MT-228 高速 ADC アナログ入力 インターフェースの考慮事項

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アプリケーション・エンジニアリング
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MT-228
高速 ADC アナログ入力
インターフェースの考慮事項
POWER SUPPLY
INPUT
アプリケーション・エンジニアリング・グループ
アナログ・デバイセズ
VREF
ANALOG
INPUT
FPGA
INTERFACE
CLOCK
INPUT
CONTROL
GND
10539-101
内容
高速 A/D コンバータ (ADC)を使用するシステムのデ
ザインは困難な仕事です。このノートブックでは、
デザインの基本的な考慮事項の概要を説明します。
DATA
OUTPUT
ADC
アプリケーション・エンジニアリング・ノートブック
エデュケーショナル・シリーズ
目次
入力インターフェースの基本的な考慮事項 ..................................2
トランス性能の理解 .................................................................... 9
入力インピーダンス .....................................................................2
振幅と位相の不平衡 .................................................................... 9
入力駆動.........................................................................................2
アクティブ結合フロントエンド回路 ............................................11
帯域幅と通過帯域の平坦性..........................................................2
差動シグナリングの例............................................................... 11
ノイズ ............................................................................................2
周波数領域性能と時間領域性能の例 ....................................... 12
歪み ................................................................................................3
アンチエリアシングフィルタの考慮事項................................ 13
入力アーキテクチャのタイプ..........................................................4
考慮事項...................................................................................... 14
バッファ付きとバッファなしアーキテクチャの特性 ...............4
役に立つデータ・コンバータの式 ............................................... 15
バッファなし ADC ........................................................................4
有効ビット数(ENOB) ................................................................. 15
バッファ付き ADC ........................................................................6
信号対ノイズ比と歪み(SINAD) ................................................ 15
トランス結合フロントエンド..........................................................8
全高調波歪み(THD) ................................................................... 15
トランスのモデル化 .....................................................................8
理論的な信号対ノイズ比(SNR)................................................. 15
トランスの基礎 .............................................................................8
定義/用語 .................................................................................. 15
改訂履歴
4/12—Rev. 0 to Rev. A
Changes to Figure 26 .........................................................................14
2/12—Revision 0: Initial Version
Rev. A
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MT-228
入力インターフェースの基本的な考慮事項
高周波入力を持つ高速 A/D コンバータ(ADC)を使用するシステ
ムのデザインは困難な仕事です。ADC 入力インターフェース・
デザインの主要な 6 つの基準は、入力インピーダンス、入力駆
動、帯域幅、通過帯域の平坦性、ノイズ、歪みです。
入力インピーダンス
入力インピーダンスは、デザインの特性インピーダンスです。
ADC の内部入力インピーダンスは、ADC アーキテクチャのタ
イプに依存し、ADC ベンダーのデータシートまたは製品ページ
で提供されています。入力インピーダンスに密接に関係する電
圧定在波比(VWSR)は、注目する帯域幅で負荷から反射される電
力の大きさを表します。VWSR は、ADC のフルスケール入力を
実現するために必要な入力駆動レベルを決めるので重要です。
ソース・インピーダンスと負荷インピーダンスが一致するとき
に電力転送が最大になります。
1
10 2
3
9 4
30MHz
120MHz
225MHz
300MHz
49.451Ω
48.730Ω
55.373Ω
75.718Ω
2.0292Ω
9.5514Ω
26.165Ω
40.168Ω
入力駆動
入力駆動は、要求される帯域幅の関数であり、特定のアプリケ
ーションで必要とされるシステム・ゲインを設定します。入力
駆動レベルはフロントエンドのデザインを開始する前に決める
必要があり、フィルタ、トランス、アンプのようなフロントエ
ンド部品に依存します。
帯域幅と通過帯域の平坦性
帯域幅は、システムで使用する周波数範囲です。通過帯域の平
坦性は、規定帯域幅内での変動の大きさを表します。この変動
は、リップルの影響または単にバタワース・フィルタのゆるや
かなロールオフ特性から発生することがあります。通過帯域の
平坦性は通常 1 dB 以下で、システム全体のゲインを設定する際
に重要です。
Tr1 S11 SWR 1/REF 1 [F2]
Tr2 S11 SMITH (R+JX) SCALE 1 [F2]
11
VSWR は単位のないパラメータで、注目する帯域幅で負荷に戻
される電力の大きさを知るのに使用できます。VWSR は、ADC
のフルスケール入力を実現するために必要な入力駆動レベルを
設定するため重要です。周波数が高くなるほど、ADC 入力をフ
ルスケールに駆動する際に必要とされる駆動電力またはゲイン
が大きくなることに注意してください。
10.765nH
12.668nH
18.508nH
21.310nH
8
3
7
2
6
ノイズ
4
信号対ノイズ比(SNR)と歪み条件は通常、ADC の選択に役立つ
ためデザイン・プロセスの早い段階で決定されます。コンバー
タから見たノイズの大きさと、コンバータ自体のノイズとの比
は、SNR として定義されます。SNR は、帯域幅、信号品質(ジ
ッタ)、ゲインの関数です。ゲインを大きくすると、それに対応
したノイズ成分も大きくなります。
1
5
4
3
4
1
2
10539-001
1
3
2
図 1.ネットワーク・アナライザでの入力 Z/VWSR
図 1 に、ネットワーク・アナライザを使用してフロントエンド
回路から取得した入力インピーダンスと VSWR のプロット例を
示します。入力インピーダンスは、デザインの特性インピーダ
ンスです。多くの場合 50 Ω ですが、デザインによっては異なる
インピーダンスが必要とされることがあります。
Rev. A
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MT-228
歪み
歪みはスプリアス・フリー・ダイナミックレンジ(SFDR)で表さ
れ、SFDR はピーク・スプリアス・スペクトル成分の実効値に
対するフルスケールの実効値の比です。SFDR は、主に 2 つの
ファクタから制御されます。1 つ目のファクタは、フロントエ
ンド・バランス品質における直線性であり、基本的には 2 次高
調波歪みの関数になっています。2 つ目は、ゲインと要求され
る入力のマッチングです。要求ゲインが高いほど、マッチング
が困難になります。また、要求ゲインが高いほど、ADC 内部の
デバイスのヘッドルームが押しやられて非直線性が大きくなり、
さらに外部受動部品の通過電力が大きくなることにより非直線
性が大きくなります。この影響は、一般に 3 次高調波として観
測されます。
ADC FULLSCALE (dBFS)
図 2 に、理想 12 ビット ADC の 4096 ポイント FFT の出力と幾
つかの基本計算値を示します。理論 SNR は 74 dB です。このノ
イズは、ナイキスト帯域幅全体に広がっています。FFT では処
理ゲインが加わります。これは、サンプリング周波数を FFT の
ポイント数で除算した値に等しい幅を持つ小さな"窓"から見る
ためです。4096 ポイント FFT の場合、この処理ゲインは 33 dB
になります。これは、アナログ・スペクトル・アナライザの帯
域幅を狭くするように機能します。
実際の FFT ノイズ・フロアは、図 2 に示すように SNR と処理ゲ
インの和になります。上記条件での FFT ノイズ・フロアは、74
+ 33 = 107 dBFS になります。システムによっては、複数の個別
FFT の結果を平均することがあります。これによって FFT ノイ
ズ・フロアは低下するのではなく、ノイズ成分の振幅の変動が
小さくなるだけです。
0
N = 12 BITS
M = 4096
FS = 245.76MSPS
20
40
74dB = 6.02N + 1.76dB = SNR
BIN SPACING =
FS
4096
dB
60
74dB
80
100
33dB = 10log10 ( M ) = FFT NOISE FLOOR (PER BIN)
2
107dB
120
78dB = 10log10 ( F2 ) = NOISE FLOOR (PER Hz)
2
F2
2
10539-002
140
160
図 2.理想 12 ビット ADC のノイズ・フロア
4096 ポイント FFT を使用
Rev. A
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MT-228
入力アーキテクチャのタイプ
バッファ付きとバッファなしの 2 つのタイプの ADC アーキテク
チャを選択することができます。
バッファなし ADC
スイッチド・キャパシタ ADC (図 3 参照)は、バッファなし ADC
の 1 つのタイプです。バッファなし ADC は通常バッファ付き
ADC より消費電力がかなり小さくなります。これは、外部フロ
ントエンドが ADC の内部サンプル・アンド・ホールド(SHA)回
路に直接接続されるためです。
バッファ付きとバッファなしアーキテクチャの特
性
バッファ付きアーキテクチャの基本特性は、
•
•
•
この方法には 2 つの欠点があります。1 つ目は、入力インピー
ダンスが時間とモードによって変動することです。2 つ目は、
ADC のアナログ入力へ戻されるチャージ・インジェクションに
より、フィルタのセトリング問題が発生することです。
直線性の優れたバッファですが、消費電力が増えます。
固定の入力終端抵抗を与えるだけなので、高インピーダン
ス・バッファとインターフェースする入力回路のデザイン
が容易になります。
バッファがサンプル・コンデンサと入力回路との間のアイ
ソレーションを提供するため、チャージ・インジェクショ
ン過渡応答が小さくなります。
アナログ入力周波数が変化したとき、さらに SHA がサンプル・
モードからホールド・モードへ変化したとき、バッファなし
ADC の入力インピーダンスが変化します。図 4 に示すように、
目標は入力を ADC のサンプル・モードに整合させることです。
バッファなしアーキテクチャの基本特性は、
•
•
•
入力インピーダンスがスイッチド・キャパシタ・デザイン
により設定されます。
低消費電力です。
入力インピーダンスが時間により変動します(サンプル・ク
ロック―トラック・アンド・ホールド)
サンプル・コンデンサからのチャージ・インジェクション
が入力回路へ戻されます。
FLIP-AROUND
SWITCH
INTERNAL
INPUT
CLOCK
AVCC
VIN+
VIN–
INPUT
SWITCH
ESD
ESD
GND
AVCC
VBIAS
SAMPLING
CAP
SAMPLING
SWITCHES
n
INTERNAL
SAMPLE
CLOCK
INPUT
SWITCH
SHA
SAMPLING
CAP
VCMIN
INTERNAL
INPUT
CLOCK
FLIP-AROUND
SWITCH
図 3.スイッチド・キャパシタ ADC
Rev. A
- 4/15 -
10539-003
•
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RPAR (kΩ) TRACK MODE
CPAR (kΩ) TRACK MODE
8
PARALLEL CAPACITANCE (pF)
–1.0
VIN+
ADC INTERNA L
INPUT Z
7
R
6
JX
–2.0
PARALLEL
CONFIGURATION
VIN–
5
–1.5
R || JX
–2.5
4
–3.0
3
–3.5
2
–4.0
1
–4.5
0
–5.0
500
0
50
100
150
200
250
300
350
400
450
ADC は、図 5 に示すような汚い信号をどのようにサンプルして
優れた性能を実現するのでしょうか。図 6 のように ADC 入力を
差動で見ると、入力信号はきれいに見えます。汚れた信号のグ
リッチがなくなります。同相モード除去比は、差動シグナリン
グにもともと備わっています。電源、デジタル的な混入、チャ
ージ・インジェクションのいずれであってもノイズは相殺され
ます。
–0.5
バッファなし ADC のグリッチを見るもう 1 つの方法は、時間領
域でスペクトル・アナライザを使って、アナログ入力へ戻され
るノイズを観測することです。これにより、スイッチド・キャ
パシタ ADC 構造のアナログ入力への影響がわかります。
REF –30dB
SAMP
LOG
10dB
10539-004
PARALLEL RESISTANCE (kΩ)
9
0
FREQUENCY (MHz)
#ATTEN 0dB
VAVG
100
W1
S3
図 4.モードと周波数の関数としての入力インピーダンス
入力インピーダンスの実数部(青線)は、ベースバンド・レンジ
の低い周波数では数 kΩ の範囲で、200 MHz より上では 2 kΩ 以
下へロールオフします。入力インピーダンス(赤線)の虚数部す
なわち容量部分は、非常に高い容量負荷から始まり、高い周波
数で 2 pF へ向かって減少します。このために入力構造のデザイ
ンは、特に 100 MHz 以上の周波数で難しくなります。
S2
FC
AA
START 0Hz
#RES BW 5MHz
#VBW 3MHz
STOP 3GHz
#SWEEP 163.8ms (8192pts)
10539-007
10
MT-228
図 7.入力を整合していない状態でのスペクトル・アナライザに
よるアナログ入力の測定
図 7 に、3 GHz までのスペクトルに混入するクロックの高調波、
ノイズ、その他のスプリアスを示します。
ADC 入力を整合させてクロックの混入を小さくすると、一般に
大部分の高調波を 10 dB 以上小さくすることができます。
3
REF –30dB
SAMP
LOG
10dB
CH1 200mV
CH3 2V
CH2 200mV
M 50ns
A CH2
1.69V
10539-005
1
#ATTEN 0dB
VAVG
100
W1
S3
図 5.代表的なシングルエンド入力の過渡電圧
S2
FC
AA
START 0Hz
#RES BW 5MHz
STOP 3GHz
#SWEEP 163.8ms (8192pts)
図 8.低 Q インダクタまたはフェライト・ビーズを使って入力を
整合させた状態でのスペクトル・アナライザによる入力の測定
M50.0ns
CH3 2V
CH4
CH4 500mV
図 6.代表的な差動入力の過渡電圧
160mV
10539-006
3
Rev. A
#VBW 3MHz
10539-008
4
図 8 では、これを低 Q インダクタまたはフェライト・ビーズを
各アナログ入力に直列に接続することにより実現しています。
これは、必要な場合にアナログ入力へのノイズ量を小さくする
一つの方法です。
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MT-228
別にデザインされているため、ADC の仕様帯域幅全体で入力イ
ンピーダンスが一定になります。
バッファ付き ADC
バッファ付き入力 ADC (図 9 参照)は、入力インピーダンスが固
定であるため使い易くなっています。スイッチング過渡電圧は、
チャージ・インジェクション・スパイクを除去するアイソレー
ション・バッファがあるため大幅に小さくなります。このバッ
ファは、固定入力終端を持つ内部バイポーラ接合トランジス
タ・ステージで構成されています。
折り返し防止フィルタ(AAF)をデザインする際、部品が多すぎ
ると許容誤差不一致が生じて、偶数次歪みが生ずることを念頭
においてください。すべてのインダクタは同じように製造され
ていないため、応答は大きく異なります。安価で低品質のイン
ダクタは通常適切に機能しません。さらに、インダクタのハン
ダ接続が困難なことがあり、歪みが発生する原因になります。
広帯域ノイズが帯域内に折り返されることがあるため、AAF の
阻止帯域領域が平坦に規定されていることを確認してください
(図 10 参照)。
スイッチド・キャパシタ ADC とは異なり、この終端はアナログ
入力周波数により変化しないため駆動回路の選択が簡単になり
ます。バッファ付き入力ステージの欠点は、ADC の消費電力が
増えることですが、優れた直線性と低いノイズを持つように特
INTERNAL
BUFFER
STAGE
AVCC
INPUT
SWITCH
R
GND
R
SAMPLING
CAP
INPUT
SWITCH
AVCC
n
SHA
VCMIN
INTERNAL
INPUT
CLOCK
FLIP-AROUND
SWITCH
10539-009
ESD
SAMPLING
SWITCHES
INTERNAL
SAMPLE
CLOCK
AVCC
VIN–
VCMIN
SAMPLING
CAP
ESD
VIN+
FLIP-AROUND
SWITCH
INTERNAL
INPUT
CLOCK
図 9.バッファ付き入力 ADC
AMPLITUDE
2FS – F1
F1
3FS – F2
F2
IF
DYNAMIC
RANGE
IMAGE
IMAGE
IMAGE
NYQUIST ZONE 1
NYQUIST ZONE 2
NYQUIST ZONE 3
0
0.5FS
40MHz
FS
80MHz
1.5FS
120MHz
図 10.折り返し防止フィルタ
Rev. A
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2FS
160MHz
10539-010
FREQUENCY
NYQUIST ZONE 4
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MT-228
大部分のコンバータは、広いアナログ入力帯域幅を持っていま
す。ダイナミックレンジは、AAF を使用しない場合折り返しに
より劣化します。AAF は、ターゲットの信号帯域幅に等しいか、
少し広くなるようにデザインする必要があります。デザインす
るフィルタの次数とタイプは、必要とされる阻止帯域の除去比
と通過帯域リップルに依存します。AAF は、ADC の帯域幅全体
で十分な阻止帯域除去比を持つ必要があります。
0
図 11 に、AAF デザインでの阻止帯域除去比の重要性を示しま
す。コンバータの帯域幅(赤線)は、サンプルされる周波数帯域
よりかなり広いことに注意してください。このために、ノイズ
とスプリアスがサンプルされる周波数帯域内へ折り返されるこ
とがあります。フィルタ応答が阻止帯域除去領域に近づく薄い
青のカーブとピンクのカーブに注意してください。また、阻止
帯域除去比が一定に維持される濃い緑のカーブまたはオレンジ
のカーブに注意してください。
ADC BW RESPONSE
K AND L
POLE-ZERO
TTE1
TTE2
TTE3
S21 OR INPUT FULL-SCALE (dB)
–20
–40
700MHz BPF
RESPONSE
–60
–80
–100
–140
1
10
100
FREQUENCY (MHz)
1000
10539-011
–120
図 11.ADC 帯域幅応答対 AAF 応答
Rev. A
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MT-228
トランス結合フロントエンド
る帯域幅とインピーダンスの理解に役立ちますが、直線性の測
定についてはシステム自体の中でトランスをテストする以外に
良い方法はありません。
一般に、トランス結合フロントエンドは、大きな損失なしに高
い中間周波数を駆動し、広い帯域幅を持ち、消費電力が少なく、
もともと AC 結合です。複数巻線比のトランスもノイズのない
ゲインを提供します。これに対して、高いインピーダンス/巻数
比を持つトランス結合フロントエンドのデザインは、帯域幅が
狭くなり、振幅が小さくなり、位相不平衡が生じ、ときには通
過帯域のリップルが大きくなるため、困難になることがありま
す。
トランスの基礎
巻数比、電流比、インピーダンス比、信号ゲインは、すべてト
ランスの特性です。
I1
I2
3
1
PRIMARY
V1 (Z1)
2
V2 (Z2) SECONDARY
4
N TURNS
図 12.トランスの基礎
巻数比 n は、2 次側電圧に対する 1 次側電圧の比を決定します。
巻数比
n = N1/N2
インピーダンス比は、巻数比の 2 乗になります。
インピーダンス比
n2 = Z1/Z2
トランスのモデル化
電流比は巻数比に反比例します。
トランスのモデル化は困難なことがあります。トランスには、
電圧ゲインとインピーダンス比、帯域幅と挿入損失、振幅と位
相の不平衡、リターンロスなどの多くの特性があります。トラ
ンスの特性は、周波数の変化とともに変化します。
信号ゲインは、インピーダンス比に関係します。
20 log (V2/V1) = 10 log (Z2/Z1)
電圧ゲイン 3 dB を持つトランスは、1:2 のインピーダンス比を
持つことになります。これは、データ・コンバータが電圧デバ
イスであるためです。電圧ゲインはノイズと無関係です。
ADC アプリケーション用トランスのモデル化の開始点の例を、
図 13 に示します。ただし、各パラメータは選択したトランスに
応じて変わります。さらに、トランスのモデルは周波数に対す
I1
I2
3
1
PRIMARY
2
V1 (Z1)
V2 (Z2) SECONDARY
N TURNS
4
C2
C3
R1
PRIMARY C1
2
R2
L1
L3
RCORE
1:1 Z RATIO
LPRIMARY
LSECONDARY
L2
L4
C4
C5
図 13.トランスのモデル化
- 8/15 -
R3
3
C6 SECONDARY
4
R4
10539-012
1
Rev. A
10539-013
トランスを ADC フロントエンドで使用する場合、例えデータシ
ートで同じに見えてもトランスが同じに製造されることはない
ことを念頭におく必要があります。例えば、1:1 のインピーダン
ス比は、2 次側の終端が 50 Ω であることを意味しません。デー
タシートのリターンロスを使うか、または ENA を使ってリター
ンロスを測定してください。トランスのデータシートの帯域幅
は、一般に半分になります。これは、PCB 抽出技術を使って理
想条件下でトランスを測定しているためです。Z 比 1:1 より大き
いゲインを持つトランスの帯域幅はさらに狭くなり、動作させ
ることは難しくなります。周波数 150 MHz より上では、トラン
スの位相不平衡のため、HD2 が大きくなり始めます。この問題
に対処するときは、トランスを 2 個使用するか、または性能の
良いものを使用してください。
アプリケーション・エンジニアリング
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MT-228
振幅と位相の不平衡
2.0
AMPLITUDE IMBALANCE (dB)
–5
–10
1
10
100
1000
10000
FREQUENCY (MHz)
1.5
1.0
0.5
0
0.1
10
100
1000
10000
16
PHASE IMBALANCE (Degrees)
SINGLE XFMR CONFIGURATION
DOUBLE XFMR CONFIGURATION
–4
RETURN LOSS (dB)
1
図 16.振幅不平衡の周波数特性
0
–8
–12
10
100
1000
10000
12
8
PERFORMANCE DIFFERENCE
AT 100MHz
4
0
0.1
10539-015
1
FREQUENCY (MHz)
1
10
100
1000
FREQUENCY (MHz)
10000
図 17.位相不平衡の周波数特性
図 15.リターンロスの周波数特性
トランスは、単純化するとバンドパス・フィルタと見ることが
できます。この特性を使うと、規定周波数でのトランスの損失
を求めることができます。
挿入損失はデータシートに記載される最も一般的な測定仕様で
すが、単なる考慮事項ではありません。
リターンロスは、2 次側を終端したときに 1 次側から見た実効
インピーダンスです。例えば、1:2 の理想インピーダンス・トラ
ンスの場合、2 次側を 100 Ω で終端したとき 1 次側では 50 Ω の
インピーダンスになると期待しますが、これは常に正しいとは
かぎりません。1 次側からみたインピーダンスは、周波数に依
存します。一般に、インピーダンス比が大きくなると、リター
ンロスの変化も大きくなります。
Rev. A
PERFORMANCE DIFFERENCE
AT 100MHz
FREQUENCY (MHz)
図 14.挿入損失の周波数特性
–16
0.1
SINGLE XFMR CONFIGURATION
DOUBLE XFMR CONFIGURATION
10539-017
–15
0.1
10539-014
INSERTION LOSS (dB)
0
10539-016
トランス性能の理解
振幅不平衡と位相不平衡は、トランスを使用する際の重要な性
能特性です。これらの 2 つの仕様から、デザインで 100 MHz よ
り上の非常に高い IF 周波数が必要な場合に、どの程度の非直線
性が見込まれるかを知ることができます。周波数が高くなると、
トランスの非直線性も大きくなります。位相不平衡が支配的で
あり、これにより偶数次歪みが生じるか、または 2 次高調波が
大きくなります。赤のカーブでシングル・トランス構成を、青
のカーブでダブル・トランス構成を、それぞれ示します。
デザインに対してトランスを選択する最適な方法は、このノー
トブックに記載するすべての仕様を集めることです。データシ
ートに特別に規定していなくとも大部分のメーカーがこのデー
タを提供しています。あるいは、ネットワーク・アナライザを
使ってトランス性能を測定することができます。
- 9/15 -
アプリケーション・エンジニアリング
ノートブック
INPUT
XFMR
1:1 Z
XFMR
1:1 Z
0.1µF
0.1µF
2 個目のトランスを追加することにより、1 次側と 2 次側の間で
結合する寄生容量を平衡化するために 1 個目のトランスのコア
電流が再分配されます。これにより、2 次高調波歪みのように
見える ADC での位相不平衡が小さくなります。
OUTPUT
10539-018
OUTPUT
図 18.トランス 2 個の構成
INPUT
BALUN
1:1 Z
MT-228
ダブル・トランス構成は一般に、入力周波数が 100 MHz より高
い場合に高周波アプリケーションで使用されます。バラン・ト
ランスは一般にさらに広い帯域幅向けであるため、入力周波数
に応じて、ダブル・バラン構成の使用を検討することも考えら
れます。ダブル・トランス構成の使用以外に、性能の良いトラ
ンスを選択することも可能です。
OUTPUT
OUTPUT
10539-019
BALUN
1:1 Z
図 19.バラン 2 個の構成
Rev. A
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アプリケーション・エンジニアリング
ノートブック
MT-228
アクティブ結合フロントエンド回路
•
大部分のアクティブ結合フロントエンド回路では 1 個のアンプ
を使用します。
AC 結合アプリケーションと DC 結合アプリケーションに対して
アンプを選択するときは、次の事項を考慮してください。
•
•
•
•
•
•
電流帰還アンプの場合、データシートを読むことが非常に
重要です。推奨帰還抵抗はデータシートで規定されていま
す。この値がアンプの安定性を決定します。
差動シグナリングの例
同相モード問題、1 VCM までの動作
電源問題 (入力範囲? 出力範囲?)
AC 結合に使えるアンプは限られている
出力に R をシリーズに接続してアンプを安定化(5 Ω~10 Ω)
データシートのレイアウト・ガイドラインに準拠。2 層目
のグラウンドを除去して出力の C を小さくし、発振も防止
する
データシートの推奨出力負荷を使用。この負荷の値は、回
路インピーダンスの積ではなく固定抵抗である場合がある
図 20 の例に、差動シグナリングの全体像を示します。一般的な
疑問は、1.8 V ADC で 2 V p-p 正弦波信号をどのようにサンプル
するかです。この例では、差動シグナリングを使ってこれを実
現する方法を示しています。コンバータのアナログ入力の同相
モード電圧(CMV)の重要性に注意してください。信号を正しく
正確にサンプルするためには、CMV を入力し、かつ堅固である
必要があります。
1.5V
VP
VP
VN
1V p-p
VCM = 1VDC
BALANCED
SIGNAL
0V REFERENCE
VCM
1.0V
1V p-p
VN
0.5V
0
90 180 270 360
DEGREES
1.0V
VDMP
0.5V
2V p-p
VCM
0V
–0.5V
–1.0V
VDMN
図 20.差動モード・シグナリングと同相モード・シグナリングの例
Rev. A
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10539-020
VCM = VP = Vn/2
Vx(t) = Vpk × sin(wt) + VCM
VP(t) = 0.5 × sin(wt) + 1V, VN(t) = –0.5 × sin(wt) +1V
VDM(t) = VP(t) –VN(t)
= –0.5 × sin(wt) + 1V –(–0.5 × sin(wt) + 1V) = 1 × sin(wt)
OR
= 1 × sin(wt) AT 90° = +1V
= 1 × sin(wt) AT 270° = –1V
= 2V p-p
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MT-228
10539-023
10539-021
周波数領域性能と時間領域性能の例
図 21.AD9649 FFT/TD の代表的な性能
図 23. 両アナログ入力の同相モード電圧が高すぎる(+0.9 V 以
上)場合の AD9649 FFT
適切な信号振幅を入力しても、ADC のアナログ入力ピンの同相
モード電圧が高すぎる(0.9 V 以上)と、歪みが発生します。図 23
の SNR 性能および SFDR 性能と、図 21 の基本性能を比較した
ときの差に注目してください。入力信号が申し分ない場合でも、
CMV がある値を超えると、正または負で信号がクリップされま
す。
10539-022
図 21 に、適切な信号を入力したときの周波数領域性能と時間領
域性能の代表的な例を示します。平坦なノイズ・フロアと優れ
た SNR および SFDR 性能に注目してください。
適切な信号振幅を入力しても、ADC のアナログ入力ピンの同相
モード電圧をフローティングすると、歪みが発生します。図 22
と図 21 の SNR 性能と SFDR 性能の差に注目してください。入
力信号を 1 V 信号振幅を中心のフローティングにすると、正ま
たは負でクリッピングが生じます。
Rev. A
10539-024
図 22.バイアスなし/フローティングにした両アナログ入力で
同相モード電圧を入力した AD9649 FFT/TD
図 24.両アナログ入力に一致していない
同相モード電圧を入力した AD9649 FFT
図 24 で、正しい信号振幅を入力しても、ADC のアナログ入力
ピンの両同相モード電圧が一致していない場合(この場合両入力
が 0.9 V 以外)、歪みとオフセットが発生します。SNR 性能およ
び SFDR 性能を図 21 の基本性能と比較したときの差に注目して
ください。この場合、CMV が公称値を上回るか下回るため、正
または負で信号がクリップされます。また、時間領域のプロッ
トで信号が中心になくオフセットされることに注目してくださ
い。
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MT-228
アンチエリアシングフィルタの考慮事項
fA
A
B
fA
fS – fA
KfS – fA
fS
fS
K fS
K fS
2
STOPBAND ATTENUATION = DR
TRANSITION BAND: fA TO KfS – fA
CORNER FREQUENCY: fA
2
STOPBAND ATTENUATION = DR
TRANSITION BAND: fA TO fS – fA
CORNER FREQUENCY: fA
10539-025
DR
図 25.オーバーサンプリングによるベースバンド折り返し防止フィルタ条件の緩和
図 25 に、ベースバンド信号の最大周波数を fa、ダイナミックレ
ンジを DR としたときの、アンチエリアシングフィルタの条件
を示します。これは、注目する帯域幅の外側でフルスケール信
号が発生するようなめったに発生しないことを想定しているた
めワーストケース条件ですが、良い開始点です。
点線領域は、注目帯域幅の外側の信号によりダイナミックレン
ジが制限される領域を表しています。フィルタに対する条件は
非常に厳しく、特に図 25 の(A)に示す Fs が 2fa を大きく超えない
場合に厳しくなります。
一例として、CD オーディオは 44.1 kSPS でサンプルされます。
オーディオの最大帯域幅は 20 kHz です。この場合、fs – fa = 24.1
kHz になります。
Rev. A
例えば、20 kHz ~24.1 kHz の遷移帯域内で阻止帯域減衰量 60
dB の実現は、特にオーディオのようにリニア位相が要求される
場合には、ほとんど不可能です。
このため、多くのシステムでは、図 25 (B)に示すオーバーサン
プリングを採用して、アナログアンチエリアシングフィルタの
条件を緩和させています。シグマ・デルタ・コンバータは、オ
ーバーサンプリングの良い例です。DAC 出力はいわゆる"アン
チエリアシング"フィルタによりフィルタされます。このフィル
タは、ADC のフロントエンドのアンチエリアシングフィルタと
同じ目的を持つものです。
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0
FULL SCALE (FS)
SFDR (dBc)
考慮事項
80MSPS
70.1MHz AT –1dBFS
SNR = 72.5dB (73.5dBFS)
SFDR = 85dBc/86dBFS
–20
SFDR (dBF S)
MT-228
アンプ駆動フロントエンドの重要な特性は次の通りです。
•
•
–40
ALIASED:
fS – fin = 80 –70.1 = 9.9MHz
–60
•
SECOND HARMONIC
–80
THIRD HARMONIC
WORST
SPUR
–100
–120
•
•
•
•
信号の DC 成分を維持できる
前のステージと ADC との間のアイソレーション(約 40 dB
~60 dB のオーダー)を提供する
ゲインが必要な場合にも簡単に動作し、ゲイン帯域幅に依
存しない
信号と一緒に増幅される固有のノイズがある
通過帯域のリップルが小さい
シングルエンド信号を差動信号に変換できる
一般に帯域幅はトランスより狭いが、時間とともに広くな
る
–140
0
10
20
30
40
受動 (トランスまたはバラン)またはアクティブ(アンプ)のいずれ
の ADC フロントエンド・アナログ入力を使用するかを判断する
際に考慮すべき重要ポイントは次の通りです。
FREQUENCY (MHz)
図 26.AD9644 14 ビット 80 MSPS ADC SFDR
70.1 MHz 入力
アンプ駆動入力の場合
図 26 に、AD9644 により 80 MSPS でサンプルした 70.1 MHz 信
号を示します。FFT スペクトルで 70.1 MHz の信号が、折り返し
のために実際には 80 – 70.1 = 9.9 MHz に現れていることに注目
してください。この場合、SFDR は約 85 dBc すなわち 86 dBFS
です。dBc はキャリア信号を基準とした測定値で、dBFS はフル
スケールのキャリア信号(0 dBFS)を基準とした測定値です。
AMPLITUDE
NYQUIST ZONE 1
(BASEBAND)
0
FS
fA IMAGE
•
•
•
•
トランス駆動入力の場合
•
•
•
•
FREQUENCY
0.5FS
NYQUIST
ZONE 2
NYQUIST
ZONE 3
fA
2FS
1.5FS
10539-027
NYQUIST
ZONE 4
ų図 27.Fs でサンプルしたアナログ信号 fa をアンダーサンプル
Ƣると、|±KFs ±fa|、K = 1, 2, 3, …にイメージが発生
図 27 では、IF 信号がベースバンドに折り返される様子を示すた
めにナイキスト・ゾーンを示してあります。IF 信号は最初のナ
イキスト・ゾーンの上にある任意のナイキスト・ゾーン内にあ
るものと見なします。ここで、最初のナイキスト・ゾーンすな
わち Fs/2 をベースバンドと見なします。
Rev. A
AC 結合または DC 結合
優れたアイソレーションを提供
ゲイン設定をリモートから制御できる
ADC 性能が制限される、すなわち SNR が低下する
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AC 結合のみ
アイソレーションが良くない
固定ゲイン
ADC 性能が制限されない、すなわち SNR が低下しない
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MT-228
役に立つデータ・コンバータの式
全高調波歪み(THD)
ノイズ・フロア(−dB) = 6.02 × n + 1.76 + 10 × log (N/2)
コヒーレント・サンプリングとウインドイングなしの場合 (表 1
参照)。
ノイズ・フロア(−dB) = 6.02 ×n + 10 × log (3 × N/(p × ENBW))
非コヒーレント・サンプリングとウインドイングなしの場合。
THD (−dB) = 20 × log (sqrt((10(−2ND HAR/20))2 + (10(−3RD
HAR/20))2 +… (10(−6TH HAR/20))2 )
理論信号対ノイズ比(SNR)
RMS 信号 = (FSR/2)/sqrt(2)
表 1.
FFT Points
1024
2048
4096
8192
16384
32768
SNR (dB)
RMS ノイズ = Qn = q/sqrt(12)
12-Bit
101
104
107
110
113
116
74.0
14-Bit
113
116
119
122
125
128
86.0
16-Bit
125
128
131
134
137
140
98.1
SNR (dB) = rms 信号/rms ノイズ = 20 × log(2(n-1) × sqrt(6))
= 6.02 × n + 1.76
定義/用語
Fs = サンプリング・レート(Hz)
Fin = 入力信号周波数(Hz)
FSR = フルスケール・レンジ(V)
n = ビット数
実効ビット数(ENOB)
ENOB (BITS) = (SINAD – 1.76 + 20 × (FSR/ActualFSR))/6.02
信号対ノイズ比と歪み(SINAD)
SINAD (dB) = -20 × log (sqrt(10(−SNR W/O DIST/10) +
10(THD/10)))
Rev. A
q = LSB サイズ
Qn = 量子化ノイズ
LSB = 最下位ビット= FSR/2n
N = FFT ポイント数
ENBW =ウインドウ関数の等価ノイズ帯域幅 (例えば Four-term
Blackman-Harris window、ENBW = 2)
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