「大手町タワー」 - 日本ビルヂング経営センター

162 新年
ISHIZUE
No.
http://www.bmi.or.jp
特集/オフィス + ホテル +「大手町の森」
“都市を再生しながら自然を再生する”
「大 手町タワー」
東京建物株式会社 都市開発事業部事業開発グループ 課長代理 坂田
俊介
2015 New Year
年 頭 の ご 挨 拶
ビル経営の人材育成・
知識普及機関として更なる充実を
一般財団法人 日本ビルヂング経営センター 理事長 藤田
真
新年明けましておめでとうございます。
及機関として、ビル経営管理士制度の運用、ビル経営
「デフレからの脱却」を目指す財政・金融政策により、
管理講座、各種セミナーの開催、情報提供などを実施
ビル市況も空室率の低下が顕在化し、賃料への波及が
しております。特にビル経営管理士等の一層のご活躍
進みつつあります。今年は新内閣による経済政策の実
をサポートするためメンバー専用サイトの創設、
効により、
「経済の好循環」の実現による安定した不
WEBでの動画配信サイトの創設等IT環境の充実に
動産市場の形成が進むことが期待されます。更にオリ
取り組んでおります。
ンピック開催に向けて快適なオフィス空間の提供のみ
本年においてもセンター機能を拡充、セミナー等事
ならず、安全・安心、省エネ・地球環境問題等都市の
業の一層の充実を図りビル事業関係者の方々に有益な
国際間競争に向けて、ビル事業者に求められる課題は
情報の提供に努めて参りますので、宜しくお願い申し
多く、これらに対応したビル経営に携わる知識・人材
上げます。
が求められております。
最後に皆様方のますますの御発展と御繁栄を心から
当センターでは、ビル業界唯一の人材育成・知識普
祈念し、年頭のご挨拶といたします。
新年賀詞交歓会を開催
(一財)日本ビルヂング経営センター
辞、畑中誠評議員会議長の乾杯の音頭
山口那津男公明党代表もかけつけ、祝
は、1月8日(木)にホテルオークラ
に続いて、盛大な宴が催された。また、 辞を述べられた。
において、
(一社)日本ビルヂング協
会連合会、
(一社)東京ビルヂング協会、
(一社)全日本駐車協会、
(一社)東京
駐車協会、
(公財)日本建築衛生管理
教育センターと共催で、平成27年新年
賀詞交歓会を開催した。
髙木茂日本ビルヂング協会連合会会
長の挨拶、太田昭宏国土交通大臣の祝
挨拶する髙木茂会長
平成26年度ビル経営管理士試験を実施
全国6都市で668名が受験
平成26年度「ビル経営管理士試験」
の「不動産関連特定投資運用業」の人
が昨年12月14日に全国6都市で実施
的要件として位置づけられたことや、
された。受験申込者は735名、受験者
ビル経営管理士に対する認識の高まり
は668名で、受験者は前年比98名増で
によって、平成19年度より受験者は高
あった。
水準を維持している。
ビル経営管理士が、金融商品取引法
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I S H I ZU E
New Year 2015
太田国土交通大臣
畑中評議員会議長
ISHIZUE NEWS
第16回 新春特別ビル経営セミナーを実施
1月23日(金)に全社協・灘尾ホールにて、
「都市再生とビル経営」をテーマ
に第16回新春特別ビル経営セミナーが開催された。内容は下記の通り。
1.経済講演
3.市場分析
「アベノミクスの行方」
「好調続くオフィスビル市場の最新動向と
さらなる発展への課題」
2.政策動向
みずほ証券株式会社 経営調査部 上級研究員 石澤卓志 氏
早稲田大学政治経済学術院教授 原田 泰 氏
「都市再生をめぐる最近の動き」
内閣官房地域活性化統合事務局 次長 伊藤明子 氏
セミナー開催報告
〈名古屋ビル経営研究セミナー〉
「ビル賃貸借における法律実務」
10月9日(木)に名古屋市商工会議所会議室で、64 名の参加を得て、名古屋ビル経営研究セミ
ナーが開催された。テーマは「ビル賃貸借における法律実務」
。赤坂シティ法律事務所の町田裕
紀弁護士を講師に迎え、賃料減額請求及び定期建物賃貸借に関する法律問題について解説頂いた。
〈第2回、第3回CBAセミナー〉
「トラブル未然回避のための賃貸借契約のポイントを学ぶ」
10月15日(水)及び 29日(水)の両日、コンファレンススクエアエムプラスで、55 名の参加を得
て、第2回及び第3回CBAセミナーが開催された。テーマは「トラブル未然回避のための賃貸借契
約のポイントを学ぶ」
。赤坂シティ法律事務所の町田裕紀弁護士を講師に迎え、オフィスビル標準
賃貸借契約書の逐条解説及びトラブル未然回避のための賃貸借契約のポイントについて解説頂いた。
〈第4回CBAセミナー〉
「成熟期の都市のビル事業と都市・建築の規制誘導の動き」
11月28日(金)にコンファレンススクエアエムプラスで、45 名の参加を得て、第4回 CBAセ
ミナーが開催された。東京芸術大学の河村茂氏を講師に迎え、成熟期の都市のビル事業と都市・
建築の規制誘導の動きについてお話を伺った。
〈西日本ビル経営研究セミナー〉
「ビル賃貸借における法律実務」
12 月5日(金)に全日大阪会館会議室で、85 名の参加を得て、西日本ビル経営研究セミナー
が開催された。テーマは「ビル賃貸借における法律実務」
。赤坂シティ法律事務所の町田裕紀弁
護士を講師に迎え、賃料減額請求及び定期建物賃貸借に関する法律問題について解説頂いた。
information
平成27年度 ビル経営管理講座・ビル経営管理士試験の予定
4月1日∼5月31日
ビル経営管理講座申込受付
10 月1日∼ 31日 ビル経営管理士試験受付期間
6月1日∼9月30日
ビル経営管理講座受講期間
12月13日(日)
ビル経営管理士試験
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オフィス + ホテル + 「大手町の森」
“都市を再生しながら自然を再生する”
「大手町タワー」
「大手町タワー」
は、
みずほ銀行大手町本部ビル及び大手町フィナンシャルセンター
の跡地約1.1haを一体開発する複合再開発プロジェクトとして、
2007年に都市再生特
別地区の都市計画決定、
2009年に着工、
2013年8月に一次竣工を経て、
2014年4月に
全体竣工を迎えました。
計画地は地下鉄5路線に囲まれ、
地下で東西線大手町駅と直結、
地上は丸の内から
続く仲通りが大手町・神田エリアへ延伸する起点に位置するなど、
再開発が急速に進行
する大手町エリアにおいても、
地上・地下の歩行者ネットワークの核となる立地です。
高さ約200m、
延床面積約200,000㎡の
「大手町タワー」
は、
地上にみずほフィナンシャ
ルグループが入居するオフィス及び世界的なホテルブランドAmanresortsが運営する
最高級ラグジュアリーホテル
「AMAN, TOKYO」
、
地下には大規模な吹き抜けの公共
空間
「プラザ」
を中心に、
クリニック・店舗で構成する
「OOTEMORI
(オーテモリ)
」
を有
し、
外構には本プロジェクトの開発コンセプトである
「都市を再生しながら自然を再生す
る」
を具現化する約3,600㎡の
「大手町の森」
を整備しました。
東京建物株式会社 都市開発事業部事業開発グループ 課長代理
1
坂田 俊介
西南から見た建物全景
立地特性と開発手法・コンセプト
【1 】立地特性 《 地 上 と 地 下 の 歩 行 者 ネ ッ ト ワ ー ク の 中 心 》
大手町・丸の内・有楽町地区(以下
計画地は地上と地下の歩行者ネット
「大丸有地区」
)は日本を代表するビジ
ワーク上枢要な場所となっています。
ネス街として長い歴史を有しています。
グローバル化が進む国際経済の熾烈な
都市間競争にあって、この大丸有地区
も街づくりガイドラインに沿って魅力
ある都市空間への再編が日々進捗して
います。約1.1haの計画地は大手町エ
リアの東京駅・丸の内エリアからの玄
関口であり、地域の賑わいの軸線であ
る「仲通り」の大手町・神田方面への
延伸の起点に位置しています。
また、地下では地下鉄5路線6駅に
囲まれ、乗り換え等により1日約5.5
万人が地下通路を行き交います。機能
更新の進む大手町エリアにおいても、
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周辺マップ
中央の最も高いビルが大手町タワー
大手町タワー概要
所
在 千代田区大手町一丁目5番5号
建物概要
建 築 面 積 5,795.89m2
用 途 地 域 商業地域
延 べ 面 積 198,467.44m2
開 発 手 法 都市再生特別地区
建 ぺ い 率 52.50%
敷 地 面 積 11,037.84m2
容
許容容積率 1,600%
構
造 地下 S造一部SRC造
地下 S造(柱:CFT)
階
数 地上38階
塔屋3階
地下6階
設
計 大成建設㈱一級建築士事務所
施
工 大成建設㈱東京支店
工 事 監 理 ㈱日本設計
工
期 2009年11月 新築工事着工
2013年 8月 建物一次竣工
2014年 4月 全体竣工
積
率 1,586.70%
絶 対 高 さ 199.70m
用
大手町の森(内部)
途 事務所、ホテル、商業、駐車場
【2】 開発手法・コ ン セ プ ト
「都市を 再 生 し な が ら 自 然 を 再 生 す る 」
《 3 つ の 地 域 貢 献 テ ー マ の 象 徴 と して 「 大 手 町 の 森 」》
2004年より検討を開始した本プロ
市再生特別地区においては3つの地域
ジェクトは、立地特性を踏まえ、大手
貢献テーマ「環境に配慮したまちづく
町エリアの拠点として都市の競争力向
り」
「地上と地下の歩行者ネットワー
上に貢献し、都市機能の更新や都市環
クの形成」
「国際交流拠点の構築(国
境の改善といった役割を担うべく、都
際級ホテルの整備)
」を掲げ、その象
コンセプトを「都市を再生しながら自
市再生特別地区の適用を受けた複合再
徴に約3,600㎡の「大手町の森」の整
然を再生する」とし、活力と癒しに満
開発プロジェクトです。
備を据えました。
ちた先導的な都市の姿をつくることを
2009年に都市計画決定を受けた都
また、同時に本プロジェクトの開発
目指しました。
ン「OOTEMORI(オーテモリ)
」を
がスケールの圧迫感を低減しています。
配しており、外構の「大手町の森」が
南東角部分の象徴的なガラスカーテン
性質の異なる地上と地下それぞれに風
ウォールを中心とした低層部分、内部
格・安らぎ・ゆとりを与えながら繋ぐ
の計画と連動したリズムあるデザイン
断面・用途構成となっています。
となっています。
【1】断面計画、用途構成
【2】外装計画
【3】耐震/環境性能
高さ約200mのタワー地上部には、
日本の中心的ビジネス拠点に位置す
地下の大規模な吹き抜けの公共空間
みずほフィナンシャルグループ・みず
る超高層ビルに相応しいデザインとし
「プラザ」の実現、オフィス・ホテル
ほ銀行の新ビジネス拠点となる最先端
て、大手町らしい風格ある正統的な表
と用途からくる構造的要請に対し、超
オフィス、機械室フロアを挟んだ最上
情と、最新機能を有するビルとしての
高強度CFT※1 柱の採用、4階と32階
部には国際交流拠点として世界を魅了
先進的な表情の両面を併せ持つファ
の架構切替階の設定、屋上の制振装置
する最高級ラグジュアリーホテル
サードを目指しました。
及び粘性系・履歴系ダンパーの併用等
Amanresortsに よ る「AMAN, TO-
大手町タワーの外観は、森の樹木を
により、高い耐震性能を実現し建物の
KYO」があります。
抽象的に表現し、石と見間違う風合い
長寿命化を支えています。また、各種
また、地下には地下と思えないほど
のあるアルミキャストの縦フィンと、
高効率機器の採用等による省エネ技術
自然光あふれる公共空間「プラザ」を
均質で透明なカーテンウォールによっ
の導入によりオフィスでPAL※2 値
中心に、ゆとりある連絡通路沿いなど
て構成され、建物を見る角度・季節・
25%以 上 削 減、 建 物 全 体 でERR※3
に特に女性にとって親しみやすい店舗
時間帯・天候により印象が大きく変わ
35%以上を確保するなど、優れた環境
で構成された地下1、2階の商業ゾー
り、ランダムに入った大きなスリット
性能も実現しています。
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建築概要
大手町の森(水景)
。正面奥は「ザ・カフェ by ア
マン」
※1 CFT:鋼材とコンクリートを組み合わせた複合構造の一種であり、鉄筋や型枠の組立てを必要としないシンプルな構成が特徴で、強度、剛性、変形性能などの面でも優れている。
※2 PAL:建物の断熱・遮熱性能を単位面積当たりの熱負荷で示す指標。PALが小さい(PAL 低減率が大きい)ほど「建物の断熱性能が高い」と評価できる。
※3 ERR:設備の省エネ効率を、基準値からの低減率で示す東京都の独自指標。ERRが大きいほど「設備の省エネ性能が高い」と評価できる。空調、換気、照明、給湯、エレベーター
の5つの設備を対象として、仮想値と、採用した設備機器の値を比較し、低減率を導き出す。
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低層断面図
サポートします。
【5】ホテル概要
全体断面図
最上階6層に日本初進出となる
Amanresortsによる「AMAN, TOKYO」
がオープンします。専用エレベーター
でロビーフロアに上がると、ビル内と
は思えないほどの圧倒的な吹き抜け空
間に迎えられ、眺望を存分に生かした
ゆとりある客室、すべての利用者を癒
しサポートするパブリックスペースな
地下・プラザ通路側
外観・南東角部分
ど、都会の喧騒を離れた上質な異空間
を実感させてくれます。
「大手町の森」
た省エネルギー性能と快適な執務空間
の一角には「ザ・カフェ byアマン」
を提供しています。また、ビル用・テ
も誕生し、質の高いサービスが大手町
森を見渡す1階オフィスエントラン
ナント用にそれぞれに72時間相当分
において世界中のビジネスエグゼク
スから、オフィスロビーを脇に見て直
の大規模なオイルタンクを有し、大規
ティブを引き付ける力となり、国際交
通エスカレーターで3階に上がると、
模災害時のテナントのBCPプランを
【4】オフィス概要
「大手町の森」を見下ろすことができま
す。この3階が4バンク31台のオフィ
ス用エレベーターの出発階となってお
り、31階までオフィスフロアで構成さ
れています。奥行き約20m、OAフロ
ア100mm、天井高2,900mmを有する
1フロア3,000㎡超の大規模でフレキシ
ブルなオフィス空間がトップレベルの
ビジネスシーンをサポートしています。
皇居を眺める窓際には、自然な風合
いを見せるアルミキャストの縦フィン
が過度の日射を遮り、熱負荷を低減す
るLow-Eペアガラスとブラインドを
介したセミエアフローシステムが優れ
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3階と基準階平面図
窓際断面図
ホテルロビー
ホテル客室内
流拠点としての機能を遺憾なく発揮し
き抜けの公共空間「プラザ」を中心と
を込めて命名されました。生活文化の
ます。
した地下部分には、地下であることを
発信拠点として、大手町の新たな魅力
忘れるほどに自然光が降り注ぎ、地下
に寄与していきたいと考えています。
1階まで引き込まれた「大手町の森」
また、地下「プラザ」は災害時の防
をも感じることができます。この豊か
災拠点としての機能も想定されており、
【6】地下空間・
「OOTEMORI」概要
建替え前の計画地地下東側には、幅
な地下空間には、レストランやカフェ、 帰宅困難者の受け入れスペースとして
員4m・天井高2.5mの通路が東京メ
グロサリーストアやコスメ、雑貨、さ
の活用を検討しているほか、災害時の
トロ丸ノ内線と東西線の乗り換え通路
らにクリニックや薬局といった各種の
トリアージュスペース※4 の提供や
として利用されていましたが、都内随
店舗が配置され、
「OOTEMORI」を
ヘッドクォータースペース※5の提供
一の地下鉄ネットワークの拠点であり
構成しています。
も想定しています。通常時は天候や
ながら、その空間は通行量に対して決
「OOTEMORI」は、
「大手町の森」
ニュース・店舗情報をリアルタイムに
して十分とは言えませんでした。
の緑と光にやすらぎながら、文化・ビ
伝える8面マルチディスプレイは、災
大手町タワーでは地下歩行者ネット
ジネス・交通・自然などの盛りだくさ
害時は来館者に各種の情報を発信する
ワークの改善として、地下2階の東側
んの価値と出逢ってほしいという願い
防災ディスプレイとして機能します。
地下2階・東京メトロ東西線コンコース
地下・プラザ森側
に8m、西側に6mのゆとりある通路
をそれぞれ整備し、敷地中央部分に整
備した3層吹き抜けの公共空間「プラ
ザ」が東西の通路を繋いでいます。合
せて、敷地外貢献事業として、敷地南
側の東西線コンコース部分を大幅に拡
幅し、混雑の緩和と共にバリアフリー
化も実現しています。
地下2階から1階まで3層に渡る吹
OOTEMORI
※4:災害時において、患者の多数発生時に対応するスペースで、患者の重篤度に応じ治療の優先度や処理の方法について診断を行う場所。
※5:司令部、本部、本社。
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【3】プレフォレスト
大手町の森
「大手町の森」は深さ0.8 ∼ 2.0mほ
どの土壌を有する緑地空間ですが、地
下は敷地いっぱいに「OOTEMORI」
が展開されている、いわば屋上緑化で
【1】コンセプト
建替え以前の計画地は、丸の内仲通
りの正面に2棟の高層建物が建ち並び、
す。自然の森としての構成も然ること
オフィスワーカーの憩いの場となった大手町の森
壁面後退による空地は確保されていた
ながら、これだけ大規模の屋上緑化を
計画することは前例がなく、森として
のデザイン上の課題、維持管理上の課
ものの、視覚的にも抜けが少なく、ビ
する最大の原動力となりました。
題、施工上の課題など様々な課題を事
ジネス街然としたドライな空間であっ
通常の開発における植栽は、生育状
前に解決しておく必要がありました。
たこともあり、有楽町・丸の内から続
況が良く樹形も整った樹木を選定する
そこで実施した取り組みが、
「プレフォ
く仲通りの歩行者の流れは永代通りで
ことが当然のことですが、自然の森で
レスト」です。
分断されていました。
は樹木間の生存競争があり、競争に
プレフォレストとは、
「大手町の森」
大手町タワーでは、丸の内から大手
勝って枝ぶり・葉ぶり良く成長してい
の一部を計画地での施工の3年前に当
町、大手町から神田地区へ賑わいを延
く樹木、競争に負けて陽光を求めて幹
たる2010年から別の場所(千葉県君
伸していく起点として、約3,600㎡の
をくねらせて成長する樹木、木漏れ日
津市にある内山緑地建設株式会社の圃
「大手町の森」を整備し、ドライなビ
を拾って成長する樹木など様々であり、 場を借用)で様々な検証を行うという
ジネス街に緑のキャノピーを創出し、 「大手町の森」はそれを再現すること
ものです。地形や人工地盤、土壌など
賑わいの軸としての歩行者ネットワー
を目指し、あえて多様な姿の樹木を選
の条件を計画地と同等に再現し、森の
クを強化していくことを目指しました。 定しています。なお、郷土性に配慮し
育成や管理手法等を3年間かけて確
さらに、
「森」というには決して十
た自然の森として、潜在的な植生に配
認・検証していきました。
分ではない約3,600㎡のスペースの中
慮した樹種の選定を行い、18種類約
結果として、このプレフォレストは
で、いかに質の高い効果をもたらすか
200本の高木はすべて関東近郊で調達
自然の森の実現において必要不可欠な
という観点から、皇居の緑地との連動
しています。
取り組みとなりました。例えば、200
も視野に入れ、
緑・生態系のネットワー
季節によって花を咲かせる地被類・
本もの高木を通常の方法で管理してい
クの起点として位置付けることを構想
低木も、森を構成する重要な要素です。 たら、コスト上も大きな負担となりま
し、
「大手町の森」を日本人のアイデ
自然の森では、樹木としての寿命を迎
すが、集約された自然の森であればこ
ンティティに訴えかけるような郷土性
えて倒木があった場合などに生まれる
そ、1本1本の樹木の樹形を整える必
を有した自然の森として設えることに
スポット的な空間に豊かな地被類が育
要はありません。
しました。
ちますが、
「大手町の森」では、その
集約された緑地としての景観と地被
スポット的な空間(ギャップと呼ぶ)
類・中低木のためのギャップを適切か
を計画的な配置にしています。緑地を
つ効率的に維持していけば良く、人が
約3,600㎡の限られた緑地をいかに
集約することで実現した地盤面のアン
近くを歩かないからこそ下枝の剪定が
効果的に設えるか、大きな分岐点は歩
ジュレーションが多様な土壌環境を作
不要になるなど、合理化できる部分も
行空間の構成でした。計画当初、森を
り出し、約100種類に及ぶ地被類・中
多々ありました。また、潅水方法につ
構想した段階では、森の中の散策路を
低木の生育を促しています。森の端部
いてもチューブによる自動潅水を完備
自由に歩行者が行き交う姿を想定して
は強風を遮り、夜間照明の機能も持た
しなくても、スプリンクラーによる面
いました。しかし、様々な緑地を検証
せたガラススクリーンを設置すること
的な潅水を中心とし、さらには土壌の
し、大手町に持ち込むべき自然の森の
で、森の内部環境を安定させることも
保水力を生かすことで潅水量自体をコ
イメージを精査していく中で、歩行空
意図しています。
ントロールするなど、大幅に効率化す
間を仲通り延伸部分に寄せ、思い切っ
また、緑地の集約は、ヒートアイラ
ることができることも分かりました。
て緑地空間を集約して歩行空間と切り
ンド現象の緩和や土壌の保水効果によ
このように、実際の森で実証実験を
離す計画に辿り着きました。これは
る都市型水害の抑制といった、森の効
行うことで「大手町の森」の計画は精
思った以上に斬新な判断でありました
用を強化することにも繋がっています。 査され、2013年にプレフォレストで
が、この緑地の集約が自然の森を実現
植えられた樹木・地被類・土壌が計画
【2】計画概要
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地へ移植され、プレフォレストの一連
の取り組みが完結しました。
【4】生 物多様性への寄与/
モニタリング調査
大手町の森の大きな意義のひとつで
ある都心における生態ネットワークの
強化について、その成果を検証すると
ともに維持管理へのフィードバックを
行うため、竣工直後からモニタリング
調査を行っています。
現時点では、まだ検証するデータが
十分とは言えませんが、鳥類ではヒヨ
ドリ、シジュウカラ、カワラヒワ、メ
ジロ、キジバト等の飛来が確認されて
おり、昆虫類ではオオアオイトトンボ、
プレフォレスト概念図
アキアカネ、ウラギンシジミ、スジグ
ロチョウ等が確認できています。植物
プレフォレストの検証項目
検証項目
については、季節の変化を感じられる
よう歩行者通路の近くに配したニリン
ソウ、カタクリ、ヤマブキソウなどの
春植物も開花が見られ、来訪者の目を
持続的な維持管理の
方針策定
楽しませてくれています。
都心では希少な草花や地被類が、環
境への適応を一定程度見せてくれたこ
人工地盤上における
育成方法の検証
とは、プレフォレストでは検証しきれ
なかった部分の検証として大きな成果
計画内容の再検証
検証の具体的内容
ギャップの維持
ギャップ空間(日の当たる空間)を維持し続ける方策
林層構成の維持
異なる樹木の組み合わせに適した剪定の方法/頻度の方針
除草
自然の森の景観を維持できる除草頻度の方針
落ち葉の処理
周囲への飛来、火災の防止を加味した落ち葉処理方針
灌水(水やり)
人工地盤上での移植樹木に対する適切な灌水の方針
維持管理コスト
上記項目を踏まえた維持管理コストコントロールの手法
植栽基盤の適正
針葉樹に実績のある発根促進剤の広葉樹への適用性
強風に対する支柱強度
地下式支柱による強風への耐性への検証
老木・巨木の根回し
プレフォレスト以外から移植する樹木の根回し・移植方法
エッジの処理方法
長期にわたる歩行空間と緑地空間のエッジの処理方法
遷移のコントロール
高木のユニットに対する長期的な遷移計画の妥当性検証
がありました。
また、当初植栽したもの以外の植物
プレフォレストを受けて決定した主な管理手法
も多く確認されていますが、外来種や
潅水
基本的に雨水のみとするが、夏季(7〜9月)の間に7日間以上の無降雨が続いた場合に、目
視により潅水の要否を判断する
景観を乱す種、計画種を駆逐する恐れ
除草
週1回の点検時に行うこととし、大規模な除草は無し。
外来種、景観を損なう恐れのある種、侵略性の高い種を除去。
下草刈り
冬季(12月頃)に一斉に実施
夏季(8月盆まで)は必要な種のみピンポイントで実施。
高木剪定
障害木、枯損木は早めに剪定。
ギャップなど場所に応じて樹冠を整える剪定を実施。
施肥
冬季(1〜2月)に緩効性有機肥料を散布。
落ち葉の状況を観察し、徐々に使用量を削減する。
病害虫防除
発生時に対処療法で実施。
通路部分と緑地内で使用程度を変える。
落ち葉
1年目はスプリンクラーと人的管理により落ち葉の堆積の安定化を図る。
のある種については、地域性に配慮し
た自然植生の形成を目指す観点から除
草をするというプレフォレストを踏ま
えて策定した方針に従い、新たな種を
確認する度に除草の要否を判断し、管
理に反映しています。
4
おわりに
を中心に通路に沿って設置されたベン
手町の森」がビジネスシーンに新たな
チで多くの人々が疲れを癒す姿が見受
アメニティを提供し、将来に亘って地
けられるなど、
ビジネスパーソンにとっ
域の宝物になるものと確信しています。
ての憩いのスポットとなっています。
今後も、自然の森がもたらす都市的
大手町タワーと共に生まれた「大手
プレフォレストでは検証し得なかった
な課題に対して引き続き真摯に向かい
町の森」は、1次竣工(供用開始)か
都心の緑地ならではの課題への対処に
合い、克服していくことで地域の発展
らまだ日が浅いものの、ランチタイム
追われる一方、自然の森としての「大
に寄与していきたいと考えております。
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9
連載
ビル管理業務の内容精査と
コストの最適化方策
信田 直昭
プロパティ ・ マネジャー(以下「 P M r」
)の仕事は、いうまでもなく、賃貸不動産の現場における「賃貸
(テナ
ント)管理」
、
「ビル管理(維持管理 ・ 保守)
」
、
「リノベーション(修繕 ・ 改修工事)
」などの専門業務を統括管理
して、テナント満足度と不動産純収益の向上を両立させていくことである。
前回の本連載第1回では、そのような観点から、P M r が担うべきビル管理「統括業務」の主眼が“ビル管理
業務の精査 ・ 効率化とコスト最適化”にあることを、P M r の仕事の本質を再確認する過程から明らかにした。
本連載では今後7回に亘って、
「設備」
、
「警備」
、
「清掃」
、
「廃棄物処理」などの多様で複雑な専門業務群で
構成されるビル管理業務を、テナント満足度向上とコスト削減 ・ 最適化の観点から統括管理して、その費用
対効果を最大限に引き出すための基本知識と方法論を具体的にみていくことにする。
第2回
ビル管理業務の基本構成と
コスト最適化の留意点
ビル管理への関心高揚の背景
ビル管理業務の基本構成
1990年代初頭まで続いたバブル経済の渦中においては、
図表 -1 は、不動産経営管理の出納・会計業務における
日本の不動産業界は、マンションやオフィスビルなどの維
「営業支出」からみたビル管理業務の枠組みと基本的な構
持管理・保守業務(以下「ビル管理業務」)に対してはもと
成項目を整理したものである。ビル管理業務やそのコスト
より、その実施に際して必要となる諸経費(以下「ビル管
水準への関心が高まりつつあった90年代後半の不動産業
理コスト」)への関心があまり強くはなかった。この背景
界は、バブル崩壊に伴う未曾有の不動産デフレの渦中に
には、当時の高度経済成長を追い風とした「開発・建設」最
あったため、急落・半減する賃料収入の衝撃をビル管理コ
優先の機運が指摘できるが、このような時代の終焉と同時
ストの大幅削減によって緩和しようとする動きが活発化し
に、ビル管理業務やそのコスト水準への関心が急速に高
た。そのため、ビル管理コストは“安ければ安いほど良い”
まってきた。
とする誤った風潮が一部に広がるとともに、ビル管理コス
バブル経済崩壊後の不動産業界では、戦後約45年続い
トの積算・見積り作業おいて、本来計上すべき費用項目が
た経済成長を後ろ盾とする“勘と度胸の事業推進モデル”
欠落した計算結果に対して、当該コストの“ 安い・高い”
に代わって、不動産投資ファンドや収益還元法など、欧米
を議論するような場面に遭遇する機会が急増していった。
流の投資手法が急速に普及していった。バブル崩壊に伴う
通常のビル管理業務は、
「主要設備の運転・監視」
、
「事
「不動産価格の暴落」
、
「賃料水準の半減」に加えて、不動
件事故・火災等の予防」
、
「建物内外の清掃衛生」
、
「廃棄物
産純収益を算出根拠とする「収益還元法の普及」を背景と
の適正処理」
、
「駐車場運営の円滑運営」などの日常的な業
、とりわ
務に加えて、週次・月次で実施される設備機器の定期点検・
けその代表格であるビル管理コストへの関心が一気に高
保守業務などが中心となる。このため、例えば、電気、消
まったといえるだろう。
防、給排水など、ビルの基幹設備に対する年1回∼数年周
して、賃貸不動産の事業収支における経常費
注 -1
期で実施するような法定点検・保守などの費用を、経常費
注 -1
10
本稿では毎年経常的に支出される費用を指している。数年周期で実施する法定点検などの費用に関しても、法制度等で定められた定
期業務については、数年毎の支出金額を年額換算し、年間ベースのビル管理コストとして計上する。ビル管理効率化・コスト最適化
の議論は、この年間コストを前提に議論すべきであろう。
I SH I ZU E
New Year 2015
ビル管理業務の内容精査と
コストの最適化方策
Profile
Shidaインベストメント&マネジメント 代表
信田 直昭 Naoaki Shida
としてのビル管理コストではなく、不定期に実施される修
繕改修工事費に区分するケースが少なからず存在していた。
1984 年東京工業大学大学院社会開発工学専攻修了、森ビル(株)などを経て、
2008 年信田商事(株)不動産経営管理部門担当取締役及び Shidaインベスト
メント&マネジメント代表に就任。現在、
(公財)日本建築衛生管理教育センター
教授、明治大学専門職大学院グローバル・ビジネス研究科兼任講師を兼務。
図表 -1 「営業支出」からみたビル管理業務の枠組み・基本構成項目
大分類名
中分類名
小分類名
このようなケースでは、当然、ビル管理コストの積算・見
統括管理
業務費 積り結果は割安に算出される。しかし、本来計上すべき費
用項目が欠落した積算・見積り結果を前提として、ビル管
定期清掃業務費
環境衛生
業務費 示したビル管理業務の枠組み・基本構成項目は、そのよう
( )
な不毛で非効率な議論を回避するためのガイドラインであ
清掃衛生
管理業務費
り、ビル管理コストの積算・見積りに際した「計上費用
設備日常運転
監視業務 2000年以降の不動産業界では、バブル崩壊に伴う不動
本稿における
ビル管理コスト
対象範囲
産デフレ緩和策の一環として、
「ビル管理コスト削減ブー
ム」が巻き起こった。その渦中において、我々の仕事仲間
植栽管理業務費
常駐設備員業務費
巡回点検業務費
その他設備日常運転監視業務
給排水設備保守点検業務費
設備定期保守
点検業務費 消防設備保守点検業務費
昇降機設備保守点検業務費
自動扉保守点検業務費
中央監視装置点検業務費
営業支出
機械式駐車場保守点検業務費
その他設備保守点検費
その業務仕様書や積算・見積書に接する機会を得た。
常駐警備員業務費
またその過程では、各物件のビル管理担当者から、現場
警備業務費
機械警備システム業務費
建築物検査・
報告業務費 法定検査・報告業務費
その他警備業務費
での切実な悩みや疑問が寄せられる一方で、それまで彼ら
が慣れ親しんできたビル管理現場に、第三者の我々が介入
駐車場運営
業務費 することへの違和感・反発・クレームなどに関しても見聞
きする機会に恵まれた。
備品・ 消耗品費
ビル管理業務は、言うまでもなく建物の竣工から運用・
解体までの長期に亘って反復継続する業務であり、その原
その他 保守管理費
則は、ビル管理業務の再検討・見直し機運が定着した現状
においても変わらない。しかしながら、2000年頃のビル
その他検査・報告業務費
駐車場運営業務費
備品・消耗品費
(購入)
備品・消耗品費(リース・レンタル)
その他備品・消耗品費
管理組合管理費
修理・補修費
その他保守管理費
電気料金
水道料金
水道光熱費
水道光熱費
ガス料金
地域熱供給料金
討が未着手であるケースが大半を占めていた。誤解を恐れ
本連載は今後7回に亘って、我々が把握するビル管理効
昆虫等の防除業務費
空調設備保守点検業務費
おいて、その現場を構成する多様な専門業務の実施状況と
といえる。
環境測定業務費
電気設備保守点検費
保守管理費
ランドを支える「業務改善運動」とは無縁な状況にあった
その他清掃業務費
その他環境衛生業務費
コスト最適化の目安水準
ずにいえば、当時のビル管理現場は、日本製造業の世界ブ
水槽清掃業務費
塵芥処理業務費
チェックリスト」の役割を有しているといえる。
ル管理業務の実施状況に対する検証や業務推進体制の再検
電話料金
その他統括管理業務費
上の楼閣であり、不毛な議論に陥ってしまう。 図表 -1 に
管理現場の多くは、例えば築30年の物件であっても、ビ
事務管理費
日常清掃業務費
理業務の効率化やコスト最適化方策を議論してもそれは砂
や業務推進チームは、約1,500棟の様々なビル管理現場に
請求摘要名(例)
運営管理業務費
その他水道光熱費
年度計画修繕費
修繕費
修繕費
必要発生時修繕費
その他修繕費
(出所:
「不動産経営管理業務 出納・会計項目一覧及び解説 2004.9」
(一社)
日本ビルヂング協会連合会 (一社)
東京ビルヂング協会)
率化・コスト最適化の知見・経験を中心に展開する。
はそのキックオフとして、多少フライング気味で
を除く月額坪単価:有効・賃貸面積ベース 注 - 2 )
」をビル規
はあるが、
「ビル管理コスト最適化の目安水準(元請経費
模別に整理したものである。この目安水準は、我々が把握
図表 -2
No.162
IS H IZ U E
11
するビル管理コスト最適化の知見を下敷きとして、図表 -1
い業務の特定・改善過程(以下「ビル管理業務の精査・効率
の基本構成項目に沿って整理したものである。
化」を経て到達すべきコスト最適化水準であることに留意
これによれば、ビル管理コスト最適化の目安水準(合計
する必要がある。仮に、この一覧表に掲載した数値をビル
月額坪単価:有効・賃貸面積ベース)は、
「物件Ⅰ(延床3
管理業者などに提示して契約締結を迫る類の行為をおこ
千㎡)
:@1,005円/坪」
、
「物件N(延床2万㎡)
:@1,308
なったとすれば、それはビル管理業務の品質低下に直結す
円/坪」
、
「物件Y(延床32.8万㎡)
:@1,399円/坪」
、
「物
る最も誤った活用法となる。
件S(延床50万㎡)
:@1,310円/坪」となっており、
「物
ビル管理業務の精査・効率化に関する各論は、今後の連
件Ⅰ」を除き、概ね@1,300円/坪程度に収まっていること
載で深めていく。 図表 -3 はそのための作業ステップを整
がわかる。
理したものである。
一般に、ビル規模が拡大すると多様な設備機器や保守点
このステップで最も重要かつ困難を伴う作業は、対象物
検作業などが増加するため、ビル管理コストは増大するの
件のビル管理業務が内在する諸問題を、現場作業の実態と
ではないか、といった先入観をしばしば耳にするが、結論
業務委託契約書の内容とを整合させつつ明らかにすること
的には、ビル規模の拡大に伴うスケールメリットを主因と
である。この作業は、主として「ステップ①∼③」で把握
して、月額単価ベースでみたビル管理コストは概ね同水準
されるが、長期・反復継続の業務特性を有するビル管理業
に収まってくる。
務においては、現場作業の内容・頻度やそのコスト(支払
ちなみに、
「物件Ⅰ」の合計単価が割安なのは、ビル規
金額)が、手元に保管されている契約書や見積書の内容と
模が小さく設備・警備の常駐員が不要なためであり、
「物
大きく異なるケースが少なくない。この原因は様々である
件Y」の合計単価が割高なのは、
「特殊設備」として、自家
が、その多くは、業務の発注者であるオーナー側のビル管
発電とその際に発生する排熱を冷暖房等に再利用する「コ
理に対する無関心が主因であり、そのようなケースでは、
ジェネレーション設備(Cogeneration System)
」の定期
全ての業務が委託業者に丸投げされている場合が大半を占
保守コスト(月額@95円/坪)か追加・計上されているた
めていた。
めである。
このような物件において、 図表 -3 の精査・効率化ステッ
プを実行する際には、ビル管理を構成する各専門業務の内
容・頻度やその支払金額に関して、委託業者毎に、現場作
精査・効率化ステップとコスト最適化の留意点
業の実態と整合した業務委託契約書(委託作業の内容・頻
度・工程が記載された業務仕様書・見積書)を再取得する
本連載の主な関心事である「ビル管理コスト最適化の目
ことから、このステップをスタートさせなければならない。
安水準」を
このような過程を経て得られた業務委託契約の最新内容
図表 -2 に示した。しかし本来これらの数値は、
ビル管理業務の現状把握と、それに基づく費用対効果が低
と、
「ステップ①∼③」で浮かび上がったビル管理現場の
図表-2 ビル管理コスト最適化の目安水準(オフィス用途 ・ 元請経費含まず。「有効 / 賃貸面積ベース」の月額 ・ 坪単価)
(出所:筆者作成)
延床面積
(㎡)
有効 /賃貸面積
(坪)
1
設備日常運転監視業務費(常駐 / 巡回設備員等)
2-1
設備定期保守点検業務費
2-2
「特殊設備」定期保守点検費
3
警備業務費(常駐 / 巡回警備員・機械警備費等)
4
駐車場運営業務費
5
環境衛生業務費(共用部清掃・ゴミ処理等)
6
その他保守管理費(植栽管理費)
〈 合計 〉
物件:Ⅰ
物件:N
物件:Y
物件:S
3,000㎡
20,000㎡
328,000㎡
500,000㎡
650 坪
4,400 坪
70,000 坪
106,000 坪
47 円 / 坪
416 円 / 坪
180 円 / 坪
175 円 / 坪
469 円 / 坪
359 円 / 坪
459 円 / 坪
348 円 / 坪
─
101 円 / 坪
─
39 円 / 坪
95 円 / 坪
248 円 / 坪
─
375 円 / 坪
0円/坪
0円/坪
66 円 / 坪
70 円 / 坪
373 円 / 坪
485 円 / 坪
317 円 / 坪
333 円 / 坪
16 円 / 坪
10 円 / 坪
34 円 / 坪
9円/坪
1,005 円 / 坪
1,308 円 / 坪
1,399 円 / 坪
1,310 円 / 坪
※ 合計の数字は四捨五入の関係で表中の数字合計と合致しない場合もあります。
注- 2
一般に、建物は「共用部」と「専用・専有部」に区分され、賃貸ビルの場合、通常「専用・専有部」が賃貸借契約の対象となる。賃貸ビ
ルの「専用・専有部」には、自社使用部分が混在する場合があるが、賃貸可能最大面積という観点から、
「専用・専有部」
を「有効・賃
貸面積」と称する場合がある。通常のオフィスビルなどの「有効・賃貸面積」は延床面積の 7 割前後に収まっている。 図表 -2 に示した
各数値は、各構成項目の月額コストを、延床面積の約 7 割を占める「有効・賃貸面積(坪)
」で除した月額坪単価である。
12
I SH I ZU E
New Year 2015
ビル管理業務の内容精査と
コストの最適化方策
全体像・諸問題を踏まえて、
「ステップ④」では、各専門業
図表 -3 ビル管理業務の精査 ・ 効率化とコスト最適化ステップ
務を担当する「現場責任者の業務遂行能力」と、これらの
①ビル管理業務の「現行契約内容・推進体制」確認
専門作業群を統括管理してテナント満足度の向上に繋げる
⬇
「ビル管理統括者の業務統括能力」などを、
「ビル管理現場
②「業務委託状況(現場担当業者)
」把握
⬇
の査察(インスペクション:品質検査)
」と、過去に発生し
③ビル管理業務の「現状評価」及び「契約内容と現場との差異」抽出
た「事件事故・クレームの収集・分析」などを基礎として把
⬇
握していく。
④「業者統括業務の評価」及び「現場担当業者の能力」把握
⬇
ただし、
「ステップ①∼④」の実施は、ビル管理業務が
⑤ 現行契約の「作業内容・発注単価」精査
長期・反復継続の業務特性を有するため、過去の意思決定
⬇
経緯などを詳細に把握する担当者が退職していることが多
⑥「現行ビル管理仕様」に基づく適正相場に基づくコスト算出
⬇
く、難航する場合が少なくない。しかし、このような精査
⑦「効率的ビル管理仕様」に基づく最適なコスト算出及び新体制構築
ステップの地道な実施を基礎とした現場実態の詳細把握と
問題点の包括的な抽出は、ビル管理業務の効率化・コスト
最適化の「要」となる。このような定量的・定性的両面から
の問題把握が包括的に完了できれば、ビル管理業務の精査
・効率化とコスト最適化に向けた主要作業は概ね完了した
といっても過言ではない。
コスト最適化水準の活用方法
「ステップ①∼④」は、ビル管理現場の実態把握と問題
点の包括的な抽出をおこなうための作業だが、
「ステップ
⑤」は、現行のビル管理業務が内在する問題をコスト面か
図表 -4 「現行コスト水準」と「ビル管理現場の諸問題」の
照合・突合せ作業(例示)
①「設備日常運転監視業務費」
●
が割高である場合
▶
設備常駐員の勤務シフトや担当作業に余裕や待機時間が過剰に存在し
ている。
▶
設備員人件費単価が相場水準に対して高額である。
▶
隔運転・監視システムの導入が未着手・不十分のため人的対応業務
遠
が過剰である。
②「設備定期保守点検業務費」
●
が割高である場合
▶
空調機・昇降機・消防設備・機械式パーキング等の保守業者が無検討・
惰性的にメ―カー系業者に偏っている。
▶
防保全の費用対効果が判断し難い個別空調等の高度制御系設備に
予
対する従来型の定期保守業務が無検討・惰性的に発注されている。
③「警備業務費」
●
が割高である場合
▶
高業務・低廉業務の特定)と、
「ステップ①∼④」で把握さ
警備常駐員の勤務シフトや担当作業に余裕や待機時間が過剰に存在し
ている。
▶
警備員人件費単価が相場水準に対して高額である。
れた諸問題を照合・突き合わせることにより、ビル管理業
▶
機械警備システムの導入が未着手・不十分のため人的対応業務が過剰
である。
ら絞り込む作業である。このコスト面からの問題抽出(割
務の効率化と品質向上の双方を織り込んだコスト最適化方
策が浮かび上がってくる。
ちなみに、
「ステップ⑤」の具体的な作業としては、現
場実態と整合させた業務委託契約書(業務仕様書・見積書)
④「駐車場運営業務費」
●
が割高である場合
▶
駐車場管理員の勤務シフトや担当作業に余裕や待機時間が過剰に存在
している。
▶
業務の機械化・システム化が未着手・不十分のため人的対応業務が過
剰である。
を使って、月額ベースの業務委託コストの数値を、 図表 -1
⑤ -1
●
「環境衛生業務費」
が低廉すぎる場合
の基本構成項目に沿って整理・仕訳することにより、
▶ トイレ・給湯室などの
「水周り部位」
の清掃クオリティが低下している。
図表 -2 に示した項目別の目安水準とのコスト比較が可能
な一覧表を作成する。そして、このコスト比較で特定され
▶
給
排気口やトイレ個室扉側面などの
「立面部位」
に汚染が蓄積している。
▶
テ
ナント出勤時間帯に玄関ホールやトイレ等の日常清掃が完了してい
ない。
た「割高」もしくは「低廉」な業務分野と、
「ステップ①∼
⑤ -2
●
「環境衛生業務費」
が割高であるが清掃クオリティが低い場合
④」で把握された諸問題とを照合・突合せすることにより、
▶
発注者側の清掃クオリティに関する査察・改善指示が不十分である。
▶
業者側の清掃担当責任者の業務遂行・指揮命令能力に問題がある。
ビル管理業務の効率化・コスト最適化方策の輪郭がみえて
くるのである。
参考として、 図表-4 には、対象物件における「現行コス
業によるビル管理業務の精査結果を基礎として、対象物件
トの比較結果」と、
「ステップ①∼④」で浮かび上がる「ビ
の「ビル管理業務の効率化・コスト最適化方策」を検討・策
ル管理現場の典型的な問題点」との照合・突合せ作業(以
定していくことになる。
下「ビル管理業務の精査」)のイメージを例示した。
次回からは、ビル管理業務の効率化・コスト最適化に向
図表-4 は全くの例示ではあるが、このような「現行コス
けた主な視点・論点に関して、ビル管理を構成する専門業
トの水準」と「ビル管理現場の諸問題」との照合・突合せ作
務毎にみていくことにする。
No.162
IS H IZ U E
13
Vol.
19
渡 辺 晋 の ビルマネジメントゼミナール
信頼関係不破壊の法理と家賃保証会社による代位弁済
及び契約解除の法的手続きを学ぶ
賃料不払による契約解除
賃料支払は賃借人の義務であるが、賃貸人は、賃料が支払われなくても、契約が存続する限り賃借人に建物を使
用させなければならない。しかし賃料が支払われないのに使用させる義務だけ存続するのは不合理であり、賃料不払
を理由として賃貸借契約を解除するという方途によって、契約関係を解消させることができる。
ところが賃料不払による契約解除は、さまざまな問題を伴う。まずどの程度の不払いがあれば解除できるかの問題
がある。多少の遅れや僅かな金額の不払いが解除事由とならないのは当然にしても、どれだけの不払いがあれば契約
を解除できるのかにつき明確な基準がなく、実務担当者は迷わざるをえない。
また近年では、家賃保証会社を利用する賃貸事業の方式が普及してきた。家賃保証会社が保証をしているときは、
賃借人から賃料が支払われなければ、家賃保証会社が賃貸人に賃料(ないしは賃料に相当する金額)を支払う。ここ
で家賃保証会社の支払いによって債務不履行の状態がなくなると考えるならば、家賃保証会社の支払いがなされる限
り、
賃借人が賃料を支払わなくても契約解除はできないということにもなってしまう。
この結論はいかにも不当である。
さらに実務上、契約解除をしても賃借人が任意に明渡しを行わないときには、裁判所を利用して強制的に明渡しを
実現する手続きを踏む必要があるが、強制的な明渡しを求める手続きは法的な専門性が高く、一般的には理解が容易
ではない。この点も検討を要するところである。
本稿では、賃料不払による契約解除に関し、以上の3つの問題について論ずることとする。
1
いの程度・金額、不払いに至った事情、契約締結時の事情、
賃料不払の期間
(賃料の不払額が何か月分の賃料に相当するか)
過去の賃料支払状況等、催告の有無・内容等を総合的に斟
酌して判断される。
1 信頼関係不破壊の法理
賃借人が債務を履行しないときには、相当の期間を定め
て催告し、その期間内に債務の履行がなされなければ、契
約を解除することができる(民法541条) 注1
2 不払いの期間毎の検討
(1)1か月分の不払い
。しかし賃
通常賃料不払が1か月分にとどまる場合には信頼関係は
貸借は、賃貸人・賃借人間の信頼関係を基礎とする継続的
未だ破壊されていないとされ、解除は有効とならない。1.5
な債権債務関係である。そのため賃借人に債務不履行が
か月分(東京地裁平成21年8月31日判決)
、
1.3か月分(東
あっても、信頼関係が破壊されていない場合には、賃貸借
京地裁平成24年9月28日判決)の不払いについて、いず
契約の解除は認められない。この考え方を信頼関係不破壊
れも解除が否定されている。
の法理(あるいは背信行為論)という。賃料不払にも、信
ただ契約解除ができるかどうかは不払額や不払期間だけ
頼関係不破壊の法理が適用される(最高裁昭和39年7月
で決まるものではないから、不払いが1か月分だったとし
28日判決)
。
ても、その他の事情からみて、解除が肯定される場合もあ
賃料不払に関して信頼関係が破壊されたか否かは、不払
る。最高裁も1か月分賃料不払無催告解除の特約について、
『契約を解除するに当たり催告をしなくてもあながち不合
注1:民法上解除のためには、原則として催告をしたうえで、催告の
通知とは別に改めて解除の通知をすることを要するが、賃料不払
による解除の場合、催告と同時に「期間内に支払いのないときは、
本書をもって賃貸借契約を解除いたします」というように、条件
をつけて契約解除の意思表示をすることが認められている(停止
条件付契約解除)
。賃料不払に対する停止条件付契約解除は、実
務で頻繁に用いられている。
14
I SH I ZU E
New Year 2015
理とは認められないような事情が存する場合には、無催告
で解除権を行使することが許される旨を定めた約定である
と解するのが相当である。
』として、催告をしなくとも不
合理ではないという事情を付加した上で、1か月分の不払
いによる無催告解除が有効となると判断している(最高裁
Profile
山下・渡辺法律事務所 弁護士
渡辺 晋 Susumu Watanabe
昭和 55 年 3月一橋大学卒業。同年 4月に三菱地所㈱入社。平成元年 11月
司法試験合格。平成 2 年 3月三菱地所㈱退社。平成 4 年 4月弁護士登録
(第
一東京弁護士会)
。平成 14 年 4月山下・渡辺法律事務所開設。平成 22 年
4月~ 25 年3月最高裁判所司法研修所民事弁護教官。 現在、司法試験考
査委員および国土交通大学校講師。
昭和43年11月21日判決)
。
(2)2か月分の不払い
可能性は極めて低い。2か月分の不払いによる解除の効力
が否定されたが、3か月分の不払いによる解除の効力は肯
不払いが2か月分になっていれば、多くの場合に解除の
定されたケースとして、東京地裁平成21年7月30日判決
効力が肯定されている(最高裁昭和36年2月24日判決)
。
がある。
2か月分不払いでの解除が肯定された最近の事例として、
もっとも3か月分以上の不払いがあっても、契約解除が
東京地裁平成23年4月28日判決、東京地裁平成24月8月
否定された例もみられる。東京地裁昭和54年12月14日判
10日判決、東京地裁平成22年11月26日判決がある。
決は、3か月分の賃料不払であったが賃借人が銀行預金を
ただし2か月分の賃料が不払いであるだけでは、解除事
引き出すために使用する印鑑を紛失したことから賃料が不
由としては不十分とされる場合もある。東京地裁平成22
払いになっており、賃料等を支払う意思及び能力を十分有
年3月18日判決では、
『未払賃料が2か月分に過ぎなかっ
していたことも明らかであるから、賃料を支払わなかった
たことなどからすると、やはり本件解除による本件賃貸借
ことについて未だ背信行為と認めるに足りない特段の事情
契約の解除を認めることはできない。
』
、東京地判平成24
があるとされた。
年10月3日判決では、2か月分賃料不払および敷金一部
(500万円のうち200万円)不払いについて、
『開業のため
に少なくとも1,000万円を超える金額を支出しているほか、
2
家賃保証会社による支払い
従業員を新規雇用もし、平成24年春以降その営業が軌道
1 問題の所在
に乗りつつあるところ、本件賃貸借契約を解除して本件建
家賃保証会社は、賃借人が賃料を支払わない場合、賃借
物を明け渡すこととなれば、ようやく軌道に乗ってきた新
人の支払うべき賃料を保証し、賃貸人に金銭を支払う。賃
店舗の営業を放棄することになり、初期費用の回収もまま
借人が何か月も賃料を支払わなくても、その間家賃保証会
ならなくなることが予想され、本件建物の原状回復費用も
社が賃料を保証するので、賃貸人に経済的な損失はない。
相当額を要することとなって、Yが受ける損害は相当大き
そのために、家賃保証会社の支払いがなされているとき
いものとなると解される。
』と述べられ、いずれにおいて
には、賃貸借における賃料不払がない、したがって賃借人
も解除が否定されている。
の賃料不払があっても契約解除はできない、という判決が
賃料不払による解除の可否については、解除時点の不払
下されることもある。しかしこの結論は社会常識に反し、
賃料の多寡以外の要因も考慮されるのであり、2か月分の
到底承服することはできない。
不払いについては単に不払額だけではなく、従前の支払状
この点については、下級審判決において、賃借人が賃料
況を含めた不払額以外の事情が考慮されたうえで解除の可
を支払っていない以上は賃貸人と賃借人の信頼関係が破壊
否が判断されると考えておくべきである。東京地裁平成
されているのであり、契約解除が認められるとの判断がな
19年8月31日判決では、
『賃借人の基本的な義務である賃
されたものもみられる(東京地裁平成22年8月6日判決、
料等の支払について2か月程度の遅滞が恒常的に生じてい
東京地裁平成23年1月25日判決)
。加えて最近、家賃保
たのであれば、それは、解除原因となり得る債務不履行に
証会社の支払いは賃料の支払いではないとして、契約解除
当たることは明らかであり、その態様は、X・Y間の信頼
を肯定する高裁判決が公表された(大阪高裁平成25年11
関係を破壊するものといわざるを得ない。
』としたうえで、
月22日判決)
。この高裁判決は、最高裁への上告が棄却な
解除を肯定した。
いし却下となって、確定している。
(3)3か月分以上の不払い
不払いが3か月分以上となれば、普通であれば解除は肯
2 大阪高裁平成 25 年 11 月 22 日判決
定される。実際上3か月分以上の賃料が支払われないケー
(1)事案の概要
スでは、ほとんどの場合に賃借人の財務状況が悪化してお
(ⅰ)賃貸人X1と賃借人Yは、平成23年12月15日、月
り、その後契約を継続させたとしても不払いが解消される
額の賃料7万1,000円、共益費5,000円として、本件建物
No.162
IS H IZ U E
15
について本件賃貸借契約を締結した。
(ⅱ)Yは、家賃保証会社X2との間で、本件賃貸借契約に
額内で賃貸人にこれを支払うこととするものであり、これ
により、賃貸人にとっては安定確実な賃料収受を可能とし、
基づきYが負う債務について、平成23年12月25日、X
賃借人にとっても容易に賃借が可能になるという利益をも
2に次の①ないし③の約定で保証することを委託する契約
たらすものであると考えられる。しかし、賃貸借保証委託
(保証委託契約)を締結した。
契約に基づく保証会社の支払は代位弁済であって、賃借人
① 保証する範囲:賃料、共益費、管理費、水道光熱費等
による賃料の支払いではないから、賃貸借契約の債務不履
② 代位弁済:Yが本件賃貸借契約に基づく金銭債務の
行の有無を判断するに当たり、保証会社による代位弁済の
履行を遅延したときは、X2は、Yに対して通知
事実を考慮することは相当でない。なぜなら、保証会社の
することなく、その全部または一部を代位弁済
保証はあくまでも保証委託契約に基づく保証の履行であっ
することができる。
て、これにより、賃借人の賃料の不払いという事実に消長
③ 保証事務費用等:Yは、X2が代位弁済を行ったと
を来すものではなく、ひいてはこれによる賃貸借契約の解
きは、直ちに代位弁済金を支払い、このほかに、
除原因事実の発生という事態を妨げるものではないことは
代位弁済1回につき1,000円の保証事務手数料を
明らかである。よって、Yの上記主張は理由がない。
』
支払わねばならない。
X2は、X1との間で、平成23年12月25日、本件賃貸借
契約に基づくYの債務について保証する契約を結んだ。
3
(ⅲ)Yは、本件賃貸借契約に基づく賃料等につき、平成
1 概要
契約解除の後の法的手続き
24年2月分から滞納を始め、平成24年4月分から同年8
契約解除の手続きが適法に行われ、賃貸借契約が終了し
月分までを支払わなかった。Yが賃料を支払わなかった賃
ても賃借人が任意の明渡しをしないときは、法的手続に
料については、X2がX1に対して、保証委託契約に基づ
よって明渡しを強制する方法を採らざるを得ない。法的手
く代位弁済を行っていた。
続きには、①占有移転禁止の仮処分、②債務名義の取得、
X1は、Yに対し、平成24年4月21日に、滞納賃料等
③明渡しの強制執行、という3つの段階がある。
の支払いを催告し、支払いがない場合は本件賃貸借契約を
解除する旨通告する普通郵便を送付した。
2 占有移転禁止の仮処分
(ⅳ)X1は平成24年4月21日の通知の通知によって、契
権利は、最終的には、訴訟で判決を得たうえで実現され
約を解除したとして、Yに対し建物の明渡しを求める訴え
る。しかし訴訟を行うとなると、訴え提起から判決の確定
を提起した。
までに数多くの手続を要し、時間もかかる。そのため事実
Yは、X2がX1に対して代位弁済を行っているから賃料
の状態を判決まで放置しておくと、後に判決が出ても権利
不払いはなく、契約解除は無効であると反論した。
を実行することができなくなるおそれがあったり、権利者
(ⅴ)原審はYの反論を認めず、X1の請求を肯定した(神
が著しい損害を被ることになりかねない。そこで判決を待
戸地裁尼崎支部平成25年5月29日判決)
。Yはこれに対
たずに一定の状態を仮に確定し保持しておく必要があり、
して控訴したが、控訴審の大阪高裁も地裁の判断を維持し
そのための仕組みが保全処分である。
解除の効力を肯定した。
建物賃貸借においても、賃借人が任意の明渡しをしない
(2)裁判所の判断
場合には、賃貸人は明渡訴訟をすることになるが、訴訟終
『Yは、平成24年4月分∼平成25年1月分の賃料等に
了までに貸室が別の第三者に占有されてしまうと賃借人を
ついては、X2がこれを代位弁済しているから、Yに賃料
相手方とする明渡訴訟は効を奏さず、新たに占有者に対し
等の不払いはないと主張する。そして、X2は、X1に対し、
て別の訴訟を提起し直さなければならなくなる。このよう
平成24年2月∼平成25年6月まで、毎月の賃料等7万
な事態が生じないように準備されている保全処分が占有移
8,000円に相当する金額を代位弁済していることが認めら
転禁止の仮処分である。
れる。
占有移転禁止の仮処分が執行されると、当事者の占有関
本件保証委託契約のような賃貸借保証委託契約は、保証
係が固定され(この効力を当事者恒定という)
、仮処分の
会社が賃借人の賃貸人に対する賃料支払債務を保証し、賃
後に第三者に占有が移転しても、仮処分執行時点の占有者
借人が賃料の支払いを怠った場合に、保証会社が保証限度
に対して強制執行をすることが可能になる。訴訟中に貸室
16
I SH I ZU E
New Year 2015
渡 辺 晋 の ビルマネジメントゼミナール
の占有者が変わっても訴訟を起こし直す必要がなくなり、
ける和解調書も債務名義となる
注3
。
安心して賃借人ないし当初の占有者に対して訴訟をなし、
判決を得て強制執行をするという段取りをとれるようにな
4 明渡しの強制執行
るわけである。
明渡しの強制執行は、執行官が債務者(賃借人)の目的
物に対する占有を解いて債権者にその占有を取得させる方
3 債務名義
法により行う(民執法168条1項)
。
強制執行を行うには、根拠となる文書を必要とする。強
明渡しの強制執行に際しては、債権者(賃貸人)または
制執行の根拠となる文書を債務名義といい、民事執行法に
その代理人が執行の場所に出頭しなければならない(同法
債務名義となる具体的な文書名が列挙されている(同法
168条2項)
。強制執行に際し、執行官は建物に立ち入る
22条)
。建物明渡で通常利用される債務名義には、①確定
ことができるし、必要があれば、閉鎖した戸を開くために
判決(同条1号)
、
②仮執行の宣言を付した判決(同条2号)
、
鍵を開けるなどの必要な処分をすることもできる(同法
③和解調書(同条7号、
民事訴訟法267条)
、
④調停調書(民
168条4項)
。債務者(賃借人)の占有を排除するためには、
事執行法22条7号、民事調停法16条)である
債務者(賃借人)や同居の家族、使用人らを立ち退かせ、
注2
。
①確定判決
抵抗を受けるときは実力を用い、あるいは警察上の援助を
確定とは、判決が覆ることがない状態をいう。判決が
求めることもできる(同法6条1項)
。さらに執行官は貸
言い渡されても控訴されれば控訴審(民事訴訟法281条)
室の従物である畳・建具等はそのまま債権者に引き渡すが、
が終わるまで確定せず、控訴されなくても判決書の送
それ以外の動産は取り除いて、債務者(賃借人)
、その代
達から2週間は確定しない(同法285条1項)
。
理人または同居の親族もしくは使用人その他の従業員で相
②仮執行の宣言を付した判決
当のわきまえのある者に引き渡さなければならない。これ
仮執行の宣言とは、確定せずとも強制執行を行うこと
らの者に引き渡すことができないときは、執行官がこれを
を裁判所が認めることをいう(同法259条)
。かつては
保管する(同法168条6項)
。また引渡しができないときは、
裁判所が慎重を期して仮執行宣言がつくことは多くな
執行官は動産執行の売却の手続により売却することができ
かったが、現在は『請求を認容する判決については、裁
ることにもなっている(同法168条5項)
。
判所は、職権で、担保を立てて、又は立てないで仮執
行をすることができることを宣言しなければならな
い。
』との定めに基づいて(同法376条)
、通常、訴訟で
4
まとめ
建物明渡が認められる場合には仮執行宣言が付されて
賃借人との友好的な関係が維持されていれば特段賃料不
おり、判決が確定せずとも強制執行をすることが可能
払に対する対処を検討する必要もないが、ビルマネジメン
であるケースが多くなっている。
トの実務に携わる以上、賃料が支払われないというのは日
③和解調書・④調停調書
常的な事象であり、避けてとおることはできない。契約解
訴訟上の和解が成立したときには和解調書が作成され、
除の意義や解除後の取扱いに関する問題は、特に問題が生
民事調停で調停が成立したときには、調停調書が作成
じていないときから十分に理解をしておくべきテーマであ
される。和解調書、調停調書には確定判決と同様の効
る。
力が認められるから(民事訴訟法267条、民事調停法
16条)
、これらも債務名義となる。
ところで債務名義として、比較的簡便な手続きによっ
て利用することができるものとして、
「訴え提起前の和
解」がある。これは、訴え提起の前に当事者双方が簡
易裁判所に出頭してなす、裁判上の和解である(民訴
法275条1項)
。通常1回の期日で直ちに和解が成立す
るところから、即決和解とも呼ばれている。期日に和
解が成立すると、和解内容を裁判書記官が調書に記載
する。即決和解も裁判上の和解なので、即決和解にお
注2:一般的に金銭債権については、強制執行受諾文言の付された公
正証書が債務名義として利用されることが多いが、公正証書は金
銭債権等「一定の数量の給付を目的とする請求」を目的とする債
権についてだけ債務名義として認められるのであって(民事執行
法 22 条5号)
、建物明渡の強制執行の場合には、公正証書を債務
名義として利用することはできない。
注3:もっとも訴え提起の前とはいえ、裁判上の和解であるので、当
事者双方が期日に簡易裁判所に出頭しなければ成立しない。また
出席しても合意に至らなかった場合には、訴え提起前の和解(即
決和解)の手続は終了する。このとき当事者双方が訴訟で争うこ
とを申し立てた場合には、訴え提起前の和解(即決和解)の申立
ての時点で訴えを提起したものとみなされ、訴訟手続に移行する
(民訴法 275 条2項)
。
No.162
IS H IZ U E
17
新春
展望
番外編
2015 年は
新たな飛躍のための重要な1年
《 2014年の回顧と2015年の課題・展望 》
株式会社不動産経済研究所 日刊不動産経済通信 編集長
田村 修
2014 年のオフィスビル業界は、長く続いた市況の低迷から脱却し、回復基調が明らかになった1年だった。空
室率の低下が進み、それに伴う賃料の底打ち、Aクラスビルを中心とした賃料の反転・上昇が顕著になった。
市況を牽引したのは都心部の大規模な再開発プロジェクト。一方で周辺の中小ビルの空室は改善されず、斑模
様のまま稼働状況の悪化は続いている。明暗を分けながら2015 年のオフィス市場も進みそうだ。
景気全体をみると、昨年はアベノミクス第三の矢である成長戦略が具体的な力強さを欠いたことに加え、消費
税増税による消費低迷などによって足踏み状態が続いた。今年はアベノミクスの正念場と言われており、日本
経済全体およびビル事業にとっても回復の動きをしっかり定着させ、新たな飛躍につなげていくための重要な1
年になることは間違いないだろう。
不動産投資額はさらに
拡大、中でもオフィスの
増加が顕著
の割合である。前年に比べてオフィス
トラストが取得した東京・目黒区のオ
の割合が大幅に増えた。JLLによると、 フィスやホテルなどからなる複合施設
2013年の不動産投資の用途別割合は
「目黒雅叙園」の取引額は1,300億円
オフィスが38%、商業施設が28%、
程度とみられている。シンガポール政
昨年の不動産業界は、消費税増税の
物流施設が19%、住宅が10%、ホテ
府系投資ファンドのGICは東京・千
影響や建築費の高騰などで実需向けの
ルが5%だったが、2014年はオフィス
代田区の超高層複合ビル「パシフィッ
分譲マンション事業が前年より低迷し
の割合が58%と約6割まで増加し、商
クセンチュリープレイス丸の内 」
たものの、国内外の旺盛な投資資金が
業施設と物流施設の割合が減少した。
(PCP)のオフィス部分を1,600億円
引き続き流入したため、不動産投資市
その背景には、オフィス賃料の上昇
台半ばで取得した模様だ。PCPの
場は活性化した。マンションも都心部
および上昇期待がある。JLLの調査で
キャップレートは2.7%とみられてお
の高額物件や超高層物件の上層階には
は、東京のAクラスビルの平均賃料
り、直近のピークである2007年頃の
投資マネーが殺到したほか、東南アジ
は昨年1年間で約6%上昇した。Bク
水準に近いことから、取引価格の高騰
アを中心とした海外の富裕層による投
ラスビルの賃料もほぼ底を打っており、 に対する警戒感も出てきている。
資が増えた。オフィスや商業施設、物
今年は安定的に回復するとみている。
2014年の不動産投資市場を牽引し
流施設、ホテルなどを含めた国内の不
地域的な広がりも起きている。東京だ
たのは前年に引き続き、Jリートや私
動産投資額は一昨年を上回った。
けではなく、大阪のオフィス賃料も底
募リート、海外機関投資家だ。特に海
総合不動産サービスをグローバルに
打ちして横ばいが続いており、今後は
外投資家の購入が増加しており、今後
展開しているジョーンズラングラサー
安定的な上昇に転じる見通しである。
のマーケットの鍵を握っているのが海
ル(JLL)によると、2014年の不動
不動産投資のマーケット規模が最も
外勢の動向と言える。海外投資家は昨
産投資額は前年の4兆円を上回る4.5
大きいオフィスビル市場がリーマン・
今の急激な価格上昇に対する警戒感を
兆∼ 5兆円に増加した。今年はさらに
ショック以降の長い低迷から脱却した
強めているものの、引き続き旺盛な投
増えて5.5兆∼ 6兆円に拡大すると同
ことで、不動産投資市場全体の活性化
資ニーズがある。アベノミクスに対す
社では予測している。2014年の不動
に弾みがついている。特に昨年は1,000
る期待や金融緩和への好感、クオリ
産投資市場で特徴的だったのは用途別
億円を大きく超えた取引もあった。森
ティの高い不動産ストックへの高い評
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New Year 2015
2015年は新たな飛躍のための重要な1年
2014年の回顧と2015年の課題・展望
価などがその理由だ。
てきたのが2014年だった。2015年も
JLL日本代表の河西利信氏は「世界
昨年に続いてオフィスの供給が比較的
の不動産投資は先進国に回帰しており、 抑えられるため、市況がさらに上向く
不動産業界の変革=
大手企業の占有化と
Jリート市場の拡大
市場規模の大きさや今後国際化が進む
と予想されている。
ことを考えると、日本は最重要投資国
JLLは、東京のAクラスビルの平
不動産業界は大手企業の占有化が進
になっている」と話す。2014年は世
均賃料が今年は昨年を上回る7 ∼ 8%
んでいる。分譲マンション事業はリー
界の中で日本への不動産投資が大きく
の上昇になると予測している。Bクラ
マン・ショック以降、独立系の中堅・
注目された年だった。キャップレート
スビルの回復も昨年以上に進むのは必
中小デベロッパーの多くが経営不振な
は下がり、取引価格は上昇した。それ
至の状況であり、東京以外の大都市圏
どから淘汰され、その後は新興企業の
でも今後さらに投資額が拡大していく
がどこまで良くなるかにも注目が集
動きがほとんどない。経営危機を克服
とみられているのは、東京のオフィス
まっている。ただ一方で旧耐震設計、
して生き残った中堅・中小デベロッ
賃料が他の主要都市と比べるとまだ低
省エネ・BCP(事業継続計画)対応
パーも建築費の高騰や土地代の上昇な
く、投資資金のレバレッジも2007年
ができていないビルは賃料を下げても
どで、新規開発になかなか取り組むこ
頃より低く抑えられているからだ。そ
空室がなかなか埋まらない状況にある。 とができず、供給のシェアを落として
の分まだ価格の上昇余力、キャップ
そうした物件の淘汰が今後は本格的に
いる。事業機会を増やしているのが大
レートの低下余力があるというのが不
進みそうだ。再開発や建替えなどに
手デベロッパーだ。供給戸数の上位を
動産投資市場の現状である。
よって新たなオフィスが供給されても、 占める大手デベロッパーの市場占有率
2020年の東京五輪開催は不動産業
テナントにとって適格な在庫が不足し
が高まっている。
界全体にとって大きな追い風になって
ていく懸念が生じる。オフィス在庫の
オフィスビル事業も新規開発を手が
いる。五輪開催までに東京のインフラ
二極化が進展し、優良な物件と不適格
けられるのは一部の大手デベロッパー
を更新し、交通・輸送体系を磐石なも
な物件とにマーケットが二分していく
に限られている。特に今後の供給は再
のにして、さらに利便性を高めていく
可能性がある。すでにその兆候は顕れ
開発や建替え、オーナーとの共同事業
という政策が間断なく展開されている。 ている。
などが中心となるため、資本力と信用
規制緩和を促進するための国家戦略特
エリアについても同様の傾向が起き
力のある大手にますます集約されてい
区の制度も不動産業界全体を後押しす
ている。今後はオフィスにとって優良
くだろう。最近では、大手も中規模ビ
る。不動産の価値を高めるためのこう
な立地と適していない立地との格差が
ルの開発に進出しているほか、ベン
した一連の政策動向をうまくビジネス
強まり、明暗が大きく分かれそうだ。
チャー企業や賃料負担力の弱いテナン
に取り込んでいくことが今後の課題で
都心部の再開発が進み、ハイスペック
トを対象にしたコワーキングスペース
ある。
なオフィスの集積が進むに従い、周辺
の提供やシェアオフィスなどに戦略的
部の評価が下がり、オフィス立地とし
に取り組み始めており、中小ビルオー
ての劣化が起きることが考えられる。
ナーの領域への大手による浸食が本格
建築費の上昇で工事に遅れが出た場
化している。
合、オフィスの供給減による空室のさ
Jリート市場の拡大も不動産業の図
らなる減少、それに伴う賃料上昇の余
式を大きく変えた。賃貸住宅がリート
オフィスビル業界にとって2014年
地も拡大する。耐震と省エネのための
の投資対象となったことで、それまで
は再生に向けた転換の年でもあった。
リニューアル工事も建築費の上昇で厳
個人を中心にした土地オーナーが建て
オフィス市場は、大量供給が起きた
しくなるため、コスト負担に耐えられ
ていた賃貸住宅が資本力のある企業に
2012年を乗り越え、アベノミクス効
ない中小オーナーのビルは社会問題に
よる開発物件に変わってきた。リート
果もあって2013年後半頃からいよい
もなりかねない。住宅の空き家問題が
という出口ができたことで、大手デベ
よ本格的な回復かと期待されていたも
大きく取り上げられているが、ビルの
ロッパーも積極的に賃貸住宅を開発す
のの、やや出遅れ感があった。ようや
空室問題はもっと深刻に捉えられるべ
るようになった。オフィスビルについ
く市況回復に向かう動きに力強さ見え
きである。
ても同様で、投資資金の回収に長い期
2 014年は
ビル業界転換の年、
そして二極化へ
No.162
IS H IZ U E
19
間を要していたビル開発の事業サイク
つのキーワードを提案したい。一つは、 契約にするのではなく、商業施設やホ
ルが短縮された。開発事業の出口をつ
「
“対テナントビジネス”からの脱却」
テルなどで行っているような売上歩合
くったJリートはデベロッパーに開発
だ。ビル事業の収益の源泉はテナント
制や運用報酬型を導入するのである。
リスクの分散とコスト負担の軽減とい
企業からの賃料である。そのベースは
当然、ダウンサイドのリスクもとるこ
う大きな武器をもたらした。
今後も大きく変化することはないのだ
とになる。今後はホテルなどの宿泊施
不動産投資市場がさらに拡大し、投
ろうが、収益構造を多様化することは
設やヘルスケア施設など、オペレー
資家のリスクマネーの流入が増えれば、 重要だ。すでに一部の大手デベロッ
ショナルアセットのマーケットが拡大
不動産の開発、所有、経営の3分野を
パーが取り組み始めたが、今後はテナ
する。オフィスビルもオペレーターを
分離する動きが加速し、それぞれの専
ントを養成していくことも求められる。 テナントにする機会が増えるに違いな
門性と精度が高まる。結果的に不動産
ベンチャー企業や海外から進出を図り
い。ホテルリートが一部取り入れてい
の付加価値が増大することになる。今
たい企業の駐在拠点などに廉価な賃料
るように、テナントのオペレーション
後のビル事業は、リスクマネーを提供
でスペースを貸し出し、ビジネスを支
能力に応じて収益を得るという発想も
する国内外の投資家を抱えた資本市場
援することで、将来の優良なテナント
必要になってくる。
の厚みを最大限に活用することによっ
候補を確保していくことができる。賃
テナントに対する目利きはオペレー
て、新たな領域に踏み込んでいく可能
貸スペースを小割りで貸し出すことに
ション能力に対する目利きにもなり、
性がでてきた。
よって、空室の有効利用にもつながる。 自らのリーシング力の向上にも寄与す
中長期的なビル事業の
課題=三つのキーワード
収益構造の多様化としては、集客型
る。ビルオーナーはテナントの入居を
ビジネスの展開も効果的だ。利便性の
待つだけではなく、自らがテナントを
良い超一等地に建っているビルは集客
発掘するスキルを身につける必要があ
には打って付けである。各種のイベン
る。それがビル経営の差別化にもつな
日本はこれから人口が減少していく。 トや勉強会など、不特定多数が集まる
少子高齢化による生産年齢人口の減少
企画の場として賃貸スペースを提案し
は深刻であり、オフィスワーカーは着
ていくことによって、テナントからの
実に減る。そうした状況下で将来にわ
固定賃料とは異なる形で収益を得るス
たってオフィスビルを高稼働で維持し
ペースを創造できる。地域に割安で開
ていくことは簡単ではない。中長期的
放してもいい。オフィスビルはそこに
にみるとビル事業は決して明るい産業
立地する地域の重要なインフラの一つ
ではなく、不況業種に陥ることも覚悟
であり、地域から孤立した存在ではな
しなければならない。テナントの誘致
く、地域との融合を目指すべきである。
を考えると、国内の需要だけではジリ
結果的に様々な収益機会を得ることが
貧である。今後はいかに海外の需要を
できるに違いない。
取り込んでいくかが鍵になる。海外の
テナントも欧米のグローバル企業だけ
ではなく、アジアの新興企業なども有
力な候補になる。
「箱貸しから
“オペレーション型”
への転換」
二つ目は、
「箱貸しから“オペレー
「“ 対テナントビジネス”
からの脱却」
ション型”への転換」である。単純に
床を貸すだけでは収益機会は限定的だ。
テナントの賃料負担力を固定するので
ビル事業が今後も安定的に成長して
はなく、賃料負担力に応じてアップサ
いくためには、従来のビジネスモデル
イドを狙うのがオペレーション型の賃
を転換する必要がある。そのための三
貸事業だ。賃料の源泉を単純な賃貸借
20
I SH I ZU E
New Year 2015
がるはずだ。
「“ソフトの差別化と
サービス産業化”の展開」
三つ目は、
「
“ソフトの差別化とサー
2015年は新たな飛躍のための重要な1年
2014年の回顧と2015年の課題・展望
ビス産業化”の展開」
。ビル事業は大
要が減り、やがてビルの大競争時代が
求めたいのは、Jリートとのコラボ
型の再開発プロジェクトが林立する時
やってくる。
レーションを通じた街づくりや都市再
代を迎え、一つのスタンダードができ
住宅事業ではすでに、コミュニティ
生である。大手デベロッパーの多くは
上がりつつある。耐震性能、省エネ機
形成の支援や高齢者のための緊急駆け
すでに、系列のリートを持っている。
能、防災性を含めたBCP対応、無柱
付けサービスや見守りサービス、家事
しかし、自社の開発物件や保有物件を
空間の広い基準階面積など、建物のス
の代行など、居住者をサポートする体
系列リートに売却するだけではなく、
ペックの競合は行き着くところまでき
制づくりに力を入れ始めている。ビル
リートの後ろ楯としてある資本市場と
た感がある。ハード面で競い合うのは
事業はこれまで、オフィスワーカーの
うまくコラボレーションすることで、
限界に近い。今後より重要になってく
ための視点が不十分だったように思え
開発リスクを付加価値に変えて行って
るのはソフト面での差別化であり、
る。日本は米国などに比べて、一人当
もらいたい。系列リートだけを相手に
サービス産業への移行だ。
たりのオフィス床面積が狭い。これだ
するのではなく、他社がスポンサーと
オフィスビルの顧客はテナント企業
け大型のオフィスビルが多く供給され
なっているリートとも積極的にアライ
であり、企業は従業員(オフィスワー
ているのだから、一人当たりのスペー
アンスを試みるべきである。
カー)で構成されている。したがって
スがもっと広くなってもいいのだが、
リートとのコラボレーションによっ
当たり前であるが、オフィスビルはオ
現状はオフィスワーカーにとって厳し
て開発リスクを軽減できれば、資金サ
フィスワーカーのためにある。オフィ
いままだ。
イクルを短期化できる。その分、事業
スワーカーに対して快適で働きやすい
広さを解決することが困難であるの
サイクルの目線を長期化できるため、
環境を提供することがオフィスビルの
なら、水回りや打ち合わせスペースな
デベロッパーの街づくりは進化し、都
使命だ。そのためのハード面は充足さ
どの共用部に工夫がほしい。デザイン
市再生は本格的に進展する。それが継
れつつある。ではソフト面はどうか。
や使い勝手、動線などを変えるだけで
続的にビル事業を展開できるデベロッ
デベロッパーにとって最も難しいのが
印象は良くなり、オフィスの付加価値
パーの使命ではないだろうか。競争力
ソフト面での対応ではないだろうか。
は高まる。テナントの満足度がアップ
をなくし、在庫として不適格な物件を
デベロッパーの仕事はハードが中心
することで、稼働率の向上と賃料の上
抱えることになる中小ビルオーナーを
だったからだ。これまでは需要に応じ
昇にもつながっていく。
束ね、適格な在庫としてのオフィスビ
て土地と建物という空間を提供してい
れば良かった。しかし、これからは需
ルを安定的に供給していくことが何よ
ビル業界に求めたい
「異業種とのアライアンス」
「Jリートとのコラボ」
ビルオーナーであるデベロッパーが
ビル経営として積極的に取り組んでほ
りも求められている。
2 0 1 5年
市況回復の機会に
新たな方向性の確立を
しいのは、オフィスワーカーの執務環
ビル経営は文字通りマネジメントで
境を改善するための提案であり、具体
ある。適切な供給はもちろん必要であ
的なサービスの提供である。オフィス
るが、都市のインフラとして長期的に
ビルのプロだからこそできることがあ
運用していくために、都市の主役であ
るはずだ。逆に苦手な部分は、そうい
る住民や働く人、訪れる人のための
うことを得意としている異業種とアラ
ハードやソフト、サービスを追求して
イアンスを組んでもらいたい。テナン
いくことが今後はより重要になるに違
トとして保育所やヘルスケア施設、教
いない。2015年は昨年以上に市況の
育施設などを積極的に誘致すれば、子
回復が鮮明になりそうだ。この機会に
育て支援や介護支援などにもなる。
次の飛躍に向けた基盤づくりを追求し、
ビル事業を展開するデベロッパーに
新たな方向性を確立してほしい。
No.162
IS H IZ U E
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IT 環境整備のお知らせ
昨年当センターが行ったアンケートにおいて、ビル経営管理士や日本ビル経営管理士会会員を始めとする多くの皆様から頂いたご意
見・ご要望にお応えするべく、当センターでは着々とIT環境の整備を行っています。
昨年 3 月のメンバー専用サイトの運用開始に続いて、12月には「BMIネット・アカデミー」がスタートし、センター主催のセミナーを、
皆様のPC、スマホ、タブレットで視聴できるようになりました。その他IT環境整備によってCBA(ビル経営管理士)・JBMS(日本ビル
経営管理士会)会員の皆様および一般の方々ともコミュニケーションを密にして参ります。以下に、IT環境整備の現況をお知らせします。
1.
「BMIネット・アカデミー」の開講
とが可能になります。
当センターが主催する各種セミナーをインターネットで受講
◆ログインの方法(CBA・JBMS会員の方)
できる動画配信サイトです。
CBA・JBMS会員の方はメンバー専用サイトに登録したメー
当センターでは、
セミナー事業として『特別研究セミナー』
『ビ
ルアドレスとパスワードで、BMIネット・アカデミーにログイ
ル経営研究セミナー』
『スキルアップセミナー』
『CBAセミナー』
ンして頂きます。
をビル事業に関わる皆様のために多数開催しています。
※ CBAならびにJBMS会員の方は、BMIネット・アカデミーのユーザー
登録は不要ですが、当センター HPのメンバー専用サイトでの登録が必
要です。
BMIネット・アカデミーでは、簡単な手続きでこれらのセミ
ナー動画をインターネットで視聴することができます(ただし、
講師の承諾が得られたものに限られます)
。
◆ログインの方法(一般の方)
これまで、業務多忙でセミナー会場に足を運べなかった方々
あらかじめBMIネット・アカデミーのユーザー登録をしてく
や遠方の方々のご要望にお応えしたもので、PCだけでなく、タ
ださい。その後、登録したメールアドレスとパスワードで、
ブレット端末やスマホでもご覧になることができます。これで、
BMIネット・アカデミーにログインして頂きます。
多忙な方でも通勤・出張の車中や自宅でセミナーを視聴するこ
◆動画コンテンツの視聴
ログイン後、メニュー画面からご希望の動画コンテンツをお
選び頂き、画面の指示に従って、お申し込みください。
お申し込み手続きが完了した時点から一定期間(※申込画面
に明示されます)
、何度でも視聴することが可能です。配信され
る動画コンテンツは、セミナーの内容・特色に応じた料金設定と、
公開先
[一般公開または限定公開
(CBAまたはJBMS会員対象)
]
の設定がされます。
なお、有料コンテンツの場合、お支払方法はクレジットカー
ドに限られます。
◆CBA・JBMS会員の特典
① 限定公開の動画コンテンツ※の無料視聴
② 有料動画コンテンツ※の割引視聴
※対象となるコンテンツはCBAとJBMS会員で異なります。
上記の特典を受けるためには、当センター HPのメンバー専用サイトで
の登録が必要となりますので、BMIネット・アカデミーのご利用に先立っ
て、メンバー専用サイトのご登録手続きをお済ませください。
※環境によっては視聴できない場合があります。
詳しくは、ホームページのBMIネット・アカデミーの「ご利用案内」
(推
奨環境)をご覧ください。
2.その他のIT環境整備
(1)センター主催セミナーのご案内方法の E メール一本化
従来、メール便、FAX、Eメールでお知らせしていた特別研
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I S H I ZU E
New Year 2015
ISHIZUE NEWS
究セミナー他、セミナー開催のご案内をEメールに一本化しま
《CBAコンテンツ》
した。従来メール便、FAXでセミナー開催案内を受けられてい
〇テキストアーカイブ
た方はセンターホームページの各種セミナー開催予定のページ
教材テキストや資料を見ることができます。
から「セミナー開催案内」メールアドレスの登録をお願い致し
〇法改正カレンダー
ます。
法改正の内容を施行日で確認できます。
(2)セ
ンター主催セミナーの申込受付方法を
《JBMS会員コンテンツ》
ホームページに一本化
〇講座テキストライブラリー
セミナーの申込みをホームページに一本化しました。セミナー
の参加希望者は、ホームページから申込入力して頂いておりま
昨年(平成25年度)の講座テキストを電子ブックで見ること
ができます(但し、アプリ版非対応、ダウンロード・印刷不可)
。
す。また、従来FAXで送信していた参加証もEメールにて送付
〇いしずえギャラリー
させて頂いておりますので、宜しくお願い致します。
これまでの機関誌「いしずえ」を電子ブックで見ることがで
(3)メンバー専用サイトの拡充
きます(アプリ版対応、ダウンロード・印刷可)
。
昨春、センターのホームページ内にオープンした『メンバー
〇ビル経営管理士登録者名簿(JBMS会員名簿を含む)
専用サイト』では、CBA並びにJBMS会員の皆様に対して、継
従来、JBMS会員の方にビル経営管理士登録者名簿(JBMS
続教育上必要と思われる基本的な情報やプラスアルファの情報
会員名簿を含む)を送付しておりましたが、
昨秋より『メンバー
を提供しています。
専用サイト』でご覧頂けます。
サイトの内容は以下のとおりです。
◆CBA&JBMS登録情報変更手続きができます。
《共通コンテンツ》
CBA・JBMS会員の登録情報の確認・変更をホームページ『メ
〇News:ビル経営管理に関するニュース
ンバー専用サイト』で行うことができます。変更が必要な方は
お手続きをお願いします。
※変更できる項目は、郵便物送付先、自宅(住所等)
、メールアドレス、携
帯電話番号、勤務先(住所等)
、その他住所、パスワードとなります。
※メンバー専用サイトにサインインする際にはIDとパスワードが必要です。
詳しくはセンターのホームページ(http://www.bmi.or.jp/)
『メンバー
専用サイト』をご覧ください。
(4)ビル経営管理講座受講生サイトの拡充
当センターでは本年度から「ビル経営管理講座」受講生のた
めに「ビル経営管理講座受講生サイト」を開設しております。
講座受講生の登録をすることによって、このサイトを通じて、講
座に関する情報を取得することができ、来年度はさらに機能・
コンテンツを拡充してまいります。受講生対象の添削指導も本
サイトで円滑・スピーディーに行うことができます(※「ビル経営
管理講座受講生サイト」は講座開始直前から終了後一定期間の期間限定開設
です)
。
更新登録について
ビル経営管理士は、試験合格後、登録することにより、資格取得することができます。登録の有効期間は5年
間です。資格の継続を希望される方は、有効期間満了日の1か月前までに更新手続きを行うことになっています。
平成 27 年3月末日でビル経営管理士の登録期間が満了となる方を対象に、更新登録のご案内を発送します。
対象者は案内に従って、更新登録の手続きをお願いいたします。詳細につきましては、センターホームページ
(http://www.bmi.or.jp/)でご確認下さい。
なお、登録期間中に住所等の登録事項に変更があった方で、変更の届け出をされていない方は、書類が届かな
い場合がありますので、
『メンバー専用サイト』から登録情報の変更をお願い致します(上記参照下さい)
。
更新対象者で、書類が2月中に届かない方は、センター事務局までお知らせ頂きますようお願い致します。
No.162
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NO.1 6 2
COVER PHOTO
「大手町タワー」
DATA
永代通り西側より大手町タワーを望む(写真のビル手前側に約3,600㎡の「大手町の
森」
)
。
高さ約200m、
ワイド約100mの外装は、
縦・横の大きなスリットで分節され、
外観に
アクセントを付けると同時に圧迫感を抑えています。
また、
石のような風合いを見せるアルミ
キャストの縦フィンが、
見る角度・季節・時間帯・天候によって様々な表情を演出します。
CO NTE NT S
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年頭のご挨拶
ビル経営の人材育成・知識普及機関として更なる充実を
藤田 真 一般財団法人 日本ビルヂング経営センター 理事長 2
いしずえニュース
新年賀詞交歓会を開催
平成26年度 ビル経営管理士試験を実施─全国6都市で668名が受験
第16回新春特別ビル経営セミナーを実施
セミナー開催報告
平成27年度 ビル経営管理講座・ビル経営管理士試験の予定
特集/オフィス+ホテル +「大手町の森」 “都市を再生しながら自然を再生する”
4
「大手町タワー」
坂田 俊介 東京建物株式会社 都市開発事業部事業開発グループ 課長代理
10
ビル管理業務の内容精査とコストの最適化方策 第2回
ビル管理業務の基本構成とコスト最適化の留意点 信田 直昭 Shidaインベストメント&マネジメント代表
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渡辺晋のビルマネジメントゼミナール│Vol.19
賃料不払による契約解除
信頼関係不破壊の法理と家賃保証会社による
代位弁済及び契約解除の法的手続きを学ぶ
渡辺 晋 弁護士
18
新春展望 『記者の眼』番外編
2015年は新たな飛躍のための重要な1年
《2014年の回顧と2015年の課題・展望》
田村 修 株式会社不動産経済研究所 日刊不動産経済通信 編集長 22
いしずえニュース
IT環境整備のお知らせ
更新登録について
いしずえ│ No.162 │ 2015年 1月20日発行
発行
一般財団法人 日本ビルヂング経営センター[BMI]│日本ビル経営管理士会[JBMS]
JAPAN BUILDING MANAGEMENT INSTITUTE/ JAPAN BUILDING MANAGERS SOCIETY
所在地
〒100-0004 東京都千代田区大手町1-6-1(大手町ビル837区)
TEL.03-3211-6771 FAX.03-3211-6772
http://www.bmi.or.jp/
《禁無断転載》
※本誌は、日本ビル経営管理士会の機関誌を兼ねて、
一般財団法人日本ビルヂング経営センターが発行する機関誌です。