんかん」が重要書実に該当するか否か
(商法678条1項)
Ⅱ.「外傷性てんかん」と死因(急性心不全)との因果
関係の有無 (商法645条2項、同678条2項)
Ⅲ.保険者の過失の有無
(商法644条1項但書、同678条1項但書)
Ⅳ.解除権の除斥期間の起算点
(商法644条2項、同678粂2項)
I.「外傷性てんかん」が重要事実に該
当するか否か
1・この争点に関する原告・被告の主張ならびに判
旨の要約および検討
(1)原告Xの主張
・Aは、外傷性てんかんではあったが、その症状
より生命に危険を及ぼすようなものではないから、
告知の対象にならなかった。つまり、商法678条
1項の「重要なる事実又は事項」にあたらないとし
ている。
検討
原告の主張は、重要事実の判断基準を客観的判断
によらず、主観的に判断した主張になっている。
①重要事実の判断基準(商法678条1項)
ィ.通説:客観的基準によってなすべきであ
り、保険契約者又は被保険者の主観的判断に
よるものではない。
8
古くは、明文の規定がない以上、質問表には
法的にはなにも効力は認められないとする学
説が多かったが、現在、特別の法的効力を認
める見解が有力となっている。
・通説:質問表は保険技術のベテランであり、
告知技術をめぐる無数の紛争を経験してい
る保険者が作成するものであるから、これ
に掲げられた事項は、すべて商法678条1項
の重要な事項と推定し、質問表に記載され
ない事項は重要な事項でない(推定的効力説)。
(西島梅治・保険法387頁、田中(誠)新版保
険法264頁、大森忠夫・保険法125頁、青谷
和夫・生命保険約款96頁)
③被告Yの保険約款6条1項
「当会社は、契約の締結、契約の復活または
死亡保険金額の増額(中略)の際、被保険者に
ついての質問事項を記載した書面によって告
知を求めます。この場合、契約者または被保
険者(中略)は、その書面によって告知してく
ださい。」
④被告Yの保険約款16粂1項
「契約者または被保険者(中略)が、契約の締
結、契約の復活または死亡保険金額の増額
(中略)の際に、当会社が告知(第6条)を求め
(
(
た事項について、故意または重大な過失に
よって、事実を告げなかった場合または事実
でないことを告げた場合には、当会社は、将
来に向って契約(中略)を解除することができ
き事実」
・最近の判例:東京地裁昭和53年3月31日民事
第4部判決、昭和51年(ワ)第5588号
(判例時報924号120頁)
ます。」
(2)「てんかん」が、重要事実に該当するとした判
例
・東京地裁大正9年3月11日第2民事部判決同6
年(ワ)第892号(評論9巻商法38頁)
「療病並二脚気二罷りタルコトアル事実ハ人ノ生
命)危険ヲ測定スルニ付キ重要ナル関係ヲ有シ商
法第429条二所謂「重要ナル事実」ニ該ルモノトス」
(商法429条=現行商法678条)(詳細不明)
被告Yの告知書には「過去5年以内の健康状態で、
7日以上の治療をうけたこと(または休養したこと)、
手術をうけたこと、または、うけるようにすすめら
れたことがありますか。」の質問欄に「てんかん」の言己
載がある。
したがって、上記の推定的効力説(②)によれば、
「てんかん」は重要事実であると推定され、また、被
告Yの保険約款6条1項(③)、16条1項(④)の解釈
からすれば、「てんかん」は重要事実であると解せら
れる。
(3)判旨
・Aの外傷性てんかんの発症及び加療の事実が、
告知の対象になっていたとして、被告Yの主張を
認めている。
・てんかん患者につき、ィ.てんかんの発作で急
性心不全を起こすことも稀ではあるが、あり得な
いところではない。ロ.痙攣重積状態による心臓
衰弱が原因で死亡する危険性がある等の理由のも
とに、てんかんに擢患しているかどうかは、契約
締結の諾否の判断に影響を及ぼすものであること
は明らかであるとして、商法678条1項の重要な
る事実又は事項に該当すると認め、原告Xの主張
を退けている。
(
検討
①本判旨は、「重要なる事実又は事項につき、
前述2.(1)の判例と同様の判断をしているも
のと考えられる。
②本判旨は、「外傷性てんかん」が重要事実に該
当するかの判断につき、被告Yの告知書の解
釈、商法678条1項の「重要なる事実又は事
項」の解釈の両方から判断している。
2.この争点に関する判例
(1)商法678条1項の「重要なる事実又は事項」につ
いての判例
・大審院大正4年4月14日第3民事部判決大正
(オ)第452号r民録21号486貢)
要旨
「被保険者の生命の危険を測定するために必要
な事実又は事項であり、保険者が、契約を引受
けるべきか否か、その保険料顧如何を判断する
に際して、その合理的判断に影響をおよぽすべ
3.私見
・「外傷性てんかん」が被告Yの告知書で告知を求
められていたこと、そして、それが、商法678条
1項の「重要なる事実又は事項」にも該当すること
を加えて述べることにより、「外傷性てんかん」が
重要事実であるとした判旨は妥当であると考える。
Ⅱ.「外傷性てんかん」と死因(急性心不
全)との因果関係の有無
1.この争点に関する原告の主張ならびに判旨の要
約
(i)原告Xの主張
・Aり死因は、肺水陸、脂肪肝によるものである
として、外傷性てんかんとの因果関係を否定して
いる。
(2)判旨
・原告Ⅹ主張の肺水瞳が死凶であるかの点につい
ては、事実認定により急性心不全によって生じた
ものであるとし、次のような一連の死亡に至る病
状の経遠より、明らかな因果関係の存在を認めて
いる。
外傷性てんかん
U
意識発作
U
精神障害
・全身痙攣
・意識消失
・家族に暴力を振う
U
意識障害
・一種の錯乱状態
栄養障害
・食事を自ら摂取できない
〉
〕
心筋の衰弱により死亡
・鼻からの流動物か栄養剤
の点滴をして意識の回復
を待つ
・低蛋白状態
・心臓の筋肉に必要な蛋白
の欠乏により衰弱
9
2.この争点に関する商法の規定、学説、判例
(1).商法645粂2項但書、同678粂2項の規定
「保険事故が、不告知または不実告知された
事実と因果関係なしに発生したことを保険
契約者が証明したときは、保険者は、損害
てん補または保険金支払義務わ免れること
ができない。」とされる。
つまり、不告知または不実告知の事実と
保険事故との間に、因果関係の存在が必要
となる。
(2).(1)の規定に対する否定的見解
①削減を主張する見解
・保険契約の申込者が事前に正直に告知したた
め契約を拒否された場合とのバランスがとれ
ない。
(田辺康平・生命保険判例百選121頁)
②できるだけ厳格に解釈すべきであるとする見
解
・告知義務制度が、保険者に対して事前に不良
な危険を、排除・制限する機会をあたえるこ
とを目的としているのに、保険事故発生の原
因を事後的に問題にすることは矛盾がある。
(大森・前掲129貢)
・告知義務制度が、契約当事者間の利害の公正
な調整を目的とするものであり、商法645粂
2項但書、同678条2項による例外がこの調
整の一手段であることも否定できないから、
削除する必要はないが、規定の要件を厳格に
解釈してその適用をできるかぎり制限する。
(西島・前掲93頁)
③判例
・大審院昭和4年12月11日第3民事部判決、同
4年(オ)第609号(田辺・前掲120頁)
要旨:少しでも因果関係のあることをうかがわ
せる余地がある限り、商法645粂2項但書、
同678条2項は適用されない。
3.私見
・本件の「外傷性てんかん」の症状は、事実認定に
よると、相当重いものであり、死に至る危険性
は高いものであったと思われる。
そして、判旨の示す経過をたどり、死亡したこ
とからすれば、明らかに因果関係はあるものと
いえる。
Ⅲ.保険者の過失の有無
1.この争点についての原告の主張および判旨の要
約
(1)原告Xの主張
①本件契約における告知は、原告が告知書に直接
被保険者であるA名義の署名・押印をして行
なったものであるが、Aは本件告知書の作成に
何ら関与していないから本件告知書は、Aの告
知書としての効力を有しない。
また、外務員Bは、原告に質問事項を確認させ
ず、原告に尋ねることもせず、かってに告知書
を作成した。
②外務員Bは、告知内容について原告に確認しな
かった、また、たまたま所用で外出していたに
すぎないAにも確認することを怠った。
③適格性判断のための健康診断を実施しなかった。(
④被告Yは、外務員Bの告知書の作成経過等の報
告を徴したうえ、改めて必要な措置をとるべき
であったが、それを怠った。
(2)判旨(原告Ⅹの主張①∼④につき、それぞれ以
下のとおり)
①本件告知書作成の経緯は、判旨理由二・2・(三二)
認定のとおりであり、勝手に告知書を作成した
事実はない。本件告知書は、その名義がAにな
っていたとしても、原告が保険契約者として告
知をしたものといわなければならない。また、
被保険者でなく契約者から告知を受けたことに
ついては、約款上、告知義務者は保険契約者又
は被保険者のいずれかであり、保険契約者から
告知を求めても差支えないものとしている。
(診被告Yは、Bをして原告に対して本件保険証券
とともに、本件告知書の写しを交付し、告知書
の内容の再確認を求めたが、原告は何ら事実に
相違する旨の回答をしていない。また、Aへの
確認については、Bが原告を訪れた時はいつも
Aが不在である旨告げられて、Aに会うことが
できなかった。
③被告内部の契約選択基準によると、本件契約は、
年令および死亡保険金額により、医師の診査を
経ることなく告知のみによる契約形態を選択で
きるものであった。
④被告の取扱としては、告知者である保険契約者
が本件のように被保険者の同居の実父であるよ
うな場合には、改めて被保険者に告知を求めた
り、その健康状態を調査したりすることはして
いない。
以上より、原告がAの「てんかん」の事実を殊更黙秘
したものといわざるを得ないので、保険契約当事者
間の衡平の見地から、被告が外傷性てんかんの発症
10
(
及び加療の事実を知らなかったことにつき、取引上
必要な注意を欠いた過失があったものと認めること
はできないとしている。
(
2.この争点に関する商法の規定および資料
日)商法644条1項但書、同678粂1項但書の趣旨
告知義務者に違反があったとしても、保険者
が、契約の締結に際して要告知事項について
知っていた場合または過失によってこれを知
らなかった場合には、契約を解除することが
できない。
公平の見地からみて、保険者が真実を知って
いた場合にまで、解除権を認めないのは、保
険者に積極的な調査を要求すると同時に、調
査に際して相当な注意をつくさせるためであ
る。
(》保険者の了知または過失による不知は契約者
の側において立証することを要する。
・判例:大審院大正9年1月23日第一民事部判
決、大正8年(オ)第1012号(民録26号65頁)
②過失によって、これを知らなかったとは、取
引上必要な注意を欠いていたためにこれを知
らなかったが、そのような注意をつくせば知
りえたであろうことをいう。
・必要な注意とは、保険者が取引上自己の被る
ことあるべき不利益を防止するために尽くす
のが相当であると認められる注意をいう。
(中西教授・総合判例研究叢書、商法(8)28
頁)
(2)商法678条1項前段
保険契約ノ当時保険契約者又ハ被保険者力悪
意又ハ重大ナル過失二因り重大ナル事実ヲ告
ケス又ハ重要ナル事項二付キ不実ノ事ヲ告ゲ
タルトキハ保険者ハ契約ノ解除ヲ為スコトヲ
得」
・条文より、告知義務者は、保険契約者、被保
険者のどちらかであることを意味する。
(3)被告Yの保険約款6粂1項
「当会社は・・・被保険者についての質問事項
を言己載した書面によって告知を求めます。こ
の場合、契約者または被保険者(中略)は、そ
の書面によって告知してください。」
・約款より、告知義務者は、保険契約者、被保
険者のどちらかであることを意味する。
3.私見
(1)資料(2い(3)の解釈から、告知義務者は商法
上、保険約款上ともに保険契約者、被保険者
のどちらでもよいことになっており、本件に
おける原告の告知は、契約者の告知であり、
したがって判旨同様、告知書は有効と解せら
れる。
(2)①事実認定によれば、契約者である原告は、
ィ.実子であるAが「外傷性てんかん」にて入院
している事実を熟知していた。ロ.外務員Bか
ら、告知書の趣旨の概略の説明を受け、Aに
ついての病気又は入通院の事実の有無を尋ね
られた。ハ.告知書を、自ら5−6分ないし10
分程度見ていた。ことから考えて、告知書の
告知事項に「てんかん」が具体的に記載されて
いることが認識でき、仮に、記載内容がはっ
きりわからなかったとしても、外務員Bの質
問により、告知すべき事実であることが認識
できたはずである。にもかかわらず不告知で
あった。
そして、二.外務員Bが、原告を訪ねた時はい
つもAが不在である旨告げられていたことか
らすれば、原告は、故意に合わせなかったも
のと考えられ、したがって、原告の悪意によ
る不告知といえる。
②一方、外務員Bの取扱についても、原告が
告知者であることを被告に報告していない点
不十分であるが、被告の取扱が、告知者であ
る保険契約者が本件のように被保険者の同居
の実父であるような場合に、改めて、被保険
者に再確認をしなかったとしても、①のよう
に契約者には悪意があり、保険契約当事者間
の衡平の見地から見て、被告が取引上必要な
注意を欠いた過失があったものと認められな
いとした判旨は妥当であると思われる。
Ⅳ.解除権の除斥期間の起算点
1.この争点に関する原告・被告の主張及び判旨の
要約
(1)原告Ⅹの主張
・死体検案書に推定原因と記載されていた事実で、
解除の原因を知った時と解し、検案書の被告Y
本社に到着日を除斥期間の起算日として実際に
その解除の意思表示が到達した時は、すでに除
斥期間を経過していたので、解除はできない。
(2)被告Yの主張
イ解除の原因を知りたる時」の解釈を、保険者
が解除権行使のために必要と認められる諸要件
を確認した時のことであって、単にその疑いを
抱いたのみでは足りないとして、調査により、
事実関係を了知し、告知義務違反を確認した時
か除斥期間の起算日とし、解除の意思表示が相
手方に到達した日は除斥期間経過前であった。
(3)判旨
11
療証明書を受け取った日であるとし、したがっ
て、解除の意思表示が柏手に到達した日は、除
斥期間経過前であった。
「解除の原因を知りたる時」の解釈を、被告Y、
多数説同様に解し、被告がAの告知義務違反を
確認したのは、調査機関から調査報告書及び診
原告X黄葉
S.54.12.25
被告Y主張
判旨
l
調査依頼
死体検案書 一一一一 一一●
 ̄ ̄「 ̄
Y本社到着日(起算日)
鯛査依頼
・C病院の医証作成日
D病院の医証
調査報告書にて
S.55.1.18
違反の確認U(起算
禁㌍__」
1.19
1カ月以内で有効
解除権消滅
凋鍾報告書を
受け取った臼(起算日)
1カ月以内有効
除斥期間超過
契約解除の意思表示列遠目
′ヽ
2.この争点に関する商法の規定、学説、判例
(1)商法644粂2項、同678粂2項の規定
①解除権は、保険者が解除の原因を知った時か
ら1カ月間これを行なわない時、その解除権
は消滅する。
判旨
保険契約者の不安定な立場を犠牲にしてまで
永く保険者の解除権を保留せしめておくこと
は不適当・不必要と考えられるためである。
ィ.保険者が、「解除の原因を知った時」とは、
単に原因の存在に対して疑いをもった時を
意味せず、保険者が解除権行使のため必要
と認められる諸要件を確認した時という意
味である。
(大森・前掲132頁、青谷・前掲235頁、西
島・前掲91頁)
判例:大阪地裁昭和47年11月13日第53民事部
判決、昭和45年(ワ)第3721号(判例NO.291
3 44頁)
・「解除の原因を知った時」とは、保険者が告
知 義務違反の客観的要件を知った時と解す
るのが相当である。
ロ.1カ月の期間は、時効期間でなく、除斥期
間である。したがって、当事者が援用する
かどうかに関係なく、その期間の経過に
よって当然に消滅する。
(大森・前掲132頁、青谷・前掲232頁)
ハ.1カ月の期間の経過については、保険契約
者に立証責任がある。(大森・前掲134頁)
二.除斥期間の起算は、保険者が、解除の意思
表示の相手方を知らなくても保険者が解除
の原因を知ったときから開始するものと解
される。 (中西・前掲叢書147頁)
12
ホ.保険約款では、保険契約者またはその相続
人を知り得ず、または、その所在を知り得
ない場合には、保険金受取人に対しても解
除の通知をなしうる旨、定めるのが通例。
へ.1カ月の期間は、解除の原因を知った日の
翌日から起算する(民法140粂)
②契約成立の日以後、5年を縫過した時は、解
除権は消滅する。
判旨
不告知もしくは不実告知の事実が、5年間も
問題とならなかった以上、それは事故発生率
に影響をおよぼさないものと考えられるため
である。
ィ.5年間の期間は除斥期間である。
(大森・前掲132頁、青谷・前掲232頁)
ロ.保険約款では、5年の期間を2年に短縮して
いるのが通例。
3.私見
・告知義務違反による契約解除は、保険契約者、
保険者の双方にとって、重要なことであるから、
「解除の原因を知りたる時」の解釈は、学説、判例
と同様「単に原因の存在に対して疑いをもった時
を意味せず、保険者が解除権行使のため必要と認
められる諸要件を確認した時」であると思われる。
したがって、判旨が、「解除の原因を知りたる時」
とは、学説、判例と同様に解し、原告から提出の
あった死体検案書の記載内容からは、Aについて
の告知義務違反を直接示すものではなかったので、
調査依頼の上、調査機関から調査報告書及び診療
証明書を受け取った日以降であると認めたことは
妥当である。
(小間滞 繁)
(
〔質疑応答検討要旨〕
1.争点I(「外傷性てんかん」の重要事実該当性の
判断)
てんかんに催患していることが、告知義務の対
象たる重要事実であることについては、過去にも
判決例(東京地判大正9.3.11法律評論9巻上商法38
貢)があるが、その理由については記録からは明
らかでない。本件はその理由を具体的に指摘し明
確化した点において意義ある判決と評価できよう。
2.争点Ⅱ(「外傷性てんかん」と死因(急性心不全)
との因果関係の有無の判決基準)
(1)被保険者は、てんかんを直接の原因として死
亡したのではないが、てんかんによる全身状態
悪化等による心不全が死凶となったのであり、
てんかんがなければ全身状態悪化による心不全
もなく、従って死亡もなかったのであるから、
凶果関係がないとは言えない。
(2)保険者が告知義務違反を理由として保険契約
を解除した場合には、その解除が保険事故の発
生後であっても、保険金支払の貴仕を免れるこ
とができる旨商法及び約款で規定されているが、
′l\
例外として保険事故の発生が、その告知しな
かった事実と因果関係なしに発生したことが保
険金受取人によって証明された場合には、保険
者は保険金支払の責任を免れることができない
(商678条2項、645条2項但書)。その理由として
は、因果関係不存在の場合には、保険者は結果
的にみて告知義務違反によって何ら不利益を受
けたことにはならないから、両当事者の公平の
見地からこのような例外が設けられたのである
と説明するのが一般である。しかし、この例外
規定は告知義務の空洞化を危惧する立場から、
この不存在の立証は厳格に解すべきであると
の説が一般的である。
(3)この見地から、逆に云えば、因果関係の存在
については、当該事実が死亡の唯一または主要
な原凶でなくとも、一原因であれば足りるし
(_一二浦・告知義務論281頁)、本件のように間接
的な原凶であった場合にも因果関係の存在は肯
定されることになる。
っまり、直接死凶となることは要せず、死
期を早めるものであればよいとする見解であり、
いわば条件関係的なものでよいとする考え方
である。
(4)本件外傷性てんかんは、死亡の直接の原因と
ならなくとも、それを導き出す誘因となり得る
ものであり、死亡との間に相当な条件関係は存
在している。それ故、ごく軽微なものは別とし
て、本件のように死亡の誘凶となり得る程度の
てんかんは死亡危険に関する重要事実でもある
といえる。
3.争点Ⅲ(保険者の過失の有無について)
(1)この点に関する判旨は結論としては正当であ
るが若干の問題点を含む。被保険者自身の告知
を受けず、医師の診査も経ずに、保険契約者の
告知を受けたのみで被保険者本人に一度も会う
ことなくその健康状態を判断したことは、被告
が保険者として尽くすべき注意義務を十分に尽
くしていなかったのではないかとの疑問が残る
からである。
(2)告知義務違反があった場合でも、その重要事
実について保険者が知っていたかまたは過失に
よって知らなかったときは、保険者は契約を解
除することができない。このような場合には、
衡平の見地からみて保険者を保護する必要がな
いとするのがその理由である。そして、この場
合の過失とは軽過失でもよいとされる。
(3)次に、保険者の内規(本件事案の場合は、告
知受領に関する簡易取扱基準)に基づいた手続
きを採ることと保険者の過失との関係につい
て、内規が保険業者としての当然の注意義務
を定めたものであるとして、内規で定める手
続を尽くさなかった場合に、保険者の過失を
認定した判決例(大判昭和7.11.24法律新聞
3499号7項・生命保険判例百選50診査の有効
期間106′−107頁)がある。
本件では内規に基づいた手続を履行してい
るから、この点に関して被告がその通常の場
合と比べて本件で特に注意を欠いた取扱いを
したとは言えない。しかし、内規に基づいた
処理がされているからといって当然に被告に
過失がないとは速断できないのであって、内
規の合理性如何が問題となる。保険者は、逆選
択防止のために契約の前に慎重な危険選択を
行なう必要があるが、商法はこの危険選択を
助けるために告知義務の制度を設けている。こ
の他に保険者は、被保険者については医師によ
る診査を行なうのが一般的であるし、場合に
よってはさらに個別的必要性に基づいてさら
に詳しい調査を行なうこともある。どの程度
の調査を行なうかは、保険種類、被保険者の
年令、コスト、保険金額等を考慮した上で、
保険者の経営判断によって決定されるべきこ
とであるが、おのずから保険業界の通念とし
て一定の基準が形成されているものと考えら
れる。医師による診査は常に行なわれるわけ
ではなく、保険金額、加入年齢等一定の条件
下で、医師の診査を行なわれない無診査契約
が行なわれている。そして、危険選択方法は、
高額の有診査奥約は精査され、選択手段の合
理的開発が要求されつつある一方で、無診査
契約については、簡素化、合理化により、能率
的な選択方法が採られていく傾向にある。
13
そして、本件の場合、被告Y社は内規に準拠
して、一定の条件を充足する契約については診
査を省略する手続を採ることを認めていたこと
は、特に取引上の注意義務を欠くものとは言え
ないであろう。また、この一定の条件自体も合
理的なものであることを要するが、判旨はその
ことも含めて合理性を承認したものであろうか
ら、診査の省略という点については問題はない
といえよう。
(4)しかし、告知を被保険者本人から受けずに、
原告Ⅹ(=保険契約者)から受けただけであった
ことに若干の問題があるように思われる。
商法678条は告知義務者として保険契約者と
被保険者を併列的同位的に規定しているから、
保険者はそのいずれからでも告知を受けること
ができる立場に一応はいるといえる。その場合、
両者から告知を受けなければ保険者として尽く
すべき取引上の注意義務を怠ったことになると
は、直ちには言えないであろうが、告知義務の
対象となる事実が、主に被保険者の健康状態に
関する事実であることを考慮すると、少なくと
も被保険者自身から告知を受けるのが原則であ
ると考えられる。本件のように保険契約者たる
原告Ⅹが、被保険者と同居の父親であるという
場合には、被保険者自身から聴くことのできる
事実の大半はⅩからも聴けると事実上は言える
としても、例えば自覚症状の如きは被保険者本
人から聴かなければ分らない場合も考えられる
のであるから、被保険者本人からの告知を略す
ることができるとしたYの取扱基準は、告知に
よる危険選択情報収集のためには、かなり簡略
化されたものといえよう。他方、大量の低額契
約については手続の簡素化が現在の傾向であり、
それなりの合理性も認められるとしても、無診
査契約の場合にはその半面として外務員による
第一次選択が重要な機能を果たすものであると
いわれており、そうだとすれば告知については
特に重視すべきであるとの立論も十分に尊重に
値する意見といえる。
(5)しかし、その半面において、つまり手続簡素
化に伴なう種々の危険負担の問題については、
例えば、本件の場合のように告知受領の相手方
として被保険者本人を差しおいて契約者自身か
らのみ告知を受領するという簡略手続(内規に
準拠していることは前述のとおりである)を採
用することによって、本人からでなければ聴け
ないような重要事実について告知義務違反が問
題化した場合の取扱いについては、保険者は吾
反解除の主張は阻却されることになるとの立場
を承認するのであればそれなりに簡易取扱基準
を採用したことの合理的一貫性は認められるの
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であろう。そうだとすれば、本件における被告Y
のこのような内規も一応合理性を有するといえ
よう。
(6)さらに本件では外務員が被保険者本人に一度
も面会していない点が問題とされる余地があろ
う。内規では、被保険者本人に会わなくともす
む手続の余地が認められていたとしても、本件
の場合、被保険者が契約時において31歳であっ
たという点を考えると、父親が代わって、告知
するのが自然とは思えず、一度も会わせてもら
えなかったことについて外務員としては、不審
を抱くのが常識的な判断であったという点は、
否めないであろう。
しかし、この点について被告Yの取引上の注
意義務が十分であったかについては疑問を残し
つつも、本件では原告Ⅹが明らかに悪意であり、
外務員が被保険者に会うことを故意に妨げてい
たと推測されることから、結論として、両当事
(
者の衡平の観点から、Yの過失の認めて解除権
行使を否定することは妥当ではないとの比較考
量的判断を裁判所は示したのであろう。
4.争点Ⅳ(「解除権の除斥期間の起算点」について)
この解除権の除斥期間の起算点についての裁判
所の判断は、学説の通説的見解および従来の判決
例の判断と同様の見解を示したものであると評価
できる。
5.本件無診査契約における被保険者の同意の問題
本件事案の事実認定を総合的に勘案するときに、
果たして被保険者の同意は存在していたのかどう
かについては疑問の余地があろう。
しかし、本件については一応契約が有効に成立
していることを前提に原被告双方が契約の告反解
除を争点としているので、この点は、争点外と
なっている。
(
6.本件判決の意義
本判決は、生命保険契約(それも無診査契約)に
おける告知義務違反による解除権行使に伴う法律
的争点が網羅的に争われたものであり、それぞれ
の争点についての裁判所の判断は、従来の判例の
見解を概ね踏襲しているものであり、格別の意義
は兄い出し難いとしても、従来の判旨を一歩具体
的かつ明確に打ち出した点は、前進的に評価され
よう。
そして、この意味において、生命保険契約の告
反解除事例としての格好の教材となりえよう。
(文責 村上英雄)
(大阪:S61.10.17)
報告:大同生命小間渾 繁1(
指導:中西教授、山下弁護士