四季雑感 太陽光発電システムの発展 Development of photovoltaic generation systems 杉原裕征 * 以前私は送電線建設工事の工法開発に携わってい た.日本には 6 万ボルト級から 100 万ボルト級まで 複数の種類の送電線がある.ここでは皆さんにあま りなじみのない 100 万ボルト級送電線の架線工事の うち,私が当時担当した概要についてご紹介するの で,古い話で恐縮ですがお付き合い願いたい. 100 万ボルト級送電線の鉄塔の高さは平均で約 100 メートル,重量は約 370 トン.山岳部を通過し ている線路では,直径 4 メートル,深さ 20 メート ル程度の基礎が鉄塔の脚ごとに構築されている.こ の送電線は 3 相 2 回線の送電方式用で,電線からの コロナ放電を防止し,線路インピーダンスを下げ, 送電容量の増加を図るため,1 相は 8 導体で作られ ている.8 導体というのは 8 本の電線を対角距離約 1 メートルの正 8 角形の各頂点に配置し,8 本の電 線で 1 本の導体とみなしたものである.したがって, 3 相 2 回線,8 導体なので,48 本の電線が鉄塔の左 右両側に出ている腕金で支えられている.8 導体の 1 本の電線は「鋼心アルミより線」という,アルミ の公称断面積が 810 スクェアミリメートル,直径 38.4 ミリメートルの電線.この電線は,電線の荷重 を支えるための,直径 3.2 ミリメートルの素線 7 本 をより合わせた鋼線を中心部に配置し,その周囲を 電流の通路となる,直径 4.8 ミリメートルのアルミ 素線を 45 本より合わせた構成となっている.また, 鉄塔の最上部の左右の腕金には雷から電力設備を保 護するための「地線」と呼ばれる電線が接続されて いる.この電線の中心部に配置された直径約 5 ミリ メートルのパイプの中には,発電所,変電所にある 遮断器,開閉器の制御信号など多くの信号の伝送に 使うために,30 本の光ファイバーが内蔵されてい る. 架線工事区間,すなわちドラムに収められた電線 を設置する場所と電線を引張るためのウィンチを設 置する場所は数キロメートル離れている.この間に 電線を張るには,あらかじめヘリコプタにより,直 径 16 ミリメートルのナイロンロープを複数の連続 した鉄塔間に渡す.ナイロンロープは直径 10 ミリ メートルワイヤロープ,16 ミリメートルワイヤロー プの順にウィンチを使い引替える.16 ミリメート ルワイヤロープで 16 ミリメートルワイヤロープを 複数本引くことにより 16 ミリメートルワイヤロー プを電線と同じ本数,例えば,上段の 1 つの腕金に は 8 本準備する.最後に 16 ミリメートルワイヤロー プの末端に電線を取り付け,ウィンチでワイヤロー プを巻き取ることにより電線を架線する. 送電線は,道路,鉄道,水路,河川,田畑,樹木 などいろいろなものと交差しているため,電線を引 く際には,電線が鉄塔間に垂れ込まないよう,電線 に張力をかける必要がある.電線に大きな張力をか けるとその弛みは小さくなり,電線は地上から離れ て工事を行えるが,ワイヤロープ,鉄塔,ウィンチ, 滑車などに大きな荷重が加わる.電線に加わる張力 が 30 キロニュートンを超えないようにいろいろと 工夫する.ワイヤロープにより引替えられた電線は, 各鉄塔で電線を把持する工具を用いてがいしに固定 され,鉄塔と接続される.これら一連の作業では電 線が伸びたり,あるいは電線を構成するアルミ素線 がつぶれたり,こすれたりするが,その品質が許容 範囲に収まるように種々の試験を行い,工具・工法 を開発した.また,架線工事を始める前には,開発 した工法・工具を用いて,実線路を使用し,試験的 に架線工事を行うことにより工事の安全性や効率お よび電線等の品質の確認を行った. 太陽光発電容量が平成 27 年 3 月時点で 2400 万キ ロワットを超えたとの発表があった.太陽電池が日 本の電源の一つとなったと実感している.しかし, 雪が降ったり,強風が吹くと架台や基礎が破損して 設備事故になることをニュースなどで目にする.想 定した荷重以上で破損するのは仕方ないにしても, それ以下の場合にも破損しているように思われる. 私が携わった送電線工事は 100 年以上の歴史があり その中で技術が育まれてきた.太陽光発電システム も登場したのは 20 年以上も前であるが,日本の電 源として普及し始めたのはここ 1,2 年である.日 本の電源としてしっかり育って欲しいと願うしだい である. *株式会社 関電工
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