(一社)建設コンサルタンツ協会 近畿支部 第48回(平成27年度)研究発表会 論集 一般発表論文 №121 3 次元計測機器を用いた調査への活用事例 (株)ウエスコ ○ 石 橋 健 論 文 要 旨 近年、デジタル航空カメラ、航空レーザー、UAV、固定レーザー、ラジコンボート、などを活用して、3 次元デー タを取得し、測量、調査、設計に活用する機会が多く見られる。本論文では、それらの計測機器の中から、UAV を 用いて調査対象斜面の高解像度写真を撮影し、3 次元モデルを作成した。3 次元モデルから得られる、植生や樹高 の違いなどの情報から、現地の地形を推測し、現地状況と対比させた。広範囲な地形の変化は、ある程度とらえる ことができたが、局所的な部分については、今回のモデルで推測するのは困難であった。 キーワード:UAV 微地形 植生 3 次元モデルとの対比 ま え が き 地形を 3 次元的に把握する方法としては、航空レーザー 性状調査に適している。固定レーザーは、100m先で 5mm 計測をおこない、点群データから 3 次元モデルを作成する の精度があり、従来の計測では立ち入りが厳しい場所でも 方法が一般的だが、局所的な範囲を対象とすると、かかる 計測が行える。また、現況をありのままに三次元化できる 費用が高額である。UAV は費用的には航空レーザーよりも ため、用途が多用である。 1) は発展段 ラジコンボートは、GPS・ソナーを搭載し、水中地形の 階であり、写真を撮影して 3 次元モデルを作成するのが主 計測が可能で、深さ 0.6m∼60mと従来の有人ボートでは 流である。 計測できなかった、水深の浅い場所も計測可能である。 安価だが、搭載できるようなレーザーの小型化 今回は、UAV で撮影した高解像度の空中写真から、植生 や樹高をふまえた 3 次元モデルを作成し、それらが地形の 表-1 所有する各計測機器一覧 状況をどのように反映しているか、実際の現地状況との対 比を目的とした。 1.3 次元計測機器の特徴 (1)特徴と精度 空中写真撮影を行い、オルソ画像や 3 次元モデルを作成 するものには、航空機に搭載したデジタル航空カメラを用 いる方法や、カメラを搭載した UAV を使う場合がある。 デジタル航空カメラの場合は、地上解像度は 6cm∼30cm で、一度に広範囲を撮影可能だが、航空機を使用するため 費用が高価である。 UAV はバッテリーで稼働するため、飛行時間、範囲が 限られるが、地上解像度は 1.5cm∼6cm とデジタル航空カ メラよりも高く、作業にかかる費用は航空機に比べると安 価である。ただし、飛行に関する法整備が進められており、 今後、様々な制約が付帯されると思われる。 レーザー計測を行うものには、航空レーザー、MMS、固 定レーザーがある。航空レーザーは、地上解像度 6cm 以下 で広域の計測に適している。MMS(モービルマッピングシ ステム)は解像度 500 万画素、計測範囲は半径 30mと狭い が、道路を走りながら、レーザー計測を行うため、路面の - 96 - (一社)建設コンサルタンツ協会 近畿支部 第48回(平成27年度)研究発表会 論集 一般発表論文 №121 (2)UAV の飛行条件 UAV の飛行には、機種によって異なるが、いくつかの 条件がある。今回使用した UAV は、風速 5m 以下の晴天 時で、最大高度は 250m(航空法による)、目視で確認で きる距離(1km 程度)を基本とした。ただし、半径 10km 以内に飛行場、軍基地がある場合、最大高度は 150m 以下 である。また、無線を使用するため、第 3 級陸上特殊無線 技士の資格が必要であり、電波状態に影響が出る、JR や鉄 塔の周辺半径 50m は飛行不可である。 機器の仕様 【撮影範囲】垂直上下及び斜め撮影 【撮影可能高度】150m 【全長】99cm 【最大搭載量】3.5kg 【搭載機器】 ・デジタルカメラ:LUMIX GX7 (約 1610 万画素) ・GNSS データロガー ・モニター用 CCD カメラ ・画像伝送装置 写真-1 使用した UAV 2.現地調査への活用 (1)作業概要 対象地には、地域高規格道路が計画されており、坑口が 位置する南東向き斜面の現地調査に先駆けて、UAV によ る高解像度の写真撮影を行なった。撮影に使用した UAV には、約 1610 万画素のデジタルカメラを搭載し、離陸地 点からの飛行高度は約 150m、作業時間は 50000m2 の撮影 で、準備から撤去まで約 2 時間を要した。飛行ルートは GoogleEarth を使って作成し、密に撮影を行なうため、縦横 図-1 GoogleEarth を使った飛行ルート 方向を自動で飛行させた。撮影した高解像度の写真から 3 次元モデルを作成し、平面図及び現地状況との対比を行っ た。 図-2 作成した 3 次元モデル - 97 - (一社)建設コンサルタンツ協会 近畿支部 第48回(平成27年度)研究発表会 論集 一般発表論文 №121 筋になっていた。植生が少ない要因としては、山頂や尾 (2)推測される現地状況 3 次元モデルからは、大別すると、ブナ、コナラ等の 根筋は水分不足になりやすく、植生の発達はがそもそも 広葉樹の部分とスギ、ヒノキ等の針葉樹の分布(赤線内) 悪いうえに、土壌への落ち葉など有機物の供給も少ない といった植生の違いが確認できる。針葉樹の分布につい ので、表土が薄く、根が張りづらい点が挙げられる。 ては、樹冠もそれほど密には見えず、適度に間伐されて ただし、山頂では同様に、植生が少なかったが、その いると思われる。間伐地と無間伐地では、無間伐地の方 他の尾根筋も同様に植生が少ないという状況は 3 次元 2) モデルで一様には確認できなかった。 が土壌流失が顕著 になり、斜面安定に影響する。 植生の違いは地形や地質の違いに起因するところが 大きく、分布箇所の境界が谷筋、尾根筋であったり、植 生の少ない部分(青線内)については、岩盤の露頭や、 ガリーの発達などの地形の変化が推測された。 また、平面的にはわからない、樹高の違いも確認でき る。樹高の高さが違う要因として、根系発達可能な土層 (表土)の厚さの違い 3)が考えられる。 左側斜面上部には周辺と比べて、馬蹄形状に窪んだよ うに見える部分(緑線)が確認でき、崩壊跡地形と推測 された。 図-4 平面図と現地状況 1 図-5 中央部の青線部分は、3 次元モデルでは植生が少な く岩の露頭が推測された箇所である。実際の現地でも、降 雨時の表流水によって浸食された、幅 3m 程度の階段状の 岩が分布していた。 ただし、ある程度の幅がなければ、周辺の樹冠によって、 図-3 植生と地形 植生が少ないような隙間は見えず、3 次元モデル上では確 認できないと思われる。 (3)3 次元モデルとの対比 針葉樹は、この岩盤から斜面へ続く谷筋を境界として、 図-4 赤線で示した、針葉樹の分布範囲には、3 次元モ デルでは確認できなかったが、平面図と現地踏査では、 左の尾根筋までの範囲に分布していた。谷筋、尾根筋とい 中腹と下方に 2 個所の明瞭な緩勾配が確認できた。 った地形の変化点で、植生も変化していた。 植生の違いがなかったため、樹木の高さが勾配の影響 を明瞭に反映していない限り、今回の 3 次元モデルで、 この緩勾配地形の存在を推測するのは難しいと思われ る。 また、広葉樹の分布範囲には、針葉樹の分布範囲には なかった岩の露頭が多く見られた。土壌表面にはこの露 岩から発生した礫が広く分布していた。植生の境界と地 形の境界が概ね一致しており、画像からわかる植生の範 囲から、地形の変化範囲を推測できた。 青線で示した植生の少ない部分は、現地では緩い尾根 写真-2 植生が少ない範囲 - 98 - (一社)建設コンサルタンツ協会 近畿支部 第48回(平成27年度)研究発表会 論集 一般発表論文 №121 3.まとめ 3 次元モデルから得られる植生、樹高の違いが、現地の 地形変化をとらえている場合が多かったが、必ずしも同じ 地形を反映しているわけではなかった。谷筋、尾根筋、岩 の露頭など、ある程度の広がりのあるものについては、推 測と現地状況が合致したが、局所的な勾配については、3 次元モデル上では確認できなかった。 あ と が き 本論文を作成するにあたり、ご協力いただきました皆様 に感謝の意を表します。今後、空撮だけでなく、小型レー ザーを使用した UAV での計測も一般的になれば、サーモ センサー等、異なる計測機器と合わせて、複合的に現地状 況の比較を行い、今後の調査に活用できればと思います。 参 考 文 献 (または引 用 文 献 ) 1) 長谷川 均:UAV( 自律型飛行体) を使った高解像 空中写真の撮影と活用,H.26. 9p. 図-5 平面図と現地状況 2 2) 星野 知大:スギ人工林の施業方法の違いが林床植生 と土壌に与える影響について,H.21. 10p. 図-6 の緑線は、3 次元モデルで馬蹄形状に窪んだように 3) 丹下 健、染谷 恵:東京大学田無演習林における樹 見える部分だが、現地では窪みの境界に山道があり、そこ 高成長が異なるスギ植栽地の土壌,H.25. 7p. をトップとした崩壊地形跡が見られた。 また、針葉樹の分布する範囲で樹高の低い部分があった。 4) 今井 久:樹木根系の斜面崩壊抑止効果に関する調査 研究,H.20.19p. 現地で確認した限り、この部分だけ表土が薄く、生育が悪 いというわけではなく、主幹の小さい樹齢の若いものだっ たため、植林時期の違いが原因と思われる。斜面勾配の緩 急の差はなかったが、根系が土壌を支える力 3)は、周辺よ り弱い可能性がある。 また、範囲内には緩い尾根があったが、これを境界とし た植生の違いは見られなかった。 図-6 平面図と現地状況 3 - 99 -
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