第3章 細胞と組織

第3章 細胞と組織
さいぼう
この章では、ヒトの体の構造と働きの基本的な単位である細胞と、特定の細胞が集まって形成されたヒトの
そ しき じようひ
けつごう
きん
しんけい
四大組織(上皮組織、結合および支持組織、筋組織、神経組織)について説明します。
第1節
ヒトの構成単位である細胞
わたしたちの素晴らしい体も元をただせば、二個の細
らんし
せいし
胞(卵子と精子)の合体によって生じた、たった一個の細胞
じゅせいらん
肪酸、タンパク質、脂質、アデノシン三リン酸、老廃物な
どです。
である受精卵から作られたものです。
サイトゾルでは、多様な化学反応(代謝)がおこなわれ、
ゆうしぶんれつ
受精卵が有糸分裂を繰返すなかで細胞の数が増え、
そしき
解糖系が存在し、細胞の構築あるいは成長に必要な化合
きかん
組織、器官、そして(器官)系を形成していきます。
物を生成しています。
表3-1 細胞質における主な電解質の濃度
1.細胞の構造
電解質の種類
さいぼう
ヒトの体は細胞 cell と細胞が作った物質で構成され、
ナトリウムイオン
細胞内の濃度(mM)
5∼15
ヒトのすべての活動は細胞の働きに因るものです。ヒトの
カリウムイオン
体は、約200種類、約60兆個の細胞から構成されるが、細
塩素イオン
胞の大きさや形は細胞の種類で異なります。細胞の大き
マグネシウムイオン
0.4
さは、高分解能の顕微 鏡 で始めて観察できるものから、
カルシウムイオン
微量
けん び きよう
140
5∼15
肉眼で観察できる卵細胞(直径170~220mm)まであり、
通常の大きさは5~50mm(直径)です。
2)胞膜
細胞の内容物は、流動性のある薄い細胞膜 cell
細胞は、細胞膜 cell membrane によって細胞外と区
別され、内部には細胞質 cytoplasm や核 nucleus を入
membrane で包まれています。細胞膜の厚さは7.5~
れています。細胞質を構成する液状のものをサイトゾル
10nm で、電子顕微鏡でのみ観察されます。
cytosol と呼びます。また、細胞質には、数種類の細胞
細胞膜は、二層のリン脂質や、散在するタンパク質、
とうさ
小器官 organelle が存在します。さらに、脂肪滴 fat
糖鎖、コレステロールなどから構成されています。
droplet(トリアシルグリセロールを貯蔵)やグリコーゲ
二層のリン脂質では、親水性のリン酸の頭部は液体に
ン顆粒 glycogen granule (グリコーゲンの集積像)、色
接する側にあって、二分子の脂肪酸で構成されている疎
素顆粒 pigment granule (メラニン顆粒 melanin
水性の脂肪酸の尾部は水を避けて内部に存在しています。
そ
すいせい
granule、フェリチン顆粒 ferritin granule やヘモシデ
リン脂質は、水をはじく性質(疎水性)があり、細胞内にお
リン顆粒 haemosiderin granule、ビリルビン顆粒
ける余分な水分の出入りを防いでいます。そのため、細
bilirubin granule など)、プロテアソーム proteasome
胞膜が壊されると細胞は死にます。一般的なリン脂質の
(タンパク質複合体で、不要なタンパク質を取り除く働き
化学構造については、図2-17を参照してください。コレ
などがある)などを細胞質に含む細胞も存在します。
ステロールは、リン脂質の分子間の隙間を埋め、細胞膜
1)サイトゾル
の強度を強めて、流動性や透過性を低くしています。戦後、
サイトゾル cytosol は、細胞質にある細胞小器官を取
り囲む液体で、細胞の体積の約55%をしめています。サ
すき ま
日本人の食事でコレステロールを含む食べ物が増えたこ
とが、血管の細胞の強度を強めた、と考えられています。
細胞膜に存在するタンパク質には、細胞外の情報を細
イトゾルの75~90%は水分です。水には、多様な化合物が
溶けています。種々の電解質やグルコース、アミノ酸、脂
う
じゅようたい
胞内に伝える受容体 receptor や、物質の出入りを調節
- 30 -
するチャネル channel、細胞膜を通過させ細胞内に物質
envelope)で包まれた大きな球形あるいは楕円形の一個
を運ぶ輸送体(担体) transporter、細胞連結装置などの
の核 nucleus (直径は3~10mm)があります。
かく
働きがあります(図3-4)。
しかし、骨格筋細胞や破骨細胞などの特殊な細胞では複
タンパク質の外表面には糖鎖がつくものがあります
数の核が存在します。一方、成熟した赤血球では核があ
(図3-2)。この糖鎖は細胞同士の連結や、細胞の識別、
りません。
細胞間の情報伝達に重要な役割を担っています。
一般に、明るく大きな核は、核の機能が活発なことを
このように、細胞膜は、細胞の形を維持し、内容物を
表しています。
保護するだけでなく、細胞同士の連結や細胞の内外への
小胞体から分化した膜で形成された核膜には、多数の
物質の移動を調節し、細胞の外からの情報を受け取り、
核膜孔 nuclear pore が存在し、核と細胞質との間にお
他の細胞や器官との情報の伝達などもおこないます。
ける物質の移動を調節します。低分子やイオンは拡散で
◆細胞連結装置
移動し、リボ核酸やタンパク質のような巨大分子は選択的
より
輸送に因ります。
細胞と細胞を連結する装置には、タイト結合 tight
核の内部には、デオキシリボ核酸(DNA)とタンパク
junction〔密着(閉鎖)帯 zonula occludens〕や接着帯
せんしよくしつ
zonula adherens (adhesive belt)、接着斑(デスモソー
質(ヒストンなど)との複合体である染 色 質 chromatin
ム) desmosome (macula adherens)、ギャップ結合
があります。
gap junction などがあり、それぞれ異なる働きがありま
核の主な働きは、デオキシリボ核酸に記録されてい
す。タイト結合は、隣接する細胞膜を密着させ、細胞間
る遺伝情報(暗号)をメッセンジャーリボ核酸(mRNA)に
を通過する分子を制限し、通過を調節しています。接着帯
読みとること(転写 transcription)です。この働きを通
は、隣接する細胞の微細線維の束をつないでいます。接
じて、核は、細胞内のいろいろな代謝の調節中枢として働
着斑は、細胞内の中間径細糸をつなぎ、機械的伸展で細
きます。ヒトの遺伝子は約2万9千個です。
胞が互いに離れることを防止しています。
◆核小体
かくしょうたい
核の内部には、染色質の他に、核 小 体 nucleolus が
ギャップ結合は、水溶性の低分子などを通過させる細
胞間チャネル(コネクソン)を形成し、細胞間の情報の伝達
存在します。核小体は、リボソームリボ核酸 rRNA を
に貢献しています。
生成し、リボソーム ribosome を合成する場です。この
き ていばん
上皮組織の細胞と基底板とを接着させるものに半接着
部位にはタンパク質合成に重要な役割を担うリボ核酸
斑(半デスモソーム) hemidesmosome があります。
RNA が多量に存在します。肝細胞や神経細胞などのよ
◆微絨毛
うにタンパク質を多量に合成する細胞では、核小体が明瞭
びじゅうもう
です。
細胞の種類によっては、細胞の表面に、微絨毛
microvillus と呼ばれる、高さが約1 mm で太さが0.1~
0.5mm の小突起が見られ、細胞の表面積を20倍から30倍
へと広くしています。
◆飲作用と飲小胞
細胞膜の陥入で形成される小胞は、細胞が細胞外から
いんさよう
小さな物質を摂取する飲作用 pinocytosis を示し、取り
いんしょうほう
込まれた物質を包み込むものを飲 小 胞 pinocytotic
vesicle と呼びます。
図3-1
図3-7 細胞膜による飲作用と飲小胞を模式的に示す
3)核
感覚神経細胞における核小体を矢印で示す
◆染色体
せんしょくたい
細胞が分裂する時には、染色質は染 色 体
多くの細胞には、二重の膜構造(核膜 nuclear
- 31 -
chromosome を形成します。正常なヒトの染色体は46個
じょう
する多数の酵素が付いています。
で、22対の 常 染色体 autosome と2個の性染色体
クリスタの間を基質といいます。基質には液体が存在
sex chromosome とから構成されます。通常、男性の性
し、豊富なタンパク質や環状のミトコンドリア・デオキシ
染色体はX染色体 X chromosome とY染色体 Y
リボ核酸、三種類のリボ核酸などが溶けています。
chromosome で構成され、女性ではX染色体が2個です。
ミトコンドリアの構成成分の遺伝情報は、ミトコンド
個々の染色体には、短脚 short arm と長脚 long arm、
リアDNAのなかに含まれています。そのために、ミトコン
動原体 centromere などがあります。この染色体の上に
ドリアは、自ら分裂することによって、新しいミトコンド
様々な遺伝子が存在します。長い1番目の染色体には
リアを形成します。
2782個の遺伝子が、短い21番目の染色体には352個の遺伝
基質には、β酸化やクエン酸回路(クレブス回路)に関与
子が存在します。
する酵素が存在します。内膜には、電子伝達系(呼吸鎖)に
【染色体の数】
必要な酵素が付いています。
ミトコンドリアの機能障害による代表的な病気には、
・男性の染色体:22対の常染色体、X染色体、Y染色体
ATP 合成が盛んな器官での病気、すなわち筋疾患や心
・女性の染色体:22対の常染色体、1対のX染色体
疾患、脳疾患などがあります。
短脚と長脚の両端には、テロメア telomere と呼ばれ
表3-2 ミトコンドリアでの代表的な働き
るデオキシリボ核酸の配列があります。多くの細胞では、
膜または区画
細胞分裂でテロメアが少しずつ短くなります。テロメアの
短縮が進み、ある水準を超えると細胞は分裂をやめます。
外 膜
この短縮が「加齢疾患のリスク」に関係しているとの報告
代 謝 機 能
リン脂質の生成
脂肪酸の不飽和化
代謝産物の輸送
があります。
内 膜
4)細胞小器官
電子伝達系
酸化的リン酸化
さいぼうしつ
細胞質 cytoplasm には、細胞の核の調節下で、機能
膜間隙
を分担しながら細胞の生存や働きに貢献する多様な細胞
脂肪酸のβ酸化
しょうきかん
小器官 organelle が存在します。
基 質
①ミトコンドリア
ミトコンドリア mitochondrion は、細胞内でグルコ
二酸化炭素を発生しながら、ピルビン酸や脂肪酸から効
率よくアデノシン三リン酸(ATP)を産生する細胞小器官
で、一つの細胞では百個から数千個存在します。
代謝の活発な細胞、すなちわ筋細胞や肝細胞、腎臓の
尿細管の細胞などでは、ATP の産生が盛んで、数多く
ピルビン酸の酸化
クエン酸回路
DNA複製
ースの生成や脂肪酸の合成、アミノ酸の相互変換などの多
彩な代謝に関与するとともに、細胞のなかで酸素を使い、
ヌクレオチドのリン酸化
◆クエン酸回路
クエン酸回路は、酸素を消費しながら主にミトコンド
リアの基質でおこる化学反応(好気的呼吸)です。
細胞質での解糖系で産生されたピルビン酸は、ミトコ
ンドリアの外膜や内膜を通過し、基質に入り、脱水素酵
素と脱炭酸酵素の働きで、水素原子や二酸化炭素を分離
コ・エイ
し、アセチル CoA となります。また、脂肪酸は、ミト
のミトコンドリアが見られます。
ミトコンドリアの形は、細長い棒状を示し、太さが0.
5~1 mm で、長さは2~6 mm ぐらいです。
ベータ
コンドリアの中に入り、 β 酸化によってアセチル CoA
を形成します。なお、長鎖脂肪酸がミトコンドリアの膜
ミトコンドリア膜には外膜と内膜とが存在します。こ
を通過するためにはカルニチン carnitine が必要です。
れらの膜は、細胞膜と同じ構造です。外膜と内膜との間
さらに、アミノ酸も代謝されて、アセチル CoA となる
を膜間隙と呼びます。
か、クエン酸回路の中間産物となって、この回路で利用さ
れます。
内膜が内部に向かってクシ状に突出し、クリスタ
crista を形成します。クリスタの表面には、代謝に関与
また、クエン酸回路は、グルコースの生成や脂肪酸の形
成、アミノ酸における相互変換でも中心的な役割を担い
- 32 -
ます。これらの化学反応は、体内の多くの組織でおこな
アセチル CoA やスクシニル CoA の形成に貢献します。
われますが、大半の代謝を実行できるのは肝臓の肝細胞
◆電子伝達系
だけです。
電子伝達系は、ミトコンドリアの内膜に並んだ酵素(脱
◆クエン酸回路での化学反応
水素酵素やフラビン酵素)と一連のシトクロム系のタンパ
ⅰ)アセチル CoA は、オキサロ酢酸と結合して、クエ
ク質とから構成されています。
ン酸を作ります。クエン酸は、つぎにシス-アコニッ
ト酸を経由して
シトクロム系のタンパク質は、鉄を有し、
イソクエン酸になります。
Fe3++ e -→ Fe2+
ⅱ)イソクエン酸は、脱水素と脱炭酸がおこなわれて
のように電子が鉄を移動することができます。
電子が移動する際に、酸化還元反応が繰り返され、そ
a-ケトグルタル酸になり、さらに脱炭酸や脱水素に
よってスクシニル CoA となります。
の際に自由エネルギーが生成されます。
ⅲ)スクシニル CoA は、ATP を産生するとともに補酵
◆アデノシン三リン酸の形成
素Aを分離し、コハク酸に変わります。コハク酸は、
電子伝達系で電子を受け渡しする時に発生する自由エネ
脱水素によってフマル酸になり、さらに加水反応でリ
ルギーによって、ミトコンドリア内の水素イオン(プロト
ンゴ酸に変わります。
ン)(H+)がくみ出され、内膜と外膜との間の水素イオン
リンゴ酸は、脱水素を受け、オキサロ酢酸になり、
いちじゅん
クエン酸回路を一 巡することになります。
(プロトン)濃度が上昇します。ここで発生した化学浸透圧
のエネルギーがミトコンドリアのアデノシン三リン酸合
成酵素を活性化し、アデノシン二リン酸(ADP)に1分子
解糖系やクエン酸回路で形成された水素原子は、補酵
素〔ニコチンアミドアデニンジヌクオチド(NAD)やフラ
のリン酸を結合させアデノシン三リン酸(ATP)を合成し
ます(図3-16)。
ビンアデニンジヌクオチド(FAD)〕などによって水素イ
前述のごとく、1分子のアセチル CoA からは、クエ
オン H と電子 e とに分かれます。この電子が内膜に
ン酸回路と電子伝達系とで10分子の ATP が産生されま
付いている電子伝達系に運ばれ、アデノシン三リン酸
す。
+
-
(ATP)を合成するエネルギーになります。電子と水素イ
オンは、最終的に酸素と結合し、水分子を形成します。
注)生体における酸化反応は、ある分子が電子を放出する
また、産生された二酸化炭素は、そのまま細胞外に放出
ことを示し、多くの場合、水素原子が放出されます。ま
されます。
た、還元反応は、逆に、ある分子が電子を取り込むこと
1分子のアセチル CoA がクエン酸回路に入り一巡す
をいい、多くの場合、水素原子が取り込まれます。
ると、3分子の NADH や1分子の FADH2、1分子の
生体内では、酸化反応や還元反応において、補酵素が
GTP、2分子の二酸化炭素などが合成されます。1分
水素や電子を運ぶものとして重要な役割を果たします。
子の NADH の再酸化によって2.5分子の ATP が産生さ
重要な補酵素の一つにニコチンアミドアデニンジヌクオ
れ、さらに1分子の FADH2から1.5分子の ATP、1分
チド(NAD)があります。この補酵素は、酸化反応では、
子の GTP から1分子の ATP が作られ、クエン酸回路
以下のようになります。
の一巡で10分子の ATP が産生されます。
+
+
NAD + 2H + 2e → NADH + H
-
+
また、還元反応では、以下のようになります。
◆クエン酸回路で重要な役割を担うビタミンB群
クエン酸回路においては、水溶性ビタミン B 群が重
NADH + H → NAD + 2H + 2e
+
要な役割をはたします。リボフラビン(ビタミン B2)は、
+
+
-
②小胞体
しょうほうたい
小 胞 体 endoplasmic reticulum は、細胞の内部に広
a-ケトグルタル酸脱水素酵素やコハク酸脱水素酵素な
どの補酵素として働きます。ニコチン酸は補酵素の
がっている複雑な細い小管の構造物で、核膜や細胞膜とも
NAD の形成に必要です。チアミン(ビタミンB1)は、a-
交通しています。
ケトグルタル酸脱炭酸酵素の補酵素の形成に使われます。
液で満たされた小管は、細胞内での代謝物の拡散を促
さらに、パントテン酸は、補酵素A(CoA)の構成成分で、
進し、管系の膜には細胞の代謝で重要な役割を担う酵素
- 33 -
が含まれています。
③ゴルジ装置
へんぺい
のうじょう
ゴルジ装置(体)Golgi complex は、扁平な嚢 状の膜
a)粗面小胞体
そめん
粗面小胞体 rough endoplasmic reticulum は、リボ
が重なり合う部分と、その周囲に集まる小胞とから構成
ソーム ribosome が小胞体に付いたものです。リボソー
されています。
ムは大きさが約 15nm ぐらいの粒子で、リボソームリ
粗面小胞体で合成されたタンパク質は、ゴルジ装置に運
ボ核酸(rRNA)(65%)とタンパク質(35%)とで構成され、
ばれます。ゴルジ装置では、タンパク質に糖や脂肪酸を付
コドンにしたがってアミノ酸をペプチド結合でつなげ、
加したり、硫酸基を結合させたり、タンパク質を適当な長
ペプタイドやタンパク質を合成する重要な場となります
さに切断したりします。そのために、タンパク質を分泌す
(図3-18と図2-29)。
る細胞でゴルジ装置は顕著です。
ポリリボソーム(ポリソーム) polyribosome と呼ばれ
また、ゴルジ装置では、合成した物質を選別し、細胞
る遊離のリボソームも細胞質に存在し、細胞が利用するタ
内で利用するものと、分泌物として細胞外に分泌するもの
ンパク質(酵素など)を主として合成します。
とに分け、分泌物を分泌小胞 secretory vesicle あるい
一方、粗面小胞体に付着したリボソームの場合には、細
は分泌顆粒 secretory granule として作ります(図3-36)。
胞が分泌するタンパク質(消化酵素や血漿タンパク質な
ゴルジ装置は、分泌物を貯蔵し濃縮する役割もありま
ど)を主に合成します。そのために、血漿タンパク質を合
す。
成する肝細胞や、消化酵素を分泌する唾液腺の腺細胞、
さらに、ゴルジ装置は、細胞内で消化作用があるリソ
シグナル分子を生成する運動神経細胞などでは、多数の粗
ソームを形成します。
面小胞体の集積像が観察されます。
④リソソーム(ライソゾーム、水解小体)
さらに、細胞によっては、タンパク質に糖を結合させ、
リソソーム lysosome は、ゴルジ装置で形成され、直
糖タンパク質を生成したり、タンパク質をリン脂質に結合
径が0.25~0.8mm ぐらいの限界膜で囲まれた顆粒状のも
させたりします。これらの化合物は、細胞膜の合成に利
ので、約60種類の酵素を含み、その中には有機化合物を
用されます。
分解する能力があり、pH が酸性領域で作用する水解酵
このように、粗面小胞体は、細胞が分泌するタンパク質
素(酸性ホスファターゼ acid phosphatase や、リボヌク
や、細胞膜のタンパク質、細胞小器官が利用するタンパク
レアーゼ ribonulease、カテプシン cathepsin、β-グル
質を形成します。
クロニダーゼ glucuronidase、リパーゼ lipase など)が
b)滑面小胞体
存在します。リソソームに含まれている酵素の機能不全に
かつめん
滑面小胞体 smooth endoplasmic reticulum は、粗面
よって、先天性免疫不全などの様々な病気が発症します。
小胞体から伸びた管状の構造物ですが、膜の表面にはリ
リソソームの主要な働きは、細胞内の消化で、細胞外か
ボソームが付いていません。そのために、滑面小胞体は、
ら取り込んだ異物や古くなった細胞小器官などを、内部
タンパク質を生成できませんが、脂肪酸やステロイドホル
の酵素の働きで分解します。一部の細胞におけるリソソ
モンを合成することができます。
ームは、分解酵素を細胞外に分泌し、細胞外の基質成分を
滑面小胞体は、細胞の種類によって異なる働きがありま
す。肝細胞や腎臓の細胞、腸の細胞では、滑面小胞体で
分解することがあります。
◆リソソームでの消化
グルコース 6-リン酸からリン酸を取り除き、グルコー
ないぶんぴつ
リソソームでの消化は、異なる三種類の経路で実行され
スを血液中に放出することができます。内分泌細胞の滑
ます。
面小胞体は、コレステロールからステロイドホルモンを
・第一の経路:細菌や細胞断片などの大きな細胞外の物
おうもんきん
生成する場となります。横紋筋細胞では、収縮開始に必
質は、貪食作用 phagocytosis で細胞内に取り込まれ、
要なカルシウムイオンを貯蔵します。さらに、肝細胞では
食小体 phagosome を形成します。その後、食小体は、
コレステロールの合成や、アルコールや薬物などの解毒化
リソソームと融合して食水解小体 phagolysosome と
などに関与しています。
なり、内容物を分解します。
げどく
・第二の経路:細胞外の可溶性タンパク質などの低分子の
- 34 -
化合物は、飲作用で細胞内に取り込まれ、飲小胞を形
成します。飲小胞は、リソソームに
運ばれ、
は、細い細糸によって格子状になり、細胞全体に広がり、
融合し、 細胞小器官をつないでいます。
内容物が消化されます。
a)微細管
・第三の経路:古くなったり障害された細胞小器官や細
微細管 microtubule は、直径が20~25nm の細い管状
胞膜などの細胞の成分は、小胞体に類似した膜に包ま
の構造で、チューブリン tubulin という球状タンパク質
れた後に、リソソームに運ばれます。そして、自家食胞
が重 合したもので構成されています。微細管は、図3-
autophagosome となり、内容物を分解します。
25のように、中心体から細胞の周辺に向かって伸びており
じゅうごう
ます。微細管は、ほとんどの細胞に存在し、特に、神経細
⑤ペルオキシソーム
ペルオキシソーム peroxisome は、構造的にはリソソ
胞や白血球、血小板では多量に存在します。
ームと似た細胞小器官で、小さな顆粒状のもので、直径が
0.2~1.0mm です。
微細管は、細胞の形を維持するとともに、モーター分
子と協力し、細胞内における物質の移動に関与しています。
ペルオキシソームは、内部に数種類の酸化酵素を含み、
神経細胞体と軸索の終末の間の物質の移動は、多くの場
アミノ酸や脂肪酸などを酸化します。さらに、ペルオキ
合、モーター分子に結合した状態で、微細管に沿って運ば
シソームは、毒物を酸化します。そのため、アルコールや
れます。また、線毛や鞭毛の形成と運動とに微細管は関
有害物を解毒化する肝細胞には、数多くのペルオキシソ
与しています。
ームが見られます。これらの酸化は、過酸化水素 H2O2
b)微細線維
の分解によって実行されるので、ペルオキシゾームには、
微細線維 microfilament は、直径が6~7 nm の細い
過酸化水素を分解する酵素(カタラーゼ catalase)を含み
糸状の線維構造で細胞の辺縁に存在し、アクチン actin
ます。そのため、ペルオキシゾームに存在するペルオキシ
と呼ばれる球状のタンパク質が主成分です。微細線維は、
ダーゼ peroxidase は、過酸化水素の生成と分解とをお
細胞連結装置を固定したり、微絨毛の骨格を形成したり、
こないます。また、このことによって、ペルオキシソーム
線毛や細胞の動きを作ったりしています。
は、過酸化水素の毒性から細胞を守ります。
c)中間径細糸
中間径細糸 intermediate filament は、直径が8~
⑥中心体
中心体 cytocentre (centrosome)は、核の近くに存在
10nm で、微細線維と微細管の中間の太さの線維構造で
し、非分裂期では一対の中心小体 centriole とその周囲
す。中間径細糸は、機械的な張力を受けやすい細胞で多
を取り囲む物質(チューブリンを含む)とで構成されていま
数観察されることから、張力に細胞が耐えられるための
す。1個の中心小体は、図3-23に示すように、三つ組と
構造と考えられています(図3-5)。
なった9組の短い微細管が集まって円筒を形成したもので
す。
中間径細糸には、様々な種類があります。上皮組織の
細胞ではケラチン keratin で構成されたケラチン細線維
分裂間期のS期に、中心小体が複製され、中心体が2
ゆう し ぶんれつ
があります。また、中胚葉性の結合組織の細胞にはビメ
組となります。有糸分裂の際、それぞれの中心体は、分
チン vimentin で作られたものがあり、筋細胞にはデス
かれて分裂する細胞の対極へ移動し、有糸分裂紡錘を構
ミン desmin で作られたものがあります。神経細胞では、
成する微細管の形成の中心となります(図3-24)。
ニューロフィラメント neurofilament と呼ばれていま
⑦細胞骨格
す。
ぼうすい
細胞の形を維持する糸状の細胞骨格 cytoskeleton を
g)線毛と鞭毛
びさいかん
せんもう
形成しているのは、微細管(微小管)や微細線維(細糸、ミ
線毛 cilium は、呼吸上皮にある細胞などで表面から
クロフィラメント)、中間径細糸(中間径フィラメント)な
突出した毛髪のようなもので、細胞の外の物質の移動を
どです。これらの骨組みは、細胞によって急速に組立てら
助けます。線毛の内部には、20本の微細管が芯として存在
れたり、分解したりする、しなやかな、タンパク質で形成
するとともに、微細管とモーター分子のダイニンとで線毛
された細胞の骨格です。細胞の骨格は、細胞の形の維持
の動きを作ります。
しん
に貢献し、細胞内の物質の移動を助けます。この骨組み
- 35 -
気管や気管支、卵管などの1個の細胞は、数百本の規則
正しく配列した線毛を持っています。アデノシン三リン酸
します。
を使用した線毛の内部に存在するダイニンによる微細管の
ii)中期 metaphase
動きによって波打つことができます。そのために、線毛を
この短い期間に、染色体は、紡錘の中央部(赤道板)に集
有する気道の内面に並んでいる細胞は、異物や組織の破
まり並びます。
片物などを含んだ粘液を喉頭に向かって進ませるために、
iii)後期 anaphase
線毛を休みなく波打つように動かし、1秒間に10~40回
波打ちます。
染色体は二つに分離し、それぞれが紡錘の働きにより
細胞の両極へと移動します。この移動が完了することに
べんもう
鞭毛 flagella は、細胞を移動させるために存在し、線
毛より長いが、線毛と基本的に同じ構造です。ヒトでは、
よって後期は終了します。
iv)終期 telophase
精子が鞭毛を持っています。
この時期には、染色体が再び染色質になり、紡錘が壊
れ消失し、核膜が形成され、核小体が出現します。そして
娘細胞が形成されます。
2.細胞の有糸分裂
娘細胞は、母細胞に比べて大きさは小さく、細胞質も
少ないが、遺伝的には、全く母細胞と同じです。
ヒトの体で多く見られる細胞分裂 cell division は、
ゆうしぶんれつ
細胞分裂によっても染色体の数が変わらない有糸分裂
◆細胞周期
mitosis です。ただし、精子 sperm と卵細胞 ootid
細胞周期 cell cycle は、1個の細胞が中身を複製しな
(ovum)の形成は、減数分裂 meiosis にもとづき、細胞
がら2個の細胞へと分裂する一連の過程です。
分裂で形成された細胞の染色体は、ヒトの染色体の半分
の数(23本)になります。
細胞周期には、M 期 M phase と S 期 S phase、G1期
G1 phase、G2期 G2 phase があります。M 期は、核の分
有糸分裂は、つぎの四つの過程に区分されます。
裂と細胞の分裂とがおこる時期で、典型的な哺乳動物の
細胞では約1時間ぐらいかかります。
i)前期 prophase
DNA の複製後、細胞は間期 interphase の S 期を終
M 期と M 期との間を間期 interphase といいます。
え、G2 期に入り、有糸分裂の開始のための最後の準備
間期のなかで、細胞分裂に不可欠な核の DNA の複製が
がおこなわれます。
おこなわれる時期を S 期と呼びます。S 期の前後には、
細胞分裂が開始するにつれて、染色質は染色体と呼ば
M 期の終わりから S 期の開始までの G1期と、S 期の終
れるヒモ状構造物に変わります。また、DNA の複製は
わりから M 期の開始までの G2期とがあり、細胞が大き
この段階で完了します。
くなるための時期、すなわち、細胞の成長と細胞小器官
複製された中心体は、互いに離れて、細胞の両極
の複製のための期間です。G1期と G2期には、細胞周期
spindle pole へと移動します。中心体からは、有糸分裂
ぼうすい
の進行を点検するチェックポイントがあります。
の紡錘 spindle が形成されます。
前期が終了するまでには、核膜や核小体は壊れて消失
第2節
組織
ヒトの体では、良く似た性格の細胞が集合して特定の機
そ しき
能をおこなう組織 tissue を形成します。
じょうひ
ヒトの組織には、四種類の基本的なものがあり、上皮
けつごう
きん
しんけい
・管腔の内表面を被い、体の保護や物質の吸収などの機能
せん
があります。また、上皮組織の一部は特殊化して、腺
ぶんぴつぶつ
gland を形成し、分泌物の形成と分泌をおこないます。
組織と結合および支持組織、筋組織、神経組織です。
上皮組織の細胞の特徴は、細胞の配列がモザイク状に
ぬのじよう
並ぶか、布 状 に並んでいるか、です。上皮組織では、細
せつちやく
胞間物質の量が最小限に抑えられ、細胞を互いに接 着 す
1.上皮組織
るのに必要なものだけです。
上皮組織 epithelial tissue は、体の表面(体表)や体腔
- 36 -
上皮細胞の側面は、タイト結合〔密着(閉鎖)帯〕や接着
帯、接着斑(デスモソーム)、ギャップ結合(ネキサス)など
障害を受けやすい部位にあります。すなわち、皮膚の表
の装置によって、隣の細胞との連結が強められています。
皮や口腔の粘膜上皮、膣の粘膜上皮などを構成します。
タイト結合 tight junction は、二つの細胞膜の間にお
も
⑤偽重層上皮(多列上皮)
ける化合物の通過を妨げ、簡単に漏れないようするとと
偽重層上皮 pseudostratified epithelium は、見掛け
もに、細胞膜の流動性を止める働きがあります。タイト
上、一見、重層に見えますが、良く観察すれば全ての細
結合では、クローディン claudin とオクロディン
胞が基底板(膜)のうえに乗っており、重なっていません。
occludin のタンパク質が細胞膜同士を密着させます。
偽重層上皮は、鼻腔や気管、気管支の粘膜上皮に見られ
接着帯 zonula adherens や接着斑 desmosome では、
細胞骨格とつながった膜貫通タンパク質(カドヘリン
cadherin など)がカルシウムイオンの作用で二つの細胞
膜を強く結合させます。
ギャップ結合 gap junction は、コネクソン connexon
によって二つの細胞膜をつなげます(図3-6)。コネクソ
ンは、中空の円柱状でチャネルの役割があり、イオンや
低分子を通過させることで、隣接する細胞に情報を伝え
ます。
ます。
⑥尿路上皮(移行上皮)
尿路上皮 urothelium は、重層扁平上皮に似ています
が、大きく伸展できる能力があり、膀胱や尿管、腎盤の
粘膜上皮で観察されます。尿路上皮の細胞の形は、伸展
しない時には、丸い形をしていますが、伸展すれば扁平
なものに変わります。
2)腺組織
ぶんぴつさいぼう
きていめん
上皮細胞の基底面には、主に糖タンパク質で構成された
基底板 basal lamina が存在し、上皮細胞は半接着斑
secretory cell あるいは腺細胞と呼ばれます。多くの場
合、ゴルジ装置によって分泌される化合物は、分泌細胞の
hemidesmosome で基底板と結合します。
か りゆう
しようほう
中で分泌顆 粒 あるいは分泌 小 胞と呼ばれる構造物にた
通常、上皮組織は再生の良い組織で、幹細胞 stem
められています。ゴルジ装置で形成された分泌物が分泌
cell によって新しい細胞が絶え間なく供給されます。
上皮組織には、神経は分布しますが、血管は分布してい
ません。そのために、上皮組織は、深層に分布している血
管から漏れた液体を通じて栄養や酸素をもらいます。
小胞として細胞膜まで運ばれ、直ちに細胞外に分泌
けいしつ
される構成分泌経路があります。この例としては、形質細
せん い
が
胞が分泌する免疫グロブリンや線維芽細胞が分泌する
トロポコラーゲンなどがあります。それに対して、ゴルジ
装置で形成された分泌物が分泌顆粒にためられ、細胞外
1)上皮組織の種類
上皮組織では、一層の細胞で構成されているものを
たんそう
単層といい、いくつかの細胞が重なって構成されているも
じゅうそう
ある種の上皮細胞は、分泌物を産生して、分泌細胞
へんぺい
のを重 層と呼びます。細胞の形は、横長の扁平なものや
立方形のもの、背が高い円柱状などがあります。
からのシグナル分子の刺激で分泌が行われる制御性分泌経
だ えき
すいぞう
路があります。唾液腺などが分泌する唾液や膵臓の膵腺房
が分泌する酵素原顆粒の分泌などがあります。
分泌細胞が多数集まって腺組織 gland を形成します。
はい
なお、粘膜に存在する杯細胞 goblet cell は、単独に存
①単層扁平上皮
たんそうへんぺいじよう ひ
単層扁平 上 皮 simple squamous epithelium は、血
在する分泌(腺)細胞の例です。
ない ひ
管の内表面にある内皮や、胸腔と腹腔の内表面を被う
多くの腺組織では、上皮の表面から離れて存在するた
ちゆう ひ
どうかん
中 皮などを構成します。
めに、非分泌性の細胞で構成された管(導管 duct)によっ
て分泌物を上皮の表面まで運びます。導管がある腺組織
②単層立方上皮
たんそうりつぽう
じんぞう
がいぶんぴつせん
単層立方上皮 simple cuboid epithelium は、腎臓の
を外分泌腺 exocrine gland と呼び、導管を持たない腺
どうかん
ないぶんぴつせん
近位尿細管や腺組織での細い導管などに見られます。
組織を内分泌腺 endocrine gland といいます
③単層円柱上皮
①外分泌腺
単層円柱上皮 simple columnar epithelium は、胃や
外分泌腺 exocrine gland では、通常、分泌細胞から
小腸の粘膜上皮、子宮内膜の上皮などに存在します。
の分泌物は導管に集められ、導管によって目的の部位に運
④重層扁平上皮
ばれ、導管の先端から分泌されます。外分泌腺は、構成
重層扁平上皮 stratified squamous epithelium は、
する細胞の数や分泌物の性状、分泌様式などによって分類
- 37 -
されます。
は、脂腺や瞼板腺などです。
a)分泌物の性状による分類
c)細胞の数
◆粘液腺
◆単細胞腺‥単一の分泌細胞だけのもので、杯細胞がこ
ねんえき
粘液腺 mucous gland は、粘液を分泌する粘液細胞で
構成されます。粘液の主成分は、糖タンパク質のムチン
れにあたります(図3-38)。
◆多細胞腺
分泌細胞が多数集まると多細胞腺と呼ばれます。多細
mucin です。これに属するものには、小腸の杯細胞(図3
-38)や舌腺などがあります。
胞腺は、導管の枝分かれの有無や、分泌細胞が形成する
◆漿液腺
終末部の形状(管状、房状)などによって名称が決まります。
漿液腺は serous gland、漿液細胞で構成され、通常、
・単純腺…導管が枝分かれしないもの
主として酵素を含んだタンパク質が多く、さらさらとした
単純管状腺(結腸の腸腺)、単純房状腺(尿道腺)、単純
分泌物を分泌します。これに属するものには、耳下腺や
曲管状腺(エックリン汗腺)、単純分岐管状腺(胃の幽
膵臓の膵腺房などがあります。
門腺)、単純分岐房状腺(胃の噴門腺)
・複合腺…導管がいくつかに枝分かれするもの
◆混合腺
混合腺 mixed gland は、粘液を分泌する粘液細胞と
複合管状腺(十二指腸の粘膜下腺)、複合房状腺(膵臓
の外分泌腺)、複合管状房状腺(顎下腺)
漿液を分泌する漿液細胞とが存在する腺です。これに属
するものには、舌下腺や顎下腺などがあります。
*上皮細胞 myoepithelial cells
筋上皮細胞は、汗腺や唾液腺、乳腺などの終末部や細
い導管の周囲に存在する細胞で、上皮性の細胞ですが、
収縮能力があります。この細胞は、神経伝達物質やホ
ルモンなどのシグナル分子の働きで収縮し、腺の分泌
物を外に押し出します。
②内分泌腺
内分泌腺 endocrine gland では、導管が無く、分泌物
が導管に集められずに、細胞から直接、細胞外の間隙に
分泌します。この分泌物をホルモン hormone と呼びま
す。ホルモンは、多くの場合、血管の中に入り、血液と
図3-2
いっしょに運ばれ、ホルモンの受容体が存在する細胞に
顎下腺(混合腺)の顕微鏡写真
作用することになります。
か すいたい
こうじようせん
ふくじん
下垂体や甲 状 腺、膵臓、副腎などに内分泌腺が存在し
b)分泌様式による分類
ます。
◆部分分泌
部分分泌 merocrine (eccrine) secretion は、分泌顆
粒の限界膜が細胞膜に融合し、細胞膜に孔が開き、内容
2.結合および支持組織
物だけが細胞外に放出します。例は、エックリン汗腺や
耳下腺、膵臓の膵腺房などです。
結合および支持組織 connective and supporting
かんよう
tissues は、胎生期の間葉 mesenchyme (幼若な結合組
◆離出分泌
離出分泌 apocrine secretion は、分泌物を貯めた細胞
質の上部がちぎれることによって分泌します。例は、アポ
クリン汗腺や乳腺などです。
織)から発育します。結合組織は、体内に広く分布すると
ともに多様化しており、原始的な組織から骨組織のように
高度に分化したものまで、多様な形態で存在します。こ
の組織の役割は、他の組織を結合させたり、体を支えた
◆全分泌
り、その深側にある器官を保護したりすることです。
全分泌 holocrine secretion は、細胞内に分泌物が充
満し、細胞全体が脱落することで分泌物となります。例
- 38 -
弾性線維は、エラスチン elastin というタンパク質と、
1)細胞間質
上皮組織と異なり結合組織の細胞の間(細胞間隙)には、
それを包む糖タンパク質のフィブリリン微細線維
不活性の細胞外基質 extracellular matrix を大量に保持
fibrillin microfibril とから構成され、黄色で弾力性があ
しています。細胞外基質は、無定形の基質 ground
り、長さが約1.5倍に伸びることができます。しかも、弾
substance と、散在している糸状の線維 fiber とで形成
性線維は引っ張る力が無くなると、元の長さに戻ること
されています。
ができます。
きしつ
せんい
たとうるい
エラスチンを構成するタンパク質には、グリシンやリジ
基質は、多糖類やプロテオグリカン proteoglycan、
ねんせい
組織液などから構成された粘性のある半流動性のゼリー状
ンが豊富ですが、水酸化プロリンが少なく、水酸化リジ
物です。
ンを欠いています。
こ う げん せ ん い
だんせい
弾性線維が多い組織には、皮膚や血管壁、肺などがあり
糸状の線維には、三種類の線維(膠原線維、弾性線維、
さいもう
細網線維)があります。
ます。
①膠原線維
③細網線維
細網線維 reticular fiber は、コラーゲン(III 型)で形
膠原線維 collagen fiber は、コラーゲン collagen (Ⅰ
型)と呼ぶ糸状のタンパク質で構成され、白色に見えます。 成されていますが、膠原線維のように集合せずに、膠原
コラーゲンは、体のタンパク質の25~30%を占めるほど、 線維よりも細く(直径が0.5~2mm)、繊細な分枝した線維
多量に存在し、グリシンや水酸化リジン、水酸化プロリン
を形成しています。膠原線維と同様に、細網線維も強靱さ
を多く含みます。
があり、物を支える働きがあります。
細網線維が増えた細網組織は、肝臓や脾臓、骨髄、リ
三本のプロコラーゲン分子がラセン状にからまって形成
されたコラーゲン分子が集合し、直径が10~300nm で
ンパ節などの器官で、細胞を支える骨格を形成します。
長さが数ミクロンの膠原細線維を形成します。
2)結合組織の細胞
膠原線維は、膠原細線維が束ねられたもので、強靱で、
結合組織で観察される細胞には、特定の結合組織に存
直径が1 mm のもので9 kg 以上を支えることが可能で
在する細胞と、そうでないものとがあります。
す。
①線維芽細胞
強靱な膠原線維を形成するためには、線維芽細胞がビ
線維芽細胞 fibroblast は、結合組織で最もよく見られ
タミン C を使い、プレプロコラーゲン preprocollagen
るもので、結合組織の間を移動します。線維芽細胞は、
を構成するプロリンやリジンを水酸化し、水酸化プロリ
結合組織の線維(膠原線維や弾性線維、細網線維)と、無定
ンや水酸化リジンを有するコラーゲンを形成する必要が
形の細胞外基質(タンパク質と炭水化物の複合体)とを産生
あります。また、コラーゲン分子の合成は、成長因子や
します。線維芽細胞は、発育している組織や傷の治癒など
ホルモン、サイトカインなどの複雑な相互作用で調節され
において活発に活動します。
ち
ています。トランスフォーミング増殖因子βと血小板由
来成長因子は線維芽細胞でのコラーゲンの産生を促し、
ゆ
成熟した組織では、線維芽細胞は減少し、不活発にな
り、線維細胞 fibrocyte となります。
糖質コルチコイドは産生を抑制します。
脾臓や多くのリンパ組織では、線維芽細胞は、細網線維
膠原線維は、多くの結合組織においてみられるが、特
に骨や軟骨、腱、靭帯では多量に存在します。
を形成し、細網細胞 reticular cell とも呼ばれます。
②大食細胞
たいしょく
ビタミンCや銅などが欠乏すると、強靱な膠原線維が生
大 食細胞(マクロファージ)macrophage は、体の門
成できません。
番のような細胞で、結合組織の間を遊走し、細胞の屑を
②弾性線維
清掃したり、異物を監視し、細菌や異物を貪 食します。
どんしよく
弾性線維 elastic fiber は、膠原線維よりも細く、分岐
し網状構造を形成しております。
大食細胞は、造血組織で形成された単球系の前駆細胞
が血管の外に遊走し、組織の中で発育しているもので、体
弾性線維は、コラーゲンを生成する細胞、すなわち線
の防御機構で重要な役割をはたします。
維芽細胞や平滑筋細胞などで作られます。
赤色骨髄で形成された単球は、72時間以内に血管の外
- 39 -
に出て、大食細胞になります。大食細胞の寿命は約3カ
ノゲン活性化阻害因子などを合成し、分泌します。
月間といわれています。
レプチンは、16-kDa のペプタイドで、脂肪滴が増え
大食細胞は、リンパ球のT細胞から分泌されるサイトカ
ると分泌が増加し、摂食を抑制し、代謝を活性化させま
インで活性化されます。活性化された大食細胞は、化学
す。
走化性刺激 chemotactic stimuli で移動し、細菌を貪食
b)褐色脂肪細胞
します。また、大食細胞は、リンパ球などに影響をおよぼ
もう一種類は褐色脂肪細胞 brown adipose cell で、
かっしょく
す百種類にもなる化学物質を分泌します。
細胞質に多数の脂肪滴と数多くの褐 色のミトコンドリア
③肥満細胞
を含みます。褐色脂肪細胞には、交感神経の神経終末が
ひまん
肥満細胞 mast cell は、細胞質が著明な顆粒で満たさ
分布し、体温が下がると交感神経からの刺激により多量
れた大きな細胞で、しばしば小血管に沿って観察されます。 の熱を発生します。新生児では、褐色脂肪細胞が体重の
肥満細胞は、重要な物質(血管を拡張させるヒスタミン
ぎょうこ
2~5%を占め、体温維持に重要な役割を果たしていま
histamine や血液の凝固を防ぐヘパリン heparin など)
すが、成長とともに褐色脂肪細胞の割合は減少します。
を産生し、分泌顆粒の中に貯蔵します。
⑤その他の細胞
ゆうそう
アレルギー反応では、免疫グロブリンの IgE が肥満
こうちゆうきゆう
前述のもの以外には、血管から遊走した好 中 球 やリ
こうたい
けいしつ
細胞の受容体に結合し、分泌顆粒に含まれている多量の
ンパ球、抗体を産生する形質細胞 plasmocyte などが結
ヒスタミンを放出し、痒みや血管の拡張などを引き起こ
合組織に存在します。
します。
3)結合組織の種類
かゆ
図3-50 肥満細胞での顆粒の放出を模式的に示す
図3-51
①疎(線維)性結合組織
そ
疎(線維)性結合組織 loose connective tissue (56頁
脂肪細胞を示す模式図
図3-43参照)は、半流動状の基質の中に、白い綿花のよ
うに、隙間が多く、あらゆる方向に散在する膠原線維な
④脂肪細胞
し ぼうてき
脂肪細胞 adipocyte では、細胞質に大型の脂肪滴 fat
どから構成されています。この線維の間の隙間には、線維
droplet (主成分はトリアシルグリセロール
芽細胞や大食細胞などが散在します。
疎性結合組織は、体の中で最も広く分布している結合組
triacylglycerol)がみられます。体が脂肪酸を必要とする
時には、脂肪滴に含まれるトリアシルグリセロールを分解
し、脂肪酸を血液中に放出することができます。
脂肪滴に含まれるトリアシルグリセロールは、脂肪細胞
のなかで、食べ物に含まれる脂質から得られた脂肪酸と、
グルコースから形成されたグリセロール glycerol とを結
合させることで合成します。
織で、臓器を取囲んだり、空洞を埋める薄い白い綿花の
ように見られます。
血管を保護する外膜は、疎性結合組織で構成されます。
ひ
か
また、疎性結合組織は脂肪組織などと共に皮下組織を形成
し、皮膚をその深層の筋膜に結びつけます。さらに、粘
膜を深層の筋層に結合させる粘膜下組織も疎性結合組織
の例です。
a)白色脂肪細胞
脂肪細胞には、二種類が存在します。一つは白色脂肪
細胞 white adipose cell と呼ばれるもので、細胞質に単
一の大きな脂肪滴を含みます。皮下脂肪は、この白色脂
肪細胞が集まったものです。白色脂肪細胞は、成長因子
やホルモン、サイトカインなどの生理活性物質を活発に合
成し、分泌しています。すなわち、レプチン leptin や
アンギオテンシノーゲン angiotensinogen 、アディポネ
クチン adiponectin、レジスチン resistin、ステロイド
ホルモン(テストステロン、エストロゲン、糖質コルチコ
イド)、腫瘍壊死因子、インターロイキン-6、プラスミ
- 40 -
表3-3
脂肪細胞で合成される主要な分子とその機能
分 子 の 名 称
レプチン
主
要
な
機 能
食欲と体内でのエネルギーの出納の調節、脳へ脂質の蓄積量を伝える、新しい
血管の新生を促進する
腫瘍壊死因子-β(TNF-b)
インスリン受容体からのシグナルを妨害し、肥満におけるインスリン抵抗性を
促進する
プラスミノーゲン活性化阻害因子-1
血液凝固の溶解を阻害する、分泌の亢進で血栓の形成を促進する
(PAI-1)
アンギオテンシノーゲンとアンギオテ アンギオテンシノーゲンは、アンギオテンシⅡの前駆物質です。アンギオテン
ンシンⅡ
シⅡは、血圧や血清中の電解質の濃度を調節する。また、アンギオテンシⅡ
は、発育途上では脂肪芽細胞の分化を抑制し、成熟した脂肪細胞では脂質の貯
蔵を制御している。
インターロイキン-6(IL-6)
免疫系の細胞と相互作用を示し、グルコース代謝や脂質代謝を調節する
アディプシン
脂肪酸の貯蔵およびトリアシルグリセロールの形成を促進することで脂質代謝
を調節する
アディポネクチン
脂肪酸の酸化を促進する、血液中のトリアシルグリセロール濃度およびグルコ
ース濃度を減少させ、細胞におけるインスリンの感受性を高める
インスリン様増殖因子-1
様々な細胞の増殖を促進し、成長ホルモンの効果を強める
レジスチン
インスリンの効果を弱め、肥満と2型糖尿病とを関連づける
アディポフィリン
細胞における脂質蓄積の特異的指標となる物質
トランスフォーミング増殖因子-β
細胞における増殖や分化、アポトーシス、発育などを調節する
(TGF-b)
=トリアシルグリセロールの合成と分解=
3分子の脂肪酸+1分子のグリセロール ⇔ トリアシルグリセロール
かっしょく
細胞質に多数の脂肪滴と数多くの褐 色のミトコンドリア
②脂肪組織
疎性結合組織の隙間に多数の脂肪細胞 adipocyte が集
を含む褐色脂肪細胞 brown adipose cell で構成されま
ると、脂肪組織 adipose tissue を形成します。脂肪組
す。褐色脂肪組織には、交感神経の神経終末が多数分布
織の細胞の半分は脂肪細胞です。脂肪細胞は、小葉と呼
し、体温が下がると交感神経からの刺激により多量の熱
ばれる一群に分けられます。小葉の間の疎性結合組織は、
を発生します。新生児では、褐色脂肪組織が体重の2~
脂肪細胞を支え、血管や神経が脂肪組織を通過するのを
5%を占め、体温維持に重要な役割を果たしていますが、
可能にしています。
成長とともに褐色脂肪組織の割合は減少します。
白色脂肪組織の主要な働きは、血液中の余分な脂肪酸
肥満でない通常のヒトの場合には、脂肪組織は体重の
やグルコースなどを脂肪細胞が取り込み、細胞質にある脂
約20%を占めています。
脂肪組織には、二種類が存在します。一つは白色脂肪
肪滴にトリアシルグリセロールなどで貯蔵し、体が必要な
組織 white adipose tissue と呼ばれるもので、細胞質
時に、脂肪滴のトリアシルグリセロールを分解し、脂肪酸
に単一の大きな脂肪滴を含む白色脂肪細胞 white
を血液中に放出することです。
さらに脂肪組織は体の形を作り、体に加わる衝撃を和
adipose cell で構成されます。皮下脂肪などがこれに属
らげたり、体温の放出を防ぐ熱の絶縁体として働きます。
します。
もう一種類は褐色脂肪組織 brown adipose tissue で、
- 41 -
骨を形成する際の足場になったり、骨同志の動きを滑ら
かにしたり、体のある部位では骨組みとしての役割を担う
などの重要な役割を果たしています。
軟骨組織は、身体のいたる所で大切な機能を果たしてい
るくせに、他の組織が持っている特性をほとんど欠いた組
織です。つまり、軟骨膜 perichondrium を除いた軟骨
組織には、神経や血管、リンパ管などが存在しません。さ
らに、軟骨組織の特性が細胞でなく、細胞の分泌物で形
き しつ
成された軟骨基質 cartilage matrix によってもたらされ
ています。
軟骨細胞 chondrocyte は、小さな空洞の軟骨小腔
図3-3 白色脂肪組織の顕微鏡写真。*は脂肪滴を示す。
cartilage lacuna に存在します。
軟骨細胞は、周囲に巨大分子を分泌し、それが精巧な
③密(線維)性結合組織(強靭結合組織)
網目を作って細胞外の軟骨基質となります。この基質には、
密性結合組織 dense connective tissue は、基質が少
なく、膠原線維の束が密に集まったものです。この組織
多量のⅡ型コラーゲン(乾燥重量の約50%)やブロテオグリ
の細胞数は、疎性結合組織に比べて少なくなっています。
カン proteoglycan を含み、さらに多量の水(70%)も含
密性結合組織は、強靭で、疎性結合組織に比べて柔軟
んでいます。この軟骨組織の特性である硬さを生むもの
性が減少します。
は、実は、水分子の存在です。 軟骨組織は、通常、軟
a)腱
骨膜と呼ばれる密性結合組織によって取り囲まれています。
けん
腱 tendon は、密に集まった多数の白色の膠原線維束
きょうじん
ひもじょう
などから構成され、強 靭な紐 状のもので、骨格筋を骨に
軟骨基質には、線維が存在し、その種類と量に基づいて、
しょうしなんこつ
軟骨組織は三種類に区別されます。つまり、硝子軟骨、
付着させています。
線維軟骨、弾性軟骨です。
b)腱膜
a)硝子軟骨
けんまく
生体では、硝子軟骨 hyaline cartilage は、青白く、
腱膜 aponeurosis は、腱が単に薄い布のような膜状
表面が平滑でガラス状を示し、すこし弾力性があります
になったもので、やはり骨格筋を骨に付着させます。
が、三種類の軟骨組織の中で一番もろいものです。軟骨
c)靭帯
じんたい
靭帯 ligament は、腱に似ているが、異なる点は、種
々の量の弾性線維を含み、少し弾力性があり、骨と骨と
を結んでいます。
靭帯は、関節の部位に存在し、関節での過剰な動きを
制限します。
基質には、多量の膠原線維(主成分は II 型コラーゲン)
が存在しますが、光学顕微鏡では線維を観察することが
できません。
硝子軟骨には、老化や病気などでカルシウムなどが沈
着し、石灰化が起こります。
硝子軟骨は、骨の端で関節の部位に存在する関節軟骨
④細網(結合)組織
細網組織 reticular tissue は、格子状の繊細な細網線
や肋骨の前端の肋軟骨、気管の壁にある気管軟骨、鼻の
維(Ⅲ型コラーゲンで構成)から主に構成され、実質器官を
鼻軟骨などを構成します。
支える格子状の骨組みを形成しています。
b)線維軟骨
線維軟骨 fibrous cartilage は、圧迫や伸展に強く、
こつずい
細網組織は、肝臓や脾臓、骨髄、リンパ節などで見られ
ます。リンパ節における細網線維は、ろ紙の役割を果たし、 ショックを吸収する構造を示し、脊柱を構成する椎体の
間にある椎間円板あるいは膝関節にある関節半月などを
リンパから細菌などの異物を取り除きます。
構成しています。
3)支持組織の種類
線維軟骨の性質は、硝子軟骨と密性結合組織との中間
①軟骨組織
なんこつ
軟骨組織 cartilage tissue は、硬い強靭な結合組織で、
を示します。線維軟骨は、三つの軟骨組織の中で、一番
- 42 -
ぞうけつそしき
強靱さと硬さを有し、一番強い組織です。散在する軟骨
細胞の間に多量の膠原線維束を有する軟骨基質が存在し、
造血組織 hemopoietic tissue は、赤血球や白血球、
血小板を作り出す組織です。
こつずい
均質な軟骨基質は軟骨小腔の外側縁に限定しています。こ
の軟骨には、軟骨膜は存在しません。
成人では、赤色骨髄 red bone marrow に造血機能が
存在します。
はい し
線維軟骨にも、老化や病気などでカルシウムなどが沈着
し、石灰化が起こります。
たい じ
ひ ぞう
一方、胚子や胎児の場合には、骨以外の肝臓や脾臓な
どの器官でも造血組織が見られます。
造血組織は、他の結合組織と異なり、多種類の細胞か
c)弾性軟骨
こうとうがい
弾性軟骨 elastic cartilage は、耳介や喉頭蓋などの骨
ら構成されていて、一分間に何百万個もの赤血球や白血
球、血小板などを産生します。
組みとなり、耳介軟骨や喉頭蓋軟骨を作ります。
弾性軟骨は、硝子軟骨に似ていますが、この軟骨細胞
は、膠原線維とともに弾性線維を産生します。弾性軟骨
3.筋組織
の軟骨基質に多量の弾性線維が存在するために、黄色を
呈し、弾力性があります。通常、弾性軟骨では石灰化は
筋組織 muscle tissue は、エネルギーを使い能動的に
おこりません。
収縮が可能な特殊な筋細胞 muscle cell から構成されて
②骨組織
おり、体の運動や器官の形・大きさを変えることなどに
骨組織 bone tissue は、成熟した骨格での支持組織で
関与します。
筋細胞の長さが短くなる能動的な収縮は、アデノシン三
す。骨組織は、非常に硬い組織で、体を支えたり、内臓
を保護したり、カルシウムやマグネシウム、リンの貯蔵庫
リン酸がアデノシン二リン酸に分解する時に発生するエネ
としても働きます。
ルギーに基づく、二種類の筋細糸(筋フィラメント)
骨基質 bone matrix には、多量の膠原線維(主成分は
myofilament の間における滑走で、筋節の長さが短く
なることに因ります。
I 型コラーゲン)が存在します。骨の重さの約三分の一
は、膠原線維です。そのため骨組織には、弾力性と、伸
筋細糸には、主にアクチン actin で構成された細い筋
展に対する抵抗性とがあります。この膠原線維には、骨
細糸と、主にミオシン myosin で形成された太い筋細糸
芽細胞 osteoblast の働きによって、多量の水酸化アパ
とがあります。
筋細胞 muscle cell は、細長いので、筋線維 muscle
タイト結晶[Ca 3(PO 4)2]3・Ca(OH)2と少量の炭酸カル
シウム CaCO 3などの塩類が沈着しています。この沈着
fiber とも呼ばれます。
筋組織は、形態学的特徴と機能的特徴とに基づいて二
に因って骨組織には、硬さが付け加わります。
骨細胞 osteocyte は、骨小腔 bone lacuna の中に存在
おうもんきん
へいかつきん
種類に大別されます。横紋筋組織と平滑筋組織です。さ
します。緻密質では、骨小腔は中心管(ハバース管)
らに、横紋筋組織は、骨格筋組織と内臓性横紋筋組織、
osteonic canal の周囲を4~10層の同心円状に並んでい
心筋組織に区分されます。
ます。骨小腔は、互いに骨小管 bone canaliculus によ
①骨格筋組織
ってつながっています。この骨小管によって栄養などが周
骨格筋組織 skeletal striated muscle tissue は、骨格
辺の骨基質に拡散していきます。中心管は、骨の表面
筋を構成します。骨格筋は、多くの場合、骨に付着し、
に平行に走行し、内部には骨単位を養う動脈と静脈が存
歩く、走る、物を投げるなどの体の一部を動かす時に使用
在します。また、中心管からは骨の表面に垂直に走行す
する筋です。肥満でない健康なヒトでは、骨格筋は体重
る貫通管 perforating canal が伸び、骨の深部の骨単位
の30~40数%を占めています。また、多くの骨格筋は、
や骨髄に血液を運ぶ動脈や静脈が存在します。
神経を使って自分の意志で収縮させることが可能なため、
骨組織は、密性結合組織である骨膜 periosteum によ
随意筋とも呼ばれます。
って包まれています。骨膜の作用は、骨の成長に貢献する
とともに、筋と腱の付着部としての役割もあります。
骨格筋組織は、骨格筋細胞 skeletal striated muscle
cell が集まって形成されたものです。
骨格筋細胞(線維)では、二種類の筋細糸が多量に規則正
4)造血組織
- 43 -
しく配列するために、タンパク質における光の屈折率の違
おうもん
骨格筋細胞は、直径の大きさやミオグロビン量、ミトコ
いによって横紋が観察できます。また骨格筋細胞(線維)で
ンドリアの数、筋小胞体の発達の程度、様々な酵素の濃
は、筋形質膜の直下に複数の核が存在します。
度、収縮速度の違いなどによって、三種類に大別されます。
骨格筋線維は、体性運動神経線維の終末から神経伝達
すなわち、収縮は遅いが疲労しにくく一番細い赤色筋細
物質を放出し、それが受容体に結合することで収縮が
胞(I 型)と、収縮は速いが疲労しやすく太い白色筋細胞
開始します。そのため軸索の先端と骨格筋細胞の筋形質
(IIB 型)、両者の中間の性質を示す太い中間筋細胞(IIA
膜とで構成される神経筋シナプス neuromuscular
型)に区分されます。
synapse が存在します。
骨格筋細胞の中には、比較的多量のグリコーゲンが貯蔵
神経終末からはアセチルコリン acetylcholine が放出
じゆようたい
され、通常、70kg のヒトでは約250㌘ (体の約四分の
され、骨格筋細胞の筋形質膜にはアセチルコリン受容体
三)が貯えられています。しかし、骨格筋に存在するグリ
が存在します。
コーゲンは血液中のグルコース量の調節には利用できませ
体性運動神経線維の神経終末から放出されたアセチル
ん。
コリンが筋形質膜の受容体に結合すると、筋形質膜に局
骨格筋組織に存在する筋衛星細胞のために、骨格筋組
所的な脱分極が発生します。脱分極の発生に因ってナトリ
織は体の中では比較的再生がよく、骨格筋組織の障害も
ウムチャネルが開き、ナトリウムイオンが細胞内に流入し
速やかに修復が可能です。
ます。すると、脱分極が筋形質膜やT(橫)細管 T tubule
骨格筋組織と同じ形態的特徴を示す内臓性横紋筋組織
を通じて伝わり、最終的に筋小胞体 sarcoplasmic
visceral striated muscle tissue は、舌や咽頭の壁、食
reticulum の電位依存性カルシウムチャネルが開き、筋
道の上部の壁などに存在します。
小胞体から筋形質に向かってカルシウムイオンの放出がお
②心筋
こなわれます。筋形質のカルシウムイオンがトロポニン複
心筋組織 cardiac striated muscle tissue は、心臓の
合体に結合することに因って骨格筋細胞の収縮が開始しま
壁(心筋層)を構成する筋組織です。心筋は、自分の意志で
す。
収縮ができない不随意筋です。また心筋は、収縮はゆっ
骨格筋細胞の収縮は、他の筋組織に比べて、早く強い
くりですが、神経の刺激が無くとも収縮できる、自動的
が、疲労しやすいとの特徴があります。骨格筋が赤いの
なリズミカルな収縮能力を持っています。しかし、通常は、
は、骨格筋細胞に酸素と結合できるミオグロビン
交感神経からの刺激によって心筋も強く早く収縮していま
myoglobin が存在したり、血液が多量に含まれている
す。
ためです。
心筋組織は、心筋細胞(線維)cardiac muscle cell
(fiber)で構成されています。心筋細胞の端は互いに接着
し(接着部位を介在板と呼ぶ)、帯状構造を形成しています。
介在板は、筋細糸が付着する部位になるとともに、収縮
のための刺激を隣接する心筋細胞に急速に伝え、連続す
る心筋細胞を同時に収縮させる働きがあります。
心筋細胞には、筋細糸が骨格筋細胞と同様に、規則正
しく配列しているために、微かな横紋が観察されます。し
かし、楕円形の核は、骨格筋細胞と異なり、通常、一個
のものが細胞質の中心部に位置しています。また心筋細胞
は、筋小胞体やT(橫)細管の位置、カルシウムイオンの供
給の機序、細胞膜のイオンチャネル、活動電位の持続時
図3-4 ミオグロビン免疫染色で3種類の骨格筋細胞を示
す顕微鏡写真。ミオグロビンを多量に含む赤色筋細胞は
細く、太い白色筋細胞はミオグロビン含有量が少ない。
間などにおいて、骨格筋細胞と異なっております。
心筋細胞における細胞質内のカルシウムイオンの動員は、
筋小胞体に貯蔵されているもの以外にも、カルシウム-ナ
トリウムチャネルに因って細胞外液からも取り込み、活動
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電位の持続時間を長く強くすることができます。
在し、神経細胞が必要とする物質を合成しています。ニッ
心筋細胞では、ミトコンドリアが細胞の容積のほぼ半
分を占め、エネルギー消費が非常に大きいことを示してい
スル物質 chromatophilic substance(粗面小胞体の集積
像)も細胞体では良く観察できます。
ます。心筋細胞のエネルギーは、トリアシルグリセロール
樹状突起 dendrite は、神経細胞体から木の枝のよう
によって大部分が供給されており、酸素の消費量も多くな
に枝分かれしながら伸びている突起で、主として他の神経
っています。
細胞からの情報を受取り(受容体が存在)、細胞体に伝えま
心筋細胞は、再生能力が強くありません。そのために、
す。
心臓では、心筋梗塞などで障害された部位では心筋細胞が
一方、軸索 axon は、起始節で発生した活動電位(イ
なくなり、再生ができません。
ンパルス、興奮)(電気的変化)を目的地(効果器)まで伝える
③平滑筋
ものです。活動電位の伝導速度は、軸索の直径の二乗に
比例します。つまり、太い軸索ほど活動電位の伝わる速
平滑筋組織 smooth muscle tissue は、内部が空洞の
器官(腸や血管など)の壁の筋層を形成しています。平滑筋
度が早くなります。
ずいしょう
軸索には、脂質で形成された絶縁効果がある髄 鞘
組織を構成する平滑筋細胞 smooth muscle cell は、細
長く、細胞質のほぼ中央部に1個の細長い核を有します。
myelin sheath で包まれているものがあります。髄鞘で
この細胞では、筋細糸が少なく、規則正しく配列しない
被われた軸索を有髄神経線維と呼び、活動電位を伝え
ため、横紋を見ることができません。
る早さが飛躍的に速くなります。
ゆうずいしんけいせん い
活動電位の発生や回復、伝導には、アデノシン三リン酸
平滑筋細胞は、骨格筋に比べて収縮が遅く、また収縮
が必要となりますが、神経細胞では、グルコースを材料に
力も弱いが、持続性があります。
平滑筋細胞では、T(橫)細管が存在せず、筋の収縮に必
酸素を消費しながらクエン酸回路と電子伝達系で主に合
要なカルシウムイオンを細胞外液から細胞内に取り込みま
成します。そのために、神経細胞の活動が盛んな部位で
す。
は、血液の流れが増え、酸素とグルコースの消費が増加し
平滑筋細胞の収縮は、自律神経やホルモンなどの刺激で
ます。神経細胞ではグリコーゲンの貯蔵や酸素を保持する
おこなわれますが、この作用は自分の意志によって調節で
物質が乏しいため、細胞の活動に伴って絶えずグルコース
きず、不随意筋です。
や酸素を血液から得ています。
ある種の平滑筋細胞では、収縮機能以外に、コラーゲ
低血糖あるいは酸素欠乏によるヒトの意識障害は、血
ンやエラスチン、グリコサミノグリカン、プロテオグリカ
中のグルコースあるいは酸素が大幅に減少したため、大脳
ンなどを合成し、細胞外に分泌する働きもあります。
皮質などにおける神経細胞の機能が損なわれることに因
ります。
軸索の先端(シナプス前ボタン)で、他の神経細胞や効果
4.神経組織
器と接触する部位をシナプス synapse といいます。シ
かんげき
ナプス前ボタンから間隙に向かって神経伝達物質
神経組織 nerve tissue を構成する主要な細胞は、神
こう
経細胞と膠細胞です。神経細胞では、エネルギーを使い
能動的に活動電位(インパルス impulse)を発生されるこ
とで、他の細胞に情報を伝えることができます。膠細胞
は、小さな細胞ですが、ヒトでは神経細胞よりも数が多
く、神経細胞の働きを支えます。
を及ぼします。つまり、神経伝達物質は、受容体に結合
し、受容体が存在する細胞に生理的効果を生じさせます。
特定の神経伝達物質に対応する受容体は、必ずしも一
種類ではありません。たとえば、アセチルコリンの受容
体には、イオン透過型のニコチン性アセチルコリン受容
1)神経細胞(ニューロン)
体や代謝型のムスカリン性アセチルコリン受容体などが
①神経細胞の基本構造と働き
しんけいさいぼうたい
neurotransmitter を放出して他の細胞や効果器に作用
とつ き じ く さ く
神経細胞 neuron は、神経細胞体と突起(軸索と
あります。
神経細胞体と軸索の先端との間には、物質を輸送する
じゅじょうとっき
樹状突起)とで構成されています。
神経細胞体 nerve cell body には、大きな丸い核が存
機構が存在します。神経細胞体から軸索の先端の向かって
運ぶ機構を順行性軸索輸送と呼び、逆に、軸索の先端か
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ら神経細胞体に向かう流れを逆行性軸索輸送といいます。
ンパク質 proteolipid protein やミエリンオリゴデンド
この輸送は、微細管に沿って存在するモーター分子(キネ
ロサイト糖タンパク質 myelin oligodendrocyte
シン kinesin やダイニン dynein など)がおこないます。
glycoprotein、オリゴデンドロサイトミエリン糖タンパ
②神経細胞の種類
ク質 oligodendrocyte myelin glycogprotein などのタン
神経細胞は、働きによって、大きく三種類に区分されま
パク質があります。中枢神経系のある種の自己免疫性脱
す。すなわち、ヒトの体における感覚情報を中枢神経系
髄疾患では、これらのタンパク質の発現が障害されること
(脳と脊髄で構成)に伝える感覚神経細胞 sensory
があります。
neuron や、中枢神経系からの刺激を筋組織や腺組織な
②星状膠細胞
かんかくしんけいさいぼう
ほしじようこうさいぼう
どに伝え、これらの働きを調節する運動神経細胞 motor
星 状 膠細胞 astroglia は、突起が数多く伸び、神経
細胞体や毛細血管の周囲を取囲んでいます。
neuron、感覚情報から刺激を受け取り、運動神経細胞
かいざいしんけいさいぼう
の働きを調節する介在神経細胞 interneuron です。
星状膠細胞は、神経細胞の代謝を補ったり、シナプス
での情報伝達を助けたり、脳や脊髄に障害があるとその
③神経
修復に貢献します。
解剖学や生理学で使う神経 nerve は、中枢神経系と
さらに星状膠細胞は、毛細血管を取り囲み、血液の成
体のいろいろな部位とを結ぶ軸索の束をいいます。その
ために、神経には、感覚神経細胞の軸索(感覚神経線維)と
分が神経組織に入るのを制御している血液脳関門
運動神経細胞の軸索(運動神経線維)が含まれ、さらに交感
blood-brain barrier を形成しています。
神経あるいは副交感神経の軸索を含むことがあります。
③上衣細胞
じよう い さいぼう
上 衣細胞 ependymal cell は、脳と脊髄の空洞(脳室
表3-4
あるいは中心管)に面した部位に並んで存在し、脳脊髄液
神経伝達物質として働く主要な物質
が神経組織のなかに入らないように防ぎます。この細胞
①気体
一酸化窒素、一酸化炭素
②アセチルコリン
③アミン
ヒスタミン、セロトニン、ドーパミン、ノルアドレナ
リン、アドレナリン
④アミノ酸
グルタミン酸(興奮性)、γ-アミノ酪酸(抑制性)、グ
リシン(抑制性)、アスパラギン酸、タウリンなど
⑤ペプタイド
P物質、エンケファリン、血管作動性腸管ペプタイ
ド、ソマトスタチン、ニュ−ロペプタイドY、カルシ
トニン遺伝子関連ペプタイドなど
の線毛は脳脊髄液を撹拌します。
2)膠細胞
脳と脊髄では、他の器官(臓器)と異なり、線維性結合組
こうさいぼう
織が少なく、その役割を膠細胞 glial cell が担います。
図3-5 上衣細胞を脳室側から撮った走査電子顕微鏡写真
神経組織には、役割が異なる何種類かの膠細胞が存在し
ます。
④小膠細胞
しようこうさいぼう
小 膠細胞 microglia は、他の神経膠細胞と異なり、
①稀突起膠細胞
き とつ き こうさいぼう
稀突起膠細胞 oligodendroglia は、脳や脊髄で複数の
造血組織由来の細胞で、炎症があると神経組織の中を移
どんしょくさよう
神経細胞の軸索を取巻く突起を伸ばし、中枢性髄鞘
動し、傷害した組織などの貪食作用をおこないます。
さや さ いぼ う
central myelin sheath を形成します。
⑤鞘細胞(シュワン細胞)
中枢性髄鞘と鞘細胞が形成する末梢性髄鞘とは、構成
成分が異なります。中枢性髄鞘には、プロテオリピドタ
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さやさいぼう
まっしょう
鞘細胞 Schwann cell は、末 梢神経系で髄鞘を形成
し、1本の軸索を被っています。
【この章の参考図書】
・相磯貞和ら監訳、「Ross 組織学 原著第5版」、南江堂、2010年。
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