2015-02: 技術文献のマクロ分析(その2)

NRI-CP 通信
2015 Vol.2
技術文献のマクロ分析(その2)
多様な情報ソースから社会・産業・技術の関係を観る。
中居 隆(NRI サイバーパテント株式会社 知的財産コンサルティング室)
前稿では、論文情報と特許情報から技術動向を俯瞰する手法を紹介した。本稿では、さらにこ
こに新聞情報を加えることで、社会的課題・関心事と産業、技術の関係性を捉え、事業開発、技
術開発への示唆を得る「社会・産業・技術連関分析」を紹介する。
社会的課題・関心事と産業、技術の関係性を
分類、分析・可視化を行った。
(図1)
図1
捉える「社会・産業・技術連関分析」
本章では、資源・エネルギー分野を例とし
検索
各データベースサービス
社会的課題・関心事
て、新聞、特許、論文情報を統合分析し、社
1.エネルギー問題全般
2.注目するエネルギー問題
A)再生可能エネルギーの活用
B)熱活用
C)水素活用
D)電力管理
E)水問題
会的課題・関心事と産業、技術の関係性を捉
える社会・産業・技術連関分析を紹介する。
フ
ィ
ー
ド
バ
ッ
ク
調査の流れ
分類
「TRUE TELLERパテントポートフォリオ」(英語解析版)
技術
産業
類義語・関連
語のカテゴライ
ズ
経済産業省
「生産動態統計」
に対応した
分類条件
国
(NRIサイバーパテント
保有)
国・地域軸
社会的課題・関心事軸
資源・エネルギーを安定的に確保すること
は、世界共通の課題であり、各国で関連する
技術開発が活発に行われている。一方、国・
地域の社会情勢、政策等が大きく影響する分
野でもあり、
企業が事業開発を進める上では、
新
聞
主要紙(主要国)
2011~
論
文
インパクトファクター上位の
雑誌(分野横断/分野ごと)
2005~
特
許
技術動向と併せて、グローバルな視点で市
特許
2005~
(JP・US・EP・WO+α)
【インデックス】
索引
キーワード
【インデックス】
INDUST
RY
技術軸
【インデックス】
SUBJ
AREA
GEOGRA
PHY
産業軸
(なし)
【インデックス】
特許分類
コード
使用したデータベース
新聞
「Nexis」(レクシスネクシス)
論文
「Scopus」(エルゼビア)
特許
「Total Patent」(レクシスネクシス)
場・産業の動向を押さえておく必要がある。
【インデックス】
【インデックス】
SUBJECT
出願先国
分析・可視化
初めに、資源・エネルギーに関する新聞・
(1)分析の流れ 商用データベースのイン
論文・特許について、あらかじめ設定した社
デックス情報を積極的に活用
会的課題・関心事が抽出できるように検索式
今回、海外の情報を広く収集するために、
新聞情報:「Nexis」(レクシスネクシス社)、
論文情報:「Scopus」(エルゼビア社)、特許
情報:
「Total Patent」
(レクシスネクシス社)
を設定した。さらに、抽出された新聞・論文
に頻出するインデックス情報から、本来、検
索式に含めるべきものをフィードバックして
再検索を行い、母集団の網羅性を高めた。
次に、母集団を技術軸で仕分けするための
を組み合わせて使用した。
なお、こうした商用データベースには、収
録文献・記事に対して、データベース作成・
提供者が独自のインデックス情報(索引・見
分類条件を設定した。ここでもインデックス
情報を分類キーワード選定の参考にし、ここ
に必要に応じて同義語、類義語を追加した。
一方、産業軸については、粒度の統一性、
出し)を付与しているものが多い。今回の分
析でも、これらを積極的に活用し、当社が提
供する文献分析ツール「TRUE TELLER パ
テントポートフォリオ(英語解析版)
」にて、
網羅性を確保するために、経済産業省による
産業分類の体系に対応し、弊社が保有する特
許の分類条件をベースに、ここに新聞・論文
©2015 NRI Cyber Patent, Ltd. All rights reserved.
1
NRI-CP 通信
2015 Vol.2
図3
のインデックス情報を加えた。
社会的課題・関心事と国・地域の関係
対象データ
さらに、国・地域についても、新聞につい
ス情報(話題となっている国・地域。新聞の
バイオエネルギー
10% 20% 30% 40%
UK
SPAIN
BRAZIL
AUSTRALIA
ISRAEL
FRANCE
団を社会的課題・関心事、産業、技術の軸で
AFRICA
0%
10%
20%
USA
0%
20%
40%
分類し(図2)
(表1)
、以降の分析を行った。
0%
1%
2%
3%
0%
20%
40%
60%
JAPAN
USA
GERMANY
KOREA
UK
AFRICA
AUSTRALIA
0%
60%
水素活用
30%
BRAZIL
FINLAND
MALAYSIA
SINGAPORE
THAILAND
INDONESIA
ISRAEL
AFRICA
GERMANY
FRANCE
GERMANY
以上のようにして新聞・論文・特許の母集
図2
特許
風力発電
CHINA
発行国ではない。
)を使用した。
論文
【再生可能エネルギーの活用】
0%
ては「Nexis」で付与されているインデック
新聞
【再生可能エネルギーの活用】
20%
40%
各国の資源・エネルギー関連の全記事に占める割合
2014年以降に発行された記事の割合
ちなみにこれらの国・地域における特許出
情報ソースと軸
社会的課題・関心事
願を見ると、新聞による分析結果と一定の相
関が確認される。特許情報については、加工・
新聞
集計可能な形でデータを取得できない国・地
域も多く、新聞情報は世界各国における社会
論文
産業
(製品・
サービス)
特許
的課題・関心事を広く俯瞰する上で、有効な
情報ソースと言える。
表2は、各社会的課題・関心事に対して、
技術
表1
対象データ
社会的課題・
関心事
分類条件
新聞
論文
特許
分類条件
再生可能 太陽光・太陽熱 【共通】単語:%solar energy%、%solar power%、%photovoltanic power%
エネルギー 風力発電
【共通】単語:%wind power generation%、%wind-generated electricity%・・・
の活用
【共通】係り受け:%wind%-%electricity%、%wind%-%power%・・・
水力発電
【共通】単語:%hydroelectric power%、%hydroelectric-power%・・・
水素活用
【共通】単語:%hydrogen production%、%hydrogen manufacturing%・・・
【共通】係り受け:%hydrogen%-%manufacturing%、%hydrogen%-%energy%・・・
・・・
・・・
産業
建築・土木
・・・
たものである。
表2 社会的課題・関心事×国・地域別キーワード
対象データ
国・
地域
【再生可能エネルギーの活用】
風力発電
関連度
テーマ
(リフト値)
分類条件
【共通】単語:%building industry%、%architectural%・・・
【特許】IPC:E01%、E02B%・・・
【新聞】INDUSTRY=06_construction
【共通】単語:%transport machine%、%vehicle%・・・
【特許】IPC:A61G3%、A61G5%・・・
【新聞】INDUSTRY=02_automotive
【共通】単語:%agriculture%、%forestry and fisheries%・・・
【特許】IPC:A01%
【論文】SUBJAREA: agri
【新聞】INDUSTRY:01_agriculture, forestry, fishing & hunting
AGRICULTURAL PRICES
FOOD PRICES
PROCESS STEAM
UTILITIES
POWER COGENERATION
WASTE TO ENERGY
トリジェネレーション
【共通】単語:%trigeneration%、%tri-generation%・・・
藻類
【共通】単語:%algae%、%algal biomass%・・・
・・・
・・・
※ 文献の分類に使用した「TRUE TELLERパテントポートフォリオ」では、各種インデックス
情報、言葉(単語・係り受け)を任意に組み合わせて、分類条件を設定することができる。
JAPAN
(2)新聞・ニュース情報から、国・地域に
PETROCHEMICALS
COAL FIRED PLANTS
海外投資
SPAIN
【共通】単語:%distribute energy%、%distributed energies%・・・
3.5 CHEMICALS
GERMANY
分散型エネルギー
CONTRACTS & BIDS
TURBINE MFG
たものである。
域による関心・取組みの違いが分かる。
2.9
2.4
1.3 PHOTOELECTRIC CELLS
2.4
AUTOMOTIVE
1.2
TECHNOLOGY
2.3
通信・電機・自動車
7.1
BIOMASS
4.6
4.2
POWER COGENERATION
LIQUEFIED NATURAL GAS
4.5
5.4 GAS STATIONS
AUTOMOTIVE
4.5
TECHNOLOGY
HYDROGEN POWERED
3.5
VEHICLES
2.4
1.4
1.2
ステーション、自動車
WIND POWER PLANTS
WIND ENERGY
SOLAR ENERGY
4.5
3.7
2.7
風力、太陽光
3.5
POWER &
COMMUNICATION
SYSTEM CONSTRUCTION
2.7
ENERGY & UTILITY
POLICY
2.9
CLIMATE CHANGE
2.3
ENERGY & UTILITY
CONSTRUCTION
2.8
MANUFACTURING
FACILITIES
NUCLEAR POWER
PLANTS
政策
製造設備
2.9 CORN MARKETS
4.2 EMISSIONS
2.6 AGRICULTURAL PRICES
4.0
2.6 FOOD & BEVERAGE
3.0
農業生産
RETAILERS
2.8 AUTOMOTIVE FUELS
ENERGY & UTILITY TRADE
ELECTRICITY MARKETS
2.1
2.1
自動車
1.7 NUCLEAR PLANT SAFETY
AUTOMOTIVE
TECHNOLOGY
2.1
ELECTRICITY
GENERATING CAPACITY
1.2 CIVIL ENGINEERING
COMMODITIES
SHORTAGES
自動車排気
ALLIANCES &
PARTNERSHIPS
CLIMATE CHANGE
アライアンス、気候変動
3.6
3.2
原発
2.1
2.8
2.5
2.5
電力確保
3.5 PRIVATIZATION
3.0
2.7 PRICE MANAGEMENT
ALUMINUM INDUSTRY
3.0
2.6
民営化、電力取引、アルミ産業
例えばバイオエネルギーについて、米国で
は農業生産、すなわちエネルギー原料の観点
が話題となっているのに対して、フィンラン
ドではエネルギーへの加工・生産の観点が話
2
3.6
2.9
バイオエネルギー、
コジェネレーション、LNG
(例)「バイオエネルギー」全体で「CORN MARKET」が出現する割合と、「バイオエネルギー」×「USA」で「CORN MARKET」が
出現する割合の対比。
©2015 NRI Cyber Patent, Ltd. All rights reserved.
3.3
1.4 ELECTRIC VEHICLES
政策・法規制、製造技術
4.4 PUBLIC POLICY
電力取引
MOBILE & CELLULAR
TELEPHONES
1.4 MOTOR VEHICLES
入札、タービン生産
MANUFACTURING
FACILITIES
ELECTRICITY
GENERATING CAPACITY
関連度
(リフト値)
テーマ
 関連度(リフト値):全体での傾向と、特定条件の下での傾向を比較した指数。
風力発電はイギリス・スペイン、バイオエ
ネルギーはブラジル・フィンランドと国・地
2.6
8.0
4.1
外国資本、
AUSTRALIA
新聞記事への出現割合が高い国・地域を示し
電力管理
関連度
(リフト値)
AIR QUALITY
REGULATION
ENERGY EFFICIENCY &
2.3
CONSERVATION
COMBUSTION
2.3
TECHNOLOGIES
ENERGY & UTILITY
POLICY
AUTOMOTIVE
TECHNOLOGY
NUCLEAR ENERGY
FOREIGN INVESTMENT
CHINA
図3は、各社会的課題・関心事について、
テーマ
2.9
石油・石炭化学
原発、電力通信
おける社会的課題・関心の違いを観る
特許
水素活用
プロセス蒸気、コジェネレーション、
廃棄物発電
FOREIGN INVESTMENT
分類条件
論文
農業生産
・・・
技術
新聞
【再生可能エネルギーの活用】
バイオエネルギー
関連度
テーマ
(リフト値)
CORN MARKETS
FINLAND
農林水産・食品
ーワード(インデックス情報)を自動抽出し
USA
輸送機械・運輸
各国・地域の関連記事に特徴的に出現するキ
NRI-CP 通信
2015 Vol.2
題となっている。
表3
このように社会的課題・関心事について、
社会的課題・関心事×産業別
対象データ
生産国/消費国、先進国/途上国での関心の
違い、政策・規制との関係など、インデック
掘り下げて観ることができる。
建築・土木
Enercon
Enercon
GE
Vestas
輸送機器・運輸 Mitsubishi Heavy Vestas
Industries
Aloys Wobben
GE
繊維
GE
Vestas
係性を見る
一般機械
ここでは、社会的課題・関心事と産業、技
精密
医療
のである。太陽光・太陽熱、水素活用、バイ
電機
Hitachi
Siemens
BASF
UOP
Sumitomo
Bakelite
Daikin
Philip Morris
DNP
Pacira
Pharmaceutical
Gruenenthal
風力発電
技術
IT・情報処理・制御
機械(その他)
化学
モニタリング
電力変換
パワーデバイス
分散型エネルギー
ヒートポンプ
コジェネレーション
電力取引
圧縮空気貯蔵
フライホール
論文件数
医療・薬品
特許
2014年以降に発表された
論文の割合 (%)
35≦n≦100
25≦n<35
0≦n<20
機械(その他)
GE
Toyota
Panasonic
GE
Vestas
産業
いホットなテーマであることが分かる。
建築・土木
Fujifilm
Vestas
GE
Siemens
GE
Panasonic
Casio
表4 社会的課題・関心事×産業別
輸送機械・運輸
IT・情報処理・制御
Siemens
UOP
L'Air Liquide
Pour L'etude
Lintec
Fisher & Paykel
Healthcare
Panasonic
Air Product &
Chemicals
E.I.Dupont
CSK Food
Enrichment
MIZ
Bronshtein
Victor
GM
Panasonic
Honda
Samsung SDI
※空欄:出願人別の件数が僅少
業ごとに特徴的な技術を自動抽出している。
維」などについては、最近の論文の割合が高
論文
GE
【再生可能エネルギーの活用】
械系」
「農林水産・食品」
、
「水素活用」×「繊
新聞
ASML
対象データ
また、その中で「太陽光・太陽熱」×「機
対象データ
Toyota
Toppan
さらに表4では、社会的課題・関心事×産
れ、産業への拡がりの違いが見られる。
図4 社会的課題・関心事×産業
Hitachi
GE
MIZU
オエネルギー、水問題が多様な産業と関係し
機械系、建築・土木、ITとの関係に限定さ
GE
Siemens
農業・食品
関心事と産業を2軸としてクロス集計したも
水素活用
US
JP
Fujifilm
Vestas
化学(その他) NTN
Asahi Glass
図4は、論文情報について、社会的課題・
ているのに対して、風力、水力、地熱発電は
Mitsubishi Heavy GE
Industries
Siemens
Vestas
Tokyo Electric
Power
上位出願人
特許
EP
Taxaco
Development
Chugoku Electric Honewell
Samsung SDI
Power
JFE
Micron
DANA
Technology
Sumitomo Metal Industrie de Nora Energy
Mining
Conversion
Service
Siemens
Chugoku Electric Huber
Tremco Illbruck
Power
Engineered
Woods
GE
SK Kaken
Mitek Holdings
L'Air Liquide
Pour L'etude
GE
Toyota
GM
Air Product &
Chemicals
Vestas
DNP
Ford
Mcalister
Technologies
GE
Kao
Micron
Toray
Technology
Mitsubishi Heavy Toray
E.I.Dupont
WL Gore &
Industries
Associates
GE
Toyota
GE
Siemens
鉄・非鉄金属
術の関係を論文、特許情報から見てみる。
論文
【再生可能エネルギーの活用】風力発電
JP
US
EP
IT・情報処理・ Mitsubishi Heavy GE
GE
制御
Industries
Siemens
Vestas
Vestas
ス情報を統計的に処理することで、もう一段
(3)社会的課題・関心事と産業、技術の関
新聞
繊維
ナノテク
農林水産・食品
輸送機械・運輸
電機・器具
産
新聞
論文
特徴的な技術
特許
【再生可能エネルギーの活用】
水素活用
電力管理
バイオエネルギー
関連度
関連度
関連度
技術
技術
技術
(リフト値)
(リフト値)
(リフト値)
モニタリング
9.8 モニタリング
14.9 モニタリング
3.2
大気汚染
2.9 蓄電池
3.2 電力変換
2.2
浮遊粒子
2.4 自動車
3.1 パワーデバイス
2.1
水素貯蔵
3.1
排熱
3.7 ヒートポンプ
6.6 ヒートポンプ
6.0
ボイラ
2.4 コジェネレーション
4.6 コジェネレーション
5.2
冷却・冷凍
2.2 排熱
4.1 熱エネルギー
4.7
大気汚染
2.6 水素自動車
17.7 電気自動車
5.6
浮遊粒子
2.2 砂糖
4.6 V2G・G2V・V2H
5.6
遺伝学
2.0 蓄電池
4.3 燃料備蓄
2.3
発酵
2.0 バイオエタノール
3.5
熱化学・熱効率
5.2 人工光合成
3.0 需要監視
2.7
エネルギー
生物物質
2.1 半導体
2.0
2.6
ハーベスティング
浮遊粒子
2.0
液体燃料
2.0
エネルギー
遺伝学
3.1 粒子
2.8
19.5
ハーベスティング
バイオリアクタ
3.0 微生物・菌類
2.2
生分解
2.4
エネルギー
16.8 ナノテク
3.6 量子ドット
3.1
7.4
ハーベスティング
薄膜
2.7 発酵
2.7 燃料備蓄
2.3
バイオリアクタ
2.3 微生物・菌類
2.7
廃水処理
2.1
砂糖
4.0 砂糖
30.0 排出権
4.5
バイオエタノール
2.4 食品・食糧
26.8 エネルギーバランス
3.9
エネルギー
バイオディーゼル
10.5
3.6
ハーベスティング
関連度
(リフト値)
4.1
2.1
2.0
2.0
6.9
5.1
2.0
4.9
2.6
「IT・情報処理・制御」ではモニタリング、
精密機械 業
化学(その他)
医療・薬品
パワーデバイス、「機械(その他)」ではヒー
繊維
鉄・非鉄金属
トポンプ、コジェネレーションが、各社会的
農林水産・食品
社会的課題・関心事
再生可能エネルギーの活用
太
陽
光
・
太
陽
熱
風
力
発
電
水
力
発
電
地
熱
発
電
バ
イ
オ
エ
ネ
ル
ギ
ー
熱
活
用
水
素
活
用
電
力
管
理
水
問
題
次に、
特許出願の出願人を見てみる
(表3)
。
風力発電は産業、国・地域を超えて垂直・水
課題に共通して、上位に登場している。一方、
「化学」「医療・薬品」「繊維」などの化学系
では、各社会的課題に対応して、多様な技術
が適用されていることが分かる。
平に統合展開するグローバルな大手企業が君
例えば、当該分野への新規参入を検討する
臨しているのに対して、水素活用は産業ごと
際には、図4、表3、4のような産業構造、
にプレイヤーが異なり、かつ、各国の自国企
技術との関係の中で、自社の客観的な立ち位
業が目立つといった極めて分業的な産業構造
置や、連係先候補/競合を見極めることが求
となっている。
められる。
©2015 NRI Cyber Patent, Ltd. All rights reserved.
3
NRI-CP 通信
2015 Vol.2
以上、
「特定の社会的課題・関心事(A)」に対
の関係をノード(点)とリンク(線)で表す
して「関連する産業(B)」
、さらに「関連する技
ことができる。これを複数の技術同士の関係
術(C)」というように「軸」を定めて多様な情
に適用すると、技術をノードとしたネットワ
報ソースを見ることで、自社の具体的な打ち
ークが形成される(図6)
。
図6
手を検討することができる(図5)
。
図5 社会・産業・技術連関分析のアプローチ
技術ネットワークのイメージ
重
技術A
技術B
特許・論文群 な 特許・論文群
り
重
技術A
特許・論文群 な
り
技術B
特許・論文群
社会的課題・関心事
ノードA
水素活用(A)
IT・
繊維(B)自動車(B) 情報処理(B)
ナノテク(C)
薄膜(C)
弱いリンク
産業
(製品・サービス)
ノードB
ノードA
強いリンク
ノードB
複数の
ノード間の関係
産業
(製品・サービス)
技術D
技術
D
技術E
E
技術F
F
C
技術C
技術A
技術B
ノード
B
ノードA
技術
技術G
G
ここまで資源・エネルギー分野を例として
図7は、水素活用に関する多様な技術につ
社会・産業・技術連関分析を紹介してきたが、
いて、論文+特許による繋がりをネットワー
ここで、三点、補足しておく。
クとして表し(左図)
、さらにこのうち論文の
① 社会・産業・技術連関分析は、社会イ
みによる繋がりを示したものである(右図)
。
図7
水素活用 特許+論文による技術ネットワーク
ンフラ、環境、医療、消費者向けの商
品・サービスなど、社会の動向と密接
対象データ
新聞
論文
特許
論文+特許による技術ネットワーク
に関連するテーマに有効である。
② 今回は社会的課題・関心事を起点とし
たが、自社技術を起点に、それらが貢
このうち、論文のみが繋ぐネットワーク
献し得る社会的課題・関心事、その際
に連係すべき産業(業界)というよう
に、
起点、
終点を変えることができる。
③ 今回は公的機関による産業軸を使用し
たが、目的に応じて、自社の事業体系
を産業軸とすることも有効である。
論文のみに見られる技術間の繋がりがあり、
技術間の関係性をネットワークとして捉える
これらは、より基礎研究段階にあるテーマと
技術連関分析
見ることができる。
前章では「軸」間の関係性に注目してきた
図8は、視認性を高めるために、一定の閾
が、ここでは技術軸にフォーカスし、技術同
値を設定して図示する繋がりを限定し、その
士の関係性を観る技術連関分析を紹介する。
変遷を見たものである。「水素製造」「発電」
一般に1件1件の論文や特許は、複数の技
「燃料電池」「水蒸気改質」「触媒」などをハ
術から構成されることが多い。今、技術Aと
ブとして、水素製造から自動車、冷却、ナノ
技術Bを含む論文や特許が一定数以上あると
テク・吸着、バイオ、太陽光・ディーゼルと
きに、両者には繋がりがあるものとして、そ
技術間の繋がりが広がっていた様子が分かる。
©2015 NRI Cyber Patent, Ltd. All rights reserved.
4
NRI-CP 通信
2015 Vol.2
図8 水素活用 技術ネットワークの変遷(累積)
対象データ
~2006
新聞
論文
(ジー・サーチ社)を使用した。
特許
図9は、遺伝子に関する近年の論文発表件
~2009
数、日本国内における研究助成申請件数、平
均申請額を「JDreamⅢ」のインデックス情
水素製造
自動車・
冷却
~2012
~2015
報「シソーラス用語」を軸として対比したも
のである。研究助成申請データについては、
バイオ
これらのワードが申請内容の記載に出現する
ものを集計している。
ナノテク・
吸着
図9 遺伝子関連 論文/研究助成申請テーマの対比
太陽光・
ディーゼル
発行論文件数(左軸)
3,190
(件)
このような技術ネットワークの見方から、
例えば、
「①特許数が少ない」かつ「②論文発
研究助成件数(左軸)
研究助成1案件あたりの平均申請額(右軸)
(百万円)
9.0
1,400
8.0
1,200
7.0
1,000
6.0
800
5.0
表が増えている」かつ「③論文発表がある程
4.0
600
3.0
400
度ある」といった条件にて、萌芽段階にある
「繋がり」を抽出することができる(表5)
。
量子ドット
「ナノテク」 - 「微生物・菌類」
生分解
「量子ドット」 - 「水素エネルギー・水素発電」
「薄膜」 - 「バイオガス」
微生物・菌類 「微生物・菌類」 - 「嫌気性消化」
光触媒
「光触媒」 - 「食品・食糧」
嫌気性消化
水素貯蔵
「水素貯蔵」 - 「バイオエネルギー」
「嫌気性消化」 - 「バイオエネルギー」
論文多
「量子ドット」 - 「照射」
薄膜
「嫌気性消化」 - 「廃棄物処理」
本来、研究開発は圧倒的な新規性、独自性
を有する個の技術=ノードを生み出すことが
[テーマ]
「JDreamⅢ」シソーラス用語
「量子ドット」 - 「有害廃棄物・放射性廃棄物」
「生分解」 - 「バイオエネルギー」
「生分解」 - 「メタン・メタノール」
特許
腫転細ス酵メ炎遺応遺同相検葉形免マ変耐植上代幹腫
瘍写胞ト素チ症伝答伝定互出
態疫イ異性物皮謝細瘍
ク
分レ
子
細
細
ル
子
作
胞
ロ
化ス
変
胞
胞
化
多
用
異
型
RNA
「ナノテク」 - 「エネルギー貯蔵」
論文
マゲ
ウノ
スム
RNA
ナノテク
新聞
0.0
遺
伝
子
発
現
萌芽段階にある技術間の繋がり
対象データ
1.0
0
DNA
表5 水素活用
2.0
200
論文少
論文発表件数が相対的に少ないながら、近
年の研究助成申請が多い用語として「幹細胞」
「腫瘍」「同定」
「免疫」など、幹細胞関連、
および、医療への応用関連が挙げられる。
目指すところであるが、決して簡単なことで
また、申請者の所属機関について、京都大
はない。多くの製品・サービスが、原材料か
はゲノム、幹細胞関連、大阪大は医療への応
ら部品、モジュール、加工・組立技術、IT・
用(免疫・腫瘍)と、各大学における今後の
制御技術と多様な技術の組合せ=リンクによ
注力テーマを見ることができる(図10)
。
図10
って成り立っている中で「新しい繋がりを生
ベーションを含めて、研究開発テーマを検討
東京大学
8
8
10
44
3
3
3
5
7
1
京都大学
11
17
14
22
5
6
2
2
7
1
大阪大学
2
23
4
26
5
4
5
3
3
東北大学
7
12
5
16
3
6
1
3
3
九州大学
2
9
5
12
5
3
5
北海道大学
2
1
7
20
8
4
1
3
2
10
1
7
1
4
4
2
1
5
4
8
2
1
2
3
2
8
3
名古屋大学
する上で有効と考えられる。
広島大学
筑波大学
した分野において、その中で萌芽段階にある
2
1
6
3
1
2
慶應義塾大学
1
1
4
16
3
2
千葉大学
2
4
理化学研究所
4
6
岡山大学
1
2
金沢大学
2
5
遺
伝
子
発
現
D
N
A
効な情報ソースとして、研究助成申請のデー
タ活用を紹介する。データは「COLABORY」
テーマ×機関
2
13
4
2
8
1
7
4
2
2
1
6
2
4
:テーマごと2~3位
9
4
2
24
12
3
8
6
4
1
2
37
12
3
18
2
2
4
3
30
14
9
4
4
3
4
2
1
20
4
5
12
6
5
3
2
4
2
26
11
1
9
4
8
3
3
6
17
14
1
14
4
3
20
4
5
9
3
14
3
9
1
6
3
1
7
10
4
3
3
1
2
1
1
3
2
1
1
1
2
1
3
1
3
3
2
2
2
3
2
7
3
2
2
6
4
1
2
3
2
33
5
3
2
4
1
12
1
5
1
5
5
2
10
4
2
14
2
1
12
7
耐
性
上
皮
細
胞
幹
細
胞
腫
瘍
8
1
1
1
5
1
1
2
4
1
1
1
2
3
1
2
ゲ
ノ
ム
R
N
A
腫
瘍
細
胞
細
胞
分
化
ス
ト
レ
ス
1
2
1
酵
素
2
炎
症
2
1
4
5
6
1
3
2
1
5
遺
伝
子
変
異
遺
伝
子
多
型
同
定
葉
テーマ
1
3
免 Aマ 変
イ 異
疫
ク
ロ
R
N
1
1
研究助成は、研究者が自身の研究仮説に基
将来の技術動向の予見に有効な情報ソース
最後に、将来の技術動向を予見する上で有
所
属
機
関
神戸大学
テーマを掘り起こす際にも活用できる。
~研究助成申請データの活用~
研究助成
:テーマごと1位
み出す」というアプローチも、オープンイノ
なお、こうしたアプローチは、すでに成熟
遺伝子関連
づき申請するものであり、その成果が数年後
に論文発表、あるいは、特許出願として表出
してくることを考えると、これら対する先行
指標と捉えることができる。
©2015 NRI Cyber Patent, Ltd. All rights reserved.
5
NRI-CP 通信
2015 Vol.2
むすび
前稿に続き、本稿では、多様な情報ソース
を明確な「軸」を定めて分類し、ソース間の
傾向の違い、軸間の関係、同一軸上の項目同
士の関係を捉える手法を紹介した。
本稿が事業開発、研究開発のさらなる活性
化の一助になれば幸いである。
©2015 NRI Cyber Patent, Ltd. All rights reserved.
6