Title 活働電圧変化による筋疲労測定の一方法に就て Author(s) 冨田, 恒男; 神田, 光子; 飯田, 浩子; 原, 正 Journal URL 東京女子医科大学雑誌, 23(2):43-47, 1953 http://hdl.handle.net/10470/12263 Twinkle:Tokyo Women's Medical University - Information & Knowledge Database. http://ir.twmu.ac.jp/dspace/ 13 (東京妻医大誌・第23巻第2号=頁43−47昭和28年5月) 活働電圧変化によう筋疲勢測定の一方法に就て 東京女子医科大学生理学教室 教 授 冨 田 恒 トミ タ ツネ オ 神 田 光 子 カン ダ テル コ 飯 田 浩 イ4 原 ダ コウ 男 子 一」 正 アキラ !、フ (受付昭和27年5月2日) 1.緒 定しようとす.る筋の筋腹に,皮膚の上から一対の 言 誘導電極を当てた場合に誘導せられる活働電圧の 筋疲労を検する方法として,例えば握力計等に 波形は筋疲労の進行に伴って, (1)振動週期の より,種々の段階の筋疲労度にあると考えられる 増大(個々の筋三三電圧の持続時間の延長による) と, (2)振巾の増大(個々の筋活働電圧の毎秒 状態に於ける筋力を測定して,その測定値の比較 t一 から逆に其の測定時の筋疲労度を推定することは 当りの発現数の増大に因る)との2つの綜合的変 一応合理的と考えられるが,結果として現れるも 化を示す。この関係を模型的に図示すれば,第1 のが果して被検者の最大意志的労力によるものか 図の如くである。樹この様な筋活働電圧波形の疲 否かの判定が困難であり,特に冨田(1)が曾て女子 労による変化が,予め存在する筋疲労の程度に応 工場労務者に就て試みた調査結果からみて,女子 じて増強せられるであろうことは容易に推測し得 は男子に較べて最:大筋力を発揮する為の最:大意志 る所で,吾々はこの様な活働電圧波形の変化を 的努力を敢てしない憾みがあり,従って得られた meterで読み得る単一な電流変化に変える装置を 成績に必ずしも信をおく事が出来ない事が屡々経 考按し,・之により実験を試みた次第である。 験せられる。次に客襯的な方法の一として筋硬度 第1図 疲労前中等度疲労 の変化の追求が考えられるが,軽度の筋疲労にあ っては筋硬度に認むべき変化を証明し難い。鼓に 吾々は加藤(2,3, 4)の報告に基ぎ,次の如ぎ原理に 高度疲労 筋灘聯齢蝋脚嚇制細 基く筋疲労度測定の一法を試みた。即ち被検者に 対して過重でない程度の一定強度の筋力を出させ 2. 方 てこれを一定時間だけ持続せしめる事により,筋 自休に軽度の疲労が進行するが,その間一定塗度 の筋力を要請するのであるから,筋自休の疲労に よる筋力減退の傾向は錺活働に関与する神経活働 を高めることによってのみ補償せられる。鼓に筋 法 筋疲労に伴う活働電圧波形の変化を,meterの振 れに変える為の装置として,第2図の如き結線を用い た。即ち入力からの微弱な筋活働電圧は6c6による 4設増幅の後,第4段目のプレート回路に100Hチョ ーク及び2μfdコンデンサ・一・を並列にしたものを挿入 自体の疲労の進行は個々の筋活働電庄の持続時間 して,これにより略15サイクル以上に於て周波数に の延長となって現われ,叉筋疲労を補償する為の 逆比例する如き感度曲線(第3図参照)たらしめた後, 神経活働の増強は個・々の筋活働電圧の毎秒当りの 之に双3極管6SN 7 GTを附属させて,その1側を2 発現数の増大となって表われる。斯くて疲労を測 極管代用として検波し,更に之を他側の3極管部分の 一43一 14 2 第 、 6ご6 67S?y7rr T =呂竃8 贔 E . 唇 ュ/5 吻 》 ウ 臨 R==■ 嶸C塁. 一 〇 R0馨 入 666 @6ご6 D 巳, 図 @ z, 一 ミ1 f 妻 1 一皿、 r卜’…『1 雪1 “ 卿 蝉翠 臣 ⊥ ⊥τ A.C, 7 第 3 図 1 グリッドに導いて増幅し,そのプレート回路に挿入し たmeterMによってプレート電流を直読レ得る如く 増 装置した。碕,第2図に示したジャックAからは筋活 嘔 働電圧そのものを,叉ジャックBからは最後のmeter の振れ,即ちプレート電流を夫々横河の3素子型電磁オ 庭 ッシログラフに導くことによ「り,同時記録を可能とし た。筒,電源交流の混入を防ぐ為,本増幅回路の最初の .度 2段は特にB電源として乾電池を優用し,それ以後の 増幅には,ca 2図の下段に示す如き交流電源から整流 せられたB電源を用いて十分安定な結果を得る事が出 来た。此の回路により,筋活鋤電圧の疲労に伴う波形 5 .ro 20 40 第 4 孜労萄 変化と出力との関係を模型的に図示すれば第4図の如 80 t6e’ 320 周 痕 蘇 くで,振幅の変化のみならず週期の変化をも加味した 図 穿壕後擁易 綜合的変化が出力として得られることになる。 直心易 但し蚊に注意を要する点は,緒言で述べた所か ら明かな如く,結果の判定には負荷せられた筋 筋活動電圧波形 w咽関門卿幽 劇暑 繰轡藷誰一 幅翻 の振幅の変化 2極検波による最: 終段グリッド貢荷 脚 菱 俣 力がテスト期間中確実に保持せられていた事の 確認を前提とする。次に述べる第1実験に於て は上上を垂直に,又前鱒を肘部で直角に曲げて 水平に保ち,手掌に5k9の負荷をかけて2頭 腰筋から活働電圧を誘導記録したが,この場合 には指端が常に一定の高さの標識を麺す如く被 検者に注意させた。叉第2の実験に於ては一定 電圧一一一meter指度 の握力を保たせた場合の浅指屈筋の渚働電圧を 一 44 一一 15 5 第 図 u 一一一 一一一}一一一一『一一一}一一一 ド 矧 1 : } .〆膣 1 1 : 圧描詑縄㈱ ; : 、電脳 1 1 o \ コム緋 ロ 旨 : : レ醜 ロ □ @ リヨ と : : 一J ド ヨ ト 引物才w・乃フ 」 [ 1・ 睾≡ lt o o 融白白白駒 @ 誘導したが,この場合には第5図に示す如く,血圧計 おく。手掌を上に.して前司を水平に上臆と直角に の送気用ゴム球を右手に握らせ,被検者の眼前に置い 保ち,手掌⊥に5kgの分銅を載せ,そのまx筋 た気圧計が常に150mmHgを指示する如く注意させ 疲労計の指針が一定指度(本実験では仮に3.0) 乍ら40秒間頑張らせてみた。筒,指先とゴム球との に落ちる迄の時間を測定してみた。その一例を示 間にはゴム球の育曲に略一致したアルミニウム板を挿 すと第6図の如くで,第1回テスMa於ては之に 入する事によって握り方,特に指先でゴム球を圧した 場合と,然らざる場合とで起り易い誤差を極少に止め た。更に被検者が課せられた一定の静的筋労作を忠実 に厳守したか否かを一目瞭然たらしめる目的の為めに は,時々刻々の気圧計の振れを前述した第2図の装置 によって描かれた筋波労曲線と平行して同時記録する ユ分50秒を要したが,その後20秒間の休息を与 えた三智2回のテストに移り,同じ3.0の指度を 得る迄の時間として58秒を得た。同様に20秒の 休息を経てテストを反覆することにより,同一三 度を得る為の時間は26秒,11秒,7秒,5秒, 事が一番望ましい。斯かる意味に於て富田及び米満㈲ 3秒と短縮し,その後は常に3秒程度を維持し によりCatheterizationによる心臓内圧描記の為に た。鼓に於て2分闇の休息を与えた後に同様の実 試作せられた電気的圧描記装置を気圧計と並列に附属 験を試みたのに35秒を得た。このことは2分聞 せしめた。 の休息の間に筋疲労は相当の恢復を示すが,倫疲 労前の状態に比すればその恢復はきわめで不完全 3.実験成績 であることを示している。以上の成績は静的筋労 第1実験 2頭搏筋を対象とした疲労実験 作そのものによる筋の疲労とその恢復を純客観約 誘導電極は1cm2大の真鍮板2枚に食塩水に浸 したガ・一ゼを巻いて5cmの間隔で2頭三筋上に に量的に表示することが可能であることを示して いるQ 一45一 16 は極めて明瞭に筋疲労の進行を表していると 第 6 図 一一一 は言え,この方法を直に一般の筋疲労検査に vXts @llO 移すことに就ては幾多の困難が感せられる。 その主たるものはテストそのものとして負荷 筋”ρ 藩・・ する作業が過重て,その負荷作業自体による x 鍾 乳。 筋疲労が永く残留し,実務による筋疲労と混 同して結果の判定を誤らしめる叢れのあるこ 豊” 臨・ とてある。そこて負荷すべき肪作業強度は軽 ×・, .,/x. 度のものとし,勿論その為に筋活働電圧は必 然的に著しく小さくなるのて之を疲労計の感 究 度を高めることによって補償し,疲労計の meter の振れを筋力を示す曲線と平行して 一xtNtN一一“一tt““ 10 記録してみた。この漂交流電燈線その他から 12,3456789 一一→ 作業Jcrt四K の入力への僅かの影響も結果に著しい障碍と /0〃 なるのて,被検者を完全に金絢て遮蔽せられた小 第2実験 蕪蒸屈筋を対象とした疲労実験 室内に導いて実験を行った。第7図は本法による 以一ヒ記した2頭臆筋よりする筋活働電圧の誘導 一連の記録例てあって,握力の強さを150mmHg 第 労 A.疲 前 影響撫 遜 冊蹴略 1 碇 7 図 度 疲 C.中 等 度 疲 労 労 舞舞饗響欝襖塾藷灘離離薪ll 冨兜 葭残 轟 勧 面 書 B.軽 ・ やヨ サ さ iV l り ウ き 季 , ∫ 蓬 鴫 こ ら ご を ‘噂 っ ・ ・窯驚 ドう き 。 : ’ミ、べいノ ヤ 砧 ノ だへ え 事 ぜオ ソ } 心 て に に 護 む {〆・轡鱒 舘繋〆1・ 察 簿 {ゼニ㌻芦臨画t》 レ や 鞭岬 ∴㌧轄;ぶ趨 ぎ 蟹_麟瓢蕪轟濾__螺 D.高 醸 な エネ 蓬 茎 ∵ 出贈∫ L蚤 et“’ 『 讐1 』磁. 灘夢 騰鷲翠 綴・♂ 轟磯麟麟 . 奏 1 ミ薄そ 踊三晶晶i 《叩 だ 薯, ♂ 評㌦ 望 議論, 婁γ b ド ・ ..尊:嵐麟 ポ E.疲労恢復後 度 疲 労 は い ・ ドヴつモへ やもモザも 三幅い㌦電 鴨 , 那 ゑ ヘ 妻 1 ・ 疹 ’ 1 握力曲線 帆 ヒ 曝雛誌 ノ、・ が 辱 i{ ■:疲労曲線 皿:活動電圧 ¶兄 ,s ㌃ 事 g ∬曝聯繋讐糊 rl ’ 軋 ・睡磨 評ゼ ’ \、/全判 熱 墨.鍾譲 nl 一46一 D轡。、、欝融奮毒 17 に40秒間保持するテストを数回に亘り反覆した時 由により異った個人間の筋疲労度を比較することは出 の筋疲労の進行状況を示している。図の曲線工は 来ない。即ち皮下脂肪の多寡・筋の発達程度等は何れ も同一負荷に対して外部に誘導せられる活働電圧の大 握力曲線,11は憩秒闇のテス5負荷に伴う疲労の きさを変化させる原因となるからである。 進行状況を示して居り,曲線亙の下降度の大きい 次に第一実験実施中に経験した疲労感(主辞的疲労) 程筋疲労の大なる事を意味する。更に曲線皿は筋 は興味あるものであって一言に値すると考える。即ち 活働電圧そのものを参考の為に記録したもので, 第1回テス1・に於てmeterの最終指度に達する迄の それが純粋に筋活働電圧のみから成っていて結果 1分50秒目後半に於て局部筋に生ずる疲労感は甚だ の判定に障碍となるべき何等の介入電圧も含まな 激烈なもので・この様な勲労感は第2回テストの途中 に於ても同様に経験せられた。然るに第3回以後に於 いことを実証する目的以外に意珠はない。因に図. て客観的筋疲労は第1,2回と全くpm一一程度に迄進行 には特に曲$・R 1・及びllを点線で補強してその経過 するにも拘らず,波労感は次第に薄らいで,それ程の を明瞭ならしめてある・同図Aは被門前,三図B 苦痛を感じない様になった。換言すれば,客観的疲労 は同一試験を20秒間の休息をおいて反覆した時 と主観的疲労(疲労感)とは疲労進行の或途上に於て の第3回目の記録図で軽度の疲労状況を示して居 遊離を示すといふ事実を明確に捉える事が出来たわけ る。叉三図Cは第5回目で中等度同じくDは第 であって・このことから主観的疲労を対象とする心理 学的研究の成果は必ずしも之を直に客観的疲労と結び 7回目で相当高度の疲労に該当する。省疲労が高 つけ得ないものであることを知った。 度となると(D図参照),握力曲線(]1)自身が平 5.結 語 滑さを欠いて凹凸が著明になったり,叉は40秒間 1) 入体筋に一定の静的負荷をかけた場合にそ の持続の後半に握力の低下を見たりするに至る。 の筋に生ずる活働電圧波形の時間的変化とし七, そしてその様な握力曲線の凹凸に応じ七当然疲労 (1)周期変化と,(2)振巾変化とが現われるが, 曲線自体にも凹凸が認められる。然し其の後30 この2つの変化の綜合を単純な電流変化に還元 分間の休息の後に再び検した切図Eの曲線は疲労 し,之によって筋疲労度をmeterの指度だけで 前のAの曲線と略相似であって,このことから以 表示し得る如き装置に就て述べた。 上の反覆試験による疲労も30分後には完全に恢復 2) 2頭騰筋及び浅指屈筋についての上記装置 するものであることが分る。そして一か日この程 を用いての実験から,或個人についての筋疲労度 度のテスト負荷では1回のテストを実施した5分 を純客観的に表示し得ることを知った。 後には,このテストそのものによる筋疲労は完全 3)主観的疲労(疲労感)乏客籔的疲労とは疲: に恢復する’ものであることを十分に確め得た。 労進行の過程に於て分離を来すこと,従って疲労 4.考 察 感は必ずしも客観的疲労の明確な指湿たり得ない 上記2実験によって少くとも筋疲労を客観的に捉え ことを示した。 得ることを知った。従って疲労を測定せんとする筋の 種類に応じて適当な作業負荷の形式を決定すれば,充 分実用化の可能性あるものと思われる。但し戴に注意 を要する点は電極装着部位を厳密に一定とする必要の あることで,僅かの電極位置の移動も誘導ぜられる活 働電圧の大きを変化し,従って結果の判定を誤る原因 文 献 1)冨田恒男:筋鞘作業能力テストに表れたる熟練工 と不熱練工との差異に建て.労働科学研究15.昭 和13年 2)加藤正美:筋疲労に関する研究(第一報)入体筋 疲労に伴う筋働作電流波形変化の分析的研究.慶応 医学21.昭和16年 しを附することはこの意味に於て適切であるが,皮膚 3) 加藤正美:筋疲労に関する研究(第二報)纂の神 経筋標本を用いて疲労に因る筋認可電流波形の変化 と強直張力曲線高との関係を検す.慶応医学21. と其の内部の筋とは体位によってその相対的位置を容 4)加藤正美:筋疲労に関する務究(補遺)墓の神経 易に変えるから,皮膚上の印しだけを目標にしたので .筋標本を用いて刺激頻度の変化と筋強直張力曲線高 との関係を検す.慶応医学22.昭和17年 ・ 5)冨田恒男及び米満澄:心臓内圧の電気的一記録装 となるQ硝酸銀等により電極を当てる皮膚の部位に印 は不充分で,更に測定時の体泣をも毎回の測定に当っ て一定とすることの必要を痛感した。又全く同様の理 昭和16年 置(未発表) 一47一
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