船 津 英 陽 堀 貞 夫 大 野 敦 船 津 英 陽

第 20 回日本糖尿病眼学会総会 ランチョンシンポジウム 4
3 月7日 ㊏ 12 : 00 ~13 : 00
日 時
2015 年
会 場
ソラシティカンファレンスセンター(御茶ノ水)
Room C(1 階)
座 長
東京女子医科大学八千代医療センタ-眼科 教授
講演 1
船 津 英 陽
先生
「 糖尿病眼手帳作成の経緯と活用状況 」
東京女子医科大学八千代医療センタ-眼科 教授
船 津 英 陽
講演 2
先生
「 糖尿病眼手帳の内科での活用状況を考える 」
東京医科大学八王子医療センター
糖尿病・内分泌・代謝内科 科長・准教授
大 野 敦
講演 3
先生
「 患者から見た活用状況 」
医療法人社団 済安堂 西葛西・井上眼科病院 院長
堀 貞 夫
共催:第 20 回日本糖尿病眼学会総会 株式会社三和化学研究所
先生
座長の
言葉
第 20 回日本糖尿病眼学会総会 ランチョンシンポジウム 4
糖尿病網膜症に対する失明対策ツ-ル
糖尿病眼手帳
東京女子医科大学八千代医療センタ-眼科 教授
船 津 英 陽 先生
糖尿病網膜症
(以下、網膜症)
は我が国における視覚障害原因の第2位を占め、網膜症に対する失明対策は医療
における最重要課題の1つである。網膜症による視覚障害を予防し、視覚の質を維持するためには、網膜症に対
する適切な管理と治療が不可欠である。近年、内科および眼科において新規治療薬が次々に開発、臨床応用され、
治療の選択肢が拡大してきた。しかし、眼科受診の放置・中断患者が後を絶たないため、網膜症に対して適切な
タイミングで最善の治療が行われ、
失明対策が十分に行われているとは言い難い。失明対策を十分に行うためには、
患者の網膜症に対する正しい理解と治療への動機付け、定期的な眼科受診が不可欠である。
「糖尿病眼手帳」
は網
膜症に対する失明対策、眼科受診における放置中断対策、眼科と内科との医療連携ツールとして2002年に作成され、
糖尿病健康手帳や連携手帳などと併携することを前提に活用されてきた。これまでに200万部以上が配布され、多
くの眼科医、内科医、糖尿病患者に活用されている。しかし、眼手帳の3つの目的を十分に理解し、積極的に活
用している医師や患者は必ずしも多くない。本セミナーでは、
「糖尿病眼手帳作成の経緯と活用状況」
、
「内科の立
場から見た活用状況」
、
「患者から見た活用状況」
について講演して、眼科医、内科医および患者側からみた眼手帳
の効果や成果を評価し、可能であればディスカッションする予定である。
講演1
「 糖尿病眼手帳作成の経緯と活用状況 」
東京女子医科大学八千代医療センタ-眼科 教授
船 津 英 陽 先生
― 略 歴 ―
1984年 北里大学医学部卒業
1985年 ‌東京大学医学部付属病院眼科 助手
1993年 ‌東京女子医科大学糖尿病センター眼科 講師
テキサス大学ダラス校 客員講師
2004年 東京女子医科大学糖尿病センター眼科 助教授
2007年 東京女子医科大学八千代医療センター眼科 教授
眼科受診の放置・中断により、適切な治療のタイミングを逸する糖尿病患者(以下、患者)が少なくない。放置・中断
の原因としては、患者が自分の目の状態を正しく理解していないことや、適切な連携システムやツールがないことなど
があげられてきた。2001年第7回日本糖尿病眼学会教育セミナー「糖尿病網膜症の医療連携―放置中断をなくすために」
において、教育セミナー案として、「糖尿病眼手帳(以下、眼手帳)の作成」を提案した。その後、糖尿病眼手帳作成小委
員会を結成し、2001年5月から1年間に8回の眼手帳作成小委員会を開催し、2002年5月に
「眼手帳」
が完成し、同年6月
から発行を開始した。眼手帳は糖尿病連携手帳などと併携して使用することを前提とし、その目的は、1)眼科医と内科
医が患者を介して、共通の情報を持つ、2)眼科の情報を内科の診療に役立ててもらう、3)患者に糖尿病眼合併症の状
態や治療内容を正しく理解してもらう、である。眼手帳の活用状況 眼手帳の認知度、活用度、目的達成度を調査する
ため、2003年6月と2008年7月に、全国10道県の眼科医と内科医を対象にアンケート調査を実施した。眼手帳の認知度
や活用度は向上していたが、目的達成度については不十分であった。眼科医ばかりでなく、内科医や糖尿病療養指導士
などを含めた普及並びに啓発活動が重要であると考えられた。
講演2
「 糖尿病眼手帳の内科での活用状況を考える」
東京医科大学八王子医療センター
糖尿病・内分泌・代謝内科 科長・准教授
大 野 敦 先生
― 略 歴 ―
1983年 ‌東
京医科大学卒業、第三内科入局
市立根室病院、総合新川橋病院の出張を経て
1993年 ‌東
京医科大学八王子医療センター糖尿病・内分泌・‌
代謝内科 助手
1994年 同 講師
2007年 同 科長・准教授
1.‌内科・眼科連携時の情報交換における糖尿病眼手帳の位置づけ
‌1997年設立の糖尿病治療多摩懇話会では、内科・眼科連携をテーマに活動し、両科の連携専用の「糖尿病診療情報提
供書」を作成した【日糖尿病眼会誌 7:139-143,2002】。その後眼手帳が登場したが、先の提供書と糖尿病連携手帳・
眼手帳の併用で、外来での時間的負担は軽減した上でより細やかな連携が可能である。
2.‌糖尿病教室での眼手帳利用による患者教育
眼手帳P20-25の「糖尿病網膜症の解説」を用いると、症状がないまま進行する網膜症の経過を視覚的に説明できる。
3.‌多摩地域の内科医における発行10年目の糖尿病眼手帳に対する意識調査
‌眼手帳への意識調査を糖尿病の専門性の有無別に実施したが、眼科医から渡されることへの抵抗感、渡されるべき
患者等の項目に両群間に有意差はなかった。眼手帳7年目に施行した同様の調査の際には有意差を認めた項目もあ
り、この3年間で専門医と非専門医の眼手帳に対する意識の差は減ったと思われ、今後より多くの内科医での眼手
帳の活用に期待したい【糖尿病合併症 27(Sup-1):120, 2013】。
4.‌多摩地域の眼科医における糖尿病眼手帳に対する意識調査 -発行半年~ 10年目の推移
‌眼手帳発行後10年の間に、眼手帳を渡すことならびに内科医が渡すことへの抵抗は減少しており、内科医からのよ
り多くの発行を促していきたい【第19回本学会総会(神戸),Prog Med 34(9):1657-1663, 2014】。
講演3
「 患者から見た活用状況 」
― 略 歴 ―
医療法人社団 済安堂
西葛西・井上眼科病院 院長
堀 貞 夫 先生
1972年3月 ‌群馬大学医学部卒業
1976年9月 米国留学(Schepens Eye Research Institute,Boston)
1979年9月 東京大学医学部眼科入局
1981年10月 東京大学医学部眼科 講師
1988年4月 東京女子医科大学糖尿病センター眼科 助教授
1990年8月 東京女子医科大学糖尿病センター 教授
1998年4月 東京女子医科大学眼科 主任教授
2012年4月 ‌東京女子医科大学 名誉教授
西葛西・井上眼科病院 院長
目 的:‌糖尿病眼手帳(眼手帳)の活用状況について、患者に聞き取りアンケート調査を2回行って、眼手帳の目的
である「患者教育」と「放置・中断対策」が、どの程度有効に達成されているか検討した。
対象と方法:‌1回目は「眼科単科病院を受診する糖尿病患者の実態調査」で、対象は平成24年9月~平成25年3月に当院
を受診した糖尿病患者847人であった。2回目は「眼科単科病院を受診する糖尿病患者の網膜症に対する説
明」で、平成26年6月~ 10月の間に当院を受診した952名と、説明後再診時に看護師により再度アンケート
を実施した200名であった。2回目のアンケート時に各患者の網膜症の病期について説明した。
結 果:‌第1回目調査;眼科に定期的に通院している患者は79.7%と内科通院に比べて低かった。自分の網膜症レ
ベルを知っていると回答した患者は15.5%であった。手帳を利用していて 正確に病期を知っていたのは
10.1%であった。2回目の調査で医師の診断をもとに各患者の病期説明をした。その後再診した200人に説
明した病期を聞いたところ、38%が正確に覚えていた。また、198/200名(99%)の患者が定期的に受診しよ
うと思うと回答した。
結 論:‌眼
科単科病院を受診する糖尿病患者は、自分の病期を正確に認識している人は少なく、一度の説明で正確に
自分の病期を覚えていた患者も少ないので、繰り返しの説明が必要である。糖尿病眼手帳による網膜症の説
明は、患者に網膜症病期と、定期的な眼科受診を意識づけるきっかけになると思われた。